ゼロの白猫 07


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「い゛っーーー!?」
「動くんじゃないよ? 怪しい動きをしたら即座に殺す。全員杖を捨てな」

 腕を極められた激痛に喘ぐルイズに酷薄な声をかける。未だ自分が置かれた状況を理解し切れていない、呆然とした瞳で見上げてくるルイズに、無慈悲な冷笑を返してやった。
 そこまできてようやく全員状況を飲み込めたらしい。だが、もう遅い。

「あなたが、フーケだったのね……!」
「ご名答。ちょっとばかり答えを出すのが遅かったようだね」

 もはや学院で見せていた作り笑いを見せ続ける必要も無い。歯噛みするメイジ三人だが、ルイズを人質に取られてしまっては迂闊な行動は不可能である。やむを得ず、言われたとおりに杖を捨てた。

「なんで、学院に戻ってきたのよ……!? とっとと逃げれば良かったじゃない!」
「なに、間抜けな話さ。せっかく手に入れた破壊の杖だってのに、使い方は分からない、ディテクトマジックにも反応しないと来たもんだ」
「だから、使い方を確かめるために……!?」
「そういうこと。偽物を掴まされたかもしれないとも思ってね。学院の誰かなら知っているんじゃないかと思ったけど、まさか使い魔が知っているとは思わなかったよ」

 フーケは杖をルイズに突きつけたまま、油断なくレンへと視線を向ける。

「そこの白い奴。お前、この破壊の杖の使い方を知っているのかい?」
「いいえ」
「これが何かは知っているんだろう? 言いな」

 と、フーケはルイズの首にぐりっと杖をめり込ませる。ルイズは痛みと怒りで般若のような顔になっていた。
 先程、ルイズを助けた際に聞こえた会話では、この白い幼女は破壊の杖の正体を知っているようなことをほのめかしていた。どんなものかさえ判れば、使い方を推測することはできるはず。もし判らなくても効果さえ知れれば売る方法はある。それがフーケの考えだった。

「別に言う必要もないでしょ」

 だが、レンはフーケの予想とは反対の方向に動いた。ルイズを無視するように一歩、踏み出してきたのだ。

「何してるのよ!?」

 悲鳴のような金切り声を上げたのはキュルケである。フーケは顔をしかめた。

「本気かい? あんたのご主人様がどうなっても良いって言うの?」
「人質を取るって、あまり賢い手段と思えないのよね。だって危険にさらされるのは人質と加害者でしょ? 仕掛ける側には全くリスクが無い」

 こちらの言葉を無視しながら、一歩、また一歩とレンはこちらへ近づいてくる。人質をまるで気にしていないような行いに、フーケの心に焦りが浮かぶ。

「それ以上近寄るんじゃないよ! もう呪文は唱え終わってるんだ! あんたのご主人様が死ぬよ!?」

 このエルフもどきが先程ルイズ救出のために動いたのは間違いない。なのに何故、今回はまるで主人の無事に頓着せず、平然と自分へ向かって歩いてくるのか。

「あら、私はマスターの事を思ってやっているのよ?」
「どこを取ったらそうなるんだい!?」
「この任務の肝は『フーケの討伐』と『破壊の杖』の奪還。せっかくマスターが両方の目的達成のチャンスを作ってくれてるんだから、これを見逃すほうが使い魔失格よ。ねえルイズ?」

 ウィンクをルイズにしながら飄々と答えるレン。ルイズは使い魔に見捨てられて呆然としているようだ。
 もうレンとフーケの距離は数歩分まで近づいていた。フーケは背中に流れる汗を感じる。有利なのは自分のはずなのに、まるで自分が追い詰められているようだ。
 自分の判断ミスに内心舌打ちする。今、ルイズに向かって魔法を放った場合、その隙をこの使い魔に襲われるだろう。もっと早く行動を起こすべきだったのだ。

「それと、一つ申し上げておきますが」

 す、とレンが口元に人差し指を当て、笑みを深める。

「私、残酷でしてよ?」

 その言葉を聴いた瞬間。
 頭をハンマーで殴られたような衝撃が走った。

「―――がっ!?」

 いや、殴られたわけではない。感じるのは痛みではなく、凄まじい眠気。

(しまった―――!?)

 フーケは自分の考えの浅さを呪った。目の前の白い奴が先住魔法の使い手だということは、昨日学院で変身を見た時から知っていたのに。自分に気付かぬように魔法を使えること位、何故想定できなかったのか――!
 膝が折れる。ルイズを掴んでいるのかもあやふやだ。ぐらぐらと揺れる視界が、勝手に閉じる瞼で狭まってゆく。

(こんな、所で……!)

