虚無の続き 01

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虚無の続き 01」(2008/03/17 (月) 09:20:05) の最新版変更点

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無限であったはずの黒い骸は、やはり夢のように消え去った。 それは、彼らを相手にしていた者たちも同じこと。 もはや言葉を交わす時間もなく、夢は醒めようとしている。 葛木宗一郎も、同じ事。 これから、どこに向かうかは知らないが、最期にキャスターの顔を見ることも適わぬらしい。 認識できるのは、隣にいたアサシンのみ。 もはや、お互い言葉を交わすことも出来ない状態であったが、何を思ったかアサシンが動く。 差し出されたその手。握手を求めるものなどでは当然なく、鞘に収められたあまりにも長い刀。 これを受け取れというのだろうが、何の意味もない。 これより消えうせる夢で、手に入れたものなど夢幻の如く全て消えるというのに。 だが、それを宗一郎は受け取った。 アサシンの表情など見えない。そもそも、受け取った手も、とうに消え失せていた。 そして、夢は醒める。 意識は、出口へと向かった。 すなわち、今ここは既に、夢ではないことになる。 だが、この風景は夢でしかありえない。 夢を通して何度も見た、キャスターの故郷にあるような城が遠くに見える。 広がった草原には、キャスターの姿に近い制服を着た少年少女たちが囲んでいる。 「あんた誰?」 その声に、葛木宗一郎は始めて、目の前で自分を見つける少女に気がついた。 「葛木宗一郎。穂群原学園で教職についている者だ」 教師!? と桃色の髪の少女が驚く。 「ミ、ミスタ・コルベール!」 囲んでいる少年少女の中から、中年の男性が現れる。 周りの者たちとも違う、キャスターと同類だと思わせる姿に、魔術師なのだと宗一郎は考えた。 「今の話は聞こえていたよ。お聞きしますが、教師というのは本当ですか?」 「はい。もしや貴方は教師ですか?」 「いかにも。ここはトリステイン魔法学院。私はここの教師でコルベールという者です」 魔法学園。遠坂や衛宮のような魔術師の学園か。 「そうでしたか。では、私は貴方とは違う。私は魔術師ではありません」 その言葉に、周りから「平民か!」と笑い声が響いた。 「平民の学校の教師の方でしたか。しかし、このようなことは前代未聞だ。まさか、人間が召喚されるなどと」 召喚? つまり、自分はキャスターのように召喚されたのかと納得した。 「理解しました。私はこの少女の魔術によって召喚されたということで、間違いないでしょうか?」 「り、理解が早くて助かります。しかし、魔術ではなく魔法と言うのですがね」 突然召喚されたというのに、取り乱すことのない男に、コルベールは困惑する。 更に、この男から感じる雰囲気。 かつて軍にいたときの自分のような…… 「ミスタ・コルベール! 召喚をやり直させてください!」 ルイズの大声に、コルベールの意識が引き戻される。 「残念だが、それは出来ない。「サモン・サーヴァント」による使い魔召喚は、二年生に進級するための神聖な儀式。やり直しは認められない」 その後、しばらく異議を唱え続けた桃色の髪の少女だったが、その度に周りから中傷とも思える笑いを含む声が飛び交った。 「よろしいでしょうか、ミスタ・コルベール」 「なんでしょう?」 教師と思われる禿頭の男性に、宗一郎は意見を述べる。 「詳しいことは分かりませんが、どうやら私のせいで彼女が中傷されているように思われます。 原因が何であれ、私はこの事態を受け止めましょう。どうか、事態の進行を願います」 桃色の少女の異議が止まる。 「わ、わかったわ。どうやら聞き分けも良いみたいだし、この際仕方ないわね」 「いや、助かりましたよ。……では、ミス・ヴァリエール、儀式を続けなさい」 桃色の髪の少女は、再び宗一郎の前に立ち、杖を振る。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。かの者に祝福を与え、我が使い魔となせ」 おそらく、儀式に必要なことなのだろう。 杖を額にかざした後、少女は立ち上がっていた宗一郎にかがむ様に言った。 