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「絶望可憐少女達」(2008/07/24 (木) 13:16:09) の最新版変更点
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希望。そして、成功や成長の象徴でもある登り続ける午前の太陽。
それがある方角――東へと向って温かくなってきた路の上を真っ直ぐに進む二人の少女がいた。
正義と規律、秩序の象徴であるHOLYの制服をまとい、長い黄金のツインテールを揺らしているのはボマー。
今回の騒動の発端となった人物であり、狂気と正気の境界線上をなぞり歩く名前の通りに危うい少女。
そして、彼女の手に引かれ、淡く綿菓子の様なピンク色の髪の毛を揺らしている幼子はコ・ホンブック。
身を包む薄い空色の制服の中に20以上の永遠に癒えぬ傷を抱え、熱く無明の絶望の中を往く少女だ。
フラリフラリと身体を揺らし、足取り覚束無いコ・ホンブックを励ましながらボマーは一路、東へと道を邁進する。
◆ ◆ ◆
「……ねぇ、おねえちゃん。――ッ、ほ、ホんとぉ……うに、たぁ、すかるのぉ……ッ?」
「ええ、本当よ。助けてあげるから、少しだけお姉ちゃんに強力してね」
空いた方の手で痛む腹を押さえ、嗚咽と涙まじりに言葉を吐くコ・ホンブックであったが、
彼女につい先程までの狂気、狂乱は見られない。
それをなしたボマー自身はまだ気づいていないが、彼女の手にアレがないことこそがその原因であった。
――人喰い。希望に見せかけた絶望。禁忌の財宝。呪われた支給品――『乖離剣・エア』。
アニロワ2ndにて彼女に心的外傷を刻み、また数多くの読み手の怨嗟の声を浴び、吸い取った悪魔のアイテム。
それこそが、傷ついて意思の手綱を放した彼女の心を乗っ取り、暴走させた原因だったのである。
煌びやかなれど血を誘う黄金の剣はここには無い。
起き上がったコ・ホンブックに危害を加えられることを怖れたボマーが、瓦礫の山の中に隠してしまったからだ。
「脱出エンドに向う為には、首輪解除フラグの積み重ねが最も重要――解るでしょう? あなたも書き手なんだから」
対主催の障害となるマーダーの残りは神の意思をもって調整される為、参加者自身が考慮するのは無意味。
また、主催者への道程や出し抜く方法なども、その目的や戦力、ネタが明らかにならない内は考えなくてもいい。
序盤から中盤へと移行しようとしている現在。最も必要なのは首輪――その解除フラグの積み重ねだ。
「……ぅ。あ、あ……、あたし……、――ッ。よぉ……く、わかん――ッ、ない……よぉ……」
ポロポロと大粒の涙を零しながら、ピンクの髪の可哀相な子供は頭を振る。
境界線を越え、狂気から正気の側へと戻ってきたものの、まだ言葉の意味を組み立てられる程には回復していなかった。
「そう。……じゃあ、お姉ちゃんの言うことだけをよく聞いてね。そうすれば助かる――から」
自分の言葉に首肯し、涙を地面へと叩きつける少女を見て、ボマーは少しの戸惑いと罪悪感を覚える。
幾度と無く繰り返してきたことだが、書き手として文を綴るのと実際にその手を下すとのではやはり明確な違いがあった。
「――ウッ! エぅ……、ひぐっ。たすけてえぇ……。たすけ、ってぇ……。おねえちゃん……!」
「うん。大丈夫だから……。絶対、助けてあげるから……」
彼女が戻ってきたら。もし彼女が禁止区域の向うから戻って来れたのなら……。
絶対に。――絶対に、彼女とだけはその最後まで一緒でいてあげよう。どちらが先に死んでしまうとしても。
そう、贖罪の少女は心の中で密かに誓いを立てる。
それが、危ういフラグ立ての一つであることを意識しながらも……。
◆ ◆ ◆
「――止まらないで! 真っ直ぐ。真っ直ぐに、……そう。そのまま前に進んで!」
禁止エリアであるF-9。その西端の境界線のすぐ手前。F-8のエリアの東端へと、二人の少女は到達していた。
一人の少女は立ち止まり、もう一人の不幸な少女をその先へと導く。
結んだ小さな掌を離すことに抵抗し、むずがっては何度もこちらへと振り返る少女を宥め、死地へと追いやっている。
死を――少なくともそれに等しい苦痛をその子供に強要している。
そのまま死ぬことができたならこれ以上は不幸にならぬと、もし死ななければ絶対に助けてみせると思っても。
たった独り。何も解らずぽつんと立っているその少女が、泣いている少女の姿が――、
――居た堪れなかった。
「こ、こわいよぅ! こわいよぉ……、おねえちゃん――! ひ、ひぐぅ……っ。えぐっ、ぅ――!」
「大丈夫だから! お姉ちゃんの言うことを聞いて! ――そう。そうよ、いい子だから、ね?」
一歩……一歩と、不幸な少女はたどたどしく足を進める。
重苦しい痛みを堪え、押し潰されそうな不安に耐え、瞼を震わせ、歯を鳴らし、涙と血を零し、竦む脚で進む。
どこまで進めばよいのか解らない。どうして進まなければならないのかもよく解らない。
でも、進めば助かる。助けてもらえる。そう信じて、それが本当であることを願って、不幸な少女はゆっくりと進む。
「(…………………………………………)」
そこで死んでしまえばよいのか。それとも戻ってきて欲しいのか。ボマーには、もうそれがよく解らない。
何が幸せで、何が不幸せなのか。どこまでが正気で、どこまでが狂気なのか。そして、自分はまだ正気なのか?
