「Blitzkrieg――電撃戦 (後編)」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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◆ ◆ ◆
「――では、各自が理解したところで間引きの時間だ!」
勢い良く打ち合わせられた手がフラッシュし、拍手の音の変わりに電気の火花を飛び散らせる。
「もう一度言うぞ! 間引くのは後4人。4人殺したら残りの2人は見逃してやる」
それをお前達の中で選んでもよいし、各自が精一杯に抵抗した結果に委ねるのもよいと感電は続ける。
そして、生き残りたければ――『書き手』ならば、生き残る方法。生き残るフラグ。生き残るキャラクターを生み出せとも言った。
感電の化身と成った、元焦ったドラえもんは光る拳を固めると、ギラリと表情を変え――、
――虐殺を開始した。
◆ ◆ ◆
「ピザの1号さん、逃げましょう! あの人はきっと私達みたいなのを狙っ……て――――?」
自他共に認める地味of地味の地味子。
感電の『間引く』という言葉を聞いた時、紛れも無くその対象は自分達ジミーズのことだと思った。
特に何をするでもなく、あまり書いてももらえず、置いてけぼりにされ、そのせいで進行は遅れてしまう。
そんな空気という名の足手まとい。それこそが彼の言う纏まっていちゃ困る参加者なのだろうと……。
そして、彼女は仲間を振り返った――が、その地味仲間であるピザの1号はもう死んでいた。
首から上が無いのである。そんなはずがと思っても間違えようはなかった。彼女の仲間はもう死んでいた。
末期の言葉も残さず、まるで――いや、ズガンそのものに、殺されていた。
死んでいるピザの1号の隣りに立つのは、眩い光を放っている感電だ。
どうやって一瞬でこの場所まで、しかも一切の気配を感じさせず移動したのだろうか?
生まれた疑問。しかし、彼女は疑問が生まれた瞬間にはその解答を得る事を諦めていた。
感電が彼女の方を見ていたから――、
――三度。爆音。
半瞬遅れて駆けつけたフリクリ署長が、またしても感電をぶっ飛ばす。
三度目の飛び蹴りを受けた感電は、その勢いのままに壁に――激突せず、その直前で忽然と姿を消した。
改めて困惑する地味子とフリクリ署長。だが、解答は意外と早く得られた。
「レッド・ホット・チリペッパーだ――ッ!」
叫んだのは少し離れた位置で一部始終を見ていたChain-情だった。
そして、その発言と同時に感電が部屋の隅に、正確にはコンセントのすぐ傍に現れた。
「正解だChain-情。もしかして貴様、ジョジョオタか? いや、ジョジョネタは書き手の嗜みなのか?」
ニヤニヤと浮かべた笑みは余裕の表れだと、全員が確信してる。
そして、5人殺すという発言が根拠のない妄言でもないことが今の一瞬で理解できた。
余裕の感電は指先を憐れな羊達に向けて突き出す。そこには一つの画鋲がくっついていた。
「これが、まぁ……所謂スタンド本体と言ったところだな。貴様らも俺が感電と呼ばれる由来ぐらいは知っているだろう?」
画鋲に電気を流せばスパークして目くらましになるかも? その素敵な好奇心が在りし日の彼に行動を促した。
結果、彼は身をもってその威力を知る事となる。それが、彼が感電と呼ばれる所以であり、画鋲がトレードアイテムである理由だ。
ちなみに、その画鋲フラッシュネタはちゃんとアニロワで活用されている。
「ライダーとか、スタンドとか、核金とか……能力を加えるには便利だよな。バリエーションも豊富だし、お手軽だ。
でもってまぁ、俺に与えられた能力はそこの小僧の言ったとおりさ。
ジョジョの奇妙な冒険・第4部の、初期のボスキャラ音石明の持つスタンド――レッド・ホット・チリペッパー。
知ってりゃあ、解るよな? 互いの戦力差ってのが――」
じゃあ、続きだ――そう言って、彼は虐殺を再開した。
ノルマ――『2』――クリア
◆ ◆ ◆
彼女がどう意味でそう発言したのか、聞いた2人には痛いぐらいに理解することができた。
『ここは私に任せてあんたら2人は逃げな』
『先に逝くのは年寄りが相場って決まっているんだ』
『私は、いい見せ場を貰ったんだ。これからはあんたらの番さね』
『できれば、あんた達の子供が見れるまで付き合ってあげたかったんだけど』
早口で、それこそ40秒でそれを言い切ると彼女――残月は、Chain-情とフラグビルドを壁の穴から突き落とした。
2人はすぐに自分達が落ちてきた穴を見上げる。だが、彼女はこちらを向いてはいなかった。
その無言の背中こそが答えなのだと――そう悟ると、彼らは唇を噛み締めその場を後にする――……。
「悪いねぇ、こっちから2人とも逃しちまって」
「何、私は元々誰も死なせるつもりなんかありませんでしたよ。あいつを倒せば、それで万事解決です」
「言うね若いの」
Chain-情とフラグビルドが去ってしまったことで、旅館内に残るのは残りのノルマと同じ丁度3人となってしまった。
感電の宣言通りに事が運べば、ここでこの3人が息絶えるという事になる。だが……。
「けど私はただじゃあ死なないんだ。――最後にとっておきの篝火を見せてあげるさ」
命が燃え尽きる瞬間の最も激しい炎。
それで、感電に少しでも傷を負わせられればと、残月は鞄からカードデッキを取り出そうと――消えた。
背を預けていたフリクリ署長が振り返る間も無く。
傍でそれを見ていた地味子が悲鳴を上げる間も無く。
彼女は掴まり、引き摺られ、コンセントの中へと……この世から姿を消した。
ノルマ――『3』――クリア
◆ ◆ ◆
Chain-情と、フラグビルドの2人は懸命に走る。
何も無くなってしまった虚ろな土地を抜け、そしてエリアを跨ぎ次の場所に入ってもなお走る。
救われたというのなら、その命。自身の命の死守こそが役目だと、ただひたすらに逃げるために走る。
命を奪われない様、誰にも追いつかれない様にと、2人は手を繋いで懸命に走り続ける。
――と、2人の目の前に見覚えのある影が現れた。
Chain-情の、そして隣りのフラグビルドの目も同じ様に大きく見開かれる。
目の前に現れた彼女。ここにいるはずの無い彼女。いや、すでに彼女ではないもう彼女ではないモノに。
「ざんげ――――――!」
目の前に放り込まれた、かつては残月だった黒焦げの肉塊。まるでいつかの報いの様に焼かれた彼女。
それに気を取られた次の瞬間に襲撃者は現れ、第一撃を終わらせていった――だが。
「(――かすっただけか?)」
通り抜け、振り向き様に感電は舌打ちをする。
2人を諸共に屠るはずだった一撃。その成果はたった1本――フラグビルドの右足を刈る程度でしかなかったのだから。
女は強い――いつかChain-情はこう思う。残月さんも、フラグビルドも、覚悟を決めた女は男よりも何倍も強いと。
フラグビルドは、目の前に影が飛び込んできたその瞬間に全てを悟り、一切の迷いなく行動に移った。
感電がどこから攻撃を仕掛けてくるのかは解らない。だから、当てずっぽうに身体を倒した。
結果、彼女はその細くて白い脚を一本失ったのだが、それを彼女は幸運だと神に感謝する。
