ゼロの白猫 01


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 幾度もの失敗の果てに、爆発して巻き起こる煙が晴れた後に鎮座していたのは。
 猫だった。

「や、やった! 遂に使い間の召喚に成功したわよ!」
「「「な、なんだってーーー!?」」」

 ころしてでもうばいとる。
 という考えがルイズを取り巻く生徒たちの頭に浮かんだかどうかは第三者にとっては定かではない。ぶっちゃけどうでもいい。
 まあそんな考えが浮かんだ可能性はゼロといっていいだろう。ハルゲギニア大陸のトリステイン魔法学院の生徒たちは皆使い魔の召喚に成功し、ただ一人残ったルイズの度重なる召喚失敗に飽き飽きしてもう帰りたいと思っていたところなのだ。
 兎に角、ヴァリエール公爵家が三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは『サモン・サーヴァント』に成功したのだ。

「何度も……何度も失敗したけど、こんな綺麗な白猫を……!」

 利発そうな子猫だった。
 小さいながらもきりっとした体躯はどこか気品のようなものすら感じられる。見るからに手触りの良さそうな真っ白い毛並みに瞳だけがルビーの様に真紅だ。そして首に巻かれたこれまた白いリボン……

「……リボン?」

 そう、白猫の首には野良猫にはない、誰か人間に着けられたと思しき白いリボンが巻かれていた。

「なんだよルイズ! 呼んだのは何処かの誰かの飼い猫かよ!」
「うぅううるっさい! 例え誰かの飼い猫だろうと私が呼んだからには私の使い魔なの!」
「……ちょっと失礼しますよ、白猫さん」

 ひょい、と頭部の寂しいコルベール教師が白猫を持ち上げる。その際じたばたと白猫は暴れたが、コルベールは力づくで抑え込んで全身をくまなく視姦する。

「……大丈夫のようですね。この猫には使い間のルーンはありません。誰かの使い魔ということはないようです。ミス・ヴァリエール。どうぞ契約の続きwぁいたぁ!」

 噛み付き、猫爪、後ろ回し蹴りのコンボが鮮やかに決まる。猫好きの皆さんならお分かりだと思うが、猫の爪の鋭さは馬鹿にできない。血が出ます。
 お怒りの白猫(雌だった)は華麗な連激を決めると、とっとと捕獲者の腕から離脱する。そのまま遠くへ走り出しそうな白猫をあわててルイズは捕まえる。

「ま、待ちなさい! まだ『コントラクト・サーヴァント』が終わってないっての!」

 危なかった。ちい姉さまこと、カトレアになついていた猫に逃げられた経験がなかったらルイズも逃走を許していたかもしれない。召喚しておきながら契約せずに逃げられました、なんて笑い話にもならない。
『サモン・サーヴァント』で自分に相応しい使い魔を召喚、そして『コントラクト・サーヴァント』で呼び出した使い魔と契約する。この二つを経て召喚の儀は完成するのだ。
この使い魔の召喚、契約は失敗できない。しくじれば問答無用で留年の運命まっしぐらなのだ。猫だけに?更にルイズにとっては自分の不名誉な渾名を払拭する絶好のチャンスでもある。必ず成功させねばならかった。
 興奮して鼻息も荒いルイズだが、そんなルイズに両腋から持ち上げられた白猫は、意外にもおとなしくしていた。ただじっとルイズを見ていた。真っ赤なその眼で、まるでルイズを吟味するかのように。
 そんな猫の瞳に違和感を覚えるルイズだったが、ちんまりとした猫の愛らしさ、しっとりさらさらと滑るような手触りの滑らかさ、何より生まれて初めて魔法が成功した歓喜には些細な事と、いざ使い魔との契約に臨む。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

 契約の呪文を唱え、白猫のω口へ唇を付ける。ノーカウントのファーストキスの感想は、猫の鼻って湿ってるな、だった。
「……」

 その間、ずっと猫はおとなしくしていた。が、しばらくしてばたばたと暴れ、ルイズの手から逃れてのたうち回る。使い魔のルーンが体に刻まれているのだろう。直接体内に呪を書き込むので対象にはそれなりの痛みが走るのだ。