自分はものすごく惨いことを強いているのではないだろうか。それは今ここで許されることなのか……。
私は書き手なのか。それともここでは不幸を演出するための駒でしかないのか。人間ではないのか――?
「(…………………………………………)」
危うい所まで来ている。……と、ボマーは自覚する。
正気と狂気の境界線――その線上に自分は足を掛けていると。
ここまで来たのは自分の意思か。それとも運命の悪戯か。それとも、誰か――他の書き手の意思ではなかろうか?
書き手であり――参加者であり――また書き手でもある。
このメタフィクショナルな入れ子構造。
『私』は――、『私』は――……、
――『私』は一体誰だ? 『私』は一体何者だ? 『私』は人間か? それとも駒か? ――書き手なのか?
――『私』を書いているこいつは一体誰だ?
◆ ◆ ◆
――パンッ、という手を打ち鳴らした様な乾いた音で、ボマーは思索の迷宮から現実へと帰還した。
「――コ・ホンブック?」
目は前を見据えたままで、彼女の姿はずっと映していた。だが、見てはいなかった。
ボマーは意識の焦点をそこへと合わせ、その瞬間から現在までを脳内で再生し目の前の光景へとつなぐ。
それは唐突だった。怯える少女にとっては幸か不幸か、一切の警告なしに首輪は爆破された。
火も煙も立たず爆破と言うには些か迫力不足であったもののその威力は申し分なく、ピンクの頭は宙へと舞った。
一切の悲鳴も、表情すら変えることなくそれは宙から地へと落ち、少しだけ転がり僅かに遅れて血が降り注ぐ。
ここまでが記憶の中から掬い出せた映像。そして、ここからが決して止まることなく進行する現実――。
アスファルトの上に広がった血は順逆の流れで少女の傷口へと殺到し、血は再び注がれ直される。
欠けた骨。肉の一部を集めながら怯えた表情のままの少女の首が転がり、ぴたりと分かれた部分は貼り付けあう。
程無くして、不幸な少女はやはり不幸なままに生を取り戻した。そして、そんな彼女を――、
――黒い影が抱き上げた。
◆ ◆ ◆
「誰――なの?」
「影――ですよ」
回答はその影ではなく、少女の後ろに現れた一人の男より与えられた。
その男の名前は――マスク・ザ・ドS。愛しき想いで希望を断つ男。袋小路に立つ者を愛でる者。
「アレは私の――簡単に言うとスタンドやアルターの様なものでしてね。
ああやって禁止エリアの中にも自由に入り込めたりできるんですよ。理解できましたか?」
それと、忘れ物です――と言って、ドSはボマーの目の前に一本の『剣』を転がす。
ガランと楽器の様な音を立て、日を跳ね返して黄金に輝くそれは隠してきたはずの乖離剣・エアだった。
「生きた人間を使っての爆破実験とは……、さすがは『ボマー』と名乗られるだけのことはあります。
……ですが、ちょっとお優しすぎやしませんか?」
「何……ですって?」
突如現れた怪しい男に、ボマーは緊張を高め姿勢をそれとなく戦闘のためのものへと移す。
「あわよく死んでしまえば……いや、私の手で殺してしまおう。とは、優しすぎると言ったんです」
「……私があの子を殺そうと、してた?」
少なくとも変化を齎せるつもりではあった。そうでしょう? ――と、男は言う。
「私が『ここ』にいることで、彼女は死なずにすみましたが……、ええ本当に幸いなことです」
「――お前がっ!?」
その口振りに、ボマーは目の前の男こそがコ・ホンブックを堕とした張本人であると気付き、そして確信する。
「お前は、またあの子を――」
「ええ、そのつもりです。そして、人を奈落に落とし続けたあなたにも――本当の絶望というものをお見せいたしましょう」
――ひうんひうん。ひうんひうん。と、絶望が音を立てて少女達を包み込んだ。
◆ ◆ ◆
「持ち上げて――落とす。落とすために、持ち上げる。――セオリーですよね? ボマーさん」
暗い笑みを浮かべる男。それに寄り添う無言の影。
その背後には縛り上げられた不幸な少女。そして、彼らに対峙するのは贖罪の少女。
「では、この場合。どうすればより皆が不幸になれるのか?
皆――とは、勿論。私を含む、参加者全員のことです。
その場における幸不幸というのは、あまり重要ではない。重要なのは、全員が揃って絶望できるのかということ。
皆が皆、手を取り合って地獄の底に飛び込んでゆく――そんな方法を、私達は考えなくてはならない。
なぜなら――」
――それこそが、バトルロワイアルなのだから。
「では、不幸ってなんでしょう――?