そして、かがんだ宗一郎の顔に近づき、唇を重ねる。 「契約、完了しました」 髪以上に赤くなった少女を見つめる。 「特に何も変わった様子はないが……む」 左手の甲に熱が走る。見ると、そこには見慣れない模様が刻まれていた。 「令呪か? ともあれ、これで儀式とやらは終了か」 「令呪? ルーンのこと? そうよ、平民が貴族の使い魔になれるなんて、光栄に思いなさい」 「ふむ……珍しいルーンだな。さて、随分待たせましたが、次はミス・ツェルプストーの番です」 赤い髪の女性が、歩いてくる。 背が高めの、色気のある少女は、ルイズに高笑いを始める。 「あはははは! さすがはゼロのルイズ、平民を呼ぶなんてすごいじゃない」 「うるさいわね、キュルケは……ほら、アンタも着いてきなさい!」 ルイズと呼ばれた少女に、宗一郎は付き従う。 「それで、私がすべきことは? 契約した以上、何事にも従おう」 「いい心がけだけど、少し待ちなさい。他のみんなの召喚が終わってから話すわ」 「お前が時間をかけすぎたからだろ!」と声が飛んで、再びルイズが怒り出す。 「え!?」 先ほどの、キュルケという少女の驚きの声。 召喚は、完了したらしい。何もなかったはずの場所に、たたずむ存在は確かにあった。 だが、その姿を見て……ルイズも、コルベールも息を呑む。 周りの生徒は、大きな悲鳴を上げ、腰を抜かす者、逃げ出すものまでいた。 一人だけだが気絶してる者までいた。 「エ、エルフだあああああ!!!!!??」 コルベールは、キュルケの前に飛び出し杖を構える。 召喚された存在は、訝しげに周りを見回す。 「ここは……また妙なことになったわね。どちらの仕業か……じっくり教えてもらいましょうか?」 実力が違うのは承知の上で、コルベールは詠唱を始めようとしたのと、ほぼ同時。 「やめなさい」 「……え?」 宗一郎が、召喚された者へと歩み寄った。 「バ、バカ! なにしてるのよ、殺されるわ!」 ルイズの声を、今は無視する。 歩み寄る宗一郎を、召喚された人物は呆然と見つめ…… 「宗一郎様!!」 感極まったかのように、走り寄る。 「キャスター、お前も召喚されたようだな」 その人物……キャスターのサーヴァント、メディアを抱きとめる宗一郎。 周りは、何事かと目を白黒させている。 「―――連れ添いが迷惑をかけた」 凍りついたかのように静かになる。 平民が何を? と思うのが半分、まさか本当に? と思うのも半分。 「キャスター、この状況を説明できるか?」 「……いいえ。そもそもここは、地球ですらありません」 「そうか。私も、ここへ使い魔として召喚されたことしかわかってはいない」 地球ではない、と言う事実を告げても冷静な宗一郎に、キャスターといえど少し唖然とする。 「使い魔……ああ、なるほど。だから向こうの小娘と魔力の繋がりがあるのですね?」 「分かるのか。キャスター、ここは穏便に済ませたい。お前も、ここは契約とやらを完了してくれ」 「……仕方ありません。ここは、宗一郎様の言うとおりに」 おおっ! と周りから驚きの声が上がる 「キュルケがエルフを使い魔に!」 「エルフの旦那って、ルイズの使い魔って実は凄いのか!?」 などの声に、ルイズも少し喜んだ。 「すまない、勝手な行動を取った」 「ま、まぁいいわ。さすが私の使い魔、よくこの場を収めたわ」 その会話の間に、キュルケとキャスターは契約を済ませて戻ってきていた。 「なんで「微熱」のキュルケが女とキスしなきゃ……」 「うるさいわね、私だって宗一郎様以外に……はっ、なら宗一郎様もあの女と!?」 キャスターの3度は人を殺せる視線がルイズに飛んでくる。 「ひぃ!? ちょ、ソウイチロー!」 「やめろ、キャスター。接吻が儀式において必要なことならば仕方がない。契約というのなら、我々も似たような行いをしただろう」 「た、確かにそうですが……ま、まぁ、あれに比べたらキスなんて、そうですね」 キュルケの眼が輝いた。ルイズが真っ赤になった。 なにしたこいつらー! と思っているうちに、キュルケの次の生徒が召喚を始めていた。 「タバサは、何を召喚するのかしら?」 「また大変なことになるくらいなら、ドラゴンでも何でも、普通に凄いの呼びなさいよ」 キュルケの友人であるタバサが、召喚の言葉を唱え終わる。 そして、風が吹いた。 「問おう。 貴方が、私のマスターか――」 タバサはこの瞬間――運命と出会った。 