Zero/stay night 07


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ルイズが2回に渡って爆破した教室の片付けが終わる頃には、すでに放課後になっていた。
先生に報告を済ませたルイズは、ランサーを引き止めようとするシュヴルーズ先生を半ば強引に振り切って、中庭までやって来た。
放課後と言っても、まだ日は高く、生徒たちは庭でお茶やおしゃべりを楽しんだりしている。

そんな級友たちの様子を見ていると、自分は何をやっているのだろう?などと、ルイズは考えこんでしまう。
ようやく魔法を使える糸口が見つかった、と思った矢先にまた爆発。
こんなコトで本当に魔法が使えるようになるのかしら......と、つい思考が悪い方悪い方へと流れて行く。

そんな私の内面など、相も変わらず全く斟酌する気の無い使い魔が声をかけてくる。
「何シケた面してんだ嬢ちゃん。笑ってる方がカワイイっつったろうが」
勝手に言いおくと、ランサーは私を置いてスタスタと何処かへ歩いて行こうとする。
「ちょ、ちょっと!ドコ行くのよ!」
至極同然と思われる私の問いにも、ランサーは、
「お嬢ちゃんが食べるモノを貰って来る。腹が減ってるからつまんねぇコト考えんだよ」
と振り向きもしないで、片手をヒラヒラ振りながら行ってしまった。

ハァ、と嘆息を漏らしつつ近くの椅子に座り込む。
結局のところ、私がまたイロイロと考え込んでしまっていたこともお見通しだったらしい。
しかし、使い魔に心労を悟られて心配されるなど主失格もいいところだ。
それが、かえって私を落ち込ませる結果になるのだけど......


そうしてルイズが再びネガティブ思考のスパイラルに陥っているとは知らず、ランサーは食堂へ到着していた。
「いよぅシエスタ、ちょっといいか?」
そこで今朝のメイドを見つけて、声をかける。

「あ、ランサーさん!」
声をかけたのがオレと解ると、シエスタは笑顔を見せて近寄って来た。
「今朝はありがとうな、助かったぜ」
「いいえ、そんな。私の方こそ助かりました」
僅か頬を染めて答えるその容儀を見る限り、もはや彼女の聊頼を得たのは間違いなさそうである。
本来ならここでさらに二手三手あってしかるべきなのだが、今は先にやるべき事がある。
「今、大丈夫か?」
「はい。ちょうど昼食後の片付けも終わりましたから。
 もう少ししたら貴族様方にデザートをお配りしないといけないんですけど」
「ああ、そんなに時間はとらせねえさ。ちょっと頼み事があるんだけどよ......」

「う~~~ん」
魔法学院とは、魔法を教える教育機関である。
事実、メイジにとって重要な使い魔召喚および契約を行うのも学院在学中に行われる。
しかし、教育機関として機能しているかといえば、そうとは言い難い。
「う~~~~~ん」
魔法についての教育など、実際には各々の家で行われているのが普通であり、
学院で行われる授業では、貴族としてとりあえず知っておくべき事項についての確認をしているに過ぎない。
そのため、魔法が使えないというルイズのようなイレギュラーなケースに全く対応できないのである。
「う~~~~~~~ん」
では、魔法学院は何のために存在しているかと言えば、それは社交の場としてである。
同年代の大勢の貴族を集めて集団生活をさせることで、貴族同士の交流を通じ、社交界での振る舞いを予行演習するだけでなく、
長子であれば家督を継承した後の、次子以降であれば自立した後のための人脈を築くことにも役立つ。
「う~~~~~~~~~ん」
だからこそ、授業は早々に切り上げられ、午後の大半は貴族同士の交流を図るための時間となる。
よって、昼食後は学院の庭に設けられた場で他愛も無いおしゃべりに興じたりするのである。
こと使い魔召喚の儀式が終わった直後とあれば、皆自分や友達の使い魔の話で盛り上がっている。
「う~~~~~~~~~~~ん」
ハズ、なのだが、先刻から淑女にあるまじきうなり声をウンウンとあげる少女がひとり。
誰あろう、我らがルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールである。
まあ、ルイズが悩んでいる原因も、彼女の使い魔だったりするのだが。


