2ちゃんの板を擬人化して小説書いてみないか? @Wiki
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2ちゃんの板を擬人化して小説書いてみないか? @Wiki
ja
2006-05-31T22:43:05+09:00
1149082985
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短編18
https://w.atwiki.jp/vipgijin/pages/34.html
膝を交えて話し合えば解決に向かう問題も確かにある。だれもがそう思っていたが時機を見計らっていたような感がある。誰からとも無く機は熟したという空気が醸成され、ついに四者会談が実現する運びとなった。
「これはこれは、バカですね。久しぶりです。」
「私こそ。元気ですか。」
喧嘩をしているわけではなく、「バカニュース」「私のニュース」なのでお互いをそう呼び合っていただけだった。彼らは仲が良く、時代の情勢にも関わらず独自の友情と信頼を築き上げてきた。ドアをハッキリとゆっくりと3回ノックする音が議場に響いた。
「失礼するよ、私にバカだね。」
「速さん、ご無沙汰しております!」
ふたりが声を重ねた。ニュース速報はすっかり実権を失い、完全に過去の人物となっていた。しかしかつてのオーソリティとしてのカリスマやリーダーシップはさすがの一言で、新参者の厚い人望を集めるには充分すぎるほどだった。
「そう緊張するな。今日は対等な立場でみんなと話がしたいだけなんだから。」
「いえ、でも、私は・・・」
私は肝心なときになると二の句を継げない悪い癖を持っていた。バカは肝心なときにいつもバカを言ってごまかすのだった。
「藁!」
「おいおい、いくらなんでもそれは古すぎるよ。俺だってそんな笑い方は忘れたw」
「てへっw」
どこにもなかった和やかな空間。つい昨日まで互いに会うことも難しかったことが嘘のようだった。だがもう一人の当事者がこの席にまだ就いていなかった。それからが重要なのだ。それぞれが心から寛ぎながらもどこか緊張していた。突然部屋のドアが開いた。
「今北産業」
「日本語でおk」
ニュー即は脊髄で返答した。場が一気に凍りついた。こうなると私とバカはどうすることもできない。ただ目の前の災難が早く通り過ぎるのを祈るばかりだった。
---------------
全ては自分から始まった。そのことに気負いがないでもないがそれぞれが独自の発展をしていけばいいとも思っている。
しかし自分の影響が衰え始めたころ、目の前にいる新しい2chの王者は独自のデファクト・スタンダードをいくつも生み出した。
そのうちのひとつを今日というこのタイミングで、初っ端からなぜ口に出すというのか。それも何とも思わずに。私もバカもそしてこの俺もそのようなことはしない。
ニュー速は、そこまで瞬時に憤ることのできる自分にハッと気が付き、だからこそなんとしても今回の会談で何がしかの成果をあげるべきだと決意を新たにした。
「ていうのは、釣りですた」
「クマー」
いちいち癪に障る男だ。釣りだって言って打ち消してるのに煽り返すな。なぜお前はそうなんだ。沸々といくらでも浮かび出るフィクサーへのフラストレーションを振り払うかのように、表情一つ変えず次の言葉を選んだ。
「今日集まったのはどういうスレがそれぞれどの板に立てられるべきかという件」
「>>10」
「ぷ!」
ああそうか、安価で決めるってVIPは言いたいのかと理解したバカが噴き出した。私はその状況を判断するのにわずかの間を要したが、悟った後にも表情は強張ったままだった。
ニュー速がその全てを見通す目でバカに鋭い眼光をくれた。バカと私はすぐに双子の如くそっくりになった。
私は知っていた、このようなマイルールを平気で押し付け、それでいてニュース系住人たちの圧倒的な支持を得ていることこそがニュー速にとっての根源的な怒りの源だ。
周りが笑おうが怒ろうがこういう場では自分を見せるべきではない、ただやり過ごすのがもっとも賢い選択肢なのだと。
「とりあえず、言い方はまあいろいろあると思うんですがVIPさんの負荷が高すぎるというか、それが現状ですよね。もっとお互いできることを協力してやっていきたいなと。いかがでしょうか」
「同意」
よし!私は心のなかでガッツポーズした。何事も無かったかのようなスムーズな議事進行だ。ニュー速が頭に血を昇らせているいま、これがベストな対応というものだ。バカも小さく頷いた。
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「資料を用意してきますた。」
バカが取り出したわら半紙には、いくつかのスレのURL、そしてそれらについての説明文が簡潔に記されていた。
http://ex14.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1148095501/
http://ex14.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1148084681/
「ええ、VIPさんのところから適当に抽出したものなのですが、たとえばこれらのスレッド。前者についてはこちらで、後者は私さんが扱うような内容だと思うのですが。」
「またえらい糞スレだな。」
ニュー速が毒づく。彼が時代がかった雰囲気を身に纏う理由のひとつに、やたらと喧嘩を売るという気質があげられる。
VIPを始めとするその他ではそれほど四六時中煽りあいをしているわけではない。口は悪いがみんなで上手くやっている。
すっかり主流となったこの傾向は、かつてコワモテで鳴らしたニュー速にとって逆風以外の何者でもなかったのだ。
「まあ、鯖強いから平気だお。」
「そうだよな!運営と懇ろになってよろしくやってんだもんな!」
現在のニュー速は気軽に糞スレをたてられる環境ではない。財閥解体や米国における反トラスト法に見られるように、強くなりすぎたものはより強いものに弱体化を迫られる。
それゆえの受難だと先代チャンピオンはかつて悠然と構えていた。
ところがどうだろう。VIPに至っては事実上スレッドたて放題。連続投稿も15秒規制とニュー速に対するアドバンテージは実に45秒。勝負は目に見えている。
なるほど、運営側の実況や糞スレ乱立を防ぎたいというねらいは充分理解出来る。それならば、なぜそれならばVIPにも同じ規制が加えられないのか。こんなわかりやすい矛盾を放置しておく背後にあるものは何なのか・・・
ニュー速はいつしか、自身のノブレス・オブリージュを重んじた生き方を後悔するようになった。だがこれは運営側と話をつけるべき問題。ここで話し合うトピックとしては馴染まないし、少しでも口に出せばこの場が混乱してしまうだけだと目に見えていた。
ニュー速という財閥解体騒動に乗じてバカや私が誕生した、そして彼らは殊勝な一面を垣間見せる、かわいい後輩たちだ。結果オーライと思えなくも無い、ものは考えようだ。
「うちでいいお。住人も喜んでるお。住人の意向が一番大事だお?」
自分流を決して崩さないなかにも、デファクトスタンダードとしてのVIPの言動や態度には揺ぎ無い自信がみなぎっており、ルールをつくる側の立場というものを完全に自覚しているように見えた。
一方、ニュー速を師と仰ぐバカの心中には、その敬愛する偉大な先輩に対する複雑なわだかまりが芽生えつつあった。
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ある糞スレがニュー速にたてられたとしよう。わが師匠はきまってぶっきらぼうにこう言い放つのだ。
「VIPでやれ」
バカもはじめのうちこそ笑って聞いていたのだが、何気なく何故自分がここにいるのかということを考えているうちに、ある暗い考えが頭をよぎった。
あらゆる種類のスレッドがひとつになっていたニュー速が分割された。本物のニュースはニュース速報プラスに、自分の話をする人の為には私のニュース、そして糞スレを担当するのはここにいる自分、バカニュースだ。
「バカニュース」
奇しくも去年のクリスマスイブのことだった。珍しく雪が舞っていたがもう色恋に現を抜かす歳でもない。
自分のやるべきこと、できることは何かということを考え抜き、明日のためにどう動くべきか、明確な指針を模索することにしか興味は無かった。
バカである。ここまではっきりと刻印されている板は他にあまり見当たらない。自分が何をすべきなのかは自問自答を経るまでもなく最初から明らかだったのだ!