死んだら不幸? ――違います。死なれたら不幸? ――それもまた違う。
私が思うに不幸とは、『途中』であることだと思います。
終わりでなく途中。途中を維持すること。中途半端なままになってしまうこと――それこそが不幸だと」
自分勝手に弁舌を振るう男を前に、贖罪の少女は動けないでいた。
気を呑まれたという訳ではない。単純に、物理的に動くことができないでいたのだ。
男の隣りに立つ影――仮面を被った女が操る鋼糸が彼女の皮膚の中に侵入し、神経の一本一本を絡め取っている。
激痛に苛まれながらも悲鳴を上げることもできず、ただ男の絶望論を聞かされ続けていた。
「不幸であることは幸せであることよりもなお幸せである。なにせ幸せでないのだから」
誰の言葉であろうか? 男はいくつもの矛盾を孕んだ言葉を嬉しそうに吐く。
「さぁ、では皆で手を取り合って仲良く奈落の穴へと飛び込もうではありませんか。
夢は見れても希望は無い。後悔はあっても懺悔は許されない。罰はあっても罪は無い。そんな世界へ――」
――絶望の世界へ、往こうじゃありませんか。
◆ ◆ ◆
再開された舞台。その上には再び少女だけが二人――。
「――おねーちゃんっ! おねーちゃんっ! な、な……っで、……んで? 行っちゃうの――?」
目を覚ましたコ・ホンブック。彼女の前で、彼女を救うはずだった少女はゆっくりと後ずさって行く。
恐怖に顔を引き攣らせ、おぞましいものを見る目つきで、涙を流し、ガクガクと震える足で遠ざかって行く。
無論。それは本意ではない。全ては舞台袖に控え、采配を振るう男の仕業である。
「待って! ねぇ……、ぅえ、……ぃやだ。――ッ! たすけて、くれるって……、いった。たすけてくれるって、いった……」
可哀相な少女は追いすがろうとする。だが、男の仕業により腱は断たれており、立ち上がることができない。
しかしそれでも、腕だけを使い、激痛を訴える胸と腹を地に擦り、救いを求めて這いずり進もうとする。
頭の中にはどのような考えも無く。謀などとは全く気付くこともなく。ひたすらに、ただ一生懸命に、救いを求めて。
「お願い、だからっ! ひっ……っく、は! み、みすてないで――ッ! おねーちゃんっ! おねーちゃんっ!」
後ずさる先は、先刻目の前の憐れな少女が飛び込んだ禁止エリア。そこで自分は死ぬとボマーは理解している。
だが、なんということか。男の言うとおり、今恐怖を感じているのは死ぬことにではない。
恐ろしいのは、――この子の目の前で死んでしまうということ。しかも、何も言い残せず。誤解されたままで。
「いやぁ――ッ! だめぇえぇぇぇええ――ッ! いっちゃいやだ――ッ! うわあぁぁああぁあん……!」
どれだけ足掻こうとも、どれだけ抵抗しようとも、少女と少女の間は縮まらない。ただ、少しずつ離れてゆくのみ。
一人の少女は、目の前に現れたたった一つの救いを意味も無く奪い取られ、
一人の少女は、何を成すことも無く全くの無為に死す事を強要されている。
望みを絶つと書いて――絶望。少女と少女の間に生まれかけた希望。それを踏み躙り、絶望先生は暗く哂う。
どうせなら、人形にされてしまうなら、耳も目も塞いでくれればよかったのにと贖罪の少女は思う。
そうならば、彼女の泣き顔を見ずにすんだのに。彼女の悲鳴を聞かずにすんだのに。
だが、これも全ては男の計算通りなのだと少女は悟る。これがあの男のやり口なのだと。
そうと言う資格はなかったかもしれないが、せめて一人は救いたかった――こう思わせるのも全部合わせて。
恐ろしい男だと、そう彼女が思った瞬間に、――頭が爆ぜた。
◆ ◆ ◆
「ひぎゃああぁぁぁあああぁぁ――ッ! おねえぇちゃあ――ん! いやだッ! やあぁあぁだあぁぁ――ッ!!」
独り残された少女は、訳も解らず泣き叫ぶ。
血を零すだけの皮袋となったそれに追い縋り、叫び、叫び、叫び、叫び、――泣いて、――啼く。
泣くことにも叫ぶことにも意味はない。少女は意味など考えてはいない。ただ泣き叫ぶだけだ。
だが、その涙に悪意を持って意味を与えようとする男がいる。
◆ ◆ ◆
「ご縁がありますね。コ・ホンブックさん」
不幸な少女の前に、再び風浦可符香の姿をした影が立つ。もう一度、今度はより深く少女を堕そうと……。
「――その人は。――あなたを助けようとしたので。――私が。――殺しました」
泣き腫らし、呆然とした顔を上げる少女へ、影は彼女が理解できるようゆっくりと言葉を区切り――ぶつける。
そして、ゆっくりと待つ。壊れた少女がその意味を解し、再び歪な心を転がし始めるまで。
「……ろした? おねーちゃんを、……ろした、の……?」
少女が言葉の意味を解するのに、どれぐらいの時間が過ぎたろうか……。
何時の間に陽は頂上へと昇っていた。
そして、その青い空に浮かぶ真っ白な太陽めがけて、真っ赤な螺旋が立ち昇る。
螺旋に紛れ、空にばら撒かれる黒い破片は、ドSの影だった者の成れの果てだ。
「……っく。ひぐ……っ。えっ、えぅ……」
不幸な少女は今度は自らの意思で剣を手に取った。これで、彼女の不幸は完成したのだろうか?
