シロウが使い魔-17


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第17章 珈琲閑話

 トリステインの王宮の門前ではいつも通り、当直の魔法衛士隊の隊員たちが厳重に跨り闊歩している。
 一国の王宮であるから、様々な用向きで訪れる人がいる。
 仕立て屋、出入りの菓子屋、色々な陳情を申し立てる者。その中にルイズと士郎がいた。
 アルビオンから直接、王宮へ出向いたのだ。
 キュルケやタバサ、ギーシュは街で待ってもらっている。

 謁見待合室に通されたルイズと士郎。
 「シロウ、姫殿下の前では失礼の内容にしてね」
 「無駄口は叩かないよ。礼儀作法とかよくわかんないから細かいとこは任せる」
 「もう、シロウもちゃんと覚えてよ。私の従者なら礼儀作法は必須になるんだから」

 「アンリエッタ姫殿下がお待ちである。…付いてくるように」
 アンリエッタの私室へ案内されるルイズと士郎。

 ………

 案内係の兵士は、コンコンと部屋のノックをして2人を連れてきたことを述べる。
 中からどうぞと声がする。アンリエッタの声だ。

 「失礼いたします」
 丁寧な貴族のお辞儀とともに部屋へ入るルイズ。士郎は頭を下げてルイズの後を付いていく。

 中にはアンリエッタと一緒に、マザリーニ枢機卿もいた。
 だがアンリエッタはマザリーニの存在を快く思っていないようだ。
 「枢機卿、わたくしは今から大事なお友達とお話をしたいのです。ご退室願えないかしら?」
 「それには従えませんな。こちらの話が終わってからなら、ご自由にと思いますが」
 「では、その用件とはなにかさっさと仰ってくださいますか」

 「そうですな。では、そういたしましょう。
  シロウ君と言ったかな。私の希望は叶えてもらえたかな?」
 「ええ、万事問題ありませんよ。 詳細は俺の主人から聞いてください」

 突然のマザリーニと士郎の会話に“?”マークの浮かぶアンリエッタとルイズ。
 士郎はルイズに報告をするように促す。訳のわからないまま、ルイズは報告を始める。

 「姫殿下、ええと、姫様が送ったお手紙なんですが、敵の手に渡るのは阻止できましたが、
  ウェールズ皇太子が万が一のことを考えて燃やしてしまわれました………」
 「………そうですか。あの方が自ら…」
 「アルビオンから避難船がやってまいります。そちらの受け入れの方はできてますでしょうか?」
 「そちらは大丈夫です。 ここにいる枢機卿にも相談して受け入れる用意はしておきました」

 「あと、姫殿下には大変言いづらいのですが、ワルド子爵は敵の間者でした。
  わたくしの従者が討ち取りましたが……」
 目を丸くして驚くアンリエッタ。まさか近衛の中に裏切り者がいるとは予想してなかった。
 だが、マザリーニにとっては予想の範疇内だった。
 ただ、自分が重用しているグリフォン隊の隊長が敵と通じていることまでは思っていなかったが。

 他に何を報告すればいいか考えるルイズ。士郎が敵艦隊を落としたことについての報告は
 保留することにした。 なにせガンダールヴに絡みかねない問題だ。
 国の重鎮(王女と枢機卿)などに報告するとどんな要求をされるかわかったものではない。

 「以上でございます。姫殿下」
 「枢機卿はこの度の指令のことは知ってらしたということですね?」
 アンリエッタがマザリーニに尋ねる。
 「はい。姫殿下。
  ヴァリエール嬢の従者から相談を受けまして、指示の通り動いてもらっておりました」
 アンリエッタは不機嫌そうな顔でマザリーニを見た後、士郎を少しだけ睨んだ。

 「正直申しまして、最初から私に仰ってもらえれば同盟破棄などの火種になどには
  ならなかったのですがね。
  いや、放置していてももしかしたら何の影響も出なかったかもしれませぬ」
 「どういうことです?」
 「言葉の通りですよ。ゲルマニアという国は色恋沙汰に関してわが国よりも大らか。
  たかが愛をしたためた一通の手紙など、あの王は歯牙にもかけなかったやも知れませんな」
 マザリーニの物言いにアンリエッタは悔しそうに俯く。マザリーニは挨拶もそこそこに退室した。