次の攻撃がいつくるか分からない。もしかしたら、次の瞬間かも知れない。でも、極僅かにでも間があるというのなら……。
この人だけは先に送ることができる。
一瞬。1秒の100分の1の時間でもいい。どれだけ短くても、残った命を全部使えば彼を送ることができると。
Chain-情も何かを悟っていたのかも知れない。
握り合う手の力が痛いぐらいに強まる。それが、嬉しすぎて。本当に嬉しすぎてどうしようもなくて涙が零れた。
彼女の髪と同じ――翡翠色の螺旋が、彼女の愛しいChain-情を包みどこかへ先へと送った。
残月の遺体が放り込まれてから1秒もたたない間に事は終わり、片足のフラグビルドは地面に落ちる。
その傍らには戻ってきた感電。
止めを刺そうとはせず、ただ地に伏せても満足そうな彼女を見下ろしている。
「テレポーターとしての宿命か……? 惨めな死に様だなお前は」
片足だったフラグビルドの身体には、もうすでに残っていた足の方も失われている。
位相の違う空間を通り、遠い場所同士を繋ぐテレポートという能力。
それは莫大な代価を使用者に要求する。疲労でも、命でもなく――それは存在そのもの。
ただの人の身であるものが異空間の中を一瞬でも飛べば、必ず存在のいくらかをそこに置き忘れてしまうものなのだ。
それは絶対に戻ってはこない。能力を使えば使うほど、テレポーターの存在は希薄となっていく。
最終的にはこの世界からいなくなってしまう――それがテレポーターとしての宿命。
「なのに! 何故、貴様はそうも嬉しそうにしているんだ! 俺を出し抜けたのがそんなに嬉しいのかっ!?」
足元より迫る存在の消滅はすでに腹にまで達している。
その状態がどれほどの苦痛を彼女に齎すのかは分からない。だが、彼女は笑っていた。とても幸せそうに。
それは、その理由は――。
「フラグが……、私の……恋愛、フラグが成就しまし、た……」
見下ろす感電の顔に困惑の表情が浮かぶ。フラグビルドの言っている事の意味が理解できなかった。
そして、その疑問を素直に彼女へとぶつけた。一体どこでそれが成されたのか、と。
「私が……あの人を、好きで……あの人が、私を好きでいてくれる。……それが、ちゃんと……わかったから」
その言葉に再び感電の心がかき乱される。
彼はそれを妄言だと決め付けた。それはただの自己満足。自己肯定でしかないと。妥協だと。ただの夢幻だと。
しかし――。
「……そうじゃ、ない。……どこかの果てに辿り着くことが、恋愛じゃ、ないって……わかったから」
だから、この想いを抱いて逝けるのなら自分は幸せだと。これが望んでいたハッピーエンドだと彼女は言う。
あの人が今も、そしてこれからも私を想っていてくれる。その確信があれば、それが唯一無二の成果だと……。
「それに、ね。……こっそりと、だけど…………思い出の、品も、貰っているんですよ……?」
握っていた左手が消失し、そこから一匹のアマガエルが飛び出してきた。緑色の小さな小さな蛙だ。
Chain-情がゴールド・エクスペリエンスの力で生み出し、2人の危機を救ってくれた緑の蛙。
テレポートの瞬間。これだけを彼女はこの場所に残した。
「何が! こんな、みみっちい蛙が何だ! こんなもので満足しているってのは、お前が小さいってことで――!」
何が気に障るのか、それは感電自身にもよく解っていなかった。
もしかすると、それは理解できない事への恐怖の裏返しだったのかも知れない。
足元の女は放っておいても時機に死ぬ。ならば、意趣返しの相手はこいつだと、感電は蛙を踏み潰した。
――バキリ。
感電の背中から骨を砕く様な音が……、いや実際に砕けていた。
そう、彼が踏み潰した蛙はゴールド・エクスペリエンスの創った蛙。故に、ダメージは本人に跳ね返る。
「…………全部、計算……どお、り……なん……です、よ。………………バーカ…………………………」
笑っていたフラグビルドの顔が笑い顔のまま消失する。
そして、最後にChain-情に強く握り締められていた真っ赤な右手だけが残り……それも続けて消滅した。
ノルマ――『4』――クリア
◆ ◆ ◆
「糞ッたれがぁ………………ッ!」
そんな口汚い言葉を吐きながら感電が起き上がったのは、フラグビルドが逝ってより大体1分後だった。
化物の力で踏みつけた一撃は、そのまま彼の背中へと伝わり、結果。彼は彼の力で自分を踏みつけたことになった。
そのダメージからの復帰にかかったのが、つまりは1分ほどの時間だ。
起き上がっても、してやられたフラグビルドも蛙ももういない。
ぶつける場所のない怒り――それを自身の中に閉じ込めておける程、彼もまだ人ができていない。
「予定が狂った……。残るノルマは1。……だったら、あのふざけたサングラスか。地味女だ!」
感情をスパークという形で発露すると、怒りの矛先を無関係の2人に向け、感電は手近なコンセントへと飛び込んだ。
◆ ◆ ◆
「やぁ、やぁ、戻ってくると信じていましたよ、えぇ。
彼らは逃げおおせると、あなたは彼らを取り逃がすと私は信じていました」
元の旅館に戻ってきた感電を出迎えたのは、そんな気に障るフリクリ署長の言葉だった。
「……後、1人だ」
その言葉にフリクリ署長の顔がニカリと喜色に歪む。
本当は後2人だと聞きたかった。あの2人が仲良く逃げおおせたと確認したかったが、しかしあえて笑う。
「いやぁ、都合がいい。後2人だと聞いたらどうしようかと思っていたんですよ!」
何が都合がいいんだ? と、感電は表情通りのドス黒い声で目の前の陽気な男に尋ねる。
「だって、そうじゃないですか。後1人なんでしょう? だったら――」
――あなたが死ねばいい。
そこだけは、陽気さの欠片もなく男は言い切った。
それと同時に、彼が纏っていた気配も一変する。目に見える様な怒気が彼を覆っていた。まるで感電のスパークと相対するかの様に。
「けっこう、いいダメージを貰ってきたようですね。少し暗くなっていますよ、感電さん?」
サングラスの奥に剣呑な瞳を隠す男の指摘通り、感電を包む電気の光は明るさを落としていた。
レッド・ホット・チリペッパーの力の源は電気。これがあればどこまでも強くなれるし、逆になくなれば最弱にもなりえる。
ラピュタの雷を受けた時。その時は確かに、誰も勝てない程の強さがあった。しかし、消耗した現在ならば――、
――命を燃やせば、勝利に手が届く。
「……お前、その姿になるって意味が解っててそうしてるんだろうなぁ?」
光量を落とした感電の目の前に立つ男の姿が一変する――ラディカルグッドスピード・完全形態へと。
普段は限定的にしか使用しないそれを、全身を包む形に進化させた最終形態。彼の最強の、そして最後の姿。
この姿をとるという事は、命を燃やし……そして、命を尽くすことを意味する。
「わかってますよぉ? 私はあなたを最速で倒し、そして静かな余生を送ると……そういう覚悟です」
再び陽気な口調で、しかし孕んだ怒気はそのままにフリクリ署長は宣言し、決闘――その号砲を打ち鳴らした。
右手の中に現れた対フリークス用拳銃・ジャッカル。それを戦いのゴングとして撃ち放った。
対する感電はその行為に疑問を抱く。
両者ともに戦闘速度は音速にも達する2人だ。拳銃程度の速度では牽制にもならないはずなのに、何故?
