虚無の続き外伝「タバサと騎士王」


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授業が終わるまで、部屋で待機を命じられた。
戻ってきた少女の名がタバサだと、ようやくここで知った。
直後、窓にフクロウが飛び込んできた。
どうやら伝書を届けにきたようで、こんな夜中だというのにタバサは出かける準備を始めた。
「出かける? こんな時間にですか?」
「そう、急用」
「何か事情があるようですね。では、私も参りましょう」
「いい、危険だから待っていて」
「タバサ、だからこそです。私は貴女の剣……使われてこそ私の存在は意味を持つ」
少し考え、タバサは一言だけ口にする。
「竜を、操れる?」
―――実際、不安ではあったが「この世界」の竜はセイバーの騎乗スキルで操れた。

「まったく……こんな夜中に呼び出して、あの態度とは……何と失礼な」
「構わない」
「ですが、タバサ……いえ、シャルロット」
その名前を呼ばれ、一瞬タバサは驚く。
「その名前は、もう私じゃない。私はタバサ」

時間は少しさかのぼる。
夜も明けないうちに、ガリアの宮殿に到着した二人を待っていたのは、不機嫌なイザベラの声だった。
「なんでこんな早く……竜で来いって指定したのに……」
どうやら、この北花壇騎士という騎士団の団長、わざわざ竜を操れないタバサに竜で来いと命令したらしい。
竜を届けに来た男が、乗れる者がいることに安堵して帰っていった理由がようやく分かった。
「私の使い魔が乗りこなした」
隣にいるセイバーを見て、鼻で笑うイザベラ。
「なんだい、ガーゴイルかい? ふん、ガーゴイルがガーゴイルを持つなんて生意気だね」
セイバーは語らない。だが、その身からあふれ出る気迫に、イザベラは目をそらす。
「ま、まあいい。それよりお前に伝えた指令はわかってるね……そう、吸血鬼退治だよ」
「吸血鬼?まさか人の身で吸血鬼を相手に……」
「うるさいガーゴイルだね。おい、このガーゴイルを追い出しな!」

その後、タバサに命じられ部屋から出たセイバーに、警護の騎士の一人が、タバサの身の上を教えてくれたのだ。

タバサ……シャルロット・エレーヌ・オルレアンの父を暗殺し、母を廃人にした男。
それが、彼女の実の伯父である、現国王ジョゼフ。
彼女は母の命と引き換えに、生還不可能とも思える仕事をいつも命じられていること。
この北花壇騎士団は、もともと存在しないとされる暗部で、表沙汰にできないような仕事が多いという。
そこの団長である王女イザベラは、タバサの才能を疎み、辛く当たっているのだと。

(なるほど、王女か。先ほどの態度も理解できる)
あの王女は、タバサを恐れているのだ。
いつ、自分の首を狙うのではないかと。セイバーは納得こそ出来ないが、理解はした。
(―――だからといって、マスターへの非礼を許しはしないのだが)

「すみませんでした。確かに、口伝でしか貴女を知らない私が口出しするべきことではない」
タバサは答えない。
「タバサ。貴女の真名を私は知ってしまった。ならば、私も真名を明かしましょう」
「……王としての名?」
「王としての名は、アーサー・ペンドラゴン。ですが、私はもはや王ではない。
私の名前はアルトリア。アルトリア・ペンドラゴンといいます」
「アルトリア……覚えた」
「今でなくて構いません。いつか、貴女が名を取り戻した時に、私の名を呼んでください」

セイバーは、どうすることが正しいのか悩んだ。
このままを保つことは、けして主の、母君の幸せにはならない。
だが、それを解決する術を、セイバーは知らない。
この異世界の地に、タバサの母を救う術があるのか、タバサ本人を救う術があるのか。
話を聞いた騎士も、なぜタバサなどという偽名を使っているのかまでは知らなかった。
彼女の深いところを、まだセイバーは知らないのだ。

