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captar2 MAIN 転 前編

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匿名ユーザー

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 死を恐怖する。
 それは人間誰もが抱く感情だ。
 考えれば考える程、底が見えない深淵のような概念。
 万物の中で絶対として定められた因果の終わり、決して理解できない概念、しかして、最も身近に潜んでいる概念。
 それが死だ。
 だから少女は死を憎んだ、そして死に抗おうとした、その先に救いがあると信じた。
 それは儚い願いの歌。


 全ての始まりはここからだ、ここで一つの物語は終わり、一つの物語は始まる。
 この物語は悪意に満ちている。
 この物語が黒峰潤也の物語である事、それ自体が悪意なのだ。
 黒峰潤也を救える人間は何処にもいない。


 ―では、全てを始めようじゃないか、兄弟!!―


CR capter2  The Nightmare THE MAIN STORY  転 ―神を目指す少女―








 第七機関第四区画セントラルシティの外れにある山岳地帯。
四肢を失いその胴の半分を山腹に埋めたリベジオンの中で黒峰潤也は己の耳を疑っていた。
 耳に慣れ親しんだ声と、この16年一度も忘れた事のない名前。
 そんなものをリベジオンの眼前にいるメタトロニウスと称される50mもの巨大な機械天使から聞いたのだ。
 それはもう決して聞けぬ筈のものであった。
 最初は疑った。
 これまで数機の鋼獣を倒してきた自分だ。
 なんらかの手段でUHの人間が自分が誰なのかを特定し、自分の精神を動揺させるような策なのではないかと思った。
 けれど、違った。
 メタトロニウスの胸部から現れたのは好き通るような純白のドレスに身を包み、白の長髪をたなびかせ、金色の眼にてこちらを見つめる少女。
 髪と目の色が自分の知っている少女とは別であった、だが、それ以外は全てそのものであった。
 少女はメタトロニウスの巨大な掌を歩き中指に立った。そこはリベジオンの胸部にある搭乗口の正面。そこで少女は己の前にいる機体の搭乗者が出てくるのを待とうとしているのだ。
 一瞬、咲と呼びかけそうになるのを堪えて潤也は頭を振った。
 確かに目の前にいる黒峰咲はほとんどがそのものだが、違いがある。
 少なくとも潤也の記憶の中にある黒峰咲という少女は流れるような黒髪と茶の入った黒い瞳をしていたのが特徴だった筈なのだ。
 それが白髪。
 だから、もしかすると同一人物では無いのかもしれない。
だが、潤也の中にはそう風貌に対する解答が一つ出来ていた。
CR-01という形式番号を持つ事から、リベジオンと同系統の機体なのではないだろうか?
つまりは自分のように機体にナノマシンを打ちこまれ、頭髪の色が変色している可能性があるという点だ。
 もし、あれがリベジオンと同じタイプの機体であるのならば、彼女が白髪であるという意味に対する解答もある事になる。
 だから、黒峰潤也は黒峰潤也であるが故に、その普通なら疑うような要因への答えも自分の中で出せてしまった。
 何度も、何度も、確かめるようにそのディスプレイ越しにその顔を見つめる。
 間違える筈が無い、何年一緒に同じ屋根の下で暮らしたと思っているのだ…あれは、間違いなく、黒峰咲なのだと・・・。

「うーん、呼びかけ失敗したかなぁー、ちょっと格好付けてみたんだけれど、逆に恐縮しちゃったとか?いーや、違う、違う。武士道精神に呼びかける!!っていうのを一度やってみたかったわけで・・・あー、ダグザ、今、私の事、馬鹿にしたでしょ!」

 そんな事を言って頬を膨らませる白髪の少女。
 潤也はリベジオンの胸部を開いて外に顔を出す。

「うーん、どうやって出てきてもらおうか・・・力づくでいくってのも華やかさが無いよなーって咲は思うんだよね・・・・・・・って、うわぁぁぁ!!い、いきなり出てこないでよね!!びっくりするじゃん、咲の魂が無数に飛び散ったよ!!・・・あ、あれ?嘘・・・。」

