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ルイズは自分の使い魔のことを気に入っている。
……まあ、その、気に入っているし好きではあるけど、別に恋人として愛してるとかそういうのはない。
キスとかしたしいっしょのお布団で寝ているけどそういうのではないのだ。ないったらない。
「っていうか、女の子だし」
しかも平民――ではないけど。
吸血鬼だ。
もっと悪いかも知れないけど。
どうもシトという種類の吸血鬼で、ハルケギニアに棲む吸血鬼とは別の種族らしい彼女の使い魔は、しかしなんというか家庭的で可愛い女の子だった。
……家庭的で可愛くはあるが吸血鬼、というべきだろうか。
召喚した日に出会ってから、ルイズはその使い魔を気に入っていた――という訳ではさすがにない。
珍しい格好で可愛い女の子であるとはいえ、一見してその使い魔は平民にしか思えなかったし、吸血鬼であると知った時は嫌悪さえした。思わず失敗魔法を叩きつけてしまったくらいだ。
まあ、ぶっちゃけありえないことではあるのだけど、制服着てても無茶苦茶タフな使い魔はどうにか耐え切ったのでことなきを得た。
そんな主従ではあったが、二人はピンチを乗り越えるたびに強く近くなったりで、ギーシュに絡まれて決闘したりフーケのゴーレムと戦ったりアルビオンにいくまでに刺客に襲われたりアルビオンでワルドと戦ったり――
なんだかんだとそんなこんなで、今の二人はあるのだった。
今の関係は使い魔というよりも心を許しあえる無二の親友……みたいな感じだ。
ルイズ当人は「いやその、吸血鬼で平民だし。あと私の使い魔だし」と応えるだけで明言は避けているのだけれど。
いずれ彼女らはお互いに不満はない。ないのだが。
「あの子、ちょっと……ちょっとっていうか、並大抵でなくて不幸じゃない」
そうなのだ。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、自分の使い魔に不満はなかったし気に入ってさえいるのだが、自身よりも強力な吸血鬼という存在であるにも関わらず――心配してしまっているのである。
ギーシュとの決闘についていえば、うっかりと拾い上げた香水瓶を力をこめすぎて握りつぶしてしまって何がなんだかわからないうちに決闘沙汰に。
フーケのゴーレムとの戦いは真夜中の散歩をしているところを当時ミス・ロングビルと名乗っていたフーケが不審な行動をとっているところを目撃したために、口封じを目的に狙われたものだし。
……ちなみに、彼女はフーケが何をしていたのかが理解できなかったので口封じの意味なんかなかったわけだが、それをフーケが知ったのは七回目の暗殺を失敗して捕縛されてからである。
アルビオンにいくまでの刺客とかワルドとの戦いは、まあルイズとの絡みではあったが、それだってもうちょっと上手く立ち回っていたのならば回避できたようなものである。
特にワルドとの戦いについていえば、ウェールズ皇太子をなんとか逃げ延びさせた時点であんな戦いに付き合うことはないのだが……。
いやいや、もっといえば自分の召喚に応じてゲートをくぐったのも不幸であったのではないかとルイズは思ったりする。
(なんかこー、シエル先輩という人に追い掛け回されて慌てて駆け込んだっていう話だものねえ)
自ら選んでここにきたのではないと知ってなんかがっくりときたが、
「気にすることないよ。ルイズさんがゲートを用意してくれてなかったら、シエル先輩に殺されてたかもしれないから」
と慰めてくれたりはしたのだが……。
たいがいの事態に遭遇しても
「ピンチだよお」
「助けてトオノくん!」
とか泣いたり喚いたりするのだが、結局は自分でどうにか解決してしまうこの使い魔を追い回して殺せる存在がいるというのがルイズには想像できない。ワルドですらもこの吸血鬼の使い魔には勝てなかったのに。
ま、そう考えるのならば――
(私が心配することもないか)
ルイズはそうも思った。
どうにもすぐにピンチだよおとか言ってしまうあの使い魔の表情を見たら、ついついほっておけずになんとかしてあげた方がいいのかなあとか思ってしまうのだが、現実にはどうにかしてしまうのである。
心配の必要はないのではないか。
そんな風にも考えた。
……で、彼女の目の前でモンモラシーを怒らせて追い回されて水系統の魔法を使われて苦戦しながらもどうにか退けたその使い魔であるところのサツキは、あいも変わらず「うう……怖かった……凄く怖かったよお」とか言ってたりするのだが。