だが、どんな絶望も、後悔も、それはいつか救われるべきものだ。
過去は、どうあっても変えられないとしても。
過去がどれだけ悲惨であれ、現在も、未来までも闇の底に沈んで構わない道理はない。
それを、自分は親愛なるマスターから学んだというのに。

(ああ、やはり何か職につけば、もう少し視野も広がったのでしょうね)
ライダーやランサーのように、少しはアルバイトでもすべきでしたか、と悔やむ。

(不安かつ、気が乗りませんが……キャスターに聞いてみるのもいいかもしれませんね)
あの魔女の力を借りるということは、何かしらの対価が必要だ。
真剣なことから、ふざけたことまで、セイバーにとって辛いことでしかない。
(ええ、構いません。最悪、力づくでも……)
「アルトリア、そろそろ」
竜を操るセイバーに、目的の村が近いと告げるタバサ。

吸血鬼。
セイバーのいた世界において、闇の住人として今なお存在する、人類を捕食する存在。
少し違うところもあるが、この世界でも、間違いなく人類を餌とする脅威らしい。
今から降りる村に、どうやら吸血鬼が現れ、村人や退治に来たメイジを亡き者としているという。
この世界には、神代の生き物も、生態系に当然のように存在している。
(慣らしとしては、少々大物か……いや、この魔力量ならば……)
そういった考えを巡らし―――それが無駄であったと判断するまで長くはなかった。

「なっ、これは―――!?」
「……」
眼前の吸血鬼に襲われている村は
―――もはや、その姿を残してはいなかった。

竜を降り、廃墟となった村を進む。
大地は、紅かった。だというのに、その色の出所が残っていない。
誰もいなかった。人も、その亡骸も。
「タバサ……吸血鬼というのは、人の肉も喰らう類なのですか?」
「違う。それに、こんな村を一気に滅ぼすことを、吸血鬼はしないはず」
そう、村を一夜で滅ぼす吸血鬼など、セイバーのいた世界でも、最上位に位置する化物くらいなものだ。

「オーク鬼や、ミノタウロスの類……でもなさそう」
この世界の亜人……人を喰らう類の生き物。
だが、それも違う。
それならば、生き物の痕跡程度残っているはず。
亜人は、人の子供を喰らい、それ以外は殺すだけだという。
だが、この村の人々は骨も残さず、何者かに食われたようにしか思えない。

セイバーの直感が働いたのは、その時だった。
「タバサ!」
どこからともなく伸びた枝が、タバサを襲う。
セイバーがタバサを押し飛ばす形で枝から遠ざける。
もちろん、その結果セイバーが捕らわれるわけだが。
「くっ……この程度!」
魔力放出……自身の魔力を放出することによって、絡みつく枝を断ち切るだけの力を―――

ブチッ
「―――」
出せた。確かに枝は千切れ、拘束は解ける。
「そんなっ、貴女……何者!?」
目の前に、一人の小さな少女が驚愕の表情を見せ、立ち尽くしている。
その顔は、焼けただれ、片目がない。
「枯れし葉は契約に基づき水に代わる“力”を得て刃と化す!」
その言葉に、廃墟に舞う落ち葉が、刃となってセイバーを襲う。
先住の魔法―――それに対し、セイバーは直進する。

「ひっ!?」
少女が悲鳴をあげる。彼女が放った刃は、セイバーに直撃した。
だというのに、鉄をも切り裂く刃は、彼女の鎧に傷を作り、その頬を軽く裂いただけ。
セイバーは止まらず、少女の体を大きく切り裂いた。
その途中で、剣が折れ―――否、粉砕する。
王宮で貰ったものだが、セイバーの魔力に耐え切れる代物ではなかったのだろう。