また、ニュー速に糞スレがたった。隣の頑固者がいつもそうであるように繰り返した。
「VIPでやれ」
思い切って尋ねてみることにした。
「あの、バカニュースでやれって言わないのは、なんか理由でもあるんですか?」
「理由?見てのとおりこれは糞スレだ。糞スレはVIPでやれと言ってる。それだけだ。変なこと聞くなよw」
違う、違うんだ。彼の目には糞スレは糞スレとしか映っていない。それこそがレゾンデートルであることへの深いため息。
こんなことは間違っても目を見開いて必死の形相で説き伏せるような話ではない。対象となっているのは糞スレなのだ。
ただ、察してほしい、一回でいいから自身の言葉として「バカニュースでやれ」と言ってほしい。その時はじめて、自分が認められたという強い実感を得ることができるであろうことをしっかりと確信していた。
バカと銘打つも糞スレを任せてもらえない。こんなのは客の付かない売春婦と同じだ。どんなに忌み嫌われるような役割であろうと、それが本分ならせめてそこで輝きたい。
こんなことならいっそ真面目に、スカした顔して生きてみたい。なにもバカを気に入ってバカやってるわけじゃない・・・
ここまで考えてはっと我に還り弱音を振り切った。もうそんな世迷いごとを言ってられるほど若くない。
みんな多かれ少なかれ不満や矛盾を抱えて生きている。少し疲れてきたけどやっぱり頑張るしかないのだと。
彼の性根としてバカというタイプではなかったのかもしれない。おそらくは社会という巨大な装置に適合していくうち、バカという型が彼に嵌められたというだけなのであろう。
そこにいる全員に対し、落ち着き払った表情で静かに伝えた。
「糞スレはウチで見ることもできますよ。住人に選んでもらうことになりますが、ここは住みやすいって意見もよく聞くようになりました。余裕がないでもない。」
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ニュー速はちらと見やり、発言内容とその凛とした表情に違和感を覚えた。なぜバカは甘んじて下働きを買って出るようなマネをするのだろうか。
政治的判断ゆえか?なるほど、VIPの傘下に入り、「バカVIP」とでも銘打つほうが需要が高まるかもしれない。
バカの俺に対する敬愛の情は本物だ。沢山の人間を見てきたのですぐに見分けがつく。その上で板を動かす者としての責任が彼を駆り立てるのだとしても、それには何ら不思議は無い。俺がコイツだとしても、同じことを言うのかもしれん・・・
そう、決定的に頭が固かった。糞スレとバカニュースの位置付け、糞スレを扱う際の自身の眼差し、VIPとニュー速の確執、こういったものを客観視する術をニュー速は持っていなかったのだった。
VIPの糞スレをバカニュースが処理する。それは下働きであり、政治的判断である。政治と師弟の友情は別物であり、どちらも本物である。ニュー速にはそのようにしか物事をみることができないのだ。
「それでは、VIPさんのほうで糞スレに適宜バカニュースへの誘導をかけていただく。ただし原則的には住人の判断に委ねるということでFA?」
「把握した。」
いまここに、会談の成果が生まれた。小さな事案であるが、ニュー速にとってはとてつもなく大きな意味を持つことのように思われた。こういう流れをもっとつくりだすべきだ。
バカは満足げに少し微笑み、そしてさりげなく我が師の顔色を窺った。VIPに自分への誘導を頼んだ、そのことに反応するセンサーが働いているか否かを読み取るためだ。
ニュー速は、いつものように考え事をしているようで、何も気づいてはなかった。別に期待していたわけでもなく、またこういう人だからこそ今日まで上手くやってこれたのかと思う面もあった。
同じようにとりあえず安堵の表情を浮かべる私が、絶妙の間をもって粛々と発言した。
「次に、モナーの処遇の件」
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「モナー?ああ、ウチの看板キャラだ。何もここで話すことはないぞ。」
ニュー速はやや憮然とした表情で早口に答えた。
「ええ。VIPさんからの発議で・・・」
クレームを受けた営業マンのように恐縮し、私は、なんとか自分の発言を無事に終わらせられるようにと祈った。
「ほう。使用に規制をかけている訳でもなし、何が問題なんだ。」
「・・・少し失礼するよ。構わないか?」
「いいお」
軽く目礼した後、手慣れた様子でショートホープを取り出す。オイルライターが軽快な音を響かせ、忽ちウルトラQのような紋様がフラクタルにたゆたう。
私は教えられるまでは気づかないほど薄い紫の粒子が等間隔に小さな穿孔を持つ白い天井に向かってけだるそうにそぞろ歩きをしているのをなんとなく見つめながら、一抹の安堵とともにこれまでの来し方を振り返っていた。
女を忘れたわけではない。仕事が面白かった。負ければ悔しかったし、際限なき日常のなかで少しずつ自分が変わり、それを受けて周りからの扱われ方が変わっていくことに人生の意義とも呼べるほどの充実感を持っていた。
容姿を誉められたことも一度や二度ではない。悪い気はしないがいつも隣に誰かを置いておくという生活が自分のものではなかった。
ずっと一人だったが寂しく思ったことは一度も無い。その暇がなかったという表現も適切ではあるが、板のみんなのために自分のリソースを使い切るほうが楽しく、ごく自然に恋を忘れていたと纏めるほうがしっくりきた。
ただ何故か、タバコの煙に関心が向いたときは恋愛がどうのという思考が働くのであった。
その原因をじっくり探る人生もあるいはあるのかもしれない。しかしそれは他の誰かの生き方だという揺ぎ無い実感があった。
不思議な実感ではあるが、この役目を引き受けるには都合のいい実感。バカが同じ実感を有していることはひと目でわかった。それ以来、学生時代にもなかったほど気の置けない友情を育てている。
幸せだ。仕事をしたい、少し静かになった議場に次のきっかけを投げた。
「モナーは全板で共有されている人気者です。その認識は一致しています。VIPさんの問題意識は、あまりVIP内でモナーが使われていないってことなんです。」
「ほう、モナーをよこせと?」
バカは呆れたような、この人らしいなと思ったような微笑を浮かべ、私のほうに一瞥をくれた。
私は頷くかのように眼球を一瞬下に向け、ゆっくりと説得するような口調で続けた。
「そういうことではなく、より人気を不動のものとするため、今一番影響力を持つVIP内での普及を図ったほうがいいという提言だと思うんですが。」
「そうだお」
「モナーはウチの看板だ!」
ニュー速が議場のテーブルを迷い無く叩く。喧嘩慣れしているので知らずのうちに衝撃をもっとも効率よく伝えており、会場の隅に積んである椅子を刹那に共鳴させた。
バカと私の精神も、ほぼ同じタイミングで震えに見舞われた。
妻はいつも静かに笑っていた。いつも幸せそうだった。わずか半年ではあったが俺の妻は唯一絶対な存在であった。
半年で別れたがゆえの感傷ではない。あの後何年何十年と共に過ごし、当たり前の日常となろうが飽きようが、あるいは俺がこの先浮気しようが、俺の妻はアイツでしかない。
モナーは妻を思い出させた。確かに糞スレでは殴られて彼方へ飛んでいってしまう。それでも笑ったまま消えていく。あの時と同じだ。
だからこそ独り占めするようなことはなかった。俺を変えてくれたように、他の板でもその笑顔をわけてやって欲しい。
実際、ニュー速内に使用を限定させることもある時期容易いことだったけれども、アイツがどういう意見を言うか、他ならぬ自身に問いかけ、それに従った。
譲れない。エネルギーを伝えきる拳はさらに力み衝撃の伝導率を下げたが、そもそも殴りあいをするためのものでもないので結果的にはどちらでも良かった。
VIPの思惑は別のところにあった。
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そのイメージとはそぐわない感もあるが、VIPは今やサブカルチャーを中心とした一大コンテンツ生産地である。
絵画、音楽、フラッシュ、小説など、様々な作品が毎日のようにそこかしこから誕生している。この力をもってしてモナーを全面的にバックアップすれば、きっと面白いことになる。
VIPにとっては、楽しければなんだって構わないのだった。糞スレをバカニュースに分けてやったのだって、板を横断した糞スレがどのように展開されるのか想像し、やもたてもたまらなくなって咄嗟に同意してみただけだった。
モナーの知名度は圧倒的ではあるが、個性としては若干弱く、VIPではどちらかと言えばあえて使う必要も無いと判断されるポジションに置かれていた。
その独創性と企画力、板が持っている圧倒的な勢いをもってすれば、モナーをかつて以上の人気者に再び押し上げられるであろうことは自明と言えた。
ニュー速が怒声と囁き声を混ぜたトーンで続ける。
「お前んとこにはよ、あのホライズン某とかってのがいるだろうがよ。何が不服なんだよ?」
バカがまた噴きだした。睨まれることなど承知していたものの、次には誰憚り無く潔く笑い出した。
なぜ内藤某ではなく難しいほうを覚えてるのか、しかも前後さかさまなのはなぜかという点が、彼の笑いの琴線をダイレクトに奏でてしまったのだった。
テンションを下げたニュー速はフィルターと同じくらいの長さになったホープを揉み消すと、きまり悪そうにバカから視線を外した。モナーを亡き妻と重ねてみていることは、3人には全く預かり知らぬことであって、それがこの後説明されることもなさそうだった。
「長引くな・・・」
私は強い覚悟をもって今日の会談に挑んでいるとはいうものの、このような下らない話で足止めを食うとは思っていなかったので、いささかつまらない気分になった。
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四者の意識が拡散した。十数年前のこと、あらゆるスポーツがからっきし駄目だったニー速にも、半年に一度行われる大縄跳びではチームを牽引する機会が与えられた。そこで待つべきか入るべきかの判断を誤ったことは一度も無かったのだ。
ニー速が動き出した。次の王者を見初め、自分にできることでもって夢を託そうと思い込んでVIPの公設第一秘書となった。初日から調整役としての過不足ない仕事をみせた。王者は全幅の信頼を寄せ、ものの数ヶ月で内輪では二人三脚と評されるほどの相乗効果を見せつけた。
まるで空気のようなニー速の耳打ちをVIPが受ける。一瞬別のことを考えたか否か、政治的判断により参加者にその結論を委ねた。
「シベリアと電話がつながってるお」
「ああ?」
人によっては泣き出してしまうのかもしれない。ニュー速だから、さらなる怒りの表情というかたちでその通知を受けただけなのだ。
シベリア・・・忘れもしない、できることなら木っ端微塵に忘れたい。運営による権力のいかずちを全身に浴びた頃、それは遠くに咲いた仇花だった。
いわばニュー速凋落のマイルストーンとも呼べる存在である。それに向ける眼差しはバカや私に向けるそれとは明らかに異なる、日陰の存在としての、容赦なき自分自身に否応無く対峙させるスケープゴートである。
「VIPに用事があるなら終わった後で勝手に話せばいいじゃねかよ。」
「ちょっと待ってくれお。・・・おちけつ。」
ニュー速とてプライベートな空間がこの場に侵食するわけなどないことは重々承知していた。ただ正気を保つのが難しくなっていただけである。
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私は憮然とした表情を隠し切れずにいた。強情な性格が嫌いなわけではない、寧ろ自分には合っているタイプなのかもしれない。しかし時折みせるこのオッサンの頑固さにそろそろ辟易しているのも確かであった。
「電話会談に決まってるじゃないですか。何言ってるんですか。」
「・・・ああ、わかったよ。繋げ。・・・私としては繋いでもらっても構いませんよ。」
ニュー速が政治家の顔に戻った。他のメンバーにとってはこのような席で自分の本性をさらけ出すということはそもそもありえないことだったので、そのわずか数分間が妙に長いものに感じられた。ニュー速にアゲンストの風が吹いている。
地方都市の映画館と同じくらいはゆうにある大きさのアクリル製スクリーンにシベリアの姿が映し出される。
800万画素相当の映像は不必要なまでに鮮明で、ひょっとすると直接会って話をするよりも多くの情報を伝えてしまうかもしれない。対面することが特別な意味を持たない一般企業の会議などでは、最早この方式によることが日常となっていた。
「ニュー速さん。お会いできて嬉しいです。あの時以来ですね。」
「ご無沙汰してます。別に今も会ってるってわけじゃないですけどね。」
外見のさばさばした感じとはミスマッチなまでに、ニュー速が皮肉を言うさまには何一つ違和感がなかった。それ以上ないほどしっくり来ていた。
シベリアの眉が数ミリほど動いた。
「バカさん、はじめまして。シベリアです。」