「サーヴァント・セイバー、召喚に従い参上した。……しかし、ここは?」 あまりに違いすぎる大気中の魔力、状況に、セイバーも困惑を隠せない。 コルベールはいい加減勘弁してくれと泣きそうだった。 さっきのエルフの魔力量も桁違い。今度の剣士も桁違いだ。 そもそも剣士なのに魔力量が桁違いってどういうことだ。 しかし、それだけの魔力量にも関わらず、周囲の生徒は 「タバサまで平民を呼んだぞ」と馬鹿笑い。 キュルケ、ルイズ、モンモンラシーなど一部だけは引きつった顔で事態を理解している。 よかった、アホばっかりじゃないんだ、とコルベールは目元がうるんだ。 「あら、セイバーじゃない」 「ッ……キャスター。そうか、未来に至ることを認められず、暴挙に出たな!」 「お黙りなさい。もしそうなら、こんな訳の分からない場所よりも、あの世界を終わらせない道を選んだわ」 まだセイバーは、その言葉の真偽がわからない。最悪の場合を想定し、剣を――― 「…………は?」 握ろうとし、どこにもないことに気がついた。 「な―――ない! 私の聖剣が、どこにも無い!」 消えていても、即座に出現させることが出来る、最強の聖剣がどうやっても出ない。 いや、そもそも存在していない。 「なんですって……ああ!? わ、私のルールブレイカーも、無い!?」 キャスターの宝具も無い。聖剣より大したことはないかもしれないが、仮にも宝具だ。 「金羊の皮まで無いわ……宗一郎様は、何か無くなっていませんか?」 「いや……むしろ逆だな」 自身の腰に手を当てる。 そこには、あまりにも長い長刀が下げられていた。 「アサシンの物干し竿……どうしてこんなものを?」 「夢の終わりに貰ったものだ。私同様、消えるものだとばかり思ったのだがな」 周りは、この人たち何やってんだ? という顔をしている。 「セイバー、契約を」 タバサの言葉に、ともあれセイバーも契約を済ませる。 キスだとは知らず「すみません、シロウ……」としばらくへこんでいた。 「やはり、こういった直接的な接触が、契約の条件としては多いのですね……」 セイバーの腕にも、やはりルーンが刻まれる。 (このルーンの意味は何なのかしら。調べて見る必要があるわね) 「さあ、皆教室に戻りますよ」 とんだ召喚の儀式となったが、ようやく終わった。 コルベールも溜飲が下がり、皆に学園へと戻るよう告げた。 生徒達は宙に浮かび、飛び去っていく。 「ルイズは歩いてこいよ!」などの声に、ルイズはまたも怒る。 空飛ぶ生徒とコルベールを見て一言。 「デタラメね」 キャスターがつぶやく。 「キャスターも飛べるではないですか……魔術形態がまったく違いますが」 そう、キャスターの飛行能力とは効果が同じかもしれないが、使っている魔術がまったく違う。 「ともかく、調べる必要があるわね。宗一郎様はどうされますか?」 「私は、この少女の使い魔として行動する。既にお前のマスターではなくなったが、できれば事を荒立てるな。 セイバーも、あの少女の使い魔として行動するつもりなのだろう?」 セイバーは、既に飛んでいき、見えなくなっていく少女を眼で追う。 「無論です。たとえ不測の事態だとしても、私は常に、主の危機を救うのみです」 そう言って、風を切るように走り去る。 「速ッ!? 風の魔法なの?」 ルイズとキュルケが驚く中、キャスターが飛び上がる。 「確かに、セイバーを敵にするのは、この段階では避けるべき……了解しました、宗一郎様。荒事は極力避けましょう。 ……では、マスター。参りましょうか?」 「なに、その主人だと思ってないって顔。流石に手に余るわね、これは…… 苦労しそうだけど、ちょっと聞きたいこともあるし……燃えてきたわ」 ローブを翼にして飛んでいくキャスターに、付いていく形で飛んでいくキュルケ。 「行くわよ、ソウイチロウ」 ルイズが歩き出す。 その後ろを宗一郎はついていく。 「……聞かないのね。なんで飛ばないのか」 「先ほどの中傷から察すると、君は飛行の魔法が不得意なのだろう。 だれしも不得意はある以上、それを貶すことは恥ずべきことだ」 ルイズは、少し嬉しかったが、ため息をつく。 「駄目なのよ、私は。どの魔法も使えないの。だから、あんなに笑われるのよ」 「だが、努力はしているのだろう」 「もちろんよ、でも」 「ならば言わせておけばいい。