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eXar-Xen――セカイの果てより来るモノ―― Act.9C

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匿名ユーザー

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 “セカイの楔”とはセカイ外の存在が実世界に存在する為の「命綱」であり「力の源」でもあり、それ故に唯一の急所とも言える器官。
 破壊すれば力の供給を断つ事が出来、奴は自身の存在を保つ事は出来なくなり虚空へと消え去る他無くなる。

「…………」

 奴――アビスワンはよりによってそんな所にウェル――ディーの肉親を組み込んでいた。
 有機的に結合しているかはここからでは分からんが、そうでなくとも楔の外は高圧の水に加え、アビスワンより漏れ出た強烈な瘴気が渦巻いている。救出は極めて困難だ。

 これではっきりしたのは間違いなく奴は「彼ら」の差し金である事。そして、

「くそっ――!!」

 ディーには、奴を倒せないと言う事だ。


 010101011010101010100111000011――!!!

 耳を劈く声と共に両腕を構成していた触腕を解き、先に付いたブレード群をイグザゼンへと向けるアビスワン。
 それらの刃先は瞬時に赤熱し、周囲の水を沸騰させた。

「――!」

 正面より高速で襲い来る刃の群れ。横に逸れつつ躱し、改めて向き合おうとするが

<止まるな!>

 その声を聞くまでも無く更に飛び退く。
 同時に先ほどまでいた場所に左右より挟撃を見舞う脚部より生じた触腕の群れ。まともに食らえばただでは済まないだろう。

「こいつは、どうしてこう……!」

 更に、更に、執拗に、間髪入れず縦横無尽にありとあらゆる方向より向かってくる敵意と殺意。
 それを俺は直感に任せて躱すに躱す。だが、奴の物量は弄る様に、甚振る様に、ゆっくりと、しかし確実に逃げ場を奪っていく。

「っ!!」
<!>

 そんな時だった。不意に、背中を走る熱。鋭い痛み。
 遂に俺を捉えた刃が背中を裂いたのだろう。飛びかける意識に思わず動きが鈍くなる。それを逃す奴ではなかった。

0110101010100101111――!!!

 視線の向こう。見えるのは触腕が再度束ねられた巨腕。
 それが分厚い水の壁を突き破りながら、こちらへ向かって突っ込んで来ている。

「不味――――」

 気付いた時には既に遅く、言葉は最後まで続く事は無かった。
 俺と同じぐらいの大きさの拳の形をした巨大な質量。それが避ける間も無くベクトル干渉をも容易く突き抜け、イグザゼンをこれでもかと打ち据えた。

「あ――がっ!?」

 一瞬呼吸が止まり、意識をももぎ取っていく。
 更に背後より衝撃。多分湖の内壁に叩きつけられたのだろう。そして

「!!!」

 追い討ちをかけるのはアビスワンより放たれた4本のブレード付きの触腕。それらは両腕、両足の装甲をいとも容易く貫通し、張り付けにする。

「くっ……そ……!」

 瞬く間に脳内を蹂躙する激痛。
 どうにかしようにも痛みに集中を阻害され、ブレイドやダガーの顕現がままならない。
 深々と突き刺さったそれらは抜こうにも抜けず、身動きするほどに傷口を広げるだけ。

0101010100010100110100010101010101101――!!!

 勝ち鬨のつもりだろうか。
 暗い水底に黒く轟くアビスワンの咆哮。全身に鳥肌が立つ幻覚すら覚える。
 見れば俺を抑えている4本の触腕以外を腕や足へと束ね直し、こちらへとゆっくり近付いてきていた。鋭く尖った頭部に一対の紅い目が妖しく光る。

「俺を、どうするつもりだ……?」
<私を――輪転炉を食らうつもりだろう。奴は獣共ほどではないが餓えている。>
「くそっ……!」

 胸部の装甲が中央より3方向に開く。
 内部には機械的ながらもどこか生々しい無数のコード群が蠢き、中央にはそれらに繋がれた薄いオレンジの掛かった核が見える。その内に過ぎる人影。