撃ち落すか、避けるか。コンマ02秒考えて、感電は後者を選択した。そして、その直後にそれを後悔することとなる。
「き、貴様――ッ!」
そう。元より狙いは感電ではなかった。フリクリ署長が狙ったのは、その後ろにあったコンセントだ。
「けっこう、戻ってくるまでに暇をしていましたので、……ここら一帯のコンセントは破壊させて貰いました」
今のが最後の一つです。と、男は仮面の中で笑みを浮かべる。
感電の使うレッド・ホット・チリペッパーは、その由来からコンセントに画鋲を挿さねば電線内に入れない仕様となっている。
つまり、フリクリ署長の策に嵌った今。彼はコンセントを介した瞬間移動は封じられたということだ。
「狭っ苦しい電線の中じゃあ、確かにあなたは最速かも知れない。
プライドは傷つきますが、光速というのなら仕方が無い。電線の中の最速はあなたに譲りましょう。
だが! 地上最速は私! それだけは譲れないし、譲る気などありはしない!」
宣言と共に、フリクリ署長の姿がブレ――最速の闘争が始まった。
◆ ◆ ◆
最速。故に闘争の時間もそうはかからない。
ただ見守る。いや、見る事すらできない地味子の耳に闘争の音だけが届いてくる。
戦闘機が空を切る時の様な甲高い音と、火薬が爆発したかの様な破裂音。そして、鐘を鳴らす様な空間に響く音。
それぞれが何を意味し、戦況がどう動いているかも想像できない地味子は、目を瞑りただただ祈る。
最初は狂った様に連続していた音。それが、何時の間にかにまばらになっている事に気付き地味子は目を開ける。
どちらも消耗しているのであろう。闘争は何時の間にかに、彼女の目にも捉えられる程になっていた。
目に見える様になった闘争。見れば、フリクリ署長の方が押している様に感じる。
だが、そのフリクリ署長はその身を激痛に苛まれていた。
無茶をしているものだと……、彼は自嘲する。
キャラに飲まれるなと言ったのは他ならぬ自分自身だ。なのに、今自分はこんなことをしている。
これしか方法が浮かばなかった。仲間を守り、敵を倒すには……しかし、やはりこれも誰かの脚本通りなのかもとも思う。
かと言って、もう引き返す道はない。命を燃やしただ往くだけだ。反逆は残った者が達すると信じて――。
すでに眩しくない程度にまで明かりを落とした感電。彼は焦っていた。
簡単な仕事のはずだった。元々、ラピュタの雷は一発分しか充填していなかったが、それで足りるはずだった。
直接戦闘能力が高いのは目の前の男だけ、ならば他を適当に散らしてゆけばよいと考えていた。
誤算はやはり、あの忌々しい少女だ。一人逃されただけでなく、甚大なダメージを被るはめになった。
そして計算は狂いに狂い、ラディカルグッドスピードの完全形態とガチバトルをする嵌めに陥っている。
瞬間移動を利用した、空気キャラの間引き――それが役割だったはずなのに。
時間にして5分少々。激突にして四桁に上ろうかというぐらいのタイミングでそれは起きた。
「――何ぃ!」
目を見張る感電の前で、フリクリ署長の右手が巨大化する。
それは、彼に残されていた最後の支給品――ピーキーガリバーの能力だ。
「やっと、捕まえましたよ!」
アルターに埋め込んだその核金の力。
それで、動きの鈍くなった感電を捉えると、フリクリ署長は空を見上げ――――飛んだ!
◆ ◆ ◆
高く。高く。高く。速く。速く。速く。遠く。遠く、遠く――フリクリ署長は感電を抱えて飛んでゆく。
真っ青に澄み切った空。真っ白に輝く太陽。自身を包む風を楽しみながらフリクリ署長は飛ぶ。
残力は全てこの一跳に使っている。余りは一切無し。計算どおりではあったが、全く余裕も油断もない戦いだった。
フリクリ署長と感電は、重力と物理法則に従い次第に速度を落とし、放物線を描いてそこへと向かう。
それを目前に、フリクリ署長は最後の言葉を感電へとかけた。
「レッド・ホット・チリペッパーの最後って覚えてますか、感電さん?」
声をかけられた感電に、それを答える余裕は全くない。
彼らの落ちる先。眼下に広がるのは、陽光を反射し煌く――――海。
真水に電気は流れない。割とトリビアな豆知識だ。しかし、不純物の混ざった水の中では電気は非常に流れやすい。
流れる――流れ出る。それが、原作においてもレッド・ホット・チリペッパーの敗因であった。
感電についても同じ。力の源である電気が全て流出してしまえば……後は溺れ死ぬだけである。
付け加えれば、感電の素体となっている焦ったドラえもんは吸血姫。どちらにしろ滅する運命には変わりない。
そして――自分も死んでしまうだろうと、フリクリ署長は覚悟している。
先に言った通り、余力は残らなかった。完全に力を使いきっての終着。だからせめて最後に願う。
「(地味子さん……あなただけは、最後まで反逆者でいてください)」
そして、このふざけた舞台からの真の脱出を――そう、遠くにいる地味子に願い、彼と感電は海へと落ちた。
立ち上がった水柱が消え去り、波が穏やかさを取り戻しても2人が上がってくることは無かった。
ノルマ――『5』――クリア
ノルマ――『6』――オーバー
&color(red){【永遠のうっかり侍@ギャルゲロワ 死亡】}
