最後の道

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「じゃぁぁぁぁまだぁぁぁぁ!」  心の振るえのままに才人は叫ぶ。  才人は満身創痍になりながら、それでもけして握った剣は手放すことはなかった。  学院の宝物庫のなかで眠り続けたこの剣こそが勝利の鍵だと知っていたが故に、もう一度生きてルイズの元へ帰る道筋を切り開くモノだと実感して居たが故に。 「よっしゃ、十分だ。いけぇぇぇ相棒!」  デルフリンガーはこれまで吸い込み続けた魔法の力を右手に持った剣に注ぎ込む、七万の大群から雨霰と放たれ続けた火が、風が、水が、土が、膨大な量の純粋なる魔力となって右手の剣へと注ぎ込まれていく。  ――あとはただ命じるだけ、想いの力をあらゆる武器を扱う技量へと変えてくれるガンダールヴのルーンが望む未来へと導いてくれる。 「無限の剣よ」  剣のなかの魔力回路が唸りを上げ、膨大な魔力を喰らいながら焼け付くほどに駆動し続ける。  ガンダールヴのルーンが命じるまま、その身が砕けよとばかりにいくつも奇跡を投影する。 「道を」  ルイズの元へ向かう道を、穏やかな、平和な日常への帰り着く道を。 「さぁ、帰ろうぜ相棒」 「開けぇぇぇぇぇぇええええええええええええ!」  ――待ってろ、ルイズ。今帰るから。  才人の叫びに剣は答え、そして世界が燃え上がった。  押し寄せる七万の軍勢の中心を貫いた輝きは数え切れないほどの数の剣が放つ双月の反射光。  焔の災厄を退けた異界の英雄の剣が  名も無い平民の鍛冶師が丹精込めて鍛えた鋼の剣が  如何な時もけして離れることのない白と黒の夫婦剣が  臆病なメイジが親友の為に渾身の力を込めて錬金した青銅の剣が  ガンダールヴの相棒たる口の悪い錆び刀が  そして黄金に輝く騎士王の剣が  まるで英雄の凱旋を讃える騎士団の如く、敵を打ち倒し地平の果てまるで続く剣の壁を才人の前に作り出していた。  剣の壁の下に作り出されているのはこの地で朽ちた名も無い雑兵たちが携えていた数数え切れない無銘の剣。  無限の剣で作り出された剣の道を阻める者は、もはや誰もいない。  作り出された剣の道はけして才人以外の存在が自らを踏みしめることを許さない。 「待ってろ、ルイズ……」  青いパーカーを血で染めて、才人は剣の道を駆け出した。  愛しいルイズに会うために。  もう一度大切な友人たちと笑って日常を過ごすために。  ――その道の続く先、二つの月の下で才人は一人の少女に再会した。 「あんたは……」  少女は黒い靄のような魔力を纏い、その額に才人と同じ虚無の使い魔のルーンを輝かせながら、まるで幽鬼のように立っていた。 「かー、ミョズニトニルンか! こんな時だってのに……相棒、あの魔法は虚無と一緒で吸い込みにくい、一気に決めちまったほうがいいぜ!」  デルフの言葉に才人は音もなく頷いた、底を尽きた魔力の代わりとばかりに自らの命さえ注ぎ込んでガンダールヴの力を燃やし、それによって無理やりに右手の剣を稼動させる。  勿論、そんな無茶に剣が耐えられる筈もなく…… 「――――!?」  才人が握り締めた剣に罅が入るのを見た少女は言葉にならない悲鳴を漏らし、殺意に満ち満ちた黒い槍のような魔法を才人に向けて解き放った。 「俺は、ルイズのところへ帰るんだ!」  だが才人が振りかぶった右手の剣からまるで岩の塊のような斧剣を打ち出す方がずっと早かったのだ。  斧剣は少女の影の槍を粉砕すると、そのまま砕け散りいくつかの塊となって霧散する。  だが才人にとって幸運だったのはその破片の一つが消え去る間際に少女のわき腹に突き刺さったこと。 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」  それを好機と見た才人は少女に向かって残った力を振り絞っての突撃を敢行した。  その刃を閃かせたデルフリンガーが少女の華奢な左肩へと食い込み…… 「――先、輩」  才人は血だるまになって地面へと倒れ伏した。  何が起こったかわからないまま視線を彷徨わせると、自分の右手が鎖で雁字搦めにされていることに気がつく。  一体どこからこんなものが……そう思って鎖を追っていくと、今にも砕けてしまいそうな右手の剣の剣身に杭のようなものが突き刺さっていた。  こんなものが何故? 一体どうやって? いつの間に?  剣の真実を知らない才人が真実にたどり着くことはけしてない。  もげかけた左手を右手で押さえながら少女が自分へ向かって足音を聞きながら、才人は今度こそ本当に“死”を想った。 「ルイズゥウウウウウウウウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」  高く、高く、アルビオンの夜空に少年の叫びが木霊する。  その叫び声にかき消された少女の言葉に、ただデルフリンガーだけは気づいていた。  ――先輩を、返して。  どこまでも真摯で切ない、血を吐くような祈りの言葉。  だがその言葉を自分以外にもう一人聞き届けていたなどとは、さすがの彼でも気づかなかった。 ----
