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ワイルドアイズ 第2話前

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2話

モーターの駆動音を響かせ、高速回転するチェーンソーの火花が装甲を削り、切断してゆく。
操縦室の中で、これまで破壊と略奪の限りを尽くしてきた賞金首「スクラッパー」は迫り来る死の恐怖に脅えていた。
町の住人を逃げ込んだ建物ごとナパームで焼き尽くした事もあった。
資源採掘施設の警備員や職員を、毒ガスを換気口に散布して皆殺しにし全てを奪った事もあった。
手向かってきたハンターを返り討ちにし、動けない棺おけと化したクルマの中で悲鳴をあげる操縦者ごと、
ゆっくり踏み潰してやった事もあった。
だが、いまは自分が殺されようとしている。 逃げ場所の無い、棺おけと化したクルマの中で。
120ミリ砲の直撃を受けても耐えうる重戦車の装甲は、度重なる攻撃の負荷に破られようとしている。
音は、もう目前数センチまで迫っていた。

『なぜだ! なぜこの俺が…!』

『お前が弱いからに決まってんだろ。 弱い奴と愚かな奴が殺されるんだ』

死を突きつけるその相手のクルマの無機質な細い目が赤いLED光を放ち、冷たい宣告を下す。
ついに装甲を突き破り、チェーンソーの刃は火花を伴なって操縦室内に進入した。
スクラッパーの断末魔の叫び声は、甲高い駆動音と肉と骨がミンチにされる不愉快な音に掻き消された。



汚れた海に汚れた雨が降り、

かつて多くの人々が住んでいた都市は破壊されて廃墟になっても、

やはり人は水から離れて生きる事が出来ないし、

文明の残り香を求めて廃墟になった都市に住み着こうとする

汚染された水を浄化装置を用いて飲用に耐えるようにし

廃墟の側に廃材をもちいたバラックを建て

生き残った僅かな機械技師が、旧時代の設備を復旧させる

そうして、人々はどうにか生を繋いでいた

町と町を行きかうトレーダーと呼ばれる交易商人が物流を維持し

危険な生物やマシーンと戦うハンターが町を守り

滅び行く世界の中でも、まだ人類は滅びに抗って生存しようとしていた



旧式のボルトアクション小銃の乾いた銃声が岩陰に響き、砂地の上を歩いていた自走型燃料輸送・補給ロボット…「ポリタンク」の脚部を撃ち抜く。
AIで制御されるマシーンの一種に分類されるこの機械は、灯油などを入れるポリタンクに数本の細い足を取り付けた
ちょっとユニークな形状をしているのが特徴で、荒野のあちこちで見かける事が出来る。
その習性は、どこからか燃料を補給し、それを荒野を徘徊しているマシーンや野良クルマに補給して、
またどこかに戻っていく、という物である。
大破壊によって文明が滅びた後も、数々のマシーンが動き続けている理由のひとつが、このポリタンクという補給装置の存在による。
そのポリタンクを仕留めた人物が小銃を構えたまま岩陰から出てきて、慎重に周囲を警戒しながら
砂の上でもがいているポリタンクに近づいていく。
脚を破壊されて転倒したポリタンクは、起き上がることもできないで居るようだ。
残った脚でぶざまに砂をかいている。
そのポリタンクを、旧式38口径リボルバーを取り出して残りの脚も撃ち抜くと、全く動かなくなったそれは
完全に単なるポリタンクだ。
燃料はたっぷりと入って約20リットル、単価で20チップにはなる稼ぎだ。
今の時代、燃料は(出所が不明なものであっても)貴重であり、どこでも需要がある。
その人物…ちょっと小柄で、ゴーグルつきの帽子を被って防弾コートを身につけた少年はポリタンクの取っ手の部分を掴んで
重そうに持ち上げると、岩陰に止めてあった自分のクルマ…バイククラスに種別される「モトラド」と呼ばれる
オフロードタイプの二輪車に向かう。
一仕事終えたというのに、浮かない顔だ。
…というのも、彼が最近逗留している「ラストスタンド」の町は、旧時代の石油採掘所と隣接する精製所の廃墟に作られた町で、
今でもそれなりに燃料を産出する事が出来る。
つまり、充分な供給があるので、買取の値段が安いのである。 ポリタンクを仕留めても、銃弾代を差し引けばさほど残らない。
せめて他の町に持っていけば多少は値は良くなるのだが、少年の所有しているモトラドでは燃料を運んでも、
半分以上をモトラドの移動用に消費してしまう。
稼ぎは少なく、ほとんど採算が取れないのだ。