&color(red){【ピザの1号(◆wKs3a28q6Q)@AAAロワ 死亡】}
&color(red){【底上中の残月@アニロワ2nd 死亡】}
&color(red){【素晴らしきフラグビルド@アニ2nd 死亡】}
&color(red){【フリクリ署長@アニロワ1st 死亡】}
&color(red){【焦ったドラえもん@漫画ロワ 死亡】 }
◆ ◆ ◆
何もない荒野を一人ぽつんと、泣きながら歩いている女の子がいた。
惨劇の生き証人、その一人である地味で、地味すぎて生を長らえた少女――地味子である。
うっかり侍とピザの1号が残した分に、自分の分を合わせて計3人分の荷物を背負い。
そして、それよりも遥かに重い運命を背負って少女は一人往く。
どうして自分なのかと、少女は思う。
どうして、特別な取り得はなく、地味で目立たず、忘れ去られがちで、無力な自分なのかと。
こんな重いフラグを抱えさせて、先に逝った仲間達は一体自分に何を期待するのかと……。
フリクリ署長が語って聞かせてくれた可能性。
感電となった者が聞かせてくれたこのロワに潜む謎。
それを自分にどうしろと言うのかと、彼女は泣く。抱え込んだ物の重さと、隣りに仲間がいない寂しさに泣く。
「――……わ、たしに……どうしろって。……うぅ、っく」
もっと適任な人物がいたんじゃないか。そう思えてならない。そう、自分が生き残るぐらいなら――。
「ひぐ……。フリ、クリさんがぁ……、生き残れ、ば。……よかった、……にぃ……」
そう。同じ一人なら、感電が言葉どおりに見逃してくれるのだったら、やっぱり残るべきは彼だったと少女は思う。
「私が! 私がもっと、早くに死んでいれば――フリ――――――…………」
一発の銃声。
&color(red){【地味子@葉鍵3 死亡】}
◆ ◆ ◆
「……よく知らんが、まぁ死にたかったんだからいいよな?」
地面にだらしなく手足を広げ、一緒に真っ赤な流れたての血も広げている少女。
その傍らから零れ落ちた鞄を拾い上げると、転という名の男はそこを悠々と立ち去った。
【夕方】【G-8/更地】
【転@スパロワ】
【状態】:人格反転中
【装備】:ヒュッケバインMk-Ⅲガンナー(人間サイズ・リモコン式)@スパロワ
【道具】:支給品一式×5(食事一食分消費)、首輪×3(内一つ破壊)、高性能探索機能つき扇風機
AK-74(残り60発)、マジシャンズレッドのスタンドディスク、転ばし屋
チェーンソー@サガ1、朝倉涼子のアーミーナイフ、ナイフ、えいゆうのたて@FF6
パロロワ衣服詰め合わせ、夜天の書(BL本)、BL本、GL本
【思考】:このロワを完結させて一刻も早く生還し、スパロワを完結させる。優勝か脱出狙い。
1:さて、次の獲物はどこかな?
2:他の対主催を働かせる。無能なクズはさっさと排除
※容姿は秋津マサト(木原マサキ)@ゼオライマーです。
※転ばし屋はトリップ名でしか働きません。
※生死に関わらず、第三回放送で転の死亡は放送されます。
※首輪の解除方法を会得しました。道具がなくても外せます。
※えいゆうのたてにはアルテマ×10、つまり通算で10話以上所持しているとアルテマが習得できます。
魔力っぽいステータスや、触媒があれば使用可能です。
※ヒュッケバインはビッグ承、結のディストラと融合することで、三神、四神モードにパワーアップします。
それぞれ三機合体、四機合体の機体に変化。二機合体ではSSサイズ(人間大)ですが、サイズも大きくなっていきます。
※クマのプー太氏は主催者の本拠地に帰還しました。
◆ ◆ ◆
※静かなるChain-情がどこにテレポートアウトするかは、次の書き手さんにお任せします。
【夕方】【不明】
【静かなる ~Chain-情~@アニロワ1st】
【状態】:健康
【装備】:ゴールド・エクスペリエンスのDISC@漫画ロワ、仗助の学生服@漫画ロワ
【道具】:支給品一式×2、レインボーパンwith謎ジャム@ギャルゲロワ、CD『ザ・ビートルズ』、カエル×3
【思考】:
基本:殺し合いに反逆ゥ!そしてなるべく多くの仲間と生還し、死んだ書き手の分まで頑張る。
0:???
1:フラグビルドは…………
2:仲間達は?(ギャグ将軍、孤高の黒き書き手、シルベストリ、コロンビーヌ、パンタローネ、お姉さま、ルーキー)
※容姿はスクライド(アニメ)の橘あすか。
※元々着ていた服は、転移の際の崩壊により行方知らずとなりました。
※どたばたしていたため、無明幻妖side.の首輪と永遠神剣「誓い」は回収し損ねました。
※ビックバン・パンチ。命を犠牲にして放つ最強の一撃。不発でもそれなりの破壊力ですが、一時間以上は気絶します。
※フラグビルドを失いたくない、と思いました。
※感電より、怪しげな裏話を聞かされました。
※G-7に、底上中の残月の感電死体と、彼女と素晴らしきフラグビルドの荷物が転がっています。
【素晴らしきフラグビルドの荷物】
支給品一式、コアドリル@アニロワ2nd、泉こなたのスクール水着@漫画ロワ
お徳用原作パロロワ全生首セット(目玉セット他に換装可能) &原作パロロワ全手首詰め合わせ今なら腕も付いてくる!