「――ッ」
<……奴は既に勝利したつもりなのだろう。この隙を突くのは容易い。>
「おい……」
<お前は何もしなくていい。私が全てを行う。>

 内部より湧き出るケーブル群。それはゆっくりとイグザゼンを捕らようと迫り来る。

「おい……!」
<私を機関に組み込もうとした時が最大のチャンス。至近距離より楔を穿つ。>
「おい!」


<――お前は、何もしなくていい。>


 今、私が彼に出来る唯一の配慮――それがこれだった。

 例え何があってもイグザゼンを失ってはならない。
 私にとってその使命は何物にも代えられないモノ。絶対遜守すべき事項であり、何物をもイグザゼンとの天秤に掛ける事すら許されない。

 ……例えそれが、御する者の肉親の命だったとしてもだ。

「ふざけんな……!俺の手で、ウェルをぶっ殺そうっていうのか……!!」
<イグザゼンは決して失ってはいけない。そして目前の脅威は確実に除かねばならない。故にこれが今出来る最善の選択だ。>
「アリスッ!」
<……非難は後で幾らでも受けよう。気が済むまで何をしてくれても構わん。だが、今は――!>

 既に御する者のメインコントロールはダウンさせてある。つまり彼からの介入は一切有り得ない。酷だが、やむを得ないのだ。

「――――」

 ケーブル群に抱かれ、ゆっくりと楔に近づくイグザゼン。
 もっとだ。もっと近付け。“破壊”の力を込めたブレイドの一突きさえ決まればこんなオーバードフェノメオンなど瞬く間に崩壊するだろう。そのチャンスを逃す道理は無い。

「――――!」

 やがて、楔が目前に迫る。


――――eXar-Xen might access


 “御する者”を介していない故に力は弱小だが、楔を穿ち、粉砕するには十分だ。
 拳に力を込める。瞬時に剣が顕現した。同時に切っ先を向け、奴に気付かれる前に楔を貫く


――――はずだった。


<――どうしてだ。>

 思わず口から漏れる言葉。
 剣の切っ先は確かに楔へ伸びていた。だがそれは寸での所でぴたりと動きを止めている。
 理由を探す。チェック。機体システムに不備は無い。故に不明――分からない、が

「後じゃ――」

 答えは

「後じゃ駄目なんだよぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 自分の方からやってきた。


 無明。
 無音。
 無色。
 無。

 総てが無い、色亡き闇の淵。
 そこに俺は居た――いや、いたかどうかも分からない。
 それぐらい朧げにして、曖昧にして、途方も無く空虚。

 ただ、目の前にとある“書”があった事だけは確かだった。



 イグザの書



 白い表紙。白い背表紙。白いページ。
 何もかもが白いそれは、幾度も俺達の危機を救ってくれた魔性の書。
 アリスとの出会いの切っ掛けでもある。

(…………)

 手に取ると同時に、ページが独りでに捲られる。
 何処か懐かしく、しかし何処か冷たい感触。やがて

――汝が災厄。大いなる“解”の障には為らず。

 紅い字が滑らかにページを走り、言葉を綴る。

――主よ。刮目せよ。理解せよ。創造せよ。その向こう側に“解”はある。高きを舞い、力を振るうそれは強壮にして勇壮な“力”なり。

 式が舞い、踊る。
 紅い字に綴られ、光の洪水となって溢れ出で、空虚な世界を瞬く間に埋め尽くしていく。

(――――!!)

