創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

白鷹

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irisjoker

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――――――――――――――――この物語はあくまで一片に過ぎない――――――――――――――――

残骸。かつて人という生き物がそこで生き、住み、子を託しては死んでいった……その残骸の山を、男は歩く。
無慈悲な破壊と死、暴力によって崩落し、消えていった人々の居住区は、月日を得、コンクリートによる灰色の砂漠となる。
歩く度に感じる死者の無念を、男はその足元でひしひしと感じ、静かな怒りを燃やす。その怒りの対象は―――――――――イルミナス、なる組織。
イスミナスを自らの敵と認識し、須らく滅する事こそが、男の存在意義であり、生存証明である。

今日も一人、男は黒色のロングコートを深く羽織り、頭部にフードを被って灰色の砂漠を一歩、一歩と踏みしめていく。
フードから見える男の目は暗く、しかし暗さの中には、確固たる意志を現す焔が消える事無く燃えたぎっている。
男のズボン、腰の部分にはホルスターが付けられており、ホルスターの中には、角ばった奇妙なデザインの拳銃の様な物が収められている。
首筋に右手の人さし指と中指を当てて、男は少しだけ天を見上げると固く閉じていた口を開いた。

「ポイント1904576に到着する。スネイル」
『こっちでも確認したわ。存分に』

首筋から右手を離し、男は俯くとロングコートを翻し、ズボンのホルスターに手を伸ばした。そして収まっている拳銃の柄と引き金へと手を掛ける。
ゆっくりと、ホルスターから拳銃を引き出し男は拳銃の銃身に向かって、一字一句小さく、だが、力強く唱える。

「トランス、インポート」

その途端、男の握っている拳銃の銃身が左右に分割する様にスライドし、ガチャリと音を立てて固定されると、中から蒼く発光するもう一つの銃身が伸縮し、姿を現す。
蒼い銃身の中にはうっすらと、メカニカルな機械部分が精密に詰まっている事が分かる。男は拳銃を自らの頭部へと拳銃の銃口を当てる。
精神を統一しているのか、男は目を閉じると、引き金に掛けている指を引くと同時に、目を開け、言い放った。

「変身」



                                  白鷹



今より遠く――――――――しかし近いかもしれない、未来。人類は何時頃からかある組織によって現在のみならず、未来でさえも蹂躙され、掌握されていた。

その組織の名はイルミナス。ネクサスなる重厚かつ強固な鎧を纏いし謎の存在を首領として君臨する、全てにおいて圧倒的な力を持つ組織。
イルミナスはどんな非人道的な行動さえも厭わぬ機械の兵士と、イルミナスという組織の思想に共感、ないしは感銘を受けた人間によって成形されている。
世界が気付かぬうちにアストライル・ギアなる巨大人型兵器を大量に所有、開発し、イルミナスはその期を見計らい、一気に世界、そして人間に対して反旗を翻した。
無論、人間かて黙して支配を受け入れた訳ではない。抵抗はした。したのだが。

人間が所有している従来の兵器……戦車や戦闘機が、アストライル・ギアには一切通用しなかった。只、それだけだ。

ネクストは宇宙に全世界が標的と成し得る大火力を持つ、巨大なアストライル・ギアを配備。見せしめとして主要各国を焼け野原へと変えていった。
その圧倒的すぎる戦力差に、絶望を見た人々は次々とイルミナスの軍門へと下っていく。中には女子供もいたが、イルミナスは容赦なく利用する。
同時に、イルミナスはマリオネットを始めとした無人兵器の開発にも力を注いだ。異常な物量と、抗い、反抗する気力を根こそぎ奪い取る武力。
イルミナスが人類を支配の炎で包んでいくのも時間の問題、かと思われた。しかし。

未だ希望を捨てぬ人々はイルミナスに対し抵抗する事を止めない。
独自に開発したアストライル・ギアと、イルミナスに悟られぬ様、隠蔽された戦力を使い、人々は必死に、イルミナスから人類を取り戻さんと剣を奮い、銃を撃つ。
だが、あまりにも開き過ぎている戦力差に、人々は防戦一方に成らざるおえなかった。
散っていく人員、消耗していく武器。擦り切れていく精神。最早救いは無く、支配を受け入れるしかないのか――――――――――。

