『12人の優しい殺し屋』Novel's
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『12人の優しい殺し屋』Novel's
ja
2010-02-01T10:02:46+09:00
1264986166
-
Usually……
https://w.atwiki.jp/yasakor0novels/pages/81.html
&bold(){&color(#e9967a){ &this_page()}}
#right(){&color(#191970,#f4a460){&link_toppage()>[[小説Index]]>[[真宮 陽介>投稿キャラ-真宮 陽介]]>&bold(){投稿Novel's}}}
【真宮 陽介】
*Usually……
#right(){投稿者名;カノン}
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&small(){※ 真宮さんの日常の一こま――と言う設定で描かせていただいた作品です}
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いつもの日常。
いつもの風景。
いつもの時間。
いつもどおりの時が流れ行く。
軽い香りのお香を燻らせながら、瞑想に耽るように背筋を伸ばして軽く目を閉じる。
規則正しい、静かな呼吸に合わせる者はない。
この場所には、たった一人きり。
ここに店を構えてから、時折訪れるようになった人がいる。
一応、ここは占いの店だから、あれこれを占って欲しいと依頼はしてくるが、その実、彼女は、そのことを本当に知りたいわけではないようだった。
ただ、この店に遊びに来ている――強いて言うならば、そんな感じ。
自分の店に来る客ながら、なにが楽しくてやってくるのか、疑問に思っていた。
客である限り、何もしない彼女を無碍に帰すわけにもいかない。
そんなジレンマを抱え始めた、ある日。
ぱったりと、彼女は店に来なくなった。
(なにか、あったのだろうか?)
不思議なもので、あれだけ疎ましいと感じていた存在が、その姿を見せなくなっただけで、今度は不安に駆られるようになる。
(人の心は、矛盾で出来ているものだな……)
などと、他人が聞けば「らしくない」科白(せりふ)さえ口をつきそうになる。
別に、彼女はこの店に日参していたわけではないし、そもそも時折、それこそ気が向いたら来る――と言うような感じでしかなかった。
客と客の間のほんの少しの時間が空けば、くるくると良く変わる表情をしながら、束の間のお喋りに興じていた彼女。
まだあどけなさも残る顔立ちに、「店の客」以外の感情は持ち合わせていないはずだった。
そう言えば……。
あれは、何日前の事だったろうか?
いつものような彼女からの一方的なお喋りの中で、彼女がふっと暗い表情を見せた。
しかし、それは一瞬の事。
次の刹那には、綺麗さっぱり、あどけないままの彼女でしかなかった。
あの時は、なにか“違和感”みたいなのを感じたのを、記憶の隅に覚えている。
首を傾げるつもりだったが、彼女の微笑みに、それは掻き消えて……。
そう、らしくもなく、そのままそのことを忘れていたのだった。
「……なぜ、だ?」
瞑想を途中で中断し、思い切り息を吐き出した。
気にならない――と言えば嘘になる。
しかし、彼女は一切の手がかりを残してはいなかった。
この店には、それこそ“秘密のお客様”も訪れるために、ある占い以外のものは、本名や住所などの連絡先は一切明かすことなく進められる。
そんな制度に埋もれ、彼女の事は、そのほとんどを知らないままでいた。
不安と言うほどでもないが、何か気にかかる。
そんな焦れたような感情が胸を占めはじめ、気にはなるのだがどうしようもないでいた。
ある日――彼女と良く似た、しかし明らかに彼女ではない存在が、店を訪れた。
嫌な予感がした。
こういうときの嫌な予感は、皮肉にも良く当たる。
当たって欲しくないような時になおの事……。
こちらの姿を認めると、深々と一礼をし、瞳を少し潤ませながら彼女に似たその人は、躊躇いつつも口を開いた。
彼女の事と、自分がこの店に来たその理由を――。
日本人形よりも真っ黒な、干鴉玉色の髪と大きな瞳を持った、愛らしい顔立ちの彼女。
名前を寒月茅菜と言うらしい。
この店に程近いところに家があるとのこと。
あの女性は彼女の母親で、寒月真美と名乗った。
彼女は、重い病気にかかっていて、もう長いこと入退院を繰り返していたのだと。
けれど、散歩の途中で見つけてふらりと立ち寄ったこの店に、言い知れぬ安心感を抱き、それ以来、たまの外出の時に必ず立ち寄っていたのだという。
しかし病状が悪化し、外出許可が下りなくなって、彼女は母親にそのことを伝えて欲しいと訴えたのだ。
いつもは我が侭も言わず、素直ないい子を演じていた彼女が見せた、我が侭。
初めてのことに驚きつつも、母親は快諾した。
余命幾許もないと、医者から宣告されたばかりだったからだ。
もちろん、そんなこと彼女は知らない。
だから、彼女は母親にこう言付けを頼んだ。
「元気になったら、また、お伺いします。今度は、私の明るい未来を占ってね」と。
事の顛末を伝えた母親は、家の住所と彼女のことを書いてある手紙をともに真宮に手渡し、店を去っていった。
その後姿は、もう諦めの影が重く圧し掛かっているようだった。
店の扉から見上げる空はどんよりとしていて、妙に不安を掻き立てられるようだった。
今にも降り出しそうな曇り空に、彼女の顔が重なる。
病気なら、自分がどうのこうのできる範疇ではない。
せめて、元気付けられることで病状が改善するというのなら、それこそ何でもするのだが。
しかし、自分は医者ではなく、また、そんな腕のいい医者を知らないでいた。
切なさが胸を占めたとき、一羽の真っ白な鳥が雲を切り裂くように飛びだった。
まるで、何かを伝えるかのように……。
#right(){end.}
