ゼロの使い魔(サーヴァント) 02


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「いい朝です」

 セイバーは陽光を浴びながら伸びをした。
 サーヴァントであるこの身には、暑いの寒いのはたいした意味はないが――と一人ごちながらも、彼女は思う。
 やはり、朝日の中に立つのは気分がいい。
 そこがかつて自分がいた時代であろうと、英霊として呼ばれた時代であろうと。
 まったく見知らぬ異世界であろうと、だ。
 鎧を消してドレス姿になったセイバーは、脇に彼女のマスターの衣服の入った籠を抱え、何処か感慨深そうに歩いていた。
 平行世界でもなくて完全な異世界……ここはきっと第二魔法も届かない場所だ。
 恐らく二度と凛にも士郎にも会えない――というのに、どうしてか口元に微笑が浮かんだ。
 昨晩の、あの新しいマスターの様子を思い出していたのだった。



 ◆ ◆ ◆


「改めてマスターである貴女だけに名乗ります。
 わたしの名はアルトリア・ペンドラゴン。
 セイバーとは剣士の意です。剣を得意とする者の頂点に立つが故に名乗ることを許された称号――のようなものだと思ってください」

 マスターであるルイズの部屋についてから、セイバーは椅子に座り、説明する。
 説明するとは言っても、何処から何処まで話せばいいのか彼女自身にもよく解らなかった。聖杯戦争の時はその時代で生きていくための常識などの基本知識が与えられていたが、このたびの召喚ではさすがにそれはないようだった。
 言葉が通じているだけでもありがたいので、そこまで要求するのは贅沢であろうとは思うのだが、せめて一般常識程度のことはあらかじめ知っておきたかったというのがセイバーの偽らざる心情だ。
 だから、説明とは言いながらも、互いに質問をしながらの問答のようなものとなってしまったのは必然だった。
 ルイズにしてから、見るからに身分の高そうな騎士が召喚ゲートをくぐるなどというのがどういうことなのか問い詰めたいところであった。
 それでもあまりそういう過去を問い詰めるのも貴族としてどうかと思ったりするが、しかし、まったく知らないというのでは話にならない。
 だから、差しさわりのない範囲でも情報を収集しようと言葉を重ねることになる。
 まず、自分は人間ではない、ということをセイバーがいうと「亜人なの?」とルイズは目を丸くしてまじまじと見つめてきた。
「エルフ――ではないわよね」
「エルフ? まあ違いますが、まったく縁がないわけではありません」
 泉の妖精とかそういう意味で言ったのだが、ルイズの顔には明らかに驚愕と、そして恐怖が浮かんだ。
 何か迂闊なことを言ったか、とセイバーは思ったがあえてそのことについては問わず、そもそも、と言葉を継いで。
「わたしはこの世界の人間ではありません」
 言った。
 ルイズがその時にどういう顔をしたかというと――
(はあ? 何いってんだコイツ?)
 といわんばかりの怪訝な表情であった。
 セイバーはかいつまんで話をした。
 曰く。
「わたしはここではないところからきました」
「そこの世界では魔術を使う人間はいないでもないが、数少ない」
「そして自分はそこの世界で英霊と呼ばれていて、ちょっと前まである魔術師の使い魔をしていた」
 ということである。