だが、人々が希望を見捨てても、希望は人々を見捨てはしなかった。

突如として現れた、所属不明の黒き機体。その機体は異様なまでの機動性と戦闘能力で、イルミナスの群と互角に渡り合う。
同時に黒き機体は人々へと加勢。窮地かと思われた戦況を一瞬で覆す程に、黒き機体の強さは今までのアストライル・ギアの比では無かった。
黒き機体の力に押される様に今まで潜伏していた反抗勢力が徐々に徐々に集結しあい、やがて地下を拠点に、一つの組織へとなるが、それはまた別の話。

黒き機体の出現と共に、人々の間でもう一つ、ある希望が舞い降りた。
その希望は不思議な戦闘スーツに身を包み、蒼い二つの目を光らせてイルミナスの対人兵器を瞬く間に殲滅する、ある一人の男―――――――――。

その名は、ハクタカ。ハクタカの存在は、満足に戦う事も出来ず、生身でイルミナスへと抵抗する者達が抱く、一種の伝説と化していた。


ポイント1904576。数年前までは様々なビルが立ち並び、人が自らの人生を謳歌し、幸福に満ち溢れていた、所謂都会と呼ばれた場所。
しかし今では、イルミナスの侵攻によって人もろとも何もかもが破壊され、潰され、見るも無残な廃墟―――――――灰色の砂漠へと形を変えていた。
虚無と硝煙、絶望と廃墟しか無いその場所で、4人の茶色く薄汚れ、所々がボロボロに擦り切れた軍服を着た男達が、廃墟の断片に身を隠して障壁としながら、迫りくる恐怖と戦っていた。
短機関銃を隠れて撃ち、隠れては撃ちながら、右足に包帯を巻いた男が悲痛な叫び声を上げた。

「クソッタレ! 撃っても撃っても効きゃあしねえ!」

右足はそう言いながら足元に転がっている予備の弾倉を充填すると、若干断片から覗き見る様に体を傾け、引き金を強く押し込む様に引く。
右足の横には、左目に包帯を巻き、右足と同じ短機関銃を伸ばした両足の間に立てている男。その横には大柄で屈強な図体に、頭にバンダナを巻いたバズーカ砲を持つ男。
一番左端には、右足、左目と同じく短機関銃を持ち、開いた瞳孔から涙を流しながらガタガタと震えている男。この4人は皆、同じ抵抗勢力の一員である。

事の発端は数時間前に遡る。

元々この男達は最初から4人ではなく、30人ほどの部隊だった。救援要請をキャッチし、複数でジープに乗り込み、その通信の発信源へと向かっていた最中だった。
だがその途中、自分達の存在に気付いたのか、上空から4機のロボットが着地してきたのだ。考えるまでもなく、イルミナスの。
最初は勝てると思っていた。何故ならその30人はイルミナスの対人兵器とは数年以上も前から渡り合っており、何時も通りのセオリーで十分破壊できると思ったからだ。

結果は4人を残し、全員殺害された。落ちてきたその対人兵器は、今までのセオリーとは全く違う、言わば新型兵器だったからだ。
人の形をしたその新型兵器は、腕部に備わった銃火器で次々と仲間達を人だったモノへと変えていった。
4人は死に物狂いで抵抗した後、この廃墟へと各々怪我をしながらも逃げ込んだ。だが、新型兵器は四人をしっかりと追尾してきた。

今までのイルミナスの対人兵器には多かれ少なかれ、共通した弱点があった。頭部に点滅するカメラアイがあり、そのカメラアイを破壊すれば即座に沈める事が出来た。
だが、あの新型兵器は違う。頭部はヘルメットの様に一面がマスクの如く覆われており、カメラアイがどこにも見えない。それに胴体部分。
今までの対人兵器なら連続して射撃による攻撃を与えれば何かしらのダメージを与える事が出来た。だが、今対峙している新型兵器はどうだ。
自分達が持っている短機関銃など意にも介さない程、高い強度を保っている。それに、だ。