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&small(){※ こちらの寒月 茅菜(かんづき ちな)、真美(まみ)母娘はオリジナルキャラです。}
&small(){ かつての真宮さんのお店によく来ていた女の子と言う設定で描かせていただきました。}
&small(){ この後の彼女はいったいどうなったのか……。}
&small(){ 後日譚は実は決めてません。なので、私のこの話はここで一応END.です。}
&small(){ このキャラはご自由にお使いいただいて結構です。}
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&big(){&color(#ffffff,#8b4513){&bold(){● この作品についての評価を投票受付中!}}}
#vote2(time=3600[0],count=2[0],最高!!★★★[0],ブラボー!★★[1],拍手★[1])
&color(#ffffff,#8b4513){&bold(){● この投稿作品へのコメントをお願いします}}
#comment_num2(title_msg=ひとこと,vsize=7,title_name=ニックネーム,log=『Usually……』評価,size=50)
#right(){&color(#191970,#f4a460){&link_toppage()>[[小説Index]]>[[真宮 陽介>投稿キャラ-真宮 陽介]]>&bold(){投稿Novel's}}}
#back(right)
2010-02-01T10:02:46+09:00
1264986166
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イベント-ハロウィン
https://w.atwiki.jp/yasakor0novels/pages/100.html
&bold(){&color(#e9967a){ &this_page()}}
#right(){&color(#191970,#f4a460){&link_toppage()>[[ご意見瓦版]]>&bold(){不定期更新企画 季節イベント-秋}}}
*不定期更新企画 季節イベント-秋・ハロウィン
ただいまは
&fclock()
秋のイベントと言えば、最近定着しつつあるハロウィンかな?
仮装して街中を行列して練り歩く――とまでは行かないにしても、仲間内で仮装パーティとか楽しそう♪
今年は、お菓子メーカーもハロウィン限定パッケージモノとかを結構売りに出しているのだとか❤
どこかで、そんなパーティが行われるとしたら……
もしも、隣に『12人の優しい殺し屋』キャラがいて、あなたと一緒にハロウィンを楽しんでくれるとしたら……
あの人は、何の仮装でやってくるかしら?
そして、あなたは、何の仮装で参加してみたいですか?
&bold(){[あの人と……こんなハロウィン、したいかも]}
パーティ会場とかに限らず、自宅とかで楽しむって言うのも、いいかもしれないですよね?
このキャラなら、こんな仮装を……なんて、思いつくことありませんか?
妄想の世界でもOK!
楽しいハロウィンの夜を、彼らと過ごしてみたいよね^^
&small(){お名前は、原則ご自分のニックネームで}
&small(){コメントの最後にでも、キャラ名をご明記ください}
#comment_num(size=100,nsize=7)
#back(right)
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☆&bold(){お絵かき掲示板設置中!}
↓こちらからお絵かき掲示板にGo!
お気軽にご参加くださいね♪
#right(){&link_up()}
#paintbbs(width=300,num=20,log=ハロウィン2009)
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※&color(#66cdaa,#ffe4c4){[[企画制作所]]にも立ち寄ってみて}くださいね^^
いろいろなものを出しあって、少しずつ創っていきましょ♪
#right(){&color(#191970,#f4a460){&link_toppage()>[[ご意見瓦版]]>&bold(){不定期更新企画 季節イベント-秋}}}
#back(right)
2009-10-16T23:56:41+09:00
1255705001
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イベント-果物狩り!
https://w.atwiki.jp/yasakor0novels/pages/101.html
&bold(){&color(#e9967a){ &this_page()}}
#right(){&color(#191970,#f4a460){&link_toppage()>[[ご意見瓦版]]>&bold(){不定期更新企画 季節イベント-秋}}}
*不定期更新企画 季節イベント-秋・果物狩り
ただいまは
&fclock()
秋と言えば、食欲の秋!(苦笑)
特に、果物なんかはおいしい季節ですね~♪
そろそろ、どこかの果樹園では果物狩りを始められる時期かしら❤
秋晴れの空の下、もしも、隣に『12人の優しい殺し屋』キャラがいて、あなたと一緒に果物狩りをしてくれるとしたら……
何の果樹園に行ってみたいですか?
そして、誰と一緒にやってみたいですか?
&bold(){[あの人と……こんな果物狩り、したいかも]}
今までやった果物狩りの中で印象に残っているものとか、このキャラとなら、こんな場所で果物狩りしてみたいかもとか、コレを一緒に食べてみたいなとか……
妄想の世界でもOK!
