Zero/stay night 11


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今この場でアイツを止められるモノがあるとしたら、一つ。
私の左手の令呪しかない。

自分の左腕を見下ろす。
そこに刻まれた刻印は、赤く輝いている。
まるでルイズに使われるのを待っているかのように。

確かに、コレを使えば確実にアイツを止められる。
しかし、それが許されるのはただの三度。
使い切ってしまえば、使い魔を律する術を失う事になる。
まだ召喚した次の日だというのに、もう使ってしまって、この先大丈夫なのだろうか?
僅か逡巡を覚えるルイズ。

だが、担い手たるランサーの意思を受けて、今や『死』そのものとなった魔槍が振り下ろされるにおよんで、迷いなど吹き飛ぶ。
三度使えばそれまで?
それがどうしたというのだ。
要は、私が『まだ』こんなモノに頼らなければアイツを従えられないというだけのコト。
もう魔法一つ使えない落ちこぼれのメイジでは無いのだ。
ならば、こんな借り物のチカラを惜しむことこそ筋違い。
今、やるべきコトは――――

「令呪を以て我が使い魔に命じる......」

あの馬鹿を、私が止める。
否。
私が、マスターとしての、器を示す――――!

「今すぐ、止めなさい!!」
「!」
「ひっ!」

振り下ろされた槍の穂先は、ギーシュの眉間に触れるか触れないかの位置で止まっていた。
同時に、私の左腕で輝いていた令呪の一画が失われる。
その喪失にも委細構わず、私は広場の中央で固まっているバカ使い魔へと歩み寄る。

近づいてくる私に、動きを止めたままランサーが
「オイ嬢ちゃん、何のマネ――――」
言い終えるのを待たず、
「――――」
パァン、と。
無音の広場に音を響かせ、頬を撲る。
無論、私が、ランサーを。
ざわ、と、今まで逼塞したように身じろぎ一つ見せなかった野次馬たちが騒然となる。
足下ではギーシュが口をぱくぱくと動かし、何か言葉にならない音を漏らしている。
だが、そんな周囲のあらゆる雑音も一顧だにせず、私の視線はランサーだけを睨めつける。

「――――」
そんな私を、ランサーは無言で遇する。
そこで、キレた。
「ッッッッッッッッンタは!何を!やってんのよ!」
突然の淑女にあるまじき大声に、野次馬から「ひっ」と小さく悲鳴が上がるが、そんなコト知った事ではない。

「さっきも言ったのはコッチの方よ!
 私は、『無用の騒ぎを起こすのは許さない』と言ったのよ!
 それを、アンタが、私に忠を誓った分際で、無視するから、貴重な令呪を使わざるを得なくなったんじゃないのーーーーーーッ!」
一気にまくしたてて、ぜぇぜぇと肩で息をする。
そんな私の気迫に呑まれたか、野次馬達も、ギーシュも、ランサーですら、呆気にとられたようなアホ面で私を見ている。


ハァ~~~~、と大きく息をついて、キッと視線を下に転ずる。
「ギーシュ!」
「は、はい!」
突然声をかけられたギーシュは、慌てたように返事を返す。
先程までヒトを『ゼロ』呼ばわりしていたとは思えない恭謙さで。
「アンタ、さっき私のコト何て言った?」
「え、え~と......何、だったかな?」
ギーシュのすっとぼけた回答で、ブツリ、とナニかが私の中でキレる音を聞く。

FU☆ZA☆KE☆RU☆NA

すぅ~~~っ、と息を吸い込むと、怒気を息と言葉にして吐き出す。
「アンタは、ろくに魔法も使えない、落ちこぼれの『ゼロ』のルイズって言ったのよーーーーーー!!!!」
肺の空気、その尽くを使い切ってしまい、軽い酸欠に目の前が真っ白になる。
「ご、ごめんなさいぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
何か、ギーシュが言っているようだが、そんなモノに意味は無い。

私が、ろくに魔法を使えないのも、おちこぼれの『ゼロ』なのも、事実『だった』のだから。
そう、ついさっきまでは。
視力が戻ってくると、今度は言葉を込めてランサーを睨みつける。

―――――『よく見ておきなさい』、と。

右手で杖を抜き放ち、左手にルーンを刻みつける。
縦に一本線、その頂点と中程から斜め下に二本。
鮮血を滴らせて刻んだそのルーンこそ、F《アンサズ》
先程ランサーがワルキューレを原型留めず溶かし潰したルーン。
今の私なら、使いこなせる。