――いや、そうではない。こんなものでは、まだ足りない。これじゃあ、皆が不幸になるにはまだ足りない。
男は、不幸な少女をより美しく不吉な存在とすべく、自ら舞台の上へと立つ。
己の望みさえ断ち、この後誰も彼もが等しく不幸になれることを想い、自らを最後の供物とすべく――。
◆ ◆ ◆
おねーちゃんを殺したヤツを――恨みがあるからを殺した。では足りない。
誰も彼をも殺す。でなくてはならない。誰も彼をも問答無用で殺す。そんな化物。不幸の顕現でなくてはならない。
化物であり。化物と認められ。また自身も化物と認め。決して行く先の無い者。そんな者に仕上げてやらねばならぬ。
「――死ねっ、化物! 死ねっ、人殺し! いなくなれっ、化物! 消えてなくなれっ、人殺し!」
ひうんひうん。ひうんひうん。
鋼糸を振るい、男は少女の身体を削ぎ、血を流させ、骨を抉り、心を解体し、人であることを剥奪してゆく。
再生し続ける少女の身体をバラバラの部品に分解しながら、その隙間に悪意を流し込み丁寧に化物を仕上げてゆく。
絶望を抱えるだけの自我を保ちながらも、決してそこからは逃れられないような言霊を少女の魂に吹き込む。
己が不幸を呪い。人生を呪い。神を呪い。世界を呪い。敵を呪い。味方を呪い。隣人を呪い。そうでない者も呪う。
そんな恐ろしい化物に。そんな憐れな化物に。そんな可哀相な化物に。男は少女を組み替える。
◆ ◆ ◆
「(……次の放送には、間に合いましたか)」
腕に嵌めた時計を見れば、12時はもう目前だった。
マスク・ザ・ドSは視線を時計から外すと、今度は目の前のそれを感慨深げに見つめる。
そこにあったソレは、彼の理想通りの、醜く、身の毛も弥立つ様なおぞましい――化物だった。
「――それが、あなたの選択した答えなんですね」
再びその身の全てを曝した少女の片手にはあの黄金の剣が、そしてもう片方にはそれとそっくりな真白い剣があった。
自らを殺し、不幸な運命を刻みつけたソレこそが、彼女の攻撃性の象徴であり、自分を守るために選んだ武器だったのだ。
不幸な少女は目の前の者に対し、両方の剣を並べて突きつけその力を解放する。
破壊と復讐の衝動。怨みと呪いの疾風。苦痛と悔恨の波動。紅と白の暴風がドSを襲い、彼をこの世から居なくしてゆく。
「(――二本の螺旋剣から生まれる破壊の小宇宙はさながら、神砂嵐ではなく紙砂嵐といったところですか)」
死の淵に立ち己が存在の消滅を前に、男は絶望の微笑を顔に浮かべる。
彼の目の前。紅く怨念に満ちた死眼を持った少女だったもの。自分の作り上げたモノの美しさに満足する様に。
だが、その完全な完成形は決して見ることができない。なぜなら、それは彼の死を持って成されるからだ。
男はそれだけを未練にこの世から去ってゆく――、
「(私を殺しても、あなたは決して救われない。あなたは私を殺して、初めてその事に気付き、絶望するのです)」
――そして、化物が完成した。
頂上に登った太陽の下に、白くて小さい、決して救われ無いが――美しい。そんな化物が完成していた。
&color(red){【マスク・ザ・ドS@アニ2nd】死亡}
&color(red){【ボマー@LSロワ】死亡}
【昼】【F-8 市街地】
【コ・ホンブック@アニロワ2nd】
【状態】:不死者化、絶望、胸に12の傷(※)、腹に10の刺し傷(※)、
【装備】:乖離剣・エア@Fate、乖離剣・エア(白)
【道具】:なし
【思考】:
基本:生きているモノを呪う
1:殺す
※容姿はアニタ・キング@R.O.Dです。
※不死者化する前に出来た傷は治りません。ずっと、痛いままです。
※嵌めていた首輪は爆発してなくなりました。
【乖離剣・エア(白)】
絶望へと追い詰められたコ・ホンブックが、自分を護るために紙使いの力で作り出したエアの模造品。
威力や性能は本物と同様で、二本同時発動させることで奥義『紙砂嵐』を繰り出すことができる。
※紙砂嵐によって、近くにあったボマー、ドSの遺体や所持品は木っ端微塵に吹き飛びました。
|162:[[岸田洋一の誇り]]|投下順に読む|165:[[混ぜるな自然]]|
|161:[[仮面ライダーよ永遠に/THE FIRSTは二度死ぬ。]]|時系列順に読む|164:[[混ぜるな自然]]|
|158:[[「狂」]]|コ・ホンブック|178:[[シリアスの次に来るのがシリアスとは限らない]]|
|152:[[薔薇のように、萌えキャラにだって棘はあるものさ]]|&color(red){マスク・ザ・ドS}|287:|[[D(前編)]]|
|158:[[「狂」]]|&color(red){ボマー}|182:[[シゴフミ]]|
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希望。そして、成功や成長の象徴でもある登り続ける午前の太陽。
それがある方角――東へと向って温かくなってきた路の上を真っ直ぐに進む二人の少女がいた。
