シロウが使い魔-03

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#navi(シロウが使い魔) 第3章 ──────────────────────────────  コルベールは図書館で調べ物をしていた。衛宮士郎の左手に現れたルーンのことである。  教師生活20年の間ではじめて見たルーンであった。  食堂と同じ本塔にある図書館は高さ30メイル(約30m)もある。  その一角、教師専用の『フェニアのライブラリー』で一心不乱に書物をあさる。  そして、ついにお目当ての記述を発見した。  それは始祖ブリミルが使用した使い魔たちのことを記述した古書であった。  古書を抱え、コルベールはあわてて学院長室へ向かう。  今日もハルケギニア魔法学院の学院長室では、  学院長オールド・オスマンのセクハラと、秘書のミス・ロングビルの応酬が  それはコントのように行われていた。  最終的に秘書が学院長をサッカーボールのように蹴倒し続けることで決着がつく。    そこにドアを乱暴に開けて入ってきたコルベール。  「オールド・オスマン!!たた、大変です!」  ミス・ロングビルは何事も無かったように席に着く。  「これを見てください!」とコルベールは先ほど見つけた書物を開く。  「君はそんな古書など漁って……。他にやることもあるだろう、ミスタ……」  「コルベールです!お忘れですか!」  「そうそう、コルベール君。で、この書物がどうかしたのかね?」  コルベールは士郎の手に現れたルーンのスケッチを手渡した。  それを見たオスマンの目が剣呑なものと変わる。  「ミス・ロングビル。席を外してもらえるかな」と退席を促すオスマン。  ロングビルが退室すると、オスマンは真剣な目をして言った。  「詳しい説明をしてもらおうかの。ミスタ・コルベール」 ──────────────────────────────  ルイズは魔法失敗によりめちゃくちゃにした、教室の後片付けを命じられていた。  罰として魔法の使用は禁止されていたが、『ゼロのルイズ』にとって意味は無かった。  「あんたもどうせ私のこと、馬鹿にするんでしょ……」  使い魔に幻滅されていると思いルイズは落ち込んでいた。  「そうよ。私は今まで一度だって魔法に成功したこと無いの……」  あらかたの片付けは終わり、ルイズは手を止めてあらぬ方向に向かい、声を荒げる。  「『ゼロ』!『ゼロ』!『ゼロのルイズ』!   私は生まれてからずっと、貴族ではあっても、メイジであったことなんて無いっ!!   だからあんたも…、あんたも…」  「俺は君に幻滅なんかしないよ」  「えっ?」  ルイズは背後で雑巾がけをしていた使い魔のほうを振り返る。  「俺もさ、つい最近までは魔術なんて成功したためしがなかったんだ。   毎日毎日、死ぬ寸前くらいの修行を行って、いざ魔術を試してみると失敗ばかり。   衛宮士郎には魔術を行う才能なんてこれっぽっちも無いかなって思ってた」  「……」 ルイズが無言で話の先を促す。  「そしたら突然、俺は聖杯戦争ってものに巻き込まれたんだ。   実際俺はそこで一度死んでる。 心臓を槍で一突きされて。   奇跡のような魔術で生き返えらせてもらったけど……」  士郎も手を止めて何処か遠くを見上げる。  「そこからはジェットコースターのような毎日だったな。   遠坂凛って子と仲良くなって、自分の属性が“剣”だってわかったんだ。   属性が判明してからは、《強化》の魔術とかも成功率が上がったよ」  ルイズも話に聞き入る。  「今は遠坂の弟子になって、魔術を教えてもらっている」  なんとなく意味がわかったのでルイズはジェットコースターって何とかは訊かない。  「遠坂って人があなたの恋人なの? あと属性が“剣”ってどういう意味?」  「うん、遠坂は恋人だよ。一番大切な人」  ここで照れて否定なんかすると、遠坂本人が現れて士郎をボコボコにしそうだ。  本当にこの異世界に現れるなら歓迎するが……。  「“剣”のことなら実際見てもらおうかな。 丁度誰も居ないし、使い魔としては   マスターに対して能力を見せるのは義務かもしれないから」  窓の外や廊下を探って誰も居ないことを確認した上、士郎は肩の力を抜き、立つ。  「────投影、開始(トレース・オン)」  最近の遠坂との魔術講義で、さんざん投影させられた魔術礼装の剣をイメージする。  <きぃぃぃぃぃん、ざん>  他人には聞こえない音が士郎の耳に届く。  士郎の手の中には『アゾット剣』と呼ばれる一振りの短剣が現れた。  「くっ!!」  短剣が現れると同時に、妙なイメージとともに体が軽くなった気がした。   『アゾット剣』     切り合う為の道具ではなく、所有者の魔力を増幅させ、     魔術行使を補助・強化させる魔杖である。  (そんな事は知っている)  と士郎は思った。いまさら知っている情報を左手のルーン経由で伝えられているようだ。  やはりルーン経由で、妙な力が全身に流れ始めているのも判った。  