決闘の流儀

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「シロウ!」  複数のワルキューレにもてあそばれるシロウの姿に、ルイズの悲痛な声がヴェストリの広場に響く。  だから言ったのだ、メイジとの決闘など、無謀以外の何者でもないと。  貴族に難癖をつけられたメイドなど、放っておけばよいと。  だが、シロウは退かなかった。 「俺は、正義の味方を目指しているから……」  彼女の使い魔となった少年は、そう言ってこの決闘に臨んだ。  いや、この少年は今回ばかりではなく、常々そう言っていたのだ。  まったく訳が分からない。  正義の味方などという御伽噺の上でしか存在しない概念を本気で信じてるのもそうだが、 ましてやそれを本気で実践しようとしていようなどと、誰が思うものか。  そして、少し話をした程度のメイドをかばって、メイジとの決闘に挑むなどと―――本当に、 訳が分からない。  だが―――それでもルイズは、そんなシロウのことが嫌いにはなれなかった。  召喚した当時こそ衝突したものの、それもすぐに飲み込んで、自分の使い魔となってくれたシロウ。 『まだ納得はできないけど……でも、やると決めたからには全力を尽くすよ』  ―――まじめくさってそう言った時のことは、今でも覚えている。  口うるさい部分はあっても、何くれと自分の世話を焼いてくれたシロウ。 『よし、気に入ってもらえたみたいだな』  ―――彼が手ずから振舞った料理を遠まわしに褒めてあげたら、子供のような素直な笑顔で喜んで、 こっちのほうが恥ずかしくなったものだった。  自分が授業の実技に失敗し、罰当番に付き合わせた時にも、蔑みも同情もせず、励ましてくれたシロウ。 『うまく行かないことだってあるさ。俺なんてしょっちゅうだ。  ―――それでも、こうなるって決めたなら、うまく行かなくても目指し続けるしかないだろう?』  真剣な表情で、自分に言い聞かせるように語った顔には、正直引き込まれる物があった。……直後に 気恥ずかしくなって、逆切れしてしまったけれども。  そんなシロウが、今傷だらけになっている。  シロウも懸命に拳や蹴りを繰り出して反撃するが、複数相手に囲まれてしまっていては、それも効果はない。 「さあ、そろそろ降参してはどうかな?」  対するギーシュは余裕のきわみだ。それもそうだろう。彼が弄ぶ薔薇には、まだ4枚の花びらを残している。 7体展開できるワルキューレを、彼はまだ半分も使っていないのだ。  態度はシロウをなぶるものだが、その降伏勧告は彼なりの慈悲なのだろう。  ルイズは、シロウがそれを受けてくれることを願った。 「俺は―――退かない」  同時に―――シロウがそれを受け入れるはずがないことも、分かっていた。  彼女の使い魔は、そういう少年なのだから。 「そうかい……なら、遠慮なく止めといくよ!」  ギーシュが振るう杖にあわせ、ワルキューレ残り4体が顕現する。  そして7体となったワルキューレは、同時にシロウへと襲い掛かる。  ―――ここに、勝敗は決した。  それは道理。メイジを相手に、一介の少年でしかないシロウは勝てるはずもない。  ワルキューレたちが後退し、ギーシュの前へと整列する。  その眼前には―――ズタボロになって地に倒れ伏す、シロウの姿があった。 「っいやあああああああああああああああああああああああああああああ!」  ヴェストリの広場に、ルイズの絶叫が響く。  その声を聞き、あるものは顔をしかめ、あるものはいい気味だと笑い、  シロウはあっさりと起き上がった。 「よっし、それじゃあ第2ラウンドいくか」 「……は?」  おもわず杖を取り落とすギーシュ。ワルキューレも花に戻る。 「え? いや、あの、あれ? キミはいま、ズタボロになって倒れてなかった?」 「なんでさ? 1ラウンド目は取られちゃったけど、2ラウンド目になったら体力回復して仕切りなおしに きまってるじゃないか」 「え? ええ? えええええ?!」 「シ、シロウ?」  ギーシュは動揺する。ルイズも動転している。シロウの言っていることが、まるで分からない。  いやそもそも、さっきまでの悲壮な姿はなんだったのか。 「いやさすが魔法の本場だな。一対一の対戦かとおもってたら、いきなり複数相手に囲まれてたこ殴り だもんな。うん、俺も油断してた」  初対戦の相手だし、まずは様子見なんて日和ったのがまずかったな、なんて感心したようにうんうんと 頷くシロウからは、先ほどまでのダメージなど欠片も見受けられない。 