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グラウンド・ゼロ 第17話

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匿名ユーザー

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 アッシュモービルが幽霊屋敷を出て数時間が経った。
 その船室では数人のゴールデンアイたちと賛同者たちが身を寄せあっている。
 しかし彼らは普段と変わらない様子で、他愛のない話に興じていた。
 やはり皆不安なのだろう。会話なしではいられないのだ。タクヤ・タカハシ―
―否、ハヤタ・ツカサキはその中でそう思っていた。
 今回のこの亡命を企画したのはキタザワだった。
 ツカサキはキタザワに信頼されている。
 かつてハヤタ・ツカサキがまだ偽名を使う必要が無かった頃、その頃からキタ
ザワはツカサキに目をかけてくれていた。
 もしかしたらキタザワはその時すでに亡命への準備を始めていたのかもしれな
い。優秀なAACVパイロットで、ギフテッド認定もされていたツカサキは良い
取引材料になると思ったのか。
 そしてそれはハヤタ・ツカサキがゴールデンアイとなり、実験材料にされる前
に幽霊屋敷を逃げ出し、また自ら戻ってきた後も変わらなかった。
 やくざ者のところで眼球移植と顔面整形手術、さらに戸籍の洗浄を重ね、つい
にはあのアヤカ・コンドウすらも欺いたツカサキをキタザワはあっさりと見抜い
たのだ。
 流石はコロニー・ジャパン防衛大臣といったところだろうか。そして彼はツカ
サキに、自分に従うようにと、そう言った。
 選択の余地は無いも同然だったが、お互いに有益な関係になると思ったツカサ
キはその申し出を了承、それから約一年の間、ツカサキはキタザワの右腕として
様々な工作を行ってきたのだった。
 幽霊屋敷の他の支部にいるゴールデンアイに密かに接触し、身の安全を保証す
る代わりに亡命時に同行することを約束させる。そしてそれはとうとう実行され
た。
 今頃幽霊屋敷はどうなっているだろうか。そう思いながら視線を巡らす。
 すると目についたのは部屋の角で床に座して壁に寄りかかり、さっきから誰と
も会話をしようとしないリョウゴ・ナカムラだった。
 彼はどこか退屈そうに、談笑する仲間たちを少し離れたところから眺めている

 彼に近づくと、リョウゴはちらりとこっちに目線を飛ばしてきた。
 ツカサキは片手を上げて挨拶をし、それから隣に腰を下ろした。
 その後数分の間、二人の間に沈黙が居座ったが、ツカサキはついに口火を切っ
た。
「後悔してるか?」
 その問いかけに、リョウゴは首を振った。
「むしろ感謝してる。」
「へぇ?」
「あのまま、アイツと一緒のところに居続けるのは苦痛だったから。」
 そう言うリョウゴの表情は、無かった。
「……タカハシさん、あ、いやツカサキさんは――」
「どっちでもいいぜ。」
「じゃあ、ツカサキさんは――」
 リョウゴはツカサキの目を見た。
「――俺を軽蔑しますか」
 ツカサキは数秒考えて、答えた。
「いんや。」
 彼は首を傾け、鳴らす。
「男女の愛とか――友情とか、人間関係ってさ、結局は、お互いの利害の一致な
のよ。だってそうだろ?一緒に居て楽しくねーやつとの間に友情や愛情は生まれ
るか?」
 ツカサキは微かに口端をつり上げて語る。
「愛なんて、ただヤりたいから生まれるのさ。友情も、お互いがお互いの欲望を
満たしているから成立する……それが、金であれ、優越感であれな。そういった
ものに後から意味付けして、美化したり、醜く思ったりするのは快楽主義者の自
己陶酔だよ。それが良いか悪いかは別として。」
 リョウゴはツカサキから目を逸らさない。
「だから、お前がシンヤに魅力を感じなくなったのは当然のことだと思うぜ。お
互いの要求を満たせなくなったんだから。」
「そう……ですかね。」
「ああ。それに――」
 リョウゴは外しかけた視線をツカサキに戻す。
 ツカサキは今度ははっきりと、笑みを浮かべた。
「あいつもお前と同類さ。思い返してみろよ……」