正義と規律、秩序の象徴であるHOLYの制服をまとい、長い黄金のツインテールを揺らしているのはボマー。
今回の騒動の発端となった人物であり、狂気と正気の境界線上をなぞり歩く名前の通りに危うい少女。
そして、彼女の手に引かれ、淡く綿菓子の様なピンク色の髪の毛を揺らしている幼子はコ・ホンブック。
身を包む薄い空色の制服の中に20以上の永遠に癒えぬ傷を抱え、熱く無明の絶望の中を往く少女だ。
フラリフラリと身体を揺らし、足取り覚束無いコ・ホンブックを励ましながらボマーは一路、東へと道を邁進する。
◆ ◆ ◆
「……ねぇ、おねえちゃん。――ッ、ほ、ホんとぉ……うに、たぁ、すかるのぉ……ッ?」
「ええ、本当よ。助けてあげるから、少しだけお姉ちゃんに強力してね」
空いた方の手で痛む腹を押さえ、嗚咽と涙まじりに言葉を吐くコ・ホンブックであったが、
彼女につい先程までの狂気、狂乱は見られない。
それをなしたボマー自身はまだ気づいていないが、彼女の手にアレがないことこそがその原因であった。
――人喰い。希望に見せかけた絶望。禁忌の財宝。呪われた支給品――『乖離剣・エア』。
アニロワ2ndにて彼女に心的外傷を刻み、また数多くの読み手の怨嗟の声を浴び、吸い取った悪魔のアイテム。
それこそが、傷ついて意思の手綱を放した彼女の心を乗っ取り、暴走させた原因だったのである。
煌びやかなれど血を誘う黄金の剣はここには無い。
起き上がったコ・ホンブックに危害を加えられることを怖れたボマーが、瓦礫の山の中に隠してしまったからだ。
「脱出エンドに向う為には、首輪解除フラグの積み重ねが最も重要――解るでしょう? あなたも書き手なんだから」
対主催の障害となるマーダーの残りは神の意思をもって調整される為、参加者自身が考慮するのは無意味。
また、主催者への道程や出し抜く方法なども、その目的や戦力、ネタが明らかにならない内は考えなくてもいい。
序盤から中盤へと移行しようとしている現在。最も必要なのは首輪――その解除フラグの積み重ねだ。
「……ぅ。あ、あ……、あたし……、――ッ。よぉ……く、わかん――ッ、ない……よぉ……」
ポロポロと大粒の涙を零しながら、ピンクの髪の可哀相な子供は頭を振る。
境界線を越え、狂気から正気の側へと戻ってきたものの、まだ言葉の意味を組み立てられる程には回復していなかった。
「そう。……じゃあ、お姉ちゃんの言うことだけをよく聞いてね。そうすれば助かる――から」
自分の言葉に首肯し、涙を地面へと叩きつける少女を見て、ボマーは少しの戸惑いと罪悪感を覚える。
幾度と無く繰り返してきたことだが、書き手として文を綴るのと実際にその手を下すとのではやはり明確な違いがあった。
「――ウッ! エぅ……、ひぐっ。たすけてえぇ……。たすけ、ってぇ……。おねえちゃん……!」
「うん。大丈夫だから……。絶対、助けてあげるから……」
彼女が戻ってきたら。もし彼女が禁止区域の向うから戻って来れたのなら……。
絶対に。――絶対に、彼女とだけはその最後まで一緒でいてあげよう。どちらが先に死んでしまうとしても。
そう、贖罪の少女は心の中で密かに誓いを立てる。
それが、危ういフラグ立ての一つであることを意識しながらも……。
◆ ◆ ◆
「――止まらないで! 真っ直ぐ。真っ直ぐに、……そう。そのまま前に進んで!」
禁止エリアであるF-9。その西端の境界線のすぐ手前。F-8のエリアの東端へと、二人の少女は到達していた。
一人の少女は立ち止まり、もう一人の不幸な少女をその先へと導く。
結んだ小さな掌を離すことに抵抗し、むずがっては何度もこちらへと振り返る少女を宥め、死地へと追いやっている。
死を――少なくともそれに等しい苦痛をその子供に強要している。
そのまま死ぬことができたならこれ以上は不幸にならぬと、もし死ななければ絶対に助けてみせると思っても。
たった独り。何も解らずぽつんと立っているその少女が、泣いている少女の姿が――、
――居た堪れなかった。
「こ、こわいよぅ! こわいよぉ……、おねえちゃん――! ひ、ひぐぅ……っ。えぐっ、ぅ――!」
「大丈夫だから! お姉ちゃんの言うことを聞いて! ――そう。そうよ、いい子だから、ね?」
一歩……一歩と、不幸な少女はたどたどしく足を進める。
重苦しい痛みを堪え、押し潰されそうな不安に耐え、瞼を震わせ、歯を鳴らし、涙と血を零し、竦む脚で進む。
どこまで進めばよいのか解らない。どうして進まなければならないのかもよく解らない。
でも、進めば助かる。助けてもらえる。そう信じて、それが本当であることを願って、不幸な少女はゆっくりと進む。
「(…………………………………………)」
そこで死んでしまえばよいのか。それとも戻ってきて欲しいのか。ボマーには、もうそれがよく解らない。
何が幸せで、何が不幸せなのか。どこまでが正気で、どこまでが狂気なのか。そして、自分はまだ正気なのか?