「でも、アンタの戦い方も分かったし、こっちも魔力がたまったし、今度は負けないぞ」 「よ、よ、良く分からないけど……」  ギーシュは動揺しつつも、取り落とした杖を拾って身構える。 「何度だって同じだよ! 今度も返り討ちさ!」  それに対してシロウは、やや半身の自然体で迎え撃つ。 「いくぞギーシュ・ド・グラモン―――ワルキューレの貯蔵は十分か」  ラウンド2……ファイト! 「ワルキュ……!」 「一撃!」  どこからか響いたその渋い声とともに、ギーシュがワルキューレを展開するよりも早くシロウが 突進する。  体重の乗った低い姿勢からのフックを、とっさにガードするギーシュ。だが、シロウの攻撃はそれで 終わりではなかった。すかさず再び駆け出すと、いまだにガードに身を固めるギーシュの両肩を掴み、 体を崩してからその腹に膝蹴りを叩き込む。たまらずよろけるギーシュだが、シロウの勢いは まだ止まらない。再び駆け寄って、低い姿勢からの蹴り、さらにそこからの右アッパーと 連続攻撃を繰り出し、さらに。 「失せろ!」  いつの間にか両手に握っていた一対の短剣で、身を投げ出すようにして斬り下ろし二連撃。振り切った 短剣は、ガラスのように砕け散り、宙へと溶けるように消える。  地にたたきつけられ、逆に跳ね上がったギーシュをさらに連続攻撃が襲い、再び肘打ちとアッパーで 跳ね上げられる。そのギーシュを追って、シロウもジャンプ。空中で蹴り、膝、どこからか取り出した 弓矢(これも撃ち終った後で宙に消えた)、さらにもう一度膝をいれ、着地してからいまだ宙にいる ギーシュに膝蹴り・肘打ち、アッパーのおなじみの連続攻撃セット。さらに……。 「トレース……」  シロウの右腕に、光る緑の筋が浮かび上がる。右手に顕現する、黄金に輝く剣。 「くらえぇ!」  そしてそれを、振りぬく!  彼の能力をもってしても無茶のある投影の代償に、がっくりと膝を着くシロウ。  ―――もちろん、なす術もなくずっとコンボを食らい続けるしかなく、体力の3割を持っていかれた ギーシュの方がよほど悲惨だが。 「な、なんか今シロウ、魔法っぽいもの使ってなかった?」  展開に付いていけず、呆然とするルイズ。 「私はそれより、あの曲芸じみたっていうか正直ウソくさい体術のほうが気になるわね……」  いつの間にか近くに立っていたキュルケも、呆然とするほかない。 「投げからの通常技コンボキャンセルの鶴翼双連(中)、さらにエリアルコンボから先に着地しての 地上コンボ、締めのカリバーン……士郎のコンボとしては基本」  タバサはなんだか饒舌だった。 「く、詳しいわね」 「本に載ってた」 「へ、へぇ……なんて本?」 「デスノート」 「……ぶ、物騒な名前ね」 「……間違えた、アルカ」  タバサの言葉は、途中で歓声がかき消された。シロウたちの方に動きがあったようだ。 「ワ、ワルキューレ!!」  ようやくコンボから解放されたギーシュが、慌てて3体のワルキューレを呼び出し、隊列を組ませて 防御を固める。ギーシュの額には焦りの汗。ようやく彼にも、今自分が対峙している相手が、平民ではなく メイジ……どころか、もっとヤバイ「何か」であることが実感できていた。  だってつい今さっき苦しそうに膝着いてたくせに、もうケロッとしてるし。  だが、防御を固めるギーシュに対し、シロウはさらに追撃の手を休めない。 「トレース……」  ぐっと横に突き出した両手に緑の筋が浮かび、その手に二振りの短剣――先ほどのコンボの中でも 使用した、白と黒の一対のものだ――が握られる。  そしてシロウは、それを思い切りギーシュに対して投げつけた。 「ワルキューレ!」  しかし、ギーシュの命令に反応したワルキューレが、その前に立ちふさがる。堅固な青銅の両手に 阻まれた短剣は、軌道を逸らされて後方へと弾かれいった。  だが―――それもまた、シロウの追撃の布石に過ぎない!  駆け出すシロウ。その手には、先ほど投じたはずの一対の短剣が握られている。  バカな、あの短剣はどこかに弾かれて……!  とっさに先ほど弾いた短剣の行方に目をやるギーシュは……それがまだ、勢いを衰えさせずに 宙を駆けていることに気づく。  そしてさらに、駆け出すシロウに呼応するかのように、弧を描いて戻ってきていることに! 「はっ!」  ワルキューレの一体に対し、右手の白い短剣を突き出すシロウ。ワルキューレはそれを防ごうとするが、 同時に背後から迫る黒い短剣に反応できず、結果双方を食らってしまう。 