虚無より出でし混沌


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「ったく…ドコ行ったのよアイツ……」

声に苛つきを含め、ルイズは夜の学園内を歩く。
数刻前から姿の見えない、自分の使い魔を探して。


彼女と使い魔の出会いは数ヶ月前。


―――春の使い魔召喚。
全てのメイジが通る道であり、そのメイジの力量が決まる重要なイベント。
そこで、彼女は…ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、
爆音と大量の粉塵を幾度となく繰り返し……何度目だっただろうか。
ひときわ巨大な爆発音と共に、あたりに煙が撒き散らされる。

懲りもせずにまた失敗だ―――
そう思って嘲笑を上げようとした周りの生徒達の、その表情が硬直する。
粉塵の中……そこだけが、異様なまでに張り詰めた空気に包まれていた。
吹きぬけた風が、少しずつ巻き上げられた砂を吹き消していき……そこに、一人の男が立っていた。
決して良いとは言えない血色の肌、曇天の如き灰色の短い髪。
全身を包み込んだロングコートから除く足は、まるで夜闇を塗り固めたかのような漆黒。
そして…髪と同色の、輝きの無い両の眼は、しかし、まるで獣を思わせるかのような重圧を放っていた…

生徒達の嘲りも、召喚をしたルイズ自身でさえ、男の放つプレッシャーに言葉を発せ無い沈黙の中…
ゆっくりと、男は首を動かし、一度、頭上の太陽を一瞬疎ましそうに見据え、
次に、自分の周りにいる生徒達を見回した。
それと同時に目に入るのは、生徒達がそれぞれ召喚した使い魔たち。
それをしばしジッと見ていたその男は、ただ一言。

「………………興味深い」

その一言を言い終わった後、先ほどのプレッシャーはなんだったんだと言いたいほどに、
ルイズと男の契約はなんなく完了してしまった。
自分の右手の甲に刻まれるルーンの痛みにも、眉一つ動かさずに男はソレを見つめる。

…恐らく貴族ではない、だけど只者ではない…
いまだ少し男を恐がりつつも、ルイズはそう感じた。
ソレを召喚した自分は、もう決して“ゼロ”なんかじゃない…!
男を見つめ、顔と声には出さずに、ルイズは一人胸を高鳴らせた。

……高鳴りの奥に、不安のざわつきが起こっている事には気付かずに……

それからの学園での男は凄かった。色々と。
魔術に関しては、教師達でさえ喉を唸らせるような知識に、
奇怪な姿の使い魔を見れば、いつもの静かな言動を崩すかのように雄叫び上げて追い掛け回す研究心。
そのためか、最近ではコルベールと共に熱心に何か話し合っている姿も時折見かけられた。
誰が何時から呼び出したかは知らないが、いつの間にか『教授』というあだ名が付けられ、
男は学園内では少し名の知られる存在になっていた。

それに伴い、その主であるルイズも周りから見る目が変わってきていた。
相変わらず魔術はからっきしではあったが、使い魔の優秀さが、そのまま主の力量にも繋がる。
少しずつではあるが、彼女を“ゼロ”と呼ぶ者は少なくなっていった。
最初こそ恐怖は感じたが、いまでは彼を召喚して…いや、召喚されたのが彼でよかったと、彼女は思った。
そんな日が続いたある日……学園内で、ある事件が起こり始めた。

生徒の使い魔が、次々と居なくなっていた。

食事の時間、使い魔たちから離れた主のメイジが戻ってみると、
待たせていたはずの使い魔が、影も形も見当たらずに消えていた。
主たちは当然探した。が、見つかったのは、僅かに残った黒い獣の毛のような物…
教師も加わり、更に原因の究明を急いだ。
しかし、日を追うごとにいなくなる使い魔の数は増えていき、そして…遂に