「アァアァァアァァァ!?痛い、痛い、痛いぃぃぃ!!」
のた打ち回る少女。この傷で、何故生きているか……先ほどの能力を見ても明らかだ。
「吸血鬼、この惨状はお前の手によるものか」
「違う、違うよ。私はただ、この村で食事をしてただけ!」
「……ならば、何が起きた」
瀕死の吸血鬼は、一秒でも生きようと言葉を返す。
「見たこともない獣……いいえ、化物が襲ってきたの。全員食われたわ」
「……その、化物はどこに?」
タバサがたずねる。
「消えたわ……どこからか火が回って……何とか隠れて、気がついたら、何も……」

どうやら、本当に分からないらしい。
と、どこに力が残っていたのか、吸血鬼の体が跳ねる。
彼女は呪文を唱えようとして、ようやく気がつく。

「あっ?」
その体に付着した血液が、違う物に「錬金」されていたことに気づいて数秒。
「や、やめッ!」
タバサは、吸血鬼に付着する「油」へと火の魔法を放った。
「どうして! 私はあの化物ほど人を殺してない! 少し食事しただけなのに!」
「食事と言ったな、吸血鬼。貴様の価値観では、人は餌でしかないのだろう。
悪とは言わない。その理屈で言えば、人間と貴様らに大差などありはしない。
―――だが、その理屈を「餌」に説くことは間違いだ」
そのまま怨嗟の表情で、吸血鬼は燃え尽きた。

既に、日は昇っていた。
「結果は残念としか言いようがありませんが……私達に出来ることは、これまででしょうか?」
「報告に戻る。それよりセイバー、貴女を少し過小評価していたことを謝罪したい」
タバサは、セイバーの強さを見誤っていた。
様々な任務をこなしてきたタバサは、魔法以外にも強いものがあることは理解しているつもりだった。
だが、それは魔法を無力化したり、あくまでも魔法を使わせない前提での話だ。
魔法を、しかも先住のそれを使われ、直撃を受けたというのにほとんど無傷。
そして、御伽噺の勇者の如き強さに、タバサはセイバーを見誤っていたことに気づいたのだ。
「……私が、貴女の剣となりうることを理解していただいて光栄です」
そう言うセイバーの心中は、けして穏やかではなかった。

(―――危うく、なまくらに成り果てるところでしたが)
全開での魔力放出……あの枝を払った際に、異変は起きていた。
今、セイバーの魔力回路はショート寸前まで傷んでいる。
(迂闊だった……ここが異世界であることは十分理解していたつもりだが……)
この世界のマナの量は、元の世界とは桁からして違う。
だが、あることについて、セイバーもキャスターも気づけていなかった。

魔力そのものの「質」の違いである。

召喚の際、受肉したとキャスターは言った。
だが、それは完全なものとは言いがたいらしい。
大気に満ちたマナも、この身が生成できるオドも、この世界の魔力の質を持つものだ。
地球のマナやオドの質を、100Vの電圧と例えるなら、ハルキゲニアのそれは240Vの電圧だ。
そして、セイバーとキャスターの魔術回路は、100Vの電圧を流すようにしか出来ていない。
世界のマナどころか、この体すら、受肉の際に240Vの電圧しか生成できなくなっているのに。
それが、この身を受肉させた力の限界なのか、なんとも中途半端なことだ。

それでも、二人の強力な魔術回路は不完全ながら役割を果たしていた。
だが、急に大量の魔力を流したために、過負荷が発生しかけたのだ。
(幸い、無意識にリミッターがかかったのか、魔力回路の損失にまでは至っていないようですが……)
―――数日は出せて、全力の1割。回路が回復したあとでも、しばらく3割までが限界か。
要は、体がこの世界に馴染めていないのだ。
実際、1割でも出力として出せるのは、体の魔術回路が変質してきている証だ。
どれだけの時間が必要かは分からないが、この問題は時間が解決してくれるだろう。