「やっ!」  さらに踏み込んで、もう一体のワルキューレに今度は左手の黒い短剣を突き出す。先ほどの結果を なぞるように、今度は白い短剣との同時攻撃にワルキューレは貫かれる。 「てやぁぁ!」  さらに踏み込み。三度シロウの手の中に現れた一対の短剣を、最後の一体に叩き込む。 「終わりだ!」  シロウの声に呼応するように、三対の短剣は弾け、同時に三体のワルキューレも消えた。 「ば、ばかな……!」  一瞬で三体ものワルキューレが倒されたことに呆然としながら、ギーシュは慌てて残りのワルキューレ を呼び出した。 「な、なんなのよ今の……」 「鶴翼三連……」  呆然とつぶやくルイズに、同じくつぶやくように答えるタバサ。  呆然としているルイズをちらりと横目で見てから、キュルケが問う。 「ナニソレ?」 「干将、莫耶は夫婦剣……離れていても、お互いを引き寄せあう……それを利用した、時間差の 同時攻撃……その真価は、最初の一撃を弾かれたときにこそ発揮される」 「へぇ……」  すっかりと解説役となったタバサの言葉に、感心するキュルケ。出典は気にしないことにする。 「具体的には、相手がガード状態の時に当てると完全発動する特殊技。  実はまともに食らったほうがダメージ少ない」 「へ、へぇ……?」  なんだか台無しだった。  その後はしばらく、盛り上がりのない展開が続いた。 「同時展開可能なワルキューレ……相手にするには厄介だけど、ネタが割れれば対処のしようはある……!」  シロウはその言葉どおり、冷静に対処した。  この状況におけるワルキューレの脅威は、まさに数の暴力の一言に尽きる。  青銅の堅い体を持つワルキューレに囲まれてしまえば、肉弾戦では勝ち目は薄い。  だが逆に言えば、ワルキューレの能力は連携しての肉弾戦、ただそれだけだ。  最初から対複数戦と想定すれば、少し頑丈な人間を相手にしているのと変わらない……! 「正射必中!」 「食らいつけ!」  シロウはワルキューレから距離を置き、弓や短剣を使用した遠距離攻撃で着実にダメージを与えていく。  ギーシュもワルキューレで取り囲んで追い詰めようとするが、囲みきる前にダッシュや人間大の ワルキューレをあっさり飛び越える人間離れしたジャンプ―――挙句に、何もない空中でもう一度 飛び上がると言う物理法則無視まで駆使され、捕らえきれない。  しばらくそういった小競り合いが続き、ワルキューレが一体、また一体と消滅していく。 「くっ……!」  今また一体のワルキューレが崩れ落ち、残り一体となる。ギーシュの焦りが増す。  だが、それでもそこで気を取られるべきではなかった。  ギーシュが残り一体となったワルキューレを引き戻すべきかと逡巡した瞬間、シロウはワルキューレを すり抜けてギーシュへと駆け出す!  とっさに防御を固めるギーシュ。先ほど、低い姿勢からのキックからのコンボを延々食らったトラウマ からか、そのガードの意識は足元に向いていた。  だが、それこそがシロウの思う壺だった。  ダッシュしたシロウはその勢いのままに飛び膝蹴り、それはお留守となってるギーシュの顔面(別の 言い方をすれば中段)に吸い込まれ、ギーシュを跳ね上げる。  それを追ってシロウもジャンプし、空中で弓を引き絞った。 「で、ここからまた延々コンボなワケね……」  表情に乏しいルイズの呟きは、犠牲者を哀れんでのものか、それとも一方的な展開にうんざりしてのものか。 「バスケや宇宙旅行よりはマシ」 「……なにそれ?」  キュルケの問いにタバサは一瞬沈黙し、 「専門用語、あるいは俗語表現」  とだけ答えた。  先ほどとは微妙に違うコンボを続けながら、シロウはギーシュを壁際に追い込んでいく。  ギーシュの顔に悟り済ましたような表情が浮かんでいるのは気のせいであろうか?  もう幾度叩き込んだか分からないおなじみの低い姿勢からのアッパーを放った後、シロウは 弓を実体化させ、それを上空に向かって引き絞る。 「あれは……」  それまで冷静に解説していたタバサが、わずかに目を見開く。 「どうしたのタバサ?」  タバサはそれに答えず、矢を放ったシロウが一瞬だけ魔力をまとったガードを固めるのを見て 「やはり……」と呟いた。 「だからどうしたのよタバサ?」  キュルケやルイズの目からは、シロウのコンボの特殊性が分からない。  だが。 「トレース……」  シロウが先ほどと同じく右手に顕現する、黄金に輝く剣を振りぬいた時。 「くらえぇ!」  