「本日はこうしてお話させていただくことができ、光栄です。」
「先般、お送りした観光案内はご覧いただけましたか?」
「もちろん拝見してますよ。ウチもあやかりたいものですな。本当に美しい。」
シベリアの観光案内は丁寧によく纏められた文章と精密なAAで構成されており、ひととおり芸術の心得があるバカの精神世界をすっかり魅了していた。しかしそれは政治とは全く別次元で処理される領域。シベリアは、弱かった。
「私さん。シベリアです、はじめまして。」
「お噂はかねがね。お目にかかれて光栄です。」
私がわずかに鼻を鳴らした。周りはどこも苦境でしかなく、苦渋に満ちた生涯を過ごしてきたシベリアにとって、初対面の私が見せるともなく見せたちょっとしたリアクションでもってその人間性を判断することは造作もないことだった。
事実、常にトップスピードで走りつづけてきた私が弱者に向ける眼差しは、本人が意識する間もなく無駄なやり取りを省略したいという焦りと苛立ちに満ちていた。
私、バカそしてニュー速。この3人は自分自身の嫌な部分から徹底的なまでに目を逸らすという奇妙な共通点があった。このあたりに関してはお互い誰も気づけないので、今日までずっと変わることなく生きてきたのである。
「VIPさん!こないだはどうもwりんご届きました。」
「感想wktk」
「こんなに美味しいものが余り売れてないなんて不思議ですよね。また送ってくださいね。」
「ちょwwwまwwwwwww」
シベリアとVIPは見るからに打ち解けていた。地理的に近いことがきっかけではあるが、なにより相手のキャラクターが双方にとって邪魔にならないものだということが大きく作用しているようであった。
政治的文脈においても今という機会を逃せばさらに拗れるばかりである。シベリアの言う事はいつももっともで、理知的で、冷静で、思いやりに満ちており、そしてその生真面目さゆえに全く空気が読めていなかった。ありていに言えばそれゆえにいじめにあっているような感さえあった。
VIPを通してモナーをニュース系結束のシンボルと位置付けたいとの構想を表舞台に引っ張り出したのだ。ここまでは上手くいった。これからのやりとりで全てが決まる。
「もともとはみんなひとつだったんです。互いに何が引っ掛かってるのかということが分析できればそもそも争う必要がない。」
ニュー速が二本目に手を伸ばした。
---------------
「ご高説賜りまして、納得至極ですがそのようなことをおっしゃるために今日ここにおいでになったんですか?」
私が何かを読み上げるような口調で早口に告げだ。他のメンバーは訝っている、シベリアに対してである。
「少し話が飛躍してしまいました。単刀直入に申し上げますと、ついてはモナーを友好のシンボルに、という提言なのですが・・・」
モナーはニュートラルな存在である。圧倒的な知名度があり、そして最近少し飽きられつつある。ニュース系の各板を結ぶ象徴としてはパンダ並に適役であるようにシベリアは考えていた。
VIPに普及させることでコンテンツ作成の仕事が自分のところにも必ず回ってくる。その時はこの高度な技術力でもって全板にアピールするチャンスとなり、人口不足を解消させるためのブレークスルーとして威力を発揮するであろうとシベリアは読んでいた。
どこまでも運の悪い人間である。もっとも話をスムーズに通すべき相手であるニュー速に、モナーに対する個人的な思い入れがあるなんて。
それさえなければ、非の打ちどころがない完全な「計画経済」だった。
「みんなで遊ぶお。楽しいお。」
「ちっ!」
ニュー速は聞こえるように舌打ちした。嫌過ぎる、群集でやってきて、日本語になっていないわけのわからない記号ばかりで、しかもみんながみんな一糸乱れず同じことを言い出す・・・
モナーの人気を上昇させる手段としては確かに有効だ、頭で考えればわかる。だがそれにはあのような奇怪な連中が持つ異様な文化の洗礼が欠かせない。
「いやだ。」
思わず声に出して呟いてしまう。完全に無意識だった。
「い、いやだからっていささか唐突ではないでしょうか。すでに完成したキャラクターをデフォルメして失敗してしまうというパターンも枚挙に暇が無い。」
「あらいぐま・・・ですか・・・」
とっさに言い訳した割には上手く誤魔化せたものだとニュー速は自画自賛した。シベリアがそれを受けてわけのわからないことを言い出したが、とりあえずは何でもよかった。
理由はよくわからないけれどもニュー速が強い難色を示している。5年も前にやめた煙草なのに隣でプカプカやられると未だにうらやましい。バカが少しフォローを入れた。
「なにもプラス系と一緒にやろうってわけでもない。」
議場が、どっと沸いた。
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それもそのはず、ニュース速報+をはじめとするプラス系の板とこれら無印のニュース系の板はずいぶん前から苛烈な交戦状態となっている。
事実上運営サイドが経営しているプラス系は、スレッドの種類や内容が管理・統制されているので無印ニュースとは違ったかたちで独自の発展を遂げていた。
何の後ろ盾も持たない板の代表たちが今日この場に集まっている。うまくやっていければ利害の対立があまり生じないという関係であり、それにもかかわらず火種がくすぶっていて、それを何とかしなければならないというのがシベリアを含めた共通の思いであった。
もっともVIPだけはニュー速の指摘どおり運営と友好的な関係を築いており、その成果としての目覚しい急成長ぶりは、他の板が疑心暗鬼にかられるのも無理からぬ構図を描いていた。
形式だけの同盟から内容のあるそれへとの脱却をはかること、それこそが会談に設定されたゴールである。基本的な合意がなされれば、あとは実務者レベルでの協議によって環境を整備していくほうが現実的である。
それにはまだまだ数多くのハードルを乗り越えなければならない。儀礼的なものでしかない友好のシンボルについての議論でこれだけ紛糾するということは、以降の話し合いが全くできる状況でないということを意味していた。
シベリアには自信があった。滅んで当然と表現しても何ら誇張はないほどの劣悪な環境に置かれたにも関わらず、少しずつ人の住める街をつくってきた。少し問題が大きなものだというだけで、今回くらいの難局は当然のように乗り越えられる。
でもシベリアは相手にされていなかった。シベリアは、弱かった。
2006-05-31T22:43:05+09:00
1149082985
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短編42
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「僕が生きている価値はある」
眼前のパソコンに視線を注いだまま、ヒッキーは呟いた。
「何も生み出さず、ただ資源を消費する。それだけでも十分、僕は生を満喫しているよ」
部屋の中を、パソコンが駆動する音だけが満たしていた。見渡すと、大小様々なHDDが、室内のあちらこちらで電源ランプを灯しているのが見える。ヒッキーの部屋にパソコンがたくさんあるというよりも、パソコンの倉庫に、メガネをかけはちきれんばかりにぶくぶくと太った、油のにおいのする青年が、スナック菓子片手にちょこんと居座っていると表現したほうが正しいかもしれない。これら全てを駆使して、彼はいったい何を行おうというのか。皆目検討もつかなかった。
「お前はここで、ずっと生きているのか」
削除人が、重たい口を開いた。ローブの下でぎらりと光るまなこが、その背中に注がれる。ヒッキーは目を向けずとも、その男のただならない気配を感じたのか、乾いた笑いを漏らし、「怖いね」とまず小さく呟いた。
「五年になるかな」そして飄然と、そう答える。「恥ずかしながら、高校も卒業出来ずじまいだった」
「よく生きてこれたものだ」感心に皮肉を交え、削除人は目を細める。「何も聞かず、何も見ず、何も感じずに」
「僕もそう思う」
言われなれているのか、青年は微塵の動揺も見せずに肯定の意を示した。
「でもねえ、それが成立する世の中に、今はなったんだと思うよ。大抵のものは、こいつで手に入るしね。食材も、本も、トイレットペーパーだって格安で売ってる」
愛しそうに、眼前に広がる液晶ディスプレイの枠を撫でさする。本とかを読む時も、蛍光灯が要らないんだ。こいつだけで十分明るいから。彼にそう言わしめた、二十インチほどの薄型TFT液晶が放つ青白い光線は、不摂生極まりない生活をしているであろうヒッキーの顔色を、さらに不健康的なものにさせていた。
「金はどうしている」
「アフィリエイトで充分稼げるよ。僕が運営しているブログ、見るかい?」
削除人からの返事はない。あ、そう、興味ないのね。と、ヒッキーは軽口を叩いたが、それ以前にアフィリエイトという言葉を、削除人が理解していたかどうかは定かではない。
「友人にもこと欠かないし、ね。会ったことはないけど、イタリアにフィアンセもいる」
「フィアンセだと?」
「ごめん、これ自慢」
ヒッキーは初めて削除人に面と向かい、しし、と歯の間から息を漏らした。彼の顔のパーツを、頬についた脂肪で隠すような満面の笑みだ。少しも可愛らしくない。
「お互い、顔も知らないんだけどね。相談に載ってあげてたら、ある日突然求婚された」
「理解し切れん世界だ」
「だろうね」
「お前のやっていることは、なんというか、詐欺に近いんじゃないか」
「なんとでも言ってくれていいよ」
ヒッキーの、眼鏡の奥にかすかに見える瞳が、ディスプレイが放つものとはまた別の、優しく温かい光をたたえている。「そういう世界なんだ」
「わからんな。それだけの社会性があってなぜ、このような小さな世界に閉じこもる必要がある?」
削除人がその無垢とも言える疑問を口にしている間に、ヒッキーは再びパソコンに向き直りキーボードの操作を再開し始めた。んー。と間延びした返事を一つおいたあとに、ゆっくりと喋り始める。
「その答えになるのは三つ」マウスを操作していたソーセージのような右手が三本、立てられた。
「一つは指摘。あんたの言っているのは『プールでは大丈夫なのにどうして海だと溺れるの』と言っているのと同じだ」薬指が一つ、不器用に折りたたまれる。
「二つめ。時代は、生活全てをリモートで行う方向に進んでいる。僕が行っている生活は、これからの社会が指標としているものに近い。この点を、僕は自負する」
ヒッキーの声に、誇らしさが混じる。社会が、お前を目標に?笑わせてくれる。自らの正統性をとうとうと語る、不純物をたっぷり含有した肉の塊を目の前にして、削除人はそう感じたが、黙っていた。
その男に、えもいわれぬ自信と、説得力を感じていたのも事実だ。
「三つめ。…これが一番大きい」
ヒッキーは、最後に一本残った人差し指を、そのままパソコンのディスプレイに、指を差すように向け、削除人に笑いかけた。
「わざわざ外に出なくとも、ここには無限の広がりがある」
プラスチックを爪で引っかくようなせわしない音が、示し合わせるかのように部屋中のハードディスクドライブから流れてくる。下手糞な鼻歌を混じらせ、ヒッキーはキーボードを叩き続けた。削除人にはどう耳を澄ましてもノイズにしか聞こえない雑音でも、彼にとってはまさに、世界が息づく、心臓の鼓動のようなものであるに違いない。
「うちに僕以外の人間が入るのは、三年ぶりだよ。親は僕が金を仕送り始めてから、すっかり連絡も寄越さなくなった」
立ち竦む削除人に、ヒッキーが改めて声をかけた。
「だからね、勝手に思ってた。次にこの部屋に入ってくる奴は、きっと僕を救いに来るか、殺しに来るか、どちらかなんだろうって」
こう見えてもロマンチストなんだ。と、己がたたく軽口にしししと笑ってみせる。まるで感情を見せない削除人に、いいかい笑うっていうのはこうやってやるんだぜ、とレクチャーしているかのように見える。実に不愉快だ。
「さて、あんたは、どっち?」
ヒッキーはそれきり、口をつぐんだ。部屋は再び、パソコンがうなる音で染まる。削除人は何も答えず、黒いローブで隠された顔からは一切の感情も汲み取ることができない。
数分のあいだ、二人の中に、不思議な時間が流れた。
「…どちらでもない」
口を開いたのは、削除人のほうだ。地の底から這い上がってくるかのような低く重い声が、部屋内によく通る。
「知っているか?お前の棲むこの世界のほかに」
その黒いローブの袖から、骨張った細く白い腕が生えてきた。鋭く伸びた爪を帯びた指がゆらりと妖しげにうごめき、己の胸を差す。
「ここにも一つ、無限がある」
その発言の意図を、汲み取ることが出来なかったのか、怪訝な顔をして、ヒッキーは削除人に向き直る。
「唯一、お前に賛同できることがある」
ローブの下から、鳩が鳴くような冷笑が聞こえた。「お前には価値がある」
2006-05-31T17:43:16+09:00
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短編?