 白髪の少女は潤也を見て、目を大きく見開いた。
 目の前にいる人間が信じられない・・・お互いにそんな風な驚きの顔をしている。

「・・・咲なのか?」

 おそる、おそる、潤也は白髪の少女に尋ねる。

「―――お兄ちゃん?」

 自分の見ているものを少しずつ確かめ噛みしめるようにして呟いた後、

「お兄ちゃん・・・お兄ちゃぁぁぁぁん!!!」

そう言って目に涙を浮かべて少女はその巨大な指から助走を付けて潤也のいるリベジオンのコックピットに向けて飛んだ。

「なっ!!」

 潤也は慌てて少女に向けて手を伸ばす。
 メタトロニウスの中指から、リベジオンの胸部の搭乗口までおよそ15m程の距離がある。
 走り幅跳びの歴史上で見ても恐ろしく訓練をして限界値を引き出した上でなんとか9m飛べるかもしれないといった所だった筈だ、それが多少の高低差はあるとはいえ15m・・・とても少女一人の筋力で飛べるような距離では無い。
 7mの所で当たり前のように少女の飛躍は減速し、ついには飛ぶ際に得た上方への推力が重力に負け落下を開始する。

「さ、咲!!!」

 少女が落下を始めた事に顔を真っ青にして叫ぶ潤也。
 だが、少女は何もない空中でぴたりと止まり、また何かを足場にするようにして飛んだ。
 それを幾度も繰り返す。
 不可思議な光景だった、足場も無い、重力だけが支配する宙の筈なのに、少女はそれを完全に無視している。
 何もない所を何かあるように足場にして空中で何度も飛び跳ねた。
 そして「ばぁっ」と舌を出し、驚いた?というような顔をして、少女はリベジオンのコックピットに飛び乗った。

「な、何が・・・。」

 目の前で起こった物理を完全に無視するような現象に潤也は目を丸くする。
 これまで様々な闘いを経て、挙句の果て、怨念などという不可思議なものを力に変換する機体で闘ってきていた潤也であったが、それはあくまで黒峰潤也の理解が及ぶレベルの話であった。
 しかし、今、この少女がやった事には理屈がない、原理が無い。
 潤也は今、目の前にいるこの少女は、実は幽霊で、それが自分の瞳に映っているのではないか?と勘違いしたほどだ。
 そんな驚きを隠せない潤也の横で少女は潤也の肩に手を置いてにこりと笑う。

「とりあえず、お兄ちゃんに黒峰咲は一言、言いたい事があります。」

 そう言って少女は大きく呼吸をした後、左足を軸にして、肩から腰へと段階的に体重を移動させ勢いを付け、右回転、その右足を大きく上方に移動させる。

「生きてるんなら、さっさと連絡せんか、このバカ兄がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!」

少女が放った見事な流れの回し蹴りは潤也の頭部を横から打ち抜いた。
 意識が散ったが、それを繋ぎとめ潤也は膝を付きながら少女を見上げた。

「むしろそれはこっちの台詞だ!!こっちは本気で死んでたと思ってたんだぞ、大体、連絡ってなんだよ!」

 当然の疑問。
 潤也の発言に虚を突かれた少女は動きを止め、口に人差し指を当てて少し思考した後、何かに気付いたようにぽんと手を叩き、その後、呆れたというような目で潤也を見て、溜息を吐いた。

「お兄ちゃん、ネットは見た?兄を探してますって色んな電子掲示板に書き込んであった奴。『黒峰潤也、21歳、男のロリコン、特にゴスロリ大好き。趣味はポルノ雑誌を見ながらの淫行。危険人物なので、自分が退治しますからメールください』って新しいアカウントまでとって作ったアドレスを色んな所に書いて置いたんだけれど・・・。」
「――――――――そ、それは単なる荒らし行為だ!!それにお前は俺に一体、何の感情を抱いていれば、そんな訳のわからんことをするんだ。だいたいそんなの見て信じて、連絡する奴なんてこの世界の何処にいると思っている。このバカが!新規アカウントならばそんなもんただの悪戯にしか思わんだろうが!せめて俺の知ってるアドレスをかけよ。」

そもそも、家族の死が全て確認されたと、アテルラナから聞かされてからずっと潤也の関心はずっと鋼獣にあった。そんなもの見るような事がありえる筈も無い。

「バカの癖にバカって言ったな、この咲のこの世に二つとないスペシャルなアイディアをバカだって言ったな!天地翻り明日を穿つこのアイディアをバカといったな。」
「いや、なんか凄い事いっているようで、その実、意味不明になってるから。」
「・・・咲の言語はまだ人類には早すぎたのか・・・。」
「俺はそんな事を言う人間を人類とは決して認めん、大体、お前はいつも・・・いつも・・・」

 声が掠れて、潤也の頬に雫が流れる。黒峰咲と黒峰潤也の会話はいつもこんなものだった。
 わけのわからない、それでいて勢いだけはある会話、懐かしい感覚。
 それが、嬉しくて、目の前にいる少女の存在が心底嬉しくて――もう、自分になくなった筈だったそれが流れる。
 そして不安になる、自分が見ているのが幻影なんじゃないかと、リベジオンのあのシステムの影響で気がふれてしまって、まともな光景がもうこの目に映らなくなってしまっただけではないのかと…?

