『イタダキマァス』

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召還に成功した! 喜んだルイズの前に佇むのは黒い染みのようなものだった。 それを、どう形容していいかわからない。強いて言うなら泥の塊だろうか? ただユラユラと揺れているだけで、言葉も発さず身動きすらしやしない。 しかし、それこそ破滅の顕現だった。 広場に集まった生徒達の大多数は、いかにも愚鈍そうに見えるそれを、さすがゼロのルイズの使い魔だとしか思わなかった。 その一方で、それに本能的に脅威を悟り、顔色を失い、杖を構えた者達もいる。 コルベール、キュルケ、タバサ… とっさに身構えた三人が魔法を撃とうと泥に杖を向ける、が、それに先んじる形で。 「きゃあああああ!」 広場に悲鳴が上がった。 ぼんやりと、己が召喚した使い魔を眺めていたルイズが突如、自慢の髪を掻き毟るようにしながら絶叫をあげた。 それで魔法を撃つ手を止めてしまったコルベールとキュルケは、その躊躇を永劫に後悔するだろう。 否。後悔すら永劫に赦されないだろう。 泥は何も言わない。 それでもここにいる意味だけは最初から理解していた。 聖杯の儀式も何もかもを飛ばして、ココに誕生できたコトヲ理解しテいタ。 それは望外の幸運。自分を召喚したマスターに、その感謝と親愛を込めて経路を通し己を伝えた。返ってきたのは純粋な絶叫。 ルイズという名前の少女の魂を蹂躙し、侵した事により、確たる寄り代が手に入ると、泥は周囲を意識した。 溢れるほどの魔力で満ちたこの大地と、魔力を満たす生命たちに、泥の姿が歓喜でぞわぞわ震える。 その歓喜を言葉とするならば。 『イタダキマァス』 ルイズの足元から伸び、拡がる影。 影は捕食のために伸ばされた手足。 広場に集まった生徒達の足元を影が覆い尽くしたこの瞬間。 トリステインの運命は決まった。 誰もいない世界を、白髪の少女が歩いている。 姫様は美味しかった。次は誰にしようかな。 そうそう、あのメイドは特に美味しかったっけ。 コルベールの悔恨も、キュルケの憤怒も、モンモランシーのギーシュの助けを呼ぶ悲鳴も。全てを喰らった少女はうつろに微笑んた。 そういえばギーシュはどうしたんだっけ? 穴を掘って逃亡を試みた彼を見下ろし、穴いっぱいの泥を流し込んだことを思い出す。 あの喋る変な剣はどうしたっけ? 長い年月を過ごしたと言っていたので、数千年ぶんくらいの泥を一度に流し込んだ。 それでとうとう物を言わなくなったところで飽きて置き去りにした。今頃どこかで朽ちているだろう。 鼻歌交じりで少女は、黒い大地を歩いた。 ここにはもう誰もいない。自分をゼロと蔑む者も一人としていない。 そうだ。あの使い魔は叶えてくれたのだ。自分の願いを。 これからはもう自分はゼロとは呼ばれない。蔑まれない。 これからは自分が全てをゼロにできるんだから。と少女の楽しい気分に、割って入る形で背後から声がした。 「楽しそうだね。いや結構」 ルイズは振り向いた。 いつからかそこには、赤い外套の騎士がいる。 いつからかそこでは、蠢く泥と影ではなく、赤く染め抜かれた空に歯車が回っている。 墓標のように大地に連なる剣の中心に佇む騎士に、きょとんとルイズは問いかけた。 「あなたはだあれ?」 問いかけがくると思っていなかったのか、今度は騎士が目をきょとんとさせる。 騎士は目を閉じると、皮肉と憐憫織り交ぜた笑みを浮かべて肩をすくめた。 騎士はルイズに優しく語りかける。これから眠る子供を宥めるように穏やかに。 「いや失礼。こんな果てで会話が出来るとは思わなかったよ。私は…」 騎士は己を明かす。嘲笑を込めて。 「掃除屋さんさ」 タバサは風韻竜の背に乗り、空にいた。 あの日、風韻竜の献身と自分の判断に助けられ、一人だけ生き残ったタバサは、今日も広がっていく泥を歯噛みする思いで見つめている。 それを幾日か続けながら、かつての学園に思いをはせながらの彼女の眼下に、別の世界が出現した。 その世界でぶつかりあう泥と剣と、空には影と燃え盛る歯車。 全ての泥が駆逐されたのを確認して、タバサは数日ぶりに大地へと降り立つ。 警戒を怠らず歩くタバサが見つけたのは、物言わず横たわる、一人の少女の姿だった。 すでに事切れ、寄り代としての機能を失った哀れな少女の亡骸。 少女の顔は笑顔だった。 タバサは、手を合わせる事をしなかった。 こうしてトリステインを滅亡に追いやった泥の消滅と共に悪夢は終わる。 やがて生き残ったトリステイン貴族たちによって、新たな王国が築かれるのを見届けずに、タバサは未練も残さずどこかへ立ち去った。 雪風は何も言わずどこかへ吹き消え、それによって、あの泥が何であったかを語り継ぐ者も一人としていなく。全ては闇の中へ消えゼロとなる。 ゼロと呼ばれた少女はゼロのまま、その名前通りに全てを飲み込み消えていった。 それから何年か後のこと。 トリステインを訪れたヴァリエールの女性が、偶然見つけた花に自分の可愛がっていた妹の名前をつけたという。 「Fate/stay night」より、『アンリ・マユ』召喚