https://w.atwiki.jp/vipgijin/pages/12.html
★ [[短編1]] (ID:mPN4XKkIO氏)
★ [[短編2]] (ID:9ilCIDwJ0氏)
★ [[短編3]] (ID:9ilCIDwJ0氏)
★ [[短編4]] (ID:9ilCIDwJ0氏)
★ [[短編5]] (ID:mPN4XKkIO氏)
★ [[短編6]] (ID:mPN4XKkIO氏)
★ [[短編7]] (ID:DCDdgSFb0氏)
★ [[短編8]] (ID:h/6Ld30jO氏)
★ [[短編9]] (ID:h/6Ld30jO氏)
★ [[短編10]] (ID:BHQJ6RPz0氏)
★ [[短編11]] (◆9VgV3LNOas氏)
★ [[短編12]] (◆9VgV3LNOas氏)
★ [[短編13]] (◆9VgV3LNOas氏)
★ [[短編14]] (◆9VgV3LNOas氏)
★ [[短編15]] (◆9VgV3LNOas氏)
★ [[短編16]] (◆9VgV3LNOas氏)
★ [[短編17]] (◆IMb/b/OG4M氏)
★ [[短編18]] (◆IMb/b/OG4M氏)
★ [[短編19]] (◆9VgV3LNOas氏)
★ [[短編20]] (◆9VgV3LNOas氏)
★ [[短編21]] (◆9VgV3LNOas氏)
★ [[短編22]] (◆9VgV3LNOas氏)
★ [[短編23]] (◆9VgV3LNOas氏)
★ [[短編24]] (◆9VgV3LNOas氏)
★ [[短編25]] (◆9VgV3LNOas氏)
★ [[短編26]] (◆9VgV3LNOas氏)
★ [[短編27]] (ID:TYV45Pf0O氏)
★ [[短編28]] (ID:Kpx5nLam0氏)
★ [[短編29]] (◆IMb/b/OG4M氏)
★ [[短編30]] (ID:Kpx5nLam0氏)
★ [[短編31]] (ID:KgK+vG7O0氏)
★ [[短編32]] (ID:1mIyE7IG0氏)
★ [[短編33]] (ID:KgK+vG7O0氏)
★ [[短編34]] (◆9VgV3LNOas氏)
★ [[短編35]] (ID:xuWk+JbP0氏)
★ [[短編36]] (◆9VgV3LNOas氏)
★ [[短編37]] (◆9VgV3LNOas氏)
★ [[短編38]] (ID:J4JnY/nl0氏)
★ [[短編39]] (◆9VgV3LNOas氏)
★ [[短編40]] (◆9VgV3LNOas氏)
★ [[短編41]]
★ [[短編42]] (ID:KEY7QsJx0氏)
2006-05-31T17:40:02+09:00
1149064802
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短編41
https://w.atwiki.jp/vipgijin/pages/66.html
ここは数多の板が散在する場所、2ch。
ネット上の事とはいえ、人と人の会話である以上イタコザが起こるのは必須。
それはその些細なイタコザを描いた作品である。
―…ああ、もう朝?
そう思いながら、私は目を開ける。
周囲を見てみると、見慣れたベッドに目覚まし時計、着替えの服などが散在している。
実に見慣れた風景よね、そう思いながら私は体を起こす。
「ふぁ~ぁ…」
脳が酸素を欲しているのか、自分の意志とは無関係に欠伸が出る。
ちょっと恥ずかしくなったが、回りには誰も居ないから特に問題ない。
そうどうでも良いことを考えながら、私は地面に立つ。
目を擦りながら、リビングへと向かう。
「おはようございます、ロボットさん」
「おはよう。いつも思うけど、敬語はいらないって…」
姉のロボゲーと会話をする。
ロボゲーは私と比べ物にならないほどしっかりしているし、私より数倍…いや、数十倍は強い。
胸の大きさも又然り。私は視線を自分の胸へ落としながら溜息をつく。
「どうしました?ロボットさん」
「ああ、いや、その…。ロボゲーっておっぱい大きいよね…」
「なっ!?」
ロボゲー驚いたように声を上げる。
いつも思うけど随分とからかいがいがあるよね、この人。
「ねぇ、ちょっと触らせてよ。いいでしょ?」
「あ、ちょっと…ふぁっ」
甘ったるい声を上げる。
私より大きいのに感度も良いのか。だんだん悔しくなってきた。
ええんかここがええんかちくしょう。力を入れて揉みしだく。
「ちょ、まっ…やぁっ、はんっ…あんっ!」
「ああくそええんかここがええんか畜生!」
おっといけない、つい本音を出してしまった。
あっちも本気で感じちゃってるようだし、一旦手を離す。
「はぁっ、はぁ…な、何をするんですか」
声を荒げながら返事をする。心なしか顔が紅潮している。
しかも涙目で上目遣いと来たものだ。誘ってるのか畜生。
しかし私はこの程度で挫けない。けどやっぱり悔しい。
ロボゲーの胸をもう一度揉みしだき、私は外に出た。
「あ~あ、私もあんな大きくなりたいなー」
と、とても人には聞かれたくないような独り言を歩きながら言う。
どうせこの道は私と軍事のおっさん以外ほとんど通らない道だ。聞かれることはないだろう。
そうどうでも良いことを考えながら、ボケーッと歩いていく。
―その時だった。
「!?」
「キサマヲ ツカマエロ ト マスターカラノ メイレイダ」
え!?なにこの唐突な展開!?
私は捕まれた腕を振り払おうとグーで叩く。
しかし…まったく動じる気配はない。なんだこいつ本物のロボットかよ。私もだけど。
そんなどうでも良いことを考えている私って結構危機感無いのかな?
そう思っていた時。
「スコシ ネムッテイテ モラウ」
「え?」
何か粉っぽい物が顔の前に降ってきた。
これはやばい…!私は何とか脱出しようと試みるが、時既に遅く。
「いやぁーっ!!」
最後の力を振り絞って、大声を出す。
ってそうだ、この道は軍事のおっさんくらいしか通らないんだ…
甘かったよ…
そう思った矢先、私の意識は沈んでい…って……
「ホカク カンリョウ」
「コレヨリ テッタイスル」
―――
「む?先程の悲鳴は?」
「おなごの悲鳴は良い。まったく性欲をもてあます。そうは思わないか軍事?」
「いい加減にせんか貴様は!あと上官を呼び捨てるな!」
ハリセンを一閃。兵器の頭は軽く地面にめり込む。
さすがは元グリーンベレーの自衛隊隊長、といったところか。
年を取っても力は若者以上だ。
「痛いではないか軍事」
「呼び捨てにするなといっている!」
一方、さっきハリセンで叩かれたのは兵器。
グレネードやミサイルを背負って、銃も所持している。接近戦も難なくこなせる、軍事の名パートナーだ。
しかしどこか抜けている。理由はわからん。
「軍事のおっちゃんおいすー」
「お…VIPか。久しいな。」
「おう、久しぶりだお」
「軍事、こやつは何者だ?」
「儂の旧友のVIPだ。決して敵ではないから攻撃せんようにな」
「了解した」
「ところで、ちょっと教えて欲しいんだが」
「なんだ?」
「ここの計算式がわからないんだお」
「ふむふむ…、ここはこうやってだな…」
「って馬鹿ー!」
「テラビバッチェ!何だお軍事のおっちゃん!心臓が止まったお!」
「どうした軍事」
「先程悲鳴が聞こえてきただろうが!今でも遅くない、調査に行くぞ!」
「誘拐と聞いて黙っていられるVIPPERではないお、行くお!」
「了解した軍事」
―――
「マスター ロボゲー ヲ トラエテ キマシタ」
「おお、よくやった…って馬鹿者が!これはロボットじゃ!
ロボゲーを連れてこいと言っただろうが!」
「…」
「シカシ マスターカラ ツタエラレタ ジョウホウデハ コレガ テキゴウ サレマシタ」
「馬鹿者が!巨乳と貧乳の区別も付かぬのか!」
「最初から儂に任せてくだされば良い物を。
機械になど任せるからこうなるのです」
「ぐっ…それはいいのだ!
ロボゲーも妹が攫われては黙ってはおるまい…。
お前には来るべき時に活躍して貰う」
「しかし、一体ハングル殿は何が目的なのです?
世界が欲しいのならば我々だけで十分というのに…」
「わしの夢はそんなちっぽけな事ではない!