先ほどとは比べ物にならない大ダメージを叩き込み、今度こそギーシュが沈黙したのを見て、 ルイズたちも目を見張るのだった。 「補正切り……」  黄金の剣が降りぬかれる直前、上空から飛来した光の矢がギーシュに当たったのを確かに見抜いた タバサは、そう呟く。 「なにそれ?」  いい加減、そう聞くのも飽きてきたキュルケだが、それでもタバサの呟きに律儀に問いかける。  タバサは一度うなづくと説明を続けた。 「通常、コンボに組み込まれた技は補正がかかり、ダメージが減少する……しかし、超必殺技使用時、 その画面演出から発動までの間に何かの技でダメージが入ると、その超必殺技には補正がかからなくなる という現象を利用し、ダメージを飛躍的に延ばすテクニック……現状、バグなのか仕様なのかは 未知数だけれども、現時点でダメージを伸ばすためには必須のテクニックと言える。  シロウの場合、コンボの途中でトラップシュートを放ち、その隙をリフレクトガードで強制的に キャンセルした後、時間差で飛来するトラップシュートの矢に合わせてカリバーンを合わせて成立させた」 「……………………?」 「……………………?」  説明を受けても……いや、その説明こそがさっぱりワケが分からなかった。  そんな微妙な空気の実況ガールズ達を尻目に、決着のついた少年達はさわやかにお互いの健闘を称えあっていた。 「まいったね……手も足も出なかったよ」  ギーシュに手を貸して助け起こしながら、シロウは彼に笑いかける。 「それはお互い様さ。1ラウンド目は敗色濃厚になったし、わざと手の内を隠したしな」 「キミもメイジ……だったのかい?」 「うーん、その見習いってところかな。まともな術一つ使えないで、師匠にも呆れられてた」 「そうかい……とにかく、負けを認めるよ。君の言うとおり、彼女達にはきちんと謝罪させてもらう」 「うん、そうしてくれ。それじゃあ……」  シロウはにっこりと笑う。 「最終ラウンド行こうか」 「………………………は?」  ギーシュの笑顔が凍りつく。 「え、いや、あの、最終ラウンドって……?」  うめく様に問いかけるギーシュに、シロウはワケが分からない、という風に小首をかしげる。 「え? 対戦は三本が基本だろう? 設定を変えれば5本とかもあるけどさ」  つまり……一本目はギーシュ、二本目はシロウが取ったのだから、勝負をつけるのは次のラウンドだと いう理屈。  ギーシュは一気に青ざめる。 「ま、待ってくれ! 僕は今ので魔力も尽きて……!」 「それは甘かったな。魔力をつぎ込んであくまで勝ちを狙うか、そのラウンドは捨てて魔力を温存して 次のラウンドにかけるかは、駆け引きの基本だぞ?」 「そ、そんなことを言われても……!」 「なんでさ? 攻撃当てたり敵の攻撃を食らったり防御すれば、魔力も回復するだろう? 序盤は 不利かもしれないけど、あきらめることはないぞ」 「そんな器用な身体はしてないっっっ!!」  ギーシュの悲痛な叫びもむなしく。  例の渋い「ラウンド3……ファイト!」の号令が響くのだった。 (以下、グラモン家の名誉のため、省略されました……読むためには、「モンモランシーごめんなさい ケティごめんなさいシェスタごめんなさい」と千回発言してください) 「待たせたなルイズ。俺の投影魔術もなかなかのもんだろう?」  対戦を終えて、意気揚々とルイズの元に戻ってくるシロウ。  対戦結果? ―――分かりきった結末を語る必要はない。 「あー、うん、そうね……」  そんなシロウを、賞賛すべきか叱責すべきかその投影魔術とやらを問いただすべきかそもそも そのインチキくさい戦闘能力を突っ込むべきか、判然とせず微妙な表情で迎えるルイズ。  と、不意にシロウがよろめき、左手を押さえてうめく。 「っ……無理をしすぎたか……? 右側の回路がのきなみダウンしちまった…」 (アレだけ好き放題やっといて、いまさら無理も何もないものよね) (右って言ってるのに、なんで左手押さえてるのかしら) (邪気眼?)  心の中で総ツッコミする、実況ガールズだった。 Fateの、unlimited codesの方から衛宮士郎を召喚。 ちなみにタイトルは、決闘(たいせん)の流儀(しよう)と読みます。 おまけ:宇宙旅行、バスケとは。 それぞれ、戦国バサラX、北斗の拳において、バグ現象を利用した永久コンボのこと。 前者は特定条件でエリアルコンボが延々続くことから、後者は特定条件で延々敵を下に叩き付けて拾える ことからそう呼ばれる。 [[小ネタ]] ----