「咲・・・なんだよな・・・?本当に咲なんだよな・・・?」

 だから、そう問わずにはいられなかった。
 怖かった否定されたらどうしようか、もしこれが幻だったらどうしようか、そんな事ばかりを恐怖しながら潤也は少女の答えを待つ。
 少女は笑って、潤也の手を握り、

「大丈夫だよ、お兄ちゃん、ほら、お兄ちゃんのよく知る黒峰咲だよ。髪の色は変わっちゃったけれど・・・幽霊とかじゃないよ。」

 咲の手から使わってくる体温は潤也を安心させるにたるものだった。

「――――良かった・・・・・・生きててくれて・・・・・・本当に良かった。」

 その時、黒峰潤也はあの日以来、初めて神に感謝するようにして黒峰咲を抱きしめた。

「お、大げさだなぁー、大の男が泣いちゃって…それにちょっと痛いよ、お兄ちゃん。」

 力強く抱きしめる潤也に咲はちょっと困ったような顔をする。

「あ、ああ、すまない。」
「いつのまにか情けなくなっちゃってー、咲のお兄ちゃんっていうのはもうちょっと悪童だったと思うんだけれどなぁー。」
「いつの話だよ、それは…。」
「ふふ、お兄ちゃんは咲の事を生きてるって知らなかったみたいだけれど咲は知ってたんだよ。だって、咲はお兄ちゃんの念は見なかったんだもん。ダグザは咲が忘れているだけだなんて言うけれど、咲はあの日見た、念の一つ一つを全て覚えている。だから、知らないなんて事はありえない。つまりはさ、咲があの時、見てないって事はお兄ちゃんは生きているって事なんだよ。だから、お兄ちゃんは生きてるって咲にはわかってた。」
「――――ダグザ?」
「あー、そうだ、まだ紹介してなかったね、ダグザ、出ておいで・・・。」

 そう言って、潤也の腕から離れ、潤也から見て正面にいるメタトロニウスに手を振る。
 その光景に潤也はそれまで忘れていた、否、忘れようとしていた、現実を思い出させる。
 目の前にいる少女は、確かに黒峰咲だ。
 自身の実の妹。
 けれど、その妹がこのような山腹にやってきた手段は何だったか?
 そう目の前にいるこのメタトロニウスという規格外の巨躯を誇る機体なのだ。
 何故、こんなものの中から、咲が出てきた。
 この機体を操る人間にここまで連れてきて貰った、なるほどその可能性も――――いや、それは無い。
 何故ならば、黒峰咲は白髪だ。
 透き通るような白、黒峰潤也の髪と同じ白。
 それはこの特殊な鋼機、怨念機と呼ばれる特殊な鋼機のパイロットになった証明に他ならない。
 だから、もし、このメタトロニウスという機体が、リベジオンと同系統の機体ならば、あのDSGCシステムという使用者の精神を蝕むシステムを搭載しているという事に他ならないのではないか?
 つまりは咲はあの地獄のような体験を既に体験している?
 いや、それ以前に一体、何処で何時、咲はこの機体を手に入れたというのだ?
 次から次へ出る疑問が脳裏を駆け廻り、それによって出来る予想の数々に潤也は背筋に寒気を感じた。
 そんな潤也の気も知らず、咲は少しむすっと怒った顔をして、メタトロニウスを睨む。

「面倒くさいとか言って無いで出て来い、このボケ老犬!!飯抜くぞ!!!」

 メタトロニウスの背中が大きく開く。
50mに届く程の巨躯の機体の背が大きく展開するのである。
仰々しくありながら、神秘的なその光景に潤也は圧倒させられた。
そして、展開された背部から人の大きさ程あるのではないかと思わせる程、大きな犬が現れる。
体毛は白で、温厚さを感じさせる顔のハウンド、確か種名は―――――。