 同時に脳に直接流れ込んでくる何者かの莫大な情報。それらを刮目し、理解し、創造していく内に――紅い字の通り、その先に“それ”はあった。

 空虚に浮かぶ白銀の甲冑。白銀の異形。
 大きく見ればソートアーマーに酷似しているそれは……だが、確固たる“違い”があった。

 “大きい”のだ。
 だがソートギガンティック程ではない。精々5倍か6倍か。
 しかし内包している力の質はまるで異質。ソートアーマーと違い、「破壊」の力の一端を如実に顕していた。

(――――)

 猛禽の如く鋭い瞳にはこれ以上無い怒りを湛え、鋭角なシルエットにもそれが伺える。
 怒っているのだ。俺と同じく怒っているのだ。魔を潰せと、悪を滅せと、それは全身をもって言っている。

「後じゃ……」

 アリスの言う「後」。
 アビスワンもろともウェルを殺した「後」。
 それじゃ駄目だ。絶対に駄目だ。そんな「後」があってたまるものか。

――変えてやる。絶対に変えてやる。

「後じゃ駄目なんだよぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 力の限り吼える。
 アリスの施した戒めなんて関係ない。
 アビスワンの内部を蹴飛ばし、逆方向へブースト。雁字搦めになったケーブルを引き千切りながら猛烈な蒼い光と共に奴の体外へと抜け出る。

<ディー!何故!?>
「……すぐに諦めんな。楽な方に流れんな。可能性が低いぐらいがどうした?そんなもんウェルを諦める理由になんて絶対にならねぇ。」

 目前の怪異を睨みつける。
 奴は予期せぬ反撃に惚けているようだった。

「だから俺は抗う!力の限り抗う!死ぬまで抗う!お前が嫌でもこればかりは付き合ってもらう!!」

 言葉と共に揺れが走る。
 この世ならざる振動。事象震。イグザゼンを中心としたそれは、何者かの顕現を予期する物。

0101011101010101010110011――!!!

 そうはさせまいとアビスワンは触腕を振るい襲い来る。
 だが、揺れと共に巻き上がる水流は、アビスワンの巨体をいとも容易く巻き込み、弾き飛ばす。

<これは、まさか……!>
「よく分かんねーけど、これで行けるんだろ!」

揺れは、水流は更に勢いを増し、イグザゼンを中心に唸りをあげる。
“あの言葉”を望むように、“あの言葉”を待ちわびるように。

<ソートグランアーマー。それがこの揺れの正体だ。まさか、イグザゼンがこの形態を……?>
「考えるのは後だ!やるぞ!!」
<……分かった。>

 息をこれ以上無く吸い込む。
 準備は万端。あとは“あの言葉”を紡ぐのみ。

「イグザゼン……」
<イグザゼン……>

 揺れは限界に達し、世界の理は極々限定的に粉砕される。
 そして、その内よりこの世ならざる何かが出でた。

「ソート!グランアーマーッ!!>

 力の限り吼える内にイグザゼンを包む金色の光。
 同時にソートアーマーは一回りも二回りも巨大にして強大な姿へと“変形”していく。
 その内に現るは、超常の存在をも上回る超越的存在。セカイ外の力を纏うその巨体は、己に仇成す悪意を打ち砕く為、終ぞ顕現を完了した。

<飛行、浮遊を可能とする空間制御と、ソートギガンティックと比べれば極々微力ながらも「破壊」の力を持ち合わせるのがこのソートグランアーマーという“解”の力だ。これさえあれば……>
「あいつを助けられるんだろ!行くぜ!!」

 背後より噴出す夥しい蒼い光。
 それは猛烈な推進力となってグランアーマーを推し進める。水中だというのが嘘のような加速力。見る見る内に水流に弾き飛ばされたアビスワンへと迫っていく。

0101010101010110110010101101010101――!?

