ゼロとさっちん 02


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「これが、曾お祖母さんのお墓です」

 シエスタに案内されてそれを見たさつきは、「あ……」と声を上げてから静かな眼差しでそれを見つけた。
 ここはタルブの村である。
 なんだかんだと色々とあって、さつきはアルビオンの任務から帰還して、休養と称してこの村にやってきた。
 どうしてタルブなのかというと、シエスタの故郷だからである。シエスタは学園で働く給仕というかメイドで、まあ色々とあってさつきと仲良しになった。
 もっとも、さつきはそんなに人見知りしない性格なので学生にも教師にもメイドにもそれなりに知り合いができていた。シエスタはそれらの中でも特に仲がよいのであった。
 それで三日前、
「丁度曾お祖母さんの命日が近いので、お墓参りをしようと思っているんです。サツキさんも、遊びにきてみませんか?」
「あ、どうしようかなあ……いってみたいけど、わたし、一応はルイズさんの使い魔だし」
「――いいわよ、別に。アルビオン王家はあんたのおかげで救われたようなものだし。ご褒美がわりに休暇くらいあげるわよ」
「あ、本当に? ありがとう!」
「……別にこの程度のことで感謝しなくてもいいんだけどさ……あんたはもっと、ご主人様である私に頼ってもいいんだから……!」
 とかそんな会話の後に、二人は連れ立ってやってきたのだった。
 まあ、さつきとしては物見遊山というか、久々に「お友達同士でお泊り」という女子高生らしいイベントが楽しみであった訳で、場所がタルブであるとかはかなりどうでもよかったのだが。
 ちなみにルイズとも毎日のように一緒に寝ているわけだが、最初の三週間で慣れた。アルビオンへの旅はそれどころではなかったし。
 今回は本当に彼女にとっては楽しみだったのであるが……。
 とりあえずとばかりにお参りしたお墓は、まったくもって予想外のもので、何処か浮ついた気持ちがそれを見ることによってしゅんと萎んだのをさつきは感じていた。
 それは――


 十字架なのだった。


 弓塚さつきは、このハルケギニアでの墓の形態を熟知しているわけではなかった。
 それでもなお、それはこの世界にはありえない形状なのだと察した。いや、直感したと言ってもいい。
(これは……)
 目を丸くしてその墓標を見つめる。
 たまたま、彼女のしるモノと同様の形態をしているのかも知れない。そう思い返したからである。
 だが、無情にもというべきか、それは確かに彼女の知る形式のものであった。
 墓標にはどう見てもアルファベットが刻まれていたのだ。
(……読めない)

Il meurt dans EREISHIA et le monde inconnu.

「……英語じゃないみたい――えーと、これは……エレイシィア?」
 恐らくはこれが人名であるというのは解った。
 エレイシア、という人がここで眠っているのだとなんとなく見当をつける。
「曾祖母の墓です」
「シエスタさん?」
 振り向くと、しかしシエスタはいなかった。
 そして返答の代わりに、強烈な痛みと衝撃に襲われてさつきは吹き飛んだ。


  ◆ ◆ ◆


「あら、サツキはいないの?」
 祈祷書を前にうんうん唸っているルイズの部屋に、キュルケはいつものようにアンロックで勝手に鍵を開けて入り込む。
 ルイズはじろりと横目に睨み付けるが、いつものことなのでそれだけで済ませて
「いないわよ」
 と応えた。
「いない? いつも一緒なのに珍しいわね」
「そうそういつまでも一緒ってわけにもいかないわよ」
「使い魔なんでしょ?」
「使い魔でもよ」
 ルイズは不機嫌な顔で。
「友達のメイドの故郷に招待されていったわ。一週間くらい骨休めしてくるって」
 キュルケは「ふうん」とどうでもよさそうに頷いてから。
「でも、サツキでしょ?」
「何よ?」
「どうせまた何か、不幸なことに巻き込まれているんじゃないかしら」
 ルイズは顔を上げて何か思案するように天井に視線を彷徨わせる。
「まさか……そう毎回毎回、変なことになるなんてことはないわよ。多分」


  ◆ ◆ ◆


 そこにいたのは、さつきの知るシエスタではなかった。
 メイド姿のエプロンを脱ぎ捨て、肩とか露出したドレス姿になっていた。その肩にはなんか何処かで見たようなタトゥーが入っている。
 その手に持つのは――というより、指で挟みこまれているのは三本の長剣。
 爪の如く拳から伸びている。
 さつきはそれを知っていた。
 黒鍵。
 代行者が用いるという、礼装……。
「な、なんでシエスタさんがそんなのを持っているのかな……?」
 かつて諸人の罪を背負ってはりつけられた預言者のように、さつきの体は十字架の墓標に縫いとめられていた。
 右腕と左脇腹と右の脛を貫いているのは、シエスタの手にあるのと同じ黒鍵だ。
 そこから生じている痛みに脂汗を流しながらも、事態のあまりの唐突な変化にさつきは混乱して恐怖を覚える以前の問題だっ。
 シエスタはいつもと違う姿でいつもの笑顔を浮かべ、
「曾祖母より授かりました」
「ひ、ひいおばあさんから……」
 ごくりと唾を飲み込む。
「一撃で並の死徒ならば六度は滅ぼせるという話でしたが、曾祖母が大げさにいったのか私の技が未熟なのか――それとも貴方がそもそも並ではないのか。どちらにしても、死徒相手に使うのは初めてなのでよくわかりませんが」
「あの、シエスタさん、こういう危険なものは人に向けて使うのは危ないよ……」
 よくわからずにトンチキなことを口走ってしまう。
 シエスタは当たり前のようにそれをスルーした。
「曾祖母はある事情があって、この世界に迷い込んだ異邦人でした。元々の世界では死徒と呼ばれる、この世界の吸血鬼とは異なる吸血鬼を狩り出す仕事をしていたそうです」
「へ、へえ……」
「曾祖母はいつしか帰還を諦めてこの世界で暮らしましたが――それでも、自分の技と使命を残しました」
 さつきは問わずとも知っていることを、だけど改めて問うた。そうしてしまうくらい、目の前にいる少女と いつも、ついさっきまで一緒にいたメイドとギャップがありすぎる。
「技と、使命?」
 技――それは代行者の持つ技。
 対軍にも達する異能(バケモノ)じみた体術。
 使命――それは代行者のするべきこと。
 神の摂理に反する不死者(バケモノ)を打ち倒すこと。
「曾祖母は言っていました。もしも私の墓標に書かれている文字を知るものがいれば、それは自分と同じ世界からきたものであると――そしてサツキさん、あなたは吸血鬼ですね。曾祖母と同じ世界よりやってきた吸血鬼」
 即ち、死徒。

「主の名のもとに、サツキさん、貴方を滅ぼします」

 塵は塵に!
 灰は灰に!

「シエスタさん!? 落ち着こう! 落ち着こうよ!」

 さつきは叫ぶが、シエスタは聞いてないのか、愉悦の笑みさえ浮かべて黒鍵を持った右手を首に巻くように振り上げる。

「エイメン」


  ◆ ◆ ◆


「ま、どうせ何かあったってどうにかしちゃうわよ」
「それもそうね」
「サツキは自分で思っているより、ずっと強いんだから」


  ◆ ◆ ◆


「わー! 遠野くん助けてぇー! ピンチだよおッ!」

 まあとにかく、さつきは何処の世界でも、やっぱり不幸だった。


 おわり。

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