 何とか気力を振り絞り、杖を前方へと向け、魔法を発動させようとする。もう視界はほとんど闇。何処に誰が居るかも分からない。
 それでも闇雲に魔法を使おうとした所で、足首に衝撃が走った。最早フーケには体勢を維持するだけの力も残っておらず、最後に土の感触を顔に感じて意識が途切れた。



「はい、おしまい」

 くずおれたフーケは追い討ちに足払いを掛けられ、顔面から倒れこんだ。起き上がる気配はない。魔眼とやらを発動させたのだろう。便利な能力だ。
 レンは爪先でフーケの頭をつついている。完全にオチているのを確認すると、レンはルイズへと向き直った。

「よく暴れなかったわね。そこだけはありがたかったわ」
「……目で合図してたのはあんたじゃない」
「ちゃんと気付いてたのね。上出来よ」

 レンが主人の安否を気遣わずにこちらに向かって歩いてきた時は、ありったけの罵詈雑言を放ってやろうと思った。だが、こちらへウィンクしてきたときに思い出したのだ。こいつは確か、目を合わせることで相手を眠らせることができると。
 手を差し伸べてくるレンの手を掴んで立ち上がる。その時睨んでやったが、レンは動じた様子も無く、いつもの微笑をルイズへ返してくるだけだった。

「任務完了ね。さっさと帰りましょうか」

 そう言って元来た道へと向かおうとしたレンに、険しい顔のキュルケが立ちふさがる。

「あら、どうかしましたか?」
「あなた、ルイズを見捨てる気だったの?」
「さあ、どうでしょう?」
「誤魔化さないで! 苦し紛れにでもルイズが攻撃されてたらどうするつもりだったのよ!?」

 ヒステリーのように叫ぶキュルケを冷めた顔になって見返すレン。
 何の説明もされていないキュルケやタバサには、レンの行動が主人を見放して動いたように見えたらしい。
 レンの能力をルイズは説明しようとするが、それより早くレンが口を開いた。

「あの場で人質が通用すると思われる方が問題よ。ルイズを盾にして『破壊の杖』の正体を話させて、用済みになったら皆殺し。フーケが考えてたのはそんなところでしょ。自分たちに危険が及ばなかったんだから良しとしなさいな」

 確かに、フーケの正体を知った自分たちを五体満足で学院に返したとは思えない。
 それでも、先程のやり取りはキュルケにとって見過ごせるものではなかったらしい。怒りを隠さずにレンへ反論しようとする。

「けど「そういう貴女はどうするつもりだったの? フーケに命令されて言われるがまま杖を捨てて降参して、全部終わった後で他人の批判? 判断も考え方もお子様ね」

 キュルケの言葉は、レンの彼女をなじる言葉にかき消された。レンの言葉で、キュルケの顔が激怒と形容する他無い程に歪んむ。怒りの炎を放つべく杖をレンに向ける。

「よしなさいってばキュルケ! この子は最初から私を助けられる算段があったの!」

 ルイズはレンの前へ跳びだして言った。

「この子の眼は特別なの。目を合わせたらそいつを眠らせる能力を持ってるのよ。さっきの言い回しは自分にフーケの眼を向けさせるためでしょ」

 確かに最初は自分もレンへの怒りが合った。けれど、その怒りが向けられるべきはレンではなく、ルイズ自身だと理解していた。
 主人が庇ったことで、納得いかないような顔だが、キュルケが杖を下ろす。レンを助けたルイズの行動に、しかしレンは渋面を返した。

「ルイズ、余計なこと言わないでよ」
「あんたがキュルケを挑発するからでしょ! 余計な事って何よ!」
「切り札の存在をバラしてほしくなかったってことよ。因縁があるんでしょ、キュルケとは」

 そういえば、召喚した翌日にそんなことを言った気がする。けれど、彼女は今、自分の身を案じてくれていたのだ。そして怒ってくれたのだ。その相手に敵対するような発言などしたくなかったし、レンにもしてほしくなかった。
 主の想いなど知らないとばかりに、レンはそっぽを向くと歩き出した。

