創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

EXSEED

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irisjoker

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だれでも歓迎! 編集
                 メルフィーが、消えた。


あの日、未来を救うと、護りたいと誓った夜、彼女の姿が、ホテルから消えていた。そして、導いてくれる筈の、スネイルさんの姿も。
俺は死人の様な足付きで、町に出た。全てが胡蝶の夢だったんじゃないかと思いたいが、俺の意識はしっかりと目覚めていて、尚且つ生きている実感もある。
空は晴れず、光も差し込まない灰色の雲が覆っている。飛び交う人の流れが、今の俺にはただただ、苦痛だ。歩く度に当たる肩。嫌だ。一切合切、全てが、嫌だ。
全て夢であれば、全てまやかしであれば、俺は今すぐ楽になれるのに。誰か救いだしてくれ、俺を、この世界から、この夢から。

だが、俺のその願いは、すぐさま打ち砕かれる。
ジャンパーのポケットを探ると、俺は気づく。否、無理やりにでも気付かされてしまう。


                          ヴィルティックが眠っている、白いカード。

                          何もかもが、夢じゃない。何もかもが、現実。


              ―――――――――――――――――――――予告―――――――――――――――――――――――

地球全体を支配する様に全世界で広がりだす、紫色の巨大な積乱雲。同時に巻き起こる災害。津波、地震、落雷、そして―――――――――滅び。
人々を嘲笑う様に牙を向く異常気象。次々と各国が凄まじい傷痕を刻まれていく中、日本も例外ではなかった。
降り注ぐ雹と激震する地上。絶え間なく降り注ぐ雹と、大規模な地震は、建物を、交通機関を、人間を、分け隔てなく傷つけていく。
赤く染まりながら積っていく雹と、終わりの無い地震。どこに向かおうが、何をしようが、救いは無い。

             ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

何だこれ……何なんだよ、これは! 俺は目の前の光景に、避けたくてもどうしても目を避ける事が出来ない。
小刻みに揺れ続ける道路の上で横たわり、沢山の人が……死んでいる。ヒビが入って凸凹と化し、まともに歩けない道路。落ちてきたであろう建物の破片に……。
歩く事さえもままならず、俺は口を押えてそこでしゃがみこんだ。至る所が真っ赤、だ。

道路にペイント弾をぶつけたみたいな、飛び散った鮮烈な赤い……が俺の視界に遠慮なく飛び込んでくる。

地獄……ここは、地獄なのか? 理解できない。世界で、日本で今何が起きているんだ?
もう、もう止めてくれ! 俺は、俺は元の日常に……元の日常に居たいだけなんだよ!

っつ! 頭にポツポツと何かが当たる。大きな……影? 

上を見上げると、何かが落ちてくるのが見える。潰――――――――される?

瞬間、俺は誰かに抱きかかえられたまま、地面に突っ伏していた。俺を助けた人が、顔を上げる……お、お前は……。


「オルト……ロック? 嘘だ……嘘だろ!?」

「落ち着いて下さい、鈴木さん。私は、彼とは違います」

「嘘だ! だって……」


「私の名はバイス。バイスウェア・ベイスン」


「オルトロック・ベイスンの―――――――――――弟です。貴方の保護をすべく、未来より参りました」

「おと……うと?」

          ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「時空が、歪んだ?」
「本来生じる筈の無い事象が起こった事により、その先にある様々な未来……いや、並行世界が融合しようとしているんです」

オルトロックと瓜二つな弟と名乗る男、バイスウェア。彼に護られながらも、隆昭は今何が起こっているかを聞かされる。

並行世界、未来世界、アストライル・ギア、イルミナス、そして、鈴木隆昭。様々なキーワードが織りなす、ある真実。

バイスウェアの登場と重なる様に、地球全体を覆う積乱雲より大量に現れいずる、奴ら。
人間の骨格を彷彿とさせる、細く不気味なフレームと、下腹部に接続され膨らんだ、アイルニトルが内蔵された動力ブロック。
そして両手より発出される赤い光が集束されたサーベル。頭部のグネグネと不規則に動く、機械的な単眼のカメラアイ。

名は―――――――――――――――マリオネット。この時代にはあり得ない、無人型アストライル・ギアという名の兵器。


             ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「駄目です! 対抗できません!」
「第二部隊全機撃沈! 第三部隊、残り一機です!」

巨大なモニター上に表記された戦闘機を表す蒼いマークが瞬く間に消えていく。恐怖と驚愕によってパニックに落ちる管制室。
マリオネットを表記するアンノウンの紅いマークが、モニター全体を紅く染めていく。後方で顔を歪める高官達。