「“他人を下に見なければ生けていけない”……」
 シンヤはアヤカの言葉を繰り返した。
 ミーティングルームへ向かう途中、廊下での会話だった。
「人間は皆少なからずそうよ。誰もが他者よりも優位に立とうとし、自分の支配
下に置こうと思う。」
 早足で歩くアヤカに何とかついていきながら、シンヤは少しだけ目を伏せた。
「……リョウゴも、俺も……そうだと?」
「ええ。」
 アヤカはこちらを振り向かない。彼女は歩きながらも抱えた資料を指先でチェ
ックしている。角を曲がった。
「彼が裏切ったのは、かつて下に見ていた人間に見下されるのに耐えられなかっ
たからよ。単純だわ。」
「俺、リョウゴを見下してなんか……!」
「そうかしら?彼がAACV操縦に苦戦しているとき、得意気にアドバイスしな
かった?」
「そんなことで……」
「始めはほんの小さな傷だったかもしれない。だけど時間が経つうちにそれは化
膿し、黄色い膿を垂れ流すのよ。人が人を憎むということは、そういうこと。」
 ……そういうものだろうか。シンヤには理解できなかった。
 二人はミーティングルームへたどり着き、そして扉を開ける。
 そこには残りの幽霊屋敷メンバーが集まっていた。
 シンヤは彼らに交ざり、アヤカは彼らの前に立つ。
「全員居る?では、臨時連絡会を始めましょう。」


「まず第一に、フミオ・キタザワ大臣とこちらの職員たちの北米生存同盟への集
団亡命について。」
 アヤカ・コンドウは資料を手にとった。
「監視カメラと皆の証言から推測するに、亡命した人数は14。この内4がギフ
テッド認定されていて、恐らくその全員がゴールデンアイ――我々が把握してい
なかった――だと考えていいわ。どうりでここ数週間、パイロットの異動命令が
多かったはずね……」
 彼女は歯噛みしていた。
 たった4名?なら大したことはないんじゃないか?シンヤはそう思った。
「コロニー・ジャパンからは4。さらに各国のスパイからの報告を合わせると、
最低30名以上のゴールデンアイたちが歩行要塞に向かったということが既に判
っている。」
 空気が重くなったのが感じられた。
「ゴールデンアイたちは皆一騎当千の強者たち――いわゆる『ギフテッド』。今
回の亡命者たちの中心人物、ハヤタ・ツカサキのAACVパイロット時代の戦績
は、撃墜数120という凄まじいものだったわ。これは幽霊屋敷の歴代最高記録
と同じ数字よ。他のゴールデンアイたちも、彼ほどではないにしろ、強力な敵と
考えていいと思うわ。」
「120!?」
 誰かが声を上げた。
 アヤカはうなずく。
 そのレベルのパイロットが30人以上も歩行要塞に……!
「連合と歩行要塞、ぶつかった場合にどちらが勝つかはそれでもわからないけれ
ど、これをきっかけに連合側は開戦を早めるでしょうね。」
「質問があります。」
 ニット帽を被った、髪の無い女性パイロットが手を上げた。
 アヤカはどうぞ、と発言を促す。
「そのハヤタ・ツカサキという男の人について詳しく教えて下さい。」
「彼について?」
 アヤカは別の資料を引っ張り出す。
「ハヤタ・ツカサキは3年半前、ゲームのグラウンド・ゼロのランキングでトッ
プに居た男で、当時彼は最高学府を、非常に優秀な成績を修めていたにも関わら
ず何故か中退してフリーターをやっていたわ。AACV操縦は初日にマスターし
、初陣で2機を撃破。ギフテッド認定を受けたのはわずか1週間後。その後1年
半経って、ゴールデンアイだということがわかった直後、彼は幽霊屋敷を脱走…
…」
「その方法は?」
 義手を掲げた青年が問う。
 アヤカ・コンドウは一旦顔を上げて部屋をぐるりと見渡す。それから軽く息を
吐いて、そして答えた。
「……フリークライミング、が、一番近いかしらね。」
 彼女が何を言っているのか理解できない、という風な雰囲気が流れた。
「彼は深夜警備システムをダウンさせ、復旧までのわずかな時間で部屋の窓から
外へ出て、ほぼ素手で、柱の外壁を伝って街に下りたの。」
 ……これは笑いどころなのだろうか。
「冗談でしょう?」
 誰かが言う。
「本当の事よ。彼は柱外壁表面にあるわずかなボルトの頭やケーブル、ワイヤー
を伝い、数百メートル下の地面まで一晩で下りたの。死にたい人は真似しなさい
。」
「不可能だ。スパイダーマンじゃあるまいし」
「でも彼はやってのけた。超人的な握力と体力をもって。」
「それもゴールデンアイの特性ですか?」
 アヤカは首を振る。
「わからないけれど、少なくともツカサキの身体能力は常人離れしている。これ
は確かよ。」
 シンヤの脳裏にリョウゴと別れた場面がフラッシュバックした。
 あの時ツカサキは、自分とリョウゴとの間に離れたところから一瞬で割り込ん
だ。
 同時に、彼の最後の言葉も思い出す。
“『涙を流す』ってことは、現状を受け入れた証”。
 ……俺はリョウゴが敵対することをよしとしている?自分が幽霊屋敷に来たこ
とも……?
「唯一わからないのは――」
 アヤカの言葉が聞こえた。
「――彼が何故幽霊屋敷に戻ってきたのかということ。それだけが空白のまま。
もちろん推測はするけれど、多分本人から直接聞かないとダメでしょうね。」
 そして彼女は書類を置いた。
「ハヤタ・ツカサキに関しては以上。ほかに質問は?」
 質問した女性パイロットの礼が聞こえた。
「では次に我々の今後の方針について。」
 アヤカは拳を腰にやる。
「皆知ってのとおり、現在世界は『北米生存同盟』対『対北米連合』の図式にあ
る。我々は以後、『対北米連合』側に立つことになるわ。」
 室内はにわかに騒がしくなる。アヤカは声を少し大きくした。
「我々が連合側に立てば、連合が勝利した場合に他国から責められることは無く
なり、同盟側が勝利した場合は、亡命したキタザワ大臣らを利用して国体は維持
できる可能性がある。これが国益を考えた結論よ。甘いけれどね。」
 どちらにも良い顔をしようというのか?
 中途半端だ。
「もちろん今後のことを考えて、連合への協力は最小限に抑えるつもり。言い訳
がたつ程度にしかしないわ。」
 シンヤに政治のことはよくわからないが、アヤカの考えは理解できる。
 だが、そんなに上手くいくのか?
 ギャンブルをしないのは安心できるが、慎重になりすぎている気もする。
「どの程度の戦力を提供するかはこれから上と相談して決めるけど、どうなるか
はハッキリとは分からない。決定したら伝えるわ。」
 頷いた。