報われなかろうと、努力をしている人間を嗤う権利など、誰にもありはしない」 止まったルイズを、宗一郎が追い抜かす。 「……外れじゃ、なかったみたいね。 って、平民の癖にご主人様より先に行くんじゃないわよ!」 ルイズは走り、草原には誰の姿も無くなった。 ―――否、そこにはまだ動くものがあった。 「……はっ!? エ、エルフは! モンモンラシーは無事か!?」 キャスターの出現に、気絶していたギーシュ・ド・グラモンだった。 学園の方角を見上げ、空を飛んでいる学園の仲間たち、歩いていくルイズを確認した。 ギーシュは泣いた。 「というか、僕はまだ使い魔召喚してないぞ!」 あのコッパゲ!とギーシュはキレた。 「いいさいいさ! 今から世界最高の使い魔を召喚してみせる!」 一人淋しく、使い魔召喚の準備を始めるギーシュ。 「我が名はギーシュ・ド・グラモン、五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし使い魔を召喚せよ!」 杖を掲げ、唱えた魔法は成功する。 土煙が収まり、そこには召喚されし者が立っていた。 「うおお、これは何事か!?CQCQ!鏡を抜けると、そこは一面の草原だった!」 灰色の猫っぽいのが立っていた。 「おお……こ、これは……美しい!」 ギーシュ、さすがギーシュである。 「ほほう、この私の美しさを理解できるとは。さぞや高貴なお方とお見受けしますが?」 「僕の名前はギーシュ・ド・グラモン! 「青銅」の二つ名を持つ、元帥を父に持つ偉大な魔法使いだ!」 ネコに、戦慄走る! 「にゃにー!? 魔法使い!?元帥!?まさかキシュアの血統かー!? と、んなわけないな、落ち着け私。ともかく家に帰って落ち着こう」 「ま、待て! それは困るし、そもそも無理だ!」 「なんでさ」 ネコに、サモン・サーヴァントについて説明する。 「……というわけで、美しい君に、僕の使い魔になってもらう」 にゃにゃっとネコが笑う。 「これは天恵か。ニート脱却のために何かせねばと思いつつ、録画したアニメを見続ける日々に終止符を打つときが来たか!」 「よし、では契約だ! わが名はギーシュ・ド・グラモン! 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ!」 ブッチュー 「いやああああ! 奪われた、大切な初物を奪われたわああああ! って、うっぎゃあああああ!この手の熱さは何事かー!?」 「これで君は、この僕の使い魔だ! ところで、名前を聞いていなかったな」 騒ぎ終わったネコは、再びにゃにゃっと笑う。 「私の名前は、カオス。ネコアルク・カオス。「混沌」の二つ名を持つナーイスキャッツ。 呼ぶときは、ネコカオスと呼ぶが良い」 人知れず呼び出された、奇妙なキャッツ。 こうして役者は舞台に集まり、幕は開こうとしていた。 ---- おまけ 四人の冒険 サイト「きぃぃぃやあああ!!!? 俺の出番、俺の出番はどこーーー!?」 フレイム「諦めろ、諦めるんだ! もう俺達の活躍なんてありえない!」 サイト「嘘だッッ!俺がいなきゃルイズが輝かない!あんなコッパゲとキャラが被った男じゃ無理だ!」 ヴェルダンデ「使い魔枠以外で、ぼくたちに出番はないよ。よりにもよって、あんなネコに……」 シルフィード「私だってあんまりなのね! あんな大食らいに私の代わりなんて無理なのね!」 三人「いや、十分十分」 「お困りのようだな、諸君」 サイト「だ、誰だ!? この「用無しの座」に入ってくる奴……まさか、噂に聞く間桐慎二!?」 ゼルレッチ「―――いや、魔法使いだ」 四人「きぃぃぃやあああ!!!? け、消しにきやがったーー!?」 ゼルレッチ「そうではない。暇ならば、私の手伝いをしてもらおうと思ってな」 サイト「て、手伝い!? え、え、出番? 出番くれるの?」 ゼルレッチ「無論だ、主人公。それで、手伝ってくれるかね?」 四人「何なりと、マイマスター!」 ゼルレッチ「おお、これは頼もしい。実は、ちょっとある場所に行ってもらいたい」 シルフィード「それってどこなのね?」 ゼルレッチ「とある森に行ってもらいたい。その中心にある木の、実を取ってきて欲しいのだ」 サイト「なんだ、簡単じゃね?」 ゼルレッチ「うむ、その森の入り口へは私が送ろう。準備は良いかな?」 四人「おー!」 ゼルレッチ「行ったか……そうだ、森の名前を言い忘れたな。 「腑海林アインナッシュ」というのだが……ま、別にいいか」 ----