(それよりも、もう一つの懸念を解消しておくべきですね)
「マスター、一つお願いがあるのですが」
「?」
「マスターの得意な攻撃魔法を、私に使ってみてください」
タバサは驚く。一体何のつもりなのか。
「お願いします。重要なことなのです」
「……わかった」
タバサは、杖を構え詠唱を始める。
そして、杖の先から氷の刃が飛び交う。
氷の矢(ウィンディ・アイシクル)。タバサの得意とする魔法だ。
無数の刃は、微動だにしないセイバーへと襲い掛かる。

その直撃した刃は、セイバーを僅かに後退させた後に、掻き消えた。
「セイバーには、魔法が効かない?」
「はい。大地を焦土へと変えるほどの魔術を持ってしても、私には意味を成さない」
ですが、とセイバーは頬を流れる血を拭う。先住魔法による負傷だ。
鎧もまた、タバサの魔法によって軽くはない損傷が見られる。

「どうやら、「軽減」へとランクダウンしているようだ。先住という魔法の力のみかとも思いましたが、そう都合は良くないようです」
その説明は、あまり正しくない。セイバーの対魔力は変わらずランクAを保っている。
だが、それはあくまで「魔術」への数値だ。
この世界の「魔法」に対しては、大幅な軽減こそされるが無効化とは行かないらしい。

「私が、召喚したせい?」
「いえ……違います。王宮へ着くまでに説明しましょう」
セイバーは、私はこの世界の住人ではない、などという話をすべきかと悩んでいた。
だがそれは、話を聞いた上でタバサが決めることだ。

ふと見ると足元に、血まみれの服の切れ端が落ちていた。
セイバーは、家の破片をどかして、そういった残骸を集める。
タバサも、村一帯から誰のものとも知れない身に着けていたであろう品々を拾い集める。
そして、それらを村の中心だったと思われる場所へと埋めた。
先ほど折れた剣を突き刺す。
「吸血鬼退治は、たしかに。どうか安らかに眠ってくれ」
タバサとセイバーは、村人の冥福を祈った。

竜の元へ戻り、滅んだ村を後にする。
後、半日も早く命令が届いていれば、この村を救えたかもしれないというのに。
この村に生きる、全ての人々の未来は何者かに奪われた。
それを、きっとシロウならば許さない。
できることならば、いつか彼らの無念を晴らしたいと願いながら、セイバーは空を駆けた。


「シャルロット様、任務を果たしご帰還されました!」
「早ッ!? って、あいつの事はガーゴイルって呼べと言ってるでしょうが!」
本当に任務を果たしたのか? と訝しげにイザベラは戻ってきたタバサの報告を聞く。
始めはイライラしていたイザベラだが、報告を聞くに連れて深刻な顔つきになる。
「ちっ、ガリアにも現れたってのかい」
「村を滅ぼした化物に心当たりが?」
「ふん、あるよ。……ちょうど先月くらいから現れだした、未確認の獣だろうよ」
イザベラが、机の上の報告書らしき束を取る。

「始めに確認されたのが、ゲルマニアの小さな村……そこも全滅だね。
その時は何に襲われたのか不明だったようだけど、わかったのはそれからさ。
同国の哨戒に出てた竜騎士が、亜人の集落を襲う化物を発見したそうだよ。
ハッ、いい気味だねぇ! あっはっはっはっはっは!!
そいつの証言によると、人間ほどの猿だか犬だがの化物が何百も居たって話だ。
夜以外は見つけることも出来ないそうでね。「亡霊の残骸」なんて呼ばれてるのさ」

亡霊という言葉に、タバサの瞳の色が変わったが、残念ながらイザベラは気がつかなかった。
「それから、何度か村が襲われてようやく法則性がわかってね。
なんでも、サハラ方面に真っ直ぐ直進していたそうで、出現予測地点に軍を配備したのさ。
それで最期の一匹まで退治されたそうだよ……って話じゃなかったのかい!」
一人でキレ始めるイザベラ。落っこちた王冠を被りなおす。
「ならば、どこに現れるか予測できるはず。早急に軍を配備するべきでは?」
言葉を発したセイバーを、イザベラが睨む。