【底上中の残月の荷物】
支給品一式、放火セット(燃料、松明、マッチ)、カードデッキ(龍騎)
※フリクリ署長と感電(焦ったドラえもん)は、【I-5/海】に落ちました。死体も荷物も海の底です。
|218:[[Blitzkrieg――電撃戦 (中編)]]|投下順に読む|219:[[さよならは言わないで。だって――(前編)]]|
|218:[[Blitzkrieg――電撃戦 (中編)]]|時系列順に読む|220:[[したらば孔明の陰謀]]|
|218:[[Blitzkrieg――電撃戦 (中編)]]|&color(red){永遠のうっかり侍}|241:[[ギャルゲロワのなく頃に 想託し編]]|
|218:[[Blitzkrieg――電撃戦 (中編)]]|&color(red){焦ったドラえもん}||
|218:[[Blitzkrieg――電撃戦 (中編)]]|転|222:[[世はこともなく廻り続ける]]|
|218:[[Blitzkrieg――電撃戦 (中編)]]|静かなる ~Chain-情~|231:[[傷だらけの天使たち]]|
|218:[[Blitzkrieg――電撃戦 (中編)]]|&color(red){素晴らしきフラグビルド}||
|218:[[Blitzkrieg――電撃戦 (中編)]]|&color(red){底上中の残月}||
|218:[[Blitzkrieg――電撃戦 (中編)]]|&color(red){ピザの1号(◆wKs3a28q6Q)}||
|218:[[Blitzkrieg――電撃戦 (中編)]]|&color(red){地味子}||
|218:[[Blitzkrieg――電撃戦 (中編)]]|&color(red){フリクリ署長}||
|218:[[Blitzkrieg――電撃戦 (中編)]]|R-0109(感電)|242:[[第三回放送]]|
◆ ◆ ◆
「――では、各自が理解したところで間引きの時間だ!」
勢い良く打ち合わせられた手がフラッシュし、拍手の音の変わりに電気の火花を飛び散らせる。
「もう一度言うぞ! 間引くのは後4人。4人殺したら残りの2人は見逃してやる」
それをお前達の中で選んでもよいし、各自が精一杯に抵抗した結果に委ねるのもよいと感電は続ける。
そして、生き残りたければ――『書き手』ならば、生き残る方法。生き残るフラグ。生き残るキャラクターを生み出せとも言った。
感電の化身と成った、元焦ったドラえもんは光る拳を固めると、ギラリと表情を変え――、
――虐殺を開始した。
◆ ◆ ◆
「ピザの1号さん、逃げましょう! あの人はきっと私達みたいなのを狙っ……て――――?」
自他共に認める地味of地味の地味子。
感電の『間引く』という言葉を聞いた時、紛れも無くその対象は自分達ジミーズのことだと思った。
特に何をするでもなく、あまり書いてももらえず、置いてけぼりにされ、そのせいで進行は遅れてしまう。
そんな空気という名の足手まとい。それこそが彼の言う纏まっていちゃ困る参加者なのだろうと……。
そして、彼女は仲間を振り返った――が、その地味仲間であるピザの1号はもう死んでいた。
首から上が無いのである。そんなはずがと思っても間違えようはなかった。彼女の仲間はもう死んでいた。
末期の言葉も残さず、まるで――いや、ズガンそのものに、殺されていた。
死んでいるピザの1号の隣りに立つのは、眩い光を放っている感電だ。
どうやって一瞬でこの場所まで、しかも一切の気配を感じさせず移動したのだろうか?
生まれた疑問。しかし、彼女は疑問が生まれた瞬間にはその解答を得る事を諦めていた。
感電が彼女の方を見ていたから――、
――三度。爆音。
半瞬遅れて駆けつけたフリクリ署長が、またしても感電をぶっ飛ばす。
三度目の飛び蹴りを受けた感電は、その勢いのままに壁に――激突せず、その直前で忽然と姿を消した。
改めて困惑する地味子とフリクリ署長。だが、解答は意外と早く得られた。
「レッド・ホット・チリペッパーだ――ッ!」
叫んだのは少し離れた位置で一部始終を見ていたChain-情だった。
そして、その発言と同時に感電が部屋の隅に、正確にはコンセントのすぐ傍に現れた。
「正解だChain-情。もしかして貴様、ジョジョオタか? いや、ジョジョネタは書き手の嗜みなのか?」
ニヤニヤと浮かべた笑みは余裕の表れだと、全員が確信してる。
そして、5人殺すという発言が根拠のない妄言でもないことが今の一瞬で理解できた。
余裕の感電は指先を憐れな羊達に向けて突き出す。そこには一つの画鋲がくっついていた。
「これが、まぁ……所謂スタンド本体と言ったところだな。貴様らも俺が感電と呼ばれる由来ぐらいは知っているだろう?」
画鋲に電気を流せばスパークして目くらましになるかも? その素敵な好奇心が在りし日の彼に行動を促した。
結果、彼は身をもってその威力を知る事となる。それが、彼が感電と呼ばれる所以であり、画鋲がトレードアイテムである理由だ。
ちなみに、その画鋲フラッシュネタはちゃんとアニロワで活用されている。
「ライダーとか、スタンドとか、核金とか……能力を加えるには便利だよな。バリエーションも豊富だし、お手軽だ。
でもってまぁ、俺に与えられた能力はそこの小僧の言ったとおりさ。
ジョジョの奇妙な冒険・第4部の、初期のボスキャラ音石明の持つスタンド――レッド・ホット・チリペッパー。
知ってりゃあ、解るよな? 互いの戦力差ってのが――」
じゃあ、続きだ――そう言って、彼は虐殺を再開した。
ノルマ――『2』――クリア
◆ ◆ ◆
彼女がどう意味でそう発言したのか、聞いた2人には痛いぐらいに理解することができた。
『ここは私に任せてあんたら2人は逃げな』
『先に逝くのは年寄りが相場って決まっているんだ』
『私は、いい見せ場を貰ったんだ。これからはあんたらの番さね』
『できれば、あんた達の子供が見れるまで付き合ってあげたかったんだけど』
早口で、それこそ40秒でそれを言い切ると彼女――残月は、Chain-情とフラグビルドを壁の穴から突き落とした。
2人はすぐに自分達が落ちてきた穴を見上げる。だが、彼女はこちらを向いてはいなかった。
その無言の背中こそが答えなのだと――そう悟ると、彼らは唇を噛み締めその場を後にする――……。
「悪いねぇ、こっちから2人とも逃しちまって」
「何、私は元々誰も死なせるつもりなんかありませんでしたよ。あいつを倒せば、それで万事解決です」
「言うね若いの」
Chain-情とフラグビルドが去ってしまったことで、旅館内に残るのは残りのノルマと同じ丁度3人となってしまった。
感電の宣言通りに事が運べば、ここでこの3人が息絶えるという事になる。だが……。
「けど私はただじゃあ死なないんだ。――最後にとっておきの篝火を見せてあげるさ」
命が燃え尽きる瞬間の最も激しい炎。
それで、感電に少しでも傷を負わせられればと、残月は鞄からカードデッキを取り出そうと――消えた。
背を預けていたフリクリ署長が振り返る間も無く。
傍でそれを見ていた地味子が悲鳴を上げる間も無く。
彼女は掴まり、引き摺られ、コンセントの中へと……この世から姿を消した。
ノルマ――『3』――クリア
◆ ◆ ◆
Chain-情と、フラグビルドの2人は懸命に走る。
何も無くなってしまった虚ろな土地を抜け、そしてエリアを跨ぎ次の場所に入ってもなお走る。
救われたというのなら、その命。自身の命の死守こそが役目だと、ただひたすらに逃げるために走る。
命を奪われない様、誰にも追いつかれない様にと、2人は手を繋いで懸命に走り続ける。
――と、2人の目の前に見覚えのある影が現れた。
Chain-情の、そして隣りのフラグビルドの目も同じ様に大きく見開かれる。
目の前に現れた彼女。ここにいるはずの無い彼女。いや、すでに彼女ではないもう彼女ではないモノに。
「ざんげ――――――!」
目の前に放り込まれた、かつては残月だった黒焦げの肉塊。まるでいつかの報いの様に焼かれた彼女。
