エムブリオマシン長考

(2008年夏 脱稿)

「エムブリオマシン」長考
 
・前書
私は、何度も「一般的な」モノを書こうとした。というか、それを目指して書いたし、ルールブック評価も相対的に比べて、「ここがいい」「ここがわるい」というランクを付けていた。多分、それらを「理解する」ことができなくて「分かる」(分ける)ことに重点を置いていったといっていい。結果として非常に、分かりにくいというか、嘘くさいというか、どうとでも取れるというか、あきらかに「それ主観だろう」なのが入っているのを認めずに書いてきた気がする。
しかし、もしかしたら、こうやって1つのシステムについて語っていけば、そんな気はしなくなるんじゃなかろうか。そんな気がした。
 と言うわけで、製作者をして「当初はTRPGにする予定は無かった」と言わしめるほどの変り種システムである「エムブリオマシン」について考えて見ます。
 
 
1.そのシステムについて。
とりあえず昔の自分の原稿風に行きましょう。
五段階評価、5が最高です。
 
総合評価:4(…TRPGかこれ?)
外見:4(表紙がさっぱりしているようでいて、そうでもない。)
システム:4(戦闘80%以上という割合は好みが分かれる。)
自由度:3(ロボバトル前提ですから。舞台中世ですから。)
初心者向け度:3(「戦術」の参考にはなるだろう。)
玄人向け度:5(「戦闘の奥深さ」満載)
準備費用;3(ルールブック3000円程度。10面体×2使用。)
 
 まあしきりに「戦闘万歳」みたいなことを言ってて、「なんのこっちゃ」という感じだと思うでしょうが。キャラ紙を見れば分かるんですね。
 
想像してください。
キャラ紙はB5です。
三分の二が自分の機体のデータです。
一番左上に書くのは「機体名」です。
キャラ紙を三等分したら
キャラの名前は一番下の部分です。
本質なんて知らなくても、こういった所から製作陣の意図を感じます。
「キャラ名?あんなものは飾りです!偉い人にはそれがわからんのです!」
とでも言っているような。
 
この戦闘システム、結構面白くて。
2セグメントで1ターンとなっているのですが、ターンの最初にそのターンに行なう行動(1セグメントに1回行動するため、2回分の行動)をあらかじめ紙に書いて、そこに書き込んであるようにしか行動できないわけです。
 
しかも、「味方と相談不能」。
これによって、PL個人による「読み合い」が生まれます。まるで旧ソードワールドの「行動宣言」のように!例えば、相手の射撃が怖いから壁の後ろに行こう、とか。森に隠れよう、とか。あるいは逆に近づいて白兵か、とか。各射撃武器には最適距離があり、そこから相手が離れている度に攻撃が当たりにくくなるため、「思い切って近づく」のもありな訳です。他にも色々「移動している相手には当たりにくい」とか「部位装甲値」云々とか色々ありますが、それは置いといて。 
 この方法により、戦闘中のみとはいえ、「PL一人一人が考え、行動を起こす」ということを促しています。従来の戦闘では、自分の行動を決めるにも『一択』しかなかったり、ある行動以外を認めない『軍師』が存在していたり。様々な要因によって、こういった機会がないこともしばしばありました。
 しかし、このシステムではそれはありません。自分の思ったとおりに動かせるのです!最も、思ったとおりの展開になるかどうかは未知数ですが。
 
さらに、というかここが一番の売りなんですが、「キャラ作時に、自分で機体を作ることが出来ます」。これは、昔カスタムロボにはまりこんだ(購入経験無し)俺にとってはなんとも嬉しい仕様。あ、当然戦闘に凝られてるだけあってボスを瞬殺出来るようなアラは無い感じです。予測をミスると折角の良い武装も真価を発揮しないわけですね。「使いやすい」高級武装もありますけど。
 
 そして、相手の機体を倒したアカツキには!
 相手の機体からランダムで武装を奪うことが出来ます!!
 