#navi(虚無の続き) 無限であったはずの黒い骸は、やはり夢のように消え去った。 それは、彼らを相手にしていた者たちも同じこと。 もはや言葉を交わす時間もなく、夢は醒めようとしている。 葛木宗一郎も、同じ事。 これから、どこに向かうかは知らないが、最期にキャスターの顔を見ることも適わぬらしい。 認識できるのは、隣にいたアサシンのみ。 もはや、お互い言葉を交わすことも出来ない状態であったが、何を思ったかアサシンが動く。 差し出されたその手。握手を求めるものなどでは当然なく、鞘に収められたあまりにも長い刀。 これを受け取れというのだろうが、何の意味もない。 これより消えうせる夢で、手に入れたものなど夢幻の如く全て消えるというのに。 だが、それを宗一郎は受け取った。 アサシンの表情など見えない。そもそも、受け取った手も、とうに消え失せていた。 そして、夢は醒める。 意識は、出口へと向かった。 すなわち、今ここは既に、夢ではないことになる。 だが、この風景は夢でしかありえない。 夢を通して何度も見た、キャスターの故郷にあるような城が遠くに見える。 広がった草原には、キャスターの姿に近い制服を着た少年少女たちが囲んでいる。 「あんた誰?」 その声に、葛木宗一郎は始めて、目の前で自分を見つける少女に気がついた。 「葛木宗一郎。穂群原学園で教職についている者だ」 教師!? と桃色の髪の少女が驚く。 「ミ、ミスタ・コルベール!」 囲んでいる少年少女の中から、中年の男性が現れる。 周りの者たちとも違う、キャスターと同類だと思わせる姿に、魔術師なのだと宗一郎は考えた。 「今の話は聞こえていたよ。お聞きしますが、教師というのは本当ですか?」 「はい。もしや貴方は教師ですか?」 「いかにも。ここはトリステイン魔法学院。私はここの教師でコルベールという者です」 魔法学園。遠坂や衛宮のような魔術師の学園か。 「そうでしたか。では、私は貴方とは違う。私は魔術師ではありません」 その言葉に、周りから「平民か!」と笑い声が響いた。 「平民の学校の教師の方でしたか。しかし、このようなことは前代未聞だ。まさか、人間が召喚されるなどと」 召喚? つまり、自分はキャスターのように召喚されたのかと納得した。 「理解しました。私はこの少女の魔術によって召喚されたということで、間違いないでしょうか?」 「り、理解が早くて助かります。しかし、魔術ではなく魔法と言うのですがね」 突然召喚されたというのに、取り乱すことのない男に、コルベールは困惑する。 更に、この男から感じる雰囲気。 かつて軍にいたときの自分のような…… 「ミスタ・コルベール! 召喚をやり直させてください!」 ルイズの大声に、コルベールの意識が引き戻される。 「残念だが、それは出来ない。「サモン・サーヴァント」による使い魔召喚は、二年生に進級するための神聖な儀式。やり直しは認められない」 その後、しばらく異議を唱え続けた桃色の髪の少女だったが、その度に周りから中傷とも思える笑いを含む声が飛び交った。 「よろしいでしょうか、ミスタ・コルベール」 「なんでしょう?」 教師と思われる禿頭の男性に、宗一郎は意見を述べる。 「詳しいことは分かりませんが、どうやら私のせいで彼女が中傷されているように思われます。 原因が何であれ、私はこの事態を受け止めましょう。どうか、事態の進行を願います」 桃色の少女の異議が止まる。 「わ、わかったわ。どうやら聞き分けも良いみたいだし、この際仕方ないわね」 「いや、助かりましたよ。……では、ミス・ヴァリエール、儀式を続けなさい」 桃色の髪の少女は、再び宗一郎の前に立ち、杖を振る。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。かの者に祝福を与え、我が使い魔となせ」 おそらく、儀式に必要なことなのだろう。 杖を額にかざした後、少女は立ち上がっていた宗一郎にかがむ様に言った。 そして、かがんだ宗一郎の顔に近づき、唇を重ねる。 「契約、完了しました」 髪以上に赤くなった少女を見つめる。 「特に何も変わった様子はないが……む」 左手の甲に熱が走る。見ると、そこには見慣れない模様が刻まれていた。 