「シロウ!」  複数のワルキューレにもてあそばれるシロウの姿に、ルイズの悲痛な声がヴェストリの広場に響く。  だから言ったのだ、メイジとの決闘など、無謀以外の何者でもないと。  貴族に難癖をつけられたメイドなど、放っておけばよいと。  だが、シロウは退かなかった。 「俺は、正義の味方を目指しているから……」  彼女の使い魔となった少年は、そう言ってこの決闘に臨んだ。  いや、この少年は今回ばかりではなく、常々そう言っていたのだ。  まったく訳が分からない。  正義の味方などという御伽噺の上でしか存在しない概念を本気で信じてるのもそうだが、 ましてやそれを本気で実践しようとしていようなどと、誰が思うものか。  そして、少し話をした程度のメイドをかばって、メイジとの決闘に挑むなどと―――本当に、 訳が分からない。  だが―――それでもルイズは、そんなシロウのことが嫌いにはなれなかった。  召喚した当時こそ衝突したものの、それもすぐに飲み込んで、自分の使い魔となってくれたシロウ。 『まだ納得はできないけど……でも、やると決めたからには全力を尽くすよ』  ―――まじめくさってそう言った時のことは、今でも覚えている。  口うるさい部分はあっても、何くれと自分の世話を焼いてくれたシロウ。 『よし、気に入ってもらえたみたいだな』  ―――彼が手ずから振舞った料理を遠まわしに褒めてあげたら、子供のような素直な笑顔で喜んで、 こっちのほうが恥ずかしくなったものだった。  自分が授業の実技に失敗し、罰当番に付き合わせた時にも、蔑みも同情もせず、励ましてくれたシロウ。 『うまく行かないことだってあるさ。俺なんてしょっちゅうだ。  ―――それでも、こうなるって決めたなら、うまく行かなくても目指し続けるしかないだろう?』  真剣な表情で、自分に言い聞かせるように語った顔には、正直引き込まれる物があった。……直後に 気恥ずかしくなって、逆切れしてしまったけれども。  そんなシロウが、今傷だらけになっている。  シロウも懸命に拳や蹴りを繰り出して反撃するが、複数相手に囲まれてしまっていては、それも効果はない。 「さあ、そろそろ降参してはどうかな?」  対するギーシュは余裕のきわみだ。それもそうだろう。彼が弄ぶ薔薇には、まだ4枚の花びらを残している。 7体展開できるワルキューレを、彼はまだ半分も使っていないのだ。  態度はシロウをなぶるものだが、その降伏勧告は彼なりの慈悲なのだろう。  ルイズは、シロウがそれを受けてくれることを願った。 「俺は―――退かない」  同時に―――シロウがそれを受け入れるはずがないことも、分かっていた。  彼女の使い魔は、そういう少年なのだから。 「そうかい……なら、遠慮なく止めといくよ!」  ギーシュが振るう杖にあわせ、ワルキューレ残り4体が顕現する。  そして7体となったワルキューレは、同時にシロウへと襲い掛かる。  ―――ここに、勝敗は決した。  それは道理。メイジを相手に、一介の少年でしかないシロウは勝てるはずもない。  ワルキューレたちが後退し、ギーシュの前へと整列する。  その眼前には―――ズタボロになって地に倒れ伏す、シロウの姿があった。 「っいやあああああああああああああああああああああああああああああ!」  ヴェストリの広場に、ルイズの絶叫が響く。  その声を聞き、あるものは顔をしかめ、あるものはいい気味だと笑い、  シロウはあっさりと起き上がった。 「よっし、それじゃあ第2ラウンドいくか」 「……は?」  おもわず杖を取り落とすギーシュ。ワルキューレも花に戻る。 「え? いや、あの、あれ? キミはいま、ズタボロになって倒れてなかった?」 「なんでさ? 1ラウンド目は取られちゃったけど、2ラウンド目になったら体力回復して仕切りなおしに きまってるじゃないか」 「え? ええ? えええええ?!」 「シ、シロウ?」  ギーシュは動揺する。ルイズも動転している。シロウの言っていることが、まるで分からない。  いやそもそも、さっきまでの悲壮な姿はなんだったのか。 「いやさすが魔法の本場だな。一対一の対戦かとおもってたら、いきなり複数相手に囲まれてたこ殴り だもんな。うん、俺も油断してた」  初対戦の相手だし、まずは様子見なんて日和ったのがまずかったな、なんて感心したようにうんうんと 頷くシロウからは、先ほどまでのダメージなど欠片も見受けられない。 「でも、アンタの戦い方も分かったし、こっちも魔力がたまったし、今度は負けないぞ」 「よ、よ、良く分からないけど……」  ギーシュは動揺しつつも、取り落とした杖を拾って身構える。 