 まぁ、めちゃくちゃ端折るとこんな感じでしょうか。珍しく、グループSNEのホームページ内のエムブリオマシンのコーナーで、エムブリオの戦闘ルールだけを使用した「社内トーナメント大会」なんて公開されているので、見てみても良いでしょう。気合を入れて読めば、ルールが見えてくると思います・・・?とりあえず戦闘ルールは面白かったということだけはっきりさせておきます。
 あと、個人的に言わせてもらえば判定そのものは単純だった気がしなくも無いです。読み合いによる疲労がなければ非常にプレイしやすいのではないでしょうか。
 
 
では三分の一。
ソードワールドばりの生まれ表があなたを待っています。「父親の出自」「母親の出自」まで決まるんですが、これによって「能力値」がほぼ決まります。
能力値は、ソルジャー・スカウト・コマンダー・メカニック・アカデミック・メディック・カウンセラーの六つです。
「崋山さん、それ技能(スキル)
能力値なんかじゃない!」
「図ったな孔明!」
 いやぁ、肉体と技能との「ミスマッチ組み合わせ」(SWの「エルフ+ファイター」)とか存在しない分、分かりやすくてよいといえばよいのですが、「ソルジャーA」「整備士Mk-Ⅱ」みたいな雰囲気になりやすく、データを見ただけでは個性が出にくいのが特徴です。例えるならば、ヘルメットを外すシーンでも顔が見えないうちにシーンが切れて、結局誰だったんだろう、まあいいや誰でも、みたいな(←戦闘機ゲームのやりすぎ)
 
あと、傭兵所属だからこんな軍人ラインナップなんですねーとか思ってたんですが、イチオウ突っ込みを入れてみます。
「なんで、
傭兵なのに商談が出来ないんだ!」

「坊やだからさ・・・。」

 見事に変な返事が返ってきましたが、事実です。まあ黙って任務やれってことですかねぇ。…強いてやるならアカデミックで法律を持ち出すとか何とか言ったり、ソルジャーで脅したり、コマンダー…あたりでGMにねだってみましょう。
 
 ついでに、人間のHP・MPは「微傷」「軽傷」「重傷」「瀕死」の四つのチェック欄があり、「一段階負傷」によって前から順にチェックを付けていき、重傷・瀕死ではファンブル率上昇、瀕死の状態で更に一段階負傷すると死亡、もしくは精神崩壊です。
 つまり六つの能力値と、数少ない(10個無いぐらいかな)一般アイテムを元に人間形態を過ごそうというルールとなっているわけです。
 
 で、エムブリオの戦闘ルールだけを使用した「社内トーナメント大会」 なんて開かれてるわけですから、PCの能力は、ロボに反映されにくいです。メディックとカウンセラー以外は、能力値が3の倍数になったときに1つ、到達した能力値に即した技能一覧のなかから戦闘技能(『武器改造』:『高速反応』、など。どちらかというと「特殊能力」ですね)を1つ覚えられます。「それだけです」。
 

2.で、なんだよ。
まとめると、
「マシン同士の戦闘は読み合いが楽しく、処理も比較的簡単であるが、それ以外が(以下略)」
つまり、キャラ紙の三分の一しか使わない部分がつまらない。
 
しかもここで大爆笑なのが、
「じゃあそれ以外はフィーリングで」
とかやると、とんでもないことが起こります。伏線は既に俺は書いていますよ?
 
さあなんでしょう?
 
 
 
正解:以下に引用します。
 
>メディックとカウンセラー以外は、能力値が3の倍数になったときに1つ、到達した能力値に即した技能一覧のなかから戦闘技能を1つ覚えられます。
 
…わかりましたか?
「メディックとカウンセラー以外」は(条件を満たせば)「戦闘技能を覚えられる」、つまるところメディックとカウンセラー以外は戦闘技能という、ロボバトル上で優位に立てるものをもてるわけです。逆に言えば、メディックとカウンセラーはもてない。つまり、

メディックとカウンセラーは

ロボバトルでは不要!

で、じゃあこいつらなんなんだ。ルールブックを見直せば書いてあります。
メディックは医者、カウンセラーは精神科医。回復系です。

 当然、最も重要であり破損しやすいロボットの修理はメカニックです。
 そして最終戦闘の後にふつう回復役は要りませんね。
「ガチ読み合いのロボゲーを二回やれってことかい?」と思った方、あたりです。しかしこのロボット、なんと遺跡から発掘されているのをそのまま使っている(作る技術が現存して無い)せいか、

 機体修理や戦闘モード起動には共にコストがかかる。

 しかも起動コストは「カルディア鉱石」という奴で、戦闘の報酬でも一人3個もらえるぐらい。

 そして、そのカルディア鉱石と交換で初めて新しい武装が買える。

 そして機体性能≦読み合いなので戦闘は雑魚相手でも時間を食う。

 つまり、「基本的にPC,GM共に二回以上は戦闘したがらない」のです。
 
3.じゃ、どうするよ?