「見えてきた……」
 誰かが、そうこぼした。
 リョウゴは立ち上がって、アッシュモービルの進行方向を睨むカメラの画面の
1つに歩みより、覗く。
 無理矢理に明るく修正された、嘘くさい灰色の地平線の向こうから、それが姿
を見せはじめていた。
 最初は山かと思った。それは余りにも巨大すぎた。しかし近づくにつれ、その
山が太く短い十本の力強い足と、超長砲身の六つの主砲、さらにその周りに数え
きれない程の機銃と砲を携えた、巨大な要塞であることが判ってくる。
 あれが、『歩行要塞』か――
 北米生存同盟の所有する、核兵器を除いた世界最強の兵器にして、幽霊屋敷的
な位置付けの組織の本部。
 そして、俺の新しい家。


 アッシュモービルは歩行要塞の真下に開いたタラップを上がる。巨大な機動兵
器であるはずのアッシュモービルがおもちゃにしか見えないサイズ比だ。
 馬鹿げた大きさだ。フミオ・キタザワ『元』コロニー・ジャパン防衛大臣はそ
う思った。
「大鑑巨砲主義の極みだな。時代遅れだ。」
「だけど、未だに最強の座を譲ってない。」
 独り言を横で拾ったのは、ハヤタ・ツカサキだった。彼は作業着からフミオと
同じくブラックスーツに着替え、長めの髪を後ろで結んでいる。
 キタザワが彼のネクタイが曲がっていることを指摘した直後、低速走行してい
たアッシュモービルがついに停止した。
 キタザワは髭を撫でた。
「万が一のときは頼む。」
「任せとけって。」
 2人はアッシュモービルの降車口へ向かう。ツカサキがボタンを押し、扉を開
いた。
 同じアッシュモービルがあと1ダースは入りそうな、広大なドックへ2人は降
りる。
 目の前では正装の白人男性が数人、敬礼をして、既に並んで待っていた。
 彼らの1人が言う。
「お待ちしておりました。」
 キタザワは頷き、英語で問いかける。
「司令官殿は?」
「既にお待ちです。」
 白人男性は一歩引き、キタザワの歩みを促す。彼は素直に従った。
 案内されながらしばらく歩くと、ある部屋の前にたどり着いた。
 男性が両開きの大きな扉のドアノブに手をかける。
「ロックなどは無いのですね」
 ツカサキが言うと、そばの男性が「この要塞に居るのは信用に足る者だけです
から」と答えた。
「それなら、私たちは信用していただけたのですね」
「口を閉じろ。」
 鋭くキタザワは言った。
 扉が開かれる。
 そこは広い会議室だった。長く大きいテーブルが中心にドンと据えられ、それ
を囲む席には既に何人か別の国の、キタザワと同じ目的でここにいる人間たちが
座っている。
 そして一番奥で余裕のある笑みを浮かべて軽く机の上で指を組んでいるのが、
歩行要塞司令官の男だった。
 彼はキタザワの姿を認めると立ち上がり、笑顔を浮かべながら近づいてくる。
 目の前に立つと、まずは自己紹介を交わした。
 続いて握手を交わす。
「ここには記者は居ませんよ。」
 彼が冗談めかして言い、キタザワは「信頼の証です」と返した。
「そう、信頼。この世で最も尊いものですね。では、お名前の札のある席へどう
ぞ。」
 礼をして、キタザワは椅子を引いた。
 しばらく目の前に置かれた書類を読んだり、水を飲んだりしていると、次々と
部屋に人が集まってくる。
 彼らもキタザワと同じだ。国家を売って自らを生かそうとしている。
 彼らは非難されるべきだろうか。
 30分も経たない内に席は全て埋まる。キタザワはざっと揃った面々を見渡し
た。
 統一南アメリカ、新生ロシア、オーストラリア……中々の面子が揃っている。
「時間です。」
 男が言った。彼は立ち上がり、まずは深々と頭を下げる。
「お集まりくださった皆様、改めてご挨拶させていただきます。私が、北米生存
同盟陸軍特務部門所属、歩行要塞最高司令官のジェイムズ・ウィルソンです。皆
様の安全を保証し、勝利をもたらす者です。では、早速ですが諸々のことを確認
させていただきます。」
 一通りジェイムズが喋り、それから集まったメンバーが紹介される。次に現状
の説明がなされ、ギフテッドたちだけのAACV部隊の編成を確認する。そして
とうとう、誰かからこの質問が出た。
「グラウンド・ゼロはどこにあるのですか」
 この質問にジェイムズは笑顔で答えた。
「はっきりとは申し上げられません。実は我々もまだ正確な位置は探し当てられ
ていないのです。ですが、これだけは確実に言えます。」
 彼は息を吸う。
「私たちは、そこに最も近い。」
 室内が沈黙する。
「現在、地質調査を繰り返しながら、そのデータを基に要塞の進路を修正しつつ
進んでいます。そう遠くない内に、グラウンド・ゼロは我々のものになるでしょ
う。いや――」
 ジェイムズは両腕を広げ、言った。
「――我々のものになります」


