Zero/stay night 08


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Interlude

彼は今、困難な任務に挑んでいた。
このような死線は幾度と無く、彼と『相棒』はくぐり抜けて来た。
しかし、その経験が彼にささやく。

――――ココハ、死地ダ。

このまま進めば、間違いなく破滅が待っている。
そう感じながら、理性で直感を押し殺し、『相棒』を前へ進ませる。
大丈夫、何の問題も無い。いつも通りやればいい。
よし、あと少しだ。あと少しで、目的の――――

刹那、ぞわり、と全身が戦慄く。
もはや理性では留まれない。
直感に任せて身を翻らせる。
しかし、未来予知とさえ言える危険察知ですら、その『敵』の前にはあまりに遅い。
必死に死地を脱しようとする彼の『相棒』の体は、『敵』に絡めとられて、ギリギリと締めあげられ、
たまらず、彼は叫ぶ。


「モ、モートソグニル~~~~!」


ココは、魔法学院、本塔の最上階にある学院長室。
座ったまま、じっと瞑目していた学院長オールド・オスマンは突如、己の使い魔の名前を絶叫する。
「キィ~~~~!」
すると、学院長室の床から、苦しげにうめくネズミの声が聞こえてくる。
本来、ネズミは殆ど鳴く事は無い。
鳴くとすれば、テリトリーに侵入してきた敵を威嚇する時か、もしくは命が危険に晒されている時のいづれかだ。
この鳴き声は、後者。
学院長の『相棒』の体は、その矮躯に数倍する蛇に巻き付かれ、ギリギリと締め上げられていた。
「おおお!しっかりせい、モートソグニル~~~!」
使い魔の危機に、再び学院長が絶叫する。

「あらあら、どうかされましたか?学院長」
そんな学院長の切迫した様子とはうって変わって、ひどく冷静に、笑みすら浮かべて声をかける妙齢の女性がひとり。
腰まで流れる淡いエメラルドグリーンの髪と、微笑を浮かべた顔に乗る眼鏡が、知的で落ち着いた雰囲気を醸し出している。

「ミ、ミス・ロングビル!早くキミの使い魔にモートソグニルを放させてくれんかのう」
「あらあら、仕方ありませんね」
ロングビルと呼ばれた女性がそう口にすると、ネズミに巻き付いていた蛇は、速やかに拘束を解いて彼女の足元へ戻る。
自由になったモートソグニルも、すぐさまオスマンの元へと馳せ戻る。
「おお、よしよしモートソグニル。無事だったかのう?
 全く、キミの使い魔は何てコトをするんじゃ」
そう、学院の最高権力者から非難がましいセリフと視線を向けられて、しかし彼女の微笑は崩れない。
「申し訳ありません。ですがおかしいですね
 私の使い魔には、『私のスカートに入ってくる者を排除しろ』と命令してあったのですけれど」
言い返す女性は、よく見れば目だけが全く笑っていない。
その眼光は、まさしく冷血なる蛇のソレ。
そんな冷眼を受けても、しかし学院長はすっとぼけた声で応える。
「はて、それがどうしてワシの使い魔に危害をくわえたのかのう?」
「学院長が使い魔を使って私のスカートの中を覗こうとなさるからですわ」
若干、こめかみを震わせながら、ロングビルが答える。


すると突然、オスマンは巨大な学院長用の執務机を震わせる勢いで立ち上がり、三たび絶叫する。
「カァーッ!そんな小さなコトにこだわっておるから婚期を逃すんじゃ!」
天裂き地呑まんばかりの、すさまじい気迫である。
だが、それもミス・ロングビルの前には意味を成さない。
「オールド・オスマン」
「なんじゃね?」
「今度、年の話をしたら、また蝶必殺ロングビル・ポセイドンを喰らわせます」
「なあっ!ア、アレだけは勘弁してくれんかのう?」
――――何があったジジイ。

可哀想なほど狼狽するオスマンに、ロングビルは変わらず微笑と冷眼で遇する。
「ダメです」
「ぐうぅっ......鬼!悪魔!デビルサタン!老人の数少ない楽しみを奪うなんて......」
まるで自分こそが被害者であるかのような言い草のオスマン氏。
「もう少し真っ当な楽しみをお持ちになってください」
「美しい女性を愛でようというのは、男として当然のことじゃ」
ロングビル女史の至極当然な意見に、なおも自分のセクハラを正当化するセリフを吐くオスマン。
しかし――――
「オールド・オスマン?」
そう、ただ名前を呼ぶミス・ロングビルの背後が、陽炎の如く揺らめく。
無論、彼女が高熱を発している訳ではない。
しかし、事実、世界が歪んで写る。いやもうこれ絶対スタンドとかペルソナとかアバターとか出すだろ常k――――