自分の使い魔が何も無い空間から突然短剣を出したことに驚いたルイズは  しばし呆然と見守っていた。  だが、何か様子がおかしい。士郎はボーっと突っ立っている。  「あんた?大丈夫?」  (なんだ、使い魔のルーンとかには、特殊な能力があったのか?)  士郎は、この現象が今のところ害は無いと判断。思考に流れてくる情報の他に  精神支配・精神崩壊の予兆は無いだろうと思うことにした。  「あ、ああ。大丈夫。   これが俺の属性。“剣”を作ることに特化した魔術師なんだ」  「へ~、妙な魔法ねぇ。私にも属性がわかるといいんだけど。」  「さっきの授業で4大系統と伝説とか言ってたけど、どの系統も使えないのかい?」  少し優しい声で尋ねる士郎。  「……うん、初歩の初歩の魔法だけじゃなくて、『コモンマジック』も成功したことが無いの。   『虚無』は試したことがないわ。伝説だもの。ルーンなんてわからないわ」  こう言われると士郎は、それを何とかしてやりたいと思う。  「もしかしたら歴史書にも載ってない6番目の系統ってこともあるかもしれないぞ。   俺の世界には“五大元素”って言うのはあるけど、俺自身はその中に含まれないし」  本来は分化した魔術という分類もあるが、それは言わないことにした。  「そうね。そうだったらいいな……」  落ち込むルイズに士郎は今投影したばかりの短剣を送ることにした。  「ルイズ。これを君にあげるよ。元手ゼロの安上がりな剣だけど」  「ゼロのルイズに、ゼロエキューの短剣ね……」  自嘲的だが少し笑顔を取り戻すルイズ。  「さ、そろそろお昼になっちゃうわ。とっとと掃除を終わらせましょう」  ………  昼食時間に少し遅れて、食堂に向かったルイズと士郎。  皆は既に食堂の外でティータイムと洒落こんでいるようだ。  だが、なにかもめているらしく、誰かの恫喝する声が聞こえる。  「君が軽率に、香水の壜なんかを拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついた   どうしてくれるんだね?」    周りでは「二股かけてるお前が悪い」などと囃し立てる声も聞こえる。  ルイズは遠巻きに眺めている一人の生徒を捕まえて事情を聞いた。  どうやら一人の彼女に送られた香水の壜を持っていたことに、他の彼女に気づかれて  しまったようである。その際、その壜を拾い上げたのが学院で働いている平民だったようだ。  「あれは、シエスタじゃないか」  平謝りしている少女は、朝見知った人間であった。  「あんた、知ってるの?」  「あぁ、今朝2回ほど世話になった。ちょっと止めてくる」  言うなり士郎は、その渦中に割って入った。ルイズが止める間もなくである。  「八つ当たりと、弱いものいじめはやめとけよ」  「む、何だね。君は」  「俺は衛宮士郎。ミス・ヴァリエールの使い魔だ」  「ふふん、確かに君はゼロのルイズの呼び出した平民だったね。貴族に対する礼儀も知らないなんて」  「何が貴族だ。弱いものいじめをして悪びれないようなやつは、   どの世界においても大したこと無いって決まっている」  これにはカチンときたらしく、  「この、ド・グラモン家のギーシュに対してその口のききよう。   よかろう、君には体で教えねばならないようだね。……ヴェストリの広場へ来たまえ」  ギャラリーがいっせいに沸く。 決闘だ! ギーシュとルイズの使い魔が決闘だ!  ルイズとシエスタが士郎へ駆け寄る。  「あ、あんた、大丈夫なの!?ギーシュって確か『ドット』だけど、あんたに勝てる方法あるの?」  「シ、シロウさん、駄目です!貴族に歯向かったら殺されてしまいます。   今すぐ誤って許してもらってください」    これに対して士郎は  「う~~ん、多分大丈夫だろ。   あいつもここに居る大勢も“死”の匂いが全然しないような人間ばかりだし……」  衛宮士郎はかなり場数も踏んでいる。喧嘩と決闘の違いくらいなら見極めることは簡単だ。  ギーシュの友人らしき人間がヴェストリの広場という場所を教えてくれた。  士郎はすたすたと歩いていってしまう。  「あぁぁ、シロウさんが死んでしまう」と、シエスタは涙を流し蹲ってしまった。  ………  「とりあえず、逃げずに来たことは、褒めてやろうじゃないか。では、始めよう」  ギーシュは手に持っている薔薇の花を振る。花びらが地に舞い落ちると同時にそこから、  甲冑を着た女戦士の形をした人形が現れた。  「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」  「じゃあ俺の方が武器を使っても文句は無いんだな?」  「見たところ、手ぶらのようだが、お願いするんなら剣の一つも『練成』してあげよう」  「ふん、いらねぇ。武器なら持っている」  と、士郎は腰から背中へむけて、服の中に手を入れる。「──投影、開始」  士郎が服の中から手を出すと、その手には短刀が握られていた。  やくざが俗に言うドス(質の悪い短刀)とは違い、いわゆる日本刀の短いバージョンである。  (藤村の爺さんに見せてもらったのが役にたつとは…)  「あははは、そんな小ぶりの剣で僕の『ワルキューレ』に勝てると思っているのかい?   馬鹿にしすぎだよ!!」  士郎の行為に妙な引っ掛かりを感じたギーシュだが、  「言い忘れたな。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。   我が『ワルキューレ』の強さを、その身をもって味わうといい!」  言うなり、ギーシュは『ワルキューレ』を士郎に突進させる。  そんなギーシュの台詞を聞き流しながら、衛宮士郎はやはりと思っていた。  投影直後に起きた体が軽くなる現象は、戦闘に特化した肉体強化だと。  日本刀といえども所詮は短刀である。しかも相手は金属の鎧乙女。  だが士郎は、相手をこの短刀でいなせることを、直感によって知っていた。  そして士郎は『ワルキューレ』の設計図を描き、そこに現れた弱点を攻めることにした。  (意外と間接部分の装甲が薄い)  ………  『ワルキューレ』の攻撃は士郎の体に一度も届くことはなかった。  肉体が強化された士郎にとって、『ワルキューレ』の攻撃はあまりに稚拙すぎた。  戦乙女が一回突撃するたびに、三度の反撃を食らう。しかも士郎は無傷。  あわててギーシュはもてる全ての精神力を使い6体のゴーレムを追加した。  だが、それでも士郎に攻撃が届くことは無かった。  それどころか、1体1体のゴーレムの動きが鈍ってくる。  最初に呼び出した『ワルキューレ』なぞ、膝の関節部分が崩壊する始末。  士郎の投影した短刀が蓄積したダメージによって霧消するころは  全ての『ワルキューレ』は地に伏してもがいていた。  あまりのことに腰が抜けたギーシュ。そこへ歩み寄る士郎。  「ま、参った」  ギーシュは返事をするのが精一杯だった。  「あとで、さっきのメイドに謝っておけよ。いいな!?」  「わ、わかった」 ──────────────────────────────  オスマンとコルベールは一部始終を遠見の鏡で見つめていた。  士郎とギーシュの決闘を止めようと『眠りの鐘』と呼ばれる秘法の使用許可を得ようと  他の教師がオスマンに求めてきたため、騒ぎを知ったためだった。  秘法の使用など喧嘩ごときには使わせなかったオスマンである。  戦い方を見た限りでは、士郎の圧倒的すぎる勝利である。  メイジ相手に短剣などで勝利するなど聞かぬ話だ。  「やはり彼は『ガンダールヴ』。始祖の使い魔に間違いありませんぞ。早速王室へ報告を……」  「それにはおよばん」  とオスマン。  「始祖ブリミルの強大な呪文の長い詠唱時間を守るために存在した『ガンダールヴ』   その強さは……」  コルベールが後を引き継ぐ。  「千人もの軍隊を一人で壊滅させるほどの力を持ち、あまつさえ並のメイジではまったく   歯が立たなかったとか!」  オスマンは語る。  「そのようなものを、王室のボンクラどもの前に吊る下げてみよ。あっという間に戦の道具に   されてしまうじゃろ」  「そうですね。わかりました。これは他言無用ということでよろしいですか?」  「ああ、そうしてくれ。本人たちにも、ルーンを含めて諸々のことを隠すように、言い含めておくように」 ──────────────────────────────  「あ、あなた強いのね……」  ルイズは決着直後に思わず駆け寄ったはいいが、他になんて声を掛ければいいのかわからなかった。  「だから剣でなら戦えるって言ったじゃないか……」  『ガンダールヴ』による肉体強化のことは置いといてである。  「俺はこの世界に居るうちはちゃんと使い魔となりお前を守るつもりだ。   だからルイズは俺が元の世界に戻れるように、努力をしてくれ」  「わ、わかったわ。私は精一杯あんたのご主人様になるわ。決して後悔させないように!」  少女の決意が伝わったのか、士郎はふと微笑む。それを見たルイズは顔を真っ赤にする。  「ひとついいか?使い魔とかご主人様ってなんかピンと来ないんだ。他の呼び名にしていいかな?」  「ルイズ、シロウって呼び合うって事?」  「いや、普段はそれでいいけど、そっちじゃなくて“使い魔”と“ご主人様”の名称を変えたい」  「なんて変えたいのよ!」  なんかこれを認めるとますますご主人様との威厳が損なわれることに危惧して、ルイズは声が荒くなる。  「“サーヴァント”と“マスター”ってどうかな?」  「う、なかなかカッコいいじゃない。」  翻訳機能はうまく働いているようだと士郎は思った。  「いいわ。それで」  士郎は「ん~」と少々考えた後、ケジメだからと真面目な顔をしてルイズに向き直る。  ルイズがきょとんとした顔で士郎の顔を見つめた。見詰め合う二人。  士郎は在りし日の騎士王を思い出して言葉を紡いだ。  「サーヴァント・衛宮士郎。   ───これより我が剣は貴女と共にあり、貴女の運命は我と共にある。   ───ここに、契約は完了した」 #navi(シロウが使い魔)

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