「ふん、次にどこか襲われたらはっきりするだろ。あの辺りは大した税も取り立てられるわけじゃあないし、ゆっくり対策するさ」
「民を治める者の言葉とは思えない。大の為に小を切り捨てるのは仕方がないのかもしれませんが……」
「この私に、たかがガーゴイルの従者が吼えるんじゃないよ! なんだい、その頭から跳ねてるの、目障りだね!!」
そういって、イザベラがセイバーの頭にちょこんと跳ねた毛を掴む。

ピキーン!と部屋が光り輝いた。
「ひっ!? えっ、えっ、なんだい、なんだい!?」
吹き飛ばされた。というか投げ飛ばされた?
「人形娘!アンタの従者を大人しく―――」

部屋の入り口付近で倒れたまま動かない青い髪の少女が一人。
「シャ―――な、七号―――!?」
タバサは「亡霊」の一言で、意識を飛ばしていたのだ。
「ふむ、マスターは疲れが溜まっている様子。寝かせるが良い」
淡々と呟くセイバーを「いや、違うだろ」とイザベラは見つめ直し
「ひッ!?」
その、黒く変貌した姿に戦慄した。

「イザベラよ、一つ忠告しよう―――神とて触れてはならぬ禁忌はある」
「は、はいぃぃぃ!!」
ドアの前では、オロオロしている騎士数名。
助けに入ろうものなら、瞬時に灰塵と化すのは明白ゆえに誰も近寄らない。

「イザベラ、先ほどの話だが……大した税を取れぬなら、更に絞り上げればよいだろう」
「い、いや、こないだ領主を通じて上げてやったばかりで」
「ならば滅ぶかと言ってやれ。泣き叫ばぬ骸を眺めるより、生きて蠢く姿を眺めるほうが、イザベラも楽しかろう」
その言葉に、イザベラの顔に愉悦の笑みが浮かぶ。
「人形娘の従者のわりに、面白いことを言うじゃないかい。よしよし、領主に伝えておこうじゃないか」
「ならば話は終わりだ。小間使い、そろそろ朝食の時間だろう。何を呆けているか、食事を持て」
部屋の様子を伺っていたメイドの一人が、飛び上がって駆け出す。
「ちょ、お前何様のつも」
「―――食事を取らぬと申すか」
「―――そ、そのようなことはけして」
「よろしい、ならば晩餐だ」

起きたタバサは、なんだか分からないままに食事の席についていた。
何故か、イザベラがハシバミ草を頬張ったまま泡を吹いていた。
何故か、黒く変色しているセイバーが、ハシバミ草をもっきゅもっきゅと食べていた。
自分の目の前にも、ハシバミ草を使った料理が並んでいた。
タバサは、始祖ブリミルへの大いなる感謝をして、ハシバミ草を食べた。

「そこな騎士よ」
もっきゅもっきゅとしていたセイバーが、警護の騎士の一人に声をかける。
「は、なんでしょう!」
「領主へと送る手紙を書いておいた。早々に送るが良い」
「はっ?しかし、王家の署名が」
「イザベラ、これに署名と花押を押すが良い」
脳がハシバミ草に犯されたイザベラに手紙を渡す。
「う、おお?……こ、これでよし?」
「うむ、上出来だ」
封書が、魔法による花押で閉じられる。そしてイザベラは再び沈黙した。

「これで問題なかろう」
「……失礼ながら、シャルロット様の従者の方よ。
これ以上の増税は、民に死ねと告げるも同じ……獣が退治されたとて……」
「なんのことだ。税を増やすのか?」
全員、はっ?と固まる。
「確かに増税を薦めたが、王家の花押が押された手紙には一言も書かれてはいない。
所詮は従者の戯言、気高き王女に届くはずも無いということだ。
今は食事の最中。これ以上の問答は無礼だと知るがよい」
騎士は、笑顔を見せ下がっていった。