美味しくて素敵な果物狩り、彼らとしてみたいよね^^
&small(){お名前は、原則ご自分のニックネームで}
&small(){コメントの最後にでも、キャラ名をご明記ください}
#comment_num(size=100,nsize=7)
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※&color(#66cdaa,#ffe4c4){[[企画制作所]]にも立ち寄ってみて}くださいね^^
いろいろなものを出しあって、少しずつ創っていきましょ♪
#right(){&color(#191970,#f4a460){&link_toppage()>[[ご意見瓦版]]>&bold(){不定期更新企画 季節イベント-秋}}}
#back(right)
2009-10-16T23:56:07+09:00
1255704967
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イベント-紅葉狩り
https://w.atwiki.jp/yasakor0novels/pages/99.html
&bold(){&color(#e9967a){ &this_page()}}
#right(){&color(#191970,#f4a460){&link_toppage()>[[ご意見瓦版]]>&bold(){不定期更新企画 季節イベント-秋}}}
*不定期更新企画 季節イベント-秋・紅葉狩り
ただいまは
&fclock()
秋は、紅葉の季節
会社で働いている方ならば、そろそろ秋の観楓会のシーズンとなるかと❤
それも、日本ならではの楽しみ方かもしれませんね……
もしも、隣に『12人の優しい殺し屋』キャラがいて、あなたと一緒に紅葉狩りをしてくれるとしたら……
何かやってみたいことありますか?
&bold(){[あの人と……こんな紅葉狩り、したいかも]}
今までやった紅葉狩りの中で印象に残っているものとか、このキャラとなら、こんな場所で紅葉狩りしてみたいかもとか……
妄想の世界でもOK!
素敵な紅葉狩り、彼らとしてみたいよね^^
&small(){お名前は、原則ご自分のニックネームで}
&small(){コメントの最後にでも、キャラ名をご明記ください}
#comment_num(size=100,nsize=7)
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※&color(#66cdaa,#ffe4c4){[[企画制作所]]にも立ち寄ってみて}くださいね^^
いろいろなものを出しあって、少しずつ創っていきましょ♪
#right(){&color(#191970,#f4a460){&link_toppage()>[[ご意見瓦版]]>&bold(){不定期更新企画 季節イベント-秋}}}
#back(right)
2009-10-16T23:44:44+09:00
1255704284
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あのキャラに言ってもらいたいセリフ募集
https://w.atwiki.jp/yasakor0novels/pages/98.html
&bold(){&color(#fa8072){ &this_page()}}
#right(){&color(#191970,#f4a460){&link_toppage()>&bold(){[[思いつき企画]]}}}
*あのキャラに言ってもらいたいセリフ
各キャラクターに言ってもらいたいセリフを募集中です❤
「ゼヒ、こんなセリフをあのキャラに言ってもらいたい!!」
そんな思い、ないですか?
実際に声優さんに声を当てていただくことは不可能ですが、ゲームなどでの中に出演した時に言って貰いたい台詞がありましたら、こっそり(?)教えてください^^
#center(){&bold(){&color(#ffff00,#008000){【キャラのご指名】はこちらから❤}}}
#ls()
#center(){
【&bold(){キャラを選んでね}】
|&ruby(かくさか しょう){[[角坂 翔>このキャラ!!-角坂 翔]]} | &ruby(しらかみ あきら){[[白神 彰>このキャラ!!-白神 彰]]} | &ruby(つしま けんじ){[[対馬 剣司>このキャラ!!-対馬 剣司]]}|
|&ruby(あすか ゆうき){[[飛鳥 勇気>このキャラ!!-飛鳥 勇気]]} | &ruby(だいご こたろう){[[醍醐 小太郎>このキャラ!!-醍醐 小太郎]]} | &ruby(あまの はやと){[[天野 隼人>このキャラ!!-天野 隼人]]}|
|&ruby(いかるが こうへい){[[斑鳩 公平>このキャラ!!-斑鳩 公平]]} | &ruby(くずのは りょう){[[葛葉 涼>このキャラ!!-葛葉 涼]]} | &ruby(たけうち なおき){[[武内 直樹>このキャラ!!-武内 直樹]]}|
|&ruby(むなかた けんいち){[[宗像 健一>このキャラ!!-宗像 健一]]} | &ruby(くさかべ はる){[[日下部 春流>このキャラ!!-日下部 春流]]} | &ruby(あいぜん よしひこ){[[愛染 良彦>このキャラ!!-愛染 良彦]]}|
◆&ruby(しんぐう ようすけ){[[真宮 陽介>このキャラ!!-真宮 陽介]]}
}
#center(){
&big(){★ [[Free character ]] ★}
&small(){キャラを特に決めないで……}
}
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#back(right)
#right(){&color(#191970,#f4a460){&link_toppage()>&bold(){[[思いつき企画]]}}}
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2009-10-16T18:31:49+09:00
1255685509
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ゲーム・ジャンル
https://w.atwiki.jp/yasakor0novels/pages/97.html
&bold(){&color(#e9967a){ &this_page()}}
#right(){&color(#191970,#f4a460){&link_toppage()>[[ご意見瓦版]]>&bold(){ゲーム・ジャンル}}}
★やってみたいゲームのジャンルに投票してね^^
#vote2(time=3600,count=2,RPG,シュミレーション,ノベライズ,格闘(?),その他)
○その他を選択した方、できましたら具体的に……
#comment_num2(title_msg=ひとこと,vsize=7,title_name=ニックネーム,log=『ゲーム・ジャンル-その他の詳細』,size=50)
----
※イラストを描ける方いらっしゃいませんか?