とりあえず、魔法については使い魔に教えて貰うということで納得した。
今までの様に、成功の糸口すらつかめない状態で努力するのではなくなっただけでも、大きな進歩と言える。
使い魔との関係についても、今は師弟関係でかまわない。
主としての威厳なんて、ちゃんと魔法が使えるようになってからでいい。
アイツだって、私の言う事聞かずに好き勝手やってるってワケじゃなくって、ちゃんと私のコトも考えてくれてるし......

ただ、問題はアイツの私に対する気の使い方だ。
アイツのアレは、従者が主を気遣うってカンジでもないし、師匠の弟子に対する態度ってわけでもない。
そう、アレは――――
「出来の悪い弟を心配するお兄さん、ってカンジなのよね......」
そう、どうにも子供扱いされている気がしてならない。
たとえ今はまだ未熟でも、対等な相手として観て貰いたい。
だけど、威厳を示すという方向性はダメだった訳で......
結局、またもどうしていいかわからない。
何をやっても空回りで、何をすればいいのかもわからなくって......
「――――これじゃあ前までと変わらないじゃない」

「何が変わらねえんだ?」
「だから、アンタを召喚する前と......って、何時戻ったのよアンタ!」
考え込んでいた所為で、使い魔が戻ったことにすら気付かなかったらしい。

「ま~た、つまんねえコトで悩んでたんだろ?
 さっきも言ったろ?腹が減ってるから、んな辛気くさいコトばっか考えんだよ。
 ホラ、冷めないうちに食べな」
そう言って湯気の昇っているスープ皿を差し出して来るのだが、ソレ以前に――――
「何で、アンタが給仕の服を着てるのよ!」
そう、戻って来た使い魔は、蒼色の体にフィットした軽鎧でなく、黒を貴重とした男性用の給仕服に身を包んでいた。
「おお、案外似合ってるだろ?」
「似合ってるだろ?じゃないわよッ!私は、理由を、訊いてるのッッ!」
思わず、回りに他の生徒がいるのも忘れて声を荒げてしまう。
「ああ。それがな、朝に洗濯手伝ってくれた女の子居ただろ?」
そんな私の怒気など塵芥も意に介さず、使い魔はしれっとした態度で話し始めた。

「服、ですか?」
「ああ。何しろオレはココに召喚されたモンだから、着替えなんて持って無えんだ。
 つっても、何時までもこんな格好でウロついてんのもな」
「はぁ......そう言われましても、貴族様が着るような服は、流石に......」
「だから、そーいうのは関係無ぇって。サイズさえ合えば何でもいいんだ」
「ええと、確か男性用の給仕服ならあったはずですけど.....」
「ああ、ソレでいいから、譲って貰えねえか?」


「......ってなワケで、この服を貰ったんだがな。
 タダってのも悪ィと思ってよ、丁度デザートを配るとこだって言うから、手伝う事にしたんだが」
「ってなワケ、じゃなァーーーーいっ!」
使い魔の話に呆れて、またもレディとは思えない大声を出してしまう。
「なんだよ。タダで貰ってくりゃ良かったってのか?」
「そーいう問題じゃないでしょ!使い魔が給仕の真似事なんて、
 『ヴァリエールは使い魔に働かせてる』なんて思われたらどうすんのよ!」
そんなウワサが立ったりしたら、ヴァリエールの家に迷惑がかかってしまう。
いや、それだけならまだいい。むしろそんな事態になったら、
(お、お母様にコロされる......!)