「いい加減疲れたわ。早く帰りましょ」

 一人ですたすたと元来た道へと戻っていくレン。ルイズたちも帰途へ向かう準備をするが、その場の全員の気持ちに何かもやもやしたものが残った。



 ロングビルことフーケは、両手両足をロープできつく縛った上、万が一を考えて猿轡を噛ませていた。未だ眠ったままだが、これならば目を覚ましても抵抗できないだろう。
 馬車の手綱を握るのはタバサである。御車役だったフーケを拘束して転がしているのだから仕方あるまい。
 レンはさっさと猫になろうとしていたようだが、そうなる前にルイズは、

「まだ猫になっちゃ駄目。聞きたいことがあるんだから」

 と釘をさした。その時のレンは大いに不満そうだった。そして馬車が学院へ向かう途中、レンへの質問会が始まっていたのである。

「レン、あなたどうやってゴーレムを消したの?」
「そうよ、あんなことまでできるなんて聞いてないわよ? 何が『戦いは得意じゃない』よ」
「嘘は言ってないわよ。本当に戦うことは専門じゃないもの。緊急の時だけよ。特にさっきのはね。すごく魔力を消費するんだから、もう眠らせてよ……」

 くああ、と抑え切れないあくびをしながらレンは言う。あのゴーレムを消すのはやはり大技だったらしい。レンの目は半分閉じかかっている。今にも夢の世界へ旅たちそうだ。

「ねえ、この『破壊の杖』って一体何なの?」
「私も聞きたいわね。さっきルイズが振ってたけど何も起こらなかったし」

 オスマンが秘蔵しながらも、使い方が分からないマジックアイテム。フーケは学院の教師たちに期待していたようだが、果たして教師たちも知っていたのかどうか。
 レンは眠たそうに目をこすりながら、ぼんやりした瞳で呟くように言った。

「鉄砲って言って何か分かる?」

 唐突に話が飛んだ。脈絡の無さにきょとんとする二人だが、記憶の中の『鉄砲』を思い出してレンに答える。

「平民が使う武器でしょ? 火薬で金属の玉を飛ばすらしいけど」
「え? まさかこれが鉄砲だって言うの?」
「その一種よ」

 淀みなく言われたレンの答えに、しばらくルイズとキュルケは返事をすることを忘れていた。たっぷり数秒は経った後。

「「嘘でしょ!?」」

 ルイズとキュルケの声が重なる。タバサまで興味を引かれたのか、振り返って『破壊の杖』を見ていた。
 確かにこの鉄の筒は、魔法の杖には見えないが、銃にはもっと見えない。弾を込める穴も空いてないし、手に持つ為のグリップも見当たらない。
 第一、本当に銃だというのなら、何故メイジであるオスマンが所有し、また秘法として保管していたのか分からない。

「信じられないなら学院長にでも聞いてみたら? 持ち主なら色々知ってるでしょ」

 どうでも良さそうに応じていたレンだが、何かを思い出したのか、ルイズに向き直って言った。

「そうそうルイズ。 戻ったら学院長から『破壊の杖』の入手経路を聞いておいて」
「何でよ?」
「それは私が居た所にあった武器だもの。入手先が分かれば元の世界への手がかりになるかもしれないわ」
「何、元の世界って?」
「私の故郷よ。随分遠くから召喚されたから、帰る手段を探してもらってるの」

 突っ込んでくるキュルケにさらっと答えるレン。嘘は言っていないが、大事な部分はぼかしている。この会話スタイルがレンのやり方なのだろう、とルイズは理解した。

「もう限界。寝るわ」

 その言葉と共に、レンは一瞬で猫の姿になった。白い毛玉状態である。完全に熟睡していた。

「……ルイズ、あなた変わった使い魔を召喚したわねえ」
「うっさい」

 正直、まだまだ聞きたい事はあったが、今は眠らせてやる事にした。レンも確かに疲れたのだろう、あんなゴーレムを相手にしたのだから。続きはまた夢の中で聞いてやろう。
 ルイズは、今回頑張った慰労の想いを込めて、ゆっくりとレンの背中を撫でてやるのだった。

「それからあんたたち。この子が人間になれたり、先住魔法を使えたりすることは黙ってなさいよ」
「あら、何で? ゼロのルイズの使い魔がそんなすごい奴だと分かれば皆見直すんじゃないの?」
「この子、ちょっと珍しすぎるでしょ。下手したらアカデミーとかに連れて行かれるかもしれないもの。だから黙ってて」
「う~~ん、どうしようかしらね~~?」