 対する奴は両手両足の触腕を展開し、こちらの背後以外の全方位より殺到させた。
 その力は先程も味わったとおり、強大。ソートアーマーでは文字通り穴だらけにされるのがオチだろう――しかし

「邪魔だぁぁぁぁぁぁっ!!」

 グランアーマーの敵ではない。
 右腕を突き出した状態で更に加速。頑強な装甲に加え、その推力のみで強引に触腕の群れを突き抜けていく。

 目前にまで迫るアビスワン。
 両足と左腕の触腕を伸ばしたまま、再度束ね直した右腕が見える。どうやらそれでこちらを迎え撃つつもりらしいが

「どりゃああああああああああああああ!!」

 俺は臆する事無く、その速度のまま突っ込む。
 ぶつかり合う拳と拳。ただ均衡は一瞬。

――――――!!!

 グランアーマーの拳がめり込み、砕き、そのまま根元より抉られるアビスワンの巨腕。
 奴の声ならざる悲鳴が轟く。だが、それだけで

「終わるかよ!!」

 怯んだ隙に奴の尖った頭部を右腕で鷲掴みにし、おもむろに握り潰す。
 同時に左腕が束ねられようとするが、そんな暇無く基部より引き千切る。それならばと脚部の触腕の群れがこちらに向こうとするが――

「ふんっ!」

 そんな暇を与える事無く俺は奴を水面に向かい“放り投げた”。
 深さ100m以上はある湖深くから1秒と掛からず水面へと到達し、豪快な水飛沫と共に宙を舞うアビスワン。

「そのままっ!」

 それに追走し、食らい付くグランアーマー。
 無防備な奴の楔に向かい、狙いを定める。


――――eXar-Xen might access


 白く、だがその内に形容し難い何かを孕む光を帯び、この世ならざる力に染まり、唸りを上げる右の鉄拳。

「死んどけぇっ!!」

 それを用いてアッパー気味に放たれた一撃は、アビスワンのセカイの楔に吸い込まれるように叩き込まれた。


0101010100101001100011111101010010――!!!!!


 “破壊”の力の片鱗をもろに受け、断末魔の悲鳴を上げつつ砕け散り、中心のとある一点に向けて白い粒子へと崩壊、消滅していくアビスワン。その内に、見間違えもしない人影を見止めた。

「ウェル!!」

 支えるモノが無くなり、自由落下しかけていたあいつを両手でキャッチ。

<離れろ!巻き込まれるぞ!!>
「ッ!!」

 言われるがままに、そのまま奴の元を全力で離脱。その直後、背後より真っ昼間の太陽もかくやという強烈な閃光が迸る。

 ――それは全てが一点へと落ち込んだアビスワンが正真正銘、この世から完全に消滅した事の証明だった。


「イカは殺して中身は殺さず、と。」

 アクアリング外壁の一角。
 “それ”は楽しげに膝の上に乗せたキャンパスに筆を取りつつ口を開く。

「なるほどなるほど、いい傾向ねぇ。グランアーマーも使えるようになってるみたいだし?アタシのお陰かしらね?あはは!」

 紅い影。廻り、嗤う紅い影。

「貴重なデータも取れた事だし、イカちゃんマジぐっじょぶって感じ?」
「――お嬢様、お勤めご苦労様でした。」

 その脇にうやうやしく面を下げつつ現れる灰の影。

「あれ、いたの?ヌース。」
「ええ。勿論。ビュトスお嬢様の居る所、私は何処でも駆けつけますよ。」
「ふーん……」
「では、帰りましょう。アレーティア様も、シゲー様も首を長くしてお待ちしてますよ?」
「え~?折角だし遊びたいなぁ~……」
「アレーティア様に言いつけますよ?」
「ぶー!」

 膨れっ面をするビュトスと、いつも通りといった表情のヌース。

「では、帰りましょう。」
「はぁ~い……」

 巻き上がる紅と灰の風は、混じれて捩れて姿を掻き消す。
 その後に残されたのは一枚のキャンバスのみ。

 人の腸を擦り付けたが如く何処までも赤く、生々しく、赤黒く染め上げられたそれは、およそ人の知りうる「絵」とは言えぬものだった。

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