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十話:【Red Dragon Part2】

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irisjoker

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 白い尾を引き、高速で飛翔する鉄の塊。困惑するアンドロイド二体の横をすり抜け、するすると飛んで行く。
 それは向こう側にある建物の変電設備に命中した。爆発と同時に白い火花が散り、二度目の爆発。
 直結十センチ程のロケット弾一つで、その建物は電力供給を止められる。だが、すぐに施設内部の予備電力が回され、全開とはいかないまでも、またぼんやりと暗闇に光を燈す。

『なんだあいつは!?』
『社長に報告……いや、通報しろ!』

 建物の前にある守衛小屋に居た二体のアンドロイドは有り得ない事態に困惑する。
 ロケットランチャーで襲撃など、そこらのギャングやマフィアでもやらない。どう考えても攻撃そのものが目的のテロリストの襲撃に思えた。

『早く通報しろ!』
『ダメだ! 回線がやられてる!』
『最初の一発目でか!?』
『解らない! 内線を繋げ! 社長に逃げるように――うわ!』

 二発目のロケット弾。それは守衛小屋の少し奥の地面へと命中した。
 アンドロイド二体は自分達を狙って外したのかと思ったが、実際は違う。当てなかったのだ。威嚇だ。
 そして、ロケット弾を発射した男が、つかつかとこちらへ歩いて来るが見えた。

『来た……。こっちへ来るぞ!』
『よし……! 内線は生きてる! 社長に連絡を……ぎゃあ!』

 三発目。
 それは守衛小屋横のゲートを、木っ端微塵に破壊した。





 十話:【Red Dragon Part2】




「何の音だ!?」

 トライゼンは叫ぶ。そこに居たアンダースとアリサも、同様に同じ事を思った。建物全体ががたがたと揺れた。地震ではない。一瞬電源が落ち、再び燈ると、また爆発音と振動がした。
 逡巡するトライゼンとアンダース。だが、アリサにはなんとなく解る。
 こんなマネが出来るのは、後にも先にも、一人しか居ない。

「……来た」

 直後、トライゼンのデスクの上の電話が鳴る。内線の穏やかな呼び出し音だった。発信先は、正面ゲートの守衛。
 トライゼンは乱暴にそれを取り、叫んだ。状況は理解出来ずに居たが、ただ事ではない何かが起きている。それは解った。「何事だ! 何があった!?」
《テロリストです! ロケット弾で襲撃を……》
「ロケット弾!? バカな!」
《早く逃げて下さい! 奴はまだそこに――》

 言葉が途切れる。受話器の向こうからは、銃声らしき音が二回聞こえた。
 次に聞こえたのは、受話器が地面に落ちる音。ゴリゴリとした不快な音が響いて来る。

「おい! どうした! 返事をしろ!」
《……》
「何か言え! 何があった!?」
《……。こいつらならもう動かないぞ》
「……? 誰だ?」

 受話器の向こうからの返答。それは、先程のアンドロイドではなく、別の人物へと代わる。そして恐らく、彼が襲撃者である。

「……もしかして、君がヘンヨだね?」
《ウチの依頼人がそちらにお邪魔しているはずだ。迎えに来た》
「何の事かな?」
《お前の所のポンコツが俺の友人を訪ねたはずだ。その礼も兼ねてる。俺の依頼人に手を出したらどうなるか、たっぷり教えてやる》
「自分が何をしているか解っているのかね君は?」
《もちろんだ。お前こそどうなんだ?》
「何の事かな?」
《まぁいい。カマの掛け合いをするつもりはない。さっさとアリサを返してもらう》
「君なら出来ると? 噂で聞いた事があるぞ。特殊部隊の中で、スパイの救出作戦や、同盟国相手の非合法作戦を専門に行う連中が居ると。君の経歴の隠された最後の二年間、そこに居たのかね?」
《ゴシップの読みすぎだな。そんな部隊は存在しない》
「ほう。では君は何をしていたのだ?」
《もっと何でもやる部隊だ》

 また爆発音がした。今度は近い。建物の揺れも先程より大きい。トライゼンは受話器に向かって再度叫んだが、ヘンヨからの返答は無い。
 トライゼンとしてはヘンヨの襲撃は想定の範囲内であった。ところが、まさか本格的な攻撃を仕掛けてくるとは。しかし、敵はたった一人のはずだ。それにトライゼンが持つ切り札は、強力。

