BIRTHDAY

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彷徨っていた――いや、単純に迷っていた。彼女を言い表すにはそれが適切だっただろう。 縞々のハイニーソックスに包んだ両足を片方ずつぎくしゃくと前後させ、その少女――蟹座氏は街を歩いている。 向かう先はない。 ただ当てもなく、前に進まなければいけないという義務感に苛まれ……、いや違う。 一瞬前の自分が怖い。常に、一瞬前の自分が背後に迫ってきている。そんな幻視から逃げていた。 無人の街。真昼の太陽の下を少女は逃げ惑い。自らの足で不幸の籠の中へと進んでゆく――……。 「(…………………………あぁ)」 一つ角を曲がり、一つの路地を抜ける間に2回目の放送を少女は聞く。 改めて、身体の外側から流れ込んできた最速の人の死。 スピーカーを通じて浴びせかけられた自分宛の罵倒に、心の中が泡立ち溺れそうになると錯覚する。 死体を目の当たりにし、それを自己肯定し、そしてこれで3度目となる最速の人の死。 繰り返し継ぎ足される彼の死はまるで冷たい水銀の様で、彼女の身体を足元から凍らせてゆく――……。 「……………………じゃ、ない……もん」 幻の霜に足を取られた少女の前に立っていたのは、真っ赤な蟹だった。 しかし彼女は否定する。ショーウィンドゥの中に立っていたのは、全身を返り血に染めた真っ赤な自分だった。 全身を縦横無尽に走り、蟹の脚の様にしがみついている赤い線。まるで、自縛だ――と、思う。 意識すれば、それは途端に自分を蝕み、その脚の一本一本を皮膚の中へと沈ませてくる。 肺を閉められ呼気が荒れ、心臓を脚掴みにされ冷たい汗が流れる。赤い縄が身体に――心に、悔い込む。 「……っ」 少女の立っている地面がまるで中華のターンテーブルの様に回りだした。 同時に空も回りだし、渦を巻く雲が天上に青と白のマーブル模様を描き始める。 もちろん、現実のアスファルトは波打ってないし、硝子はセロファンの様に靡いてはいないはずだ。全ては幻視のはず。 しかしそれが解っているはずなのに、恐れは増すばかり。脳が理解を放棄している? と、それも解らない。 自らが其処に置いた苛烈な罠に足を取られ、蟹の少女は螺旋の上を踊る――……。 「ひ……、うわああぁあぁぁぁぁあああ――ッ!」 心をバラバラにしようとする遠心力に抗うため少女は手を伸ばす――その手が蟹の鋏だった。 5本の白い指ではなく、一対の赤い刃。しかしそれも幻。いつもの呪文を唱えれば、鋏はたちまち手に戻る。 しかし赤い侵略は止まらない。皮膚の上を走る赤い線になぞられると、そこは容易く人の見た目を失う。 脚が、腹が、腕が……、蟹に、蟹に、蟹に……。少女を蟹に変えようと、赤色がざわつく。 否定。否定。否定……。解呪。解呪。解呪……。少女は呪文を唱え、赤色の侵略に抵抗する。 「……蟹座じゃないもん。蟹座じゃないもん。蟹座じゃないもん。蟹座じゃないもん。蟹座じゃないもん。蟹座じゃ……」 取り戻した白い手を伸ばし、赤い縄を引き千切る。布が裂ける悲鳴を無視し、ただひたすらに千切る。 呪文を唱えて侵略を阻害し、抵抗の弱まった所から引き千切り、投げ捨てる。地面に叩きつけて殺す。 追いすがり尚も喰らいつこうとする赤色を肌から引き剥がし、足の下に踏みつけて粉々にする。 身体を濡れた舌で嘗め回す赤色を切り払い、首を絞めようとする赤色を解き、背中に圧し掛かる赤色を振りほどく。 赤色に抵抗し、赤色と闘争し、赤色に少女は勝利する。 「……もん。蟹座じゃないもん。蟹座じゃないもん。蟹座じゃないもん。蟹座じゃないもん。蟹座じゃないもん。蟹……」 圧倒的な赤色の軍勢を壊滅させ、その躯を野晒しにしたまま少女は撤退戦を開始する。 その白い肢体を縛る赤い縄は、もう完全に無い。自由だ。しかし、闘争は少女を疲弊させていた。 僅かに離れることも叶わない場所で少女は膝を折り、石の正方形にそれをぶつけてしまう。 