――――それは夏の暑い夜。
あたしは自分の部屋に入ったその瞬間、“その匂い”に気付いた。
それと同時に、部屋の中央、明かりの消えた真っ暗闇の中で…何かが蠢いた。
ソレは、大きな丸いものを……例えるなら『人の頭ほどの大きさの何か』を鷲掴みにし…
ソイツは……黒い貌の“何か”は…鋭い牙を突き刺し、食い千切り、その中身を貪り喰っていた…
ごくごくと―――
ごくごくとその液体を飲んでいた。
飲み込む以上の赤い水を、ソレは両目からこぼしていた。
だから足りない。
幾ら飲んでも満たされない。
「キ、キキ、キキキキキ……………!」
赤い涙を流しながらソレは笑った。
黒翼がはためく。
黒い眼がにじり寄る。
ぼたぼたと赤い液体が零れていく。
「………………………」
あたしは無言でソレに歩み寄ると…………
その後頭部に向けて、テーブルの上の手帳を思いっきりぶん投げた。
「スイカくらい普通に食べなさいよっ!!」
ある夏の、暑い夜の事だった……
最終更新:2009年01月18日 00:02