それに気を取られた次の瞬間に襲撃者は現れ、第一撃を終わらせていった――だが。
「(――かすっただけか?)」
通り抜け、振り向き様に感電は舌打ちをする。
2人を諸共に屠るはずだった一撃。その成果はたった1本――フラグビルドの右足を刈る程度でしかなかったのだから。
女は強い――いつかChain-情はこう思う。残月さんも、フラグビルドも、覚悟を決めた女は男よりも何倍も強いと。
フラグビルドは、目の前に影が飛び込んできたその瞬間に全てを悟り、一切の迷いなく行動に移った。
感電がどこから攻撃を仕掛けてくるのかは解らない。だから、当てずっぽうに身体を倒した。
結果、彼女はその細くて白い脚を一本失ったのだが、それを彼女は幸運だと神に感謝する。
次の攻撃がいつくるか分からない。もしかしたら、次の瞬間かも知れない。でも、極僅かにでも間があるというのなら……。
この人だけは先に送ることができる。
一瞬。1秒の100分の1の時間でもいい。どれだけ短くても、残った命を全部使えば彼を送ることができると。
Chain-情も何かを悟っていたのかも知れない。
握り合う手の力が痛いぐらいに強まる。それが、嬉しすぎて。本当に嬉しすぎてどうしようもなくて涙が零れた。
彼女の髪と同じ――翡翠色の螺旋が、彼女の愛しいChain-情を包みどこかへ先へと送った。
残月の遺体が放り込まれてから1秒もたたない間に事は終わり、片足のフラグビルドは地面に落ちる。
その傍らには戻ってきた感電。
止めを刺そうとはせず、ただ地に伏せても満足そうな彼女を見下ろしている。
「テレポーターとしての宿命か……? 惨めな死に様だなお前は」
片足だったフラグビルドの身体には、もうすでに残っていた足の方も失われている。
位相の違う空間を通り、遠い場所同士を繋ぐテレポートという能力。
それは莫大な代価を使用者に要求する。疲労でも、命でもなく――それは存在そのもの。
ただの人の身であるものが異空間の中を一瞬でも飛べば、必ず存在のいくらかをそこに置き忘れてしまうものなのだ。
それは絶対に戻ってはこない。能力を使えば使うほど、テレポーターの存在は希薄となっていく。
最終的にはこの世界からいなくなってしまう――それがテレポーターとしての宿命。
「なのに! 何故、貴様はそうも嬉しそうにしているんだ! 俺を出し抜けたのがそんなに嬉しいのかっ!?」
足元より迫る存在の消滅はすでに腹にまで達している。
その状態がどれほどの苦痛を彼女に齎すのかは分からない。だが、彼女は笑っていた。とても幸せそうに。
それは、その理由は――。
「フラグが……、私の……恋愛、フラグが成就しまし、た……」
見下ろす感電の顔に困惑の表情が浮かぶ。フラグビルドの言っている事の意味が理解できなかった。
そして、その疑問を素直に彼女へとぶつけた。一体どこでそれが成されたのか、と。
「私が……あの人を、好きで……あの人が、私を好きでいてくれる。……それが、ちゃんと……わかったから」
その言葉に再び感電の心がかき乱される。
彼はそれを妄言だと決め付けた。それはただの自己満足。自己肯定でしかないと。妥協だと。ただの夢幻だと。
しかし――。
「……そうじゃ、ない。……どこかの果てに辿り着くことが、恋愛じゃ、ないって……わかったから」
だから、この想いを抱いて逝けるのなら自分は幸せだと。これが望んでいたハッピーエンドだと彼女は言う。
あの人が今も、そしてこれからも私を想っていてくれる。その確信があれば、それが唯一無二の成果だと……。
「それに、ね。……こっそりと、だけど…………思い出の、品も、貰っているんですよ……?」
握っていた左手が消失し、そこから一匹のアマガエルが飛び出してきた。緑色の小さな小さな蛙だ。
Chain-情がゴールド・エクスペリエンスの力で生み出し、2人の危機を救ってくれた緑の蛙。
テレポートの瞬間。これだけを彼女はこの場所に残した。
「何が! こんな、みみっちい蛙が何だ! こんなもので満足しているってのは、お前が小さいってことで――!」
何が気に障るのか、それは感電自身にもよく解っていなかった。
もしかすると、それは理解できない事への恐怖の裏返しだったのかも知れない。
足元の女は放っておいても時機に死ぬ。ならば、意趣返しの相手はこいつだと、感電は蛙を踏み潰した。
――バキリ。
感電の背中から骨を砕く様な音が……、いや実際に砕けていた。
そう、彼が踏み潰した蛙はゴールド・エクスペリエンスの創った蛙。故に、ダメージは本人に跳ね返る。
「…………全部、計算……どお、り……なん……です、よ。………………バーカ…………………………」
笑っていたフラグビルドの顔が笑い顔のまま消失する。
そして、最後にChain-情に強く握り締められていた真っ赤な右手だけが残り……それも続けて消滅した。
ノルマ――『4』――クリア
◆ ◆ ◆
「糞ッたれがぁ………………ッ!」
そんな口汚い言葉を吐きながら感電が起き上がったのは、フラグビルドが逝ってより大体1分後だった。
化物の力で踏みつけた一撃は、そのまま彼の背中へと伝わり、結果。彼は彼の力で自分を踏みつけたことになった。
そのダメージからの復帰にかかったのが、つまりは1分ほどの時間だ。
起き上がっても、してやられたフラグビルドも蛙ももういない。
ぶつける場所のない怒り――それを自身の中に閉じ込めておける程、彼もまだ人ができていない。
「予定が狂った……。残るノルマは1。……だったら、あのふざけたサングラスか。地味女だ!」
感情をスパークという形で発露すると、怒りの矛先を無関係の2人に向け、感電は手近なコンセントへと飛び込んだ。
◆ ◆ ◆
「やぁ、やぁ、戻ってくると信じていましたよ、えぇ。
彼らは逃げおおせると、あなたは彼らを取り逃がすと私は信じていました」
元の旅館に戻ってきた感電を出迎えたのは、そんな気に障るフリクリ署長の言葉だった。
「……後、1人だ」
その言葉にフリクリ署長の顔がニカリと喜色に歪む。
本当は後2人だと聞きたかった。あの2人が仲良く逃げおおせたと確認したかったが、しかしあえて笑う。
「いやぁ、都合がいい。後2人だと聞いたらどうしようかと思っていたんですよ!」
何が都合がいいんだ? と、感電は表情通りのドス黒い声で目の前の陽気な男に尋ねる。
「だって、そうじゃないですか。後1人なんでしょう? だったら――」
――あなたが死ねばいい。
そこだけは、陽気さの欠片もなく男は言い切った。
それと同時に、彼が纏っていた気配も一変する。目に見える様な怒気が彼を覆っていた。まるで感電のスパークと相対するかの様に。
「けっこう、いいダメージを貰ってきたようですね。少し暗くなっていますよ、感電さん?」
サングラスの奥に剣呑な瞳を隠す男の指摘通り、感電を包む電気の光は明るさを落としていた。
レッド・ホット・チリペッパーの力の源は電気。これがあればどこまでも強くなれるし、逆になくなれば最弱にもなりえる。
ラピュタの雷を受けた時。その時は確かに、誰も勝てない程の強さがあった。しかし、消耗した現在ならば――、
――命を燃やせば、勝利に手が届く。
「……お前、その姿になるって意味が解っててそうしてるんだろうなぁ?」
光量を落とした感電の目の前に立つ男の姿が一変する――ラディカルグッドスピード・完全形態へと。
普段は限定的にしか使用しないそれを、全身を包む形に進化させた最終形態。彼の最強の、そして最後の姿。
この姿をとるという事は、命を燃やし……そして、命を尽くすことを意味する。
「わかってますよぉ? 私はあなたを最速で倒し、そして静かな余生を送ると……そういう覚悟です」
再び陽気な口調で、しかし孕んだ怒気はそのままにフリクリ署長は宣言し、決闘――その号砲を打ち鳴らした。
右手の中に現れた対フリークス用拳銃・ジャッカル。それを戦いのゴングとして撃ち放った。
対する感電はその行為に疑問を抱く。
両者ともに戦闘速度は音速にも達する2人だ。拳銃程度の速度では牽制にもならないはずなのに、何故?
