Zero/stay night 04

それが昔なのか未来なのか、それすらわからない時空の彼方
コノールという王様と、その妹でデヒテラという王女がいました。
ある日、二人は道に迷ってしまいます。そんな時、一軒の家を見つけました。
日も暮れてきたので、二人はその家に一晩泊めてもらうことにしました。
するとその晩、その家では男の子が一人、馬が二頭生まれました。
男の子はたいへんかわいらしく、デヒテラはたいそう男の子を気に入りました。
そして夜が明けると、不思議なことに一軒家はあとかたもなく消え去り、男の子と二頭の仔馬だけが残っていました。
そこでデヒテラは男の子と仔馬たちを連れ帰り、自分で育てることにしました。
ですが、悲しいことに男の子は間もなく死んでしまいます。
悲しみに暮れるデヒテラは、コップの水を飲むとき、一匹の虫が入っていることに気づかず、一緒に飲みこんでしまいました。
するとその晩、デヒテラの夢の中に光明神ルーが現れ、驚くべきことを教えます。
死んでしまった子は自分の子供であり、今デヒテラのお腹の中にいるというのです。
再び生まれてくるその子を育てるようにとルーが告げると、デヒテラは目を覚ましました。
そして、ルーの予言どおりに生まれた子供はセタンタと名づけられ、戦士として育てられることになりました。
この子供こそ、後に一騎当千の活躍を見せる、アルスターの光の神子、■■・■■■■....

そう、彼は生まれた時、否、生まれる前から英雄だった。
――――なら、彼を召喚した私は....


「目、覚めたか?お嬢ちゃん」
「んにゃあ......っひゃあ!」
目を覚ました途端、目の前に男の顔があることに驚いて珍妙な声をあげてしまう。
「うひゃあは無えだろ、うひゃあ、は。うなされてたモンだから、怖い夢でも見てるのかと思って心配してやったのに」
そう口では言いながらも、私の反応が可笑しくてたまらないといった様子でクツクツと笑い声を立てる男を見ている内に、頭は正常な状態に復帰する。
「―――思い出した、そう言えばアンタを召喚したんだったわね」
「お、やっと頭が回ってきたみてえだな。しっかし、アレくらいで気絶するたあ、まだまだだな」
「あ、当たり前でしょっ!魔力使い切った上に血流し過ぎてフラフラだったんだから!」
「あぁ、それもそうだな。悪かったよ、お嬢ちゃん」
「ーーーーッ!」

またも自分を『お嬢ちゃん』呼ばわりしてくる使い魔に癇癪を起こしそうになる。
が、何とか自分を落ち着けようと試みるオトナな私。
(ダメ、ダメよルイズ。ここは余裕のある態度で、主としての威厳を示さなくっちゃ)
何とか気持ちを落ち着かせようと、使い魔から視線を逸らす。
寝かされていたのは自分の部屋だ。窓の外には、美しい月が二つ――――

「って、もう夜じゃないの!」
「おう、お嬢ちゃんが気絶してから6・7時間は経ったかな」
そんなに気絶していたのか。残りの授業を全て欠席してしまったことに気づいて嘆息する。
そうして現在、部屋の中には私と使い魔の二人きり、と。
アレ?ということは―――
「アンタ、ずっと側に付いててくれたの?」
「あぁ、この格好のままじゃあナンパにも行けやしねぇしな」
「ナンパって何?」
「何って、ガールハントだろ」
「がーるはんと?何それ」
「....ちょっと待て。まさか、『コッチ』にはナンパという習慣は存在しないとか言わねぇよな」
真剣な面持ちで質問してくる使い魔に気圧されながも、知らない、と頭を振る。

――――もっとも、二人は預かり知らないことではあるが、ここハルケギニアにもナンパという習慣は存在する。
しかし、それは都市生活者、なおかつ平民層に限られた習慣である。
貴族階級においては、あくまで社交の場における貴族同士の上品なやりとりが基本だ。
例外的に、平民や自分より位の低い貴族をライク・ア・マダムバタフライな感じに『食っちゃう』事はあっても、ナンパなんて事はしない。
よって、厳格な母に厳しく躾けられたルイズはそんな習慣について知っているはずもなく、
聖杯から与えられる知識を有しているランサーも、ナンパについての知識なんてモノは与えられてねぇのである。―――閑話休題