自分はものすごく惨いことを強いているのではないだろうか。それは今ここで許されることなのか……。
私は書き手なのか。それともここでは不幸を演出するための駒でしかないのか。人間ではないのか――?
「(…………………………………………)」
危うい所まで来ている。……と、ボマーは自覚する。
正気と狂気の境界線――その線上に自分は足を掛けていると。
ここまで来たのは自分の意思か。それとも運命の悪戯か。それとも、誰か――他の書き手の意思ではなかろうか?
書き手であり――参加者であり――また書き手でもある。
このメタフィクショナルな入れ子構造。
『私』は――、『私』は――……、
――『私』は一体誰だ? 『私』は一体何者だ? 『私』は人間か? それとも駒か? ――書き手なのか?
――『私』を書いているこいつは一体誰だ?
◆ ◆ ◆
――パンッ、という手を打ち鳴らした様な乾いた音で、ボマーは思索の迷宮から現実へと帰還した。
「――コ・ホンブック?」
目は前を見据えたままで、彼女の姿はずっと映していた。だが、見てはいなかった。
ボマーは意識の焦点をそこへと合わせ、その瞬間から現在までを脳内で再生し目の前の光景へとつなぐ。
それは唐突だった。怯える少女にとっては幸か不幸か、一切の警告なしに首輪は爆破された。
火も煙も立たず爆破と言うには些か迫力不足であったもののその威力は申し分なく、ピンクの頭は宙へと舞った。
一切の悲鳴も、表情すら変えることなくそれは宙から地へと落ち、少しだけ転がり僅かに遅れて血が降り注ぐ。
ここまでが記憶の中から掬い出せた映像。そして、ここからが決して止まることなく進行する現実――。
アスファルトの上に広がった血は順逆の流れで少女の傷口へと殺到し、血は再び注がれ直される。
欠けた骨。肉の一部を集めながら怯えた表情のままの少女の首が転がり、ぴたりと分かれた部分は貼り付けあう。
程無くして、不幸な少女はやはり不幸なままに生を取り戻した。そして、そんな彼女を――、
――黒い影が抱き上げた。
◆ ◆ ◆
「誰――なの?」
「影――ですよ」
回答はその影ではなく、少女の後ろに現れた一人の男より与えられた。
その男の名前は――マスク・ザ・ドS。愛しき想いで希望を断つ男。袋小路に立つ者を愛でる者。
「アレは私の――簡単に言うとスタンドやアルターの様なものでしてね。
ああやって禁止エリアの中にも自由に入り込めたりできるんですよ。理解できましたか?」
それと、忘れ物です――と言って、ドSはボマーの目の前に一本の『剣』を転がす。
ガランと楽器の様な音を立て、日を跳ね返して黄金に輝くそれは隠してきたはずの乖離剣・エアだった。
「生きた人間を使っての爆破実験とは……、さすがは『ボマー』と名乗られるだけのことはあります。
……ですが、ちょっとお優しすぎやしませんか?」
「何……ですって?」
突如現れた怪しい男に、ボマーは緊張を高め姿勢をそれとなく戦闘のためのものへと移す。
「あわよく死んでしまえば……いや、私の手で殺してしまおう。とは、優しすぎると言ったんです」
「……私があの子を殺そうと、してた?」
少なくとも変化を齎せるつもりではあった。そうでしょう? ――と、男は言う。
「私が『ここ』にいることで、彼女は死なずにすみましたが……、ええ本当に幸いなことです」
「――お前がっ!?」
その口振りに、ボマーは目の前の男こそがコ・ホンブックを堕とした張本人であると気付き、そして確信する。
「お前は、またあの子を――」
「ええ、そのつもりです。そして、人を奈落に落とし続けたあなたにも――本当の絶望というものをお見せいたしましょう」
――ひうんひうん。ひうんひうん。と、絶望が音を立てて少女達を包み込んだ。
◆ ◆ ◆
「持ち上げて――落とす。落とすために、持ち上げる。――セオリーですよね? ボマーさん」
暗い笑みを浮かべる男。それに寄り添う無言の影。
その背後には縛り上げられた不幸な少女。そして、彼らに対峙するのは贖罪の少女。
「では、この場合。どうすればより皆が不幸になれるのか?