脳裏に、幼き日に母カリンより受けた『指導』の数々が甦り、ルイズは身震いする。
「と、とにかく!服が必要なら私が買ってあげるから、その格好はダメ!」
そう怒鳴り散らす私を見て、流石にコイツも私の言う事を聞く気になったらしい。
「わあったよ.....でもなぁ、ソレはソレでお嬢ちゃんにたかってるヒモみたいで格好がつかねえんだが」
「ソレこそアンタの勝手じゃない。ココはレディに譲りなさい」
そう言って、使い魔の反論を封殺する。
アイツはまだ何か言いたそうではあったが、
「ま、ソレもそうだな」
と一言言うと、スッパリ服の件については割り切ったらしく、もはや表情にも拘泥の名残は感じられない。
そういう切り替えの良さというか、一度決めてしまえばグダグダと尾を引かない精神性は、間違いなくコイツの美徳だ。
そんな所も、私には無いモノだから――――って、何でコイツの気性なんて解るのかしら。
今朝からそうやって身に覚えの無い情報が頭の中に浮かんで来るのだが――――

「ま、今日だけは勘弁してくれ。もう手伝うって約束しちまったからな。」
私が考え込んでいる間に、アイツは勝手にそう結論づけて手伝いに行こうとする。
何となく、それが気に食わなくって、咄嗟にアイツを呼び止めてしまう。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「何だ、コレ以上は譲歩しねぇぞ?約束を破るのだけはいくらマスター命令でも聞くわけにはいかないぜ。
 どうしてもって言うんなら、令呪でも使うか?」
「そ、そそそその令呪の話よ。コレって、どうやって使うの?」
「何だ、本当に使う気か?」
「違うわよ。大事なモノだから大切に使えって言ったのはアンタでしょ。
 そうは言っても、使い方がわからなかったら、いざって時に困るじゃない。」
コイツの話によれば、他のサーヴァントやマスターが襲って来ることも在り得る。
そうなってから「使い方を知りませんでした」ではお話にならない。
まあ、本当は他に引き止める理由も思いつかなかっただけなんだけど......

「ああ、ソレもそうだな。
 ま、そう難しいモンじゃ無え。命令を頭に浮かべながら、ヒモを解くカンジでいい筈だ。」
「ソレだけ?ホントに簡単ね」
「まあ、ソイツは聖杯が与える、後づけの力だからな。
 面倒くさいこたァ全部聖杯任せなんだろ。」
「......そんなコト、言われなくたってわかってるわよ」
ランサーはつまり『そんな力は実力じゃない』って言いたいのだろう。
勿論、私は自分の実力以外のモノなんかに頼りたくない。

そんな言外の決意を知ってか知らずか、ランサーは私の返答に満足げに頷くと、
じゃあな、などと言って、さっさと他のテーブルに行ってしまった。
無論、というか何と言うか、女の子の居るテーブルに向って。
「何よ、ああなると思ったから呼び止めたのに~~~~」
う~、とうなりながらスプーンをぎしぎしと音が出るまで握りしめる。
そんな私の様子を見て、回りの子たちは「また爆発するんじゃ......」なんて失礼な事をほざいてる。
てか、聞こえてんのよ。それは何?ワザと私に聞こえる様にして爆発させたいのかしら~~~?

そうして、漫画だったら背景に「ゴゴゴゴゴ......」みたいな効果音とかスタンドとか出しかねない鬼気を纏うルイズ。
周囲の生徒たちがそんなルイズに戦慄を覚える中、無謀にもルイズに声をかけるメイドがひとり。
「あ、あの、ミス・ヴァリエール?どうかされましたか?」

「何よ!......って、アナタは確か――――」
見ると、恐れおののく黒髪のメイドが一人。
この娘って、朝にランサーが洗濯を手伝ってた娘だっけ?
そのメイドは、最初に私が語気を荒げていた所為で、すっかり怯えてしまっている。
回りの貴族の子たちがビクついてるのを見てすっかり頭に血がのぼってたけど、
こう身分が下の者に必要以上に恐縮されると、流石に冷静になってくる。
そう、私に身分の下の者を怯えさせて喜ぶ趣味は無い。
そうやって悦にいってる貴族も居るみたいだけど、そんなの、本当の貴族じゃない。
私がなりたいのは、そんなのじゃなくって――――