微量の痛みと共に零れだし始める赤色。次の敵が現れ、少女の目の前に布陣を展開させ始める。 ターンテーブルは加速する。戦火は拡大し、それは少女の外より中へと進む――……。 「う、うわ……ぁ……、何…………? …………コ。レェ…………」 真っ赤なソレを服毒した少女は、石の上に伏せ小さな身体を振るわせ始める。 頭蓋骨の中の脳ミソを玄武岩にでも摩り替えられたかの様な頭痛。喉を通り鼻から吐き出されるひりつく息。 異様な熱を持った心臓と、感覚が無くなるほど冷えた手足。皮膚を裂き体外に飛び出しそうな軋む骨。 丸く小さなで真っ白な背中にぷつぷつと光る玉が浮かび、それは流れ落ちて全身を覆い始める。 透明の水が熱い皮膚の上を滑り、魘される少女の身体を梳る。 「……っ! え……ガァ――っ! あぁ……あ、あ。ア……ぁあぁ――ッ」 少女の小さな口から水塊が吐き出され、石の上に濁った水溜りを作った。 それは止め処なく、そして其処からだけでなく。何処も彼処からも、海の水に似た何かが吐き出し始める。 より小さな口から吐き出されるそれに腿は熱く濡れ、少女は少しずつ自身の作った海の中へ沈んでゆく。 「――――――――が」 白い薄肌の中に隠された少女の筋が緊張し、僅かに浮かび上がった。 今までよりもさらに硬く強張らされた少女の下腹。お臍の裏側より、やや下方に何か異変が起こり始めている。 鉄か何か、そんな物が胎の中を進撃していると。自分の胎内で突貫工事を始めたと認識し、少女の顔が歪む。 痛みより痛く。違和感以上に違和感があり、熱くて、熱く、寒くて、寒い。身体の真ん中に毒の入った芯を通されたような感覚。 それに少女の顔が引き攣り、圧倒的な恐怖に表情が殺されてゆく――……。 「……う。そ………。………だ」 臍から下がまるで別の身体の様になった感触に、少女はそこが陥落した事を知った。 胎内に侵入した突撃兵達は土嚢を破り、勝利の栄光へと向けて一斉に進軍を開始する。 硬くはないが狭まっていた壁を無理やりに押し開き、溜まっていた色のついた水を追い出し兵は進む。 蠕動する赤色のカーペットの上を勝利兵達は進み、そして遂に到達する。 赤い滝を眼下に、兵達は――……。 網膜の中。其処に現れた赤い何かに、少女は絶望し……目を閉じた…………。  ◆ ◆ ◆ 夢の中で、少女は手術台の上にいた。 見上げるライトが眩しすぎて見えるものはなく。聞こえてくるのは声だけだ。 『……いや、しかし”こんなところ”にまでこれるとは』 何故か知っている声だ。そして、同時に自分が夢の前半を覚えていないことに少女は気付く。 『おい、■■。用意するのはこれでいいのか? 2リットルだぞ』 『確かに、初心者用ではありませんが彼女たってのご要望ですから』 『そうか……、しかし■■などを注ぎ込んでは、腸内が荒れないかな……?』 『さて、私も■■を■に注入した人なんて知りませんからねぇ……』 『無責任なやつ……』 『まぁまぁ、よいではないですか。何かあったら、それはそれで。  それにこれはデータを消された意趣返し……と、考えればこれぐらいが妥当でしょう』 『……そうだな。それに私も少し見てみたい。そのドバドバとやらを』 『アハハハハハハハハハハハハハハハハハ……』 『アハハハハハハハハハハハハハハハハハ……』 あまりにも酷い予感がするものの、身体は革のベルトで固定されており全く身動きが取れない。 助けを叫ぼうにも、罵倒を浴びせようにも、夢の中だからか声は全く出せない。 近づいてくる気配に、少女は身体を凍らせる。 『これが終わったら、どうする?』 『さて……、いつまでも滞留していただいては困りますから、帰ってもらう必要がありますね』 『方法はあるのか――?』 『さぁ、適当でいいんじゃないですか。それよりも何かお土産を持たせてあげたいですね』 『……土産ね』 『何かよいものはありませんか? 彼女にあげてしまってもよいもの。別にゴミとかでも……』 『だったら、コレはどう? 