「――彼らのものにだけは、させません。」
 同じ頃、対北米連合の代表、東中国のタクトウ・トウは大部屋に集まった各国
の代表たちに向かってそう言い放った。
「グラウンド・ゼロにあるであろう、小惑星の『コア』は全世界で共有すべきも
のです。彼らはそこを解っていない。」
 トウはコップの水を飲んだ。
「皆様方、各国の協力により、我々連合はついにあの歩行要塞を倒せるだけの力
を得ました。」
 諸手を広げる。
「時は来ました。明後日の午前0時、ついに我々は歩行要塞に攻撃を開始します
。世界の未来をかけた、負けられない戦いです。正義の力を結集し、勝ちましょ
う。」


「とうとう来たか」
 車椅子に座す平蛇艦長、タケル・ヤマモトはそう言った。
「ええ」
 うなずいたのはアヤカ・コンドウだった。彼女はデスクに座ったまま受話器を
置き、指先で机をこつこつ叩いている。
「予想より早いわ。まだキタザワ元大臣とコンタクトがとれていないのに……」
「北米本国が妨害を?」
「どういう風な攻め方をしてものらりくらりとかわしてくる……強敵よ。」
 アヤカはあからさまに不機嫌そうに眉間に寄せる。彼女がこんな表情をすると
は、珍しいなとヤマモトは思った。
「こうなったら、連合側の勝利を願うしかありませんか」
「願って物事がその通りに進むなら、猿から人間への進化はありえなかったわ。
願いは裏切られるためにある。」
「コンドウさんは、どっちが勝つと思ってます?」
 アヤカは目だけでヤマモトを見た。彼はまっすぐにアヤカを見つめ返している
。アヤカは目をふせ、苦々しげに、言った。
「……本当に、わからない。」
「そうですか?」
「君は?」
「私は、連合が勝つと思ってますが。」
 ヤマモトは両手を頭の後ろにやって、胸をはる。
「やはり、戦いは数ですよ。歩行要塞は確かに単騎では最強かもしれませんが、
内包する弾薬にも食料にも限りがある。不利です、間違いなく。」
「長期戦になれば、ね。その点は向こうも分かっているでしょう。だから彼らは
、短期決戦で臨むはず。」
「短期決戦?連合相手に?」
「実際に倒せなくてもいい。ただ相手に敗けを予感させられるほどの、圧倒的な
結果を残せば、単なる利害関係のみで結ばれた連合は自壊するわ。私が北米生存
同盟の作戦司令官なら、そこを狙う。」
「それは北米側も同じでは?」
「歩行要塞はそんな結果にはならないわ。強すぎる。」
 アヤカは眉間をおさえた。
「しかし結局は――」
「――我々は蚊帳の外、ですね?」
「……屈辱だわ。」

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