「何故だ! 何故倒せん! 只のアンノウンでは無いのか、アレは!」

「……別の未確認飛行物体を確認しました! 数は……一!?」

             ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「つまり……俺がやるべき事は……」

「……単刀直入に、申し上げます」

「並行世界の貴方と共に、イルミナスをこの世界から、撃退させて下さい」

             ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

黒い閃光を放ちながら、巨大な魔人が、マリオネットの群れを斬り開き、飛翔する。成す術も無く、叩き斬られていくマリオネット。
その戦い方は至極落ち着いており、合理的で無駄が無く、あくまで簡潔に、敵を処断する。
手元に握っている機体サイズ以上に長身な槍を振り切り、魔人は周囲を隙間無く囲むマリオネットを一瞥する。

「数が多すぎる……」

コックピット内で特製のヘルメットを被り、その魔人―――――――オウガの搭乗者である男がそう呟く。
先程から感じている違和感。戦っている場所は変わっていない筈だが、奇妙な感覚が、頭の中を何度も過ぎる。

「……探るか」

男はそう呟きながら、球体に触れている手に、自らのイメージを投影させる。そして―――――――――――。


「――――――――退け」

群がって来るマリオネットを容赦無く、槍の刃で貫き、切り裂き、撃破しながらオウガを急降下させていく。
大見栄を切る動作はしない。腹部を薙ぎ払いながら槍を逆手に持ち返る。肩を回して槍を横向きに突きだしながら、男はオウガの背部から、蒼い粒子を放出させて翼を創り出す。
高速で突き進みながら、オウガはマリオネットの腹部を寸分の狂いも無く両断させていく。立ち憚れば、撃破するのみ。

空中に刻まれた、飛行機雲の様な蒼いライン。そのラインが切れ、灰色の雲を抜けると、一斉にマリオネットが爆発する。
アイルニトルが融爆し、積乱雲を形成する重い紫の雲を散らすが如く、オウガの背後で大爆破し、空を鮮明なオレンジ色へと変化させる。
業火が次第に曇っていた灰色の空を消していく―――――筈も無い。すぐにそのオレンジ色の空は、灰色へと染め返されていく。

途切れる事無く、積乱雲からいずるマリオネット。舌を打ちながら、男が目の前へと目を向け――――――驚嘆する。

「馬鹿な……ここは……過去の……」

             ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『君が、鈴木隆昭君かい?』

白いヘルメットに白いスーツ。体全体に入っている蒼い線が印象的なそれを着た男が、軽妙な語り口で隆昭に話しかける。

「あんたが……並行世界の俺?」
『正解。ま、正確には君が辿ったかもしれない、可能性の延長線上の鈴木隆昭ってとこかな』

騙りながらその男が、ヘルメットを外す。姿を現した男の顔に、目を見開いて驚く隆昭。

「初めまして。昔の鈴木隆昭君。私は鈴木……いや、隆昭・ストレインと言えば良いかな?」

「バイス君から聞いてると思うけど、この世界はイルミナスとかいう奴らが掌握しようとしててね。そこでだ」

ストレインはそこで顔を引き締めて、隆昭に鋭い眼光を向けながら、言い放った。

「私と共闘してほしい。この馬鹿げた企みを阻止できるのは、私……いや、私達しか出来ない」

                  ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

マリオネットの頭部を単眼ごと貫いてブッ刺し、力一杯握り潰す。どす黒い液体が血の用に纏わりついて、その手を汚す。
構わず頭部を掴んだまま、その機体は回転しながら周囲のマリオネットを巻き込むと、纏めて叩き落として爆発させる。

「下らねえ……」

コックピット内で、額から右斜めに掛けて大きな切り傷が出来ている、隆昭に良く似た、しかし決して隆昭とは似ていない男が満足げな笑みを浮かべる。
その目には暗い光が映っており、黒髪には紅いメッシュが深々と入っている。隆昭にも、ストレインにも、ましてやオウガに乗っている男とも違う――――――何者なのだろうか。
機体も鮮血を思わせる真紅に黒いラインが入っており、尚且つ、両手はカギ爪となっており、鈍い光沢を見せる銀色の5つの刃には、液体が滴っている。
唯一、共通する点は――――――――――その機体が、オウガに酷似している事だ。