ロボゲーのあの放漫な胸を揉みしだくのがわしの夢だ!」
「わかったら口出しするな日本史!」
「…」
―――
「ロボットー、どこへ行ったのですかー?」
おかしい…、ロボットはいつも昼飯までには帰ってくるのに。
姉のロボゲーはそう思いながら、足を速めた。
妹を心配しながら、しばらく走り続けた所…
「なっ!?」
「のうわっ!」
VIPと出くわした。というかぶつかった。
その衝撃でVIPはロボゲーに馬乗りする状態になった。
「あ、あの…」
「こ、これはかなりの美人だお…!おっぱい!おっぱい!」
ロボゲーは身の危険を感じた。
しかし、後ろから飛んで来た声がロボゲーを安心させることになる。
「何をしておるかVIP!」
ハリセンを軍事が投げる。まるでスマブラを彷彿とさせるような放射角を描いて飛ぶそれは、VIPへと向かい…
「オフッ!」
バシ、という心地良い音を上げて当たった。
VIPが吹っ飛ぶ。そのまま川に落ちた。
ストックが-1される。VIPは上から白い床に乗って降りてきた。
「何するお!このフラグ台無しにされたら困るお!」
「フラグも何もあるか!儂らは悲鳴のある方向へ向かっておるのだぞ!」
「う~む、性欲をもてあます」
「お前はもう良い!帰れ!」
軍事が怒っている。
この人胃が凄く痛くなりそうだ、とロボゲーは思う。
しかし今はそれどころではない。悲鳴が聞こえたと言っていたが、それはもしかしたらロボットの物なのではないだろうか。
だとしたら危険だ。ロボゲーは声を上げる。
「悲鳴が聞こえてきたって、どこからですか!?」
「おぅ、あ、それはあっちじゃ。儂らも今そこへ向かおうとしていたのじゃが…」
「私が乗せていきます!背中に乗ってください!」
「こんな美人に乗る…ハァハァ」
「性欲をもてあます」
「貴様らは走れ!走りたくなければ黙っていろ!」
この二人も走るのは嫌なのか、今回は大人しく指示に従う。
一体なんなのやら。
「…乗りましたか?では、きちんと掴まっていてくださいね」
「ああ、わかっている。」
声が帰ってくる。ロボゲーはブースターを吹かした。
「全速力で…行きます!」
―――
…一瞬だった。
実質1秒かかるかかからないかくらいの時間で、その場所に着いた。
「…さすがはロボゲー殿、恐ろしき加速…」
「いいえ、そんなことはどうでも良いんです。
悲鳴はどの方向から聞こえましたか?」
「ああ。あれはここから…西に向かってか。」
西と言えば、シャア板連合研究所がある所。
妙に胸騒ぎがする。早く行かなければ。
ロボゲーはそう思いつつ、声を掛ける。
「もう一度加速します!しっかり掴まっててください!」
「了解ッ!」
―――
「…ここね。」
「しっかし…いつ来ても面妖な場所だな」
「ああ、そうだな軍事」
「はひぇ~、加速しすぎだお…」
一人は加速時のGで伸びてしまっている。が、他の三人はほぼ気にしていない。
「では、扉を破ります。皆下がってください」
「了解した。皆下がれ!」
「了解」
「ふひ…下がるのかお…?」
「全員下がりましたね、では…。行きます!」
先ずはロボゲーが腕を構える。
その刹那、ロボゲーは口から言葉とならない音を出す。
その口から出される音は次第にプログラムを作り上げては、腕に吸収される。
その時間約3秒間。ロボゲーが音を発するのが止まった時―
―光は、放たれる。
その光は闇を全て切り裂き、白日の下に晒す。
ロボゲーは反動を上手く吸収している。それにより、反動の衝撃は胸が少し揺れる程度まで減らされていた。
…いくら扉が鉄製とはいえ、桁違いの質量と熱量を受けては無事ではない。
ロボゲーが放った光を中心に、大きな穴が空いていた。
「ふぅ…」
「さすが、腕は鈍って折らぬようじゃのう」
「乳揺れ…性欲をもてあます」
「( ゚д゚ )」
各々が思い思いに言葉を放つ。
そして、4人は動き出す。
「では、行きます」
「フッフフ、腕が鳴るわい」
「油断は禁物だ」
「こ、怖いお…」
―――
―扉の中に入った刹那、声が聞こえた。
「我らはこの扉を守る番人、残念だがお帰り願うことになる」
「シンニュウシャ ハイジョスル」
「ならせめて、ロボットは返して頂きたいです」
「誘拐を許すわけには行かぬな」
「残念だが、それは出来ぬ。主の命は絶対故」
「ムリダ」
「ならば、実力行使を!」
「おう!行くぞ兵器!」
「了解した大佐!」
「馬鹿目が…」
「テキ ハイジョスル」
…
まず攻撃を仕掛けたのはロボゲー。
左手から伸ばしたビームソードで横薙ぎに二人を斬りつける。
…しかし、そう簡単に当たりはしない。ジャンプして回避された。
「甘い!」
次に攻撃を仕掛けたのは日本史。
三尺を悠に超える長刀を持ち、ロボゲーへと飛びかかる。
「ぬぅんっ!」
そして一閃、もの凄い質量を伴って振り下ろす。
「…させるかッ!」
兵器が二人の中に割り込む。
銃のグリップの部分で、刃を受ける。
そして、懐から大型銃を持ち出し、撃つ。
「ガォォンッ、バギューンッ、ドギャンッ!」
乾いた音を出して銃弾は放たれる。しかし、その程度で動じる日本史ではなかった。
キィン…と、ガラスを思い切り叩いた時のような音が響く。
それが3回鳴り…、銃弾は、地に落ちた。
「…この儂を倒したいならば、核でも持ってくるが良い!」
「…チッ!」
「どけい兵器!儂が攻撃を掛ける!」
「了解した軍事!」
兵器が体を反らすと同時に、軍事の持つ軍刀の切っ先が日本史の腹を捕らえる。
だが、日本史は体を捻って避ける。
「ちっ!鉄砲玉か!」
「フフ…儂を只のおっさんだと思うな!」
どこからか取り出したサバイバルナイフを左手、軍刀を右手と持つ。
それを見て、日本史は一歩下がる。
それと同時に、軍事は構えを取る。
緊迫した空気が流れ―
「りゃあっ!」
―先に仕掛けたのは、日本史だった。
長刀の居合で、軍事を薙ぎ払う。
「ぬぅっ!」
しかしそれに動じる軍事ではなく、難なくナイフで防御する。
「セッ!」
軍事は右手の軍刀で突きをするが、鞘で防がれる。
日本史は素早く刀を戻し、体を捻りつつ軍事の背後に回った後、上から刀を振り下ろす。
「ちっ!」
軍事はそれをナイフをかざして防御する。
そして体を捻り体制を整えた後、防御の構えをする。
「やりおるな!ならばこれではどうだ!」
日本史は刀を左手に持ち変え、刀で突く。
「何をッ!」
軍事はそれを軍刀の刀腹で防御し、ナイフと交差させて日本史の刀を挟み込み、上から地面に挟み付ける。
「甘い!」
日本史は素早く刀を引き右手に持ち替え、上から振り下ろす。
「当たるかッ!」
軍事は咄嗟に体を捻り回避し、蹴りで足払いをする。
「だが…甘すぎるわっ!」
しかし日本史は地面に差した刀を支点にジャンプしながら回し蹴りを放つ。
「グゥッ!」
それに当たった軍事は、かなりの距離を飛び、壁に叩きつけられた。
「これでトドメよ!」
日本史は脇から脇差しを一本取りだし、投げつける。
「ぐはっ!」
それは軍事の足に刺さった。
全体の傷から見れば大した物ではないとはいえ、これ以上戦闘を続けるのは危険だろう。
そう判断した軍事は、命令を下す。
「兵器よ、儂では駄目だったようだ…。貴様の出番よ、行け」
「了解」
兵器は冷たい声で言い放つ。
「…若造、貴様に儂の相手が務まるとは思わんな」
「そういったセリフは 勝ってから言うんだな!」
「ならば良い…。覚悟を決めよ、若造!」
「ショウタイムだ!」
「…ところで貴様、さっきは「儂を倒したいなら核でも持ってくるが良い」と言ったな?」
「それがどうした」
兵器がおもむろに鞄から何かを取り出す。
全長一メートルほどの細長い円筒だ。
「もしや貴様…」
「…これは核並の破壊力を持つミサイルだ。命が惜しければ敗北を認めよ。さもなくば爆発させる」
「馬鹿目が!このような場所で爆発させれば味方がどうなるのか自明の理!何をする気だ!」
「…ヘッ、残念だったな。ここに瞬間移動の出来るアイテムがある。一回きりだがな。」
「…馬鹿な!」
「なら試してみるまでだ!うおおおお!!」
「ぐっ…近寄るな!」
日本史は刀で兵器を斬りつける。が、その足は止まらない。
「ぬうおおおおおおおっ!!」
「ぐっ!貴様…!」
兵器が日本史に接触する。
―刹那、兵器と日本史の姿が消えた。
それと同時に、遠くで爆発音が聞こえる。
…どちらとも、無事ではいないだろう。
「…馬鹿者が…」
軍事が哀しげな声で言う。
この程度で死ぬとは思っては居ないが、少なくとも無事ではないだろう。
「…」
そのまま、軍事は黙りこくってしまった。
―――
一方、こちらはロボゲーと機械工学の戦い。
双方無言のまま、目にもとまらぬ速さでの戦闘が繰り広げられている
ロボゲーがビームを撃つ。
機械工学は一瞬にして避ける。
機械工学がレーザーを横薙ぎに放つ。
ロボゲーは宙返りして回避する。
それをとうに何十回も繰り返していた。
しかし、その攻防も今、当に終わろうとしていた。
機械工学が一気に距離を詰め、右腕から光を形状化させたものを伸ばし、上から打ち落とす。
ロボゲーは左腕から光を形状化したものを伸ばし、その攻撃を受ける。
鍔迫り合いが数秒続き両方が弾かれた時、亜高速戦闘が始まった。
機械工学は変形して飛行機のような形状となる。
ロボゲーは背中のブースターの出力を上げる。
刹那、二人の姿は無くなる。否、見えなくなる。
聞こえるのは風を切り裂く音と、弾が爆発する音のみ。
人間が視認できるレベルではない。
―
ロボゲーが実剣を抜くと、機械工学は先端の部分に光を纏わせる。
ロボゲーが剣を振り下ろすと、機械工学も先端を上から下ろす。
その衝撃で二人は弾かれ、数Mの距離を下がる。
それを数回繰り返した後、ロボゲーが剣を戻しつつ距離を取る。
そして両手を前にかざし、空手の連続突きの要領で無数の光球を放つ。
しかしそれを難なく避ける機械工学。そして機械工学は一瞬止まり、腹の部分からバルカンを放つ。
それはロボゲーに向かって直進し、命中する…かと思われたが、爆発はしない。
ロボゲーは一瞬のうちにその弾薬の全てを肩からのバルカンによって撃ち落としたのだ。
―刹那、今度はロボゲーが距離を詰めた。
右腕に銃を持ち、それをほぼ零距離で連射する。
しかし機械工学はその時に変形をし、それによって生じた隙間へ全ての弾を滑り込ませる。
直後、機械工学は肩のパーツを前に押し出す。それは一瞬のうちに熱を帯び、武器となる。
それをロボゲーに向け振るが、それは当たらない。
ロボゲーは先程の銃の銃身の部分でそれを受け、防御する。
そして右拳に光を溜め、それを放つ。
不意を突かれた機械工学はそれをもろに受け吹っ飛ぶが、それは本人にとってはさしたるダメージではない。
一瞬にして壁を蹴り、もう一度距離を詰め、零距離でバルカンを放つ。
不意を突いたと思った瞬間に不意を突かれたロボゲーはそれをもろに受ける。
が、バルカン程度ではアンドロイドに傷は付かない。アーマーが僅かに凹む程度だ。
そしてもう一度距離をとり、また攻撃を開始する―
―
この間約1秒。
これが亜高速戦闘のスピードなのだ。
それを見ながら、VIPは一言漏らした。
「ぜ 絶対敵に回したくないお」と。
VIPは周りを見回すと、一つの大きなドアが目に入った。
あれが親玉の部屋かお?と思いつつ取っ手に手を掛ける。
その頃、後ろで爆発音がした。
後ろを振り向く。ロボゲーの勝利に終わったようだが、ロボゲーはエネルギーを使い果たしたのか、へなへなと座り込んでしまった。
今なら襲う絶好のチャンス、と思いつつも最後の理性がVIPを引き留める。
ここでロボットを救い出したなら俺の大手柄、貧乳と巨乳が手に入る!と思いつつ、VIPは気を奮う。
けど、これ以上強い奴がいるのかお?だとしたら遠慮しておきたいお…。
VIPは念のため、中の様子を探ろうとして戸に聞き耳を立てる。
そうしたら、何やら喘ぎ声らしきものが聞こえる。
それに気付いたVIPは、無意識のうちにドアを開けていた。
そしてVIPが見た光景は、想像を絶するものだった…!