 マザリーニが退室したので、ルイズの口調が少しだけ砕けたものになった。
 「これをお返しします。姫さま」
 ルイズは水のルビーを指から外して差し出した。
 「それはあなたにあげた物です。 わたくしは他に褒美など用意できないので、
  せめてそれを受け取ってもらえると嬉しいのですよ。ルイズ」
 そう言われては返すのも躊躇われる。 ルイズはそっと自分の指に戻した。
 「姫さま、わたしができることがあれば何なりと仰ってください。
  いかなる時でも参じて、お力になりたいと思っております」
 ルイズはそう言って、士郎と共に退室をした。

 兵に付き添われて廊下を歩いていると、マザリーニが二人に声を掛けてきた。
 「此度は苦労を掛けてすまなかった」
 「いえ」
 そっけないルイズ。
 「ルイズ、先に行っててくれ」
 「え? なんで? わたしはシロウと一緒に居るわよ。 秘密の話でもしたいの?」
 士郎の主はルイズなので、追い払うわけにもいかず、マザリーニは仕方なしに二人を自分の執務室へと
 案内した。

 ………

 「さて、早速なのだが私の頼んだことはどうなったであろうか?」
 「はい。 枢機卿の手紙は皇太子へ渡しました」
 「君から見た貴族派『レコン・キスタ』はどのような感じだったかな?」
 「そうですね。全体的に士気は低い気がしました。
  白旗を掲げている船を襲ったりできる指揮系統なんかには驚きましたよ」
 「白旗を上げた船だと?」
 「ニューカッスル城からの避難船ですよ。武装もはずしてました。後から聞いたら、あらかじめ
  貴族軍にも連絡入れていたそうです。 こういうのって襲わない慣例なんでは?」
 「ああ、普通はそうだ。敵味方とはいえ内乱が発端であるから、兵の家族がどちら側にいるか
  わからん状態だからな。 避難船を襲うということは身内を襲う怖れがあるということだ」

 士郎は王軍が貴族軍に大打撃を与えたこと(自らが多数の船を落としたことは伏せた)、
 多くの捕虜を捕らえたこと、捕虜の様子から士気や規律が低いことを知ったことなどを
 マザリーニに伝えた。

 「ううむ……………」
 黙りこんでしまったマザリーニ。アルビオンの内乱の動向はトリステインに多大な影響を及ぼす。
 できればアルビオンにはじっとして貰いたいのだが、下手をすると戦争状態になりかねない。
 アルビオンへの間者の数を増やして、もっと詳しい動向を探る必要があるかもしれないと
 マザリーニは考えた。
 「いや、すまない。 大変参考になったよ。
  またなにか依頼をするかもしれんが、その時はよろしく頼む」

 ………

 「シロウ、枢機卿となんか約束でもしたの?」
 王宮を出て、他の皆と合流すべく城下町を歩く道すがらルイズは士郎に尋ねた。
 「ああ、任務の見返りにトリステインにある図書館での閲覧許可を貰えるように頼んであった」
 (そうか! シロウは帰る方法を探すために……。わたしは彼に協力しないとダメなのに!)
 「シロウっ!! 頑張りましょ!!」
 「え? あ、あぁ頑張ろう。………?」

 ………

 「お~い、シロウ、ルイズ。こっちだこっち!」
 待ち合わせのカッフェで手を振るギーシュ。すぐに飲み物の追加注文をするキュルケ。
 「待たせて悪かったわ」
 「いいわよ。しばらくここで休んだら学院に戻りましょ。ね、ダーリン」
 しばらくして飲み物が運ばれてくる。緑茶を口にする士郎。
 「げ、砂糖入りかぁ……」
 しょんぼりした士郎を見て、キュルケが尋ねる。
 「え? ふつう『お茶』って砂糖入りでしょ」
 「いや、俺の国じゃお茶はそのまま飲むんだよ」
 「え~、そのまま飲むなんて苦いだけじゃないっ」
 「紅茶なら、砂糖とかミルクなんか入れるのは普通だけど。
  お茶も紅茶も原料は同じでも、飲み方がぜんぜん変わってくるのは面白いな──」

 「「「「「………え~~~~~っ!!!」」」」」

 ルイズ・キュルケ・ギーシュだけではなく、一部周囲の客も驚きの声を上げた。
 「嘘でしょッ! お茶と紅茶が同じものだなんて。味も香りも全然違うじゃないッ!」

 「え? いや、常識だろ。あれ?常識だろ?」
 周りの反応に戸惑う士郎。あれ?常識だろ?
 どうやら、この世界ではあまり知られていない事実だったらしい。紅茶自体はかなり昔から貿易で
 入ってきていたのだが、『お茶』は最近知られるようになったので、まったく別物扱いだった。
 そのことをカッフェのオーナーに色々解説をしてもらったお客一同。