私の答えを受けて、使い魔は明らかに落胆した気配を見せる。
ドラゴンにも動じなさそうな使い魔の、その尋常ならざる様子を見て、慌てて声をかける
「ど、どうしたの?」
「いや、今初めて召喚されたことを少しばかり後悔している。
 ....そうだよなぁ、あの時代が普通じゃないんだよな」
そう言って落ち込む使い魔の様子に、なんだか自分が悪いことをしたような気になってくる。
そんな私の内面の推移など知る由もなく、使い魔はさっ、と感情の拘泥を棄却してしまう。
「ま、それはそれで仕方無ぇか」
当人はそれで済んでも、私はそんなランサーのすっぱりした切り替えに付いていけない。
「ちょ、ちょっと、それでいいの?何か大事なことだったんじゃないの?」
「あ~、いいんだよ。別にソレが目的で召喚された訳でなし」
?何ソレ、その言い方だと―――
「じゃあ、アンタは目的があって召喚されたの?」
「おお、そうだった。なぁ、嬢ちゃんは使い魔召喚の儀式でオレを召喚したんだよな」
「ええ、そうよ」
「じゃあ、『聖杯』が目当てって訳じゃねえんだな」
「セイハイ?」

そして、使い魔は聖杯と、ソレをめぐって引き起こされる聖杯戦争について語った。
――――聖杯戦争。
どんな願いも叶える力を持つ聖遺物、その聖杯に選ばれた魔術師は同じく聖杯を欲するサーヴァントを召喚し、
万能の願望機を我が手に得るため、サーヴァントを従えた他の魔術師達と殺し合う、という魔術儀式

「どんな願いも、か....」
ソレに願えば、もしかしたら自分も普通に魔法が―――、などと一瞬考えたりする。
だが、そんな理由で殺し合いをするなんて本末転倒、だって、私が魔法を使えるようになりたいのは――――

そうして、何か大事なコトを思い出しそうになった時、

「で、どうなんだマスター。マスターに選ばれるのは、何かしら聖杯に願う所の在るヤツだったりするんだが」
そう使い魔に声をかけられて、思考が中断される。
「ね、願い?!べ、べべべべ別に願いなんてないわ!」
内面の動揺を悟らせまいと急いで答えると、使い魔は何もかも見透かしたような顔で、はぁ~ん、などと口にする。
「な、何よ!願いなんて無いって言ってるじゃない!」
「いや。アンタは願いを持ってる」
「だから―――」
「見てりゃ解るって。願いは持ってるが、ソレは自分の力で叶えるモノであって、他人を殺して叶えるモノじゃ無えってこったろ?」
結局何もかもお見通しだったらしい。それ以上言い返せず、使い魔の顔をにらんで、う~、等とうなる。

そんな私を無視して、使い魔は話を続ける。
「まぁ、マスターがそのつもりでも、他のヤツはそうとは限らねえからな。
 マスターも一応、戦う覚悟はしといてくれ」
「?どういうコトよ」
「聖杯を欲しがる他のマスターから襲われるかも知れないってコトだよ」
「なんで?そんなの欲しい人が勝手に探して自分のものにすればいいじゃない」
だが、私の至極もっともと思われる意見に、ランサーは頭を振る。
「そうもいかねぇんだよ。他のマスターを排除するのは、まぁ表向きの理由としちゃあ、聖杯を確実に手に入れる為ってことだ。
 聖杯はサーヴァントと同じ霊体だからな。サーヴァントにしか触れねえ。だから他のサーヴァントを排除する、と」
「表向き?」
「ああ、実際は、聖杯を使えるようにするにはサーヴァントの魂が必要なんだよ。
 オレ達サーヴァントってのは膨大な魔力の塊だからな。死んだサーヴァントを聖杯が回収して、その膨大な魔力で願いを叶える。
 ソレが聖杯の正体だ。だから自分の願いを叶える為に他のサーヴァントを排除する」

―――気にいらない。
死んだ人の霊に殺し合わせてもう一度死なせた上、その霊を利用して自分の願いを叶えるなんて。
「バカじゃないの、そんなの貴族のするコトじゃないわ
 大体、そんな都合のいいモノ、本当にあるの?」
「それは間違い無えだろうな。
 サーヴァントは召喚された時点で、その時代・その場所の一般常識を知ってるんだが、それは聖杯から与えられるモンだ。
 オレにもちゃんとこの世界についての知識が与えられてるって事は此処にも聖杯はあるんだろうな」
「ふ~ん、便利なものね」
それでイキナリ召喚されたのに、使い魔召喚の儀式だって解ったのか。
「...ってちょっと待って、今アナタ『この世界』って言った?」
「おう。聖杯に与えられた知識通りなら、ココはオレが在った世界の外みてえだな」
「違う世界から来たってこと?そんなの聞いたこと―――」
無い、と言おうとして、ハルケギニアでは子供でも知る故事を思い出す。
伝説に曰く、始祖ブリミルは『四体の使い魔を従えて、このハルケギニアの地にやって来た』のだと。
『やって来た』ということは、ハルケギニアではない何処かからやって来たという事である。
此処ではない何処か。今までは、別の土地とか、神々の世界だとかを漠然と考えていたけど、もしかしたらソレは異世界という事なのかも知れない。
そう考えれば、あながちあり得ない話でもないのだろう。
ならば、残る問題は―――