 わざとらしく迷うような声をあげるキュルケ。ルイズは、こいつ絶対何か吹っかけてくる気だと、次のキュルケの答えを警戒した。

「言わない」

 だが、キュルケよりも早く、馬車の運転に専念していたはずのタバサが答えてきた。

「あ、ありがとう、タバサ」
「いい」

 それで話は終わりだ、とばかりにタバサは再度前に向き直る。タバサの背中にもう一度感謝を返すと、ルイズはキュルケの方を向いた。
 キュルケはタバサが珍しく会話に参加してきた事に、きょとんとした顔でタバサの背中を見ていたが、ルイズの真剣な顔をみて苦笑を一つ返した。

「タバサがああいってるんじゃ仕方ないわね。けど、貸し一つよ?」
「……仕方ないわね」

 ツェルプストー家に貸しを作るなど癪だが、この場合は仕方あるまい。
 あんたのせいなんだからね、と思いながらもルイズはレンの背中を撫でる手をずっと止めることはなかった。



「……ここは……?」

 フーケの意識が覚醒する。目に入るのは見慣れた天井。辺りを見回してみると、そこは学院寮の自室だった。

「何で、またここに……?」

 もう自分の正体は露見したのだ。なのにここにいる理由が皆目見当がつかない。盗賊である自分が放り込まれるとしたら牢獄しかないはずなのに。

「ご機嫌いかが? 怪盗さん?」

 不敵な笑みを浮かべながら入ってきたそいつは、あの白いエルフもどき、レンだった。
 自分の敵をみて、体を起き上がらせようとするフーケだが、そこでようやく体が動かない事に気がついた。首から上は動くし、声を出す事も問題ないのだが、首から下がまるで鉛のように重い。

「何を、した……!?」
「動けないようになってもらっただけよ」

 どうやって、と聞こうとしたフーケだが、それについては聞くだけムダだと判断した。先住魔法の使い手に聞いても、恐らく理解などできまい。

「あたしをどうするつもりだい?」
「最初はオスマンやコルベール、あとギトー? とにかく学院の男性全員の相手をさせようかと思ってたんだけど」

 さらりと言った内容は、とても看過できるものではなかった。フーケの背筋が寒くなる。主人を危険に晒した報復行為ということか。しかしこの幼女は『思っていた』といった。心変わりした、という事だろうか。相手の真意を確かめるため、慎重に聞く。

「……やめたのに理由はあるのかい」
「だって、ねえ」

 レンはフーケの腕を持ち上げた。冷たい。何故身体の自由は全く利かないのに、いつもよりも感覚が冴え冴えとしているのか。
 まるでフーケの言うことを聞かない腕に、レンはかぷりと噛み付いた。

「――ッ!!」

 鋭い痛み。まず感じたのはそれだった。そして出血に伴う痛みがじりじりと腕に走る。血を、吸われている―――!?

「あんた、吸血鬼か!?」
「違うわよ。まあ、血からも吸えるけど、私はグールを作ったりはできないもの。これはちょっと確かめてるだけ」

 じわじわと、熱が腕に広がってゆく。歯はすぐに引き抜かれた。その後、口の中でうごめく舌が滲んできた血を舐めとっていく。レンの舌はざらざらとしており、まるで肉の鑢だった。
 血を全て舐め終えると、にやりと笑ったレンが一言。

「貴女、処女でしょ?」

 フーケは自分の顔が朱に染まるのをはっきりと自覚した。ぱくぱくと口を開くも、レンへ言いたい言葉がうまく出てこない。

「初めての思い出だもの。ちょっとした趣向を凝らしてあげようと、私自ら出てきたわけ」

 そう言うと、レンはフーケの腰に跨り、行儀よく手を合わせた。

「なにを……」
「いただきます」

 微笑んで宣言するレンの顔。彼女にはまるで、肉食の獣が獲物を喰らおうとしているように見えた。



「っ……ふっ……」

 流れる風景をぼんやりと眺めていると、後ろから聞こえる吐息が気になった。
 振り向いてみると、相変わらずフーケが眠りこけている。
 だが、何だか先程より呼吸が荒くなっているような―――?