「…他にボクに仕留められる獲物っていったら、殺人アメーバくらいのものだしなあ」

少年はポリタンクをモトラドの後部にくくりつけ、ため息を付きながらぼやく。
彼の職業は、トレーダーである。 商取引が専門であり、戦闘も狩猟も得意ではない。
焼きアメーバの材料となる軟体生物、「殺人アメーバ」は、荒野では重要なタンパク源でメジャーな食材だ。
その食用部位をぬめぬめ細胞と呼ぶが、これもどこに行っても必ず買い取ってもらえる。
だが最近は、駆け出しのハンターたちが誰も彼もアメーバを仕留めて売りに来るため、これも多少値段が下がっていた。
少年は、河岸を変えようかな、と考える。 もうちょっと、商売のしやすい町に移動するのだ。
もともと、ラストスタンドには別の商売で訪れたものだった。
だが、持ち込んだ商品の取引を終え、町で何かを仕入れて元の町に戻り、それを売ってお金にするという
いつも通りの商売手順を行おうとした時、彼は愕然とする。
この町には、燃料以外に売るものが殆ど無いのだ。
それはそうだ。 ラストスタンドの町は西部地方では主要な燃料の産地であり、西部中どころか遠く東部にまで燃料を輸出している。
その代わりに、他の町で作られた食糧や物資が持ち込まれる。 苦労して畑を耕さなくても、燃料と交換で手に入るのだ。
この町では採掘される燃料だけで、大部分の産業が成り立っているのである。
そして、少年のモトラドではそんなに大量の燃料を持ち運びできないのは先ほど説明したとおりだ。
大抵のトレーダーは大型の輸送トレーラーで町に訪れ、商品と燃料を交換して帰ってゆき、ラストスタンドは常にそういった
大型車や護衛のハンターたちの雑多なクルマでごった返しているのが日常の風景でもあった。
トレーダーという職業に就いていながらそれを全く知らなかった少年にも落ち度はある。
が、何も仕入れないで他の町に向かったとしても、それは燃料を消費しただけで商売にならない。
そんなこんなで、少年はここ数ヶ月ほどラストスタンドの町に足止めを食っているのであった。

そして少年が、わずかな生活資金を得るためにポリタンクを持ち帰って町へ戻ろうとモトラドにまたがった時、
国道99号線を砂煙を上げてラストスタンドの方向へと走ってくるクルマの集団を目にした。
軽戦車と戦車で構成されたその集団は、大昔の「ゾク」と呼ばれる違法暴走グループが掲げていた様な感じの
難しい表意文字が描かれた目立つ旗を立てた車両を先頭に、これまた喧しい…『パラリラパラリラ』とメロディを繰り返す
ヤンキーホーンの音を立てながら疾走している。
そして、その集団の様子にトレーダーの少年は見覚えがあった。

「…厄介ごとが起きそうな感じだ」

そう呟き、少年は少し迷うようなそぶりを見せた後モトラドのエンジンを始動させ、ゆっくりと町へと向かった。



ラストスタンドの町の酒場では、ひとつの熱い話題で沸き返っていた。
それはつい先日12000チップの高額の賞金首、人狩りと並んで悪名高き犯罪集団フラッグスの四天王の一人「スクラッパー」が殺されたという物だ。
果たしてどこの何と言うハンターがスクラッパーを倒したのかは全くわからない。
だが、ハンター達の相互扶助組織であり、仕事の依頼仲介や賞金首の手配などを引き受ける「ハンターオフィス」の
ラストスタンド支部の事務所では、既にスクラッパーを倒した証拠が持ち込まれ、賞金は受け取られたという情報が入っている。
確認しに行ったハンターは、スクラッパーの手配書には「討伐済み」の判が押されているのを見たが、
しかし誰がスクラッパーを仕留め、賞金を受け取ったのかという情報だけは公開されていなかった。
ただ一つわかるのは、オフィスに持ち込まれたというスクラッパーのクルマの残骸の状態だ。
両手両足を砲弾で破壊され、装甲を貫き操縦室に到達するほどに鋭利な刃物で切り裂かれた重戦車クラスのクルマの残骸は、
切り裂かれた装甲の削られ方の特徴から、とどめを刺した武装が大型チェーンソーであるという事が推測できる。
つまり、この謎のハンターのクルマはチェーンソーを装備しているという事になる。

