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第十一話 「昔の夢と、お茶会」

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『Diver's shellⅡ』


 第十一話「昔の夢と、お茶会」



 昔々あるところに……。
 から始まる物語は大抵極端に走ることが多い。
 戦力外としか思えぬキジを引き連れ鬼の棲む島を強襲して宝物を取り返すに留まらず片っ端から成敗したり、人になり妻になった鶴に覗くなと言われたのに覗いて出て行ってしまったり……。
 これより語るは、極端でもなんでもない、ありきたりな昔話である。
 その日彼は夢を見た。
 夢と理解して見る夢は珍しい。大抵の夢は勝手に作られた台本と世界観に従い、なんの違和感も抱かず、登場人物でありながら第三者のような視点で見るものだ。脳が情報を整理するときに体感するものらしい。
 彼は、自分が寝入ったのに意識を拡散させずに居ることに気が付いた。普段なら暗闇に飲み込まれてしまうはずなのに、今日に限って寝たはずなのに起きたような、光を排除された部屋に閉じ込められたような感覚に陥っていた。
 暗い。漆黒が全てを埋めていて、自己のイメージ映像すら映らない。普段なら取り留めなくくだらないイメージ画が流れるはずなのに。
 怒鳴ってみようとしたが声も出ない。瞬きも出来ない。呼吸も出来ない。脳髄のみとなってシリンダーの中に浮かべられているかのようと、思念の中心で考える。
 と、たちまちの内に自己が拡大して人間の姿をとる。男性としてはやや細い体、長めの灰色髪。
 彼の名前は、オルカ=マクダウェル。
 彼が彼の姿を取り戻してどれほどの時間が経過したか、いつのまにか辺りは見慣れた風景に様変わりしていた。
 コンクリートと鉄で建築された、孤児院……に違いは無いのだが、違和感を覚える。壁の色や庭の木などが記憶の中の孤児院と微細に違う気がするのだ。

 「……あ、そうか」

 彼は唐突に理解した。
 これは、昔の孤児院なのだ。
 オルカは孤児院を見下ろす位置に支え無しで浮遊している。夢なのだから、いかなる超常現象も許容されるのだろう。豚が空を飛んでも、夢なら仕方ない。
 これからなにが始まるのか?
 オルカは映画を鑑賞するように虚空に座り込むと(夢だからできる)、待った。
 どれほど待ったか。夢の中において時間は無いモノも同然。時空を超えることも、夢は可能とする。
 暫くすると、孤児院に人が湧いた。初めから居たように子供達や職員が出現して、各々で時間を過ごしている。鬼ごっこ、談話、お菓子を食べたり日向ぼっこをしたり。
 その中で一人の子供が職員の目を盗んで孤児院の塀を乗り越えると、走り去った。その後ろを黒髪の女の子がついていき、塀に手をかけ乗り越えると、弾ける快活さをアピールするが如く駆けて行った。
 最初の少年はオルカ自身で間違いない。オルカはしょっちゅう孤児院を抜け出しては遊びに出かけていた。追跡者はジュリア以外に考えられない。
 視界が霞み、渦巻くように景色が溶け合うと、再構成されて廃工場になった。
 廃工場にかつてのオルカ少年が駆け込んでくると、錆びた鉄製の箱の蓋を開けて銀色に輝く綺麗な鉄パイプを取り出した。少年が持つにしてはやや大きい。
 そのパイプが宝物であるかのようにぎゅっと握って、剣を使うように正面に構えた。
 この歳の男の子は得てして乗り物や木の棒に執着心を持つものだ。女の子は大抵人形や可愛いものを愛する傾向にあるという。
 オルカ少年がパイプを振りかぶるや、目一杯の力で廃工場の柱に叩きつける。かーんと甲高い音が鳴った。オルカ少年は飽きもせずパイプを振り回す。バットの素振りのようだった。

