課題図書:『エモーショナル・デザイン』

D.A. Norman 著, 岡本明・安村通晃・伊賀聡一郎・上野晶子共訳

要約

概要
『エモーショナル・デザイン』は、人間の認知と情動を科学的に理解することが製品のデザインにどのような影響を与えるのか、という著者の研究成果を書いたものである。

デザインの三つの側面
デザインには「本能レベル」、「行動レベル」、「内省レベル」という認知と情動システムの三つの側面がある。これまでモノのデザインでは本能レベルについてはあまり考慮されていなかった。しかし、真に受け入れられるモノをデザインするにはこの三つの側面すべてに対応しなければならない。

人間の脳の三つのレベル
人間の脳機能には本能レベル、行動レベル、内省レベルという三つのレベルがある。本能レベルは自動的で生来的な層であり、行動レベルは日常の行動を制御する脳の機能を含む部分であり、内省レベルは脳の熟慮する部分である。各レベルは人間の機能全体で異なる役割を演じている。そして、各レベルにはそれぞれ別のデザインスタイルが必要となる。

三つのデザインスタイル
人間の脳機能における三つのレベルを満たすためには、それに対応する本能的デザイン、行動的デザイン、内省的デザインという三つのデザインスタイルが必要となる。本能レベルを満たすためには、人間の本能に訴えかけるデザインにしなければならない。また、行動レベルを満たすためには、製品を使った時に喜びや効用が感じられるデザインにしなければならない。そして、内省レベルを満たすためには、製品のデザインが個人的に満足できるもの、自己イメージできるもの、思い出を呼び起こすものでなければならない。

認知と情動
本能レベル、行動レベル、内省レベルという三つの非常に異なった次元はどのようなデザインにも織り合わされている。これら三つのすべてなしにデザインすることはできない。しかしさらに重要なことは、これら三つの要素が情動と認知の両方に織り合わされているということである。情動は認知と切り離せない。認知は人を取り囲む世界を解釈し、理解する。一方、情動はそれについての迅速な判断ができるようにする。情動は認知において不可欠なものである。人間の行動や考えはすべて情動によって色づけられているのである。

情動について
人間は情動のおかげで、知性を行動に変えることができる。人間はポジティブな情動とネガティブな情動を持っている。そして、ポジティブな情動は私たちの人生をより良い方向に導き、ネガティブな情動は私たちを危険から遠ざけてくれる。しかし、機械は情動を持っていないので、知性を行動に変えることができない。そして、機械は情動を持たない限り人間とうまくやっていくことはできない。

情動を持つ機械
もっとも、技術は急速に発達するので、近い将来、機械も情動を持つようになるだろう。しかし、知的で情動を持つ機械は様々な困難を引き起こすことが予想される。そこで、私たちはこうした問題を今から考えておくことによって、問題が発生した時に素早く対処できるようにしておく必要がある。

インタラクションについて
私たちは人間やモノあるいは機械に対して特別な情動的感覚を持つ。そして、それから喜びが得られたとき、それが人生の一部となったとき、それとのインタラクションの仕方が社会や世界における自分の場所を決めるのに役立ったとき、私たちはそれを好きになる。デザインはこの方程式の一部なのである。私たちは人間、モノ、機械とのインタラクションによって、それらに対する満足を深め、さらに愛着を持つようになる。

整合性のあるフレームワーク
従来、デザインの問題は多種多様なレベルで語られていた。しかし、一見矛盾するようなテーマも本能、行動、内省の三つのレベルに基づいて考えることで一つの整合性のあるフレームワークにまとめることができる。そして、このフレームワークによって、デザインのプロセスと、製品の情動的なインパクトについて理解することが可能になるのである。

感想

デザインの美しさと使いやすさ
私は本書を読んで、モノをデザインする場合には、人間の本能に訴えかけるデザイン、使いやすいデザイン、そして、コミュニケーションを誘発するデザイン、それぞれ重要であり、どれかが他よりも重要であるというわけではないのだということを感じた。そして、デザインの美しさと使いやすさが両立可能だということを改めて実感した。

身の回りのモノたち
実際、身の回りを見ても、デザインの美しさと使いやすさが両立しているモノは多い。たとえば、私がいつも利用しているThunderbirdやFirefoxのアイコンは美しく、使いやすい。またブランド物の衣服はキレイで着心地が良い。さらに高級車はカッコよく、乗り心地が良い。この様に美しくて使いやすいモノが、私たちの社会には数多く存在している。

デザインが使いやすさに与える影響
また、私は本書を読み進める中で、世の中にはデザインが美しいからこそ、使いやすいと思われているモノが存在するのだと感じた。冷静になって考えれば決して使いやすいとは言えない製品が、デザインが美しいために、人々から使いやすいと感じられることがある。

iPhone
私はこの典型的な例がApple社のiPhoneだと考える。iPhoneは利用者に他社の電話機とは全く異なるボタン入力の方法を求めている。他社の電話機はユーザーにボタンをプッシュすることを求めている。それに対して、iPhoneはユーザーに対して液晶画面上のボタンをタッチしたり、スライドさせたりすることを求めている。こうしたボタン入力の方法は、既存の電話機に慣れた利用者にとっては使いやすいと言えない。

使いにくいはずのモノが使いやすく感じる時
しかし、iPhoneは他社の電話機に比べて美しいデザインを持っている。さらに、iPhoneの利用者はボタン入力をする度に画面が美しく変化する様子を見ることができる。ユーザーは電話機を楽しみながら利用することができる。その結果、彼らは本来、使いにくいはずの電話機を使いやすいと感じるようになるのである。

情動によって色づけられた世界
人間は情動によって自分たちを取り巻く世界に素早く反応することができる。一方で、認知によって世界を解釈し、理解している。私たちは情動によって色づけられた世界を認知しているのである。

情動的印象に基づく認知
人間はあらゆるモノに対して情動的に反応していると感じる。私たちはモノに対して第一印象を持つ。そして、この情動的印象に基づいてモノの特性を認知している。
私たちはモノを一度見ただけで、好きか嫌いかという情動を持つことができる。

ポジティブな情動とネガティブな情動
また、本能的に良いと感じたモノでも、使い勝手が悪いと感じた時には、そのモノに対してネガティブな情動を持つ。一方で、本能的に何の情動も起きないようなモノでも、使いやすいモノであれば、それに対してポジティブな情動を持つようになる。

愛着を感じるモノ
さらに、本能的に何の情動も起きず、使い勝手が良いといえないモノに対しても、それに愛着を持つことができれば、そのモノに対してポジティブな情動を持つようになる。

情動と認知
このように、私たちはあらゆるレベルでモノに対して情動的な反応を示す。そして、この情動に基づいてモノを認知している。また、この認知によってモノに対する情動的な態度が変化することもある。

デザインの役割
そして、人間のこうした情動的態度を変化させる上でデザインの役割が極めて重要なのだと私は考える。
人間の情動はモノに対して素早く反応することができる。モノの好き嫌いについての態度を即座に決定することができる。しかし、この情動はモノの本質を見落としてしまうことがある。

私の考える「エモーショナル・デザイン」
私は本書を読んで、「エモーショナル・デザイン」とは、偏見に満ちている人間の情動的態度を見極め、その態度に修正を迫ることを通じて、人間にモノの本質を認知させるように導くための手段なのだと感じた。つまり、「エモーショナル・デザイン」とは私たちを進むべき方向に正確に導いてくれるデザインである。私たちが見えていない世界を見せてくれるもの、それが「エモーショナル・デザイン」であると私は考える。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2009年07月05日 04:56