Zero/stay night 01


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薄暗い地下室を、激しく明滅する閃光が照らし出す。
閃光は、二人の男が繰り広げる剣戟の嵐によって起こる火花であった。
それほどの火花を引き起こす、人の理を逸脱した攻防は、実際には一方の男が相手の攻勢をかろうじて凌いでいるという、虐殺に近い内容。

虐殺を仕掛ける側の男は、黒い上下に、襟元にファーをあしらった白いジャケットを羽織るという、およそこの場で巻き起こる剣戟に似つかわしくない当世風の服装。
そのような出で立ちながらも、その男は薄暗い地下室にありながら金色に輝いて見えた。
プラチナブロンドの髪と、燃え盛るような深紅の瞳がそう見せるのか。否、それだけでなく、男から立ち上る強大な魔力そのものが金色を帯びている。
そして、男の背後にあるのは当然あるべき地下室の壁などではなく、その金色の魔力が具現した姿とも言うべき『門』だった。
空間一面に広がる『門』の内には数えることも愚かしく感じるほどの刀剣が現れ、目前の敵を百殺すべく降り注ぐ。
その無数の刀剣、降り注いだもの・降り注ぐべく『門』の内に現れ出るもの、すべて同じ物は一つとして無く、いずれもが一見して解るほどの宝剣宝刀。
金色の男はジャケットに手を突っ込んだまま、己が生み出した暴力の前に逃げ回るしかない哀れな相手を冷笑を浮かべて眺めている

その暴力に晒される男は、髪の毛から甲冑にいたるまで青、しかしながらその手にする長槍は相反する深紅という出で立ち。
青色の槍兵は、先刻から続く剣林刀雨に晒されながらも、
わずかな間隙を見出しては身を躱し、どうしても避けきれぬものは槍でたたき落として、何とかその攻勢を防ぎ続けている。
彼が身につける青色の甲冑は、一見して甲冑とすら呼べない軽装である。
身を守るための鋼鉄板を極力廃したソレは、その最低限度の装甲のみで相手の攻撃を防げるだけの技量が要求される。
彼は要求されるだけの技量を持っていたし、それ以前に彼に攻撃を届かせることのできる敵などまず存在しなかった。
だが、今や彼の体には無数の切り傷が刻まれ、頬からも一筋の血が流れ落ちている。
それでも、本来ならば串刺しすら生温く、人の形すら留めずバラバラにされる暴力をその程度のケガでかわし続ける彼こそ賞賛に値する。
「ハ、なかなかにしぶといではないか」
金色の男も感嘆に値したのか、青色の槍兵に言葉を投げかける。
しかし、青色の槍兵は理解していた。目の前の男は明らかに決着を引き延ばして遊んでいる。
「チィ!」
それがわかっていながら、身を躱すのがやっと、攻勢に移るどころか憎まれ口の一つすら返せぬことに苛立ち、舌打ちを漏らす。
反撃の糸口があるとすれば、目の前の男がいまだ本気を出していないという事。
その慢心につけこんで、己の宝具である槍の『真名』を解放するだけの時間が取れれば、あるいは ――――
そうして、細い細い反撃の糸口を何とか手繰り寄せようとしていた彼に、


「だが」
冷笑を浮かべた口元を、さらにつり上げて作った酷薄な笑みを浮かべた金色の男が
「これで終わりだ、雑種」
そんな言葉と共に四方八方から繰り出した何条もの『鎖』を躱すことは出来なかった。
「ぐっ!」
迂闊だった。正面から降り注ぐ剣の雨を躱し、愛槍を敵に届かせる事にのみ集中していたが、ソレこそが敵の狙い――
空間をねじ曲げて武器を取り出すのなら、己の背後からだけでなく、敵の側面・背後から取り出す事が出来るのも当然。
己の背後に槍襖を見せておく事で攻撃はその一面からと思わせておき、本命は四方八方からの鎖による奇襲。
「自分の実力を過信するバカかと思ったが、なかなかどうして戦上手じゃねえか」
そう憎まれ口を叩いておいたが、もはや完全に手詰まりだった。
先程から、槍を振るおうとしても、手持ちのルーンを発動させようとしても、全く力が出ない。