「何度だって同じだよ! 今度も返り討ちさ!」  それに対してシロウは、やや半身の自然体で迎え撃つ。 「いくぞギーシュ・ド・グラモン―――ワルキューレの貯蔵は十分か」  ラウンド2……ファイト! 「ワルキュ……!」 「一撃!」  どこからか響いたその渋い声とともに、ギーシュがワルキューレを展開するよりも早くシロウが 突進する。  体重の乗った低い姿勢からのフックを、とっさにガードするギーシュ。だが、シロウの攻撃はそれで 終わりではなかった。すかさず再び駆け出すと、いまだにガードに身を固めるギーシュの両肩を掴み、 体を崩してからその腹に膝蹴りを叩き込む。たまらずよろけるギーシュだが、シロウの勢いは まだ止まらない。再び駆け寄って、低い姿勢からの蹴り、さらにそこからの右アッパーと 連続攻撃を繰り出し、さらに。 「失せろ!」  いつの間にか両手に握っていた一対の短剣で、身を投げ出すようにして斬り下ろし二連撃。振り切った 短剣は、ガラスのように砕け散り、宙へと溶けるように消える。  地にたたきつけられ、逆に跳ね上がったギーシュをさらに連続攻撃が襲い、再び肘打ちとアッパーで 跳ね上げられる。そのギーシュを追って、シロウもジャンプ。空中で蹴り、膝、どこからか取り出した 弓矢(これも撃ち終った後で宙に消えた)、さらにもう一度膝をいれ、着地してからいまだ宙にいる ギーシュに膝蹴り・肘打ち、アッパーのおなじみの連続攻撃セット。さらに……。 「トレース……」  シロウの右腕に、光る緑の筋が浮かび上がる。右手に顕現する、黄金に輝く剣。 「くらえぇ!」  そしてそれを、振りぬく!  彼の能力をもってしても無茶のある投影の代償に、がっくりと膝を着くシロウ。  ―――もちろん、なす術もなくずっとコンボを食らい続けるしかなく、体力の3割を持っていかれた ギーシュの方がよほど悲惨だが。 「な、なんか今シロウ、魔法っぽいもの使ってなかった?」  展開に付いていけず、呆然とするルイズ。 「私はそれより、あの曲芸じみたっていうか正直ウソくさい体術のほうが気になるわね……」  いつの間にか近くに立っていたキュルケも、呆然とするほかない。 「投げからの通常技コンボキャンセルの鶴翼双連(中)、さらにエリアルコンボから先に着地しての 地上コンボ、締めのカリバーン……士郎のコンボとしては基本」  タバサはなんだか饒舌だった。 「く、詳しいわね」 「本に載ってた」 「へ、へぇ……なんて本?」 「デスノート」 「……ぶ、物騒な名前ね」 「……間違えた、アルカ」  タバサの言葉は、途中で歓声がかき消された。シロウたちの方に動きがあったようだ。 「ワ、ワルキューレ!!」  ようやくコンボから解放されたギーシュが、慌てて3体のワルキューレを呼び出し、隊列を組ませて 防御を固める。ギーシュの額には焦りの汗。ようやく彼にも、今自分が対峙している相手が、平民ではなく メイジ……どころか、もっとヤバイ「何か」であることが実感できていた。  だってつい今さっき苦しそうに膝着いてたくせに、もうケロッとしてるし。  だが、防御を固めるギーシュに対し、シロウはさらに追撃の手を休めない。 「トレース……」  ぐっと横に突き出した両手に緑の筋が浮かび、その手に二振りの短剣――先ほどのコンボの中でも 使用した、白と黒の一対のものだ――が握られる。  そしてシロウは、それを思い切りギーシュに対して投げつけた。 「ワルキューレ!」  しかし、ギーシュの命令に反応したワルキューレが、その前に立ちふさがる。堅固な青銅の両手に 阻まれた短剣は、軌道を逸らされて後方へと弾かれいった。  だが―――それもまた、シロウの追撃の布石に過ぎない!  駆け出すシロウ。その手には、先ほど投じたはずの一対の短剣が握られている。  バカな、あの短剣はどこかに弾かれて……!  とっさに先ほど弾いた短剣の行方に目をやるギーシュは……それがまだ、勢いを衰えさせずに 宙を駆けていることに気づく。  そしてさらに、駆け出すシロウに呼応するかのように、弧を描いて戻ってきていることに! 「はっ!」  ワルキューレの一体に対し、右手の白い短剣を突き出すシロウ。ワルキューレはそれを防ごうとするが、 同時に背後から迫る黒い短剣に反応できず、結果双方を食らってしまう。 「やっ!」  さらに踏み込んで、もう一体のワルキューレに今度は左手の黒い短剣を突き出す。