「行くぞ……黒蝶」

背部から赤い粒子を放出させながら、禍々しい翼を成型し、その機体―――――――――黒蝶は両腕を大きく広げて大鷲の様に飛翔する。
その時だ。コックピット内に、幼い少女の声が響いた。

『新しい敵、来る』
「あぁ?」

機体を反転させ、男はその新しい敵とやらを迎え撃つ為に、翼を瞬かせて急高速で雲を切り裂きながら敵へと向かっていく。
その敵の姿が次第に明確となっていく。大きな槍を持ちながら、前方に居るマリオネットを切断していくその機体を見―――――男が僅かに反応を示す。

「黒蝶を……真似ている?」

黒蝶の姿に酷く似たその敵機体が、槍を持っている右腕を大仰に振り上げると、躊躇する事無く斬りかかってきた。
黒蝶は慌てる動作も無く、冷静にカギ爪で槍を受け止める。共鳴する様に鋭い金属音が空に響き渡り、黒い閃光と黒い閃光がぶつかり合う。どちらにも、引く気配は無い。
その共鳴が攻撃せんとする周囲のマリオネットに内蔵された電子機器を、次々と痺れさせ、機能を停止させて自壊しながら下の海面へと落ちていく。

「何だコイツは……だが、敵意を感じない……?」

すると組み合ったまま、敵がコックピットを開けて滑る様に移動すると、信じられない跳躍力で、カギ爪へと飛び跳ねて着地した。
このまま振り落としてしまえば労せず勝てるが、男は何故かその敵の事が気になり、モニターをズームさせた。

『聞こえるか。私の名はハクタカ。恐らく……否、並行世界のお前だ』
「ハク……タカ?」

ハクタカと名乗る男はそう言いながら、被っている奇妙な造形のヘルメットを外した。
――――――――――――男の瞳孔が、驚きの為か若干大きくなる。ハクタカは男を見つめながら、言葉を紡いだ。


「事態は未だ理解できん。出来んが、一つだけ言える事がある」

「お前と私は手を組まねばならない様だ。この世界から、脱する為にはな」

                   ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「……無理だよ。無理だ! もう俺は……戦いたくないんだ!」

本音だった。只でさえ、訳の分からない事に巻き込まれた挙句、その訳の分からない事に巻き込んだ張本人が居なくなった上にまた戦え?
どこまで俺を苦しめる気なんだ! あんた達が何かは知らないが、俺はもう戦いたくも無いし、関わり合いたくも無いんだよ!

「……うーん、困ったなぁ。けど君の代わりは……」

そこまで言いかけて、ストレインの顔つきが変わった。それに何処を見ているのか、俺の背後を……。
ハッとして振り向くと、見た事も無い、10メートルくらいありそうな大きくて気持ちの悪いロボットが、俺達を観察しているのか眼に見えるカメラを赤く点滅させながら見下ろしていた。
に……逃げなきゃ……けど、足が動かない。萎縮してんだ。怖くて。俺はその場で尻餅を付いて、そのロボットを見上げるしかなかった。

「あぁ……あぁぁ……」

「バイス君、悪いけど頼んだよ」

何時の間にか、ストレインが俺とバイスウェアの前に立つと―――――――――――ヘルメットを被り直して、そのまま走り出して、ロボットに向かって飛び跳ねた。
右足で力強く地面を蹴り上げると、体を逸らしながらストレインは驚くべき事にロボットの頭上まで上昇した。そして体を丸めて回転しながら、ロボット目掛けて落ちていく。
呆然と眺めていると、ストレインは丸まった体を戻して、絶叫しながら左足を伸ばして、ロボットのカメラに向かって勢い良く飛び降りた。

『流星粉砕拳!』

斜め一直線に、ストレインの体がロボットの頭部を貫いた。落ちてくる、カメラのレンズ。
ストレインが着地して立ち上がると、そのロボットが糸の切れた人形みたいにふらふらしながら、仰向けになって倒れた。
……すげぇ。こんなデカイ奴を生身で倒せるなんて……何者なんだ、この人……。

「鈴木さん、しゃがんで!」

バイスウェアの声に吃驚して慌ててしゃがむと、俺の髪の毛上部スレスレを、冷やっとした感触が過ぎった。
さらさらと道路に落ちる、髪の毛。な……これって……ナイフ? それとも日本刀? 激しく肝が冷えてくる。

『バイス君!』
「分かりました!」

バイスウェアに手を引っ張られて、俺は無理矢理でも走らされる。でも拒否はしない。ここにいれば、死ぬ事は分かってるから。
けど――――――――。俺は声を張り上げて、ストレイン……いや、ストレインさんに、伝える。