こうなると、なおさらハンターの特定は難しい。
クルマの近接用武装は通常はバンパーやドーザーブレードの形でヴィークル形態に装着されているが、
大抵のタイプは武装展開時とは別の形に変形しているためスタンディングモードにならないと、クルマの外観から武装の詳細がわかることは無い。
大型のバンパーやドーザーを装備しているからといって、それがヒートソードであるのかハンマーであるのか判断する事は難しく、
パイルバンカーの様に内部に完全収納されていて、近接様武装を持っていることすら隠されているものすらある。
かと言って、街中でクルマの戦闘形態であるスタンディングモードのまま乗り回し、あまつさえ武装を展開しているハンターは流石に居ない。
ハンターオフィスや酒場にたむろするハンターの中の誰が、スクラッパーを倒した「チェーンソー装備のクルマの持ち主」なのかはわからないと言う事だ。

そんな話で互いに、謎のハンターの正体について語り合うハンターやソルジャーたちの喧騒を他所に、
ひとりの若い…少年と言ってもいい年齢のハンターが一人、カウンター席の隅の方で安酒…ぶっとびハイを静かに飲んでいた。
背はやや低く、体は肥満気味で、顔にはニキビだらけというあまり見栄えの良くない彼はいかにも駆け出しで
金策に苦労しているという印象が外見や、腰のベルトに差した古びたナイフと足元に立てかけた旧式散弾銃といった装備からも滲み出ている。
そんな彼に、常連客からも人気のこの酒場のウェイトレスである女性が近づいて話しかけた。

「どうしたのキリオくん、そんな暗い顔してお酒なんか飲んで。 他のお客さんたちみたいに、「謎のハンター」のお話して盛り上がらないのかな?」

長い黒髪が綺麗で艶があると評判の年上の女性に話しかけられ、キリオと呼ばれた少年はコップの中の氷を
カラカラと回しながら詰まらなさそうな顔で答える。

「どうせ俺には関係の無い話だろ。
毎日毎日アメーバ狩って酒場に納品して日銭を稼いで、やっと暮らしてるようなハンターには賞金首の討伐なんて
雲の上みたいな遠い世界だ」

「あら、でもキリオくんが持ってきてくれるぬめぬめ細胞、他のハンターさんより上質じゃない。
それってキリオくんの腕が、他の人よりはちょっとは良いからでしょ?
キリオくんだってクルマを持ってるんだから、頑張れば今よりもう少し稼げるようになると思うんだけどなあ…?」

そう言って多少の励ましの言葉をかけるウェイトレスの彼女の言葉にも、キリオは自嘲気味の笑みを浮かべながら
ネガティブな回答しか返さなかった。

「ジープと装甲車の合いの子みたいなハーフトラックじゃ、大したものは狩れないぜ。
クルマを持ってても砲弾代が勿体無いから機銃で倒せるようなモンスターしか相手にできない。
修理代も、遠出する燃料代も無い。 毎日地道に小銭を稼いで、稼いでるうちに人生を終えるのが大抵のハンターなんだよ。
あの連中も、」

と、キリオはアゴで酒場で話題に興じる大勢のハンターたちを指し示す。

「別に自分がスクラッパーを仕留めた訳でも無いってのに、夢中になってあれこれ想像を膨らませてやがる。
しかも話の半分は、やれ賞金の使い道は、だとか、それだけあれば新しい特殊兵装が買える、宿の一番いい部屋に泊まれるだの…
よくもまあ、自分の事でもないものに熱中できるもんだ。
羨望か憧れかは知らないが、そんな夢を見るくらいだったら明日の自分の食い扶持を心配しろってんだ」

キリオは、いかにもハンターを志したはいいが現実の壁の前に打ちひしがれる若者、といった様子で
愚痴に近い言葉を吐き、コップの中の酒を一息に飲み干した。 氷がカランという音を立てる。
そんなキリオにも彼女は優しい表情と言葉を向ける。

「でもさ、キリオくんぐらいの年齢でハンターになって、クルマも持ってる子なんてそうそう居ないんだから。
キリオくんは才能もあるし、運にも恵まれてるってことよ? きっとキリオくんは大成する。
お姉さんが保障するわ。 そしたら、うちのお店で高いお酒を注文してね?」