「ベリアル。出番だ。奴を捕まえてメモリーの在りかを聞き出せ。必要なら、殺せ」
『了解しました。社長』

 黄金色のボディが歩き出す。
 単結晶チタンで表面を覆った、悪魔の名を冠するアンドロイド、ベリアル。

 違法改造のアンドロイドならば数多く存在するが、ベリアルの設計は最初からトライゼンのボディーガード用として、過激な設計がされていた。
 通常よりも遥かに剛性のあるボディ。対衝撃性。パワー。そして、あらゆる物を焼き切るジェットトーチ。
 完全に汚い仕事をさせる為に、ベリアルは造られたのだ。たかが人間相手に、負けるはずがない。そう思わせるには十分であった。




※ ※ ※




 ヘンヨは撃ち尽くしたランチャーを地面へ投げすてる。四発ある内、三発はゲート周辺へ、残る一発で、エントランス入口を吹き飛ばした。
 そして、堂々とその中へと侵入する。本来ならば静かに入るべきだが、今回は少々勝手が違う。
 たっぷりと、誰を敵に回しているか教えてやるつもりだったのだ。
 依頼人に何かあっては信用に関わる。全力で相手を後悔させてやる必要がある。なにより、腹が立っていた。

「……俺の車に穴空けた礼も忘れないからな」

 警備が現れる。が、瞬時にヘンヨに頭部を撃ち抜かれる。
 その射撃は特殊部隊出身者特有の射撃感覚だ。相手がボディアーマーを着込んでいる事を見越し、基本である胸部ではなく急所が丸見えの顔面を狙う。
 HV弾のライフルでもあれば別だろうが、今手にしているのは拳銃である。
 ならば当然、狙うは一撃必殺の顔面である。もはやクセとして身についていた。
 一体の警備アンドロイドがショットガンを持って現れた。ポンプを引き、狙いを定め発射。
 身を屈めたヘンヨは即座にそれの腕を撃つ。狙いは大きく逸れ、天井に無数の穴が空く。ショットガンは投げ出され、地面を転がる。
 ヘンヨはそれを拾い、腕が破壊されたアンドロイドの前に立つ。次の行動は、感情や思考より速く機械的に引き金を引くだけ。

 頭部が文字通り砕け散る警備。もし人間だったら、極めて凄惨な光景だったろう。
 飛び散るパーツは砕かれた頭蓋。漏れるシリコンの潤滑油は潰された脳漿であり、倒れるボディはべちゃりと音を立て崩れる肉の塊。
 死屍累々とした場へ一人立つは、死を振り撒く赤い髪の男。

 警備の動きは悪い。ほぼ無能と言えた。
 彼らは「一般的な」警備を目的としてここに居るのだ。仮想敵は泥棒か、強盗か。武装した特殊技能を有する兵士が攻めて来るなど、最初から想定されていない。無能でしかるべしなのだ。

「ぞろぞろと現れやがって。ゴキブリじゃあるまいし」

 警備の数は多い。次々と現れるそれに対し、取出したのは楕円型の手投げ弾。ただし、威力はサイズ以上の物がある逸品。それをほうり投げたヘンヨは速やかに身を伏せ、転がるアンドロイドのボディを盾にし身を守る。
 爆発。それはエントランス内部に居た警備を一掃し、粉々にするには十分。
 むくりと起き上がったヘンヨは衣服の汚れを少し掃って、非常階段へと歩き出す。だが――




※ ※ ※




「きゃあああ!」

 捕われたままのアリサは大声で叫ぶ。今までで一番大きな爆発音がし、建物全体が大きく揺れたからだ。
 トライゼンとアンダースも思わず身体をふらつかせ、トライゼンに至ってはデスクに手を付き半ば転んだような体勢を取った。
 それほどの爆発だった。

「……ずいぶんと節操のない男のようだ」

 トライゼンはデスクの引き出しから拳銃を取出し、アリサとアンダースの二人へ銃口を向ける。

「アリサを立たせるんだアンダース」

 そう指示した。銃口を向けられては歯向かう事は出来ない。アリサを立たせ、両肩を支える。まだ、アリサはガチガチと震えていた。
 トライゼンは銃口で行き先を指し、そこへ歩くよう促した。社長室のさらに奥にある資料室だ。

「もうすぐベリアルがあの探偵もどきを始末する。メモリーさえあれば用はない」

 アリサの足取りは意外な事にしっかりしていた。両肩こそガチガチ震えてはいたが。
 恐怖しているのだろう。アンダースはそう思っていた。無理もない事だ。
 だが実際は、恐怖以上の感情が沸き起こっていたのだ。目の前に居る拳銃を向ける男は、自分のもっとも大事な物を奪ったのだ。キースを殺した。自分すら壊されかけたような事も告げられた。当たり前にあった物を、全て奪って行った。一瞬で。

