ゼロとさっちん 04

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弓塚さつきは吸血鬼である。  吸血鬼ではあるが、その身に神秘を積み重ねていた訳ではない。  遠野なる混血のお膝元である三咲町で生まれたことを鑑みれば、あるいは何某かの異種の血に連なる者であったとしても不思議ではないが。  仮にそれにしたところで、混血のことも魔のこともまったく知らなかったのだから、血脈の端の端にぶら下がる程度のものだったろう。  彼女が一晩にして死者だのなんだのという経緯をぶっちぎって吸血鬼――死徒にまで至ったのは、あくまでもその身に宿っていた霊的な資質が桁違いであったからだ。  何年かに一度の逸材、というのは彼女自身には自覚のあったことではないが、しかし紛れもない事実なのだ。  過去の二十七祖に届く――と言うのは推測ではあっても大げさなものではないのである。    少なくとも、それはつい何ヶ月か前に証明されている。    ワラキアの夜の残滓と、  埋葬機関の代行者と、  混血の者たちの棟梁と、  退魔の末裔たちと、  エルトナムを継ぐ者と、  そして。  真祖の姫や、魔法使い――  そんな化外のモノたちの跳梁する町を、彼女は駆け抜けた。  それが虚言の夜の続きであったとしても、彼女が圧倒的な存在に対して我意を貫いたのは紛れもなく真実だ。  そして恐るべきことは、それを成し得た彼女が、弓塚さつきという死徒は、そこに至るのに閲した時間がただの一年ほどであるという嘘のような事実である。  もしもさつきが神秘に挑む者であるのならば、ただ欲望のままに力を求めて血を欲する吸血鬼であったのならば。  その果てに、あるいはとてつもない魔人の領域にすら達したかもしれない。  しかし、それはまだifの物語である。  今の彼女にはそれを求める理由がない。  ただ、時にその力の一端を垣間見せているだけにしか過ぎない。  それでさえも、その力は恐るべきものであったが。  そう。  それは彼女の力の一端であり。彼女そのものであった。  虚言の夜の化外の跋扈する街で、弓塚さつきという半端者のミディアンを生き延びさせ得た力。    固有結界――  世界を己の世界(こころ)で塗り潰す、魔法に非ずして魔法の領域にある神秘。  それが。  その力が。  その世界が。  今、ハルケギニアなる異世界を塗り潰す。 「なん……だと……?」  ワルドは、いつの間にか花園の中にいた。  夢か、幻か。  数々の窮地を潜り抜けた彼をしてとっさには判断がつかぬ事態であった  たった数瞬前まで礼拝堂であった空間の天井には青々とした空が広がり、床は大地となっていた。  少し遠くにあるのは清浄な水を噴き上げ、滴と虹を生み出す噴水。  彼方を流れ行く雲。  地を覆い尽くす柔らかく明るい色彩は、名も知れぬ花々だ。  視界を横切って舞い散る花弁は、ワルドの生み出したトルネードカッターによるものであったと知れたが、それだけが彼がこの世界が現実と判断できる全てであった。  その三つの竜巻でさえも、閉鎖された空間から開放された反動か、彼女とそれを囲む自分たちの、さらに外縁にまで遠ざけられていた。  いや、それはおかしい。 (――何をされた!?)  漸く、気づく。  本体を含めた四人のワルドは、それぞれがさつきを対角線の交える処に置いた四角(スクエア)を形成する位置に立っている。  ついさっきまで三人のワルドがさつきを包囲していた。  本体のワルドが入り口でルイズと皇太子を阻んでいた。  それなのに。  いつの間にか、四人でさつきを見ている。  視点の中心にいる吸血鬼を見ている。  さつきは喉を押さえて――  断絶魔の如き、しかし声なき声を上げた瞬間。  さつきがしゃがみこみ、弓なりに背をそらした刹那。  世界はさらに反転した。  枯れていく。  さつきの足元から、草花が枯れてゆく。  それは風が草叢を揺らすかの如き迅速さで、大地の全てを枯らしてゆく。  いや、それは大地だけではなかった。  あの青々とした空はいつの間にか赤黒い色に染まり、あれほどに豊富に水を湛えていた噴水は打ち捨てられたかのように乾き、罅割れていた。  ワルドは理解した。  理性ではなく、本能に一番近い部分で理解した。 (世界そのものが――)  枯れて、乾いているのだ。  世界の変容を正しく認識できていたのは、ワルドだけであった。新たに世界が作り変えられ、なおそれが枯渇していく様をはっきりと近くできたのは彼だけだ。  それはまさに瞬く間に起きたのだから。  ルイズもウェールズでさえも、あの美しい庭園の姿を目に留められていない。  刹那の、あの明るくて柔らかくて、幸せという言葉に事象(かたち)を与えたかのようなさつきの心(世界)を記憶できていない。  気づいたときには枯れていた。  しかしそれでもなお、ルイズの目から涙が零れ落ちた。  何が起きたのか彼女にだって解らない。  解らないが、これは彼女の使い魔の起こした現象で、この世界が彼女の使い魔の心を具象化させたものだと。 (なんて、悲しい世界)  枯れ果てた草花で覆われた大地は、水の尽きた噴水は、そのままさつきの餓えと乾きを顕しているかのようだった。  赤黒い空は、希望の果てたことを示しているのだろうか。  これが弓塚さつきの世界(こころ)。  彼女の使い魔の世界(チカラ)。  固有結界・枯渇庭園 #navi(ゼロとさっちん)