 当然のことであるが、ルイズがそれらをまともに受け取ったかというと、セイバーの目から見ても「全然信じてませんね」と思わざるをえない顔をしていた。
 実際に信じてなかった。
 とはいえ、ルイズもセイバーが好んで嘘を言うような人間にも思えなかったから、何かの事情があってやむをえずに適当なことを言っているのだと判断した。
 このあたりはコルベールの思考と同様の展開である。ただ、
(きっと使い魔になってしまったことが恥ずかしくて、本当のことは言えないのね)
 という、微妙に師ともずれた結論に至ったが。
 多分、その名を聞けば誰もが知る……とまではいかなくても、かなり有名な貴族なのだろうとルイズは思った。
 だからこのような荒唐無稽な話をするのだろうと。
 かなり失礼な考えではあるが、彼女の中の常識などから鑑みてこのようなものになるのは仕方がなかった。
(にしてもペンドラゴン……アルビオン風の姓ね)
 正しくアルビオン風だと、アルトリア・オブ・ペンドラゴンになるのだけど。
 あるいはアルビオンの王家に連なる貴族なのかもしれない。そういえば、ちょっと前に廃絶されたアルビオンの大公家には公にはできない娘がいるという噂を聞いたことがあるが……さすがにそれはあるまい。
 いずれ必要な時期がきたのなら話してくれるのだろうとルイズは判断し、大物ぶって鷹揚に頷く。
「また細かい話は明日になって改めて聞かせてもらうけど」
「はい」
「あなたは、本当に私の使い魔をやってくれるの?」
 そうだ。
 それだけがルイズの一番気になることだった。
 たとえセイバーが身分を隠した貴族であるとか、あるいはそうでないとしても、とにかく問題になるのはそのことである。
 何せ使い魔というのは主人と一心同体。主人の分身である存在だ。今まで人間が使い魔になったという話は聞いたこともないが、基本的な役目はそう変わらないはずだ。
 つまり。
 主人の目となり耳となってくれたり。
 主人のために薬草を探したり。
 主人のを守る護衛となってくれる――
 使い魔というのはそういう存在なのである。
(そういうこと、仮にも人間にやらせていいのかしら)
 ここでもしも召喚されてきたのがただの平民の生意気な口でしゃべる男の子だったりしたら、ルイズもそういう風には考えないのだろうが、彼女の召喚に応えたのはどうみても貴族かそれに連なりそうな、あるいはそれ以上の威厳を持ったセイバーである。
 どうしてもそんなことを考えてしまうのであった。
「問題ありません」
 そんなルイズの葛藤などどうでもいいように、セイバーはいう。
「先ほども申しましたが、この身はすでにサーヴァントです。それが必要となればそうします。貴方は貴方にとって相応しいと思える選択をすればいいのです」
「……うん、まあ、あなたがそういうのならそれでいいんだけど……」
 セイバーにまっすぐに目を向けられたが、ルイズはついと目を逸らしてしまった。
 それで、その日に聞くべきことは終わってしまった。
 あとは寝る場所をどうするのかという問題があったが、さすがに貴族を藁の上に寝させるという訳にもいかないので、「申し訳ないけど」と言い添えて自分と一緒のベットで眠るように進めた。
 ちなみに服は自分で着た。
 そうして横になって、自分のすぐ側にいるセイバーに話しかけることもできず、なかなか緊張も解けなかったルイズだが、やがて今日一日の疲労がたまったのか、急激に眠気に襲われ、落ちるように意識が途切れた。
 その直前に、
(私にとって相応しい選択って何だろう?)
 そんなことを思った。
 答えはでなかった。



 ◆ ◆ ◆


「マスターが起きる前に洗濯を済ませてしまいましょう」 

 とセイバーが思ったのは、いつもの習慣であったりする。
 つい何十時間か前までいた世界では、彼女は自分の主人の身の回りの家事の一部を担当していた。
 一部というのは大方はマスターであるところの遠坂凛が自分でやってしまったからである。あかいあくまとか色々といわれているが、凛は魔術師として以上に人間として、女性としても非常に高水準のスキルを会得していた。
 セイバーもその凛に仕えながらその技を磨いた――と言いたいところだが、英霊という存在は基本的に「終わった」存在である。
 受肉などをすれば話は別かもしれないが、サーヴァントのままでは凛並みの家事能力を得るというのは不可能であった。
 それでもまあ、一定の手順をこなす程度のことならできる。
 洗濯物を洗ったり干したり、お風呂掃除をしたり料理の材料を買い出したりとか。
 そういうことはセイバーの仕事だった。
 正直、剣の英霊がするようなことではないとも思うのだが、裏の世界では色々とあるとはいえ、世界は基本的に平和である。
 戦う以外の術をほとんど知らない彼女にしてみたら、それはそれで新鮮で何にも変え難い大切なことなのであった。
 で。
 現在は異世界であるところのハルケギニアで、籠を持って洗い場を探している。
『……いや、あなたに雑事なんてさせるわけにはいかないと思う……』
 ルイズは昨晩にそういうことを言っていたのだが、そこのあたりはやんわりと自分の主張を押し通させてもらうことにした。
 使い魔として召喚されておいて食っちゃ寝生活に甘んじるわけにはいかない、というのがセイバーの主張であった。
(とりあえず、ゆっくりとこの世界に慣れましょう)
 洗い場は適当に歩いていたら見つかった。
 そこでしゃがんで籠の中身を取り出す。
 絹製の下着だ。
 この世界にも蚕はいるのか、と思った。
「懐かしいですね……見習い騎士だった時代は、こうして手洗いをしていたものですが……」
 ひとりごちながら、ドレスの裾を捲くる。
 半ば霊体の服であるから、別に濡れようと汚れようとたいした問題にはならない。
 しかしそのままでいては見ている人間に訝られよう――という判断があった。
 ドレス姿で洗濯をしているというのがそもそもありえないということにまでは思いいたらない辺り、彼女の世慣れてなさが知れる。
 とにかくそんなこんなで洗濯物を出していちいち丁寧に揉み洗いする。
 かつてブリテンの見習い騎士時代では、このような上等な服を扱ったことなどはさすがにない。
 ないのだが、手触りからしても柔らかく、繊細に扱わなければいけないものだという程度のことは判断がついた。
 それに見習い騎士だった時代のことを思い出せば、特にこのような上等な絹の下着などというものは扱わせてもらえなかったということも覚えている。
 専門の人間が必要なのだ。
 それはその時代では絹というのが上等すぎるものであったからではあるが。

