――12月24日、幽霊屋敷、個室内にて。
シンヤ・クロミネは寝間着に着替え、既にベッドに潜り込んでいた。
今日も1日、何事もなく過ごすことができた。
日々の暮らしに終われていた彼には、既に日付の感覚は無くなっていた。
だから彼は気づかずに眠りに落ちてしまった。今日はクリスマスイヴだということを……
シンヤ・クロミネは寝間着に着替え、既にベッドに潜り込んでいた。
今日も1日、何事もなく過ごすことができた。
日々の暮らしに終われていた彼には、既に日付の感覚は無くなっていた。
だから彼は気づかずに眠りに落ちてしまった。今日はクリスマスイヴだということを……
シンヤは目を覚ました。
枕元の時計を見ると、午前0時。真夜中だ。
どうしてこんな時間に目が覚めてしまったのだろうか。眠りが浅かったのだろうか。
シンヤは考えるのを早々に止め、大きなあくびをして、再び眠ろうと寝返りをうつ。
視界の端に何かが映った。
それは赤い大きなものだった。
あんなもの、部屋にあっただろうか。疑問に思って体を起こす。
リモコンで部屋の電気を点けてその正体を確認して、シンヤはあきれてため息をついた。
「……なにやってんですか」
そこで床にうずくまっていたのは、真っ赤なサンタクロースの衣装を着込み、白い大きな袋を背負ったタクヤ・タカハシだった。
彼は顔を上げ、白く長いつけ髭を撫でながら「Ho-Ho-Ho」とやたら良い発音で笑う。
「ノー、ノー、アイムサンタクロース。じゃぱんノこどもたちニゆめをアゲに来ましたー」
「読みにくいんで普通に喋ってください」
「私サンタさんデース。怪しい者ではありまセーン」
「なんでカタコトなんですか」
「ワタシ外国のヒトだからー」
「はいはい……」
シンヤはベッドに腰かける。
「で、なんか用ですか、タカハシさん」
「なんだバレてたか」
「騙される人が居たらぜひ会いたいですね」
「リョウゴは騙されてくれたぜ」
何故だろう、凄い悲壮感。
「……で、なんで俺の部屋に?ってか鍵は?確かかけたはずだけど」
「タクヤ・タカハシのピッキング技術は世界一ィ!」
「ここ電子ロックなんですけど」
「……ハッキング技術は世界一ィ!」
「言い直した!?」
「こまけぇことはいいんだよ!」
「……じゃあ次に、なんで俺の部屋に?しかもそんな格好で」
するとタカハシは驚いた顔をする。
「お前サンタさん知らないの?」
「いや知ってますけど」
「じゃあ察しろよぅ」
「もしかして」
白い大きな袋を指差す。
「プレゼントですか?」
「イエェェェス!」
「うるせぇ」
タカハシはいかにも楽しげに袋へ手を突っ込み、中をひっかきまわす。
「シンッヤくんッへのプッレゼントッはぁ~♪」
……なんだろう、見ててスゲー苛つく。
「はいコレ!」
彼が「ズビッ」という効果音と共に勢いよくつきだしたのは茶色い紙袋だった。
「なんですかコレ」
「開けてみ開けてみ」
適当に頷いて封を破る。
中にあるのはどうやら四角く、平べったいもののようだ。
取り出してみると予想通り、ケースに入ったCDだった。ラベルには何も印刷されておらず、サインペンでタイトルが書かれている。
シンヤはそれを見て、無言でタクヤに突き返した。
「なんだよ」
「返します。」
「なんだ、趣味じゃなかったか?」
「そういうことではなく」
「なんだよー、面白いのに、『魔界天使ジブリー――』」
「アウトォォォ!」
素早く目の前の馬鹿に飛びかかって、その口を手でふさぐ。
「ここ全年齢だから!そういう名前出しちゃいけないから!」
「『もごもごもご』」
「『え、なんで?』じゃなくて!興味持っちゃった小さな子が検索したらどうすんだよ!お前のさして面白くもないネタのせいで人生踏み外す子が出るかもしれないんだよ!?」
「『もごもごもご』」
「わかればよし」
タクヤを解放してやる。彼は窒息寸前だったらしく、その呼吸は荒かった。
「いや、ごめん流石にやりすぎた。」
一応謝るシンヤ。
タクヤはよろよろと立ち上がった。
「はー……ったく、死ぬかと思った。」
「マジごめん。」
「いいよいいよ、どうやらシンヤくんは女の子に興味無いみたいだし。」
「そういうことじゃねーよ」
彼は袋を背負った。
「んじゃ、お休み。俺はまだ行くとこあるから」
「どこへ?」
「オカモトさんの部屋とアヤカさんの部屋」
「え?」
「んじゃ」
そうしてタクヤは廊下へと消えていった。