「……ッ!」

 ようやく治まったのか、白猫がふらりと体を上げる。白猫の胸部には使い間の証のルーンが確かに刻まれていた。

「ふむ、珍しいルーンですな」

 白猫の攻撃から立ち直ったコルベールは白猫の胸のルーンを興味深げに眺め、さらさらと書き留める。猫は突然の激痛に警戒を強めたらしく、尻尾と全身の毛を逆立たせてコルベールやルイズを睨んでいる。

「痛かったのは分かってるわよ。でもそういうものなんだからしょうがないじゃない」

 悪いと言いつつも謝罪の言葉を述べないのは貴族の気高さ、あるいは傲慢さからくるものか、はたまた彼女の気性故か。

「さて、これで全員無事に使い魔の召喚が終わりましたな。みなさんご苦労様です。では、これにて解散!」

 コルベールの終了の合図で生徒たちは「ようやく終わったか」という安堵の元、ふわりと浮いてそれぞれの部屋へ向かっていく。そんな生徒たちを白猫はただでさえ大きい瞳を真ん丸にして、ルイズへの怒りも忘れたように見つめている。何か驚くことでもあったのだろうか。

「さあ、私たちも行くわよ」

 そう言ってルイズはひょいと白猫を持ち上げ、両腕を胸の下でしっかり固定させ、その上に猫を乗せる。腕と胸で作られた簡易ベッドだ。猫は自分の体をべたべた触られることを習性として好まない。そんな猫をおとなしく運ぶためにカトレアが行っていたのがこの抱き方だ。
 このやり方なら猫に触られることに対する不快や警戒感を抱かせることは少ない。抱いている方は猫を撫でることはできないが、かりかりと喉や頬を掻いてやることはできる。
 抱き方が功を奏したのか、ひとまず腕の中で白猫はおとなしくしている。すたすたと自室に向かうルイズの腕の中で、白猫は両目に二つの月を写していた。



「さて、私はルイズ! ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ! まずはあんたの名前を決めないとね!」

 使い魔の召喚と契約が成功して――ルイズにとっては生涯初の魔法成功である――上機嫌のルイズが部屋に入って宣言する。

「どんな名前がいいかしら? 白いからシロ……じゃ安易すぎるわね、なんか犬っぽいし。じゃあヴァイスとか? でもなんか雌向きじゃない響きね、コレ。いっそ赤い目だしルビーとかスカーレットとか言うのもいいかも……」

 現在のルイズの状態を形容すると、まさに有頂天と言う言葉が当てはまるだろう。懸命に自分の使い魔を名付けようとするルイズだったが、その時ふとこの猫が何処かの飼い猫である可能性を思い出した。

「リボンに名前とか書いてないかしら?」

 首に巻かれたリボンを調べてみるが、名前はおろか飼い主の手がかりになりそうなものも何一つなかった。

(ひょっとして捨て猫とか?でもこんな可愛い猫を捨てたりするかしら……)

 しばらく思案したが、結局結論は使い魔の契約を交わした以上、飼い主の元に戻してやることはできないだろう、ということだった。

「いい? あんたが何処の飼い猫だったかは知らないわ。でも私の使い魔になったからには今までのことはスパッと忘れて私のために働いてもらうからね!」

 盗人猛々しいとも取れるこの発言に白猫は半眼で主人を見つめている。

「うーん、名前どうしようかしら。寝る前に名前だけでも決めときたいんだけど……」

 何故か猛烈な眠気がルイズを襲っていた。失敗とはいえ魔法を相当使い続けたことと、初めて呪文が使えた興奮から来た疲れだろうか、と思いながらルイズはベッドに腰掛け、そのままくたりと横になってしまう。

「だめよ……だめ駄目……この猫に立派な名前をつけてあげるんだからぁ……」

 ベッドの柔らかさに受け止められて夢の中へ旅立とうとしている少女は、

(そんな事考える必要はないわ。私にはちゃんと名前があるもの)

 と、聞いたことない誰かの声を利いた気がした。



「……ここ、ドコ?」

 ルイズがまず発した一言だった。
 トリステイン魔法学院の自室のベッドにいたはずが、気がついたら白一色の世界に立っていたのだ。呆然とするのも無理はない。
 そこは雪原だった。見渡す限り純白の世界。遠くには木々が生えているが、これまた雪に覆われている。ルイズの後ろには自身が示してきたと思しき足跡のみが続いていた。
 だがその足跡は地平線から続いており、どこから自分が歩いてきたのか、どこまでこの雪原が続いているのか見当もつかない。そもそもルイズには歩いてきた、という実感すらないのだが。
 雪があることから現在地がアルビオンということも考えたが、その仮説は空を見上げたときに粉砕された。
 天頂にかかる月が『一つしかなかった』のだ。
 ルイズの、いやハルケギニアの世界において空の月は二つである。天空の月が増えたり減ったりするなど聞いたこともない。ありえない状況が重なりすぎ逆に冷静になるルイズの頭の中で、これらの状況を全て説明できる答えが浮かんだ。