ウェイトレスの女性はそうキリオを励ますとテーブルを離れてカウンターに向かった。
キリオは女性の後姿を視線で見送ると、自嘲げに口を歪める。
ちょうどその時、耳障りな大量のエンジン音と、路面を踏みしめる重厚なキャタピラ音と共に
表の駐車場に複数のクルマが入ってきて、止まる。
酒場の全員が注目するなか、入り口の扉を開けて10数人の武装した男たちが笑い声を上げながら騒々しく入店してきた。
鋲を打ったりスパイクを取り付け、チェーンをぶら下げた攻撃的な装飾のレザージャケットを身にまとい、
ガラの悪そうな人相の男を先頭にした男たちは、どいつもこいつもやはり荒くれ者、札付きのワルといった印象を受ける風体の者ばかりだ。
格好もそれがユニフォームでもあるのか、全員が似たり寄ったりで拳銃をジーンズのベルトに無造作に突っ込んだり、
小銃や対戦車ライフルを担いでいる。
ハンターとソルジャーの集団グループであるらしく、そしてそれを示すように全員が同じ模様の腕章を身につけていた。
彼らを見た客の誰かが言った。

「ザマル一家…! ハンターでありながら賞金首の、ザマル一家だ!」

ザマル一家と呼ばれたその男たちは、酒場の真ん中のテーブルに目をつけてそこへ向かうと先に座っていた客たちを
睨みつけ、脅して席を強引に譲らせて悠々と座る。
あぶれたほかのメンバーも、同様に周辺の席を奪って座り、酒の注文を始めた。
が、文句を言う人間も咎める人間もおらず、なるべく彼らから顔を合わせまいと視線を背ける。
というのも、彼らザマル一家の悪名はそれなりに知られており、大勢と言う事もあって面と向かって喧嘩を売れる人間はそういないからだ。
その一家の頭目、ザマルという男が、先頭を歩いて入店してきたあの男である。
彼はハンターであり戦車クラスを所有するほどの腕を持つベテランとして知られているが、本人曰くちょっと
「景気よくやり過ぎる」ために幾つかの第2級器物破損罪と恐喝罪、強制誘拐略取などに問われ賞金がかけられている
曰くつきの悪党でもある。
そして、彼の子分格として付き従う男たちも、ハンターとしては柄の悪く大なり小なりの犯罪で似たような経歴の持ち主だ。
一家全員にかけられた賞金の総額は10000チップにもなる。
ハンターでなおかつ賞金首というのは昨今の荒野では珍しくもない。
しょせんは人間である以上、程度の差はあれ善人も悪人もいるのだ。
ならず者やお尋ね者、モンスターから町や人々を守るために戦う使命感に溢れている者もいるし、
単にそれによって得る名声や尊敬、地位が目当てという者もいる。
また、賞金が得られればそれでいい、稼ぎが優先であり、世のため人のためではないという考えの者もいる。
そしてまた、町の自治行政組織も、ハンターオフィスも、賞金首やモンスターと戦ってくれるなら
一部の素行の悪いハンターが一方で治安を乱す要因にもなっていることを、必要悪と見なして黙認している現実もある。
そのため、時折ザマルのようなハンターと悪党の両方の肩書きを持っている人間も現われるのだ。

ザマルは酒の入った杯を掲げると大声で子分たちにだけでなく、酒場の客全員に聞こえよがしに叫んだ。

「てめえら好きに飲んで食って騒ぎな! この俺様が「スクラッパー」を倒した祝いの酒だ!!」

それを聞いて、いったんザマル一家たちのテーブルから視線を逸らしていた人々が、ザマルに注目した。
今話題の、スクラッパーを倒した謎のハンターが自分であると公言したのだから。
ザマルは酒場を見回して客たちの驚いた表情を眺めやると、ニヤリと笑った。

「なんだあ? 信じられねえってのか? 無理もねえな!
あの「スクラッパー」も今まで何人ものハンターを返り討ちにした賞金首だ。
だが、しょせん俺様の敵じゃあなかった。 嘘だと思うなら見てみな!!
俺のクルマに、奴を切り刻んだ証拠のチェーンソーが、装備されているからな!!」