―――
「あーそこ、もっと力を入れて」
「は、はいロボット様」
「あっいい、あんた結構上手ね」
「あ、あの、ちょっと休憩を…」
「駄目駄目。ロボゲーに胸揉ませてくれるよう説得してあげないよ?」
「ひいいっ、それだけはー」
「じゃ、もっと力入れなさい」
「はい…」
「…何をしてるんだお?」
「あ、VIP」
「で、出おったな!わし自ら息の根を…」
「マッサージ!」
「ひゃい!」
明らかに尻に敷いている。
なんだったんだよ今までの苦労は。
あー兵器報われねーなー、と思いつつ声を掛ける。
「ロボット、早く帰るお!ロボゲーが心配していたお!」
「あ…そうか…。うん、もう行かなきゃね。ハングルさん、マッサージ気持ちよかったよー」
「は、へぇ…」
「じゃ、行こうか。」
しばらく進む。
と、先程まで戦闘をしていたロボゲーが倒れていた。
「あれお姉ちゃん、エネルギーが尽きちゃってる…。
しょうがないや、私のエネルギー分けてあげないと」
と言うと、おもむろにロボゲーの唇に口付けた。
いきなり何をするお?百合道って奴かお?とVIPが混乱していると、すぐに返事が返ってきた。
「私たちは口からエネルギーを得るタイプだからね、無くなった時はこうするのよ」
「そうなのかお…」
「…あれ?」
「あ、起きた?」
「あ、ええ…」
「じゃ、行こうか」
「はい」
…
またしばらく進むと、軍事のおっさんが包帯を巻かれた状態で倒れていた。
その隣には、兵器が眠っていた。
どうしたんだ兵器、日本史を道連れに爆発したんじゃなかったのか。
ってアレか?瞬間移動できるアイテムが実は一往復分だったとか?
まぁいいか、兵器を起こす。
「おい兵器、起きるお」
「…」
「おい、とっとと起きないと田代砲止まらないお」
「!」
一気に目を覚ます。
やっぱり田代砲の経験がある奴はこの言葉には敏感だな、と思いつつ。
あの後どうなったかを説明する。
「なるほど、つまりはレズか。性欲をもてあます」
「何処を聞いていたんだお!」
軍事のおっさんに変わって突っ込みをする。
「…まぁいいか、これからみんなで家に帰るお」
と、VIPの一声でみんな歩き出した。
兵器は軍事を背負っているが、さして苦しそうでもない。さすがは軍人、か。
…ま、たまにはこんなスパイスの効いた日もあってもいいお。
まぁ、たまにだけれど。
毎日こんな事が続いていちゃ身が持たない、死んでしまうお
…と、VIPはそう思いつつ歩みを進めていった。
ああ、後ろの日差しが温いな、とそう思いながら。
2006-05-29T21:10:12+09:00
1148904612
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//管理人ちと忙しいので、編集して頂けるとありがたいです^^
「2ちゃんの板を擬人化して小説書いてみないか?」のまとめサイトです。
初代スレ:
[[http://ex14.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1147518949/>http://ex14.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1147518949/]]
2スレ目:
[[http://ex14.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1147854797/>http://ex14.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1147854797/]]
3スレ目:
[[http://ex14.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1148046796/>http://ex14.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1148046796/]]
4スレ目:
[[http://ex14.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1148072109/>http://ex14.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1148072109/]]
5スレ目:
[[http://ex14.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1148175834/>http://ex14.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1148175834/]]
6スレ目:
[[http://ex14.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1148291110/>http://ex14.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1148291110/]]
7スレ目:
[[http://ex14.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1148470736/>http://ex14.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1148470736/]]
8スレ目:
[[http://ex14.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1148557205/>http://ex14.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1148557205/]]
9スレ目:
[[http://ex14.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1148648363/>http://ex14.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1148648363/]]
10スレ目(現行スレ):
[[http://ex14.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1148738762/>http://ex14.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1148738762/]]
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1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/05/13(土) 20:15:49.31 ID:NKMXD+mp0
名前:VIP(主人公・♂・ツンデレ)
性格:常に楽しさを求めるが故に嫌われ者
友達はシベリアしかいない。弟にVIP天国がいる
職人様降臨しねぇかなぁ
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**お知らせ
★ 訂正などがあれば、ご気軽に編集してください
-編集する際は、ページ上の「このページを編集」というリンクや、ページ下の「編集」というリンクを押してください。
★ うpされた画像全てを取得できなかったので、再うpかこちらのWikiに載せていただけるとありがたいです。
**職人降臨キボン!
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-小説を書いてくださる方
-保守してくださる方
今すぐ現行スレへ一言お願いします!
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1148899358
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2006-05-29T19:40:57+09:00
1148899257
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短編40
https://w.atwiki.jp/vipgijin/pages/65.html
ゲームセンターの音が虫の声を掻き消し、それと同時になんとも言えない涼しさに包まれた
VIPとラウンジはゲームセンターのうるさい音を聞きながらもため息をつく
一緒についてきているクラウンはゲームセンターに入るや否やクレーンキャッチャーの景品を見ている
本当に真夏が続いているような、そんな気がする・・・暑すぎる・・・
今年は最高気温を叩き出しているらしく、夏の太陽も記録更新に必死なようだ
それに付き合わされる人間はいい迷惑なのだが
「うはぁ・・・涼しい」
「やっと開放された感じね」
麦藁帽子を取ったラウンジは髪をきれいに整えているようだ
クラウンはやはりと言うべきなのか、クレーンキャッチャーの景品であるコアラのマーチに釘付けだ
「VIPおにいちゃん!取って取って!」
「はいはい無理無理」
腕をつかんで引っ張るクラウンにVIPはため息をつきながら「普通に売ってるのを買え」と言った
その言葉にクラウンは唸った様な声を出し、わかったとあきらめた様だった
「あれやらね?」
VIPが指差したのはパンチングゲーム、あのパンチ力を測れるゲームだ
クラウンはそれを見て面白そうだと駆け出し先にパンチングゲームの前に行ってしまった
「やらない?」
「まぁ・・・一回だけなら・・・」
あまり乗り気じゃないような感じのラウンジも一応やってくれるらしい
VIPはゲームの前に行くと財布を出してコインを入れる
「んじゃ、俺いっちばーん!」
VIPが殴ると機械が鈍い音を立てて揺れる
一瞬壊れたんじゃないかとラウンジは思ったがそんな簡単に壊れるはずがない
機械に赤い文字で86と書かれていた
「うへ・・・」
落ち込んだような表情を見せるVIPにラウンジとクラウンは不思議そうな顔をする
今まであまりゲームセンターに来た事のない二人に数字がどの程度意味があるのか理解できなかった
ゲームはゲーム、実践とゲームは違うものだ
「じゃあ、次私!」
クラウンは助走をつけて思いっきり殴るが手が最後まで届かずにボスンという音を立てた
さっきVIPがやったときはドンっという音だったのに・・・VIPはやはり力が強いのかと実感する
機械の画面に赤い文字で48と表示され、クラウンは気の抜けた声を出しながら笑ってる
真剣になる必要はないんだろうけど、48は超えたい・・・超えなきゃ・・・
姉としての威厳を保つためにも60くらいは欲しい
「ちょっと帽子持ってて」
クラウンに帽子を渡すとラウンジは助走をつけて走り出す
「うおらぁ!」
機械が少し跳ねた気がした
音自体がおかしい、ボスンでもドンでもなく、ガシャンという何かが壊れた音がした
VIPとクラウンは二人で顔を見合わせ顔を顰める
壊れたのだろうか・・・?と思ったが、機械はまだまだ余裕があるようだ
数字は108と書かれていて、VIPとクラウンは震え上がる
VIPとクラウンの後ろで何か笑い声が聞こえた
「ん?ああ・・・心と宗教か・・・」
VIPは振り返るとため息をつく
心と宗教、神社仏閣に出会って今まで面白いことがあったことがない
前は塩をかけられるし・・・いきなりお払いされるし・・・
VIPは嫌そうな顔をしながら心と宗教を見る
「せっかく意味がありそうな登場したのに」
「そうだよね~」
心と宗教の言葉に神社仏閣が相槌を打ち、二人でなにやら言い合ってる
クラウンは二人を見て何この漫才師という視線で見ている
―――中略―――
「今日は楽しかったね~」
「うん」
神社仏閣と宗教と心は二人で楽しそうに帰っていった
2006-05-29T19:33:30+09:00
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短編39
https://w.atwiki.jp/vipgijin/pages/64.html
「夏と言えば?」
VIPが隣りに座ってアイスを舐めているクラウンに不思議そうな顔で問い掛ける
クラウンは少し唸りながらアイスを咥え、空を見上げて足をブラブラさせる
虫の声が暑さを強調するように響いてくる
「わたあめ、たこやき、やきそば、いかやき、とうもろこし、そうめん」
「全部食べ物かよ」
VIPは苦笑いしながら汗を拭うとふぅっと溜め息をつく
「いや、お前がよかったらそうめんでも食べに行かないか?」
「で、でーと・・・?」
アイスを舐めるのも忘れてクラウンがキョロキョロと周りを見る
アスファルトがゆらゆらと揺れているように見える・・・
「デートじゃねぇけど、昼飯食いに行くから」
いかない?と言いながら椅子から立ち上がったVIPは振り返る
クラウンは溶け始めたアイスを急いで舐めると椅子から立ち上がる
「いくいく!そうめん大好き!」
「自腹だからな」
今はクラウンの財布の中に空気がたくさん詰まっています
2006-05-29T19:32:15+09:00
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短編38
https://w.atwiki.jp/vipgijin/pages/63.html
桜は満開には程遠かったが、5分咲きくらいの桜は確かに僕を
祝福してくれるかのように思えた
むしろ、超名門の私立2ちゃんねる大学に合格できたのだから
桜たちだって僕をを本当に祝ってくれていると違いないと一人合点したい
苦しい受験勉強と一口で片付けてしまえば
それで終わりかもしれないが。やはり戦争と比喩されるだけあって
あの1年間は辛くて悲しいこともたくさんあった,
けれど、1つ腑に落ちないことがある。
試験問題が「VIPとラウンジの対立関係について
詳細を述べよ」と、3年間勉強したことが全く生かされなかったことだ
試験問題を口外したものはコンピューター法務部に逮捕されるという噂が流れ
過去問題が一切不明で全くとして対策を講じることができずにいた
予備校の先生の話では、過去にVIPとローゼンメイデンの関係について
800文字以内で述べよとかいう問題がでたらしいが
みんな冗談ばかりだと思っていた
とにかく、これが、SとかWとかJを受験した生徒でも落ちるという
ゆえんなのかと身をもって知った
これを口外したのなら僕もコンピューター法務部に逮捕されてしまうのだろうか
そういえば、先生もあのあたりから予備校に来なくなったんだっけ…
何はともあれ、試験問題を口外しないのであれば
僕は悠々自適で有意義な大学生活を送れるのだろう
その有意義な生活を送るために、今、どのサークルに
入ろうか悩んでいるんだけど…
何、この人の多さ!お前らそんなに大学デビュー失敗したくないの?