上のDVDラックの中に紛れ込んでたんだけど』 『■■ですね……』 『……丁度よいだろう?』 『アハハハハハハハハハハハハハハハハハ……』 『アハハハハハハハハハハハハハハハハハ……』 頭の中で木霊する気に障る笑い声。 幸か不幸か、そこが彼女が記憶に留めて置くことができた夢の最後だった――……。  ◆ ◆ ◆ 少女は夢より覚め、赤く酔った身体を醒まし、現世へと帰還する。 「…………う?」 ほとんどは夢。だいたいは幻覚。一から九ぐらいは妄想で、全部ではないギリギリのところまでが嘘だった。 「何が――……?」 少女が最初に気付いたのは、全身がずぶ濡れになっている事。そして、地面の感触がひどく鮮明だということ。 客観的に見れば少女は、往来にできた薄黄色い色の大きな水溜りの中で、裸になって横たわっていた。 所々に微量の赤が混じった水溜りは、真上の太陽を受けて温まっており、まるで羊水の様に心地いい。 「なんで、裸……なんだろう?」 どこかで、何かを必死に破いていた様な……と少女は記憶の中から掬い出す。 そうだ。ガラスに映った自分の姿が真っ赤な蟹みたいで――妄想の中に……いた? と、思い出した。 蟹見沢症候群は妄想をも自分に見せる。元ネタもそうなのだから……と納得する。 「でも、なんか――すごく、気持ちいい……」 夢想の中で大暴れしたからなのだろうか。 さっきまでの鬱屈した気持ちが、まるで見上げる雲一つ無い空の様にすっきりとしていた。 服は失ったが、丁度着替えを探していたのだから丁度よい。それよりも――……。 「まるで、生まれ変わったみたい」 キラキラと光を反射する水の中で目を覚ます。 それはまるで二度目の誕生日の様だと、少女。丸い笑顔の少女は思った。ここからがんばりなおせると――……。  ◆ ◆ ◆ 「へくしっ!」 往来を通り抜けた風に、裸の少女は可愛い悲鳴をあげる。 いくら昼時といっても、アスファルトの上はベッドの代わりにはならない。ましてや、全裸となると。 また変なイベントをこなしてしまった自分に自重を命じつつ、少女は伸びきっていた四肢を折り立ち上がろうとする。 「……こんなところ、誰かに見られたら」 冷静になってみれば、少し――匂う。それにべとべとする……。 往来のど真ん中。こんな天気のいい日に、びしょ濡れで真っ裸の女の子。客観、主観を問わずに変態だった。 やむにやむをえない事情がある(?)にしろ、見られては弁解できないと少女は移動を開始する。も――? 「かっ! か、か、か、か、か、…………」 『蟹です。お母様』 「カニ――――――――――――――――――ッ!?」 ――蟹が居た。たくさんの、すっごいたくさんの蟹が道を埋めていた。 沢蟹などの小さなものから、赤手蟹。弁慶蟹。平家蟹。おいしそうなタラバ蟹や毛蟹まで、様々な蟹が道を埋めていた。 しかも『』←のカッコ付きで喋っている蟹もいる。というか、さっき『お母様』って言ったよね、蟹は。 「理解不能! 理解不能! 理解不能! 理解不能! 理解不能!」 一転して、テンパリ始めた少女の元へと蟹達がにじりよってくる……『お母様』『お母様』と。 その言葉とこの状況が指し示す真実は一つ。名探偵でなくとも推理できる簡単な問題だ。カニと蟹の子供達である。 蟹座の少女が蟹を生んだのか? それはほぼ事実だが、すこし違う。 それを説明するにあたって、まずは目の前の蟹達の正体を明かそう。  ◆ ◆ ◆ 彼らは――バッド・カニパニー! 此処とは少し違う世界。違う時代。最後の戦争――第六次猿蟹合戦を生き抜いた蟹の古強者達。 蟹の世界で、蟹の姿を取り、全ての蟹のために戦い続けた――最後の蟹隊! 戦が世界のどこからも消えた時。彼らは勝利の歓喜を覚え、次の瞬間に絶望した。生きる世界を失ったからである。 そして彼らは戦争を求め世界を渡った。蟹のための戦争。更なる蟹のための闘争を求めて! 蟹の傭兵結社は、次元を越え世界を転戦し、仲間を減らしそして増やし、全ての世界で蟹の戦争を実現した。 