そんな、彼女のうら若い(!?)女性とは思えない殺気に、オスマンの思考が混乱の極地に達した時、
「大変です!オールド・オスマン!」
バァン!と勢いよくドアを開けて、頭頂部の貧しい男性が乱入してくる。

乱入者に気付いて、ロングビルは瞬時に剣呑な気配を消し去る。
ソレによって、ようやくオスマンは正気を取り戻す。
「お、おおゴールド・エクスペリエンス君!キミはいつもいいタイミングで登場するのう!」
いや、まだ大分オカシイ。
「は?いや、私の名前はコルベールですが......て言うか誰の名前ですか」
「そ、そそそそんなコトより何が大変なのかのう?
 ホ、ホレ、大事な用件のようじゃから、ミス・ロングビルは席を外してくれたまえ」
「はい」
オスマンの言葉を受けて、さっきまでの殺気は何処へやら、余裕の笑みでミス・ロングビルは学院長室を出て行った。
コルベールは、ソレを名残惜しそうに見送っていたが、
「オホン」というオスマンの咳払いで、ハッと我に返り、自らの発見について説明を始めた。

「......つまり、ミス・ヴァリエールが召喚した騎士殿が『ガンダールヴ』だと?」
「はい!ルーンが一致している上、彼自身が契約完了後に、『ガンダールヴ』について私に質問してきました。
 おそらく、契約によって何らかの知識を得ているのではないかと」
「ふむ」
「早速本人から詳しい話を――――」
興奮した様子でまくしたてるコルベールに対し、
オスマンは先程までの狼狽ぶりが嘘のような沈鬱な様子で、今にも飛び出して行きそうなコルベールを諌める。
「まぁ、待つんじゃミスタ」
「どうかされましたかな?」
「この件に関しては、もう少し慎重にあたるべきじゃろうて」


「それは......彼が危険である、と?」
浮き足立っていたコルベールも、流石にオスマンの尋常でない様子に気付く
「実際、キミから見てどうじゃった?」
「――――相当な手練れなのは間違いないでしょう。
 今の私では、十全の準備をしても太刀打ちできるかどうか......」
「それも契約前での話じゃろ?それ程の騎士が、なぜ使い魔になどなる?」
「それは――――」

確かに、理に適わない話ではある。
本来なら、疑ってかかってしかるべきである。
なのに何故、今まで自分はそんな可能性すら意識に上らせることすらしなかったのか――――

「――――わかりません。
 ですが、学院長の懸念は杞憂ではないかと」
召喚された時の事を思い返しても、何ら不審な点は無い。
脳裏に浮かぶのは、かの騎士の晴朗な笑顔。
「それは、何か根拠があって言ってるのかね?」
「いいえ。私の直感です」
あれ程の空気を纏うには、相当の死線をくぐり抜けなければ無理だ。
おそらくは、自分と同じ位、もしかしたらそれ以上の人を殺して来たのだろう。
それでも、あのような笑顔ができるのは、その戦いに彼自身、なんら恥じる所が無いからに他ならない。
そんな騎士が詐術を労するとは思えない。
「ふむ......」
しばし考え込んでいた学院長は、気色を緩めて口を開く。
「まあいいじゃろ。直に会っていないワシの意見より、キミの直感の方が信じられる。
 この件についての調査はキミに一任する。ただし、内密にな。
 伝説の使い魔が召喚されたなどと風聞が立っては、王家やらアカデミーやらが五月蝿いからのう」
「はい!それでは早速――――」
喜び勇んでコルベールが答えた所で、コンコンと学院長室のドアがノックされる。
「開いとるよ」
学院長が声をかけると、「失礼します」という玲瓏な声とともに、ミス・ロングビルが入ってくる。
「おお、どうしたね?ミス」
「それが、ヴェストリの広場で決闘騒ぎを起こしているとかで......」
その報告に、うんざりした様子でオスマンはため息をつく。
「またか......ヒマを持て余した貴族ほど始末に終えんモノはないのう。
 それで、今度は何処のバカじゃ?」
「はい。ひとりは2年生のギーシュ・ド・グラモン。
 その相手なのですが、なんでもミス・ヴァリエールが使い魔として召喚した騎士殿だとか......」
その言葉を聞いて顔を見合わせる学院長とコルベール。
「どうなさいますか、学院長」
「あ~、放っておいても構わんじゃろう。この国の貴族同士での決闘でないなら問題あるまい」
「わかりました」
それでは、とロングビルが退室すると、残された二人は慌ただしく遠見の鏡を使って広場の様子に注目する。

だから、二人は気付かなかった。
退出していくロングビルの口元が歪んでいたことに。
そのロングビルは、校舎内から広場を見下ろせる位置まで移動していた。
肩口までのぼってきた『使い魔』の蛇と共に、青色の騎士を眺めながら呟く。
「さて―――それじゃあ、あの『英霊《サーヴァント》』の力を見せてもらおうかねぇ......」

                                           Interlude 


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