「アイリッシュ・ウルフハウンドだよ、昔、お兄ちゃんに図鑑で見せた事あったでしょ?」

そう咲に言われて潤也は思いだす。
 咲の犬好きにつき合う形で様々な犬の図鑑を見せられた事がある。
 全ての犬種の中でも最大の体高を持ち、勇敢かつ知的、かつて狼の天敵とされ、その脅威から人を守った狩猟犬。
 確か、図鑑で気にいっていた咲が、飼育が大変過ぎて飼えないと嘆いていたのを覚えている。
 しかし、あれが先ほどから咲が口にしていた『ダグザ』だというのだろうか?
 白い体毛の狩猟犬はメタトロニウスの肩まで駆け上がり、大きく欠伸をかいてその肩に寝転がった。 

「怠けるな~!ダグザ、それでもお前は狩猟犬かーーー!!」

 そう吠える咲に対して、ダグザはその瞳をだらけたように開いて口を開く、

「んな、ワシが生まれる前の事は知らんわい。はぁーめんどくさ、我が主よ、これ以上はワシは一歩も動かんからな…ちょっと歩いたら疲れたわい…。」

 その一声を聞いて、潤也は耳を疑った。
 先ほどから訳のわからない事ばかりが起こっているが、これはその極みだ。
 他に喋っている人間がいるのではないかと辺りを見渡すが生物らしい生物すらそこにはいない。
 当たり前だ、ほんの数分前まではここは戦場で、呪装解放によって周囲は破壊し尽くされているのだから…。
 だから、そこで声を発する事が出来る生物はここには黒峰潤也、黒峰咲、そしてそこにいるダグザという犬以外いない。
 つまりは、あの犬以外、あそこで喋る事が出来る者など存在しないという事なのである。
 驚く潤也を見て、してやったりと笑う咲。

「ふっふー、驚いたでしょ、あれが咲が飼ってるダグザ、人語を理解し、万物を生みだす釜の設計図を内包する所有者なのだよ。お兄ちゃんも怨念機を使ってるならば至宝についても知ってるでしょ?」
「―――至宝?」

 自慢げに言う咲。
その言葉の意味はわからないが、その言葉には心当たりがあった、何度かリベジオンが自己修復には至宝が必要だと潤也に訴えてきた事がある。
あの犬がその至宝というものなのだろうか?
確かに人語を喋る犬など前代未聞の生物ではあるが、あんな犬がこの鋼機を修復出来る能力をもっているようにはとてもではないが思えなかった。

「あれれー、お兄ちゃん至宝しらないの?てっきりお兄ちゃんの目的も至宝集めだと思ったんだけれど、だから、咲の同志たちのいる場所に現れてはそれを殺して回ってたんだと思ってたんだけれど・・・。」
「いや、そもそも名前しか聞いた事が―――――――――――同志?」

 『咲の同志』――その言葉をつぶやいた瞬間、潤也は言いようの無い寒気を感じた。
 この先に踏み込んではならない、この先を聞けば、二度と戻ってこれない、そんな予感。
 咲は変わらない笑顔を向けて、潤也に言う。

「うん、お兄ちゃん。お兄ちゃんがね、今まで倒してきた、えーと、こっち側ではなんて呼ばれてるんだっけ?」
「鋼獣じゃな。」

それとなくフォローを入れるダグザ。

「そうそう、それね、その鋼獣っていうのは咲が作ったの。」







―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


シミュレーション1。
 幹を作るのに必要なもの■■、炭■、■■、■■、■■■、リ■、■ル■■ム
 (略)
 それを用いて■■の作製を始める。
 ――――――成功。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「な、何を言っているんだ、お前は・・・。」
「正確には元々地下世界に死に体だったあの子達を大釜を使って強化と再生をしたんだけれどね、あとはー、その鋼獣あとは化石になってた奴を色々アレンジして再現したぐらいかなぁー。三獣神機っていうのはちょっと苦労してて、二機は使い物にならなかったけれど、一機はなんとか生きててね、今、復元中なんだよねー。アレ結構めんどくさい構造してるから復元するの時間かかってねぇ。」
「いや、だからお前は何を言っている!!!」

 背中に寒気のようなものを感じながら、震える声で潤也は咲に叫んだ。
 それに呆れたように咲は笑う。

「あのね、お兄ちゃん、人の話はちゃんと聞こうよ。お兄ちゃんが壊してきた鋼獣って咲がアンダーヘブンの遺跡から復元再生したものだって言ったの。」
「・・・嘘だ。」
「嘘じゃ無いよー、咲は嘘は付かない事が誇りなのだよ、ぐすっ。」

 そういっていじける咲。
咲が何を言っているか理解できなかった。
咲が鋼獣を再生した?
ならば、今まで自分が倒してきたあの敵は一体何だったのだ?
あれを咲が作った?だとしたらなんで咲が?
脅されて?いや、まて、そもそもそんな事がありえるはずがない。
なぜならば、黒峰潤也の知る黒峰咲はそんな知識など持ち合わせている筈がないのだから・・・。
だが、咲が嘘を言っているようにも潤也には思えなかった。
少なくとも潤也の知る黒峰咲は嘘を嫌う潔癖症なところがあり、ふざけながらも嘘は決して付かない事を本人も自慢にするような人間だったからだ。
おそらくは事実なのだろう。
ならば、一体この数ヶ月の間に、咲に何が起こったというのだ?