「も、申し訳ございませんでしたっ!」
突然、メイドが頭を下げながら大声で謝って来たせいで、思考が中断される。
......何か、昨日から私が考え事してると誰かに必ず邪魔されてる気がする。
いや、むしろ私が変に考え込んでしまうせいなのかも知れない。
それは、昨日から頭の中に身に覚えの無い情報が入ってくるせいなんだけど――――
要するに、アイツが悪いってことよね、うん。

まあ、ソレはソレとして、はて、このメイドはどうして私に頭をさげているのだろう?
もしかして、私が怒っているのを自分たちのせいだと思っているのだろうか?
「ああ、別にアナタたちに怒ってるわけじゃないわ。気にしないで」
「い、いえ!本当に申し訳ございません!
 ミス・ヴァリエールの使い魔様に私どもの仕事を手伝わせる様な真似をしてしまって......」
「ああ、そんなコト?別にいいわよ。アイツが勝手に手伝ってたんだし」
「ですけど......」
「いいのよ。アイツは変に義理堅いんだから、一度言い出したら聞かないのよ。
 ――――もっとも、アイツの場合、 ア レ が目的の気がしないでもないけどッ......!」
「ア、アレ?」
再び怒気をにじませる私に怯えながら、私の視線を追ってメイドが振り向いたその先には、
給仕の仕事をするバカ使い魔がいた。

確かにアイツの仕事ぶりに問題は無い。むしろ完璧に給仕としての仕事をこなしている。
ホントに何でも出来るヤツなのだ。そのうち3クール目のラスト辺りになったら「一流の執事に同じ技など!」とか言い出しかねない。
実際アレもアイツもやたらと不幸だとかサバイバーだとか共通点が多いし――――
......また変な情報が頭をよぎったが、それはどーでもいい。
問題は、さっきからアイツが女の子のテーブルばかり回って声をかけているコトだ。
勿論、ほとんどの女の子から相手にはされてない。
それはそうだろう。いくらアイツがいい男でも、平民の給仕の格好をしていては貴族の女の子には相手にされない。
だ、だから、別にアイツが誰に声をかけようと、か、かかかか関係無いんだからっ!

そう自分に言い聞かせて平静を装っているつもりのルイズであるが、
ベクトル量に換算すれば天地を斬り分たんばかりの怒りのエネルギーを隠しきれるハズもなく、
周囲は再びルイズより放たれる鬼気に戦慄する。
「あ、あのっ、ミス・ヴァリエール!せっかくのスープが冷めてしまいますよ!」
そんな切迫した空気を何とかしようと、果敢にも再びシエスタがルイズに声をかける。

「ン。それもそうね」
言われてみれば、そもそも昼食を取り逸れたからココにいるのだった。
空腹だから変な方向に思考が流れたり、つまらない事でイライラするのだ。
さっきから握りしめっぱなしで掌にくっきりカタチのついてしまっているスプーンで、スープをすくって一口飲んでみる。

「!」
おいしい。
単にお腹がすいているから、そう思うだけなのかも知れない。が、いつもこんなにおいしかっただろうか?
いや、単においしいと言うよりは、何と言うか、食べたくなるというか、食べやすい。
さっきまでのイライラが嘘の様に、最低限の品は失わない様にしつつ、夢中になって食べた。
いつもなら残してしまう様な量を、あっという間に食べきってしまう。

「おう、キレイに食べたな。まだ少しだけおかわりがあるが、食べるか?」
いつのまにやら、デザートを配り終えて戻って来ていたランサーが、満面の笑みで尋ねてくる。
「......お願い」
その、やたらと得意そうな顔が無性に気に食わなくて、憮然としながら空いた皿を差し出す。
そんな私の態度も気にならないのか、「おう」とだけ応えると、ランサーは食堂へと引き返して行ってしまった。