 別に一回目の戦闘終了後に「ボーナス報酬」をあげて、またはパーツが破損したままで二回戦目に入るとかの方法をとって、ロボバトルを二回やってもいいんです。
が、通常の武器で通常にロボバトルすると普通に体に怪我を負いません。まあロボットが壊れでもしなきゃ負傷しないし、ロボット壊れたら敗北だし。
今回は「いかにメディック、カウンセラーを拾ってあげるか」を主眼に置きます。
  まず、「最初から最後までロボに乗りっぱなし(戦闘しっぱなし)」はNG。いや、メディック・カウンセラーメインのキャラがいないなら別に成り立つんですけどね。
 その上で、「ロボットメインのゲームなのに人間が判定する」ことが中盤に求められます。
 
メディック。
・中盤に「白兵戦」を展開する。
 ソルジャーのPCは「マスケット銃」(文明的には最先端です)を使えますし、剣を使う人も多いからスカウトは「不意打ち」とか言えそうだし、双眼鏡もいい感じ。コマンダー・メカニック・アカデミックは…メカニックが何か怪しい工作(相手の機体を壊すとか)は出来るかも知れないですがちょいと厳しいところですね…。ま、彼らは白兵戦を展開するまでに支援要請とか工作目標とする敵機体を判断(あの機体は高級な武装を積んでいる、といった分析はアカデミックの仕事)するのに役立つはずですね。
 で、二回食らうと重傷ですから。ファンブル値を下げるためにもメディック、となるわけですね。

・VIP護衛の旅
どんなに注意してても撃たれるんですよ。わがままなお偉いさんは。之があれば瀕死までならなんとかならないコトモナイですね。デギンもギレンもキシリアも撃たれてた気がするなぁ。
護衛じゃなくても、重要NPCって結構いますよね。親とか。
  「アジトを探せ」系のシナリオでも使えそうな感じです。
 
        自衛隊ごっこ
占領下の治安悪い町に行って、治安維持に努める傍ら、医者をやる。うーんなんともフレーバー。嫌いじゃないけど、単なるフレーバー狙いなら戦闘強化系特技と並べないで欲しいんだよね。人望が上がるとキャンペーン的には名声が上がって良い感じだろうケド・・・。
 人の民家である2×2マスを遮蔽として利用したり、うえに乗った場合にけが人が出て、その数だけ報酬が減る。しかし自前で治療した場合はそれに当たらない。なんてのも出来るけど、之はこれで逆に人=金っぽくて微妙。
 
・原点回帰
 「伝説の機体を求めて遺跡に飛び込む傭兵団!しかし彼らを待ち受けているのは、遺跡泥棒を容赦なく殺すための古代人が作ったトラップ達、そして機体を守るモアイ像であった!更に彼らの後ろには、こっそりとフランツ帝国が尾行していた!どうなる傭兵団!」
 敵国からの狙撃(マスケット銃だから狙撃しても絶対当たらない→流れ弾に置き換える)とか、遺跡のトラップとか。正直、負傷タイミングは沢山ありますね。むしろ、メディックが居ないとクリアがメッチャ苦しい感じになってます。それはそれでまずいかなぁ。
 
・重要NPCその2
町で倒れている人がいて、実は敵側のパイロットで、助けられれば恩を感じて次にあったときに見逃してくれるー!見たいな。ま、実際は「寝返る」ぐらいしないと有り難味は薄いですが、でもパイロットだけ寝返ってもなぁって感じです。

 これらので大事なのは、決して「メディックを持って無きゃ駄目」というシナリオを作ってはいけないということです。本来はここに、「メディック以外も活躍できるべき」とか書くのですが、このゲームに限ってメディックとカウンセラー以外はロボバトルで活躍していると判断し、あえて放置します。
 