(結局、どうにかしちゃったものね)
なんとかモンモラシーを説得しようとギーシュを連れて二人を追っていたルイズは、溜め息混じりに思った。
風のスクエアにも勝ったのに、水使いの魔法学院の学生に何をこんなにびびっているのかと呆れさえした。 死徒が水とかが苦手だという知識は彼女にはないので、そう思うのも仕方のないことである。
「もう、心配させないでよ、サツキ」
「ごめんなさい、ルイズさん」
ふらふらと立ち上がり、ルイズへと寄りかかるさつき。
「ふう……大事なくてよかったよ」
ギーシュはそういってから、手に持っていたワインの存在に気付き、グラスをさりげなく錬金する。当然のことながら青銅製だが、作りたてのせいなのかピカピカだ。
「さあ、喉が乾いただろう、飲むといい」
モンモラシーに貰ったワインだが――ことの発端は彼女にあるのだから、まあこれくらいあげてもいいだろうとギーシュは考えながらグラスにワインを注いで差し出した。
「ああ、気が効くわね」
「いただきます、ギーシュさん」
二人は受け取ってから――
「あ、これお酒だ……どうしよう」とサツキはとまどった。
「あら、変わった香りね」とルイズは芳香を楽しんでから、くいとひとあおぎに飲み干す。
「あ」
とモンモラシー。
「ん?」
ルイズは、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、その声に反応して顔をあげて。
さつきの顔が、視界に入った。
入って、しまった。
☆ ☆ ☆ ☆
ルイズは自分の使い魔のことを気に入っている。
いや、そんな言葉では足りない。
愛しているのだ。
男と女の愛は彼女にはほとんど経験なんかなくて憧れじみたワルドへのそれがあるくらいたけれど。
そんなのとは比べ物にならないくらいに、その時のその想いは強力で強烈で。
「ふふ……サツキ……私を食べて♪」
「うわーん! ピンチだよぉぉぉぉぉ! 助けて遠野く~~んッッッッ!」
弓塚さつきは、とりあえず何処の世界に行っても不幸なのであった。
おしまい。
「月姫」「MELTY BLOOD Act Cadenza」より『弓塚さつき』召喚
#navi(ゼロとさっちん)
#navi(ゼロとさっちん)
ルイズは自分の使い魔のことを気に入っている。
……まあ、その、気に入っているし好きではあるけど、別に恋人として愛してるとかそういうのはない。
キスとかしたしいっしょのお布団で寝ているけどそういうのではないのだ。ないったらない。
「っていうか、女の子だし」
しかも平民――ではないけど。
吸血鬼だ。
もっと悪いかも知れないけど。
どうもシトという種類の吸血鬼で、ハルケギニアに棲む吸血鬼とは別の種族らしい彼女の使い魔は、しかしなんというか家庭的で可愛い女の子だった。
……家庭的で可愛くはあるが吸血鬼、というべきだろうか。
召喚した日に出会ってから、ルイズはその使い魔を気に入っていた――という訳ではさすがにない。
珍しい格好で可愛い女の子であるとはいえ、一見してその使い魔は平民にしか思えなかったし、吸血鬼であると知った時は嫌悪さえした。思わず失敗魔法を叩きつけてしまったくらいだ。
まあ、ぶっちゃけありえないことではあるのだけど、制服着てても無茶苦茶タフな使い魔はどうにか耐え切ったのでことなきを得た。
そんな主従ではあったが、二人はピンチを乗り越えるたびに強く近くなったりで、ギーシュに絡まれて決闘したりフーケのゴーレムと戦ったりアルビオンにいくまでに刺客に襲われたりアルビオンでワルドと戦ったり――
なんだかんだとそんなこんなで、今の二人はあるのだった。
今の関係は使い魔というよりも心を許しあえる無二の親友……みたいな感じだ。
ルイズ当人は「いやその、吸血鬼で平民だし。あと私の使い魔だし」と応えるだけで明言は避けているのだけれど。
いずれ彼女らはお互いに不満はない。ないのだが。
「あの子、ちょっと……ちょっとっていうか、並大抵でなくて不幸じゃない」
そうなのだ。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、自分の使い魔に不満はなかったし気に入ってさえいるのだが、自身よりも強力な吸血鬼という存在であるにも関わらず――心配してしまっているのである。
ギーシュとの決闘についていえば、うっかりと拾い上げた香水瓶を力をこめすぎて握りつぶしてしまって何がなんだかわからないうちに決闘沙汰に。