そんな彼らが次なる戦争。新しい蟹の戦争を求め。そして一人の少女の胎を通りぬけ――結集したのだ! 蟹の兵は闘う――少女のために! 蟹の古強者は闘う――母のために! 蟹の古参兵は闘う――蟹のために! 諸君。君達は何を望む? 更なる蟹か? よろしい、――ならば蟹だ! そんなノリの連中なのである。                                 『民明書房刊-「蟹座氏のいけない☆ひみつ」より~』  ◆ ◆ ◆ 『お母様!』『お母様!』『ご命令を!』『戦争を!』『蟹の戦争を!』『お母様!』『戦争を!』『戦争を!』 蟹の戦争大合唱に、少女はまだ理解不能、理解不能とつぶやいていた。だがしかし、犯人だけは解っている。 あの夢の中で聞いた声――あいつが犯人だ。あいつが『何か』したのだ。何かおぞましいことを。 今更ではあるが、とりあえず出会えたらあいつだけは絶対に殺そう。殺した後も殺そうと少女は決意する。 『戦争を!』『ジーク蟹!』『蟹の戦争を!』『蟹座氏最高――っ!』『お母様!』『お母様!』『戦争を!』 とりあえず、認知はしようと少女は思う。 全くの覚えはないが、産まれたばかりの命。捨て置くほど残酷な性格はしていない。 この蟹達にはやさしく、そして余った残酷さはあいつに――。 そして少女は、とりあえずシャワーを浴びようと目の前にある『いかがわしいお城のようなホテル』に入った。 【日中】【G-4/いかがわしいお城のようなホテルの前】 【蟹座氏@ギャルゲロワ】 【状態】:蟹見沢症候群発症、全裸、ベトベト、へこみLv2、顎部に痒み 、『蟹座じゃないもん』覚醒 【装備】:鉈、バットカニパニー 【道具】:支給品一式、蟹座の黄金聖闘衣、最高ボタン、カードデッキ(シザース)@ライダーロワ 【思考】:  基本:どうしようか……?  1:とりあえずこのホテル(?)の中でシャワーを浴びる  2:服も探そう……  3:『あいつ』に逢ったら殺す  4:ギャルゲロワの仲間には逢いたくない  5:敵とは戦う。ギャルゲロワ以外でいじめてくる人はみんな敵  6:子供の面倒はきちんとみます  ※容姿は蟹沢きぬ(カニ)@つよきすです  ※最高ボタンを押すと、『いやっほぉぉぉおおおう、蟹座のONiぃ様、最高ーーーーーっ!!!!!』という台詞が、    ハクオロの声で流れます。シークレットボイスにも何かあるかも?  ※自分の心がキャラに影響されていることに気付きましたが、キャラに抵抗するため無駄な努力をしています。  ※身体能力は本気を出せば倉成武ぐらいの力が出ます。通常はカニ。  ※蟹見沢症候群について。    へこみのLvが5になったとき、発祥します。発症した場合、自分を苛めたり辱めたりした者を優先的に殺します。    現在は沈静化してますが、しばらく苛め続けると再び発症する恐れがあります。    基本的な症状は雛見沢症候群と同じです。発症中は蟹座氏のチャット状態の特徴により、語尾に♪がついたりします。  ※言霊『蟹座じゃないもん』に覚醒しました。    強い意志で蟹座であることを否定することにより、文字通り蟹に縁のあるアイテムから、    『蟹座じゃないもん』つまり『蟹座じゃないもん(者、物)』の力を引き出せます。  ※『バッド・カニパニー』が召喚されました。    蟹座氏のいうことを聞く、千余りの蟹の古参兵達です。幾何学模様を描く隊列は美しいです。強さは蟹です。 ※いかがわしいお城のようなホテルの前に、大量の蟹汁がドバドバと広がっています。おいしいかどうかは解りません。 |199:[[風雲?ロワ本編?何それ?]]|投下順に読む|201:[[もう影が薄いなんて言わせな……あれ?]]| |199:[[風雲?ロワ本編?何それ?]]|時系列順に読む|201:[[もう影が薄いなんて言わせな……あれ?]]| |184:[[とある書き手の独り言]]|蟹座氏|213:[[人蟹姫]]| ----