僕の視線に入るのは人、人、人、人で雑多している
ラッシュ時の東横線の縮図といえば大げさかもしれないが
それでも、日曜の原宿くらいで人はあふれかえっている
勧誘する側もされる側も必死、顔を一皮めくれば鬼の形相に違いない
僕は高校時代はブラスバンド部で、フルートをやっていた
そこそこのコンクールで結果を残しているし、2ちゃん大に合格しなかったら
浪人してでも無理やり親に音大に行かされそうだったくらいだ、けれど
フルートのイメージが原因で女々しいとか実は女とか言われ続けた
外見から女の子と間違えられることがあったし
実際に、街でナンパされたことも1回や2回じゃない
子供の頃から女の子みたいだとは言われ続けていたから慣れているのだ
しかし、最後のゲイという噂のおかげで僕の人生は半ば破綻したと言っていい
噂のおかげで親友がゲイだと打ち明けた、しかも僕のことを好きだというのだ
僕は完全なのんけで、やらないか、だなんて言われて本当に困った
意外にも、このカミングアウトは僕の心に深いきずあとを残してくれたみたいで
困った挙句にノイローゼ、加えて拒食症になって人が信じられなくなった
正直な話、トラウマでそれから、ろくに食事もできない状態が3ヶ月続いた
名医のカウンセリングと801先輩のおかげで立ち直れたんだけど…
高校時代は笛を吹かなければ音楽家である親に
殺されることが目に見えていたので
安定剤と801先輩の写真を懐に忍ばせて
何とかブラスバンド部のエースとして頑張ったが
忍耐というのは底が見えているもので、一生はこれを続けることは無理だった
これ以上薬をやるのはやめた方がいいと医者に言われた
大学で別の道を選ぶと親に公言し
現実を忘れることで精神の安定をはかろうとした
とにかく、もう二度と笛は握らないと誓いを立てている
極度のストレスは人間によくない
ということは僕が言わずともメディアが散々主張していることなんだし
こうやって誓いを確認して、拳を突き上げて無意味に空を見上げたとき
誰かに肩を叩かれた。僕は不意の出来事に驚く
飛び上がるかのようにして後ろを振り返るとあの801先輩がいた
「やっぱり、大学生活君だね?覚えてるかな、801だけど…」
忘れることは無いのだけれども…不振な行動を目撃された恥と
801先輩にまた会えたことの嬉しさが同居して不思議な気持ち
今の見てましたかと尋ねるか…もしくは
「801先輩も僕のこと覚えててくれたんですね。嬉しいです」
というか迷いはあったもののとりあえず、口が先走った
「よかった、やっぱり大学生活君だったんだね」
はにかんだ笑顔はパトリオットミサイルなしでテポドンを打ち落とせる
日本の国防にこの笑顔は絶対的に不可欠だろうと僕は悟った
けれど、嬉しさとは反面に、801先輩の勧誘ということは音楽サークル
精神的に不安定な道を選ぶか恋の成就を選ぶのか迷った
「すみません、僕、まだ迷っているんです…」
「そうだよね、そうだよね、たくさんサークルあるし、大学生活君もやりたいこと
あるよね。じっくり選んでよ。君の学生生活なんだから。満足した学生生活
贈れないと損だもんね。」
この包容力は仏を越えているんだろう。きっと。僕は申し訳なさで、801先輩から
目線をそらして、すみません、と軽く返事した
「うん、とりあえず、これだけでも見ておいてよ
気が向いたらここにくればいいから」
僕は一枚の紙受け取った。サークルの案内が書いてあるんだろう。
ブラスバンドか学生交響楽団か室内学か
はたまたメタルバンドなのか…それはないないと
思いながらも僕の天使が遠のいていくのを目の当たりにしながら
僕はサークル棟でたたずむ
お薬とまた一緒に同居生活をするかどうかを悩みつつも
受け取ったサークル案内に目を落とす
「コンピューター法務部であなたも日本の治安を守りませんか?」
悩みが一つ消えて、悩みがまたひとつ増えた
2006-05-29T19:31:30+09:00
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第7章
https://w.atwiki.jp/vipgijin/pages/57.html
ずっと真夏の太陽に照らされ続けていたこの街にもようやく雨が降ってきていた
夏休みで始めての雨、それがコンクリートに叩きつけられて激しい音を立てている
ラウンジはそれを聞きながら宿題をさっさと済ませ様としていた
クラウンの方はラウンジの部屋でごろごろと転がって漫画を読みながらポテトチップスを食べている
―バリバリモグモグ・・・―
「あはははは!」
―ガサガサ―
「ひゃはwおもしろー」
「うっるさい!!」
ポテトチップスを咥えたままクラウンは漫画を片手にラウンジの顔を見た
ラウンジは一直線にクラウンの咥えていたポテトチップスを奪い取ると口にそれを入れる
袋ごとポテトチップスを奪うとその入り口から手を突っ込んで取れるだけのポテチを掴んで口に入れた
「あぁぁー!私のなのに・・・」
「あんたがもしゃもしゃうるさいからでしょ!」
「う・・・」
少し涙を見せたクラウンにラウンジは漫画も取り上げて部屋の外に投げる
階段を転げ落ちていく漫画の音がなんとも言えない空気を放っていた
「・・・う・・・うぅ・・・ばか・・・」
グスグスと泣くのを我慢しながらクラウンはラウンジの部屋から出て行く
そんなクラウンにラウンジはポテトチップスの空を無理矢理渡した
「それ、アンタのゴミでしょ」
「・・・う・・・うぐ・・・ふぇ・・・」
悔しそうな顔と悲しそうな顔を一辺にしたかと思うとクラウンは涙を流し始める
声を出さないように小さな声で何か呟いているように聞こえたがラウンジは無視した
クラウンが泣くのはいつものことだ
暫くすると下の階から大きな鳴き声のような叫び声のような・・・不思議な声が響いてきた
「お兄ちゃぁぁん・・・おねぇちゃんがいぢめるぅうう!!」
・・・またVIPに助けを求めてる・・・ラウンジは溜息をついた
VIPもクラウンにはかなり甘い、甘いというか・・・二人を見ていると本当に仲がよさそうに見える
まさか・・・自分が知らない所で二人は付き合っているとかじゃないだろうか?
急に不安になってシャーペンは全く進まない
「・・・まさか・・ねぇ」
自分に言い聞かせるように言ってみたが、なんとも不思議な気持ちだった
クラウンからの電話にVIPは溜息をつく
どうしていつもいつも自分に電話が掛かってくるのか、それが不思議だ
VIPはそこまでクラウンに世話を焼いたつもりはない、ただ成り行きに任せていただけだ
ぐじゃぐじゃの布団の上に寝転んで携帯を遠くに放り投げながらVIPは目を閉じる
虫の声が良く聞こえている・・・やっぱりのんびりと昼寝くらいしたいものだ
夏休みなのにどうしてこんなに忙しいのか・・・
天井の木目を見ながらVIPはもう一度溜息をついて体を起こした
「顔洗って・・・部屋も片付けないとな・・・」
あまり気が進まないが一応相手は女の子ということなのでそのくらいはしてないと失礼だろうとVIPは考えた
・・・結局考えただけで片付けることは無かったのだが
「ぐす・・・VIPお兄ちゃん・・・」
「・・・お前、ポテチくらいで泣くなよ」
「だって・・・だってぇ!!私のお小遣いで買ったのにぃ・・・」
また涙が溢れ出てきたのか目を両手で擦りながら唇を震わせているクラウンにVIPは頭を掻く
外は少し雨が降っていて、クラウンのサンダルはびしょびしょになっていた
「ちょっとそこで待っとけ、タオルとってくる」
「うん・・・」
ホントに、自分の弟よりも世話が焼ける・・・そう思いつつも構ってあげないわけにはいかないだろう
このまま追い返すなんてのは可愛そう過ぎるし、もし何かあっても・・・助けることができない
とにかく誰もが外で一人きりになる状態は極力避けたほうが良いだろうと考えていた
それがわかっているのかいないのか、クラウンはこうして歩いて来てしまったわけだが
「ほら、足拭けよ」
青色のふわふわとやわらかいタオルを差し出したVIPにクラウンはお礼を言って玄関に座る
その瞬間、玄関の向こう側で何か見えたような気がしたが・・・何もいないようだ
「なんだろうな?虫の声は聞こえる・・・気のせいか」
不思議そうに見上げるクラウンにVIPは苦笑いをする
クラウンの足を今まで見ることなんてなかったが、あんなに食べているのに細い
流石に男の自分と比べるのは失礼かと思ったが、かなり痩せている方に見えた
「ありがとう・・・」
「どうしたしまして」
タオルを受け取るとVIPはクラウンを自分の部屋に行くように言った
静かな部屋に雨の音と自分の走らせるペンの音だけが響いているようだ
時計の音は遠くに聞こえて、机の前にある窓には水滴が沢山ついていた
さっきまで妹のいたソファーには何もない、こんなに静かだと逆に気持ちが悪いくらいだった
こんなことなら・・・追い出すんじゃなかったな・・・
何処からか見られているような気がして、少しだけ寒気がした
テレビでもつけよう、そうしたら少しは気分が紛れるから・・・
椅子から立ち上がりテレビに手を伸ばすと同時に家のチャイムが鳴る
―ピンポーン―
ビクっと震えてラウンジは少し迷ってから手に特殊警棒を持ってゆっくりと階段を降りる
家の中は静かで、いつもの家とは少し雰囲気が違う感じがした
「どなたですか?」
「・・・俺だよ、VIP」
その声は紛れもなくVIPであって、ラウンジはほっと溜息をつくと玄関の鍵をさっさと開けた
びしょぬれのVIPは何処かから急いで走ってきたように見える
「ごめんごめん、ふぅ・・・」
「さっき、クラウンが電話してたみたいだけど・・・」
ラウンジが首をかしげながら言うとVIPはにっこりと微笑みながら
「うん、だから来たんだよ」っといつもと違う、さわやかな声で言ってのけた
いつもと雰囲気が全く違うVIPにラウンジは少し驚くがまた気まぐれなのかと眉間に皺をよせた
「そんなに怖い顔しないでよ、可愛い顔なのに」
「な・・・アンタ、本当にVIPなの?」
ラウンジは特殊警棒を背中で持ち直しながらそのVIPの様な人物に向かっていう
「うん、俺はVIPだよ」
そいつは・・・微笑んだ
「・・・なんだこの感じ・・・?」
VIPは首をかしげながらザワザワと空気が揺れるのを感じていた
体の奥から凍るような感覚が頭の中から爪先まで一気に駆け巡るような感覚
それはいつものアレが出た時と同じ感覚に似ている
「クラウン!」
「あ・・・あぁ・・・あああああああ!!!!」
虫の声が遠くなる、やばい、世界が特殊な空間へ移動するのが手に取るように見えた
周りの音が消え、自分達が完全に隔離された空間に移される
急いで自分の部屋に戻ると頭を押さえたままのクラウンが背中から煙をあげていた・・・
いや、本当にこれは煙なのだ
焼けるような臭い・・・それは人間が焼ける・・・その時に出るような・・・頭の奥を刺激する臭いだ
思わず口を押さえながらクラウンに向かってバットを構える
「はぁ・・・うぅ・・・」
何が起こったんだ?クラウンが急に立ち上がる・・・
犬のような白い尻尾に少し先端が折れたような白い犬のような耳が頭に生えている
両手両足が白い毛皮に覆われているように見えた
「何だ・・・?」
「・・・はぁ・・・はぁ・・・お兄ちゃん・・・?」
クラウンはVIPの姿を見ると急に涙をボロボロと流し始め大声をあげて泣き出した
人間と違う・・・別の生き物・・・これがクラウンの力・・・なのだろうか?