「......ったく、何でアイツがあんなに得意そうなのよ」
「得意そうと言うより、うれしいんだと思いますわ」
隣に居たメイドが声をかけてくる。結局、私が食べている間もずっと隣に控えていたらしい。
それより、今の言葉はどういう意味だろう?
「うれしい、って?」
「はい。あのスープはランサーさんがご自分でお作りになったんです」
「へ?」

アイツが、このスープを?
あまりに予想外な返答に、思考が停止状態に陥る。
「な、何で?」
思考がまとまらないが、とにかく事情を訊いてみる。
「それが、昼食の残りを暖め直してお持ちいただこうと思ったんですが、
 ランサーさんが『こんな味の濃いモノ、必要以上に空腹の時に食わすモンじゃ無え』とおっしゃって、
 無理を言って厨房を貸してもらって、ご自分でミス・ヴァリエールのためにお作りになったんです」
やたらとうっとりとした様子でメイドはそう語った。
「ナルホドね......」
まあ、アイツの万能性を考えれば、料理くらい出来ても不思議じゃない。
「はい。やっぱり、ご自分でお作りになったものを残さず食べていただけたら、うれしいと思いますわ」
「そうだろうけど......厨房を勝手に使うなんて、いい顔されないでしょう?」
貴族には貴族の、平民には平民の職掌というものがある。
その分を侵せば、貴族だろうが平民だろうがいい気はしないだろう。
「ええ、料理長のマルトーさんも、貴族の方を厨房に立たせるのは抵抗があったみたいですが――――
 私が朝に洗濯を手伝ってもらったことを話したら貸してくれました。
 それにランサーさんの包丁さばきを見てからは、むしろ感心してましたわ。
 『貴族にしておくのは惜しい』って――――あ、いえ、その」

つい喋りすぎてしまった、と思ったらしく何事か言い訳をしようとするメイドに「いいのよ」と返すと、
メイドは「それでは......」と言いおいて、そそくさと何処かに行ってしまった。
まだ、仕事があったのだろう。これ以上引き止めるのも悪いだろうから、そのまま行かせてあげる

一人になって、空腹も癒えた状態で考えると何だか納得できた。
なるほと、美味しいハズだ。あの料理は、いつも食べている料理とは違う。
普段の食堂の料理は、単に「貴族が口にするための料理」である。
様々に手を凝らしてあるが、それは不特定多数の者へ向けた料理。
だけどアイツの作ったスープは、私が食べることを前提に作ったものだ。
今の私の体調まで考慮して、私が食べるためだけに作ったものなら、それがマズい筈があるまい。

「はぁ~~~~~~」
深く、ため息をつく。
結局、私がグルグルとマイナス思考のループに陥っている間も、
アイツは自分のことだけじゃなくって、私のことも考えて行動してたわけで。
素直に認めざるを得ない。
「敵わないわね......」
もう、主としての威厳とか、そういうレべルの問題じゃない。
アイツの方が、私よりはるかに大人なのだ。
まずは、アイツに気を使わせないで済むようにならないと。
話はソレからだ。

「よし」
さっきまでのは空腹と疲労による一時の気の迷いだ。そう思う事にする。
とにかく、魔法を使えるようになる。ソレでやっと他の子たちと同じスタートライン。
アイツをどうこうするのは、その後だ。
先ずは、アイツが持ってくるスープのおかわりを食べ終えて、そうしたら早速ルーン魔術について手ほどきをしてもらおう。
そう、私が決意を新たにしていたというのに、ソレに水をさす様な騒ぎが聞こえてくる。

「何よ、ヒトがせっかく......」
文句の一つも言ってやるつもりで騒ぎの中心へと向って行くと、

「申し訳ございません!」
「アレは――――」
さっきのメイド―――ええと、シエスタだっけ?―――が、必死に頭を下げている。
「申し訳ないで済むか!キミのせいで二人の女性が傷ついてしまったんだよ!どうしてくれるんだ!」
そんな恐縮しきりのメイドを怒鳴りつけているのは、ギーシュ・ド・グラモン。
トリステイン国内に限らず、他国までその名の聞こえた武勇の名門、グラモン家の三男である。
もっとも、トリステイン国内では、武門としてではなく、代々女癖が悪いことで知られていたりするのだが......

