シロウが使い魔-06


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第6章 微熱

 先日の買い物で着替えだけは先に持ち帰っていたので、本日より朝の日課が行える。
 まずは柔軟。腹筋運動をして、素振りを100本。 聖杯戦争以前には無かった素振りを日課に
 くわえたのは、少しでも“あいつ”を超えるためである。

 昨日拾ってきた素振り用の2本の棒を置いて、汗を吸った服を脱ぐ。
 固く絞ったタオルで体をぬぐい、新しい服を身に付ける。

 ルイズの洗濯物と一緒にこれを洗って、朝のお仕事はルイズを起こすだけとなる。
 洗面用の水桶を持ってルイズの部屋へ行こう。

 ………

 授業中、今日もハルケギニアの文字を学習していると、意外にもマリコルヌがあれこれと教えてくれる。
 貴族特有の“上から目線”なのだが、士郎の隣に座り、士郎が詰まるとすぐに反応する。
 意外に世話焼きな性格だったらしい。 これにはルイズも驚いていた。

 昨日の買い物を配送してきた荷馬車が昼ごろ着いた。受け取りはもちろん学院で働いている平民がする。
 午前中の授業が終わり、食堂に向かうとシエスタが荷物の到着を教えてくれた。

 昼食が済むとすぐにコルベールの部屋へ赴く。はたして、羊毛(のような繊維の)布団が届いていた。

 さっそく寝心地を確かめる。……マーベラス! 布団は場所もとらない日本人の知恵である。
 これからは天気の日は朝、外に干してから出かけることになるだろう。
 (後日:コルベールも同じような寝具を注文したらしい)

 午後、図書館に調べ物へ行く前にルイズが士郎を部屋へと呼ぶ。

 「ちょっとこれを着てみてくれない?」
 着替えてみると、学院の男子学生の制服だった。訳を尋ねると、
 「だって身分とか色々隠さなきゃいけないときや、秘密の任務とかあったら変装も必要でしょ?」
 と言われる。秘密の任務って何だ!? ルイズの思考は時々わからない。
 「ついでに髪の色も変えてみましょう。え~っと、金髪、黒髪、白髪、…そうね、今日は青い髪!」
 昨日の買い物の中に秘薬があったが、どうやら髪の色を変えるものだったらしい。
 士郎は結局、青い髪をした見慣れぬ男子学生という風体にされた。

 「あ、そうそう。合鍵も作っておいたから今日からそれを使ってね」

 さすがに学院の生徒用マントをむやみに身に付けるわけにはいかないので、それは脱いだのだが、
 髪の色はしばらく落ちないらしい。
 茶髪の薬を使えば表面上元に戻るが、面白がったルイズはそのままにしろと言った。

 ………

 「シロウ、なんだね? その髪の色は」 図書館へ行く途中、ギーシュにつかまった。
 「俺に訊くな。ルイズに訊け」 なげやりになる。
 「ちょっと街で秘薬を見つけて、思わず懐かしくて買っちゃったの」
 「無駄遣いして。 これだから貴族は……」 士郎は愚痴る。
 「心外だな。貴族の全てが無駄遣いするわけじゃあないぞ。
  ……でも髪の色を変えるのも楽しそうだなぁ。モンモランシーに頼み込んで作ってもらおう」

 次の日から学院で髪の色を変えることが流行ったりする。

 ………


 深夜、

 「――――投影、開始(トレース・オン)」

 コルベールの小屋を出て草地の上、結跏趺坐の状態で修行を行う。

  創造の理念を鑑定し、基本となる骨子を想定し、構成された材質を複製し、製作に及ぶ技術を模倣し、
  成長に至る経験に共感し、蓄積された年月を再現する。
 これが衛宮士郎の投影魔術における工程である。

 頭に思い浮かべるのは、“あいつ”の愛用していた一組の夫婦剣。
 誇れるものが何もない英霊だったからこそ、己が努力のみで掴み取った極み。
 衛宮士郎は奴を越えていかねばならない。

 「――――憑依経験、共感終了」

 投影する手前で工程を止める。投影せずともわかる。未だ、奴の投影したものには遠く及ばない。
 だが錬鉄の英霊という目標は、自分をいずれあの高みに連れて行くだろう。
 その高みを越えられるか……、“あいつ”は俺に常に問いかけている気がした。

 「ん?」 ふと視線を感じた気がする。

 視線を上げると、本塔の上だろうか。人影が見えたようだ。
 こんな時間に誰だろうと思うが、この世界の魔法使いは深夜の散歩を嗜む者もいるのかもしれないと思い、
 特に気にしないことにした。 小屋へと戻る士郎。

