the saber of zero servant 01


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「問おう、貴女が、私のマスターか」


 春の使い魔召喚。
 メイジなら誰もが通る道であり、また自分の今後を左右する一大イベントである。
 使い魔は召喚するメイジの系統、そして力量が反映される。
 つまり使い魔の能力がメイジの実力と直結するのである。
 そして今、少女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは絶対にこれを成功させようとしていた。
 公爵家三女という貴族中の貴族である彼女は、しかしある事情によりクラスメートから日ごろ馬鹿にされていた。
 強くて珍しい使い魔を召喚してみんなをあっと言わせてやる。
 数多くのトリスティン貴族と同様にプライドの高いルイズがそう考えるのも無理はなかった。
 自分の前に召喚を成功させた先祖代々の敵、ツェルプストーのキュルケは立派な火蜥蜴(サラマンダー)を自分に見せびらかした。
 その後に召喚を成功させた少女、タバサは風竜の子供を従えた。
 それを見たルイズのやる気とくやしさはさらに倍増した。
 もっともっとすごい使い魔を召喚して全員ひっくり返させてやる。
 そんなことを考えながらルイズは自分の出番が来るのを待った。
 そして最後の順番、すなわち自分の番がやってきた。
 ルイズははやる気持ちを抑えるため一旦深呼吸をすると、朗々と言葉をつむぎ出した。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン、我の運命に従いし使い魔を召喚せよ!」
 そして唱え終わると杖を振り下ろす。
 同時にあたりが閃光に包まれた。
 今までの誰よりも圧倒的に強い光にルイズは召喚の成功を確信した。
 この光がやんだとき、目の前にはすさまじく巨大で美しくて賢くて強い使い魔がいるに違いない。
 ルイズの心は期待に満ち溢れていた。光を遮るために閉じられた瞼にクラスメートの驚く顔が浮かぶ。
 光は数十秒あふれ続けた後、ゆっくりと治まっていった。
 まだチカチカする目を擦り、ようやくぼんやりと見えたのは、一体の人影。
 それは時間が経つにつれだんだんと鮮明になり、数秒後ようやくはっきりと見えた。
 そこでルイズは呆然とした。
 自分の前に立つ者。それは自分とさほど変わらない年頃の少女だった。
 束ねられた髪はまるで純金。
 稀代の絵師でも描けぬであろう整った顔立ち。
 身体を包んでいるのは海のような群青のドレスと、日の光を受けて輝く白金の軽装鎧。
 大地に黄金の剣を突き立て、悠然と佇むその姿は誇り高き騎士の姿。
 が、何よりルイズの心を捉えたのは姿ではなく、その内より溢れ出る気品。
 堂々とした平民では到底ありえない佇まい。
 腑抜けた王宮の騎士などとは比べる気にもならない程の気迫。
 そこらの肥えた貴族が持っているはずもない本物の品格。
 自分の親友である姫君にも感じたこともない厳格な雰囲気。
 それは紛れもない、万民を束ね導くに相応しい、王の威厳だった。
 ふっと、閉じられていたその双眸がゆっくりと開かれた。
 その瞳は翡翠。彼女が持っている剣のように鋭い眼光は真っ直ぐにルイズに向けられている。
 あまりにも真っ直ぐで力強い視線に、ルイズは視線を外すことが出来なかった。
 数秒程見つめ合った後、騎士の唇がゆっくりと動き出した。
「問おう。貴女が私のマスターか」
 今まで聞いたどれよりも澄んだ鈴のような声。その声でようやくルイズの顔に表情が戻った。
「えっ、あ、ええ?」
 ルイズの混乱した声で正気を取り戻したまわりの生徒たちも控えめに声を出す。
 そこでルイズは今が使い魔召喚の儀式の最中であることを思い出した。
 徐々に周りの喧騒は大きくなる。
 しかし、騎士はその振る舞いをまったく崩さず、ルイズも彼女から目が離せなかった。
 まるで時が止まったかのように向かい合う二人。
「ミ、ミス・ヴァリエール」
 心配した監督の先生、コルベールがルイズの肩に手を置くと、彼女の身体が跳ね上がった。
「な、ななななななんですか先生!?」
「い、いや、召喚に成功したなら早くコントラクト・サーヴァントを」
「は、はい」
 コルベールの言葉に従い、ギクシャクと動き、震える声で呪文を唱えるルイズ。
 その頭には、相手は人間だとか、女だとかという考えは一切ない。
「い、五つの力を司るペンタゴンよ、そ、そのしゅ、祝福により彼の者を使い魔と成せ」
 なんとか呪文を唱えると、ルイズは騎士に顔を近づける。
 騎士の顔が近づくにつれ、鼓動が早くなり、顔が熱を持つのがわかる。
「何をするつもりですか」
 目の前にある騎士の顔はわずかに顰められている。
「い、いいからじっとしてて!」
 ルイズは覚悟を決めると目を瞑り、騎士にくちづけた。
 そしてすぐに離すと顔を背けた。
「……マスター。私にそのような趣味はないのですが」
「わ、私だってないわよ! 契約に必要なのよ!」
 そう言って振り向いて、またルイズは固まってしまった。
 騎士はわずかに赤くなっていた。さすがの彼女とて突然キスされるのは恥ずかしいのだろう。
 頬を桃色に染めたその顔はとても色っぽく、同姓のルイズすら虜にした。
「コントラクト・サーヴァントは成功したようだね」
 コルベールがどこかほっとしたように告げる。
 ルイズは軽く辺りを見渡す。
 何人かの生徒がこちらに困惑した表情を向け、何かを言おうと口を開くが、すぐに顔を背けてしまう。
 おそらく、自分が人、しかも(たぶんだが)平民を呼び出したことを騒ぎ立てたいのだろうが、その召喚した平民の雰囲気に呑まれているのだろう。
 ちらりと自分が召喚した騎士を見る。
 すでに顔色は元に戻り、まるで自分を見定めるように視線を向けている。
「っぐ!」
 だが、突然その顔が苦痛にゆがんだ。右手を左手で押さえ、懸命に何かを堪えている。
「だ、大丈夫よ。使い魔のルーンが刻まれているだけ……っ!」
 なんとか安心させようと声をかけたルイズに、突然激痛が襲いかかった。
「くっ、うあぁぁぁぁぁぁ!」
 痛みは右手から来ていた。
 痛い、本当に痛い。まるで焼けた鉄を押しつけられたかのようだ。
「ミス・ヴァリエール!大丈夫かね!?」
 ミスタ・コルベールが何かを言っている。
 だが、この痛みのせいで何を言っているのかさっぱり頭に入ってこない。
 神様、始祖ブリミル様。これは一体何の罰ですか?
 そんな悪態をつきながら、ルイズは視線を痛む右手に移した。
 沈んでいく意識の中で見た自分の右手は、赤い光を放っていた。

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