#right(){&color(#191970,#f4a460){&link_toppage()>[[ご意見瓦版]]>&bold(){ゲーム・ジャンル}}}
#back(right)
2009-09-26T02:32:09+09:00
1253899929
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思いつき企画
https://w.atwiki.jp/yasakor0novels/pages/96.html
&bold(){&color(#e9967a){ &this_page()}}
#right(){&color(#191970,#f4a460){&link_toppage()>[[ご意見瓦版]]>[[企画制作所]]>&bold(){思いつき企画}}}
*思いつき企画
★もしも&bold(){“ゲームにするとしたら?”}
ゲームと言ってもいろいろな形がありますね
『12人の優しい殺し屋』をゲームにしたとしたら……
どんな[[ジャンル>ゲーム・ジャンル]]のがいいと思いますか?
そして、どんなシチュエーションで、どんなエピソードが、そして、どんな事件が!?
設定や世界観などなど、思いつきで書いちゃってください&color(pink){❤}
容量的に全員が無理だとしたら……この人だけは出演させたい!なんていうお気に入りキャラとかも
■ こんなジャンルのゲームにしたい!
#pcomment(reply)
-&link_up()
■ シチュエーション、エピソード、あの人が言いそうな台詞などなど……
#pcomment(reply)
----
#right(){&color(#191970,#f4a460){&link_toppage()>[[ご意見瓦版]]>[[企画制作所]]>&bold(){思いつき企画}}}
#back(right)
2009-09-18T00:08:31+09:00
1253200111
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夢の狭間
https://w.atwiki.jp/yasakor0novels/pages/77.html
&bold(){&color(#e9967a){ &this_page()}}
#right(){&color(#191970,#f4a460){&link_toppage()>[[小説Index]]>&bold(){投稿Novel's}}}
【斑鳩公平】×【角坂翔】
*夢の狭間
#right(){投稿者名;カノン}
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#center(){投稿ノベル受賞作品}
&small(){ 選ばれるとは思っていなかっただけに、驚いた作品です}
&small(){ フィールドのCrossが、このふたりには多そうなので、割と書きやすいかも――です}
----
『はぁ……』
なにか重苦しいため息を耳にして、ふと何の気なしにそちらに目線を走らせた。
憂鬱そうに軽く瞳を伏せて、今しがた開いていた携帯をパタンと閉じたところだった。
「どうしたの?」
と問いかけてみようかと思ったけれど、あまりにも深刻そうなその顔に、気軽には聞けないことだなと思った。
そんな戸惑いもあったためか、向こうもこちらが見ていることに気が付いたらしく、顔を上げる。
瞬間、視線が絡み合う。
少しだけ、読み取れてしまった彼女の感情。
ばつが悪そうに、少しだけ顔を赤らめて、目をすっと逸らした。
まぁ、当然の反応だろうね。
これで平然としていられるのは、よっぽどの強心臓の持ち主だとも言えるかもしれないし。
よほど“演じる”ことに長けているか、もしくは、単なるポーカーフェイス――あるいは生来きっての鉄面皮と言うのもあるかもしれないけど。
まだ新人の域を出きらない彼女にとっては、それは少し難しいかもしれない。
ふと、周りの雑音が大きくなった気がした。
そう思ったけど、現実には違う。
今まで、周囲の音が気にならなかっただけの話。
ちらっとこちらを見た彼女に、にっこりと微笑み返した。
少し戸惑いを瞳に刷いて、それでも、彼女は微笑み返してくれた。
大丈夫、まだ、笑う余裕はある。
「そろそろ、出番だね。
緊張、してる?」
さりげなく携帯を隠すようにしている彼女に、そう言った。
それを察したのか、少し照れ笑いをしているようにも見えた。
「緊張しますよぉ。
私にとっては、大仕事ですもの」
「そうだね。
初ヒロインだものね。
プレッシャーかけるつもりはないけど、頑張って」
「それ、充分プレッシャーですぅ」
「あはは。大丈夫だよ。
今まで、たくさん練習してきたじゃない。
あの通りやれば、うまくいくよ」
「そう言われると……なんか、うまく行く気がしてきます」
うん、いい笑顔だ。
さっきまでの暗さが消えたみたいだ。
「じゃあ、取って置きのおまじない、してあげる」
「取って置きのおまじない?」
「そう。いい?
軽く目を閉じて――深呼吸してみよう」
指示通り、彼女は目を閉じて深呼吸をし始める。
「そう。そのまま、リラックスして……」
少し強張っていた表情が和らいでいく。
もう大丈夫かな?