ギーシュが怒鳴っている内容や、周囲の話し声を総合すると、この騒ぎもどうやらギーシュの二股が原因らしい。
アイツがモンモランシーから貰った香水を落として、ソレをあのメイドが拾って渡そうとしたら、
二股かけてたケティとかいう下級生がやって来てしまって、まずケティにフラれ、
続いてやって来たモンモランシーにその現場を見られてしまい、モンモランシーにも振られた、という事のようだ。

要するに、ギーシュがフラれた原因を作ったのがあのメイドだから、ギーシュが叱りつけている、と。
「くだらない......」
要はギーシュが二股をかけてたのが悪いというだけの話。
それをたまたまバレるきっかけを作ったのがメイドだからって、叱りつける資格は無い。
騒ぎを聞きつけて集まって来た回りの子たちも、大半はギーシュの身勝手さに呆れている。
かといって、積極的に止める気も無いらしい。
「――――」
何か、腹が立って来た。
平民に当たり散らすという、貴族の恥の典型のようなギーシュにも、
それを見とがめながらも、何もせず放置する他の子たちにも。
そんなの、本当の貴族じゃない。
こんな考え、今ではカビの生えたモノなのかも知れないけど、それでも、正しいと思ったから。
そう、アイツだって、こんな真似、放っておく筈無い。

そう、考えた時だった。
ギーシュとメイドを遠巻きにしていた人垣から、スタスタと二人に近づいていく男性用給仕服の人物が一人。
「ちょ、ラン――――」
声をかけようとして、真実、息が止まる。
マズい。
マズいマズいマズい。
アレは、相当に怒っている。
ギーシュが貴族らしからぬ振る舞いをしてるから?――――違う。
女の子がいじめられてるから?――――そんなんじゃない。
あのメイドは、アイツが朝に声をかけてた子だ。
その子がいじめられてるから、守ってあげようとしている?――――ソレも、違う。
アレは、アイツは、

自分の獲物に、横槍つけられるのが、許せないのだ......!

何でそんな事が判るのかとか、アイツの理屈はおかしいとか、そんな事どうだっていい。
このままだと、下手をすれば、アイツはギーシュを殺しかねない。
脳裏に、たった6歳のアイツに挌殺されて、ハラワタやら脳漿やらをブチ撒けた猛犬の映像が過る。
下手をすれば、あの再現が、ギーシュで......
その自らの想像に私が戦慄した時には、アイツはギーシュの真横まで辿りついていた。

逆上していたギーシュも、流石に気がついたようで、胡乱げにアイツの方を見上げる。
「何だねキミは。ボクは単にこのメイドに礼儀を――――」
「――――」
ギーシュが髪を掻き揚げたりしつつ何事かほざいていたが、アイツはそんな戯言など全く意に介さない様子で、
私のために持って来ていたスープ皿を手にとると、ギーシュの頭の上で一気に傾けた。
「わひぃ!?」
私が食べきるまでの時間を計算されて、若干熱めに暖められていたアイツ特性のスープを浴びて、
ギーシュは情けない声を上げて面白い位に慌てふためく。
その様子に、周囲から小さく歓声が上がる。流石にギーシュの乱行は目に余っていたらしい。
一方、助けられた形になるメイドは状況についていけず、ただただ呆然としている。

「ふぅ......」
とりあえず、(無い)胸を撫で下ろす。
ギーシュには悪いが、あのくらいは当然の報いだろう。
むしろ、あの程度で済んだことは僥倖と言える、のだが、
「何をするんだ、平民風情が!」
ギーシュは、その事実に気付いていない。
二股かけていた両方にフラれ、そのうえ平民にナメられたとあっては貴族の名折れ、とでも考えているのかも知れない。