「死なないでください!」

ストレインさんは無言で、俺に親指を立てた。

             ―――――――――――――――――――――――――――――――――

倒せども倒せども、無尽蔵にマリオネットは湧いてくる。多少の諍いを起こしながらも、ハクタカとシンと名乗った黒蝶のパイロットは共闘し、マリオネットの軍勢を撃破する。
しかしどれだけ戦おうと、全く終わりは見えない。オウガと黒蝶は背中合わせになり、シンは歯軋りすると、ハクタカへと声を掛けた。

「ハクタカァ! このままじゃ埒が明かねえぞ!」
「分かっている……」

シンの言葉を、目を閉じて聞くハクタカ。決意を固めたのか、静かに目を開くと、シンへと返答した。

「一気に―――――――――片を付けるぞ」

瞬間、オウガの右腕を覆っている追加装甲を装った拘束具が各ブロック毎に分離して、虚空へと弾き飛んでいく。
蒼い光が集束して作り上げている、光の右腕。ハクタカはその右手に握る槍―――――――ヴィルティック・ランサーに、光を伝達させる。
ヴィルティック・ランサーが右手、もとい右腕に飲み込まれる様に融合していく。事態を察したのか、マリオネット達がその場から撤退しようと背を向けて飛んでいく。
右腕その物を巨大な蒼い両刃へと変化させて、ハクタカはオウガの右肩をゆっくりと回した。。

「エクステッド……」

「……面白ぇ」
シンはそう言って口元にニタリと笑みを作ると、翼をはためかせながら黒蝶を急上昇させる。
黒いラインが毒々しい赤紫色へと変わると、黒蝶は両手を天高く振り上げた。掌に溜まりながら肥大化していく、赤黒い光の球体。
モニター上で数え切れないほどのロックオンサイトが、マリオネットの姿を捉える。シンは大きく口を開けると、笑いながら、言った。

「塵も残さず……消えちまえ!」

「ヴァースト!」


オウガの蒼い両刃が、撤退しようとするマリオネットも、攻撃せんとするマリオネットも、目の前の全てのマリオネットを巻き込んで無へと還えていく。
マリオネットはおろか、灰色の雲全体さえも切り裂く巨大なその両刃が、次第に輝きを失いはじめて、ひっそりと消えていく。
空が見えなくなるほど大量のマリオネットの姿が、一機も残らず消えている。あまつさえ、斬り引かれた雲から、太陽の光が差し込んでくるほどに。

思いっきり両腕を下ろして、黒蝶はマリオネットに向かって球体を放る。
途端、球体は拡散しながら枝分かれして細いビームへと形を変えると、流星群の如く、マリオネット達を貫き破壊していく。
膨らんでは、花火の様に爆発していくマリオネット達、海面へと着弾しながら消えていくビームの流星群。全てが止んだ時、そこは、ただの空。

「中々やるじゃねえか、ハクタカ」
「……お前もな」

<その程度で終いか! 人間!>

晴れた筈の空を、再び覆いだす積乱雲。やがて、金色の光を放ちながら、「それ」が二機の前へと腕組みをして降りてくる。

「何だ? 新手か?」
「……違う」

「奴は……まさか!」

                     ――――――――――――――――――――――――――――――――――

「まさかこっちの世界にまで追ってくるなんてね……しつこい男は嫌われるよ」

ストレインの目の前に降り立つ、強大な雰囲気を醸し出しながら着地する、一人の―――――――――少年の姿の様な、男。

「言わなかった? 私、ダーリンが生きてる限り……」

その姿に見合う、恐ろしく鋭利な刃が蛇腹となって付いている鞭の柄をくいっと上げると、その男はにっこりと笑顔で、ストレインに言う。

「絶対に、死なないって」


「なら、ここでその縁は終わりだ」

ストレインがヘルメットに掌を触れた途端、各部の装甲が展開しながら、蒼い粒子を瞬かせて腕や背部、両足から青色の翼を形成する。
そして目の前の男に対して挑発する様に右腕を突き刺し、人さし指を曲げる。

「来なよ。私はレディに対してはお手柔らかに対処するが」

「男には容赦はしない。覚悟を決めろ」


「やっと本気になってくれるんだね……ダァァァァァァァァリン!」


                    ―――――――――――――――――――――――――――――――――

「事態は……把握できましたか?」

俺達は近くの廃墟へと逃げ込み、一先ずマリオネット……って名前らしい、あのロボットから身を隠す。
俺はバイス……バイスウェアさんから聞かされた事がおぼろげだけど、理解してきた。
時空が大変な事になっていて、世界でとんでも無い事が起きている事、そのせいで、沢山の人が……死んで、いる事を。