彷徨っていた――いや、単純に迷っていた。彼女を言い表すにはそれが適切だっただろう。 縞々のハイニーソックスに包んだ両足を片方ずつぎくしゃくと前後させ、その少女――蟹座氏は街を歩いている。 向かう先はない。 ただ当てもなく、前に進まなければいけないという義務感に苛まれ……、いや違う。 一瞬前の自分が怖い。常に、一瞬前の自分が背後に迫ってきている。そんな幻視から逃げていた。 無人の街。真昼の太陽の下を少女は逃げ惑い。自らの足で不幸の籠の中へと進んでゆく――……。 「(…………………………あぁ)」 一つ角を曲がり、一つの路地を抜ける間に2回目の放送を少女は聞く。 改めて、身体の外側から流れ込んできた最速の人の死。 スピーカーを通じて浴びせかけられた自分宛の罵倒に、心の中が泡立ち溺れそうになると錯覚する。 死体を目の当たりにし、それを自己肯定し、そしてこれで3度目となる最速の人の死。 繰り返し継ぎ足される彼の死はまるで冷たい水銀の様で、彼女の身体を足元から凍らせてゆく――……。 「……………………じゃ、ない……もん」 幻の霜に足を取られた少女の前に立っていたのは、真っ赤な蟹だった。 しかし彼女は否定する。ショーウィンドゥの中に立っていたのは、全身を返り血に染めた真っ赤な自分だった。 全身を縦横無尽に走り、蟹の脚の様にしがみついている赤い線。まるで、自縛だ――と、思う。 意識すれば、それは途端に自分を蝕み、その脚の一本一本を皮膚の中へと沈ませてくる。 肺を閉められ呼気が荒れ、心臓を脚掴みにされ冷たい汗が流れる。赤い縄が身体に――心に、悔い込む。 「……っ」 少女の立っている地面がまるで中華のターンテーブルの様に回りだした。 同時に空も回りだし、渦を巻く雲が天上に青と白のマーブル模様を描き始める。 もちろん、現実のアスファルトは波打ってないし、硝子はセロファンの様に靡いてはいないはずだ。全ては幻視のはず。 しかしそれが解っているはずなのに、恐れは増すばかり。脳が理解を放棄している? と、それも解らない。 自らが其処に置いた苛烈な罠に足を取られ、蟹の少女は螺旋の上を踊る――……。 「ひ……、うわああぁあぁぁぁぁあああ――ッ!」 心をバラバラにしようとする遠心力に抗うため少女は手を伸ばす――その手が蟹の鋏だった。 5本の白い指ではなく、一対の赤い刃。しかしそれも幻。いつもの呪文を唱えれば、鋏はたちまち手に戻る。 しかし赤い侵略は止まらない。皮膚の上を走る赤い線になぞられると、そこは容易く人の見た目を失う。 脚が、腹が、腕が……、蟹に、蟹に、蟹に……。少女を蟹に変えようと、赤色がざわつく。 否定。否定。否定……。解呪。解呪。解呪……。少女は呪文を唱え、赤色の侵略に抵抗する。 「……蟹座じゃないもん。蟹座じゃないもん。蟹座じゃないもん。蟹座じゃないもん。蟹座じゃないもん。蟹座じゃ……」 取り戻した白い手を伸ばし、赤い縄を引き千切る。布が裂ける悲鳴を無視し、ただひたすらに千切る。 呪文を唱えて侵略を阻害し、抵抗の弱まった所から引き千切り、投げ捨てる。地面に叩きつけて殺す。 追いすがり尚も喰らいつこうとする赤色を肌から引き剥がし、足の下に踏みつけて粉々にする。 身体を濡れた舌で嘗め回す赤色を切り払い、首を絞めようとする赤色を解き、背中に圧し掛かる赤色を振りほどく。 赤色に抵抗し、赤色と闘争し、赤色に少女は勝利する。 「……もん。蟹座じゃないもん。蟹座じゃないもん。蟹座じゃないもん。蟹座じゃないもん。蟹座じゃないもん。蟹……」 圧倒的な赤色の軍勢を壊滅させ、その躯を野晒しにしたまま少女は撤退戦を開始する。 その白い肢体を縛る赤い縄は、もう完全に無い。自由だ。しかし、闘争は少女を疲弊させていた。 僅かに離れることも叶わない場所で少女は膝を折り、石の正方形にそれをぶつけてしまう。 微量の痛みと共に零れだし始める赤色。次の敵が現れ、少女の目の前に布陣を展開させ始める。 ターンテーブルは加速する。