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短編27


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オカルトの家に神社・仏閣が訪れたのは、昼過ぎであった。

暑さと満腹感で、眠気に苛まれた頃である。
ブー、ブーと古い家屋にありがちなブザー音が鳴った。
「オカルトー、居るかオカルトー」
「ぁー…誰だ?」
普段、人が訪れないオカルトにすれば突然の訪問者だ。
「俺だ、神社・仏閣…同級生の」
もし、新聞の勧誘だったら、寝ていたであろうか。
オカルトは面倒臭そうに大きく伸びと欠伸をすると、
「あー…あぁ、神社・仏閣か、今行く」
と言い、眠い目を擦りながら玄関へと向かった。

オカルトがドアを開けると、神社・仏閣が背筋を伸ばし立っていた。
ジーンズにTシャツというシンプルな出立ちである。
それが、オカルトを一目見て眉を顰めた。
「何だ、その格好は」
言われたオカルトも顔を顰める。
「あ? 何か文句あるか?」
オカルトは単パンに、ランニングの下着、肩には手拭まで掛けている。
色もどこか黄ばみ、とても清潔な出立ちとは言えない格好であった。

「文句…いや、取りあえず今大丈夫か?」
「今? あぁ…大丈夫だ、上がるか?」
神社・仏閣は仕方なく話を進める。
それにオカルトが無精髭を擦りながら答えた。
「…お邪魔させて貰うよ」
神社・仏閣も髭の無い顎を擦ると、渋い顔でオカルトの家に入るのだった。

オカルトは古い一軒家に住んでいるのだが、元々まめな質ではない。
故に、廊下には所々オカルト関係の本が無造作に詰まれ、
家全体で、どこか埃っぽくしけた臭いが漂っていた。
オカルトは、2階の書斎に神社・仏閣を通すと、
床に無造作に散らばった書類を避け、奥の机の前に、ドカ、と音を立てて座った。
「まぁ適当に座れ」
「…せめて座る場所ぐらい作ってくれ」
神社・仏閣は顔を顰めたままである。
「…あぁ…」
やはり面倒臭そうに、オカルトが背を伸ばすと神社・仏閣の足下辺りの書類を纏めた。
纏めたと言っても、端に重ねただけの簡単なものだ。
それを見た神社・仏閣は溜め息を吐くと、渋々とその場所に座るのだった。
「…はぁ…で、用があるから来たわけなんだが…」
神社・仏閣が語り始めた。

神社・仏閣が語り始めた話はこうである。

神社・仏閣家の仏閣区画で起きた事である。
「お前ん家は事実上の神宮寺だからなw」
オカルトが口を挟むが、神社・仏閣はそれに慣れた様に無視し、話を先に進める。

その寺には(名を二茶寺という)、暫く前に新しい坊主が来た。
名を新シャアと言う。
そして、その坊主は12、3の美しい少年を連れていた。
だが、原因は分からないが、その少年は、寺に来て一ヶ月程で亡くなったのだという。
坊主の嘆きは一通りではなく、3日3晩泣き続けていた。
その間、少年の側を離れず、葬式すら開けない。
そして、漸く泣きやんだと思えば、その冷たくなった少年を毎日抱いたり、擦ったりしていた。
だが、ある日を境にそれをしなくなった。
―――と言うより、少年を見なくなった」
と神社・仏閣は締めくくる。
「食らったのか!?」
話を聞いたオカルトは、俄かには信じられない話に驚き、声を上げる。
「…多分」
「―――」
苦しそうに、言葉を喉の奥から捻りだした神社・仏閣に、
オカルトはかける言葉を見付けられずにいた。
扇風機がカラカラと回る音が、やけに無機質に聞こえる。

口をパクパクさせたり、あらかた驚いた風をすると、オカルトが口を開いた。
「通報しますた」
だが、笑いながら言うオカルトに対し、神社・仏閣に笑みは無い。
それどころか、普通ならふつふつと湧く筈の汗も無く、話し終わり微かに青ざめてさえいる。
オカルトとは対照的だった。