「そっか、コレ夢なんだ」
「ええ、その通りですわマスター」

 独り言に答えを返されぎょっとして声のした方を向く。
 いつの間にか、この雪原と同じ色を纏った幼女が立っていた。
 外見からして年齢は10歳前後といった所か。身長はルイズより10サントは低い。しかしてその体つきに反し、幼いその顔に浮かぶのは妖艶ともとれる、妖しい大人の表情だった。
 上から下まで白一色の上着と靴下、ブーツに、上着の下の肌着と一体となっているスカートのみが黒。頭には大きなこれまた白いリボンが付けられており、胸あたりまでの長さの銀色の髪を彩っている。その髪から覗く三角形の耳。

「え、エルフ!?」

 人間よりも長い尖り耳はエルフの代表的な特徴。そして人間とエルフの関係は極めて悪い。白い幼女の尖った耳に気づいたルイズは警戒態勢をとり、いつの間にか手にした杖を向けていた。そんなルイズの様子を幼女は冷めた目で見つめていたが、

「貴方が言うエルフがどんなものなのかは知らないけど、私は夢魔よ。エルフじゃないわ」

 と答えた。

「む……夢魔? それにさっきマスターって……」

 エルフではないと言われて少しだけ落ち着いたのか、ルイズは目の前の幼女に言葉を投げる。その言葉を受け取った幼女はスカートの両端を摘んで広げ、恭しく一礼した。

「この姿では初めまして、マスター。私、夢魔のレンと申します。以後お見知り置きを。今宵お互いのことをよく知るためこの席を設けさせていただきました。急なお呼びだしになったことをお許し下さいまし」

 その発言に、ルイズは混乱している頭を何とか整理して会話を繋げる。

「夢魔……って言ったわね? ってことはこれは、夢? あんたがこの世界……っていうか夢を作ったって言うの? あとマスターってなによ? 私は夢魔の主人になった覚えなんてないんだけど」
「まあ冷たい。自分の方から接吻しておきながらその言い分は傷つきますわ」
「は? 何訳分かんないことを……」

 言っている内にルイズは気づいた。
 この幼女――レンといったか――の白一色の容姿に紅い瞳。更にルイズから口づけしたと言い、自分をマスターと呼ぶ存在。これらのことを総合すると、思い浮かぶのは。

「あ、あんた……まさか」
「お察しの通り。先程貴方に胸にルーンを刻まれた白猫で御座いますわ」

 うっすらと笑みを浮かべながらレンはルイズに答える。
 だがルイズはその笑みを見てもちっとも安心することはできなかった。レンが浮かべている笑みは暖かみがある笑みではない。逆に向けられた者に警戒心を抱かせる類の笑みだった。

「さっきはとっても痛かったわ。呼び出した相手に了承も問わず問答無用で体にルーンを刻むんだもの。なんて非常識。まあ別世界なら互いの常識が食い違うのかもしれないけど」
「いや、それはしょうがないじゃないの。痛かったのは悪かったと思ってるけど……別世界って何よ?」
「今言った通りよ。私は月が一つしかない世界から来たの」

 上を指さしながらレンは言う。その先には先程見たとおり、一つだけの月が鎮座しており、雪原を淡く照らしていた。

「いや、これはあんたが作った夢なんでしょ?なら月を増やしたり減らしたりできるんじゃないの?」
「面白いことを考えるのね。けど今いる世界は私の世界よ? 苦労してわざわざ月の数をいじる必要が全くないわ。私の世界に矛盾を作っても居心地が悪くなるだけじゃない」
「だけじゃない、といわれても……分かんないわよ」
「それに貴方達、さっき何の臆面もなく魔術を使ってたじゃない。空を飛ぶ、なんて目立つことを何の躊躇もなく。私が居た世界ではあり得ないわ」
「はぁ? なんで魔法を使うことを躊躇しなきゃいけないのよ? あと魔術じゃなくて魔法よ、ま・ほ・う!」
「そう言う発言があるからここは別世界だと分かるんだけど……。あ、貴方は確かに魔法使いと言えるのかもしれないわね」