「令呪か? ともあれ、これで儀式とやらは終了か」 「令呪? ルーンのこと? そうよ、平民が貴族の使い魔になれるなんて、光栄に思いなさい」 「ふむ……珍しいルーンだな。さて、随分待たせましたが、次はミス・ツェルプストーの番です」 赤い髪の女性が、歩いてくる。 背が高めの、色気のある少女は、ルイズに高笑いを始める。 「あはははは! さすがはゼロのルイズ、平民を呼ぶなんてすごいじゃない」 「うるさいわね、キュルケは……ほら、アンタも着いてきなさい!」 ルイズと呼ばれた少女に、宗一郎は付き従う。 「それで、私がすべきことは? 契約した以上、何事にも従おう」 「いい心がけだけど、少し待ちなさい。他のみんなの召喚が終わってから話すわ」 「お前が時間をかけすぎたからだろ!」と声が飛んで、再びルイズが怒り出す。 「え!?」 先ほどの、キュルケという少女の驚きの声。 召喚は、完了したらしい。何もなかったはずの場所に、たたずむ存在は確かにあった。 だが、その姿を見て……ルイズも、コルベールも息を呑む。 周りの生徒は、大きな悲鳴を上げ、腰を抜かす者、逃げ出すものまでいた。 一人だけだが気絶してる者までいた。 「エ、エルフだあああああ!!!!!??」 コルベールは、キュルケの前に飛び出し杖を構える。 召喚された存在は、訝しげに周りを見回す。 「ここは……また妙なことになったわね。どちらの仕業か……じっくり教えてもらいましょうか?」 実力が違うのは承知の上で、コルベールは詠唱を始めようとしたのと、ほぼ同時。 「やめなさい」 「……え?」 宗一郎が、召喚された者へと歩み寄った。 「バ、バカ! なにしてるのよ、殺されるわ!」 ルイズの声を、今は無視する。 歩み寄る宗一郎を、召喚された人物は呆然と見つめ…… 「宗一郎様!!」 感極まったかのように、走り寄る。 「キャスター、お前も召喚されたようだな」 その人物……キャスターのサーヴァント、メディアを抱きとめる宗一郎。 周りは、何事かと目を白黒させている。 「―――連れ添いが迷惑をかけた」 凍りついたかのように静かになる。 平民が何を? と思うのが半分、まさか本当に? と思うのも半分。 「キャスター、この状況を説明できるか?」 「……いいえ。そもそもここは、地球ですらありません」 「そうか。私も、ここへ使い魔として召喚されたことしかわかってはいない」 地球ではない、と言う事実を告げても冷静な宗一郎に、キャスターといえど少し唖然とする。 「使い魔……ああ、なるほど。だから向こうの小娘と魔力の繋がりがあるのですね?」 「分かるのか。キャスター、ここは穏便に済ませたい。お前も、ここは契約とやらを完了してくれ」 「……仕方ありません。ここは、宗一郎様の言うとおりに」 おおっ! と周りから驚きの声が上がる 「キュルケがエルフを使い魔に!」 「エルフの旦那って、ルイズの使い魔って実は凄いのか!?」 などの声に、ルイズも少し喜んだ。 「すまない、勝手な行動を取った」 「ま、まぁいいわ。さすが私の使い魔、よくこの場を収めたわ」 その会話の間に、キュルケとキャスターは契約を済ませて戻ってきていた。 「なんで「微熱」のキュルケが女とキスしなきゃ……」 「うるさいわね、私だって宗一郎様以外に……はっ、なら宗一郎様もあの女と!?」 キャスターの3度は人を殺せる視線がルイズに飛んでくる。 「ひぃ!? ちょ、ソウイチロー!」 「やめろ、キャスター。接吻が儀式において必要なことならば仕方がない。契約というのなら、我々も似たような行いをしただろう」 「た、確かにそうですが……ま、まぁ、あれに比べたらキスなんて、そうですね」 キュルケの眼が輝いた。ルイズが真っ赤になった。 なにしたこいつらー! と思っているうちに、キュルケの次の生徒が召喚を始めていた。 「タバサは、何を召喚するのかしら?」 「また大変なことになるくらいなら、ドラゴンでも何でも、普通に凄いの呼びなさいよ」 キュルケの友人であるタバサが、召喚の言葉を唱え終わる。 そして、風が吹いた。 「問おう。 貴方が、私のマスターか――」 タバサはこの瞬間――運命と出会った。 「サーヴァント・セイバー、召喚に従い参上した。……しかし、ここは?」 あまりに違いすぎる大気中の魔力、状況に、セイバーも困惑を隠せない。 