「…分かった…マジなんだな?」
「あぁ」
気まずそうに言うオカルトに、神社・仏閣が頷き、返す。
「仕方ないな…ったく、行くか」
オカルトは重い腰を上げ、癖なのか顎を擦る。
「来てくれるのか?」
オカルトのその言葉を聞くと、途端に顔を明るくし、神社・仏閣は中腰で立った。
「来て欲しいから、わざわざ家まで来たんだろ?」
「まぁな…」
神社・仏閣が苦笑いをした。だが、どこか嬉しそうな笑みだった。
「じゃあ行くか!」
とオカルトが、カラカラと笑いながら言うと、
「行こう」
「行こう」
そういう事になった。

オカルトと神社・仏閣が家から出るころには風が幾分か涼しくなっている気がした。
だが、依然として眩しく、全身に日が照り付けていた。

神社・仏閣の家はオカルトの住んでいる町からは2駅程離れている。
オカルトの住んでいる場所ですら田舎と言える場所であるから、
神社・仏閣の家は、更に田舎という事になる。
2人は駅へと向かい、電車に揺られる事となった。
「お前の家は、そこそこ金あるんだから車ぐらい買え」
とオカルトはぼやくが、神社・仏閣は、
「運転席に乗ると性格が変わって」
と言い、照れ笑いをするのだった。
しかし、それにしても、昼下がりに25、6の、大の大人が2人連れ立って歩くのも些か可笑しい。
片や細面のスッキリとした男、もう一方は、着替えたとは言え、ずぼらそうな出立ちの男である。
そして、漸く神社・仏閣の住んでいる町の駅に着いた頃には、
暖かさが、日中に照った分だけになり、日は雲の合間へと隠れていた。
「ここから、15分程歩くからな」
神社・仏閣が、オカルトに見やりながら言う。
「出迎えも無しか」
「まぁそう言うな」
やはり、苦笑いしながら神社・仏閣は、視線をオカルトからずらし、
駅前の道の先にある小高い丘へと向けた。

「あそこまでだ、覚悟しろよ」
言う神社・仏閣の唇の端は持ち上がり、オカルトの家に来た時よりは、
幾分か元気がある様に、オカルトには思えた。
それに少しほっとしたオカルトだったが、小高い丘をもう一度見て溜め息を吐かずには居られなかった。

「…大学以来だな」
「どうした急に」
駅から歩きだして数分。
辺りを見回す事もなく、だるそうに歩いているオカルトに神社・仏閣が話し掛けた。
「いや、時々遊びに行ったぐらいでさ、すんなり面倒臭い話に首突っ込んで良いのか?」
「俺には善くある事だから」
オカルトは無表情で答えた。
それが、オカルトにはごく当たり前な事であるかの様にである。
「…大学内で起きた心霊関係の話は全部オカルトの所に行ってたしな」
大学時代、アニメの探偵の周りで事件が連続する様に、
オカルトの周囲の学生の間では心霊現象が善く起こっていた。
それを、解決していたのが主にオカルトで、
神社・仏閣はその補佐兼、付添人であった。
「それに、神仏には恩があるからな」
物思いに更ける神社・仏閣を余所に、オカルトは悪戯っぽく笑った。
「恩?」
「あぁ、フキノトウに筍、美味かったぞw」
ふいの、質問に神社・仏閣は首を捻るが、直ぐに、
「あぁ」
とだけ呟くと、
「見えて来た」
と加え、長い階段の前で立ち止まった。

漸くオカルトが最後の石段を上り終えた時には、日は完全に雲に隠れ、
遠くでは稲光のする黒い雲がこちらの空にも手を伸ばしていた。
「今日は振るかな…」
「振るかな…じゃないよ…」
はぁ、はぁと肩で息をしているオカルトの前で、神社・仏閣は空を見ていた。
「さ、早く神社の方に行くぞ、降られたら困るしな」
神社・仏閣の自宅は神社併設されている。
寺は、神社・仏閣にすると離れの様なものだ。
慣れているのか、スタスタと歩いて行く神社・仏閣を、オカルトは恨めしそうに見ていた。
「こんなに沢山階段があるなら先に言え! 俺は絶対に来なかった」
と叫ぶオカルトを余所に、神社・仏閣は肩で笑いながら、
神社の隣りの建物に入って行った。
それを、
「ま、待てよ」
と情けない声を出してオカルトが追うのであった。