「お嬢ちゃん、ソイツは――――」
何か言おうとするランサーを、視線で黙らせる。
アイツの言いたい事は解る。
この広場一体の大源《マナ》は、さっきのランサーによる魔術行使で枯渇している。
大源《マナ》無しでは私の魔術回路は爆発しか起こせない。
そんなコトはわかっている。

ココに無いのなら、他所にある大源《マナ》を使うまで。
私の中で目覚めた、セカイを捉える感覚で周囲を探る。
広場の魔力が枯渇しているというのなら、さらに広く、この学院一帯の大源《マナ》全て集めてみせる!


「コイツは......」
目の前でルイズの繰るルーン魔術に、ランサーは息を呑む。
確かに、この娘には適正があるとは思った。
実際、先程は不完全とは言え『鎮火』を成功させている。
今さっきも、自分が大源《マナ》を使う手本を見せた。

だが、それだけだ。
今はまだ、刻印も、解読も、染色も、試行も出来ない。
だと言うのに、この大源《マナ》の収束はどうしたことか。
まるで魔力それ自体が意思を持ち、彼女の元に集う事を喜んでいるかのように引き寄せられている。
まさしく、天稟。
これほどの天賦の才を持っていて、落ちこぼれであるハズが無い。
いつしかランサーは、主や己を侮辱された怒りも、横槍を入れられた不満も忘れ、ただただルイズの魔術行使に見入っていた。

だが、当のルイズは魔力が集まってくる確かな手応えを感じながらも、地獄の苦しみの中にあった。
これほどの魔術、本来なら正式な手順抜きには到底出来るモノでは無い。
神秘と接触し、借り受けるというのは一朝一夕に成るものではないのだ。
ヒトが長きに渡る試行錯誤の末に得た術式も無しに、本来ありえない神秘を起こそうとすれば、
そのしわ寄せがルイズに降り掛かるのは自明の理。
喉元からせり上がってきた血液が、口の中にまで満ちてくる。
当然、呼吸もできない。
だが、ルイズは魔術を止めなかった。

視界が闇に染まる。
手足の感覚が消え、自分が立っているのか倒れているのかも判らない。
それでも、止めない。

ルイズを駆り立てるのは、怒り。
自分を馬鹿にしたギーシュに、では無い。
自分の思うにならないランサーに、でも無い。

それは、ふがいない己への怒り。
期待してくれる人たちに、応えてあげられない自分が憤ろしかった。
そんな過去の自分と決別できるのなら、この程度の苦痛なんてこともない。
(見なさい、私の、魔術を!)
万感の思いを乗せて、大源《マナ》の全てを解き放つ。

ルイズの思いを受けた魔力が、セカイに神秘を再演する。
ランサーのF《アンサズ》でただの金属塊に成り果てていたワルキューレ、
その六塊全てが、今度こそ全て液体となって、塊すら残さずに地面全体へと流れて真っ平らになる。
その光景に、野次馬達から驚きの声が漏れる。
ルイズが、使い魔の騎士と同じ未知の魔法を使った。
それだけでも驚くべき事だが、彼女が何一つ魔法を使えないことを知る者の驚きはさらに大きかった。


(やった......)
ようやく戻って来た視界で己のルーン魔術が成功したことを確認すると、ルイズはホッと胸を撫で下ろす。
「......ゲホッ、ぅエフッ!」
安心して気が緩んだのか、咳き込んで口内に溜まった血を吐き出してしまう。
「だ、大丈夫かいルイズ!」
その光景を見て、慌てた様に近寄ってくるギーシュを手で制する。
ここで倒れちゃダメだ。俯いていた体を起こしながら、残った血を飲み下す。
ふぅ~~、と大きく息をつく。うん、大丈夫。ちゃんと喋れそうだ。

「訂正して」
「へ?」
思わず駆け寄ったのに拒絶され、どうしたものかとギーシュが困惑していると、突然ルイズはそう言ってきた。
「私が、魔法を使えない落ちこぼれだって言ったこと、訂正して」
口元からは、鮮血が一筋垂れている。
それでも、何事も無かったかのような、平然とした様子で。