だが、それは不味い。
今、ギーシュが喧嘩を売ろうとしている相手は、平民などでは決して無い。
未来永劫、過去永劫、槍の担い手として最強の部類に入るアイルランドの大英雄なのだ。
戦うなど問題外、歯向かってはいけない存在なのである。
ソレがスープをかける程度で済ませてくれたというのに、さらに食って掛かるというのなら、今度こそ、アイツは――――

止めなければ。
今度こそ、取り返しがつかなくなる.......!
「ちょ、待――――」
ちなさい、と続ける前に、
「キミは貴族を何だと......へぶぅっ!」
アイツに詰め寄っていたギーシュは、最後まで文句を言い切る事すら出来ず、アイツの拳を喰らって吹っ飛ばされた。
そう、文字通りギーシュの体が吹っ飛ぶ。
幼年ですら猛獣を屠るアイツの膂力は、ギーシュの軟弱な体をやすやすと数メイルに渡って弾き飛ばす。
倒れたギーシュの胸は確かに上下している。どうやら最悪の事態は免れたらしい。

だが、その暴力を前にして、周囲は騒然となる。
ギーシュの短慮も貴族を貶める行為だったが、
ソレ以上に、平民が貴族に手をあげた、その事実を看過しては貴族の権威は地に落ちる。
実際には平民では無いのだが、ソレを証すのは難しい。
なんたって、異世界から召喚された英霊なのだ。
このハルケギニアで爵位を持っている訳でもないし、ソレを説明しても信じてもらえるかどうか......
結局、回りの貴族たちは、今ギーシュを殴り飛ばしたアイツに制裁を加えようとするだろう。

そうなったら、終わりだ。
勿論、周囲の貴族たちと、私が、である。
そんな事態になれば、本当に死人が出る。
当然、アイツの主人である私も責任を取らねばならないだろう。
何とか、この場を収めないと。
「ランサー!」
そう声を張り上げて、アイツに走り寄る。
大声も、人前でバタバタと走るのも淑女にあるまじき行為だが、それ所では無い。

さっきまで怒気を漲らせていたランサーだが、ようやく私に気付いたらしい。
「おお、嬢ちゃん。悪いな、スープのおかわりは無くなっちまった」
まるで天気の話でもするかのような気軽さで、そんな検討違いなコトを言ってくる

それで、キレた。
海より深い謙虚さを備えるこの私ですら我を忘れて自画自賛してしまう程の忍耐強さを誇る私でも、もはや限界である。
「無くなっちまった、じゃなぁーーーーーーい!」
それは、今朝の再現。
走り寄る運動エネルギーの全てを乗せたドロップキックを、アイツの顔面に叩き込む。
それをバカ使い魔は素直に顔面で受け止める。
アイツなら余裕で避けられるハズなのだが、そういう変な所で義理堅いのだ。

ズザザ、と華麗な着地を披露する私に、アイツは顔面を足蹴にされた事など全く意に介してない様子で話しかける。
「なあ、昨日から思ってたんだが、お嬢ちゃんは体術のほうが向いてるんじゃないのか?」
「うるさいうるさいうるさーーーーーーい!
 そんなコトより、何勝手な真似してるのよ!無用の騒ぎを起こすなって、さっきも言ったわよね!」
「無用じゃねえさ。オレの獲物に手ェ出すあの坊主が悪い」
「だーかーら~~~~~~ッッッッ!あーもう!」
バカ使い魔に謝らせるのは無理そうである。もっとも、ソレでこの場が収まるとも思えないのだが。

「ちょっとギーシュ!」
ならば―――と、倒れたギーシュに向き直る。
バカ使い魔の、本気の数千分の一程度のパンチで意識を刈り取られていたギーシュであったが、
水メイジの治療で既に意識を取り戻していた。
単に脳を揺さぶられただけで、体のダメージは大した事はなさそうである。
よし。
「ル、ルイズ?ソイツはキミの使い「決闘よ!」かい?......って、え?」
意識を取り戻し、事態を把握したらしいギーシュが何事か言っていたが、それを無視して宣言する。

「ギーシュ、アナタには私の使い魔と決闘して貰うわ!」

ツールボックス

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