「それで、今晩寺に泊ろうと思ってる」
「何だって?」
驚いたのはオカルトである。
もはや夜であった。
小高い丘の上にある屋敷の縁側で、オカルトと神社・仏閣はビールを片手に話をしていた。
もし昼間ならば、縁側からは田舎の町並みが一望出来たであろう景色も、
夜の闇と、先ほどから降り始めた雨に隠れている。
時折鳴り響く雷鳴も手伝い、異様な雰囲気が、小高い丘の上にはあった。
「もう一度言おうか?」
と神社・仏閣が、先には町並みがあるであろう闇を見つめながら言う。
「違う、俺は何故夜に行き、しかも泊るのかが聞きたいんだ」
オカルトは神社・仏閣の横顔を見ている。
「…少年を見なくなってから、お前の家に行く間にも色々あったんだ」
とオカルトを見やりながら言った神社・仏閣の目に、不思議と光が感じられなかった。
「…話してみろ」
稲光の後の雷鳴を待つと、神社・仏閣は静かに話始めた。


「…オカルトが言わなくても、新シャアが少年を食ったような気はしていたんだ」
今は2人とも向き合って話をしている。
オカルトは胡座をかき、神社・仏閣は着物に着替え、座布団の上に正座してである。
「少年が亡くなったのが3日前なんだが…」
神社・仏閣が話に詰まる。
「どうした?」
「やはり推定の話になるんだが」
「食った証拠も無いしな…取りあえず話してみろ」
やはり浮かない顔の神社・仏閣に、オカルトが促すと、再び口を開くのだった。
「…3日前にな、動物の血の様な赤い痕が寺の裏辺りで見つかったんだ」
発見したのは、時々手伝いをしている老人であった。

老人はその日、無限に溢れ出る落ち葉を掃除していた。
早朝のひんやりとした空気が肺に染み込み心地良い。
老人がゆっくりと深呼吸したのも頷ける。
「………むう?」
だが、老人の吸った空気には、普段嗅ぐ事の少ない臭いが混じっていた。

「そうして臭いのする方へと近付いて行ったら…」
「血の痕か…」
雨粒が大きいのか、水の弾ける音が五月蠅く感じられた。

オカルトがビールを一気に飲み干し、側にあった瓶から注ぎ足した。
「それが3日前か…」
オカルトは珍しく神妙な面持ちである。
「あぁ…」
溜め息を吐くような、弱々しい声で神社・仏閣は頷いた。
「続きを頼む」

2日前であるから、一昨日の事だ。
「今度は俺の体験だ、その日の夕暮れの頃だった」
―――神社・仏閣は、丘の上から獣道を少し下った見晴らしの良い開けた場所にいた。
朱に染まった田舎の風景が一望出来る。
それを眺める事が神社・仏閣の楽しみの一つであった。
そうしてその日も、宵迄の時間を過ごしていた。
少年の事も坊主の事も忘れて居られる時間である。
だが、その時間を破る音が、まだ少し涼しい風に乗り、何処からとも無く聞こえて来た。
ぞぶり、ぞぶり、
と血肉を貪る音。
ばき、ばき、
と骨を噛み潰す音である。
坊主が少年を食った時にも発せられたであろう音だった。
そして、それを追う様に、生臭い臭気が神社・仏閣の鼻をつくのであった。

身の毛も弥立つ、とでも言うのだろうか。
徐々に濃度を増す臭気の中、神社・仏閣は思った。
背中を舐められた様な感覚だった。
しかしそれと同時に神社・仏閣には、些かの好奇心があった。
人が消えても通報しない様な、神社・仏閣の特異な生活環境のせいだろうか―――
そうしている内にも、音は神社・仏閣の耳に響き、
臭いは、気体自体が味を持つかの様に濃くなっていく。
ごくり、と音を立て、神社・仏閣は唾を飲み込んだ。
そして、
「行くか?」
と自分に聞くと、耳を澄まし、音のする方に足を向けた。
どうやら神社・仏閣のいる場所から少し下りた、墓場区画辺りから音がしているらしい。

