創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

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 太陽系銀河系。この広い宇宙に、ヒトの言葉によって区切られた一つの空間。
 この空間にその名を与える恒星の輝きに照らされながら、二つの個は対峙していた。
 それは正しく闇と光、混沌と秩序。宇宙空間を支配し、ひいては万物をも支配する陰陽二元の性質を具象化した存在。
 決して相容れることのない存在なのか、それとも二つは一つとして――
 個を御するそれぞれの意志は今、己の全てを賭しその先を、運命を見極めんとしていた。

「鉄の民より生まれし神器――穿て夢幻の鑓、ゲイ・ボルグ!」
 睨み合う二つ、永遠に続くとさえ感じさせる威圧が作る壁。それを破壊したのは、鋭角の先端にて光を返す漆黒の機体。
 御する者の吐いた言霊が静寂に満ちた空間を駆けると共に、ヒトの様をしていながらもその異形を示す四本指の間に光の粒子が収束する。
 無より生まれた光は、存在目的として与えられた形へと変貌し、漆黒機の起こす命により放たれる。
 槍の切先その延長線上には、もう一つの個、まるで生物あるいは芸術品のような艶かしく美しい曲線を描く白銀の機体。
 振り払われた腕が生み出す運動エネルギーを遥かに凌駕する速度を以て、槍はそれを貫かんとするが。
「……甘い」
 鋭利過ぎる直線運動、それは脆く。虚像と実像が入れ替わるかのように、白銀機は何の構えもなしに自らの位置情報を一瞬で書き換えて見せた。
 それがあくまで物理法則の上に則ったものであることを証明しているのか、それとも否定しているのか。時空を隔てる白銀機の二つの位置の間にはモーション・ブラー光の軌跡。
 槍は愚直にもその残り香を突く。
 その間僅か一千分の一秒。
 神速の世界を認識する二者であっても、瞬きすら許されない時間。
 だが白銀機が反撃の一手を取るには、十分な時間。

「無へと帰るがいい……」
 両者とその間だけに流れる何倍にも希釈された時の中で、莫大なエネルギーの増幅が観測される。
 それを引き起こすのは先まで固く組まれていた四本の腕。表面に血流のように紅い紋様が走る。
 地球上に存在するどの文明にも属さない、奇怪な文字が呪詛を紡ぐ。
 しかし――白銀機の主が持つ、第六の感覚に走るインパルス。それが完成を放棄してでも行うべき行動を選択させる。
「散れい!」
 全身は投擲のフォームのままに、漆黒機の四本指が独立した方向を示す。
 見えない糸を繰るかのような動きは、現実にその対象――直進を続けるゲイ・ボルグを捉え、言葉のままに引き裂いた。
 巨大なエネルギーを分かち新たに生まれ変わった三十の槍は、再設定された目標に向かい飛ぶ。


「面白い性質を使うな。だが想定内だ」
 中断されていた描画が再開される。いや、単純な再開ではない。
 既に定着していた不可解な文字の幾つかが、形状を変化あるいは消滅。
 同時進行により完成した全体図は、途中から書き直された別の意匠。
 そしてその役割は――超光速の移動術を以てしても回避不可の全方位攻撃、夢幻の槍を受け止める盾となること。
 衝突する弾幕が、白銀機を覆う不可視領域に光と炎の彩色を施す。
「さて……」
 上下で二本ずつ、腕二組が印を結ぶと、結界が割れる。
 擬似球体を構成していた無数の角面が、刃となって飛散。
 恐らく目的の一つであったと推測される、視界の封印。だがそれもこの一手が暴く。
 闇と同化し機を伺っていた漆黒機に対し、意趣返しとばかりに彩色。

「くうっ!」
 機体を翻すことで、刃を弾く漆黒機。先を読まれていたならば、ここで新たな手を打たねばなるまい。
 回転の最中背より火を噴き、姿勢を捻じ曲げる。
 重力という枷が外れたがために働き続ける運動エネルギーを打ち消し、新たな方向性を付与。
 位置を知った白銀機が、攻撃のためと此方を正面に捉えるより速く、突撃す。
「自ら距離を詰めるか!」
 背後に並ぶ星々と比べてもなお、距離感を狂わせるほどの巨大な質量。
 全高二百メートルを超えるそれ自身が弾丸となって迫る。
 それを迎えるのも、形状こそ違えど同じ大きさの体躯を持つ機械巨人。
 身体を巡るエネルギーを総動員し、横殴りに弾丸を反らさんとするが、勢いはあちらが上。
 逃がしきれない衝撃その余波は空間を歪めるようにすら見える。