──────────────────────────────

 コルベールの小屋の前で不思議な座り方をしている少年に、ふと興味を惹かれてしまった。

 ちょっと見ていただけだが、逆に感づかれるとはこの『土くれのフーケ』様らしくない失敗だ。
 あわてて隠れたが、向こうの反応からこちらに気づいたのは明白だった。
 まぁ、顔を見られたわけじゃないし、相手も気にしていないようなので一安心である。

 明日の晩も、あの少年があそこに居るようなら少々時間を変えて下見をせねばなるまい……

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 ………


 本日も授業を受けるルイズと士郎。士郎は視線を感じたので、そちらを振り向く。
 キュルケのサラマンダーだった。 そういえば、もう召喚されてから7日目かと、しみじみ思う。
 幻獣種を見慣れるようになろうとは、召喚前の自分は思ってもみなかった。
 それにしても、あのサラマンダーはなぜこっちを見ているのか。ちょっと気になる。

 昼食時もサラマンダー(名前はフレイムだったか)がすぐそばでこちらを見つめていた。
 キュルケ自身や他の使い魔たちはこちらに興味を持っている風ではないので、ますます意味がわからない。
 「チチチチ」 手を出してみたが、炎を一つ吐いて主人の元へ歩き去った。

 図書室にこもり、コルベールの小屋での報告会の後、ルイズを部屋まで送った。


 そこで、キュルケの部屋のドアが突然開いた。
 現れたのはサラマンダーのフレイム。フレイムはちょこちょこと士郎のそばまでやってきて、
 「きゅるきゅる」
 人懐こい感じでないた。敵意は無いようである。

 士郎の上着の袖を咥えると、そのまま何処かへ引っ張っていこうとする。
 「おい、袖が伸びるよ」 困る士郎。そのまま引っ張られていく。

 フレイムはそのままキュルケの部屋へ。中は暗い。
 「扉を閉めて」
 キュルケの声がする。 内密な話だろうか? とりあえずそのまま言うとおりにする。

 「ようこそ、こちらにいらっしゃい」
 「ずいぶん暗いんだな」
 キュルケが指を弾くと、暗がりから一本一本蝋燭の火が灯っていく。

 ベッドに腰掛けた悩ましい感じのキュルケの姿が浮かび上がる。

 (ぽりぽり)士郎は困って耳の後ろを掻く。
 「そんなところに突っ立ってないで、いらっしゃいな」
 キュルケの横へ座れと促される。

 「用件を言ってくれないか?」
 「あら、野暮なお方。こんな状況なら、用件を言わずともわかってくれるでしょう?」
 士郎は初めて接するタイプの女性に思わず苦笑した。
 (俺の知り合いもバラエティーに富んでたけど、さすがにこの手の娘はいなかったなぁ)

 「あたしの二つ名は『微熱』。あたしはね、松明みたいに燃え上がりやすいの。だから、
  いきなりこんな風にお呼びだてしたりしてしまうの。わかってる。いけないことよ」
 「ええと……、俺のどこを好いてくれたのかな?」
 「あなたが、ギーシュを倒したときの姿……。かっこよかったわ。まるで伝説のイーヴァルディの
  勇者! あたし、それを見て痺れたのよ。そのときにあたしの中の情熱が燃え上がったの!」
 立ち上がり抱きついてくるキュルケ。
 「今日は青い髪なのね。赤い髪の方が素敵だけど、青も悪くないわ」

 (う~む、どうしようか)と士郎が思案していると、

 「キュルケ! 待ち合わせの時間に君が来ないから来てみれば……」
 「ペリッソン! ええと、二時間後に」
 「話が違う!」

 三階の窓の外からハンサムボーイがキュルケに抗議をしている。
 キュルケは煩そうに、胸の谷間から魔法の杖を取り出すと、見もせずに窓の外へ向かい杖を振るう。
 蝋燭の火から、炎が大蛇のように伸び、窓ごと男を吹っ飛ばす。

 「まったく、無粋なフクロウね。 でね?聞いてる?」
 「約束は守った方がいいよ」 呆れて声も出ない士郎だったが、何とか一言言う。

 「そんな事言わないで。 新たな恋は何よりも優先させるのが、女としての……」(ゴンゴン)
 今度は窓枠が叩かれる。
 「キュルケ! その男は誰だ! 今夜は僕と過ごすんじゃなかったのか!」
 「スティックス! ええと、四時間後に」
 怒り狂いながら、スティックスと呼ばれた男は部屋に入ってこようとした。
 再度、煩そうに杖を振るうキュルケ。 炎と共に地面に落ちていくスティックス。