 ついでなので、オーナーに士郎は前に思った疑問をぶつけてみる。
 「ここってカッフェですよね。『COFFEE』は取り扱っていないんですか?」
 「あ~、君なかなか通だね。昔は普通に扱ってたんだよ。
  ただ外来物はどうしても交易路に依存するから、交易が廃れるとその品物は一気に入らなくなる。
  『カフィ』も昔は人気があったけど、最近は南と交易していないようだから入ってこないねぇ。
  あ、だけど擬似『カフィ』ならあるよ。 麦で作った『orz』って飲み物が」
 『orz』と聞いて周りの反応が悪くなる。なにかとても苦いものを口にしたような顔だ。
                                         ハ,,ハ
 空気を読んだ士郎はそれを注文することを丁重にお断りします( ゚ω゚ )
 ※イタリアにはORZOと言う飲み物が実在しますが、筆者は飲んだことがございません。
  麦茶好きの筆者はいつか呑んでみたいと思っております。きっとおいしい飲み物だと思います。

 この世界においても、カッフェの語源はやはりCOFFEEだったようだ。

 ………

 「やれやれ、帰りもあの鎧を着ることになるのか……」
 ギーシュが文句をたらたらと言う。それは自業自得だと他の面々は思った。
 「わたしがマント貸してあげてるの忘れてるんじゃないでしょうね」
 「あー、それはもちろん感謝しているよ。ミス・ヴァリエール」
 「まぁいいわ。それは貸しだからね」
 意外と強かなルイズである。ギーシュは渋い顔。

 「まぁいいわ。ここに用事が無いようだったら早く帰りましょ」
 一同賛成する。タバサの竜に皆で乗り込み早速学院を目指す。

 「短いような長いようなそんな旅だったなぁ」
 士郎がそんな感想を漏らす。
 「旅じゃないわ!任務でしょ!!」
 ルイズが訂正する。
 「ああ、そうだな。やたら疲れた。風呂にでもゆっくり浸かりたいな……」

 学院で働いている平民には風呂と言うものは、サウナだけしかない。
 五右衛門風呂の釜かドラム缶あたりを投影して作ってみようかと士郎は思った。

 もちろん学院には人が風呂代わりに使えるような大鍋など無いし、
 仮にあったとしても鍋を火に掛けたまま入るような事もできないし、
 ましてや2人一緒に入れる(異常に大きい)鍋なんて存在する道理など無いのである。

 ………

 「おかえり、シロウ君。 早速だが付いてきてくれ給え」
 学院に戻った一行を真っ先に出迎えたのはコルベールだった。
 なにかを見せたくてしょうがないという顔である。

 一行はコルベールと共に、彼の小屋の裏手へと向かった。

 そこには小さめのプール。いや、大きさで言えばジャグジー位の水溜りがあった。
 「なんですか? これ?」
 ルイズが尋ねる。
 「お風呂だよ、ミス・ヴァリエール。シロウ君が前から入りたがっていたから、学院長に
  生徒用の風呂に入れないか尋ねたら断られたが、作ってもいいと許可を貰ってね」
 「ありがとうございます、コルベール先生!!」
 士郎は大喜びである。士郎の喜びようがよくわからない他の面々。
 「そこまで彼が喜ぶ理由がわからない……」「そうね……」

 この日は学院長に任務の顛末を掻い摘んで話して解散となった。

 ………

 「あ゙~~、生き返る~~………」
 夜、満天の星空の下、風呂に入る士郎。
 彼の入っている風呂はいわば単なるプールであるから、もちろん直接焚くわけにもいかない。
 プールの横に湯沸しできるような仕組みがあった。(コルベールに長々説明を受けた)
 日本にある普通の風呂釜と同じような仕組みである。

 プール自体は錬金した石に覆われている。結構立派な露天風呂だ。
 さすがに人気の少ない場所とはいえ、裸をさらす気は無い士郎はシーツで風呂の周囲を囲う。
 (でもこんな変な覆いだと、かえって何だろうと覗くような奴も出てくるかもしれないな)

 「あら?なにかしら、このシーツ……?」
 案の定である。シーツがめくれあがって学院のメイドが入ってきた。
 「え!? ………きゃっ!!」
 裸の士郎に動揺したのか、激しい音と共に何かが割れる音がした。陶器か何かのようだ。
 「あー、またやっちゃった……、お給料から引かれちゃう。ぐすん」
 「シ、シエスタ!?」