「……正直まだ怖い。怖いけど」

「俺が、やらなきゃいけないんだよな」

バイスウェアさんは俺の言葉に頷くと、ズボンから何かを取り出して、俺に手渡してきた。
俺はそれを受け取る。……5枚の、カード? 顔を上げると、バイスウェアさんが言った。

「ヴィルティックの性能を限界まで高める……エクシード・ヴァースト・アイテム、略してEDAです。
 そのカードでヴィルティッ」

その時、俺は異様な殺気を感じてその方向に顔を向けた。何か……巨大な何かが、俺達に銃を――――――――――――――。

「バイスさん!」

叫んだ時点で、もう、遅かった。気づいた時には、俺は壁に強く背中を強打して、その場でうつ伏せになった。
死にそうなほどの痛みを感じながらも、根性でどうにか立ち上がる。目の前で俺の影を隠す程の、大きな、影。

見上げて、声が出なくなる。そこには、灰色の……ヴィルティックに似てる、けど……上手く言えないけど、違う、そんなロボットが、俺を見下していた。
呆然と見上げていると、そのロボットが片膝を下ろして、コックピットが開く。自然に高まっていく動悸、心臓の音。何だ……何だ、この不安……。


「目標を発見。排除を開始する」

―――――――――――――――――――――――ある意味、一番、聞きたくなかった声が、俺の耳に響いた。


「……メルフィー……なのか……」

その子は何も言わない。何も言わずに、俺に銃を向ける。なら……。

「……俺が」


「俺が……救ってやる! メルフィー……お前を!」

                      ―――――――――――――――――――――――――――――――――

「……奴が、俺達の敵……なのか」

腕を組み、こちらを見据える黄金の機体。それに対する様に揃い踏みする、三機の、ヴィルティック。

オウガ、黒蝶、そして―――――――――――――――――――――ヴィルティック・ヴァースト。

「私達が全力でサポートする。鈴木隆昭。君がやるんだ」
「ハクタカはともかく手前に協力する筋合いはねえが……あの成金野郎にやられた分は、きっちり代えさせて貰うぜ」

黄金の機体の腕で、自らの腕を組む、全身を厚き鎧と仮面で隠した「それ」の搭乗者が、三機に対して言い放つ。

<我が名はネクスト。全ての時空を掌握し、人類の進化を促す者なり>

<様々な時空で貴様らは抵抗している様だが……笑止。人間は皆、我の支配に従えば良い>

<軟弱な貴様ら人間が幸福を得る手段は……我に付き従う、それだけだ>

「黙れ! 貴様に支配される程、人類は愚かでは無い!」

「何が目的はかは知らねえが気に入らねえんだよ、手前。塵一つ……残さねぇぞ!」

目を閉じる隆昭。やがて、ゆっくりと目を開けて、手元にあのカードを握る。


「俺が……」

「いや、俺達が成すべき事は只一つ」

そしてカードを、モニターに向けて一枚ずつ、挿入していく。

背部より広がる、騎士を思わせる赤く靡くマント。頭部を覆う、一角獣を彷彿とさせる角が生えたヘッドギア。
胴体と手足へと収まっていくレリーフが施された強固な追加装甲。そして、ヴィルティックよりも巨大な両刃の大剣。

その大剣を掴み、黄金色の機体を見据える、隆昭。


「奴を、倒す。それだけだ」


組んでいる腕を解き、黄金色の機体へと乗り込む、ネクスト。


<来い、人間ども! 貴様達の―――――――――――――――――――存在意義を掛けて!>


飛んでいくヴィルティック三機。ヴィルティック・ヴァーストが、大剣を振り上げる。

「超える! 全てを、この拳に―――――――――――――!」
――――――――――――――――――ロボット物総合SSスレ 30号機突破記念作品予定―――――――――――――――――――――



                              ヴィルティック・シャッフル

                                   EXSEED


                   ――――――――――――時を超える、一筋の流星―――――――――――――――――


                               「……スネイル……さん」


                     「ごめんね、隆昭君。私は――――――――――強い人の、味方なの」



                        「オルトロックが本当に悪だと、誰が決める?」

                        「本当の悪は、お前自身じゃないか? 鈴木、隆昭」



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