戦火は拡大し、それは少女の外より中へと進む――……。 「う、うわ……ぁ……、何…………? …………コ。レェ…………」 真っ赤なソレを服毒した少女は、石の上に伏せ小さな身体を振るわせ始める。 頭蓋骨の中の脳ミソを玄武岩にでも摩り替えられたかの様な頭痛。喉を通り鼻から吐き出されるひりつく息。 異様な熱を持った心臓と、感覚が無くなるほど冷えた手足。皮膚を裂き体外に飛び出しそうな軋む骨。 丸く小さなで真っ白な背中にぷつぷつと光る玉が浮かび、それは流れ落ちて全身を覆い始める。 透明の水が熱い皮膚の上を滑り、魘される少女の身体を梳る。 「……っ! え……ガァ――っ! あぁ……あ、あ。ア……ぁあぁ――ッ」 少女の小さな口から水塊が吐き出され、石の上に濁った水溜りを作った。 それは止め処なく、そして其処からだけでなく。何処も彼処からも、海の水に似た何かが吐き出し始める。 より小さな口から吐き出されるそれに腿は熱く濡れ、少女は少しずつ自身の作った海の中へ沈んでゆく。 「――――――――が」 白い薄肌の中に隠された少女の筋が緊張し、僅かに浮かび上がった。 今までよりもさらに硬く強張らされた少女の下腹。お臍の裏側より、やや下方に何か異変が起こり始めている。 鉄か何か、そんな物が胎の中を進撃していると。自分の胎内で突貫工事を始めたと認識し、少女の顔が歪む。 痛みより痛く。違和感以上に違和感があり、熱くて、熱く、寒くて、寒い。身体の真ん中に毒の入った芯を通されたような感覚。 それに少女の顔が引き攣り、圧倒的な恐怖に表情が殺されてゆく――……。 「……う。そ………。………だ」 臍から下がまるで別の身体の様になった感触に、少女はそこが陥落した事を知った。 胎内に侵入した突撃兵達は土嚢を破り、勝利の栄光へと向けて一斉に進軍を開始する。 硬くはないが狭まっていた壁を無理やりに押し開き、溜まっていた色のついた水を追い出し兵は進む。 蠕動する赤色のカーペットの上を勝利兵達は進み、そして遂に到達する。 赤い滝を眼下に、兵達は――……。 網膜の中。其処に現れた赤い何かに、少女は絶望し……目を閉じた…………。  ◆ ◆ ◆ 夢の中で、少女は手術台の上にいた。 見上げるライトが眩しすぎて見えるものはなく。聞こえてくるのは声だけだ。 『……いや、しかし”こんなところ”にまでこれるとは』 何故か知っている声だ。そして、同時に自分が夢の前半を覚えていないことに少女は気付く。 『おい、■■。用意するのはこれでいいのか? 2リットルだぞ』 『確かに、初心者用ではありませんが彼女たってのご要望ですから』 『そうか……、しかし■■などを注ぎ込んでは、腸内が荒れないかな……?』 『さて、私も■■を■に注入した人なんて知りませんからねぇ……』 『無責任なやつ……』 『まぁまぁ、よいではないですか。何かあったら、それはそれで。  それにこれはデータを消された意趣返し……と、考えればこれぐらいが妥当でしょう』 『……そうだな。それに私も少し見てみたい。そのドバドバとやらを』 『アハハハハハハハハハハハハハハハハハ……』 『アハハハハハハハハハハハハハハハハハ……』 あまりにも酷い予感がするものの、身体は革のベルトで固定されており全く身動きが取れない。 助けを叫ぼうにも、罵倒を浴びせようにも、夢の中だからか声は全く出せない。 近づいてくる気配に、少女は身体を凍らせる。 『これが終わったら、どうする?』 『さて……、いつまでも滞留していただいては困りますから、帰ってもらう必要がありますね』 『方法はあるのか――?』 『さぁ、適当でいいんじゃないですか。それよりも何かお土産を持たせてあげたいですね』 『……土産ね』 『何かよいものはありませんか? 彼女にあげてしまってもよいもの。別にゴミとかでも……』 『だったら、コレはどう? 上のDVDラックの中に紛れ込んでたんだけど』 『■■ですね……』 『……丁度よいだろう?』 