フーケのゴーレムとの戦いは真夜中の散歩をしているところを当時ミス・ロングビルと名乗っていたフーケが不審な行動をとっているところを目撃したために、口封じを目的に狙われたものだし。
……ちなみに、彼女はフーケが何をしていたのかが理解できなかったので口封じの意味なんかなかったわけだが、それをフーケが知ったのは七回目の暗殺を失敗して捕縛されてからである。
アルビオンにいくまでの刺客とかワルドとの戦いは、まあルイズとの絡みではあったが、それだってもうちょっと上手く立ち回っていたのならば回避できたようなものである。
特にワルドとの戦いについていえば、ウェールズ皇太子をなんとか逃げ延びさせた時点であんな戦いに付き合うことはないのだが……。
いやいや、もっといえば自分の召喚に応じてゲートをくぐったのも不幸であったのではないかとルイズは思ったりする。
(なんかこー、シエル先輩という人に追い掛け回されて慌てて駆け込んだっていう話だものねえ)
自ら選んでここにきたのではないと知ってなんかがっくりときたが、
「気にすることないよ。ルイズさんがゲートを用意してくれてなかったら、シエル先輩に殺されてたかもしれないから」
と慰めてくれたりはしたのだが……。
たいがいの事態に遭遇しても
「ピンチだよお」
「助けてトオノくん!」
とか泣いたり喚いたりするのだが、結局は自分でどうにか解決してしまうこの使い魔を追い回して殺せる存在がいるというのがルイズには想像できない。ワルドですらもこの吸血鬼の使い魔には勝てなかったのに。
ま、そう考えるのならば――
(私が心配することもないか)
ルイズはそうも思った。
どうにもすぐにピンチだよおとか言ってしまうあの使い魔の表情を見たら、ついついほっておけずになんとかしてあげた方がいいのかなあとか思ってしまうのだが、現実にはどうにかしてしまうのである。
心配の必要はないのではないか。
そんな風にも考えた。
……で、彼女の目の前でモンモラシーを怒らせて追い回されて水系統の魔法を使われて苦戦しながらもどうにか退けたその使い魔であるところのサツキは、あいも変わらず「うう……怖かった……凄く怖かったよお」とか言ってたりするのだが。
(結局、どうにかしちゃったものね)
なんとかモンモラシーを説得しようとギーシュを連れて二人を追っていたルイズは、溜め息混じりに思った。
風のスクエアにも勝ったのに、水使いの魔法学院の学生に何をこんなにびびっているのかと呆れさえした。 死徒が水とかが苦手だという知識は彼女にはないので、そう思うのも仕方のないことである。
「もう、心配させないでよ、サツキ」
「ごめんなさい、ルイズさん」
ふらふらと立ち上がり、ルイズへと寄りかかるさつき。
「ふう……大事なくてよかったよ」
ギーシュはそういってから、手に持っていたワインの存在に気付き、グラスをさりげなく錬金する。当然のことながら青銅製だが、作りたてのせいなのかピカピカだ。
「さあ、喉が乾いただろう、飲むといい」
モンモラシーに貰ったワインだが――ことの発端は彼女にあるのだから、まあこれくらいあげてもいいだろうとギーシュは考えながらグラスにワインを注いで差し出した。
「ああ、気が効くわね」
「いただきます、ギーシュさん」
二人は受け取ってから――
「あ、これお酒だ……どうしよう」とサツキはとまどった。
「あら、変わった香りね」とルイズは芳香を楽しんでから、くいとひとあおぎに飲み干す。
「あ」
とモンモラシー。
「ん?」
ルイズは、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、その声に反応して顔をあげて。
さつきの顔が、視界に入った。
入って、しまった。
☆ ☆ ☆ ☆
ルイズは自分の使い魔のことを気に入っている。
いや、そんな言葉では足りない。
愛しているのだ。
男と女の愛は彼女にはほとんど経験なんかなくて憧れじみたワルドへのそれがあるくらいたけれど。
そんなのとは比べ物にならないくらいに、その時のその想いは強力で強烈で。
「ふふ……サツキ……私を食べて♪」
「うわーん! ピンチだよぉぉぉぉぉ! 助けて遠野く~~んッッッッ!」
弓塚さつきは、とりあえず何処の世界に行っても不幸なのであった。
おしまい。
「月姫」「MELTY BLOOD Act Cadenza」より『弓塚さつき』召喚
#navi(ゼロとさっちん)