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例えばそんな未来

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irisjoker

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だれでも歓迎! 編集
―はじめに―
当作はPBM! の人◆1m8GVnU0JM氏原作パラベラム!の二次創作です。
歯車 ◆B21/XLSjhEの不適切な妄想を多分に含む内容となっています。
嫌な予感がした方は「ポマード!ポマード!ポマード!」と唱えてスルーして下さい。
原作者様には貴重な作品をお貸し頂けました事を深く感謝申し上げます。


季節は始まりを予感させる春、天気は若人達の門出を祝福するかのような雲一つ無い快晴。
暖かい陽射しの下、女が独り。今にも死にそうな程、陰鬱とした表情で歩道を歩いていた。


原作:パラベラム!
原作者:PBM! の人◆1m8GVnU0JM氏

Episode GEARS:例えばそんな未来

一歩歩く度に艶やかなシャンパンゴールドの髪が揺れ、肩に羽織ったレースのストールが揺らめく。
嗚呼、今日はなんて最高で、最悪な日なのだろう。
彼女、玉藻・ヴァルパインの表情が翳り、涙が零れそうになる。
少し前まで誰よりも一番近かったのに、今は一番じゃなくなってしまった。この胸の奥が締め付けられる感情、悲しみだ。

「悲しくなどあるものか、最悪であるものか」

「独り言しながら胸倉を掴みにかかるのは止めてもらえるかな?」 

「あ?」

妄想の中で大暴れしていたつもりが、見ず知らずの他人の胸倉を掴み、現実世界で大暴れを始める寸前。
面倒な事にならない内に息の根を止めて、さっさとお暇しようと思って見上げると、それは見ず知らずの他人では無く、よく見知った他人だった。
出会い頭に胸倉を掴まれて尚、人の良さそうな笑みを浮かべて、玉藻を諌める男の名はルガー・ベルクマン。玉藻の幼馴染だ。
最近は念願かなってダイニングバー、パラベラム!のマスターとして充実した日々を送っている。
身に付けた狐さんと、店名がプリントされたエプロンから察するに今も仕事中らしい。

「寄っていくかい?」

陰鬱そうな表情で、自身の胸倉を掴んだまま固まる幼馴染など何のその。
客商売は色んな人との出会いの連続なのだ。ルガーにとってみれば極めて軽度の変人。
少なくとも、余裕を持って快活な声と笑顔で対応出来る程度には――何より勝手知ったる幼馴染なのだから動じる道理も無い。


 ♪  ♪  ♪



態々、返事を聞くまでも無いとルガーは玉藻の手を引いて、店の中へと一名様ご案内。
店内に客や店員の姿は無い。それもその筈、彼の手作りケーキやタルトが振舞われる昼の営業は既に終了。
日が沈んだら夜の桃色空間……では無く、オリジナルのカクテルや、東西の珍しい酒を楽しむ紳士淑女の社交場になるのだ。
そして、夜の営業、バーラウンジの開店にはまだまだ時間がある。

「ちゃんとおめでとうは言えたかい?」

「当たり前だ。今日は……今日はまどかにとって晴れの日だぞ」

まどかの晴れの日――この日は彼女の従妹、まどか・ブラウニングの結婚パーティが開かれていた。
実の妹。いや、それ以上の愛情でもって接してきた目に入れても痛くないどころか、目に入れたい程、可愛いまどかの結婚式。
相手は勿論、玉藻では無い。玉藻の知らない何処ぞの男。良い家柄と言うわけでも無く、特別、容姿が優れているわけでも無い。
稼ぎも平均的。性格は……分からない。腸の煮えくり返る思いをしているのを我慢して愛想笑いを浮かべているだけでも必死だったのだ。
のうのうと言葉を交わして、性格を見極める余裕など無い。
それでも、今までの様な、まどかに纏わり付く悪い虫の様に問答無用で抹殺しても良い相手では無い事は分かっている。
二人で寄り添って、互いに幸せそうな笑顔を向け合う新郎新婦。
玉藻に一度も見せた事の無い種類の笑顔を浮かべる、まどかを見た瞬間、玉藻はその男を認めざるを得なくなってしまったのだ。
まどかの夫となる男は、自分とは違った形の、自分には出来ない種類の幸福をまどかに与えてやる事が出来るのだと。
でも、実際にその日を迎えると、まどかが自分の知らない笑顔を浮かべる姿が綺麗で、眩しくて、嬉しくて、辛くて、切なくて、悲しい。
まどかを愛しているから、まどかの幸せは最高に嬉しい。喜べないはずが無い。
それでも、まどかの隣に寄り添って幸せにするのは自分でありたかった。