――――生徒の行方不明者が出始めた。

生徒にまで被害が出た以上、学園の警戒は更に厳重となった。
厳戒態勢の続く中で、それでも、生徒の消息は途絶えるばかり…
夜間の部屋からの外出の絶対禁止を義務付けられた中、しかし、
ルイズは今…頭上を赤と蒼の双月が照らす中で、自分の使い魔の捜索を続けていた。
彼に限って、やられるなんてことは無いだろう。
………そう思ってはいても、不安は拭いきれない。
あの気の強いキュルケが、自分の使い魔のサラマンダーを失い、思わず涙したことは記憶に新しい…
次第にルイズの心に焦りが生まれてきた、その時―――


……ル、…ジュル、ク…グ……チャ……

ふと、耳に何か音が聞こえた。
音の方を見てみれば、普段人目に付くことのあまり無い細い道。
街中の路地裏にも見えそうなそこに入ってみると、次第に音ははっきりとしてくる。

グチュ…チャ、グチャ、グ……グチ……

建物と建物の間のため、ただでさえ夜闇のため暗い視界が、殆ど何も見えない。
闇だけが広がるその中で、ただ、音だけが、空間に響いていく。

グチャ、グチ…グチャ、グチャ、…チャ…グチャ、グチャ…
…グチュ、ジュルル…グチャ…ズル…

次第に、少しずつだが目が暗闇に慣れてきた。
丁度道の行き止まりにまで来ていたらしく、音の源をよく目を凝らしてみる。

グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ
グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ
グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ

闇に慣れた目が、“ソレ”を視界に光景として映す。
その光景に、ずっと聞こえていた音が重なった。

「っ――――――――!!?」

声にさえならない悲鳴、同時に込み上げる、胃の中身が逆流する感覚。
“ソレ”は、少女が視界に入れるにはあまりにも…否、少女でなくとも、
とてもではないが耐えられる物じゃないだろう。
辛うじて原形を留めて地面に転がっていた“ソレ”
…いや、原形を留めていたせいで、その凄惨さはより一層の物になっていた…
吐き気のするような生臭さ、暗闇の中どろりと広がった深紅…
…かつて、生徒であったろうその肉塊を貪っていたのは、周りの闇と同じ体色をした、数匹の黒い獣。
そして、その獣達を従えるかのように、ルイズに背を向けて佇んでいたのは…
彼女が探していた、彼女の使い魔、当人だった…

「な、に…して、る…の、よ……」

途切れ途切れに、搾り出したかすれ声。
そのあまりに小さな声を、しかし、しっかりと聞き取った男は、ゆっくりと振り返る。
いつも身に纏っている黒いロングコート…その、中は。

黒い…辺りとほぼ同化した黒が、『蠢いていた』
獣の唸り、僅かな光を反射して煌く牙、その牙にべっとりと付着した深紅の液体。
コートの中で、しきりにギョロついていた無数の眼が、一斉にルイズへと見据える。

「主か…その問に答えるならば、返す言葉は一つだ。私はただ、“食事”をしていただけだ」

言いながら、一歩、ルイズに向けて歩みだす。

「食……事……?」
「この世界の希少種は私の心を高鳴らせた。しばしは余計な騒ぎ無しにじっくりと調べたかったが…」

蒼白の顔のまま、ルイズもまた後ずさる。

「どうやら、この者たちがもう忍耐を続けられぬようでな…丁度興味のあったものは大抵調べ尽くした」

特に感情のこもらない、灰色の瞳。歩幅の違いに、徐々に距離が縮まっていく。

「故に、今度は食事の時間だ」

震える足がもつれ、バランスを崩しその場に腰を着いてしまう。
目の前に立つ男が、無言でルイズを見下ろした。

「ア…アンタは…わ、わ、私、の…つ、使い、魔…でしょ……!」

ガチガチと震えて打ち合う歯、もう…足に力が入らない。
瞳いっぱいに湛えた涙で、精一杯の意志を振り絞って男を見上げて言う。
そのルイズの言葉に、男はゆっくりと両手を広げ…

「………否」

コートから、黒い何かが首を伸ばす。

「私は……」

視界いっぱいに広がった黒に、響いた声……



――――――― 混 沌 だ ―――――――




「月姫」「MELTY BLOOD」より、『ネロ・カオス』召喚

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