『アハハハハハハハハハハハハハハハハハ……』 『アハハハハハハハハハハハハハハハハハ……』 頭の中で木霊する気に障る笑い声。 幸か不幸か、そこが彼女が記憶に留めて置くことができた夢の最後だった――……。  ◆ ◆ ◆ 少女は夢より覚め、赤く酔った身体を醒まし、現世へと帰還する。 「…………う?」 ほとんどは夢。だいたいは幻覚。一から九ぐらいは妄想で、全部ではないギリギリのところまでが嘘だった。 「何が――……?」 少女が最初に気付いたのは、全身がずぶ濡れになっている事。そして、地面の感触がひどく鮮明だということ。 客観的に見れば少女は、往来にできた薄黄色い色の大きな水溜りの中で、裸になって横たわっていた。 所々に微量の赤が混じった水溜りは、真上の太陽を受けて温まっており、まるで羊水の様に心地いい。 「なんで、裸……なんだろう?」 どこかで、何かを必死に破いていた様な……と少女は記憶の中から掬い出す。 そうだ。ガラスに映った自分の姿が真っ赤な蟹みたいで――妄想の中に……いた? と、思い出した。 蟹見沢症候群は妄想をも自分に見せる。元ネタもそうなのだから……と納得する。 「でも、なんか――すごく、気持ちいい……」 夢想の中で大暴れしたからなのだろうか。 さっきまでの鬱屈した気持ちが、まるで見上げる雲一つ無い空の様にすっきりとしていた。 服は失ったが、丁度着替えを探していたのだから丁度よい。それよりも――……。 「まるで、生まれ変わったみたい」 キラキラと光を反射する水の中で目を覚ます。 それはまるで二度目の誕生日の様だと、少女。丸い笑顔の少女は思った。ここからがんばりなおせると――……。  ◆ ◆ ◆ 「へくしっ!」 往来を通り抜けた風に、裸の少女は可愛い悲鳴をあげる。 いくら昼時といっても、アスファルトの上はベッドの代わりにはならない。ましてや、全裸となると。 また変なイベントをこなしてしまった自分に自重を命じつつ、少女は伸びきっていた四肢を折り立ち上がろうとする。 「……こんなところ、誰かに見られたら」 冷静になってみれば、少し――匂う。それにべとべとする……。 往来のど真ん中。こんな天気のいい日に、びしょ濡れで真っ裸の女の子。客観、主観を問わずに変態だった。 やむにやむをえない事情がある(?)にしろ、見られては弁解できないと少女は移動を開始する。も――? 「かっ! か、か、か、か、か、…………」 『蟹です。お母様』 「カニ――――――――――――――――――ッ!?」 ――蟹が居た。たくさんの、すっごいたくさんの蟹が道を埋めていた。 沢蟹などの小さなものから、赤手蟹。弁慶蟹。平家蟹。おいしそうなタラバ蟹や毛蟹まで、様々な蟹が道を埋めていた。 しかも『』←のカッコ付きで喋っている蟹もいる。というか、さっき『お母様』って言ったよね、蟹は。 「理解不能! 理解不能! 理解不能! 理解不能! 理解不能!」 一転して、テンパリ始めた少女の元へと蟹達がにじりよってくる……『お母様』『お母様』と。 その言葉とこの状況が指し示す真実は一つ。名探偵でなくとも推理できる簡単な問題だ。カニと蟹の子供達である。 蟹座の少女が蟹を生んだのか? それはほぼ事実だが、すこし違う。 それを説明するにあたって、まずは目の前の蟹達の正体を明かそう。  ◆ ◆ ◆ 彼らは――バッド・カニパニー! 此処とは少し違う世界。違う時代。最後の戦争――第六次猿蟹合戦を生き抜いた蟹の古強者達。 蟹の世界で、蟹の姿を取り、全ての蟹のために戦い続けた――最後の蟹隊! 戦が世界のどこからも消えた時。彼らは勝利の歓喜を覚え、次の瞬間に絶望した。生きる世界を失ったからである。 そして彼らは戦争を求め世界を渡った。蟹のための戦争。更なる蟹のための闘争を求めて! 蟹の傭兵結社は、次元を越え世界を転戦し、仲間を減らしそして増やし、全ての世界で蟹の戦争を実現した。 そんな彼らが次なる戦争。新しい蟹の戦争を求め。そして一人の少女の胎を通りぬけ――結集したのだ! 