それを見て、ああ、とギーシュは理解した。
コレが、『貴族』なんだと。
家柄だとか、爵位だとか、魔法が使えるとか、そんな二次的なモノではない。
誇りを持って、己の苦衷など無いかの如く振る舞う。
そんなルイズに比べて、さっきまでの自分の何と見苦しいことか。
確かに、コレは自分が全面的に間違っていたようだ。
「......済まなかった。キミは立派な『貴族』だ、ミス・ヴァリエール」
言って、ルイズが満足げに頷いたのを見ると、決闘相手に向き直り、未練がましく握りしめていた杖を地面に放って、宣言する。
「ボクの、負けだ」
その宣言を聞くと、押し黙っていた観客達から、堰を切ったようにワッと歓声があがる。

野次馬がめいめい思い思いに騒ぎ立てているのを横目に、ルイズはランサーに一言、
「帰るわよ」
と言うと、さっさと歩き出す。
何事も無かったかのような、平然とした様子で。
黙って後ろについて歩いていたランサーは、人気の無い辺りまで来ると、ルイズに声をかける。
「......悪かった」
「......」
ルイズは、何も言わずにただ立ち止まる。
「確かに、オレはお嬢ちゃんを主とする事を誓ったが、まだ主の器を図り間違えてたらしい。だから―――」
そう言うと、愛槍を取り出して己の前に臥せながら、片膝をつく。
「仕切り直しって事で、な」
それは、昨日の再現。
否。今度こそ、真実誓いを込めて。
「サーヴァント・ランサー、この身・この槍は御身に従う事を、我が名と我が誇りに懸けてここに誓約する」
そう宣誓すると、主と仰ぐ少女はようやく振り向く。
そして、年頃の少女に似つかわしい、可愛らしくも、それでいて勝ち気な笑みと共に答える。
「当然じゃない。私は、アナタのマスターなんだから!」


Interlude

「やれやれ、一時はどうなることかと思ったがのう」
身を乗り出して広場の様子に見入っていたオスマンは、そう言って乗り出していた体を椅子の背に預ける。
そんなオスマンに、同じく食い入る様に成り行きを見ていたコルベールが頭を下げる
「申し訳ありません。私の安易な観測で、危うく生徒を――――」
「ええんじゃよミスタ。確かにあわやと胆を冷やしたが、
 結局ミス・ヴァリエールは己の使い魔を御せる事が証明されたのじゃから」
「はい......」
気遣いを受けながらも悄然とするコルベールに、オスマンはあえて気にしていない風に声をかける。
「とは言え、このまま放っといて変なウワサが広まっても面倒じゃしのう。
 すまんがミスタ、あの二人をココへ呼んで来てくれんか」
「はい、ただちに」

コルベールが退出すると、オスマンは大きく息を吐く。
使い魔が御せることは判った。
だが、さっきの使い魔の魔法は何だったのだろうか?
四系統とは到底思えないあの魔法は一体なんなのか。
そして魔法が使えないハズのヴァリエール嬢が使った魔法もソレと同じに見えた。
彼女が『ガンダールヴ』を召喚した事と何か関係があるのだろうか?
「これだけ長く生きておっても、わからんことだらけじゃのう......」
コルベールから、『ガンダールヴ』の名を聞いた時、最初に脳裏をよぎったのは宝物庫に収められた一振りの聖遺物。
もしかしたら、あの『破壊の剣』も何か関係しているのか......
「本当、わからんことだらけじゃな」
思案する顔つき、
英知を感じさせる眼光、
理知的な雰囲気。
どれを取っても、コルベールが来るまでの惚けた姿を微塵も感じさせない。
「結局、ミス・ロングビルの下着の色は何色なんじゃろう......」
――――そっちかよジジイ。

一方、そのロングビル(白)は、生徒達も居なくなった広場で、塔の一つを見上げていた。
ランサーに蹴り上げられたワルキューレが激突したソコには、大きくヒビが入っていた。
「......ホント、大したモンだね『英霊《サーヴァント》』ってのは」
「――――」
「そうなのかい?」
「――――」
「わかってるよ。けどね、せっかく宝物庫の壁にヒビを入れてくれたんだ。運は私に味方しているさ」
まるで誰かと会話しているかのように、ロングビルは喋る。
周囲には誰も居ないというのに。
いや、ヒトでないなら一匹、彼女の肩に『使い魔』の蛇が乗っている。
その蛇に、ロングビルは決意を込めて宣言する。
「何としてもいただくよ、『破壊の杖』」

                                           Interlude out


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