 「……恥ずかしいな……これが黒歴史か……」

 パイプを剣に見立て、ありもしない敵目掛けて振り回し討ち斃す。
 過去に書いた小説を読み返したときもこんな気持ちになるのだろうか。オルカは目の前で再生される過去の日常に顔を赤くした。
 一通りの敵(仮想の)を成敗したオルカ少年を、物陰からこっそりと覗くジュリア少女が居た。くすくす笑いを浮かべ、いつ乱入しようかと算段を立てているようだ。
 オルカが過去のオルカに語りかけても手を振っても気がつかない。どうやら、過去の映像をまじかで観察するに留まっているようだ。
 オルカ少年はパイプの切っ先を地面に降ろし、大きく息を吸った。

「ふー……」

 パイプを見つめるオルカ少年を、現在のオルカが見つめる不思議空間。
 過去の自分に説教の一つでも垂れたかったが、過去を変えることはタイムパラドックスの観点から不可能だし、何より夢の中で説教をしてみたところで面白みの欠片も無い。
 恥ずかしい。
 恥ずかしすぎる。
 オルカは鉄の棒を振り回して悦に入る自分を張り倒したくなって、両手で顔を隠した。

 「隙あり!!」
 「ぶはっ」

 顔を隠した直後、小柄な少女が物陰から姿を見せオルカ少年に飛び蹴りをかました。クリティカルヒット。オルカ少年は悲鳴を上げつつ廃工場の地面に転がった。
 傍観者は自分で、主人公も自分。
 漫画調に蹴られそして飛んだオルカ少年は、パイプをぽーんと投げてジュリア少女に挑みかかった。

 「痛ったいなぁ! 死んじゃうとこだったろ!」

 だがジュリア少女は鉄の防御で突っぱねる。オルカの顔に頭突きを食らわし、よろめいたところで腕で首を絞める。
 ちょっと前にやられたような覚えがあるが、はてどこでだったか……。
 首絞め状態から近接格闘の要領で地面に寝かせ、腕の関節をレスリング技にて締め上げ。過去あったこととは言っても自分の体。締められてもいない腕がじんじん疼くような気がした。
 オルカ少年は半べそをかきながら地面を叩き始めた。

 「痛い痛い痛いごめんごめん!!」
 「弱っちいなぁ~。はいはい」

 これも、つい最近ジュリアにやられた記憶がある。とっても見覚えがある。昔も今も変わらない点は多くあるということなのか。
 オルカ少年は腕を擦りながら立ち上がり、ジュリア少女は遊びたくてうずうずしているらしく両手を握ったり開いたりして、ニコニコ笑っている。
 オルカ少年が、ぱっとジュリアに飛び掛るが、数瞬早く逃げられる。追いかけっこが始まった。

 「待てーっ。おれもかけてやるーっ!!」
 「へーん、やれるもんならやってみなー! 泣きべそオルカー!」

 「懐かしい……」

 通り過ぎる、過去の幻影。
 鉄骨やら針金やら家具やらが雨風に晒されるままになっている廃工場内を、二人の子供が相手を捕まえんと追いかけまわる。つまずいて転んで血を滲ませても、痛さより楽しさが勝っているのか、すぐに立ち上がって再開して。
 二人の子供が作る靴音をBGMに、一人の大人は腕を組んだ。
 いつ頃だったかな、と追憶する。
 過去から現在に至るまでの映像・感覚・思い、その全てを整理し引っくり返し一欠けら一欠けら拾い集めぎゅっと固めて水面下から掬い上げる。
 オルカは彼と彼女の方に一歩踏み出し―――……目を覚ました。

 「あれ……、ここ、は……?」

 白い天井にどこにでもありそうな照明器具。光を好む羽虫が天井をぶんぶん飛び回っている。
 オルカは、見慣れた天井だなどとありきたりなことを思った。
 彼の寝るベッドの隣には小さい物置台があり、その上に目覚まし機能の付いた時計が大人しく座っている。やかましいベル音が鳴るのは彼が目を覚ますずっと後にセットしてあった。
 寝起きのためか考えが鈍く、ベッドで布団に包まったまま焦点の合わない目つきのまま時を過ごす。暫くすると脳が活性化してきて、物事をしっかりと考えられるようになってきた。
 時計を見遣る。朝だ。窓を見遣る。薄暗いが確かに朝だ。
 冬なので気温が低く、布団を被っていても生地の隙間からじわじわと体温を奪われるよう。オルカは布団を被りなおすと、大あくびした。

 「あれ?」

 そこでやっと、自分が泣いていることに気が付いた。
 欠伸の時に出る生理現象ではなく、随分前から泣いていたことを示すように涙の流れた端っこは乾いてパリパリになっていた。手で擦って痕跡を消し去る。
 オルカは朝の準備をするため、自分が泣いた事実を頭から捨てると、布団を跳ね除け起きた。




.