 何がおかしいのかレンはくすくす笑っているが、ルイズにとっては何を言っているのかちんぷんかんぷんで、誉められているのか貶されているのかも分からない。レンは一応誉めているようだが。

「ところで、いつまでその格好でいるの? 立ったままというのも何だし、座りなさいな」

 レンはそういって傍にあった椅子に腰掛ける。ルイズは仰天した。つい先程まで確かにそこに椅子など無かったからだ。

「あ、あんたその椅子どうしたの!?」
「座りたかったから出しただけよ。驚くことじゃないでしょう? ここは夢の中なんだから。貴方だって必要なときに杖を出せたでしょう?」

 そう言ってルイズにも椅子を勧めてくる。この椅子の出現もルイズは知覚できなかった。釈然としないながらもレンと向かいあって座る。
 レンは椅子の肘掛に左腕を置き、右肘を立てて右手に顔を乗せ、右脚を大きく回して足を組む。組んでいる最中もルイズから下着が見えたりはしない。絶対領域である。
 正に悪女のポーズだが、見かけと性格が比例していないこの幼女は恐ろしくサマになっている。しかしまるで使い魔らしくない。この態度ではどちらが主人かわからないではないか。憮然とするルイズが何かを言う前にレンが先に話しかける。

「それで……ええっと、ルイズだっけ?」
「そうよ。って様を付けなさいよ使い魔」
「覚えてたらね? それで使い魔と言っているけど、貴方は私に何を望むの?」
「そうね、使い魔は主人と一心同体の存在よ。まず主人の目や耳の代わりとなることができるわ」
「感覚の共有ね。こんな感じかしら?」

 レンが何かを呟くと、いきなりルイズの右目にルイズ自身が写った。

「こ、これってレンの!?」
「ええ、私が見ている物よ」

 自分の視界が左右異なっている事実に驚愕しながら喜ぶルイズ。だから、自分がレンと視界を共有したのではなく、レンが自分と視界を共有させたという事実にこの場で気が付くことができなかった。

「やるじゃない!さすが私の使い魔ね! 他には、マジックアイテムの原料になる苔とか、硫黄とか、もしくは秘宝とかを見つける能力を持った使い魔も居るわ」
「そういうのは専門外ね。ルイズの魔術は『作ること』が得意なの?」
「……いや、そういうわけじゃないけど」
「なら不要ね。良かったじゃない」
「……まあそうなんだけど」

 ルイズの場合、作ることに特化していないだけではないことが問題なのだが。その部分は誤魔化して次の質問を出すルイズ。

「後は主人の身を守ることよ。これが使い魔にとって一番の役目となるんだけど……」

 ルイズはレンをじっと見つめる。自分より身長も体の起伏も小さい幼児体系の使い魔。とても力が有りそうには見えない。
 まして猫の時ではメイジはおろかその使い魔にさえあしらわれるだろう。それでも一縷の望みを託して聞いてみる。

「レン、あんた戦う事ってできる?」
「余り得意じゃないわね。前に仕えてたヤツは護衛なんて必要ないスペックを有してたし」
「……やっぱり、元の主人が居たのね?」

 レンに別の主人が居たことを確信し、予想していたとはいえルイズの顔が曇る。レンが首に巻いていた、人間の姿の今は頭につけているリボン。
あの装飾品は以前に別の主人が居たことの証明だったのか。それなら自分はこの使い魔と主人の中を引き裂いてしまったことにならないか――

「居たわ。三行半叩き付けてやったけど」
「へ?」
「そしたら腹いせとばかりに追ってきて。逃げてる途中で鏡みたいなのにぶつかったら貴方の前に出てきたわけ。いいタイミングだったわ」
「ええ?」
「私としては紳士的な男性が新しい理想のマスターだったんだけど、危ないところを助けてもらったようだし。使い魔の契約を了解したわけ」
「……」