今思うと、俺はここで彼を止めるべきだったのかも知れない。
だけど俺にはできなかった。
何故なら、俺は足下に転がる一枚のCDの中身に、まるで興味が無いわけではなかったから――
枕元の時計を見ると、午前0時。真夜中だ。
どうしてこんな時間に目が覚めてしまったのだろうか。眠りが浅かったのだろうか。
シンヤは考えるのを早々に止め、大きなあくびをして、再び眠ろうと寝返りをうつ。
視界の端に何かが映った。
それは赤い大きなものだった。
あんなもの、部屋にあっただろうか。疑問に思って体を起こす。
リモコンで部屋の電気を点けてその正体を確認して、シンヤはあきれてため息をついた。
「……なにやってんですか」
そこで床にうずくまっていたのは、真っ赤なサンタクロースの衣装を着込み、白い大きな袋を背負ったタクヤ・タカハシだった。
彼は顔を上げ、白く長いつけ髭を撫でながら「Ho-Ho-Ho」とやたら良い発音で笑う。
「ノー、ノー、アイムサンタクロース。じゃぱんノこどもたちニゆめをアゲに来ましたー」
「読みにくいんで普通に喋ってください」
「私サンタさんデース。怪しい者ではありまセーン」
「なんでカタコトなんですか」
「ワタシ外国のヒトだからー」
「はいはい……」
シンヤはベッドに腰かける。
「で、なんか用ですか、タカハシさん」
「なんだバレてたか」
「騙される人が居たらぜひ会いたいですね」
「リョウゴは騙されてくれたぜ」
何故だろう、凄い悲壮感。
「……で、なんで俺の部屋に?ってか鍵は?確かかけたはずだけど」
「タクヤ・タカハシのピッキング技術は世界一ィ!」
「ここ電子ロックなんですけど」
「……ハッキング技術は世界一ィ!」
「言い直した!?」
「こまけぇことはいいんだよ!」
「……じゃあ次に、なんで俺の部屋に?しかもそんな格好で」
するとタカハシは驚いた顔をする。
「お前サンタさん知らないの?」
「いや知ってますけど」
「じゃあ察しろよぅ」
「もしかして」
白い大きな袋を指差す。
「プレゼントですか?」
「イエェェェス!」
「うるせぇ」
タカハシはいかにも楽しげに袋へ手を突っ込み、中をひっかきまわす。
「シンッヤくんッへのプッレゼントッはぁ~♪」
……なんだろう、見ててスゲー苛つく。
「はいコレ!」
彼が「ズビッ」という効果音と共に勢いよくつきだしたのは茶色い紙袋だった。
「なんですかコレ」
「開けてみ開けてみ」
適当に頷いて封を破る。
中にあるのはどうやら四角く、平べったいもののようだ。
取り出してみると予想通り、ケースに入ったCDだった。ラベルには何も印刷されておらず、サインペンでタイトルが書かれている。
シンヤはそれを見て、無言でタクヤに突き返した。
「なんだよ」
「返します。」
「なんだ、趣味じゃなかったか?」
「そういうことではなく」
「なんだよー、面白いのに、『魔界天使ジブリー――』」
「アウトォォォ!」
素早く目の前の馬鹿に飛びかかって、その口を手でふさぐ。
「ここ全年齢だから!そういう名前出しちゃいけないから!」
「『もごもごもご』」
「『え、なんで?』じゃなくて!興味持っちゃった小さな子が検索したらどうすんだよ!お前のさして面白くもないネタのせいで人生踏み外す子が出るかもしれないんだよ!?」
「『もごもごもご』」
「わかればよし」
タクヤを解放してやる。彼は窒息寸前だったらしく、その呼吸は荒かった。
「いや、ごめん流石にやりすぎた。」
一応謝るシンヤ。
タクヤはよろよろと立ち上がった。
「はー……ったく、死ぬかと思った。」
「マジごめん。」
「いいよいいよ、どうやらシンヤくんは女の子に興味無いみたいだし。」
「そういうことじゃねーよ」
彼は袋を背負った。
「んじゃ、お休み。俺はまだ行くとこあるから」
「どこへ?」
「オカモトさんの部屋とアヤカさんの部屋」
「え?」
「んじゃ」
そうしてタクヤは廊下へと消えていった。
今思うと、俺はここで彼を止めるべきだったのかも知れない。
だけど俺にはできなかった。
何故なら、俺は足下に転がる一枚のCDの中身に、まるで興味が無いわけではなかったから――
ラウンジに飾られた大きなクリスマスツリーの先端にサンタクロースが突き刺さって、その顔を赤い液体で真っ赤に染めているのが見つかったのは翌朝のことだった。
※後で確認したところ、『赤い液体=トマトジュース』だったそうです(byシンヤ)