撃ち落すか、避けるか。コンマ02秒考えて、感電は後者を選択した。そして、その直後にそれを後悔することとなる。
「き、貴様――ッ!」
そう。元より狙いは感電ではなかった。フリクリ署長が狙ったのは、その後ろにあったコンセントだ。
「けっこう、戻ってくるまでに暇をしていましたので、……ここら一帯のコンセントは破壊させて貰いました」
今のが最後の一つです。と、男は仮面の中で笑みを浮かべる。
感電の使うレッド・ホット・チリペッパーは、その由来からコンセントに画鋲を挿さねば電線内に入れない仕様となっている。
つまり、フリクリ署長の策に嵌った今。彼はコンセントを介した瞬間移動は封じられたということだ。
「狭っ苦しい電線の中じゃあ、確かにあなたは最速かも知れない。
プライドは傷つきますが、光速というのなら仕方が無い。電線の中の最速はあなたに譲りましょう。
だが! 地上最速は私! それだけは譲れないし、譲る気などありはしない!」
宣言と共に、フリクリ署長の姿がブレ――最速の闘争が始まった。
◆ ◆ ◆
最速。故に闘争の時間もそうはかからない。
ただ見守る。いや、見る事すらできない地味子の耳に闘争の音だけが届いてくる。
戦闘機が空を切る時の様な甲高い音と、火薬が爆発したかの様な破裂音。そして、鐘を鳴らす様な空間に響く音。
それぞれが何を意味し、戦況がどう動いているかも想像できない地味子は、目を瞑りただただ祈る。
最初は狂った様に連続していた音。それが、何時の間にかにまばらになっている事に気付き地味子は目を開ける。
どちらも消耗しているのであろう。闘争は何時の間にかに、彼女の目にも捉えられる程になっていた。
目に見える様になった闘争。見れば、フリクリ署長の方が押している様に感じる。
だが、そのフリクリ署長はその身を激痛に苛まれていた。
無茶をしているものだと……、彼は自嘲する。
キャラに飲まれるなと言ったのは他ならぬ自分自身だ。なのに、今自分はこんなことをしている。
これしか方法が浮かばなかった。仲間を守り、敵を倒すには……しかし、やはりこれも誰かの脚本通りなのかもとも思う。
かと言って、もう引き返す道はない。命を燃やしただ往くだけだ。反逆は残った者が達すると信じて――。
すでに眩しくない程度にまで明かりを落とした感電。彼は焦っていた。
簡単な仕事のはずだった。元々、ラピュタの雷は一発分しか充填していなかったが、それで足りるはずだった。
直接戦闘能力が高いのは目の前の男だけ、ならば他を適当に散らしてゆけばよいと考えていた。
誤算はやはり、あの忌々しい少女だ。一人逃されただけでなく、甚大なダメージを被るはめになった。
そして計算は狂いに狂い、ラディカルグッドスピードの完全形態とガチバトルをする嵌めに陥っている。
瞬間移動を利用した、空気キャラの間引き――それが役割だったはずなのに。
時間にして5分少々。激突にして四桁に上ろうかというぐらいのタイミングでそれは起きた。
「――何ぃ!」
目を見張る感電の前で、フリクリ署長の右手が巨大化する。
それは、彼に残されていた最後の支給品――ピーキーガリバーの能力だ。
「やっと、捕まえましたよ!」
アルターに埋め込んだその核金の力。
それで、動きの鈍くなった感電を捉えると、フリクリ署長は空を見上げ――――飛んだ!
◆ ◆ ◆
高く。高く。高く。速く。速く。速く。遠く。遠く、遠く――フリクリ署長は感電を抱えて飛んでゆく。
真っ青に澄み切った空。真っ白に輝く太陽。自身を包む風を楽しみながらフリクリ署長は飛ぶ。
残力は全てこの一跳に使っている。余りは一切無し。計算どおりではあったが、全く余裕も油断もない戦いだった。
フリクリ署長と感電は、重力と物理法則に従い次第に速度を落とし、放物線を描いてそこへと向かう。
それを目前に、フリクリ署長は最後の言葉を感電へとかけた。
「レッド・ホット・チリペッパーの最後って覚えてますか、感電さん?」
声をかけられた感電に、それを答える余裕は全くない。
彼らの落ちる先。眼下に広がるのは、陽光を反射し煌く――――海。
真水に電気は流れない。割とトリビアな豆知識だ。しかし、不純物の混ざった水の中では電気は非常に流れやすい。
流れる――流れ出る。それが、原作においてもレッド・ホット・チリペッパーの敗因であった。
感電についても同じ。力の源である電気が全て流出してしまえば……後は溺れ死ぬだけである。
付け加えれば、感電の素体となっている焦ったドラえもんは吸血姫。どちらにしろ滅する運命には変わりない。
そして――自分も死んでしまうだろうと、フリクリ署長は覚悟している。
先に言った通り、余力は残らなかった。完全に力を使いきっての終着。だからせめて最後に願う。
「(地味子さん……あなただけは、最後まで反逆者でいてください)」
そして、このふざけた舞台からの真の脱出を――そう、遠くにいる地味子に願い、彼と感電は海へと落ちた。
立ち上がった水柱が消え去り、波が穏やかさを取り戻しても2人が上がってくることは無かった。
ノルマ――『5』――クリア
ノルマ――『6』――オーバー
&color(red){【永遠のうっかり侍@ギャルゲロワ 死亡】}
&color(red){【ピザの1号(◆wKs3a28q6Q)@AAAロワ 死亡】}
&color(red){【底上中の残月@アニロワ2nd 死亡】}
&color(red){【素晴らしきフラグビルド@アニ2nd 死亡】}
&color(red){【フリクリ署長@アニロワ1st 死亡】}
&color(red){【焦ったドラえもん@漫画ロワ 死亡】 }
◆ ◆ ◆
何もない荒野を一人ぽつんと、泣きながら歩いている女の子がいた。
惨劇の生き証人、その一人である地味で、地味すぎて生を長らえた少女――地味子である。
うっかり侍とピザの1号が残した分に、自分の分を合わせて計3人分の荷物を背負い。
そして、それよりも遥かに重い運命を背負って少女は一人往く。
どうして自分なのかと、少女は思う。
どうして、特別な取り得はなく、地味で目立たず、忘れ去られがちで、無力な自分なのかと。