 間もなく自分の雇った探偵が自分の救出にやって来るはずだ。
 だが、それはもはや無駄である。たとえ助けられたとしても、それで何になるのか。目的は果たせない。
 全ては終わったのだ。そう考えて居た。残るは、ただ一つ。

「よくも……よくも……」

 アリサはガチガチ震えていた。
 恐怖はしていた。だが、それも少しずつ陰に押しやられる。沸々と沸き上がる、強い強い感情。

「よくもおじいちゃんを……!」

 ――憎悪。




※ ※ ※




 ヘンヨは非常階段の手前で足を止めていた。
 そこを四階まで登って少し歩けば、すぐに社長室に到達する。だが、それが出来なかった。
 両手をリラックスさせ、神経を身体全体へと行き渡らせる。集中。

 それの動きは速かった。映像で見ていた為か驚きはしなかったが、見るのと体感するのでは天と地ほどの開きがある。
 ヘンヨの顔面をかすめた拳は車が通過したような音を立てた。まともに受ければ一撃で倒される。それでもまだフルパワーでは無いだろう。
 ヘンヨはその腕を掴み、身体を返して背負い投げ。それは自らの勢いを巧みに偏向され、そのまま焼け焦げたエントランスの中へと投げ出されて行った。
 がらがらと転がるアンドロイドを吹き飛ばし、黄金色のボディが鈍く煤けた空間へと浮かび上がっている。
 それは立ち上がり、再び攻撃的な構えを見せた。
 先程の様にすぐさま襲いかからないのは、下手に攻めてもまた投げられるだけだと学習したからだろうか。

「また会ったな。そのチタンコートボディは社長の趣味だったか?」
『ええ。ボディガードとして、極めて頑強に造られています』
「悪くない趣味だ」
『メモリーはどこですか? 渡して欲しいのですが』
「教える必要はない。お前は破壊する。今すぐ、ここで」
『なら仕方ありません』

 言い切ると同時に、ベリアルの前腕の一部が展開して行く。
 キーンという音がした。シャフトが回転している音だ。一種のガスタービンが、空気を圧縮し、高温の爆炎を放つ準備をしていた。全てを焼き切る、炎のナイフ。


「それで地下室のドアを破ったのか。実に興味深い武器だ」

 ベリアルのジェットトーチの準備が完了すると同時に、今度はベリアルそのものが猛烈な勢いで突進してくる。速かった。自慢の対衝撃性を活かした、捨て身の体当たりである。
 事前に見た映像のおかげか、軌道は簡単に見切る事が出来た。ヘンヨは素早く横へスライドステップをし、ベリアルは壁へと自ら減り込んで行く。
 壁には大穴が空く。モルタルががらがら崩れ、その威力を物語る。

『よく避けたものです』
「丸見えなんでな。すまないがお前の攻撃など貰いようもない」

 粉塵舞う空間がオレンジ色に照らされる。ジェットトーチが火を噴いたのだ。
 崩れた壁の中から、ベリアルはそれを突き出し突進する。当たれば、瞬時に大穴を空け、一撃で絶命せしめるはずだった。だが、そこにヘンヨは居なかった。
 攻撃を空振りしたベリアルの右足首に衝撃。バランスを崩し、そのまま転倒する。自重が重いベリアルは僅かな落下距離でも大きな運動エネルギーを生み出す。
 結果、人間の身体を模したそれは人間以上に派手に転げ回った。

「残念だな。機械が人間のマネした所で、人間には及ばない」

 ヘンヨは懐から別の拳銃を取出した。大口径のリボルバー。スレッジの銃だ。それにはある特別な銃弾が装填されていた。
 身体を起こしたベリアルは即座に追撃の体勢を取る。が、攻められない。なまじ人間の思考力を再現しようと造られてる為に、人間同様困惑しているのだ。
 理解出来なかった。スピードも、パワーも、武器も。全てこちらが上回っているはずだ。なのに、当たらない。

「勘や閃きといった概念がお前達にはない。だから、人間のマネ事をしている以上は機械は人間に勝てない」
『戯れ事です』

 高速で再び突進。ジェットトーチの炎はさらに激しく燃え、まるで火の玉が驀進してるかの如く。
 ヘンヨは動かなかった。リボルバーを構えたまま、立ち尽くしていた。今度こそ仕留めた。そう考えたが。

『!?』

 暗闇。
 突然としてベリアルの視界はゼロになる。そのまま壁に衝突したと身体のセンサーが伝えて来る。がらがらと音がした。壁が崩れる音だった。
 だが、視界はまだ戻らない。

『何が……? 何をした!?』

 さらに困惑するベリアルの聴覚に、つかつかと歩み寄る音が聞こえる。ヘンヨだ。
 がりがりと床を擦る音もした。金属で出来た重い何かが、床を削りながらこちらへ向かって来ているのをベリアルは理解する。