 所変わってメリッサ&ユト宅。
 潜水機の整備技能を活かして街に働きに出かけたユトを除き、ジュリア、クラウディア、メリッサ、そして道中ジュリアに付いてきたクー、その面々がリビングに集まっていた。
 紅茶にケーキにクッキー。別に難しいことを話し合おうということではない。軽くお茶会を開こうというだけなのだ。
 リビングのソファーに四人の女性。
 一人黙々とクッキーを食べるクーをよそに、ジュリアは紅茶の入ったカップに口をつけた。
 天候は晴れとも曇りとも言えぬ煮え切らない様相。気温は低いが、部屋の中で孤独に頑張っているエアコンのお陰で苦痛は無い。

 「あーえっと、妊娠……」
 「お医者さんに診て貰ったら2ヶ月だって」
 「二ヶ月ね。了解」

 ジュリアがちょっと聞きにくそうにメリッサに質問しかけると、途中で本人が答えてくれた。
 メリッサは服装髪型こそ余り変わっていないようだが、無意識にお腹に手をあてている。ツンツンとした棘棘しさもなんとなくながら和らいでいると、ジュリアは思った。
 お前ちょっとは遠慮しろよな速度でケーキを平らげ紅茶を飲み干したクラウディアは、口元を指先で拭うと、両腿の上に腕を乗せ手を組み合わせた。なお、この間もクーはクッキーを食し続けている。何しにきたのだ。

 「一ついい?」
 「うん、なに?」

 目に好奇を灯し、質問をしようと両手を合わせ前のめりになってクラウディアが口を開いた。メリッサはやや引き気味になりつつも、負けてなるものかと前にぐっと寄る。

 「……『二人っきり』の時はどんな名前で呼んでるのかしら♪」
 「え? ええっ、え!? 二人っ!?」
 「早速か、お前は」

 そして女は、脳がお天気なのか、爆弾を投下した。
 二人っきりとは、どういうことだろうか。
 例えば映画で重要な情報や味方の裏切りを感知した二人が、関係者だけで話したいときは、席を外してくれ、など二人っきりの状況を作る。例えばお互いがお互いに苛立っているときは殴りあうために二人っきりになる。
 では、この場合の二人っきりとは?
 ユトとメリッサは婚約しており、家に誰かを同居させていない。家に帰れば二人っきり。そう、二人っきりなのだ。
 みるみるうちにメリッサとジュリアの顔が赤に染まった。耳から蒸気が吹き出そうだ。

 「それは……メリー、とか……」

 両手を股の間に挟み、俯いて。頭を傾ければ、頭の後ろで纏め上げられた髪が重力に従い、彼女の頬を隠す。ちょっと前の彼女なら火山が噴火していただろうが、今は小川の水量が増えた程度。愛や恋は人を変えるらしい。
 クラウディアはイジメたい衝動をグッと堪え、むふふと笑った。
 一方ジュリアは、顔の赤らみを誤魔化す為に紅茶をもう一口啜って脚を組まざるを得なかった。二人っきりの意味にピンときたからが故の行動である。

 「幸せそうでなにより」
 「あ、ありがとう」

 イジる気が失せてしまった。
 クラウディアの足でも踏みつけてやろうと策略を立て始めていたジュリアだったが、本心であろう一言で止めた。
 恥ずかしいの限界を超えたらしく、母親になる予定の女性は黙った。クーがクッキーを食べ終え、新しい一枚を手に取るとリスのようにもしゃもしゃと歯で噛み砕いては飲み込む作業を続ける。