 このタイミングに合わせて士郎はこっそりドアから外に出て行った。
 「あら? ダーリン? どこに隠れたの?」
 部屋の中からキュルケの声がしたが、もちろんスルーしてコルベールの小屋へと戻った。

 (それにしても時間だけずらして、約束のキャンセルをしないのはある意味凄いな)
 妙なことに感心する士郎であった。

 この後、キュルケの部屋では新たに3人の男が登場したのだが、それは士郎には知る由もない。

 ………


 「なぁ相棒。何で俺っちはこんな埃だらけの部屋の隅っこに置きっぱなしなんだ?」
 今夜も魔術の修行に出かけようと思ったら、デルフが訊いてきた。

 「何でといわれても、普段から刃物を持ち歩くわけに行かないだろ」
 「相棒は剣士だろ? いざというときに武器を持ってないと逆に困んだろ」
 「いや、いざというときには剣を出せるし……」
 「何だよ、それ。相棒は体ん中に剣でも埋まっているってのかよぉ~」
 「……似たようなもんだよ。しょうがない、一度お前には見せておくか」
 煩くされてもしょうがないので、デルフに剣製を見せておくことにした。

 「ほら、これが夫婦剣の片割れ。干将だ」
 「うぉい、どこから出したんだよ。あれか?メイジの錬金ってやつか?」
 「そんなもんだと思ってくれていい」

 「ちっ、それじゃあ俺のことは必要じゃねえのかよぉ」
 「……お前を持ち歩けば、(人前で)剣製せずにすむか……。
  明日の朝から、修行用に持ち歩くことにするから、おとなしくしてろよ」
 「おお、ありがてぇ。これで俺様も役立つことができるぜ」
 意外とさびしがりやだったようだ。

 (さて、今宵も剣製のイメージトレーニングをするか。
  ……ルイズの魔法修行にイメージトレーニングは使えないかな?)
 そんなことを考えながら、日課の魔術鍛錬をする士郎だった。

 ………

 翌朝、朝の日課と洗濯を終わらせてルイズの部屋に向かうと、
 「ダぁ~リンっ!」
 キュルケがいきなり抱きついてきた。
 「もう、昨夜はいきなりどこに消えてしまったのよ」
 いきなりも何も普通に扉から帰っただけなのだが。黙ったまま。

 「え~っと、ルイズ起こしに行かないといけないから離れてくれないかな?」
 「もう、あんな小娘はほおっておけばいいのよ。食堂行きましょ?」
 「なぁ~にが、あんな小娘ですって?」
 珍しくルイズが既に起きてて、自分の部屋から出てきた。

 「あら、珍しいじゃない。おはようルイズ」
 「おはようじゃ無いわよ! シロウは私の使い魔なんだから、とっとと離れなさい!!」
 士郎からキュルケを引っぺがすルイズ。

 「もう、せっかくいいとこだったのに」
 「しっしっしっ」
 「あたしは犬じゃないの。まぁいいわ。また後でね、ダーリン」
 キュルケはフレイムと一緒に階下へと降りていく。

 「俺なんかのどこがいいんだろうなぁ。 まぁからかわれているだけかもしれないけどな」
 「そうよ! からかわれてるだけなんだから! あんな女のそばに寄っちゃだめよ!」

 背中に担いだ剣に気づいたルイズ
 「なに?士郎。 その剣持ち歩くの?」
 「部屋に置いとくとかえって煩いんだよ、こいつ」
 「こいつじゃなくて、デルフって呼んでくれよ~~~~」

 ………

 その日は一日中キュルケに絡まれた士郎。
 授業中も絡んでくる。食事中も絡んでくる。トイレにさえ現れ絡んでくるキュルケ。

 ルイズに断りを入れて、コルベールの小屋に隠れる士郎。
 「相棒、んなこそこそ逃げ隠れねぇで、やっちゃえばいいんだよ」
 どっちの“やっちゃえ”の意味なのかはあえて訊かない事にする。
 「どうも、あのタイプは苦手だ……」
 学校中をガンドの銃撃から逃げ回ったあの時の体験の方がよっぽど楽かもしれない。

 「むぅ、しばらく身を隠しているくらいしか思いつかない」
 ルイズに言って、しばらく身の回りの世話と勉強は休ませてもらおう。

 この士郎の判断がルイズとキュルケを決闘に導くなど、誰に予想ができたであろうか。

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