こんな重いフラグを抱えさせて、先に逝った仲間達は一体自分に何を期待するのかと……。
フリクリ署長が語って聞かせてくれた可能性。
感電となった者が聞かせてくれたこのロワに潜む謎。
それを自分にどうしろと言うのかと、彼女は泣く。抱え込んだ物の重さと、隣りに仲間がいない寂しさに泣く。
「――……わ、たしに……どうしろって。……うぅ、っく」
もっと適任な人物がいたんじゃないか。そう思えてならない。そう、自分が生き残るぐらいなら――。
「ひぐ……。フリ、クリさんがぁ……、生き残れ、ば。……よかった、……にぃ……」
そう。同じ一人なら、感電が言葉どおりに見逃してくれるのだったら、やっぱり残るべきは彼だったと少女は思う。
「私が! 私がもっと、早くに死んでいれば――フリ――――――…………」
一発の銃声。
&color(red){【地味子@葉鍵3 死亡】}
◆ ◆ ◆
「……よく知らんが、まぁ死にたかったんだからいいよな?」
地面にだらしなく手足を広げ、一緒に真っ赤な流れたての血も広げている少女。
その傍らから零れ落ちた鞄を拾い上げると、転という名の男はそこを悠々と立ち去った。
【夕方】【G-8/更地】
【転@スパロワ】
【状態】:人格反転中
【装備】:ヒュッケバインMk-Ⅲガンナー(人間サイズ・リモコン式)@スパロワ
【道具】:支給品一式×5(食事一食分消費)、首輪×3(内一つ破壊)、高性能探索機能つき扇風機
AK-74(残り60発)、マジシャンズレッドのスタンドディスク、転ばし屋
チェーンソー@サガ1、朝倉涼子のアーミーナイフ、ナイフ、えいゆうのたて@FF6
パロロワ衣服詰め合わせ、夜天の書(BL本)、BL本、GL本
【思考】:このロワを完結させて一刻も早く生還し、スパロワを完結させる。優勝か脱出狙い。
1:さて、次の獲物はどこかな?
2:他の対主催を働かせる。無能なクズはさっさと排除
※容姿は秋津マサト(木原マサキ)@ゼオライマーです。
※転ばし屋はトリップ名でしか働きません。
※生死に関わらず、第三回放送で転の死亡は放送されます。
※首輪の解除方法を会得しました。道具がなくても外せます。
※えいゆうのたてにはアルテマ×10、つまり通算で10話以上所持しているとアルテマが習得できます。
魔力っぽいステータスや、触媒があれば使用可能です。
※ヒュッケバインはビッグ承、結のディストラと融合することで、三神、四神モードにパワーアップします。
それぞれ三機合体、四機合体の機体に変化。二機合体ではSSサイズ(人間大)ですが、サイズも大きくなっていきます。
※クマのプー太氏は主催者の本拠地に帰還しました。
◆ ◆ ◆
※静かなるChain-情がどこにテレポートアウトするかは、次の書き手さんにお任せします。
【夕方】【不明】
【静かなる ~Chain-情~@アニロワ1st】
【状態】:健康
【装備】:ゴールド・エクスペリエンスのDISC@漫画ロワ、仗助の学生服@漫画ロワ
【道具】:支給品一式×2、レインボーパンwith謎ジャム@ギャルゲロワ、CD『ザ・ビートルズ』、カエル×3
【思考】:
基本:殺し合いに反逆ゥ!そしてなるべく多くの仲間と生還し、死んだ書き手の分まで頑張る。
0:???
1:フラグビルドは…………
2:仲間達は?(ギャグ将軍、孤高の黒き書き手、シルベストリ、コロンビーヌ、パンタローネ、お姉さま、ルーキー)
※容姿はスクライド(アニメ)の橘あすか。
※元々着ていた服は、転移の際の崩壊により行方知らずとなりました。
※どたばたしていたため、無明幻妖side.の首輪と永遠神剣「誓い」は回収し損ねました。
※ビックバン・パンチ。命を犠牲にして放つ最強の一撃。不発でもそれなりの破壊力ですが、一時間以上は気絶します。
※フラグビルドを失いたくない、と思いました。
※感電より、怪しげな裏話を聞かされました。
※G-7に、底上中の残月の感電死体と、彼女と素晴らしきフラグビルドの荷物が転がっています。
【素晴らしきフラグビルドの荷物】
支給品一式、コアドリル@アニロワ2nd、泉こなたのスクール水着@漫画ロワ
お徳用原作パロロワ全生首セット(目玉セット他に換装可能) &原作パロロワ全手首詰め合わせ今なら腕も付いてくる!
【底上中の残月の荷物】
支給品一式、放火セット(燃料、松明、マッチ)、カードデッキ(龍騎)
※フリクリ署長と感電(焦ったドラえもん)は、【I-5/海】に落ちました。死体も荷物も海の底です。
|219:[[Blitzkrieg――電撃戦 (中編)]]|投下順に読む|220:[[さよならは言わないで。だって――(前編)]]|
|219:[[Blitzkrieg――電撃戦 (中編)]]|時系列順に読む|221:[[したらば孔明の陰謀]]|
|219:[[Blitzkrieg――電撃戦 (中編)]]|&color(red){永遠のうっかり侍}|242:[[ギャルゲロワのなく頃に 想託し編]]|
|219:[[Blitzkrieg――電撃戦 (中編)]]|&color(red){焦ったドラえもん}||
|219:[[Blitzkrieg――電撃戦 (中編)]]|転|223:[[世はこともなく廻り続ける]]|
|219:[[Blitzkrieg――電撃戦 (中編)]]|静かなる ~Chain-情~|232:[[傷だらけの天使たち]]|
|219:[[Blitzkrieg――電撃戦 (中編)]]|&color(red){素晴らしきフラグビルド}||
|219:[[Blitzkrieg――電撃戦 (中編)]]|&color(red){底上中の残月}||
|219:[[Blitzkrieg――電撃戦 (中編)]]|&color(red){ピザの1号(◆wKs3a28q6Q)}||
|219:[[Blitzkrieg――電撃戦 (中編)]]|&color(red){地味子}||
|219:[[Blitzkrieg――電撃戦 (中編)]]|&color(red){フリクリ署長}||
|219:[[Blitzkrieg――電撃戦 (中編)]]|R-0109(感電)|243:[[第三回放送]]|