コルベールはいい加減勘弁してくれと泣きそうだった。 さっきのエルフの魔力量も桁違い。今度の剣士も桁違いだ。 そもそも剣士なのに魔力量が桁違いってどういうことだ。 しかし、それだけの魔力量にも関わらず、周囲の生徒は 「タバサまで平民を呼んだぞ」と馬鹿笑い。 キュルケ、ルイズ、モンモンラシーなど一部だけは引きつった顔で事態を理解している。 よかった、アホばっかりじゃないんだ、とコルベールは目元がうるんだ。 「あら、セイバーじゃない」 「ッ……キャスター。そうか、未来に至ることを認められず、暴挙に出たな!」 「お黙りなさい。もしそうなら、こんな訳の分からない場所よりも、あの世界を終わらせない道を選んだわ」 まだセイバーは、その言葉の真偽がわからない。最悪の場合を想定し、剣を――― 「…………は?」 握ろうとし、どこにもないことに気がついた。 「な―――ない! 私の聖剣が、どこにも無い!」 消えていても、即座に出現させることが出来る、最強の聖剣がどうやっても出ない。 いや、そもそも存在していない。 「なんですって……ああ!? わ、私のルールブレイカーも、無い!?」 キャスターの宝具も無い。聖剣より大したことはないかもしれないが、仮にも宝具だ。 「金羊の皮まで無いわ……宗一郎様は、何か無くなっていませんか?」 「いや……むしろ逆だな」 自身の腰に手を当てる。 そこには、あまりにも長い長刀が下げられていた。 「アサシンの物干し竿……どうしてこんなものを?」 「夢の終わりに貰ったものだ。私同様、消えるものだとばかり思ったのだがな」 周りは、この人たち何やってんだ? という顔をしている。 「セイバー、契約を」 タバサの言葉に、ともあれセイバーも契約を済ませる。 キスだとは知らず「すみません、シロウ……」としばらくへこんでいた。 「やはり、こういった直接的な接触が、契約の条件としては多いのですね……」 セイバーの腕にも、やはりルーンが刻まれる。 (このルーンの意味は何なのかしら。調べて見る必要があるわね) 「さあ、皆教室に戻りますよ」 とんだ召喚の儀式となったが、ようやく終わった。 コルベールも溜飲が下がり、皆に学園へと戻るよう告げた。 生徒達は宙に浮かび、飛び去っていく。 「ルイズは歩いてこいよ!」などの声に、ルイズはまたも怒る。 空飛ぶ生徒とコルベールを見て一言。 「デタラメね」 キャスターがつぶやく。 「キャスターも飛べるではないですか……魔術形態がまったく違いますが」 そう、キャスターの飛行能力とは効果が同じかもしれないが、使っている魔術がまったく違う。 「ともかく、調べる必要があるわね。宗一郎様はどうされますか?」 「私は、この少女の使い魔として行動する。既にお前のマスターではなくなったが、できれば事を荒立てるな。 セイバーも、あの少女の使い魔として行動するつもりなのだろう?」 セイバーは、既に飛んでいき、見えなくなっていく少女を眼で追う。 「無論です。たとえ不測の事態だとしても、私は常に、主の危機を救うのみです」 そう言って、風を切るように走り去る。 「速ッ!? 風の魔法なの?」 ルイズとキュルケが驚く中、キャスターが飛び上がる。 「確かに、セイバーを敵にするのは、この段階では避けるべき……了解しました、宗一郎様。荒事は極力避けましょう。 ……では、マスター。参りましょうか?」 「なに、その主人だと思ってないって顔。流石に手に余るわね、これは…… 苦労しそうだけど、ちょっと聞きたいこともあるし……燃えてきたわ」 ローブを翼にして飛んでいくキャスターに、付いていく形で飛んでいくキュルケ。 「行くわよ、ソウイチロウ」 ルイズが歩き出す。 その後ろを宗一郎はついていく。 「……聞かないのね。なんで飛ばないのか」 「先ほどの中傷から察すると、君は飛行の魔法が不得意なのだろう。 だれしも不得意はある以上、それを貶すことは恥ずべきことだ」 ルイズは、少し嬉しかったが、ため息をつく。 「駄目なのよ、私は。どの魔法も使えないの。だから、あんなに笑われるのよ」 「だが、努力はしているのだろう」 「もちろんよ、でも」 「ならば言わせておけばいい。報われなかろうと、努力をしている人間を嗤う権利など、誰にもありはしない」 止まったルイズを、宗一郎が追い抜かす。 「……外れじゃ、なかったみたいね。 って、平民の癖にご主人様より先に行くんじゃないわよ!」 