蟹の兵は闘う――少女のために! 蟹の古強者は闘う――母のために! 蟹の古参兵は闘う――蟹のために! 諸君。君達は何を望む? 更なる蟹か? よろしい、――ならば蟹だ! そんなノリの連中なのである。                                 『民明書房刊-「蟹座氏のいけない☆ひみつ」より~』  ◆ ◆ ◆ 『お母様!』『お母様!』『ご命令を!』『戦争を!』『蟹の戦争を!』『お母様!』『戦争を!』『戦争を!』 蟹の戦争大合唱に、少女はまだ理解不能、理解不能とつぶやいていた。だがしかし、犯人だけは解っている。 あの夢の中で聞いた声――あいつが犯人だ。あいつが『何か』したのだ。何かおぞましいことを。 今更ではあるが、とりあえず出会えたらあいつだけは絶対に殺そう。殺した後も殺そうと少女は決意する。 『戦争を!』『ジーク蟹!』『蟹の戦争を!』『蟹座氏最高――っ!』『お母様!』『お母様!』『戦争を!』 とりあえず、認知はしようと少女は思う。 全くの覚えはないが、産まれたばかりの命。捨て置くほど残酷な性格はしていない。 この蟹達にはやさしく、そして余った残酷さはあいつに――。 そして少女は、とりあえずシャワーを浴びようと目の前にある『いかがわしいお城のようなホテル』に入った。 【日中】【G-4/いかがわしいお城のようなホテルの前】 【蟹座氏@ギャルゲロワ】 【状態】:蟹見沢症候群発症、全裸、ベトベト、へこみLv2、顎部に痒み 、『蟹座じゃないもん』覚醒 【装備】:鉈、バットカニパニー 【道具】:支給品一式、蟹座の黄金聖闘衣、最高ボタン、カードデッキ(シザース)@ライダーロワ 【思考】:  基本:どうしようか……?  1:とりあえずこのホテル(?)の中でシャワーを浴びる  2:服も探そう……  3:『あいつ』に逢ったら殺す  4:ギャルゲロワの仲間には逢いたくない  5:敵とは戦う。ギャルゲロワ以外でいじめてくる人はみんな敵  6:子供の面倒はきちんとみます  ※容姿は蟹沢きぬ(カニ)@つよきすです  ※最高ボタンを押すと、『いやっほぉぉぉおおおう、蟹座のONiぃ様、最高ーーーーーっ!!!!!』という台詞が、    ハクオロの声で流れます。シークレットボイスにも何かあるかも?  ※自分の心がキャラに影響されていることに気付きましたが、キャラに抵抗するため無駄な努力をしています。  ※身体能力は本気を出せば倉成武ぐらいの力が出ます。通常はカニ。  ※蟹見沢症候群について。    へこみのLvが5になったとき、発祥します。発症した場合、自分を苛めたり辱めたりした者を優先的に殺します。    現在は沈静化してますが、しばらく苛め続けると再び発症する恐れがあります。    基本的な症状は雛見沢症候群と同じです。発症中は蟹座氏のチャット状態の特徴により、語尾に♪がついたりします。  ※言霊『蟹座じゃないもん』に覚醒しました。    強い意志で蟹座であることを否定することにより、文字通り蟹に縁のあるアイテムから、    『蟹座じゃないもん』つまり『蟹座じゃないもん(者、物)』の力を引き出せます。  ※『バッド・カニパニー』が召喚されました。    蟹座氏のいうことを聞く、千余りの蟹の古参兵達です。幾何学模様を描く隊列は美しいです。強さは蟹です。 ※いかがわしいお城のようなホテルの前に、大量の蟹汁がドバドバと広がっています。おいしいかどうかは解りません。 |200:[[風雲?ロワ本編?何それ?]]|投下順に読む|202:[[もう影が薄いなんて言わせな……あれ?]]| |200:[[風雲?ロワ本編?何それ?]]|時系列順に読む|202:[[もう影が薄いなんて言わせな……あれ?]]| |185:[[とある書き手の独り言]]|蟹座氏|214:[[人蟹姫]]| ----

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