「キュルケ。フーケが起きるかもしれないわ」
「杖も奪ったし、しっかり縛ってあるし、問題ないでしょ」
「そうだけど」

 キュルケは興味なさげに答えてくる。

「んぐ……ふーぅっ――ふーっ」

 先程に比べ、明らかに寝息が激しくなった。しかし彼女の目は閉じたままである。

「ね、ねえキュルケ」
「なあに? またフーケの事?」
「そうなんだけど、何か様子が変なのよ」

 轡から漏れ出る彼女の吐息は熱がこもっている。まるで熱病にうなされているように。

「まさか、何か病気とか?」
「ほっときなさいよ」
「でも」
「あれだけ元気にゴーレムを操ってたのよ? どう見ても病人には見えなかったわ。もう起きていて、寝たフリをしながらの演技かもしれないし」

 ごろん、とフーケが寝返りを打つ。手を握ったり開いたりを繰り返し、 時折びくっと痙攣する。顔は上気し、何かを耐えるように猿轡を噛み締め、その口の端からは涎が流れ落ちていた。

「あんたの白猫がなんかしてるんじゃない?」
「レンが? 何でよ」
「ほら、その子夢魔なんでしょ? 一応ご主人様と自分に危害を加えようとしてたわけだし」

 そういえば、以前ギーシュにも何かしたような事を言っていたか。つまりフーケも今レンに『踏まれて』いるのだろうか。
 そんな事を考えていると、一層フーケの痙攣が激しくなってきた。まるで釣った海老のように、がくっがくっと反ったり戻ったりを繰り返す。

「―――っ!! ぐ――んうぅぅぅぅっ!!」

 一際大きい呻き声を発して、フーケの身体がビンッ弓なりに反った。そのままびくびくと痙攣を繰り返すと、急にくたっと寝転がってしまった。

「ふーーーっ……ふーーーっ……ふーーーっ……」

 全力疾走を終えた後のように、深く、しかし間隔は短い息継ぎになるフーケ。
 荒い呼吸共に動く胸は、先ほど見た時より容積が増しているように見える上、先端が盛り上って激しく自己主張していた。
 しばらくその状態が続き、落ち着いたのかと思ったら、またびくびくと震えだした。

「ぶふううぅっ! ふぐーっ! ひゅふーーーっ!!」
「……こ、こここここれって」
「言わなくてもいいのよルイズ。分かってるから」

 フーケ並に真っ赤になって、ぶるぶる震える指でフーケを指差すルイズ。
 キュルケはフーケを苦笑しながら眺めている。
 タバサはさっきから馬を走らせることに集中している。それは後ろの状況に極力目を向けないで済むようにしているように見えないこともなかった。

「お、起こした方がいいかしら!?」
「……やめといたら? 寝てる事には違いないんだし」
「はうううっ!! んうーーーッ!!」

 結局。学院に到着する寸前まで、時間にして3時間以上の間。フーケはずっと悶え続け、馬車の中はとても気まずい空気に相成ったのであった。



「はーーーっ……はーーーっ……はぁあっ……」
「御愉しみいただけましたか?」

 レンが指で弄んでいる、二人の分泌物。
 粘土のような、青臭く匂う白濁物。さらさらした、酸っぱい匂いの透明な液。
 レンは二つの混合物を指で捏ね回した後、糸を引くそれをじゅるるっと音を立てて啜った。

「ホント、濃いわね。喉にへばり付いてくるわよ?」

 動けない。肢体の自由は戻ってきている。しかし、フーケにはこの幼女に言葉を返すことすらできなかった。
 先程までの行為で、自分の体力、精神力、精力、全てこの使い魔に吸い取られてしまった。正直、今生きているのかが不思議だ。声を出すことも、指一本動かすことすらできない。
 レンは口の中のものを全て飲み込むと、露わになっている臍に舌を入れてきた。

「あ……く……」

 ぐりゅぐりゅとほじるように動く舌は、まるで彼女の内蔵まで犯そうとしているようだ。
 そこから胸元、谷間、喉の道順でレンの舌が、珠のような汗と白濁を肉のブラシでこそげ取るように舐めとっていく。その時間はゆっくりで、フーケにとっては殊更長く感じられた。
 そのままフーケの顔にレンの顔が近づき、頬にべたりと舌を貼り付けた。
 匂う。先程レンが飲み込んだ物の匂いだ。鼻腔を犯すような悪臭と、それを擦り付けようとする舌の動きに、整えようとしていた思考がグチャグチャになる。
 舌が頬から更に上へとなぞられていき、目尻に辿りつくとちゅっと吸われた。どうやら涙を舐め取っていたらしい。それだけの行為が、消耗しきっているフーケの背筋を再度ゾクゾクと震えさせた。

「ご馳走様でした。少しは足しになったわ。それでは、束の間の良い眠りを」

 耳元で囁かれた言葉を合図にしたように、フーケに残されていた意識はぷっつりと消失した。

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