先ほどの結果を なぞるように、今度は白い短剣との同時攻撃にワルキューレは貫かれる。 「てやぁぁ!」  さらに踏み込み。三度シロウの手の中に現れた一対の短剣を、最後の一体に叩き込む。 「終わりだ!」  シロウの声に呼応するように、三対の短剣は弾け、同時に三体のワルキューレも消えた。 「ば、ばかな……!」  一瞬で三体ものワルキューレが倒されたことに呆然としながら、ギーシュは慌てて残りのワルキューレ を呼び出した。 「な、なんなのよ今の……」 「鶴翼三連……」  呆然とつぶやくルイズに、同じくつぶやくように答えるタバサ。  呆然としているルイズをちらりと横目で見てから、キュルケが問う。 「ナニソレ?」 「干将、莫耶は夫婦剣……離れていても、お互いを引き寄せあう……それを利用した、時間差の 同時攻撃……その真価は、最初の一撃を弾かれたときにこそ発揮される」 「へぇ……」  すっかりと解説役となったタバサの言葉に、感心するキュルケ。出典は気にしないことにする。 「具体的には、相手がガード状態の時に当てると完全発動する特殊技。  実はまともに食らったほうがダメージ少ない」 「へ、へぇ……?」  なんだか台無しだった。  その後はしばらく、盛り上がりのない展開が続いた。 「同時展開可能なワルキューレ……相手にするには厄介だけど、ネタが割れれば対処のしようはある……!」  シロウはその言葉どおり、冷静に対処した。  この状況におけるワルキューレの脅威は、まさに数の暴力の一言に尽きる。  青銅の堅い体を持つワルキューレに囲まれてしまえば、肉弾戦では勝ち目は薄い。  だが逆に言えば、ワルキューレの能力は連携しての肉弾戦、ただそれだけだ。  最初から対複数戦と想定すれば、少し頑丈な人間を相手にしているのと変わらない……! 「正射必中!」 「食らいつけ!」  シロウはワルキューレから距離を置き、弓や短剣を使用した遠距離攻撃で着実にダメージを与えていく。  ギーシュもワルキューレで取り囲んで追い詰めようとするが、囲みきる前にダッシュや人間大の ワルキューレをあっさり飛び越える人間離れしたジャンプ―――挙句に、何もない空中でもう一度 飛び上がると言う物理法則無視まで駆使され、捕らえきれない。  しばらくそういった小競り合いが続き、ワルキューレが一体、また一体と消滅していく。 「くっ……!」  今また一体のワルキューレが崩れ落ち、残り一体となる。ギーシュの焦りが増す。  だが、それでもそこで気を取られるべきではなかった。  ギーシュが残り一体となったワルキューレを引き戻すべきかと逡巡した瞬間、シロウはワルキューレを すり抜けてギーシュへと駆け出す!  とっさに防御を固めるギーシュ。先ほど、低い姿勢からのキックからのコンボを延々食らったトラウマ からか、そのガードの意識は足元に向いていた。  だが、それこそがシロウの思う壺だった。  ダッシュしたシロウはその勢いのままに飛び膝蹴り、それはお留守となってるギーシュの顔面(別の 言い方をすれば中段)に吸い込まれ、ギーシュを跳ね上げる。  それを追ってシロウもジャンプし、空中で弓を引き絞った。 「で、ここからまた延々コンボなワケね……」  表情に乏しいルイズの呟きは、犠牲者を哀れんでのものか、それとも一方的な展開にうんざりしてのものか。 「バスケや宇宙旅行よりはマシ」 「……なにそれ?」  キュルケの問いにタバサは一瞬沈黙し、 「専門用語、あるいは俗語表現」  とだけ答えた。  先ほどとは微妙に違うコンボを続けながら、シロウはギーシュを壁際に追い込んでいく。  ギーシュの顔に悟り済ましたような表情が浮かんでいるのは気のせいであろうか?  もう幾度叩き込んだか分からないおなじみの低い姿勢からのアッパーを放った後、シロウは 弓を実体化させ、それを上空に向かって引き絞る。 「あれは……」  それまで冷静に解説していたタバサが、わずかに目を見開く。 「どうしたのタバサ?」  タバサはそれに答えず、矢を放ったシロウが一瞬だけ魔力をまとったガードを固めるのを見て 「やはり……」と呟いた。 「だからどうしたのよタバサ?」  キュルケやルイズの目からは、シロウのコンボの特殊性が分からない。  だが。 「トレース……」  シロウが先ほどと同じく右手に顕現する、黄金に輝く剣を振りぬいた時。 「くらえぇ!」  先ほどとは比べ物にならない大ダメージを叩き込み、今度こそギーシュが沈黙したのを見て、 ルイズたちも目を見張るのだった。 