「あー、ダメですよ、そんな乱暴に扱ったら」

 声がした。
 反射的に立ち上がり、振り向いた。

「シロウ――」


 どうしてか、そう言ってしまった。
 言ってから、セイバーは困惑する。
 そこにいたのはメイドだった。
 年の頃は十五歳かその前後の、黒髪の少女だ。
(そういえば、マスターはそのあたりにいるメイドにでも任せてしまえばいいと、そうもいってたが)
 来る途中に出会わなかった。だから自分で手洗いすることに決めたのだが。
 メイドの少女は、首を傾げる。
「しろう?」
「いえ、申し訳ございません」
 貴女が――――何、というべきなのだろうか?
 どうして自分がシロウという、かつての自分の主の名前を口にしてしまったのか、その理由がよく解らない。本当に解らない。
 この黒髪の少女を他の誰かに誤認するとなると、それはシロウの師匠であり、彼女の先日までのマスターであるリンの方ではないだろうか。
 困惑しているセイバーに、少女メイドはさらに首を傾げて。
「誰かに似ていましたか?」
 と聞いた。
「――――ええ」
 どう話していいのかも解らないので、セイバーはそう答えておいた。
「少し、私の故郷の知り合いに似ています」
「そうなんですか?」
「本当に」
 まったくの嘘だ。
 少女のつややかな黒髪は、確かに何処かリンに似ている。
 少女の目元の形は、シロウに似てなくもない。
 だけど、それだけだ。
 もっというのなら、仮にシロウやリンに似ていたとしても、二人共故郷の人たちではない。
 彼女の故郷はこの世界にはないし、さらにいうのならば時代も違っている。
 あそこに還る時があるとしたら、彼女がこのサーヴァントとしての現身を失った時だろう。
 それにしたって、この異世界からあのカムランの丘へと戻ることがあるのか、それすらも解らないのだけど。
 少女は何か納得いったように何度も頷き。

「アルビオンにも、親戚はいた気はするし――」

「まってください」

 セイバーは言葉を遮った。
「アルビオンといいましたか?」
「え――違うんですか? 何かアルビオンからの亡命貴族が昨晩こられたという噂話をきいてて」
「いや、そうではなく――アルビオン――ここにもあるというのですか!?」
 烈しく詰め寄られ、少女は困惑したように後ろに下がる。
「アルビオンはありますよ?えーと、他にも、あるんでしょうか? 私はその、学がないので……読み書きくらいはできるんですが……」
「いえ、失礼」
 セイバーは我に返った。

(アルビオンという名に、反応してしまった)
 それは、彼女の故郷である大ブリテン島の古名だ。
(ここは、遠くとも平行世界なのか? あるいはだとしたら――)
 少しだけ考え、しかし彼女は首を振った。
 今、それはさほど重要ではないと思えた。
 それよりも。
「アルビオンの亡命貴族、と私は思われているんですか?」
「えーと……」
 少女はおずおずと語りはじめた。
 アルビオンは最近になって内戦が勃発している。それで多くの貴族が領地を失い、しかし王家の庇護を受けようにも反乱軍の勢力が日増しに強くなる中、それはとてもできず――
 結構な数のアルビオン貴族が国を捨て、各地に亡命しているのだという。
 そして先日の召喚の儀式に騎士らしい女性が現れて、それはもしかしたらアルビオンからの亡命貴族なのではないか――
 というような、そんな噂が学院内部に出回っているのだとか。
 召喚の儀式が行われたのが昨日で、その夜に食堂を中心にその騎士?の正体とは何かを詮索する会話があり、結構みんなそれが盛り上がったのである。
 ちなみにルイズが歩いて学院に戻った時は、食堂にはいかずに自室に直接帰っている。
 だからルイズもセイバーも、自分たちがかなり適当な、それでいてそれらしい説得力のある物語をみなにでっち上げられているなどということはまったく知らなかったのだった。
「なるほど……」
 そう頷きながらも、セイバーはどう対処すればいいのだろうかと考えてみた。
(まるで見当がつかない)
 とりあえずマスターに相談をして――
「……そろそろ、マスターを起こさなければならない頃合いですね」
 いつの間にか結構な時間が経過していた。
「仕方ありません。マスターの衣類の洗濯、頼んでよろしいですか?」
「あ、はい。お任せください」
「あなたに感謝を」
 セイバーは胸に手をあてながらそう言って、ここまできた道を辿って女子寮へと帰ろうとして。
 脚を止め。
 振り向いた。
「すみません。貴女のお名前を聞いていなかった」
「あ、そんなことは――」


「私の名前は、セイバーです」


 少女の目が、大きく広がった。
 セイバーは何処か怪訝そうに目を細めたが。
「貴女のお名前は?」
「わたしは、」
 どうしてか、少女は微かに逡巡して。


「シエスタです」


 そう言った。

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