「咲、お前、1か月半前、俺と父さんと母さんとお前で旅行に行った事は覚えてるよな?」

 だから、それを知るためにも聞かざるおえなかった。
 その先に出てくる答えが怖い。

「当たり前じゃん、お兄ちゃんと咲でお金を貯めて、結婚記念日に旅行をプレゼントしたんだよね。」
「そうだ、それであの事件に俺たちは立ち会った。その事は覚えているか?」

 今、頭の中にあるいくつかの予想も、どれが当たっても信じたくないような酷い物ばかりだ。
 だが、聞かなければならい。
 もし妹が過ちを犯しているとするのならば、その道を正しい道へと導かなければならないのは兄の役目だからだ。


「あの事件?」

 咲が首をかしげた。

「第四区画ハナバラが・・・無くなった時のことだ。」
「あー、あの時の事か―。」

 きょとんとしていた咲が頷く。

「俺が知ってるのはあそこにいた人間のほとんどが死んで、父さんと母さんも死んだという事だ。そして咲、お前も死んだと思っていた。」
「えー、ひどいよ、お兄ちゃん。ほら、咲はピンピンだよ!!お父さんとお母さんは確かに咲が殺しちゃったけれど―――」

 一瞬、さも当たり前のよう語る咲が何を言っているのか?その言葉の意味を飲み込むのに時間がかかった、その後にその言葉の意味を飲み込むのを拒否しようとする忌避感が生まれる。
 聞いてはいけない、理解してはいけない、そんな事を感じさせる言葉。
 そうして立ち尽くす潤也を咲は見て驚いたように口に手を当てて、

「ん、あれ?お兄ちゃん知らない?お兄ちゃんの目の前でやった筈なんだけれど・・・。」
「な、何を・・・言っているんだ、さっきから・・・。」

 その可能性を考えていない訳ではなかった。
 これまでの言動からすれば、咲があのUHとつながりがあると明かされた時点でこの可能性は存在していた。
 けれど、これはあんまりだった。
 信じたくなかった、信じたくなどなかった、聞きたくなどなかった。

「お前の言う事は意味不明な事ばかりだ・・・鋼獣を作ったのがお前だとか・・・それに、お前が、父さんと母さんを殺したって・・・それは違うだろう?」

 否定されることを願い問いをかける。
 それに対して、咲はごめん、嘘、ちょっと酷い冗談だったねと笑うのだ。
 そして、自分は咲の頭をポンと叩いて叱る、そんな光景がこれから繰り広げられる、そんな未来を夢想する。

「本当、お父さんもお母さんも殺したのは私、ちなみにハナバラをあんな風にしたのも咲だったりするのですよ。」

 そして、それはいとも簡単に霧散した。

「は・・・はは・・・お前、いつからそんな性質の悪い冗談覚えたんだ・・・。」
「いや、やった本人の口から言っているから嘘も何もないでしょ、お兄ちゃん。ほら、咲は嘘つくのが大嫌いなのは知っているでしょ?」

 憐れむような瞳をする咲。
 それはまるで、自分の言っていることが真実なのだと、諭すように言っているように聞こえた。
 でも、もし、咲が言っていることが真実だとするならば、何故そんな平然としていられるんだ?

「だって、お前が、お前が父さんや母さんを殺す理由がないじゃないか!!」

 殺す理由がない。
 記憶に残る咲と父と母は仲が良かった。特に母は咲を溺愛しており、咲も母を敬愛していた。
 いつも自慢の母だと周りに言っていた。
 そんな人間を殺す理由などあるわけがない!!!