「……」
彼女の耳元で、彼女にしか聞こえないある言葉を囁く。
「はい、もう目を開けていいよ。
どう? 気分は?」
少し呆気にとられたような表情で、幾度か目を瞬かせていた彼女は、やがて、満面の笑顔になる。
「なんか、凄く安心してきたと言うか、心が落ち着いてきました。
いったい、何をしたんですか?」
「別に、特別なことはしてないよ」
そう笑う僕に、少し疑いの目を向けて。
でも、それも一瞬のこと。
晴れやかな顔になったのが、傍目にも解る。
「そろそろ、リハ行きまーす。
スタンバイ、お願いしまーす」
スタッフが、彼女を呼びにきた。
「あ、はーい。今行きます」
そう言って、椅子から立ち上がって、彼女はくるりとこちらを向いた。
「いろいろ、お心遣いありがとうございました。
では、頑張ってきます」
少しお茶目に敬礼のような仕草をした後、彼女はぺこりと頭を下げた。
「いってらっしゃい」
笑いながらそう言うと、彼女も笑いながら踵を返して現場へと向かっていった。
「流石、斑鳩さん」
突然かけられた声に、驚きは隠せなかった。
「角坂君!?
君は、いつからそこに?」
「んー?
さぁ、いつでしょう?」
悪戯っ子のような瞳を輝かせて、角坂君は微笑んだ。
「見てたのかい?」
「えぇ。
良いもの、見させていただきましたよ。
あれは……自己暗示、ですか?」
「まぁ、それに近いものかな?
角坂君は、そういうのに興味あるの?」
「いえ、別に……。
ただ、見事だなって感心してたんですよ」
「見事……ね」
そんな呟きが耳に入らないのか、彼は、リハーサルをしている彼女を、目を細めて見入っていた。
「先程までの、彼女の憂鬱そうな表情も消えましたし。
これで、幸せそうな“彼女”の役もこなせるでしょう」
「あぁ、そうか……」
思い出したような呟きに、彼はにっこりと笑って歩みを進めた。
例えプライベートで何かあったとしても、今、彼女が演じるべき役柄は「幸せいっぱいの“彼女”」の役。
そして、その相手である“彼”は……。
まばゆいライトの中を、“彼女”は恋人を待っていた。
ややしばらくして、そっと後ろから近づいていく“彼”。
そう、それは、映画の中のワンシーン。
現(うつつ)は夢の時間の、狭間の出来事……。
----
&big(){&color(#ffffff,#8b4513){&bold(){● この作品についての評価を投票受付中!}}}
#vote2(time=3600[0],count=2[0],最高!!★★★[0],ブラボー!★★[2],拍手★[0])
&color(#ffffff,#8b4513){&bold(){● この投稿作品へのコメント}}
#comment_num2(title_msg=ひとこと,vsize=7,title_name=ニックネーム,log=『夢の狭間』評価,size=50)
#right(){&color(#191970,#f4a460){&link_toppage()>[[小説Index]]>&bold(){投稿Novel's}}}
#back(right)
2009-09-05T21:44:36+09:00
1252154676
-
Silent Night~聖なる夜の事務所にて~
https://w.atwiki.jp/yasakor0novels/pages/34.html
&bold(){&color(#e9967a){ &this_page()}}
#right(){&color(#191970,#f4a460){&link_toppage()>[[小説Index]]>&bold(){Silent Night~聖なる夜の事務所にて~}}}
*Silent Night~聖なる夜の事務所にて~
【宗像 健一】
#right(){投稿者名;カノン}
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「なんか、やけに冷えると思ったら……」
少し身震いしながら、外から帰ってきた彼はそう言った。
寒い外から帰ってきたときの、特有のにおいをその身にまとって。
暖かい室内に、寒い外気が流れ込んでくる。
それは、小さな風を伴って、部屋の隅へと吹き抜けていった。
壁にかけてあるカレンダーやカーテンの端が、少しだけ捲り上がった。
「お帰り。どうした?」
書類から目を離さずに言うと、今にもストーブを抱えそうに手を翳しながら、あっけにとられたようにこちらを見たような気がした。
ややしばらくの間が空いて、苦笑で返してきた。
「おまえ……ずっと篭ってたのか?」
「ん? あ、あぁ……。そうみたいだ」
言葉を交わしながらも、ちっとも書類から目を上げずにいる様子を、呆れて見ているのだろう。
暢気とも取れるような言葉に、やれやれと言った風に首を振る気配がするのを感じていた。
ひとつため息をついて、こちらに近づいてくる。
「ずっと座ってると、根が生えてくるぞ。
まったく……いい加減にしないと、体壊すぞ?」
「すまん。
一区切り付いたら――と思ってたんだが。
思ったより、時間がかかってしまったみたいだな」
ようやく目を上げ、少し照れ笑いをする。
窓の外を見ると、いつの間にか街は暗闇に包まれていた。
作業をスタートさせたのが、お昼過ぎだから……。
結構な時間、それに没頭していたことになる。
それに気付くと同時に、肩が重く感じられた。
ゆっくりと首を回し、凝り固まった筋を伸ばす。
終わるのを見計らうかのように、コーヒーがデスクに置かれた。
芳しい香りが、アロマさながら漂っている。
一口流し込むと、なんともいえない安らぎを感じる。
「まぁ、年末だしな。
早く終わらせたいって言うのも解るが、少しは体のことも考えてだな……」
「いや、あることに気付いてな。
もしかしたら、それでひっくり返るかもしれない――なんて思ったら、つい……」
「それ、本当なのか?」
「この期に及んで嘘つくほど、趣味悪くないぞ?」
「あ、いや。悪い。つい、な……」
罰の悪さを、コーヒーで流し込むように、ごくりと一口飲んだ。
「そうか……なら、おまえが没頭するのもわかるな」
消え入るかのような小さな声で、ポツリと呟く。
「で? そっちの収穫は?」
「あぁ、こっちは相変わらず、コレといった進展はなし」
ため息のように告げて、髪を掻きあげた。
後ろの窓へ歩み寄り、暗くなった街を見る。
雑踏の賑わいはいつもの数割り増しで、きっと窓を開ければうるさいくらいに賑やかな音楽やら雑踏のざわめきが聞こえてくるだろう。
「……なにか、別の手でも打たないと、新しい展開は出てこないかもしれないな……」
「別の手?」
飲みかけたコーヒーカップに口をつけたまま、反射的に繰り返す。
「ほら、前、なんか言っていただろう?