音と臭気の発生源へと、神社・仏閣はゆっくりと歩き出した。

墓場まで突っ切っても構わなかったが、草の擦れる音で、こちらに気付かれても困る。
それが例え気に触れた坊主だとしても、野生の動物だとしてでもだ。
神社・仏閣は静かに歩き慣れた獣道を上ると、墓場へと続く階段を下りた。
古い石段だったが、所々生えた苔で音は少ない。
そして、墓場の端に着いた。
墓場全体に異様な臭いが立ち込め、まだ、ごり、ごりという音が響いている。
傾斜している墓場の上の方からだった。
神社・仏閣は身を屈め音の主へと近付いて行った。
そうして、漸く近付くと、適当な墓石に身を寄せた。
臭いと音は、いよいよ醜悪になり、辺りの空気を尋常ならざるものへと変えている。
だが、ここで逃げ出す程、神社・仏閣は一般的な性格では無い。
意を決して、顔を半分程だし、覗きこんだ。

果たして、そこにいたのは坊主であった。

口の周りを血で赤く染めた坊主であった。
薄暗い中でも分かる程に、その口に付いた血がてらてらとしている。
それが、ぐちゃ、ぐちゃと音を立て何かの肉を貪っていたのだった。
今となっては、元の動物が何であるか分からない程にである。
頭を潰され、先に内臓を食われたのか、腹に暗い穴が開いていた。
坊主の顔はもはや鬼の様ですらあった。

神社・仏閣は、その、とても現代の出来事とは思えない光景に息を呑んだ。

「その後、ボロきれの様になった肉塊を持って坊主は木々の中に消えて行った…」
一気に語った神社・仏閣は喉が渇いたのか、残っていたビールを飲み干した。
温くなり、泡もないビールであった。
「気が狂ったか…」
「…俺も善く声を出さなかったと思うよ」
苦笑いする神社・仏閣の頬は引きつっていた。
オカルトは顎の無精髭を擦りながら床を見つめ、神妙な面持ちで何か考え込んでいた。
雨音と雷鳴が鳴り響いている。
「…冷えて来たし居間で話さないか?」
神社・仏閣が何も言わないオカルトに声をかけた。
弱々しい声であった。
「あぁ、そうだな」
オカルトもそれを悟ると、静かに立上がり、居間へと移動した。
縁側の隣りが直ぐ居間であるから、少し動いただけである。
そうして、2人が中に入ると、縁側に面する障子を閉じた。
若干ではあるが、外の音は静かになった気がする。
「最後になるが昨日の事を話す」
ビールで喉を湿らすと、神社・仏閣は口を開いた。
「…昨日は、3日前に血の痕を見つけた老人が襲われた」
「なに!?」
オカルトは驚き声を出した。
だが、神社・仏閣はその声を無視し話す。
「これも朝方の話何だが―――」

オカルトが神社・仏閣の家を訪れる1日前の事であった。
老人はこの日も朝方に境内を掃除していた。
流石に神社・仏閣は止めたが、老人はそれを聞き入れなかったのである。
妙な反骨精神が老人にはあった。
だが、やはり不気味ではある。
老人は、張り詰めた空気の中で掃除を始めた。
神社、次に寺の順だ。
そして、いよいよ神社の方が終わり、寺の裏を掃除し始めた時だった。

ぎし、
寺の裏側にある縁側が軋んだ。
老人は唐突に鳴った音に、びくり、と身体を強張らせた。
いつも鳴らない筈の音である。
その上、事件の後間もない。
ぎし、ぎし、
再び音が響いた。
骨を軋ませた様な音、それが、老人に近付いてくる。
「―――」
老人は声にならない悲鳴を上げた。
じりじりと近付く、神社・仏閣が鬼と形容した坊主。
それと共に老人に纏わりつく様な腐敗臭。
そのどちらもが老人を戸惑わせていた。
「くっ…」
老人は苦痛の声を漏らす。
だが、それと同時に老人は坊主に腹が立って来た。
老人にしてみれば、坊主が人を食ったとは、とても信じられた話ではない。
「ならば…」
と呟くと、老人は腰に力を入れ、踏ん張り、振り返った。
それと同時であった。
ぎじっ、
一際大きく軋む音が、朝の境内に響いた。