 三行半、というのがルイズにはよく理解できなかったが、つまり前の主人とは仲違いした、ということだろうか。

「ええーっと……その、前の主人のことはほっといていいわけ?」
「全く問題ないわ。元々契約だけで仕事なんて無かったもの。流石にあのバケモノも異世界へ渡る術なんて持ってないでしょうし、宝石の老体の助けでもない限り追ってくることもないでしょうね。それで、いつまで使い魔の契約は続くの?」
「私かあんたのどちらかが死ぬまでよ」
「一生ものの契約、ね。死ぬ意外に解く方法は?」
「無いわよ。解除の呪文なんて無いわ」
「……そうなると、召喚した者を召還する魔法も無い、なんてオチ?」
「ええ、そうよ」

 この答えにレンは考え込む様な仕草をする。そんな様子に気づいているのかいないのか、ルイズは話を進める。

「とにかく、私の使い魔になったんだから帰るなんて事は良いでしょう? その怖いご主人様にも会わなくてすむんだし」
「……確かにあの怪物には会いたくないけど、もう向こうに戻れないというのはちょっとね。アイツとの決着も付いてないし。本当に元の世界へ帰る方法は無いの?」
「だから無いってば。第一別の世界から来たっていっても信じられないわよ」

 ルイズにしてみればレンの言うことは突拍子もなく、すぐに鵜呑みにすることは不可能だった。 この使い魔は恐ろしく珍しい種族であると言うことは理解できたが、月が一つしかない世界から来た、と言われても信じられるわけがない。
 自分が育ってきた世界の常識を捨てて『はいそうですか』と言えるルイズは思考停止しているわけでもなく、また頭が柔らかいわけでもなかった。 そんなルイズの言い分に、レンは一つ溜息をついて話を続ける。

「……分かったわ。とりあえず行く当てもないし、契約もしてしまったし、貴方の使い魔になってあげる」
「何であんたが偉そうなのよ。ご主人は私でしょうが!」
「その代わり、ルイズ」
「だから主人を敬いなさいっつーの!」
「短気ね、それじゃ一人前のレディには程遠いわよ?」
「あんたねぇぇぇえ!!」
「落ち着きなさいったら。とにかく、貴方の使い魔になるし、仕事もやってあげる。けど、その代わり貴方も主人としての役割を果たし、私を養うこと。それと私が元の世界へ行き来する手段を探すこと。これが条件よ」
「だからそんな方法聞いたこと無いってば」
「貴方が知らないだけで他の人が知っている可能性もあるでしょう? 兎に角調べなさい。でないと……」
「でないと、なによ」

 聞いてくるルイズに、レンは目を細め、唇を三日月のように歪め、囁く。



「吸 い 尽 く す わ よ」



 なにを、とは聞けなかった。いや、分かってしまった。何を、ではなく、何もかも吸い尽くす。後に何も残さない気なのだ、と。宣告されたとき、直感で分かってしまったのだ。まるで蛇ににらまれた蛙である。逆らっても無駄な、圧倒的なナニカ。
 今更のようにルイズは思う。ひょっとして目の前のこの幼女は、自分の想像もつかないほど恐ろしい存在なのではないか……!?

「……あ」

 声が出ない。悲鳴を上げることもできない。まして呪文を唱えることなんてできない。そんなことをしたが最後、一瞬でルイズの人生は終わる。助けを呼ぼうにも、ここは夢の中だという。そんな所で誰が助けに来てくれるというのか―――

「ちょっと、別に今吸おうとしてるわけじゃないわよ? こんなので怖がってたらこの先やっていけないわよ?」

 プレッシャーが霧散した。
 レンはくすくすと笑っているが、ルイズはそれどころではない。全身を冷や汗が伝い、体温が明らかに下がっている。
 ルイズはようやく理解した。こいつは危険だ。夢魔、といっていたがそのとおりだ。魔性の存在だ。しかも今になるまでそのことを悟らせなかったのだから始末が悪い。その辺りはルイズの人生経験が足りないせいかもしれないが。

「……わ、わかったわよ、明日から先生達に聞いてみるわ」
「結構。正式に契約成立ね」

 その言葉と共に辺りが薄暗くなってゆく。驚くルイズだが、ぼやけていく世界の中ではうまく行動できない。

「安心なさいな。目が覚めようとしているだけよ。それではごきげんよう。起きたらまた貴方の部屋でお会いしましょう」
「ちょ、ちょっと待っ―――」

 ルイズの制止の声は、世界と共に暗闇に呑まれてしまった。

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