知り合ったとかなんとか……」
その言葉に、しばらく首を傾げている。
「プロファイル――だっけ? なんか、そんなような……」
「あぁ。そう言えば……」
思い出したように手を打って、貰っていた名刺を探し出した。
「確か、ここに……あ、あったあった」
「どれどれ? ふぅん。ちょっと郊外だな」
「都心の方にも事務所はあるって言ってたな。
あ、そう言えば、今日は何日だ?」
「何日って、おまえ……」
「いいから! 何日だ?」
その言葉に肩を竦めながら、呆れたように呟いた。
「24日だよ。12月24日……」
「そうか……じゃあ、都心の方の事務所は閉めちまってるな……」
「……それだけかよ?」
「ん? それだけって?」
「今日は、24日なんだぞ? わかってんのか?」
「24日なんだろ? それがどうか……」
はたと言葉が止まる。
その様子に、はぁと深いため息を盛大について。
やれやれと言った風に、首を横に振る。
「その様子じゃ、忘れてたな?」
「……あ、あぁ……忘れてた……」
「やっぱりな……。
ここまでずぼらだと、彼女が不憫だな」
「そこまで言うか?」
「本当のこと、だろ?
あんなに楽しみにしてるって言ってたのに」
「仕方ないだろ?
仕事が押してしまったんだから……」
「それは、こちら側の言い訳。
彼女にとっては、何の言い訳にもならないよ」
「じゃあ、どうすれば……」
「そうだなぁ、今から駆けつけて、許してもらうまで謝りまくるか。
どうしてもダメだというなら、別の日にしてもらうか――だな」
しばし、沈黙が漂った。
おもむろに受話器を掴もうとするのを、別の手が止める。
「なにをする!?」
「本当に、それでいいのか?」
「なに?」
「今日と言う日は、今しかないんだぞ?
明日でも回す事のできるものがあるなら、今日しかできないことを優先すべきじゃないのか?」
「しかし、これも、今日しか……」
机の上の資料を見て、呟くように言う。
「おまえ……。
俺のこと、忘れてないか?」
ため息混じりでそう言う声に、はっとする。
「けど、おまえだって……」
「大丈夫、俺は一人身だ。
誰も、帰りを待っちゃいないよ」
ちょっと苦笑しながら、掴んでいた腕を放す。
「それに、俺もサンタになってみたくてな」
「サンタに!?」
「そっ。俺からのおまえ達へのプレゼントってわけさ」
「……」
「ほら、そうと決まったらさっさと支度する!
まったく、相変わらず、おまえは服装に無頓着なんだからなー」
笑いながら言うと、自分の机の足元から大きな紙袋を取り出した。
「一応、おまえのサイズに合わせたつもりだが……きつかったらすまん。
その一張羅よりはマシだろう」
「俺にか?」
「それ以外、誰がいるんだよ」
「……確かにな」
「時間もあまりないんだから、さっさと着替える!」
「お、おう」
数十分後、真新しいスーツに身を包んで、事務所を出て行く人影を見送る彼がいた。
「メリー・クリスマス。
少しは妹に優しくしてやれよ、兄貴」
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&small(){※ このお話に出てくる“彼女”とは、公式Webの設定で採用となった妹さんのことです}
&small(){ 季節外れの投稿ですが^^;}
&small(){ 当作品は、投稿ノベル受賞作品です}
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&big(){&color(#ffffff,#8b4513){&bold(){● この作品についての評価を投票受付中!}}}
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#right(){&color(#191970,#f4a460){&link_toppage()>[[小説Index]]>&bold(){Silent Night~聖なる夜の事務所にて~}}}
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2009-09-05T21:42:24+09:00
1252154544
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落日の煌き、灯るころ
https://w.atwiki.jp/yasakor0novels/pages/76.html
&bold(){&color(#e9967a){ &this_page()}}
#right(){&color(#191970,#f4a460){&link_toppage()>[[小説Index]]>[[斑鳩 公平>投稿キャラ-斑鳩 公平]]>&bold(){落日の煌き、灯るころ}}}
*落日の煌き、灯るころ
#right(){投稿者名;カノン}
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&small(){ 無差別とも言える手段をとる「加害者」。}
&small(){ そして、身勝手な犯人の思いが、彼女を追い詰めていく……。}
&small(){ このお話は、まだその序章。}
&small(){ 中身とタイトルが少々合わないような気もしますが^^; }