息を呑む光景であった。
坊主が縁側にある柵を越え、宙を舞ったのである。
縁側の高さは1m程だが、60そこらの坊主が易々と跳ぶ高さではない。
そして、
とっ、
軽やかな音を立て、冷たい地面に坊主が舞い降りた。
「しゅー、しゅー」
歯を食いしばり、その間から息をする、凄まじい形相の坊主が、老人の前にはいた。

「老人は坊主と目が合う前に、悲鳴を上げながら俺の家に逃げて来た」
「…そうか」
「その時見た坊主の顔は、鬼の形相どころじゃなく、本当の鬼だったらしい」
「…人と生まれて鬼となる、か…浅ましいな」
全てを話した神社・仏閣は、解放感から息を吐き、伸びをした。
「その後は一日中家に籠ってたし、話はこれで終いだ」
天井を見やりながら神社・仏閣は言った。
「…しかし、ここまでの事があって、善く行く気になるな」
半ば感心し、残りは呆れた顔でオカルトは笑いながら呟く。
「まぁそう言うな」
今は神社・仏閣は、視線をオカルトに戻している。
そしてしばしの沈黙が流れた。

「で、行くのか」
先に口を開いたのは神社・仏閣である。
「むぅ…」
オカルトは余り乗り気ではない。
「行くのか、行かないのか言ってくれ」
(もしここで、自分が行かなくても、神社・仏閣は行くだろう。)
とオカルトが考えた。
(そこで、もし神社・仏閣が食われでもしたら?)
(遊びに来る時の手土産がなくなる)
「…山菜の為に行ってやる」
「では行くか?」
「行こう」
「行こう」
そういう事になった。

外は雷鳴が轟き、雨が地面を垂直に叩き付けていた。
その中を、オカルトと神社・仏閣が寺へと歩いている。
レトロ過ぎる、紙と竹で出来た、所謂和傘をさしてであった。
そして、和傘とは反対の手に瓶を持っている。

しかし、それにしても不気味であった。
オカルトと神社・仏閣は寺の前に立つと、いよいよ濃さを増す、気の様なものに唯々圧倒されるしかなかった。
それは、瘴気と言っても過言ではない気が、寺の、板の隙間から漏れ出ている様であった。
「夜分すみません、新シャアさん起きていますか?」
と、神社・仏閣が寺に呼び掛けた。
だが、
「…反応が無いな」
オカルトはぼやいた。
「新シャアさん、すみません!」
神社・仏閣は先程より声を荒げて呼ぶしかなかった。
しかして、幾度か呼ぶと、寺の中から何かが動く気配がし、痩せた60代の坊主が出て来た。
「何の用ですか」
開口一番で、無愛想にそう呟いた坊主の顔は、何かを堪えている様であった。
「実は母屋の方が雨漏りになりまして…」
神社・仏閣は冷静に、坊主へと宿泊の旨を伝えた。

「…家全体が、ですかな?」
坊主は訝し気に聞き返す。
「いえ、違います」
「ならば…」
と坊主が扉を閉めようとした時に神社・仏閣が、
「ですが」
坊主の手を止めた。
「ですが、そのまま家に居て、雨漏りを気にするなら…」
そう言い加えると、持っていた瓶を軽く揺すった。
「肴もあります、雨漏りの事など忘れる為に飲みませんか?」
その問いに、坊主はしばし考えていた。
「分かりました」
そして、答えが出ると、オカルトと神社・仏閣を寺の中へと案内した。
オカルトの口の端が、軽く持ち上がった。

中に入ると、そこはさながらお化け屋敷の様であった。
流石に電球はあるものの、必要最低限の明かりしかなく、
光が足下に届く前に、闇がその光を飲み込んでいた。
「ではここで…」
坊主は10畳程の部屋へと案内すると、入口からして奥の方へ正座した。
「では、私はここに」
神社・仏閣は、オカルト以外の人前では丁寧になる。
言うと、やはり正座をした。
「じゃ、俺はここにでも…」
漸く口を開いたオカルトは、
どか、
と音を立てて胡座をかいた。