「じゃぁぁぁぁまだぁぁぁぁ!」  心の振るえのままに才人は叫ぶ。  才人は満身創痍になりながら、それでもけして握った剣は手放すことはなかった。  学院の宝物庫のなかで眠り続けたこの剣こそが勝利の鍵だと知っていたが故に、もう一度生きてルイズの元へ帰る道筋を切り開くモノだと実感して居たが故に。 「よっしゃ、十分だ。いけぇぇぇ相棒!」  デルフリンガーはこれまで吸い込み続けた魔法の力を右手に持った剣に注ぎ込む、七万の大群から雨霰と放たれ続けた火が、風が、水が、土が、膨大な量の純粋なる魔力となって右手の剣へと注ぎ込まれていく。  ――あとはただ命じるだけ、想いの力をあらゆる武器を扱う技量へと変えてくれるガンダールヴのルーンが望む未来へと導いてくれる。 「無限の剣よ」  剣のなかの魔力回路が唸りを上げ、膨大な魔力を喰らいながら焼け付くほどに駆動し続ける。  ガンダールヴのルーンが命じるまま、その身が砕けよとばかりにいくつも奇跡を投影する。 「道を」  ルイズの元へ向かう道を、穏やかな、平和な日常への帰り着く道を。 「さぁ、帰ろうぜ相棒」 「開けぇぇぇぇぇぇええええええええええええ!」  ――待ってろ、ルイズ。今帰るから。  才人の叫びに剣は答え、そして世界が燃え上がった。  押し寄せる七万の軍勢の中心を貫いた輝きは数え切れないほどの数の剣が放つ双月の反射光。  焔の災厄を退けた異界の英雄の剣が  名も無い平民の鍛冶師が丹精込めて鍛えた鋼の剣が  如何な時もけして離れることのない白と黒の夫婦剣が  臆病なメイジが親友の為に渾身の力を込めて錬金した青銅の剣が  ガンダールヴの相棒たる口の悪い錆び刀が  そして黄金に輝く騎士王の剣が  まるで英雄の凱旋を讃える騎士団の如く、敵を打ち倒し地平の果てまるで続く剣の壁を才人の前に作り出していた。  剣の壁の下に作り出されているのはこの地で朽ちた名も無い雑兵たちが携えていた数数え切れない無銘の剣。  無限の剣で作り出された剣の道を阻める者は、もはや誰もいない。  作り出された剣の道はけして才人以外の存在が自らを踏みしめることを許さない。 「待ってろ、ルイズ……」  青いパーカーを血で染めて、才人は剣の道を駆け出した。  愛しいルイズに会うために。  もう一度大切な友人たちと笑って日常を過ごすために。  ――その道の続く先、二つの月の下で才人は一人の少女に再会した。 「あんたは……」  少女は黒い靄のような魔力を纏い、その額に才人と同じ虚無の使い魔のルーンを輝かせながら、まるで幽鬼のように立っていた。 「かー、ミョズニトニルンか! こんな時だってのに……相棒、あの魔法は虚無と一緒で吸い込みにくい、一気に決めちまったほうがいいぜ!」  デルフの言葉に才人は音もなく頷いた、底を尽きた魔力の代わりとばかりに自らの命さえ注ぎ込んでガンダールヴの力を燃やし、それによって無理やりに右手の剣を稼動させる。  勿論、そんな無茶に剣が耐えられる筈もなく…… 「――――!?」  才人が握り締めた剣に罅が入るのを見た少女は言葉にならない悲鳴を漏らし、殺意に満ち満ちた黒い槍のような魔法を才人に向けて解き放った。 「俺は、ルイズのところへ帰るんだ!」  だが才人が振りかぶった右手の剣からまるで岩の塊のような斧剣を打ち出す方がずっと早かったのだ。  斧剣は少女の影の槍を粉砕すると、そのまま砕け散りいくつかの塊となって霧散する。  だが才人にとって幸運だったのはその破片の一つが消え去る間際に少女のわき腹に突き刺さったこと。 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」  それを好機と見た才人は少女に向かって残った力を振り絞っての突撃を敢行した。  その刃を閃かせたデルフリンガーが少女の華奢な左肩へと食い込み…… 「――先、輩」  才人は血だるまになって地面へと倒れ伏した。  何が起こったかわからないまま視線を彷徨わせると、自分の右手が鎖で雁字搦めにされていることに気がつく。  一体どこからこんなものが……そう思って鎖を追っていくと、今にも砕けてしまいそうな右手の剣の剣身に杭のようなものが突き刺さっていた。  こんなものが何故? 一体どうやって? いつの間に?  剣の真実を知らない才人が真実にたどり着くことはけしてない。  もげかけた左手を右手で押さえながら少女が自分へ向かって足音を聞きながら、才人は今度こそ本当に“死”を想った。 「ルイズゥウウウウウウウウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」  高く、高く、アルビオンの夜空に少年の叫びが木霊する。  その叫び声にかき消された少女の言葉に、ただデルフリンガーだけは気づいていた。  ――先輩を、返して。  どこまでも真摯で切ない、血を吐くような祈りの言葉。  だがその言葉を自分以外にもう一人聞き届けていたなどとは、さすがの彼でも気づかなかった。 「Fate/unlimited codes」より『衛宮士郎』召喚 ----

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