「何で……何で私は男に生まれなかったのかな。私が男なら、まどかを幸せにしてやれたのにな」

まどかを愛しているなんてものじゃない。玉藻の心にあるのは、まどかに対する恋慕の情。
その気持ちを悟られぬよう、友として、姉として、一番の理解者として、この日までを過ごしてきた。
だから、まどかの新たな門出を笑顔で送り出さねばならない。

「よく頑張ったね。たまちゃん」

カウンター席で独白する玉藻の前にルガーはいなり寿司を差し出すなり、玉藻は一目散に齧り付き始めた。
挙式中は色々な複雑が渦巻いていた事もあり、彼女が自覚していた以上に体力を消耗していたらしい。
好物を口にしたからか、幼馴染の前だからか、虚勢を張る必要が無くなったからか、それまで張り詰めていた物がプツリと切れたかの様に涙が頬を伝う。
そして、堰を切ったかの様に嗚咽を漏らして涙と、米粒をポロポロと溢す。

「本当はッ……わかっ、分かっていたんだ! こ、こんな日がッ……こんな日が来るってぇ……だけど、私はまどかの姉だからッ!!
わ、私……女だから! まどかを、幸せに出来ないから……! ヒック……私がまどかを幸せにしかったのに……うあああ……!
あ、あんな男なんかに……渡したく、ない! 渡したくないけど、まどかが幸せだから……綺麗だから、認めるしか、出来なくって!!」

嗚咽混じりに漏れる言葉は支離滅裂だが、そのどれもが全て、今まで誰にも打ち明ける事の出来なかった本心だった。


 ♪  ♪  ♪



カウンター席で決まりの悪そうな表情で俯く女、カウンターの中で穏やかな微笑みを浮かべて夜の客を迎える準備をする男。
二人の間に言葉は無く、ただ店内に流れるクラシックのBGMだけが静寂を切り裂いていた。

「おい」

「なんだい?」

「今日の事、誰にもバラすなよ? もしも、バラしたりしたら、私がお前をバラすからな」

「分かったよ。たまちゃんも、また泣きたくなったらおいで」

「う、五月蝿い!!」

顔を朱に染めながら吼えるも、一頻り胸の内に溜まった物を吐き出し、溜め込んだ涙も全て流し尽くした玉藻は幾分か気を晴らしたようで、その表情には翳りも陰鬱さも消えている。
店内に差し込む夕焼けを背にシャンパンゴールドの長髪を赤に染め、普段通りの尊大な笑みを浮かべて言葉を紡いだ。

「また来てやる。それまでにマシないなり寿司を用意しておけ」

「その割には完食していたようだけど?」

不遜な物言いを苦にする事無く、朗らかな笑顔を投げ返す。

「お前は一々、五月蝿いんだ! また来てやるかッ……!?」

逃げる様に踵を返し、店から出ようとして顔からドアに直撃。真っ赤になった鼻を抑えてしゃがみ込む。
これには流石のルガーも笑えずに、玉藻の元へと駆け寄ろうと身を乗り出した。

「だ、大丈夫かい!? そこのドア引かないと開かないんだよ!」

「う……うおおおおおおおおお!!!」

鼻腔に生温い感触を感じた玉藻は即座に立ち上がり、猛ダッシュ。
一日に二度も同じ相手に醜態を晒せる程、彼女は強く無い。
凶暴で暴言の操り手だとしてもだ。
だから、ルガーに近付かれる前に脱兎の如く逃げ出した。
奇声を発しながら逃亡したのも醜態だという事に気付いたのは帰宅後の事、彼女が再びルガーの元を訪れるのは一ヵ月後の事になる。


 ♪  ♪  ♪


それから暫くの月日が流れてから――
まどかは相変わらず、新婚気分が抜けないらしいが、笑顔の絶えない幸せな家庭を築いたそうだ。
ダイニングバー、パラベラム!で新しい日々を送り始めたシャンパンゴールドの髪の美女はそう語った。

其々の未来、新しい未来、幸せな未来

ダイニングバー、パラベラム! 例えば、そんな未来もあるかもしれない。


次 回 な ん て も の は ね ぇ ッ ! !


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