&small(){ ※今回は、最後にPersonaXIIの誰かがCROSSします。}
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『……お聞きいただきましてありがとうございます。
こちらは『Sunset On Night Time』……』
カーラジオから流れてくる軽快な音楽。
南関東の地元局だが、その範囲は意外と広くて、南関東圏ならばほぼ一円で聞けるというFM局。
そのラジオの看板番組でかかった曲が、波となって車中を満たしていく。
夕陽の沈む時間、薄暮のひと時――その時間は季節によって違うものだけれど。
このラジオは大体午後5時半ごろを想定して、7時までやっている番組。
選曲もさることながら、この番組にリクエストしてくる人たちも、結構粋なナンバーをリクエストしてくる事でも知られている。
勿論、この息の長い番組を支えているのは、リスナーもさることながら、出演者に魅力があるってことなのだろう。
“麻央”と言う名で知られているこの女性アナウンサーは、流暢な日本語と耳に心地よい声で人気が高い。
ついついこの時間にそこに合わせてしまうのは、やはり、その声を聞きたくなってしまうからだろうな。
「……それでは、次のリクエストに参りましょう。
Mailですね。ありがとうございます。えっと……」
ふと、“麻央”の声が止まった。
珍しい。こんなことは今までなかったのに。
「……あ、ごめんなさい。
では、こちらのリクエストで――」
「!? リクエストを替えた?」
いつもと違う彼女の行動に、訝しい思いを拭いきれないまま車を走らせていた。
「小包爆弾!?」
「しっ! 声が高いですよ」
「あ、あぁ。ごめん……。つい……」
浮かしかけた腰を椅子に戻し、座席の前の方に座って、やや前のめりな格好になる。
幸い、こちらの話に耳を傾けている人はいないようだった。
ちょっとほっとしながら、少し声を潜めて改めて聞きなおした。
「その話は、本当なの?」
「なぜに嘘をつく必要があるんですか?
もう、その話で持ちきりですよ。
知らなかったんですか?」
「知らなかったから聞いてるんだろう?
キミも、意地が悪いね」
「はは……。それはすみませんでした。
でも、誰なんでしょうね?
悪戯にしては、たちが悪すぎる」
「それで? 被害者は?」
「あぁ、それが幸いと言うか、大した被害がなくてすんだんで――あ、だから、知らなかったんですかね?」
「……そう、かもしれないね」
彼は、少し得意そうに話を続ける。
よっぽど、他人が知らないことを教えるというのが嬉しいらしい。
「昨日の夕方頃のことですよ。
放送局のフロアー宛に、妙にごわごわした封筒が届きましてね。
しかも、中身もなんか怪しいってんで、ちょっと、その筋の人に来てもらいましてね」
「その筋?」
「まぁ、なんていうんですか?
処理班ってほどじゃあないんですけど、そう言うものの扱いに慣れている人っていうのがいましてね。
本当はたまたまなんですけれど。
その人が、ちゃんと調べてくれて……」
「玄人なのかい?」
「いやぁ、そう言うわけでもないようですけれど。
本職じゃあないって言ってましたしね」
「ふ~ん。本職でもないのに解体が上手い、のか……」
「豪語するだけあって、見事な手さばきでしたよ。
いや、本当感心しましたよ」
「キミが言うなら、本物なんだろうね」
「まぁた。そんな褒めないでくださいよ」
「相変わらず、自分の都合のいいことだけ、拾い上げるヤツだな」
そう言うと、思わず吹き出していた。
彼は、その姿にぷぅっと頬を膨らませていたけれど。
「それにしても……小包爆弾か……。
最近じゃ、インターネットとかでそう言うものの作り方がわかるらしいから、
一概にマニアックな連中のものと言うわけではなくなってきたし……」
「そうですよね。
本当、もしかしたら隣の人が爆弾魔だってこともありえるんですよね」
「確かにね。
隣人のことも良く解ってない昨今、何が起こるか解らないし」
「本当ですよ。
怖い世の中になったものです……」
「……それ、年寄りくさいよ?」
「なんですか? 同じこと言ってるだけじゃないですか?」
「こら、新藤。
そこでじゃれてないで、仕事したまえ!
まだ、今日のノルマは残ってるんだぞ?」
やおら課長が背後から声をかける。
まぁ、この状態じゃふざけていると見られても、仕方ない……か。
「はぁい、課長」
ちょっとふてぶてしさを残しながら、彼はそう仏頂面で答える。
こういうときに少しでも反省の色を見せて、しおらしくしていれば、もっと早く出世できるだろうに……。
ま、そう言うのに興味ないっていっつも言っている彼だから、こうして付き合っていられるんだろうけれど。
それにしても……。
爆弾魔と呼ばれるような連中の仕業なんだろうか?
見た目からして怪しいと思われるような、そんな物を送りつければ、爆弾の目的としては達成しないのではないか?
それとも……。
「なにか、違う目的があった――とか?」
誰も聞いていないフロアーの片隅で、ひとり窓の外を見ながら呟いていた。
そろそろ、夕陽が傾く。
ふと、昨日のラジオが気になった。
あの“麻央”の一瞬動揺したような沈黙……。
いったい、あれの意味するところは!?