 
カウンセラー
・二回目のロボバトルを展開する。
戦闘で使える特技には、代償として精神にダメージを負うために使用を控えめにすべきものが存在します。また、そもそも設定で「パイロット適正強化手術」みたいな雰囲気のモノを受けている場合には、多少の特典と共にデフォルトでMPゲージの微傷欄が使用不能になります。
 これらは二回目のロボバトルがあるという状況に置いて大いに障害となるものなので活躍の出番はないことはないでしょう。ああ前提クラッシュ。
 
・護衛の旅
 正直「中世」にどう頑張っても精神的治療という概念とか、それの社会的地位とか期待できないと思います。が、カウンセラーが高いと「お香」を手に入れられるので子供を落ち着かせたりするぐらいは簡単なんじゃないでしょうか。
 
・クトゥルフごっこ
宇宙人の遺跡でも何でもいいんですが、序盤でホラーな展開をして疑心暗鬼におとしいらせたり、重傷の人に「一時的発狂しました」とかいったらカウンセラーがいないと収拾付きません。
 
・原点回帰?
 傭兵ですもの。敵に捕らえられたら、情報を聞き出そうとする非道な敵の、非道な拷問が待ってます。拷問なんて肉体も精神も疲弊するものですから、捕虜になってた人を救出した際にはメディックと共に出動ですね。
 
・重要NPCその2
銃夢(ガンム)という漫画に出てきたノヴァ教授と言う素晴らしい悪役(?)が、色々あって最後発狂してるんですよ。彼は膨大な知識、技術、そして頭脳(応用力)を持っていたキーパーソンなわけですね。
まあそんなノヴァ教授みたいなことになっている人がいるかもしれない、と言う話ですね。分からない人はカミーユでもいいです。
 
 
最後に
 最後の方で話題が滅茶苦茶ずれた。のは、わざとである。最後の方の話題の真意は、「いかにしてキャラクターシートの三分の一から“理想的な”エムブリオマシンのシナリオを作るか」という問いかけの、私なりの答えだ。
 
 データには意味がある。例えば経験点のルールには、最近は「これはどうやって遊ぶゲームなのか」「何をプレイヤーに迷わせたいのか」なんてのが詰まっている。
俺が上の原稿でやったことは、システムのデータ的意味にこだわり、見つめなおしながら、フレーバーから妥当と思われるデータ的要素を抽出し、データから新たなフレーバーを生み出す。とまでは行かないが、つまりは全てのデータが平等になるように調整し、誰もが活躍できる(俺の中では=全員が楽しめる)シナリオ、ひいては遊び方の模索である。
例えば、ダブルクロスの経験点は、二倍振りするより100%越えで卓が終了するほうが経験点が多いのは何故か?
 ときかれれば、俺は恐らく、「二倍ぶりを生半可な覚悟で当てにしないで欲しい。これは本当の“救済措置”であって、これを始めから狙って行動すると、このゲームの雰囲気を壊す。」という意味だ、と答えると思う。(デザイナーの意図と違うかもしれないが)。
また、普通の攻撃系特技の並びの中で並列的に「電波を封鎖する」という特技を並べていることについては、「戦闘強化より電波妨害が重要な時がある」と解釈し、そういう状況を作る必要もあるのではないかと考える。
 
今回のエムブリオも、俺がやったときには「メディック」「カウンセラー」は完全な「取り損能力値」でしかなかった。これは正直、酷いと思う。
 そして、「シナリオ無いから戦闘だけやるわ」も多かった。SW1stでなれた中世ファンタジーに、戦闘ルールが加わるだけであれ程にも変わるものか!?

(注:実際はマスケット銃や、ただの鉄球を打ち出す大砲が存在し、またEMという最強兵器の登場、そしてEMによる庸兵団の設立と、その庸兵団が「略奪しない・裏切らない・町の人などをいじめない」(←ブシドー!)といった決まりを持っていたり、その割に紹介文を読むと何気に下克上を狙えるという雰囲気をかもし出しているため、イメージ的にはいろいろな面で『日本の戦国時代』な感じを強く受けました。)

この原稿では、そんなおもいを消化しながら(タイタスにして昇華させながら)書いた。しかし、之は部誌になることは無いのである。
 まぁOBだしなぁ。

 
最終更新:2009年02月18日 23:25
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