皆――とは、勿論。私を含む、参加者全員のことです。
その場における幸不幸というのは、あまり重要ではない。重要なのは、全員が揃って絶望できるのかということ。
皆が皆、手を取り合って地獄の底に飛び込んでゆく――そんな方法を、私達は考えなくてはならない。
なぜなら――」
――それこそが、バトルロワイアルなのだから。
「では、不幸ってなんでしょう――?
死んだら不幸? ――違います。死なれたら不幸? ――それもまた違う。
私が思うに不幸とは、『途中』であることだと思います。
終わりでなく途中。途中を維持すること。中途半端なままになってしまうこと――それこそが不幸だと」
自分勝手に弁舌を振るう男を前に、贖罪の少女は動けないでいた。
気を呑まれたという訳ではない。単純に、物理的に動くことができないでいたのだ。
男の隣りに立つ影――仮面を被った女が操る鋼糸が彼女の皮膚の中に侵入し、神経の一本一本を絡め取っている。
激痛に苛まれながらも悲鳴を上げることもできず、ただ男の絶望論を聞かされ続けていた。
「不幸であることは幸せであることよりもなお幸せである。なにせ幸せでないのだから」
誰の言葉であろうか? 男はいくつもの矛盾を孕んだ言葉を嬉しそうに吐く。
「さぁ、では皆で手を取り合って仲良く奈落の穴へと飛び込もうではありませんか。
夢は見れても希望は無い。後悔はあっても懺悔は許されない。罰はあっても罪は無い。そんな世界へ――」
――絶望の世界へ、往こうじゃありませんか。
◆ ◆ ◆
再開された舞台。その上には再び少女だけが二人――。
「――おねーちゃんっ! おねーちゃんっ! な、な……っで、……んで? 行っちゃうの――?」
目を覚ましたコ・ホンブック。彼女の前で、彼女を救うはずだった少女はゆっくりと後ずさって行く。
恐怖に顔を引き攣らせ、おぞましいものを見る目つきで、涙を流し、ガクガクと震える足で遠ざかって行く。
無論。それは本意ではない。全ては舞台袖に控え、采配を振るう男の仕業である。
「待って! ねぇ……、ぅえ、……ぃやだ。――ッ! たすけて、くれるって……、いった。たすけてくれるって、いった……」
可哀相な少女は追いすがろうとする。だが、男の仕業により腱は断たれており、立ち上がることができない。
しかしそれでも、腕だけを使い、激痛を訴える胸と腹を地に擦り、救いを求めて這いずり進もうとする。
頭の中にはどのような考えも無く。謀などとは全く気付くこともなく。ひたすらに、ただ一生懸命に、救いを求めて。
「お願い、だからっ! ひっ……っく、は! み、みすてないで――ッ! おねーちゃんっ! おねーちゃんっ!」
後ずさる先は、先刻目の前の憐れな少女が飛び込んだ禁止エリア。そこで自分は死ぬとボマーは理解している。
だが、なんということか。男の言うとおり、今恐怖を感じているのは死ぬことにではない。
恐ろしいのは、――この子の目の前で死んでしまうということ。しかも、何も言い残せず。誤解されたままで。
「いやぁ――ッ! だめぇえぇぇぇええ――ッ! いっちゃいやだ――ッ! うわあぁぁああぁあん……!」
どれだけ足掻こうとも、どれだけ抵抗しようとも、少女と少女の間は縮まらない。ただ、少しずつ離れてゆくのみ。
一人の少女は、目の前に現れたたった一つの救いを意味も無く奪い取られ、
一人の少女は、何を成すことも無く全くの無為に死す事を強要されている。
望みを絶つと書いて――絶望。少女と少女の間に生まれかけた希望。それを踏み躙り、絶望先生は暗く哂う。
どうせなら、人形にされてしまうなら、耳も目も塞いでくれればよかったのにと贖罪の少女は思う。
そうならば、彼女の泣き顔を見ずにすんだのに。彼女の悲鳴を聞かずにすんだのに。
だが、これも全ては男の計算通りなのだと少女は悟る。これがあの男のやり口なのだと。
そうと言う資格はなかったかもしれないが、せめて一人は救いたかった――こう思わせるのも全部合わせて。
恐ろしい男だと、そう彼女が思った瞬間に、――頭が爆ぜた。
◆ ◆ ◆
「ひぎゃああぁぁぁあああぁぁ――ッ! おねえぇちゃあ――ん! いやだッ! やあぁあぁだあぁぁ――ッ!!」
独り残された少女は、訳も解らず泣き叫ぶ。
血を零すだけの皮袋となったそれに追い縋り、叫び、叫び、叫び、叫び、――泣いて、――啼く。
泣くことにも叫ぶことにも意味はない。少女は意味など考えてはいない。ただ泣き叫ぶだけだ。
だが、その涙に悪意を持って意味を与えようとする男がいる。
◆ ◆ ◆
「ご縁がありますね。コ・ホンブックさん」
不幸な少女の前に、再び風浦可符香の姿をした影が立つ。もう一度、今度はより深く少女を堕そうと……。
「――その人は。――あなたを助けようとしたので。――私が。――殺しました」
泣き腫らし、呆然とした顔を上げる少女へ、影は彼女が理解できるようゆっくりと言葉を区切り――ぶつける。
そして、ゆっくりと待つ。壊れた少女がその意味を解し、再び歪な心を転がし始めるまで。
「……ろした? おねーちゃんを、……ろした、の……?」
少女が言葉の意味を解するのに、どれぐらいの時間が過ぎたろうか……。
何時の間に陽は頂上へと昇っていた。
そして、その青い空に浮かぶ真っ白な太陽めがけて、真っ赤な螺旋が立ち昇る。
螺旋に紛れ、空にばら撒かれる黒い破片は、ドSの影だった者の成れの果てだ。
「……っく。ひぐ……っ。えっ、えぅ……」
不幸な少女は今度は自らの意思で剣を手に取った。これで、彼女の不幸は完成したのだろうか?