召還に成功した! 喜んだルイズの前に佇むのは黒い染みのようなものだった。 それを、どう形容していいかわからない。強いて言うなら泥の塊だろうか? ただユラユラと揺れているだけで、言葉も発さず身動きすらしやしない。 しかし、それこそ破滅の顕現だった。 広場に集まった生徒達の大多数は、いかにも愚鈍そうに見えるそれを、さすがゼロのルイズの使い魔だとしか思わなかった。 その一方で、それに本能的に脅威を悟り、顔色を失い、杖を構えた者達もいる。 コルベール、キュルケ、タバサ… とっさに身構えた三人が魔法を撃とうと泥に杖を向ける、が、それに先んじる形で。 「きゃあああああ!」 広場に悲鳴が上がった。 ぼんやりと、己が召喚した使い魔を眺めていたルイズが突如、自慢の髪を掻き毟るようにしながら絶叫をあげた。 それで魔法を撃つ手を止めてしまったコルベールとキュルケは、その躊躇を永劫に後悔するだろう。 否。後悔すら永劫に赦されないだろう。 泥は何も言わない。 それでもここにいる意味だけは最初から理解していた。 聖杯の儀式も何もかもを飛ばして、ココに誕生できたコトヲ理解しテいタ。 それは望外の幸運。自分を召喚したマスターに、その感謝と親愛を込めて経路を通し己を伝えた。返ってきたのは純粋な絶叫。 ルイズという名前の少女の魂を蹂躙し、侵した事により、確たる寄り代が手に入ると、泥は周囲を意識した。 溢れるほどの魔力で満ちたこの大地と、魔力を満たす生命たちに、泥の姿が歓喜でぞわぞわ震える。 その歓喜を言葉とするならば。 『イタダキマァス』 ルイズの足元から伸び、拡がる影。 影は捕食のために伸ばされた手足。 広場に集まった生徒達の足元を影が覆い尽くしたこの瞬間。 トリステインの運命は決まった。 誰もいない世界を、白髪の少女が歩いている。 姫様は美味しかった。次は誰にしようかな。 そうそう、あのメイドは特に美味しかったっけ。 コルベールの悔恨も、キュルケの憤怒も、モンモランシーのギーシュの助けを呼ぶ悲鳴も。全てを喰らった少女はうつろに微笑んた。 そういえばギーシュはどうしたんだっけ? 穴を掘って逃亡を試みた彼を見下ろし、穴いっぱいの泥を流し込んだことを思い出す。 あの喋る変な剣はどうしたっけ? 長い年月を過ごしたと言っていたので、数千年ぶんくらいの泥を一度に流し込んだ。 それでとうとう物を言わなくなったところで飽きて置き去りにした。今頃どこかで朽ちているだろう。 鼻歌交じりで少女は、黒い大地を歩いた。 ここにはもう誰もいない。自分をゼロと蔑む者も一人としていない。 そうだ。あの使い魔は叶えてくれたのだ。自分の願いを。 これからはもう自分はゼロとは呼ばれない。蔑まれない。 これからは自分が全てをゼロにできるんだから。と少女の楽しい気分に、割って入る形で背後から声がした。 「楽しそうだね。いや結構」 ルイズは振り向いた。 いつからかそこには、赤い外套の騎士がいる。 いつからかそこでは、蠢く泥と影ではなく、赤く染め抜かれた空に歯車が回っている。 墓標のように大地に連なる剣の中心に佇む騎士に、きょとんとルイズは問いかけた。 「あなたはだあれ?」 問いかけがくると思っていなかったのか、今度は騎士が目をきょとんとさせる。 騎士は目を閉じると、皮肉と憐憫織り交ぜた笑みを浮かべて肩をすくめた。 騎士はルイズに優しく語りかける。これから眠る子供を宥めるように穏やかに。 「いや失礼。こんな果てで会話が出来るとは思わなかったよ。私は…」 騎士は己を明かす。嘲笑を込めて。 「掃除屋さんさ」 タバサは風韻竜の背に乗り、空にいた。 あの日、風韻竜の献身と自分の判断に助けられ、一人だけ生き残ったタバサは、今日も広がっていく泥を歯噛みする思いで見つめている。 それを幾日か続けながら、かつての学園に思いをはせながらの彼女の眼下に、別の世界が出現した。 その世界でぶつかりあう泥と剣と、空には影と燃え盛る歯車。 全ての泥が駆逐されたのを確認して、タバサは数日ぶりに大地へと降り立つ。 警戒を怠らず歩くタバサが見つけたのは、物言わず横たわる、一人の少女の姿だった。 すでに事切れ、寄り代としての機能を失った哀れな少女の亡骸。 少女の顔は笑顔だった。 タバサは、手を合わせる事をしなかった。 こうしてトリステインを滅亡に追いやった泥の消滅と共に悪夢は終わる。 やがて生き残ったトリステイン貴族たちによって、新たな王国が築かれるのを見届けずに、タバサは未練も残さずどこかへ立ち去った。 雪風は何も言わずどこかへ吹き消え、それによって、あの泥が何であったかを語り継ぐ者も一人としていなく。全ては闇の中へ消えゼロとなる。 ゼロと呼ばれた少女はゼロのまま、その名前通りに全てを飲み込み消えていった。 それから何年か後のこと。 トリステインを訪れたヴァリエールの女性が、偶然見つけた花に自分の可愛がっていた妹の名前をつけたという。 「Fate/stay night」より、『アンリ・マユ』召喚 ----

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