「氷の民――霊王の刃、ミスティルティーン! おおお!!」
 それだけの力を解放してもなお、漆黒機は止まらない。
 それどころか肉薄した状態から、さらに攻めの一手を加える。
「ならば受けて"断とう"ぞ!」
 掌に浮かぶ紅い文様を押し付けるようにして腕を運ぶ白銀機。
 その緩やかな動きから一変、放たれる衝撃波が伸びる刃を退ける。
「――レーヴァティーン!!」
「そちらが本命かっ!!」


伸びる剣の煌きは白銀機の装甲に反射し、それを振るう者の闇の深さを際立たせる。
一閃。
しかしそれは幕引きなどではない。片腕を失ってどうにかと反らした太刀筋が両断したのは、はるか後方に浮かぶ岩塊。
威力を削がれたはずの斬撃はフォボスと名づけられたそれをいとも容易く通り抜け、重力により縛り付けていた親星のを表面をも削り取った。
既存の物差しによって初めて伺うことのできる、桁違いの破壊力。
それでも白銀機怯むことなし。両者にとってはこれが"普通"の世界なのだ、だからこそその程度で隙を見せる訳には行かない。
現に漆黒機の攻撃は未だ続いている。
疾風怒濤。
再び炎の尾を引き、それで円を描くように機体を踊らせる。
異なる方向へと押されゆく白銀機に対し、速度殺すことなくと螺子を回すような軌道で向かう。
「だあああーっ!!!」
一点に収束される破壊力、回転によりさらに上乗せ。
照り返しを受けて黒が輝き、闇を裂く。

「……魔魏羅祁斬(マギラ・ギギリ)」
白銀機の乗り手が初めて口にした固有名詞は、三本腕の切る幾何学図形として現出した。
光の輪が回りながらに巨大化する。
まるでこの瞬間のためだけに存在するものであるかのように、向かう漆黒機が進む点を中心とし、逆回転。
そして激突。
漆黒機の攻撃を分散させる。
しかしその威力はあまりにも大きすぎた。流れる衝撃波が近場の星屑を飲み込んでいく。
いや、確かに白銀機の術は無効化とはいかずとも反撃の切り札を切るだけの時間を作り出せるだけの力を割いていた。
それがかなわなかったのは何故か。
白銀機が止めたのはあくまで突撃の一手。
まだ攻撃は続いている。新たな攻撃は始まっている。
歩く大地のない無重力空間で、闘気を纏った機械の足が振り下ろされる。
「ぬかったか!!」
理性をかなぐり捨てた狂戦士の連撃は、見事に衝撃の集まる一点を探し出し、そして解放する。
蓄積されたそれが矢となって白銀機を撃つ。
巨体を一瞬にして運び、星の表面に叩きつける。
直径十四万キロメートルを超す巨大な水素とヘリウムの塊が悲鳴を上げる。


だが同時。
漆黒機の装甲から赤い光の粒子が、鮮血のように噴き出す。
白銀機から放たれたのは貫き手。
それは失われた一本から伸びる、エネルギー体の腕。
確かに切り札を切る時間は失われた。
それ故にこの攻撃は不完全なものであった。
しかし超高速の運動をオーバーペースで行う漆黒機、その加速に入る直前に届けば、威力は何倍にも跳ね上がる。
漆黒機大きく崩れる。

まだだ。まだ、一撃を浴びただけに過ぎない。一撃を浴びせただけに過ぎない。
だが乗り手は一切の迷いもなく、追撃を仕掛けるべく機体を強引に立ち直らせ、走らせ。

「必ず、倒す」

その日、宇宙が揺れた。







「――という夢をみたんだけど」

「お前の病気に俺を巻き込むな」


 (終)

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