――いや、そうではない。こんなものでは、まだ足りない。これじゃあ、皆が不幸になるにはまだ足りない。
男は、不幸な少女をより美しく不吉な存在とすべく、自ら舞台の上へと立つ。
己の望みさえ断ち、この後誰も彼もが等しく不幸になれることを想い、自らを最後の供物とすべく――。
◆ ◆ ◆
おねーちゃんを殺したヤツを――恨みがあるからを殺した。では足りない。
誰も彼をも殺す。でなくてはならない。誰も彼をも問答無用で殺す。そんな化物。不幸の顕現でなくてはならない。
化物であり。化物と認められ。また自身も化物と認め。決して行く先の無い者。そんな者に仕上げてやらねばならぬ。
「――死ねっ、化物! 死ねっ、人殺し! いなくなれっ、化物! 消えてなくなれっ、人殺し!」
ひうんひうん。ひうんひうん。
鋼糸を振るい、男は少女の身体を削ぎ、血を流させ、骨を抉り、心を解体し、人であることを剥奪してゆく。
再生し続ける少女の身体をバラバラの部品に分解しながら、その隙間に悪意を流し込み丁寧に化物を仕上げてゆく。
絶望を抱えるだけの自我を保ちながらも、決してそこからは逃れられないような言霊を少女の魂に吹き込む。
己が不幸を呪い。人生を呪い。神を呪い。世界を呪い。敵を呪い。味方を呪い。隣人を呪い。そうでない者も呪う。
そんな恐ろしい化物に。そんな憐れな化物に。そんな可哀相な化物に。男は少女を組み替える。
◆ ◆ ◆
「(……次の放送には、間に合いましたか)」
腕に嵌めた時計を見れば、12時はもう目前だった。
マスク・ザ・ドSは視線を時計から外すと、今度は目の前のそれを感慨深げに見つめる。
そこにあったソレは、彼の理想通りの、醜く、身の毛も弥立つ様なおぞましい――化物だった。
「――それが、あなたの選択した答えなんですね」
再びその身の全てを曝した少女の片手にはあの黄金の剣が、そしてもう片方にはそれとそっくりな真白い剣があった。
自らを殺し、不幸な運命を刻みつけたソレこそが、彼女の攻撃性の象徴であり、自分を守るために選んだ武器だったのだ。
不幸な少女は目の前の者に対し、両方の剣を並べて突きつけその力を解放する。
破壊と復讐の衝動。怨みと呪いの疾風。苦痛と悔恨の波動。紅と白の暴風がドSを襲い、彼をこの世から居なくしてゆく。
「(――二本の螺旋剣から生まれる破壊の小宇宙はさながら、神砂嵐ではなく紙砂嵐といったところですか)」
死の淵に立ち己が存在の消滅を前に、男は絶望の微笑を顔に浮かべる。
彼の目の前。紅く怨念に満ちた死眼を持った少女だったもの。自分の作り上げたモノの美しさに満足する様に。
だが、その完全な完成形は決して見ることができない。なぜなら、それは彼の死を持って成されるからだ。
男はそれだけを未練にこの世から去ってゆく――、
「(私を殺しても、あなたは決して救われない。あなたは私を殺して、初めてその事に気付き、絶望するのです)」
――そして、化物が完成した。
頂上に登った太陽の下に、白くて小さい、決して救われ無いが――美しい。そんな化物が完成していた。
&color(red){【マスク・ザ・ドS@アニ2nd】死亡}
&color(red){【ボマー@LSロワ】死亡}
【昼】【F-8 市街地】
【コ・ホンブック@アニロワ2nd】
【状態】:不死者化、絶望、胸に12の傷(※)、腹に10の刺し傷(※)、
【装備】:乖離剣・エア@Fate、乖離剣・エア(白)
【道具】:なし
【思考】:
基本:生きているモノを呪う
1:殺す
※容姿はアニタ・キング@R.O.Dです。
※不死者化する前に出来た傷は治りません。ずっと、痛いままです。
※嵌めていた首輪は爆発してなくなりました。
【乖離剣・エア(白)】
絶望へと追い詰められたコ・ホンブックが、自分を護るために紙使いの力で作り出したエアの模造品。
威力や性能は本物と同様で、二本同時発動させることで奥義『紙砂嵐』を繰り出すことができる。
※紙砂嵐によって、近くにあったボマー、ドSの遺体や所持品は木っ端微塵に吹き飛びました。
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