『何をした!?』
「簡単だ。ペイント弾だよ。俺の銃だと口径が小さいからスレッジの銃を借りてきたんだ」
『ペイント弾? そんな物で私を倒せると……』
「思ってる訳ないだろう。ただ視界を潰したかっただけだ。誰がお前みたいな化け物とまともにやり合うかって話だ。さて、とどめだ」

 ベリアルの左腕に衝撃。銃撃では無かった。間接部分に、甚大な攻撃が加えられたらしい。
 視界を奪われたベリアルは右手で周りを無造作に払う。だが、手応えは無かった。二度目の衝撃で、左前腕からの信号は途絶える。切断されたのだ。

『何だ! 何をしているんだ!?』
「スクラップ工場を見た事はあるか? どんな頑丈なボディも、こういう攻撃には弱い」

 ヘンヨはさらに攻撃。壁に設置されていた非常用の斧を用いて、それを大きく振りかぶる。
 ベリアルの喉を目掛け、それをフルスウィングする。

『!!?』
「ある意味で不幸だな。生きたまま解体されるなんざ」

 また斧を振りかざす。今度は右肩の間接。それらは確実に、ボディの繋ぎ目を打ち抜く。
 極めてシンプルな、斧での撲殺。

「思ったより頑丈だな。もう一回……」

 衝撃。そして、信号が途絶えて行く。
 立ち上がろうにも、その瞬間に押さえ付けられ不可能だった。パワーは圧倒的に上、しかし、人間同様、バランスを崩されればまともに動けない。
 なぜなら、アンドロイドは人間を模して造られているのだから。

『!?』

 また衝撃。
 暗闇の中。自身の身体が少しずつ、削り取られていく。
 衝撃。右肩から先の信号は途絶えた。
 衝撃。喉に二度目の攻撃。声帯が破損。声が出なくなる。

「マジで硬いなこいつ……。ロケット弾残しておけば良かった」

 ベリアルにはヘンヨの声は届いた。
 それは既に、ベリアルを敵では無く、単なる物として扱っている様子だった。人間の思考力を模倣しているので、ベリアルにもそれは解った。

 そして、人間と同じように考えるが故に、機械でありながら恐怖を禁じ得ない。自分の能力は把握している。負けるはずが無かったのだ。
 だが今、いとも簡単に、あっさりと。その力を発揮する事なく「解体」されている。

『――!?』
「このジェットトーチ、面白いから貰って行くぞ。使う機会が無くて残念だったな」

 喉へさらに衝撃。ぶちぶちとコードが押し潰されて行く。
 動力を伝える骨格部分は頑丈だったので、身体からの反応は全て途絶えたが思考はまだ働いていた。
 音が聞こえる。斧の柄の尖った部分で、頭部を切り離そうとごりごりえぐっている音だ。

「ったく。マジで頑丈だな。仕方無い。少しずつやるか」

 ぶちぶちと聞こえた。機能を奪われ繋がっていただけのコード類が、今度は無造作に引きちぎられたのだ。
 めりめりと音がする。喉の骨格部分の隙間に、斧の柄が押し込まれている。
「これくらい開けば大丈夫か?」

 暗闇。身体からは既に何の反応も無い。
 残る感覚機関は聴覚のみである。それも、間もなく終わる。

「さて、お別れだ。じゃあな」

 衝撃。とうとう骨格に斧の刃が侵入して来た。
 ジェネレーターからの電力供給が鈍る。思考停止の危険が迫る。
 もう一度衝撃。半分ほど食い込んだだろうか。ついに、電力供給がほとんど無くなる。
 三度目。切断。ごろりと音がする。切り離された頭部が床を転げる音だ。
 残り僅か。あとほんの数秒しか思考は維持出来ない。恐怖しながら聞いたのはごろごろという床を転が――

 そこで、ベリアルの思考は停止する。

 ヘンヨはその頭と手土産になりそうなジェットトーチを持ち、階段へと向かう。邪魔する物はもう無い。
 悪魔の名を冠したアンドロイド、ベリアルは、結局何も出来ずに敗れ去る。それを行った者は、淡々とそれをやり遂げた。
 悪魔すら屠る、恐るべき戦闘能力。
 赤い髪が揺れた。
 ヘンヨにとっては何て事の無い戦いでもあった。昔から、この程度の相手なら数え切れないほど壊して来たのだ。時には人間相手にすら、平然と。
 その頃からこう呼ばれていた。

 赤き竜――サタン、と。
 それを敵に回した者に、未来はなかった。今まで、一つの例外も無く。



続く――


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