 「聞いていいのか分からないけど、子供の名前とかって決めてある?」

 こほん、咳払いをすれば、ジュリアが話題を提供する。カップを置くとカチャッと短く硬い音がした。子供の名前といえば、定番の話題であると思っての行動だった。
 お腹を擦っていたメリッサは、頭を振ることでポニーテールの位置を直すと、香り高い紅茶を一口飲み、クッキーをかさりと齧った。そして片手を顎に置いた。

 「決めてないのよ、実は。ユトと一緒に考えてるんだけど、いいのが思いつかなくって。男の子か女の子かも分からないから、いくつか候補を考えておいて、性別が分かったら更に絞り込もうって」
 「ふーん……」

 妊娠二ヶ月だと、赤ちゃんは目に見えるか見えないかほどの大きさしかなく、性別の判別は極めて困難なのだ。だから名前を決めるにしても男の子なのか女の子なのかも分からないため、どうしようもなかった。
 流石のジュリアとて、性別を見分けることは成長しないと不明であることぐらいは知っている。彼女が自身のお腹に置いた手を見遣りつつ、脚を組みなおす。

 「そっか。名前……良かったら私らも候補を考えておこうか?」
 「うーん、そう……ね。暇があったら考える、程度でいいケド」
 「いいなぁ、子供。ところでジュリちゃん、結婚のご予定は?」
 「ジュリじゃなくジュリアと呼べよ。結婚の予定? そりゃこっちが聞きたいわ」
 「相変わらず仲がいい事のねー」
 「仲ァ? これを見て仲がいいって?」
 「怒らないでよ~ジュリちゃん」
 「寝起きで口の中に牛乳ブチ込んでやろうか?」
 「白い液を? なにそれえろい」
 「バカヤロウ」
 「寝起きドッキリは熱々の料理の方が効果的ってオヤジさんが言ってたっけ」
 「そうだな、マッハで熱いコンソメスープを流し込んでやんよ」
 「私にスープを流し込めるとでも?」
 「やるやれないじゃない、やるんだよ。んで写真に撮ってやる」

 冷静なのに傍から聞いて居たら怒涛の口論にしか聞こえない会話のキャッチボール。
 クラウディアがからかい、ジュリアが口角泡を飛ばす勢いで反論に否定を重ね、愉快げにメリッサが眺め、完全なる一人空間を築き上げたクーは私の人生における最重要課題はクッキーなのだといわんばかりに貪り続ける。
 女性というのは、話が好きな生き物である。
 男性なら、

 『明日部活だってさ』
 『分かった』

 で済ますのを、女性は、

 『明日部活~~~~(略)~~昨日テレビで~~(略)○○君が昨日ね~~(略)学校の先生がさ~~(以下略)』
 『そうそう~~~(以下略)』

 と、連装ゲームのように繋げていくものだ。
 全ての女性がそうであると断定すると色々な方向からご指摘があるから絶対そうだとは言わないが、長電話において、男性は女性に勝つことは出来ない。
 一行の話が、子供から平和な世間話に流れ、やれ恋愛がどうの、潜水機がどうのこうの、可変機構に関する是非、メリッサとユトの馴れ初め、紅茶の原産地、最近のニュース、と連鎖し、ふと気が付くと夕方過ぎになっていた。
 地平線に隠れかけた太陽は朱色を帯び、街を染めている。

 「いけない、もう帰らないと」
 「もう時間か、早いな」

 クラウディアは、本日三杯目の紅茶を飲み干すと、ぐぐっと伸びをしつつ立ち上がった。遠慮なくお代わりをし続けた結果がこれである。
 コーヒー派であり、遠慮を知っていたジュリアは一杯だけ。口元を拭うと、話でやや温まったことを自覚しつつ立ち上がり、玄関の方に体を向けた。
 名残惜しげにクッキー類を眺めるクーに、メリッサは苦笑しつつ、キッチンからビニール袋を持ってくると中にクッキーを入れて手渡した。
 はし、とクーは受け取る。