「・・・・・・理由ならあるよ。それにね、お兄ちゃんはお父さんやお母さんが死んじゃった事ぐらいで―――」
「ぐらいで・・・だと?お前、父さんや母さんが死んだことをぐらいと言ったのか?」

目の前にいる人間が、黒峰咲の皮をかぶった何かに見えた、化生が黒峰咲という人間の皮をまとい、咲の声で、そう告げている。
 少なくとも黒峰潤也の知る黒峰咲は命を尊ぶ人間だったのだ。
 普通の人間より死に多く触れて涙を流した彼女がそんな命を軽んじる発言をするのが信じられない。
 まるで、目の前にいる彼女は黒峰咲であって黒峰咲ではないような感覚。
 もし、あのメタトロニウスという巨大な白い機体にDSGCシステムが搭載されていて、それが咲の精神になんらかの影響を与えているのだとすれば、どこまで自分の知る咲は変質してしまっているのだろう?
 あれは死を見るシステムだ、気が狂わんばかりの死が目の前にリアルな実感を伴って再現され頭に叩き込まれる。
 その過程で死に対する意識が麻痺してしまっているとでもいうのだろうか?
 それを考えるだけで潤也は絶望に苛まれた。
 そんな潤也を咲は優しく抱擁する。

「ぐらいだよ、くすっ、お兄ちゃんはきっとまだ死が怖いんだね。でも大丈夫、咲がもう少しでそんな死なんてなかったことにしてあげるから・・・。」
「――――死をなかった事に・・・?」
「うん、なかったことにする。人間が、いや、最終的に全ての生物が死を超越できるようにする。死が無い世界を咲が作り上げてあげるから安心して・・・。」

 そう優しく囁く咲の抱擁を振りほどいて、潤也は狼狽した。

「ふざけるなよ、咲!死が無い世界だと?目を覚ませ、そんな世界はあるわけが――――――」

 そうやって叫ぶ潤也を見て咲は肩で息をつく、

「ねぇ、お兄ちゃん、至宝って知ってる?」
「――――至宝?」

 咲が先ほどあのメタトロニウスの肩にいる犬に向けていった言葉だったか・・・。
 何度かリベジオンの中でもそのキーワードを見たこともある。

「そう、至宝、神の頂きに至る為、人に与えられた万物に定められた絶対という法則を無視する至宝。世界にはね、そんなものが4つあるの・・・。」
「そんなファンタジーじみたものが――――」
「あるんだよ、お兄ちゃん、ほら、例えば、あそこにいるダグザだって、人語を理解しているでしょ、普通ならありえない話だよね、でもそれはありえている話なんだ。これはね至宝の力によるところなの。」

 潤也はダグザと呼ばれたアイリッシュウルフハウンドを見上げる。
 ダグザはメタトロニウスの肩の上で退屈そうに欠伸をあげていた。

「お兄ちゃんや咲が使ってる、この怨念機という機体もあるでしょ?これはね、至宝というものを扱うために作り上げた為のエンジンなの。至宝を扱うためには尋常じゃないエネルギーが必要にされる。そのエネルギーを供給しうるシステムとして発案されたのが、怨念機に搭載されたDSGCシステムというわけ。ほら、こういうと信憑性が出てこない?」
「だが、その至宝と死が無い世界を作るという話と何がリンクしている。」

 そう答えを急く潤也に咲は笑う。

「慌てない、慌てない、お兄ちゃんせっかちなのはまるで変ってないね。至宝はね、さっきも言ったようにこの世に定められた絶対を超越するものなの。例えばー、ちょっと待っててね。」

 そういって、咲は潤也の元から離れ、コックピットから飛ぶ。
 そして再び空中に着地した。
 先ほど同じ光景を見ながらも、潤也は驚きを隠せない。

「ふふふ、驚いてる。これがね、咲の持つ至宝『ダグザの大窯』の力だよ。」
「・・・・・・。」
「咲のダグザの大釜はね、この世に存在しる無から有は生み出せないという絶対を破る力を持ってるの。今、咲は何もないこの宙にある筈のない足場を作り上げている。無を有にしてね。あーでもこれだと視覚的に見えないからわかりづらいか・・・もっとわかりやすいのはー、ダグザ!!」
「―――ほいほい。」

 咲の呼びかけに気だるげにダグザは応答する。
 その瞬間、メタトロニウスが紅の光を放出し始めた。
 それが鎌に収束し、何かが鎌から吐き出されていく。
 そしてその吐き出されたモノを見て潤也は己の目を疑った。

「――――か、母さん。」

 そこには潤也の実の母、あの第四区画で死んだはずの母、黒峰恵がいた。



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  • 何という衝撃的展開…マジですか…… - 遅筆 2011-08-03 22:36:39

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