 現れたのはシエスタであった。しゃがみこんでお盆の上で割れたカップを悲しそうに見つめている。
 「なにしているんだ? こんなとこで」
 「あっ! いえっ! あのっ!! 珍品を入手したんでシロウさんへご馳走しようと来たんです」
 「珍品?」
 「東方のロバ・アル・カリイエの嗜好品で『お茶』って言うものなんですよ。
  ところでシロウさん、こんなとこで何をしているんですか? これ、お風呂ですか?」
 「あ~、露天風呂って言うんだけどね。こっちに来てからまともに風呂に入ってなかったから、
  コルベール先生が気を利かせて作ってくれたんだ」
 「あ~、シロウさん達を見かけなくなってからミスタ・コルベールが何か作っていると思ったら、
  お風呂を作ってらしたんですか。また実験用の怪しいものを作っていると思ってました」

 「ところでシロウさん、お茶を一杯いかがですか?」
 昼間飲んだばかりだが砂糖入りのものだったので、普通のお茶を飲みたくなった。
 「お風呂で一杯か。“おつ”ってやつかな。じゃあ砂糖抜きで一杯」
 シエスタはお茶を入れて露天風呂というか、プールサイドに持ってきた。
 だが、プールサイドはとても滑りやすくなっており、派手にこけて士郎の上に落っこちてきた。

 「うっぷ!!」
 「きゃ~、ごめんなさい~~~~!! あ~~ビチョビチョになっちゃった」

 お湯から出たシエスタは全身水浸しである。スカートのすそを摘まんで絞ってみてもすぐには
 乾きそうに無い。

 「そうだわ!」
 おもむろに服を脱ぎだすシエスタ。士郎が声を掛ける間も無く、全裸になってしまった。
 そのまま脱いだ服は、風呂釜のそばに上手く並べる。 風呂釜をたくスペースがプールと同じ
 高さにあるため、そこは今は物を干すに格好の場所となっていた。

 服を並べ終えたシエスタはすばやくお風呂へと入ってくる。
 「えへへへ、少し恥ずかしいですね」
 と顔を赤らめるシエスタ。士郎の方は何も言えなくなってしまった。

 「あ──、いぃ気持ち………。私たち庶民のサウナと違って、このお風呂ってすぐのぼせそうですね。
  でも、まるで貴族になったみたいでとてもいい気分です」
 士郎の方がもう既にのぼせ上がっている。シエスタの体はとても魅力的だった。

 士郎が今までに見た裸と言えば、幼少の時分の藤ねえと恋人の凛くらいだ。だから、ここまで
 立派な胸をお持ちのヌードなど、グラビア女性以外では見ることなどありえない。
 思わず凝視しそうになって士郎はあわてて視線をそらした。

 「そんなに照れられたらこっちまで恥ずかしいです。外は暗いし水の中までは見えませんから、
  こっちを向いても大丈夫ですよ。それより、私一度シロウさんとゆっくりお話したかったんです」
 恥ずかしながらも正面を向く士郎。確かにこの暗さだとお湯の中は見えない。ほっとする士郎。

 「えっと、俺の国の話か。そうだな……、俺の国は普段の生活に魔法を使う必要は無かった。
  科学っていうのが発達していて、人も荷物も燃料で動く車や飛行機、電気で動く電車で運ばれる。
  キッチンだと、冷蔵庫って電気で動く箱があって、そこは常に冷やされているんだ。
  物の保存や氷を作ったりできる。 キッチンの蛇口を捻れば水がそこからいくらでも出るし、
  ガス台を捻ればいつでも火が出てくる。あと電気でご飯が炊ける炊飯器って言うのもあるし……」
 シエスタは士郎の話に一々、へ~とかふ~んとか相槌を打つ。とても興味深々だ。

 〔ギリっ…………〕

 (ぞわっ!!)
 士郎は突然、嫌な寒気を感じた。思わずあたりを見回す。だが特に何も見つからない。

 士郎の話が一段落したので、シエスタは服の乾き具合を見るため風呂から上がろうと立ち上がった。
 正面を見た士郎はモロにシエスタの裸を見てしまう。一気にのぼせてしまう。

 すばやくメイド服を身に付けたシエスタが声を掛けてきた。
 「シロウさん、とても素敵なお話ありがとうございました。また機会があったら聞かせてください。
  あと、このお茶いつでも飲みに来て下さい。厨房でお待ちしてますから」
 風呂に入っている最中より顔を赤くしたシエスタは、そう言うとお盆を持って去っていったのだった。



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