「補正切り……」  黄金の剣が降りぬかれる直前、上空から飛来した光の矢がギーシュに当たったのを確かに見抜いた タバサは、そう呟く。 「なにそれ?」  いい加減、そう聞くのも飽きてきたキュルケだが、それでもタバサの呟きに律儀に問いかける。  タバサは一度うなづくと説明を続けた。 「通常、コンボに組み込まれた技は補正がかかり、ダメージが減少する……しかし、超必殺技使用時、 その画面演出から発動までの間に何かの技でダメージが入ると、その超必殺技には補正がかからなくなる という現象を利用し、ダメージを飛躍的に延ばすテクニック……現状、バグなのか仕様なのかは 未知数だけれども、現時点でダメージを伸ばすためには必須のテクニックと言える。  シロウの場合、コンボの途中でトラップシュートを放ち、その隙をリフレクトガードで強制的に キャンセルした後、時間差で飛来するトラップシュートの矢に合わせてカリバーンを合わせて成立させた」 「……………………?」 「……………………?」  説明を受けても……いや、その説明こそがさっぱりワケが分からなかった。  そんな微妙な空気の実況ガールズ達を尻目に、決着のついた少年達はさわやかにお互いの健闘を称えあっていた。 「まいったね……手も足も出なかったよ」  ギーシュに手を貸して助け起こしながら、シロウは彼に笑いかける。 「それはお互い様さ。1ラウンド目は敗色濃厚になったし、わざと手の内を隠したしな」 「キミもメイジ……だったのかい?」 「うーん、その見習いってところかな。まともな術一つ使えないで、師匠にも呆れられてた」 「そうかい……とにかく、負けを認めるよ。君の言うとおり、彼女達にはきちんと謝罪させてもらう」 「うん、そうしてくれ。それじゃあ……」  シロウはにっこりと笑う。 「最終ラウンド行こうか」 「………………………は?」  ギーシュの笑顔が凍りつく。 「え、いや、あの、最終ラウンドって……?」  うめく様に問いかけるギーシュに、シロウはワケが分からない、という風に小首をかしげる。 「え? 対戦は三本が基本だろう? 設定を変えれば5本とかもあるけどさ」  つまり……一本目はギーシュ、二本目はシロウが取ったのだから、勝負をつけるのは次のラウンドだと いう理屈。  ギーシュは一気に青ざめる。 「ま、待ってくれ! 僕は今ので魔力も尽きて……!」 「それは甘かったな。魔力をつぎ込んであくまで勝ちを狙うか、そのラウンドは捨てて魔力を温存して 次のラウンドにかけるかは、駆け引きの基本だぞ?」 「そ、そんなことを言われても……!」 「なんでさ? 攻撃当てたり敵の攻撃を食らったり防御すれば、魔力も回復するだろう? 序盤は 不利かもしれないけど、あきらめることはないぞ」 「そんな器用な身体はしてないっっっ!!」  ギーシュの悲痛な叫びもむなしく。  例の渋い「ラウンド3……ファイト!」の号令が響くのだった。 (以下、グラモン家の名誉のため、省略されました……読むためには、「モンモランシーごめんなさい ケティごめんなさいシェスタごめんなさい」と千回発言してください) 「待たせたなルイズ。俺の投影魔術もなかなかのもんだろう?」  対戦を終えて、意気揚々とルイズの元に戻ってくるシロウ。  対戦結果? ―――分かりきった結末を語る必要はない。 「あー、うん、そうね……」  そんなシロウを、賞賛すべきか叱責すべきかその投影魔術とやらを問いただすべきかそもそも そのインチキくさい戦闘能力を突っ込むべきか、判然とせず微妙な表情で迎えるルイズ。  と、不意にシロウがよろめき、左手を押さえてうめく。 「っ……無理をしすぎたか……? 右側の回路がのきなみダウンしちまった…」 (アレだけ好き放題やっといて、いまさら無理も何もないものよね) (右って言ってるのに、なんで左手押さえてるのかしら) (邪気眼?)  心の中で総ツッコミする、実況ガールズだった。 Fateの、unlimited codesの方から衛宮士郎を召喚。 ちなみにタイトルは、決闘(たいせん)の流儀(しよう)と読みます。 おまけ:宇宙旅行、バスケとは。 それぞれ、戦国バサラX、北斗の拳において、バグ現象を利用した永久コンボのこと。 前者は特定条件でエリアルコンボが延々続くことから、後者は特定条件で延々敵を下に叩き付けて拾える ことからそう呼ばれる。 「Fate/unlimited codes」より『衛宮士郎』召喚 ----

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