ルイズは走り、草原には誰の姿も無くなった。 ―――否、そこにはまだ動くものがあった。 「……はっ!? エ、エルフは! モンモンラシーは無事か!?」 キャスターの出現に、気絶していたギーシュ・ド・グラモンだった。 学園の方角を見上げ、空を飛んでいる学園の仲間たち、歩いていくルイズを確認した。 ギーシュは泣いた。 「というか、僕はまだ使い魔召喚してないぞ!」 あのコッパゲ!とギーシュはキレた。 「いいさいいさ! 今から世界最高の使い魔を召喚してみせる!」 一人淋しく、使い魔召喚の準備を始めるギーシュ。 「我が名はギーシュ・ド・グラモン、五つの力を司るペンタゴン。我の運命に従いし使い魔を召喚せよ!」 杖を掲げ、唱えた魔法は成功する。 土煙が収まり、そこには召喚されし者が立っていた。 「うおお、これは何事か!?CQCQ!鏡を抜けると、そこは一面の草原だった!」 灰色の猫っぽいのが立っていた。 「おお……こ、これは……美しい!」 ギーシュ、さすがギーシュである。 「ほほう、この私の美しさを理解できるとは。さぞや高貴なお方とお見受けしますが?」 「僕の名前はギーシュ・ド・グラモン! 「青銅」の二つ名を持つ、元帥を父に持つ偉大な魔法使いだ!」 ネコに、戦慄走る! 「にゃにー!? 魔法使い!?元帥!?まさかキシュアの血統かー!? と、んなわけないな、落ち着け私。ともかく家に帰って落ち着こう」 「ま、待て! それは困るし、そもそも無理だ!」 「なんでさ」 ネコに、サモン・サーヴァントについて説明する。 「……というわけで、美しい君に、僕の使い魔になってもらう」 にゃにゃっとネコが笑う。 「これは天恵か。ニート脱却のために何かせねばと思いつつ、録画したアニメを見続ける日々に終止符を打つときが来たか!」 「よし、では契約だ! わが名はギーシュ・ド・グラモン! 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ!」 ブッチュー 「いやああああ! 奪われた、大切な初物を奪われたわああああ! って、うっぎゃあああああ!この手の熱さは何事かー!?」 「これで君は、この僕の使い魔だ! ところで、名前を聞いていなかったな」 騒ぎ終わったネコは、再びにゃにゃっと笑う。 「私の名前は、カオス。ネコアルク・カオス。「混沌」の二つ名を持つナーイスキャッツ。 呼ぶときは、ネコカオスと呼ぶが良い」 人知れず呼び出された、奇妙なキャッツ。 こうして役者は舞台に集まり、幕は開こうとしていた。 ---- おまけ 四人の冒険 サイト「きぃぃぃやあああ!!!? 俺の出番、俺の出番はどこーーー!?」 フレイム「諦めろ、諦めるんだ! もう俺達の活躍なんてありえない!」 サイト「嘘だッッ!俺がいなきゃルイズが輝かない!あんなコッパゲとキャラが被った男じゃ無理だ!」 ヴェルダンデ「使い魔枠以外で、ぼくたちに出番はないよ。よりにもよって、あんなネコに……」 シルフィード「私だってあんまりなのね! あんな大食らいに私の代わりなんて無理なのね!」 三人「いや、十分十分」 「お困りのようだな、諸君」 サイト「だ、誰だ!? この「用無しの座」に入ってくる奴……まさか、噂に聞く間桐慎二!?」 ゼルレッチ「―――いや、魔法使いだ」 四人「きぃぃぃやあああ!!!? け、消しにきやがったーー!?」 ゼルレッチ「そうではない。暇ならば、私の手伝いをしてもらおうと思ってな」 サイト「て、手伝い!? え、え、出番? 出番くれるの?」 ゼルレッチ「無論だ、主人公。それで、手伝ってくれるかね?」 四人「何なりと、マイマスター!」 ゼルレッチ「おお、これは頼もしい。実は、ちょっとある場所に行ってもらいたい」 シルフィード「それってどこなのね?」 ゼルレッチ「とある森に行ってもらいたい。その中心にある木の、実を取ってきて欲しいのだ」 サイト「なんだ、簡単じゃね?」 ゼルレッチ「うむ、その森の入り口へは私が送ろう。準備は良いかな?」 四人「おー!」 ゼルレッチ「行ったか……そうだ、森の名前を言い忘れたな。 「腑海林アインナッシュ」というのだが……ま、別にいいか」 #navi(虚無の続き)

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