「で、結局英霊《サーヴァント》って何なの?すっごく強い幽霊ってことでいいの?」
「あ~、乱暴な言い方だが的を得てる。だが正解ってわけでもねえな。
 大抵の英霊は生前の功業が語り継がれることで、精霊・神霊の域に祀りあげられた存在なんだが、
 中には人々の伝承だけで形づくられた、架空の人物も召喚されてたりするからな」
...要するに、多くの人々に伝説が語り継がれることで、英霊になるのか。
ならイヴァールディの勇者やら始祖ブリミルの英霊なんてのもいるのかしら?
じゃあ、コイツも人々にその名を語り継がれ―――って、そういえばコイツの名前、まだ聞いてない。
「ねぇ、契約する前、私だけには名前教えるって言ったわよね?」
「ああ、それなんだがなマスター。この場合、マスターにも教えねえ方がいいと思うんだが」
「なんでよ、私には教えられないって言うの?!」
「いやな、オレ達サーヴァントがマスターにしか名前を教えないのには理由があんだよ。
 英霊ってのはソイツにまつわる逸話が語り継がれてる。ソイツが何に苦戦したか、どうやって死んだかとかな」
「そっか。その英雄についてのお話を知ってれば弱点が解るってことね。
 ....でも、それと私に名前を教えないのがどう関係するのよ。私が秘密を言いふらすように見えるって言うの?」
納得いかない、という意思表示として使い魔をじ~っとにらみつけてみる。
しかし、私の抗議など、使い魔には蚊が刺した程も効果がないらしい。それどころか

「んな顔すんな。怒ってる顔も可愛いが、お嬢ちゃんは笑顔のほうがカワイイと思うぜ」
なんて、言葉を口にした。

「なっ、なななな」
その台詞に動揺しきりな私を他所に、使い魔は勝手に話を進めてしまう。
「サーヴァントの中には魔術に長けたヤツらも居てな。ソイツらならマスターの思考を読み取れる。
 お嬢ちゃんには、思考を読み取る魔術に対する抵抗《レジスト》なんて期待できねえしな」
......確かに。
私はメイジとしては落ちこぼれだ。満足に呪文を完成させられず、初めて成功したのがサモン・サーヴァントだったのだ。
思考を読み取る魔法を防ぐなんて出来る訳が無い。

「......そういうことなら仕方ないわね。一万歩譲って、名前を教えるのは許してあげるわ
 それで、なんて呼べばいいの?ランサーだのガンダールヴだの言ってたけど」
「ランサーって呼んでくれ。前に召喚されてた時もそう呼ばれてたしな」
「判ったわ。それでランサー、アナタ私の使い魔をする気あるの?」
そう、ソレは確認しないと。コイツは聖杯を求めて召喚されたんだから、きっと叶えたい願いがあるんだろう。
聖杯戦争なんて興味のない私の使い魔を、おとなしく続けてくれるとは思えない。
そう、思ったんだけど――――
「ま、マスターは聖杯戦争に参加するつもりも無えみてえだし、フツーに使い魔やるのも悪く無えか」
自称異世界人はこの調子だし。
「何よソレ。アナタも叶えたい願いがあるんじゃないの?」
「いんや。オレの願いは聖杯でなきゃあ叶わない願いでもないんでな
 こうして現世での実体を得られさえすれば、運がよければそのうち叶うさ」
......なんていい加減なのかしら。でも、結局ランサーの願いについてははぐらかされたみたい。
でも、言いたくないことの一つや二つ、誰にだってあるわよね。そこは余裕を持って許してやるのが主の度量ってものよ、うん。

そんなオトナな態度をランサーに見せつけるように、私は余裕たっぷりの態度で尋ねる。
「な、ならいいわ。で、アナタ、使い魔の仕事って何をするか判ってるの?」
「ああ、それについては聖杯からの知識で判ってる。まずは、知覚の共有だろ?」
そう、メイジは契約した使い魔の見たものを見ることができる。
コントラクト・サーヴァントは成功したんだし、私にもきっとできるはず
「じゃ、じゃあやってみるわね」
「んな緊張するなよ。パスはちゃんと繋がってんだから、問題無くできるハズだぜ」
「そ、そそそそう?わかったわ」
ランサーの言葉に動揺しつつ、教本どおりに意識を集中させる。
すると、ベットに半身を起こした桃色髪の美少女が見えてくる。
これは間違いなく私だ。と言うことは、ランサーが見ている私が見えてるってこと――――?!
「やった!見えた!見えたわ!!」
初めて魔法らしき魔法が成功した、その実感に思わずはしゃいでしまう。