(ふむ、それにしても人間大の猿だか犬だかの化物か)
セイバーには、心当たりがあった。
この話を宗一郎やキャスターにしても、同じ答えが返ってくるだろう。
なにせ、この世界に来る直前まで、見飽きるほどに相手をしたのだから。
(アヴェンジャーの残骸か。しかし、どうやら無限というわけでは無い様子。ならば、警戒に値せずか)
この世界の生態系で、あれが頂点に立てるかと言えば断じて否である。
無限という利点を失った骸は、ただ消え行くのみだろう。
(話からすると、何箇所かで暴れている様子……我々同様に召喚されたということか?)
ともあれ、今は食事に集中せねばならない。
「おかわりを持て」
タバサとセイバーの、ハシバミ草を頬張る音だけが響いていた。

タバサも、考えていた。
異世界から来たと、王宮までの道のりで教えてくれた。
あの強さ、そしてこの変容。確かにハルキゲニアのどこを探してもありえない。
剣を片手に、吸血鬼を倒した様はまるで御伽噺の勇者のようだった。
……今は、なんともダークヒーローのような風体だが。
常識が通用しない。あのイザベラですらこの通りだ。
それはまるで、風そのもの。タバサの止まった時間すら動かすほどの暴風。
「食わぬのか、マスター。これほどの馳走、残す道理はない」
頷き、タバサはハシバミ草のサラダを頬張る。
もっきゅもっきゅ。もっきゅもっきゅ。

セイバーが元に戻るまで、その音は聞こえ続けた。
元のセイバーは、ハシバミ草が嫌いらしく―――タバサは大層悲しんだ。

後日―――「亡霊の残骸」が現れると予測された町に、予測どおり彼らは現れた。
多数のガーゴイルやゴーレムを動員して、その全ての駆逐に成功した。
だが、参加した軍人の中に、妙な証言をするものがいた。
黒いローブを来た何者かが、残骸どもの中心部を駆逐し、何かを奪い逃走した、と。

「これで二つ目……」
離れた森の中、黒いローブの人物が手に取ったそれからは、魔力が感じられた。
三日月状の刃が先端についた槍のような武器……方天戟。
「それにしても……どうしてこんなものが存在するんだろう」
少女は、この世界にありえないものを凝視する。

宝具
ノウブル・ファンタズムとも呼ばれる人類の幻想。物質化した奇跡。
彼女とて、詳しいことは知らない。
それでも、これがあの残骸の手元にあれば、どれだけ危ういかは理解できる。
「ゲルマニア、ガリア……どちらの化物も、宝具を集めていた」。
理由が分からない。これを真に扱えるのは本来の持ち主……これならば、古代中国の大豪傑でしかありえないのに。
「私には、良くわからないなあ」
これで用件は片付いた。あとは、これを持って帰るだけだ。
「……その前に」
守れなかった村に、弔いぐらいはしていこう。

おそらくは、ただ通り道にあったという理由のみで滅ぼされた村を見つめる。
あの残骸は、どこからか宝具を探し出している。
その後、どこか目的の場所に「一直線」に宝具を運ぶ程度の知能しかないようだ。
ゲルマニアとここ、直進して交差した点こそが目的地なのだろう。
「あれ?」
滅ぼされた村の中心に、盛り土に突き刺さった一本の剣。
そして、村が襲われたときとは別に滅されたと思われる、『同族』の成れの果て。
「吸血鬼退治の人でも来たのかな?」
自分の甘さを痛感する。この村に巣くっていたという吸血鬼が、まだ生きていたとは。
「どこの誰かは知らないけど、ご苦労様です」
黙祷し、その場を離れる……森を駆け、風を切り彼女は疾走する。

「……ちょっとお腹空いたなあ。オーク鬼でもいいから、捕まえようかな」
ローブから覗いた瞳は、紅く、ただ紅く光っていた。

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