VIPはバットを下ろすとクラウンの頭を撫でた
「今は、化け物を探そう・・・」
そのとき、クラウンの携帯に着信が入る
携帯の画面にはお姉ちゃんと表示されていて、どうやら姉が心配してかけてきたらしい
VIPは携帯を耳元に当てる
「もしもし」
「・・・VIP・・・?え?どうして・・・?あなたがこっちにも・・・」
途中で声が聞こえなくなり、何かが叩きつけられるような鈍い音が聞こえた
受話器の向こうの誰かがこう言ったのが聞こえた
「俺はVIPだよ」
虫の声は聞こえない
VIPは不気味に笑いながら携帯の電源を切りそれを投げ捨てる
ラウンジは肩で息をしながら背の低いベットの下に手を伸す
木の棒のような感触をしっかり確かめるとVIPを挑発するように睨み付けた
「アンタはVIPじゃない」
「俺はVIPだよ」
ケタケタと笑ったかと思うとVIPの腕の皮膚が焼けたかのように黒く変化する
顔は笑っている・・・気持ち悪いほどの笑顔で自分の右腕が黒く焼け爛れるのを見ている
「ヒヒ・・・俺、俺が、俺の、俺、VIPだ」
口から赤い液体が飛び散り目玉が飛び出し空中でブラブラとぶらさがっている
髪が抜け、左腕の肉が腐り床にぼたぼたと落ちる
ラウンジはそれを見て口元を押さえる
いつも一緒に居た人間が、たとえ偽者であったとしても、この姿にされるという事に恐怖を覚えた
「怖くなんかないっ」自分に言い聞かせているのに、震えが止まらない・・・
もしかしたらこれが本物のVIPなのかもしれない、それなら治す方法を探さなければ
いや、電話に出た向こうのVIPは・・・妹の電話を使っていた・・・あいつが偽者?
あいつが偽者ならこのVIPは偽者にこの姿にされたと言う事なのだろうか・・・?
VIPの右腕が振り下ろされ、ラウンジはベットの下から柄の長い大きな木槌を引っ張りだすと飛び込むように腕を避けた
ベットが自分の居た場所を中心にして押し潰されている
VIPがこちらを向く前にラウンジは走りだし階段を転びそうになりながら駆け降りた
本体を倒せばいいんだ、そうしたら全部治る
ラウンジは木槌を強く握り締め玄関を開けると息を切らしながら走り続けた
涙が止まらない
クラウンはもう殺されてしまったんだろうか・・・シベリアは・・・自分しか居ないような気がした
涙で前が霞んで、後ろから追い掛けて来るVIPがすぐそこに居る気がした・・・
VIPの左腕がラウンジを引っ掻こうとしたがラウンジが石に偶然躓いたお陰で掠っただけだ
絶対に助けるから・・・木槌を強く握り締めラウンジは走り続けた
雨の音が一段と強くなったように感じて、VIPは目を擦りながら走り続ける
目も開けれないほどの強い雨、霰のような強さでぶつかる雨が痛い
クラウンはVIPの跡を追いかけるように走っていて、耳や尻尾が雨で重くなっているように見えた
ふと気が付くと目の前にあるのはオカルトの家があった筈の空き地だった
雨が地面に打ち付けられて砂埃のような匂いが当たり一面を覆っている
VIPは息を切らしていることも忘れて辺りを見渡す
全く逆の方向であるはずのここに辿り着くというのは・・・どういうことなんだ?
バットを握り締めながら上を向くと、誰かの足音が大きく聞こえた気がした
「やっと・・・見つけた・・・」
「ラウンジ!?よかった!生きてた」
VIPはそう言いながらラウンジに駆け寄るが、ラウンジはそれを待っていたかのようにニヤリと微笑む
体を回転させるように大きな木槌をVIP目掛けて右から左へと振る
VIPはそれをバットで受け止めようとするが重さの違いなのか、受けきれずに地面に叩きつけられた
「なんで・・・っ」
息が出来ない・・・さっきまで走ってきた所為もあってなのか、地面に叩きつけられた所為で息ができなかった
眩暈と吐き気が襲ってきて、雨の音がどこか遠くに聞こえた
「俺がVIPだ」
ラウンジの肩を叩くようにそいつは言うとVIPを見下ろしてケタケタと笑う
腐った肉の臭いにVIPは吐き気が強まるのを感じる
飛び出した眼球、腐った腕、こげた腕・・・骨が飛び出した足、肉が抉れている腹
まるで自分の死体を見ているかのような錯覚に陥る
「VIP・・・今・・・助けるから・・・」
うわ言のように呟いたラウンジはVIPの頭に向かって木槌を振り下ろした
鈍い音が・・・辺りに響く・・・低い声・・・血が、アスファルトに広がった
「おに・・・いちゃ・・・ん」
クラウンの細い声が聞こえて、VIPは閉じていた目を開いた
目の前にクラウンの顔があって、クラウンの腕が潰れ、アスファルトを血で染める
いつもならすぐ泣く癖に、クラウンは微笑んでいた
「間に合った・・・」
痛いなら、泣けば良いのに・・・苦しいなら、言ってくれれば良いのに・・・
クラウンが自分のつぶれた腕を庇いながらVIPの上から退いて電信柱の横まで這って行くとそこで溜息をついた
血の付いた木槌をもう一度振りかぶるラウンジ、その目に光を感じない
VIPは自分に似たゾンビに殺意を抱きながらラウンジを睨みつける
振り上げた木槌が、ラウンジの力が全て込められた木槌が振り下ろされる
それを見て素早く右に転がりバットを握る手に力を込めた
ラウンジの木槌が地面に辺り、鈍い音が響く・・・地面が揺れたような感覚にVIPは顔を顰めた
こいつは、本物のラウンジなのだろうか?
いや、偽者に違いない・・・このラウンジを殺して、ラウンジを助けないと・・・
VIPはラウンジの顔に向かってバットを左から右へと切るように振り回す
ラウンジはそれを擦れ擦れで避けるが、掠った感覚がVIPの腕に伝わってきた
その瞬間ラウンジの頬の肉が弾け飛び血が雨に混ざってアスファルトの上に落ちる
バットを振り切ったVIPはその場から離れようとするが、ラウンジの木槌がVIPの横腹を殴りつける
鈍い音がした・・・体の奥から響いてくる痛み、それの所為なのかVIPは血を吐き出した
息が苦しい、動くだけで・・・体の奥から・・・体が壊れていくような・・・気がした
頭が上げれない、ラウンジを見ることが出来なかった
息が苦しい、体を動かすだけで激痛が走る
肋骨が折れている・・・そんな考えが頭を過ぎる
「・・・これで・・・終わり・・・」
ラウンジの声がまるで無機質な機械の音声であるかのように聞こえた
ああ・・・これでそうか、終わりなのか・・・
「ラウンジ!」
振り下ろそうとした木槌が鋭い爪に受け流されて地面を殴りつける
顔を逆さにしたような仮面を被り、鋭い爪の生えた何かがラウンジの持っている木槌を蹴り飛ばす
「ドッペルゲンガーか・・・」
シベリアの声にVIPは苦しそうに顔を上げる
「遅くなって悪い、ちょっとテリヤキマックチキンが食べたくて」
この町にはマクドナルドがひとつしか存在しない、シベリアはクラウンとVIPを素早く見る
「まだ死ぬような怪我は無いな」
ゆっくりと顔を上げるラウンジをシベリアが殴りつけラウンジが地面に倒れる
そのラウンジの背後から這い出してきた腐ったゾンビ・・・VIPにそっくりのその姿・・・
だが、VIPが死に掛けているというのもあるのか、腐った姿が少しずつ元に戻りつつある
シベリアは一度深く溜息を付くと両手をゆっくりと構える
「久しぶりの出番だし、VIPもラウンジもクラウンも居ないなら俺が止めを刺せるんだよな」
地面を蹴るシベリアにそのVIPはニヤリと笑いながらVIPの落としたバットを握りシベリアに振り下ろす
それを左の手で塞ぎ、右の手で腐った体を切り裂いた
どす黒い血が噴出し、ボロボロの綿のような内臓が地面にぼたぼた落ちる
上半身が地面に叩きつけられているのにも関わらず、内臓を乗せたままの脚はシベリアに蹴りを入れた
上半身の方は飛び出した内蔵を引き摺りながら腕を使ってシベリアに物凄い形相の顔で走ってくる
飛び退くと同時にVIPの頭を引き裂く、半分だけ残った頭から脳みそが零れ出す
「こうなると本物の化け物だな・・・」
弱点はどこなんだ?蹴りを受け止め、振り下ろそうとする腕を掴んで地面に頭から叩きつけた
顔面がつぶれ、足が間接から下がなくなっているというのにまだ暴れ続けている
殺すことは不可能なんじゃないのか・・・?シベリアは構えなおす
「・・・左目・・・」
「え?」
シベリアはラウンジの方を見て気の抜けたような返事を返す
向かってくる奴に左目は付いて・・・いる・・・
シベリアは目を閉じてふぅっと息をするともう一度両手を構え、左目に狙いを定める
間接が無くなった内臓を乗せたままの足を爪で真っ二つに切り裂くと飛び掛ってきた上半身が現れる
切り裂いた勢いのまま右の手の爪で左目を一気に貫いた
貫くと同時に勢いよく飛び掛ってきた体は首が取れ、グシャグシャになった体がシベリアにぶつかった
完全に動きを止めた体と足がビクビクと痙攣しながら闇に溶けるように消え、爪に刺さっていた顔も消える
空間が急に縮むような間隔と、急に戻ってきた虫の音が煩く聞こえた
ジンジンと、雨のあがったアスファルトを虫の声だけが響いていた
「やっぱり、生き残ったわね」
医歯薬看護の言葉に骨折の治療がほとんど終わったVIPは苦笑いをする
まるで今回は諦めたみたいな言い方にクラウンはふぅっと溜息を付く
「ごめんなさい・・・」
ラウンジが呟くのが聞こえて、VIPはぐっと背を伸ばした
「ごめんなさい・・・じゃねーよ」
声の真似をしながらVIPは口を尖らせて意地悪そうにいうと立ち上がる
医歯薬看護に修正してもらった傷を擦りながらVIPはラウンジの前に立った
VIPの姿にラウンジは悲しそうに顔を伏せる
「えーっと・・・まぁ・・・あれだ、あんま気にすんな」
「・・・優しいんだ」
「や、やさしくねーよ!ラウンコ!ばーかばーくぁwせdrftgyふじこlp;」
真っ赤になって反論するVIPにラウンジは少しだけ嬉しそうに微笑む
「ありがと・・・」
「う・・・」
こういうの苦手なんだよな・・・っと呟くVIPにクラウンはクスクスと笑う
医歯薬看護が修正人じゃなかったら顔の傷直せなかっただろうし・・・
VIPは窓の外に目をやる、またいつもの様に虫の声が響いていた
2006-05-29T19:28:40+09:00
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