#navi(ゼロとさっちん) 弓塚さつきは吸血鬼である。  吸血鬼ではあるが、その身に神秘を積み重ねていた訳ではない。  遠野なる混血のお膝元である三咲町で生まれたことを鑑みれば、あるいは何某かの異種の血に連なる者であったとしても不思議ではないが。  仮にそれにしたところで、混血のことも魔のこともまったく知らなかったのだから、血脈の端の端にぶら下がる程度のものだったろう。  彼女が一晩にして死者だのなんだのという経緯をぶっちぎって吸血鬼――死徒にまで至ったのは、あくまでもその身に宿っていた霊的な資質が桁違いであったからだ。  何年かに一度の逸材、というのは彼女自身には自覚のあったことではないが、しかし紛れもない事実なのだ。  過去の二十七祖に届く――と言うのは推測ではあっても大げさなものではないのである。    少なくとも、それはつい何ヶ月か前に証明されている。    ワラキアの夜の残滓と、  埋葬機関の代行者と、  混血の者たちの棟梁と、  退魔の末裔たちと、  エルトナムを継ぐ者と、  そして。  真祖の姫や、魔法使い――  そんな化外のモノたちの跳梁する町を、彼女は駆け抜けた。  それが虚言の夜の続きであったとしても、彼女が圧倒的な存在に対して我意を貫いたのは紛れもなく真実だ。  そして恐るべきことは、それを成し得た彼女が、弓塚さつきという死徒は、そこに至るのに閲した時間がただの一年ほどであるという嘘のような事実である。  もしもさつきが神秘に挑む者であるのならば、ただ欲望のままに力を求めて血を欲する吸血鬼であったのならば。  その果てに、あるいはとてつもない魔人の領域にすら達したかもしれない。  しかし、それはまだifの物語である。  今の彼女にはそれを求める理由がない。  ただ、時にその力の一端を垣間見せているだけにしか過ぎない。  それでさえも、その力は恐るべきものであったが。  そう。  それは彼女の力の一端であり。彼女そのものであった。  虚言の夜の化外の跋扈する街で、弓塚さつきという半端者のミディアンを生き延びさせ得た力。    固有結界――  世界を己の世界(こころ)で塗り潰す、魔法に非ずして魔法の領域にある神秘。  それが。  その力が。  その世界が。  今、ハルケギニアなる異世界を塗り潰す。 「なん……だと……?」  ワルドは、いつの間にか花園の中にいた。  夢か、幻か。  数々の窮地を潜り抜けた彼をしてとっさには判断がつかぬ事態であった  たった数瞬前まで礼拝堂であった空間の天井には青々とした空が広がり、床は大地となっていた。  少し遠くにあるのは清浄な水を噴き上げ、滴と虹を生み出す噴水。  彼方を流れ行く雲。  地を覆い尽くす柔らかく明るい色彩は、名も知れぬ花々だ。  視界を横切って舞い散る花弁は、ワルドの生み出したトルネードカッターによるものであったと知れたが、それだけが彼がこの世界が現実と判断できる全てであった。  その三つの竜巻でさえも、閉鎖された空間から開放された反動か、彼女とそれを囲む自分たちの、さらに外縁にまで遠ざけられていた。  いや、それはおかしい。 (――何をされた!?)  漸く、気づく。  本体を含めた四人のワルドは、それぞれがさつきを対角線の交える処に置いた四角(スクエア)を形成する位置に立っている。  ついさっきまで三人のワルドがさつきを包囲していた。  本体のワルドが入り口でルイズと皇太子を阻んでいた。  それなのに。  いつの間にか、四人でさつきを見ている。  視点の中心にいる吸血鬼を見ている。  さつきは喉を押さえて――  断絶魔の如き、しかし声なき声を上げた瞬間。  さつきがしゃがみこみ、弓なりに背をそらした刹那。  世界はさらに反転した。  枯れていく。  さつきの足元から、草花が枯れてゆく。  それは風が草叢を揺らすかの如き迅速さで、大地の全てを枯らしてゆく。  いや、それは大地だけではなかった。  あの青々とした空はいつの間にか赤黒い色に染まり、あれほどに豊富に水を湛えていた噴水は打ち捨てられたかのように乾き、罅割れていた。  ワルドは理解した。  理性ではなく、本能に一番近い部分で理解した。 (世界そのものが――)  枯れて、乾いているのだ。  世界の変容を正しく認識できていたのは、ワルドだけであった。新たに世界が作り変えられ、なおそれが枯渇していく様をはっきりと近くできたのは彼だけだ。  それはまさに瞬く間に起きたのだから。  ルイズもウェールズでさえも、あの美しい庭園の姿を目に留められていない。  刹那の、あの明るくて柔らかくて、幸せという言葉に事象(かたち)を与えたかのようなさつきの心(世界)を記憶できていない。  気づいたときには枯れていた。  しかしそれでもなお、ルイズの目から涙が零れ落ちた。  何が起きたのか彼女にだって解らない。  解らないが、これは彼女の使い魔の起こした現象で、この世界が彼女の使い魔の心を具象化させたものだと。 (なんて、悲しい世界)  枯れ果てた草花で覆われた大地は、水の尽きた噴水は、そのままさつきの餓えと乾きを顕しているかのようだった。  赤黒い空は、希望の果てたことを示しているのだろうか。  これが弓塚さつきの世界(こころ)。  彼女の使い魔の世界(チカラ)。  固有結界・枯渇庭園 #navi(ゼロとさっちん)

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