そう言ってザマルが杯を持ったままの手で指し示す、駐車場に止められたザマルのクルマ…
戦車クラス、車種は重戦車とも互角に渡り合える高性能を誇るパンターG。
主砲に88ミリ砲と13ミリ機銃を備え特殊兵装として焼夷弾発射器ナパームボンバーと放電兵器サンダーストームを
装備した重武装の車体前部には、いかにも最近追加されたと言わんばかりのやけにピカピカの大型チェーンソーが、
これまた急造の間に合わせのような感じでくっ付けられている。

それを見た者達の少なくない数が内心で胡散臭さと嘘っぽさと、そして「何で外部にそのまま直接取り付けてんだよ」と突っ込みたくなる衝動を覚えたものの、あえて口に出すような下手なことはしなかった。
もし異論や疑問を挟めば、ザマルとその子分たちが黙っては居ないだろうことは容易に予測できたからだ。
触らぬ神に祟り無しとばかり、ザマルとその子分たちのスクラッパーを倒したという「自称」を受け入れる。
だが、酒場の客たちの中でただ一人、フン、と鼻で笑ったものがいた。
別に聞こえるような声量ではなかったものの、運悪くと言うべきか、それはザマルの耳に入った。

「…なんだ小僧。 てめぇ、俺様がフカシこいてるとでも思ってんのか?
あぁ? それとも舐めてんのか? この俺様を誰だと思ってんだ?
ザマル一家の頭領、18人の子分と12台のクルマ軍団を率いるこの俺様を、よ?」

鼻で笑ったその少年、キリオをザマルはいかにも不機嫌といった表情で睨みつけ、ツカツカを歩み寄って
キリオの胸倉を掴んで強引に立たせる。
その両脇には、ザマルの子分たちがニヤニヤという薄ら笑いを浮かべて立っていた。



酒場の扉を突き破る勢いで投げ飛ばされ、キリオは駐車場に転がされた。
既にザマルの子分たちに何度となく殴られ、蹴られるなどして暴行を加えられ、顔のあちこちが腫れ上がって痣ができている。
殴られたのは顔だけではなく胸や腹もだったが、不幸中の幸いというべきは歯も骨も折られた箇所はなかった所だ。
キリオはゆっくりと立ち上がり、転がされた時に口の中に入った砂ごと、血交じりの唾をベッと吐いた。

「…随分手酷くやられたね。 またいらない薮をつついて、殴り合って勝てない相手を怒らせたのかい?」

酒場の扉のすぐ近くにバイクを止めて寄りかかり、酒場の中の様子を、キリオが集団に一方的に殴られ続けるのを見ていた
トレーダーの少年が声を掛けてきた。
キリオとは顔なじみであるらしい。
その声の調子と向ける表情には、多少の、痛めつけられたキリオの身を案じる気遣いが含まれていた。

「こんなん怪我のうちにも入らねえ。 俺は慣れてんだ。
それよりリッカ、お前は何で中に入らないで熱い外なんかで突っ立ってんだ?」

リッカと呼ばれたトレーダーの少年は一つため息をついてその質問に答える。

「仕留めたポリタンクを売って、酒場で一杯飲んで涼んでいこうと思ったら、賞金首のザマル一家が来ていて
しかも、君が殴られてるじゃないか。 とても入っていってゆっくり冷たいものを注文できる空気じゃないよ。
それに、あんな乱暴者の札付きのワルが騒いでいたんじゃお酒が不味くなる。
彼らが出て行くまで待つしかないんだ」

とんだ災難だね、と両の手で「やれやれ」のジェスチャーをするリッカにキリオは「そうかよ」と短く返す。
そして、駐車場に止めてあるザマル一家たちの戦車を眺め、酒場の方を振り返って一家が酒を浴びるように飲みながら
盛り上がっているのを確認すると、ニヤリとした笑みを浮かべた。
その顔を見たリッカがまたひとつため息をつく。

「相変わらずだね、キミは。 そうやって自分に嘘をついて殴られてもやり返さず、後から姑息な仕返しを企むだけなのかい?」

「ほうっとけ、クソが。 大人数に正面から挑むマヌケがいるかよ」

「たまには負けると判ってても正々堂々と立ち向かうべきなんじゃないかな? 男らしく…
まあ、そんな気骨のあるハンターはこの街にいないか」

リッカはどこか諦観した表情でキリオと、酒場の喧騒を交互に見比べて苦笑いの表情を顔に浮かべ、
キリオはフン、と鼻を鳴らして懐に手をやると、ザマル一家のクルマに向かってゆっくりと歩いていった。




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