冷めかけたコーヒーを咽喉に流し込む。
妙に苦さが口に広がった。
杞憂ならば、いい……そう、祈るように思いながら。
「今日、こちらの方に本人が来るので……」
「なんだ。
直耶君が担当なのかい?」
「まぁ、今日だけ――ですけどね。
彼女、まだ専属の担当、ここにはいないんですよ」
照れ笑いをしながら、彼は僕に伝えてくれた。
そして、彼女のことをもいろいろと教えてくれた。
いつもは生放送の番組を持つ彼女が、最近は収録が増えてきた事で一部リスナーに文句を言われ始めている事。
ある映画にゲスト出演したのがきっかけで、最近、TVなどの仕事が増えてきた事。
今日も、その仕事のために、ここにやってくること。
ここのところ、彼女がレギュラーをしているラジオ番組に、妙なMailが届くようになった事……。
それは、もしかして、昨日の!?
「あ、来たようですね。
では、迎えに行ってきますので、また、あとで」
呼び出していた携帯に出た彼が、そう言い残して足早に廊下を去ってった。
一人残された形になった僕は、直耶君が残していった情報を頭の中で整理していた。
この一連の出来事は、もしかして、ひとつのもの――なのかもしれない。
ざわっと、廊下が騒がしくなった。
何かあったのか?
考えるより先に、体が動いていた。
ドアを開けると同時に、甲高い悲鳴。
あの声は……。
角を曲がると、ぺたんと床に座り込んでいる女の人がいた。
そのそばに守るようにしていたのは、直耶君だった。
「どうしたの?
いったい、何が……」
真っ青な顔をして、その人は小刻みに体を震わせていた。
直耶君は、ちょっとおろおろした感じで、彼女を支えきれていない。
僕を見ると、とても安心しきった瞳をした。
「い、斑鳩さん……。
い、い、今……な、ナイフを持った男がっ……」
「ナイフだって?
それで、怪我は?」
「僕は、なかったんですけど……」
「まさか、彼女に!?」
視線を落とすと、呆然とした表情のままで、彼女は首を小さく何度も横に振っていた。
「いや……わ、私……なにもしてない……」
少し半狂乱になっているようだった。
多分、襲われたショックだろう。
「大丈夫、ですか?
立てますか?」
努めて優しい声で話しかける。
彼女の体がびくっと振るえ、その定まらない視点のまま、のろのろと顔を上げた。
僕はにっこり笑って、手を差し出した。
「いつまでも、そんなところに座っていては風邪を引きますよ。
さぁ、こちらへ」
ほっとしたような彼女の表情に、こちらも内心ほっとする。
こくりと頷いて、手を伸ばす彼女は、どことなく幼く見えた。
「あ、ありがとうございます」
部屋へと向かう最中に、彼女は小さな声で呟いた。
「別に、お礼を言われるほどの事はしてませんよ」
「でも……」
「直接あなたを助けたのは、僕ではありませんからね」
「そんなこと! ……ないです、よ……」
少し恥ずかしそうに、彼女はそう告げる。
それほど遠くない距離のはずなのに、今日はなぜか長く感じられた。
「さぁ、どうぞ」
気配を探りつつ、彼女を中に導く。
大丈夫。
変な気配は、ない。
「あれぇ?
斑鳩……さん?」
少々素っ頓狂な声に振り向くと、そこにいたのはカメラマンの日下部春流で……。
「おや、珍しいところで珍しい人に会いますね。
どうしたんですか、今日は」
そう言いながら彼女を中にいれ、ドアを閉めた。
「今日は、グラビア雑誌に載せるための取材のスチルを取りに来たんだ。
ところで、なんか騒がしいようだけど、なにかあった?」
「まあ、あったと言えばあった。
なかったと言えばなかった――でしょうかね?」
「なにそれ?
まぁ、いいや。
斑鳩さんは、これからお仕事? あんたも大変だね」
「仕事に関しては、お互いさまでしょう。
似たようなものですよ」
「ま、そうか。
あっ、もしかして、担当する人、もう中にいたりするんじゃ?
じゃあ、お邪魔だな。それじゃあ、失礼するよ」
「お気を使わせてすみませんね。
またの機会に」
そう言うと、彼は手をひらひらと振りながら角を曲がっていった。
ふぅと息をついて、ドアを開き、中へと歩みを進めた……。
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※少々二番煎じのようなシチュエーションですが^^;
角坂SSに続いて2度目の登場の“麻央”さんです。
今回初登場した彼――直耶君。
フルネームは 新藤 直耶「しんどう なおや」です。
テレビ局に勤めてて、タレントさんのお世話をする人と言う……。
果たしてこんな職業があるのかどうかさえ怪しいのですが。
今回は、年下で少し甘えん坊なところがあると言う、設定で動いてもらいました。
好奇心旺盛で、意外と情報通――かな?(笑)
ちょっと春流さんが春流さんらしくなかったかも?^^;
この設定は絶対無理!と言う場合、ご一報いただきたいと思います^^;
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2009-09-05T21:38:40+09:00
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