 「はい、これ」
 「ありがとう」

 クーは表情こそ変えないが、宝物を手に入れたようにビニール袋を胸元に引き寄せて保持した。なんだかんだで一番食べたのは彼女であった。
 ジュリアとクラウディアを先導すべくメリッサが玄関に歩いていき、ドアを開ける。足を置いてドアの位置を固定すると、二人が外に出られるようにした。
 二人は外に出ると、なんとなしにメリッサを眺めた。自分より早く結婚して出産の予定があるなんて、と思ったかは定かではないが、羨ましいと思ったのは事実だ。
 メリッサは二人の顔を交互に見ると、じりじりと後退した。熱っぽい視線というか、アイドルを見るかのような視線に羞恥に酷似した感情を抱いたのである。

 「黙ってないで何か言ってよ、気味が悪い」
 「あー、悪い悪い。あのメリッサに子供がねぇ、って。シモネタもさらさら言ってたから、なんというか、ね。悪い意味で言ったんじゃないぞ」
 「分かる分かる。活発娘だったんだもの、ちょっと現実味が」
 「あんた達、本気で怒るわよ?」
 「おー怖い」
 「怖いわぁ」

 握り拳を作り息を吹きかけ迫るメリッサに気圧されて二人は半歩下がる。メリッサの口元がピクピク震えている辺りが結婚前の彼女の行動そのままだった。

「あれ、お客さん?」

 その時玄関から少し離れた場所から声がした。三人が一斉に振り返ると、頬に機械油をくっ付けた金髪眼鏡の青年が立っていた。彼女の夫たるユトである。
 メリッサが静止した。目を見開き、口元をきゅっと結んで拳を降ろすと、恋する乙女を絵に描いたように頬を赤らめ、ジュリアとクラウディアが見る前で駆け出した。クーはクッキーの袋の隙間から匂いを嗅ぐのに夢中だった。
 彼女の特徴の一つであるポニーテールが体に追いつこうとして纏まって流れ。

 「おかえりーっ!」
 「うわぁっ!? メ、メリッサ、三人も見てるから!」
 「えー……」
 「えーじゃなくて、じゃないな、……そうでもないけどぉっ!」

 手ぬぐいが地面に落ちた。
 作業着姿のユトに、地面を跳ねるように駆け寄ったメリッサが抱きついたのだ。一応男性であるユトはメリッサの勢いを受け止めることに成功したが、目撃者が居る段階で成功うんぬんは意味が無い。
 動揺隠せず慌てるユトに、顔をぐりぐり押し付けんばかりにメリッサが抱きしめる。二人の指には同じデザインの指輪が光っている。
 ジュリアとクラウディアは、うんうん頷きつつ、足音を殺して夫婦の横を通り過ぎる。クーは黙ってついてくる。

 「ゆっくり夫婦の時間を楽しんでね!」
 「馬鹿なこと言ってないで帰るぞ」
 「あだっ、痛~い」

 親指を立て教科書も真っ青な笑顔を作ったクラウディアの頭をジュリアがすぱこーんと叩く。アホ毛が上下にしなる。
 リミッターが外れたように抱きついて愛を表現してくる妻に、夫はおろおろするばかりであり。遠ざかりつつある来訪者二人に状況を説明せんと手をばたつかせるが、意味を成さない。
 我慢せず顔を押し付ければ、当然胸とか当たったりするわけで。夫婦になった今、色々な意味で我慢する必要は無いのだが、人が見てれば話は別だし、何よりユトという人間の性格上恥ずかしいゲージが限界に達しそうであった。
 メリッサの肩に手を置いてやんわり引き離そうとするが、逆にひっついてきてあろうことか足まで絡めんとしてくる。
 嬉しい、嬉しいが、人目を気にしてくれると――。

 「三人ともっ、これは違っ」
 「違くないもん」
 「だけどね、見られてるからね、あのね!」

 ジュリアとクラウディアが家を離れる時、クーが一人振り返って、抱き合う二人を見遣り、本当に小さく言った。
 その台詞は、現状を的確に説明する一言であった。

 「……デレ?」

 あぁ、なるほど。
 二人は納得すると帰路に着いた。
 なおクーは二人に食料をねだった後に帰った。




          【終】

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