「フン、減らず口を叩くのがやっとであろう?
 その鎖は、かつて我を苦しめんが為に神が放った天の雄牛を束縛したもの。神を縛るための宝具よ。
 どこぞの光明神の血を引くキサマではもはや抜け出ること叶わぬぞ」
「!――――ハッ、大したモンだ。流石は人類最古の英雄王サマだなぁ、オイ」
笑みを浮かべてそう言い返すと、金色の男は酷薄な笑みをわずか収め、ほぅ、と声をもらす。
「フン、死ぬとわかって翻心を起こす愚昧でも、我の宝具を見れば流石に察するか」 ――――そう、この鎖こそが彼の宝具。今まで使い捨てた聖剣魔剣、そのいずれもが金色の男にとってただの武器に過ぎなかった。
かつて、あらゆる財を一手に収めた金色の魔人は、後の世で神話・伝承に語られる英雄の象徴たる宝具、そのすべての『原典』を所持している。
それはつまり――――

「では褒美だ。特別にキサマはこの剣でトドメを刺してやろう」
そう言って、金色の男は一本の奇怪な剣を取り出した。
その剣の刀身は、さながらドリルの様にねじくれており、およそ剣としての実用に堪えられるモノには見えなかった。
しかしながら、その剣を目にした途端、青色の槍兵は体全体が硬直し、浮かべていた笑みすら強制的に引きつらされる。
その剣は後に螺旋剣《カラド・ボルク》と呼ばれるモノ。余人には奇妙な剣でしかないが、ケルト神話最大の英雄にとって、ソレは己の敗北を意味する
「この剣の前では、キサマは一度負けなければならないという制約を背負っているそうだな。
 わざわざ使うまでもないと思ったが、手向けだ。受け取れ」
さも勿体つけて言いおいた後、金色の男が無造作に剣を投げる。
槍兵は、鎖と剣、二つの制約の前に指一本動かす事が出来ず、なす術も無くその身に剣を受けた。
青色の槍兵は、光の粒子となって消えて行く。
もとよりこの世ならざる賓人の身、故にその消滅は必然の理。
「さて、何か言い残す事があるか雑種。今の我は機嫌が嘉い。恨み言でも聞いてやらん事もないぞ?」
消え行く槍兵に向かって、金色の男は余裕たっぷりにそんな言葉を垂らす。

そんな放言を聞いて、槍兵は僅か考える。
「そうだな....色々言いてぇ事はあるが....強いて言うなら」
そこで言葉を切って、ニヤリと不敵な笑みを浮かべると、
「次に召喚されるなら、気が強くて胆が据わった美人がいい」
と、今にも消え行く者とは思えぬ口調で、余裕たっぷりに言い放った。

金色の男は一瞬、呆けたような顔をした後、堪えきれぬといった風情で小さくない笑声を漏らす
「ク、ハハハハハハッ!そういえばキサマは自分の死の間際にもカワウソの貪欲を笑い飛ばしたのであったな。
 ッハハハハハハ!最期まで興じさせてくれるな、雑種。褒美に聖杯を下賜してやってもよいくらいだ。」
「うるせぇ。もともと聖杯なんざ興味ねぇっつっただろ。今のテメェのアホ面拝めただけで十分だ」
そんな槍兵の憎まれ口を受けて、金色の男はようやく笑いを収めた。
「フン、その無礼も許してやろう。ではな雑種。せいぜい呑まれた聖杯の中で、我が花嫁を迎える所を見ているがいい」
「ハン!テメェこそ、せいぜい騎士王サマに足下掬われないようにするこったな。次も慢心してると痛い目見るぜ」
そう言い返す槍兵の体はもはやほとんど消えかけており、金色の男が言い返す事も、槍兵がさらに言葉を紡ぐ事も無かった。
そうして、槍兵の魂はかの万能の器の紛い物へと呑み込まれ、
槍兵の言いおいた通りに、彼が逃がした二人が金色の魔人とその主を打倒して聖杯を破壊した後は、
時間軸より外れた『座』の本体へと帰還する

はず、だった。


膨大な魔力の奔流が流れ込み、実体の無い彼の体に確かな存在を与えていく。
どうやら、また召喚されたらしい。
と、そこまで考えてハタと気づく。
(ちょっと待て、「また」って何だオイ)
彼らは一度『座』に帰還すれば、召喚されていた間の出来事は「経験」ではなく、そういうことがあった、という単なる「知識」として認識されるようになる。
ならば、たった今召喚された自分は実際に召喚されたのは「体験」としては初めてでなければならない。
つまり、今の自分は冬木の聖杯戦争を経験したままの自分なのであって、等と目まぐるしく錯雑と走らせていた彼の思考は――――


「アンタ誰?」
という、少女の声に中断された。


それが、アルスター伝説にその名も高きアイルランドの大英雄《クランの猛犬》クー・フーリンと
後にハルケギニア中にその名を轟かす《戦場の赤い光輝》ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの出会いだった。

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