すると、ランサーはあきれたような顔をして私の喜びに水を差す。
「だからんなモン当たり前だって。そんな大げさな事でもないだろマスター」
「う、うるさいわね!で、次よ次!
 使い魔は主の求めるものを見つけてくる!」
「ああ、魔術に必要なモノの入手な。まあ問題ないだろ。
 この辺の地理には詳しくねえが、ソレはおいおい覚えてきゃいい。ま、マスターの望みが聖杯だってんなら難しいけどな。」
「ふん、そんなモノ欲しくないわよ。で、最後、使い魔は主のことを守る!」

そう、コレが一番大切な使い魔の役割である。
メイジは様々な場面で戦闘を余儀なくされる。
戦争、人に害をなす亜人や幻獣・猛獣の討伐。領地を経営し、お城勤めをする貴族なら誰もが戦闘を経験することになる。
そのような場面で、自分の使い魔が役に立つか立たないかはメイジにとって重大問題である。
まあ、ランサーが強いのは間違いないだろう。よくわからないけど、強力な魔法が使えるみたいだし。

「おう、任せとけ。その為に召喚に答えたんだからな、オレは」
「ふ~ん。で、具体的にどの位強いのよアナタ」
ソレがわかってないと私もどのくらいまでの事を任せていいかわからないし。
そう思って尋ねた所、ランサーは、ん~と思案した後、何か思い出したように
「そうだな、ちょっと眼を閉じてくれるか?」
なんて言葉を口にした。


......オーケー、落ち着くのよルイズ。今の状況を整理するとこうなるわ。
時間は夜中。
場所は寝室も兼ねた私の部屋。
居るのは私(美少女)と使い魔(男)の二人きり。
そして私は未だベッドの上で起き上がったままの状態。
この状況から帰結される答えは、つまり――――
「な」
「な?」
「なななななな何言ってるのよ、出会ったばかりでそんな!
 確かにアナタは強くてカッコいいかも知れないけど物事には順序があるっていうか私にも心の準備があるっていうかだからその―――」
混乱して一気にまくしたてる私に、使い魔は涼しい顔をして、
「別に痛くしたりなんかしねえって。ホラ、安心して眼ぇ閉じな」
等と言いつつベッドの側までやってくる。
ああ、もうダメ。私奪われちゃうわ。やっぱりファーストキスからは二人の恋のヒストリーが始まるのね―――
決心し、瞳を閉じる私。

すると、額に何か触れるのを感じる。
ああ、まずは額にキスなのかしら。でも契約の時はもっとこう、柔らかかったような―――
と思っていると、イキナリ

CLASS:ガンダールヴ
マスター:ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
性別:男性
身長・体重:185サント・70キロ
筋力:B+   魔力:B+
耐久:C+   幸運:C+
敏捷:A+   宝具:B+
クラス別能力
  対魔力:B トライアングル以下のスペルを無効化する。
        スクウェアスペル、先住魔法を以てしても、傷つけるのは難しい。
『使い手』:A 武器であるなら、Aランクまでの宝具で最大用法が可能。
        全パラメーターに+を付加。武器を手にした時のみ発動、毎ターンMPを消費。
        MPが0になるとHPを消費、毎ターン判定を行い、失敗するとスキルの効果が失われる。
        ファンブルした場合、昏倒。クリティカルした場合、全パラメーターがランクアップする。
        契約者への好意判定が強制的に「良い」になる。
宝具:刺し穿つ――――

などという、映像が見えてきた。
「......何、コレ」
「ああ、見えたか?
 サーヴァントと契約したマスターには、サーヴァントの能力を数値化して捉える能力が与えられんだよ。
 ま、お嬢ちゃんはサーヴァントはオレしか見た事がないみてえだから、あまり参考にゃならねえかも知れねえけどな」
ああ、ナルホドね。どのぐらい強いか訊かれたんだから当然よね。当然だけど――――

「こ」
「こ?」
「こんの、バァカ犬ぅーーーー!!」
「なっ、何でその呼び名を知ってんだ?!」
「うるさいうるさいうるさーーーーい!ちょっとでも心ときめかせた私がバカだったわ。
 こうなったら、主に対する礼儀を徹底的に体に教えこんでやるわ!!」

そうして、かつて誰も聞いたことの無いであろう《クランの猛犬》の哀れな悲鳴が、異世界の夜に響き渡った。


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