バンダナが持っているバズーカ砲の砲弾にも当たらないほどの俊敏性を併せ持っている。敵う筈がない。

「援軍は……援軍は呼ばないのか」
「来た所で皆殺しだ。アレは……キルラットとは比べ物にならない……!」

左目の提案を、右足が悔しさからか血が出るほどに舌唇を強く噛んで、弾倉が尽きた短機関銃を地面に叩き付けた。

「……これが、最後の賭けだ」

後部に最後の一発である砲弾を詰め、スコープを起こしバンダナがバズーカ砲を肩に担ぎ直す。
そして歯を食いしばりながら疲労で鈍く重く感じる体を起こしながら立ち上がり断片の方を向くと、荒いでいる呼吸を押えながら、一気に飛びだした。
狙いを正面に、こちらに向かって横一列で歩いてくる新型兵器に付けて、ギリギリまで待つ。タイミングが、合った。

「吹き……飛べぇ!」

バンダナが引き金を引いた瞬間、最後の砲弾がバズーカ砲の砲口から白い煙を蛇の様に蠢かせながら新型兵器へと伸びていく。
バンダナが急いで断片へと隠れて耳を塞ぎ、他の三人も耳を塞ぐ。

地面が揺れ、鼓膜が破れたのかと一瞬錯覚するほどの爆発音が響く。断片の向こう側からでも、爆発による熱量を感じる。
着弾地点から紙風船の様に膨れ上がった爆発の炎が天へと昇っていく。耳の奥でまだ、爆発音のエコーが軽く響いて痛い。

「……やったか」

立ち上がって恐る恐る、断片の上から四人は新型兵器の様子を見極める。あれだけの熱量だ。無事では……。
業火の様に燃え盛る、炎のカーテンから新型兵器は、何事も無かったかのように堂々と歩いてきた。
バンダナの手元からバズーカ砲が、落ちる。力無く、四人は断片に背中を寄り掛かった。……否、一人だけ、違う。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
一番左端の男が涙と鼻水を垂れ流しながら、狂乱して新型兵器へとバタバタと足をもたつかせながらも走っていく。
右足が慌てて制止させようとしたが聞こえず、短機関銃を振り回しながら乱射して突っ込んでいく。
新型兵器は反応を見せる事無く、男に右腕を上げると手首から銃口を引き出して男に向かって撃ちだした。

右足が男の名を叫ぶ。男はありとあらゆる物を新型兵器の銃弾によって曝け出しながら、死んだ。蜂の巣となった男の顔は、もう男だと分かる原型は留めてはいない。

「御終い……か」
左目が短機関銃を倒して、自嘲しているのか、へらへらと笑った。左目の表情に右足の顔が強張る。

「もう終わりだ。せめて神に折るくらい、罰は当たんねえだろ」
「馬鹿野郎!」

右足がそう言って左足の襟首を掴んだ。その顔には如何するべきかを苦悩しながらも、決して諦めたくないという意思が見える。

「俺達は……俺達にはまだ、死ねない理由があるだろ! 奴らに復讐するまで……俺達は!」
「ならどうする! 現に仲間は全員奴に殺され、武器は尽き、目の前であいつは……あいつは……」

左目が顔を深く俯かせ、右足の手を振り払う。どうしようもない、間が流れる。

「なぁ……」

バンダナが虚脱したのか、虚ろな目つきで空を見上げて、言った。

「……諦めようぜ。所詮、俺達には無理だったんだよ」
「お前……!」

バンダナはズボンの後ろポケットからその大きな手に比べてとても小さいロケットの蓋を開けた。
中には幸せそうに笑顔を浮かべる美人の女性と、その女性の膝元で無邪気な笑みを浮かべる、女性によく似た少女の写真が入っていた。

「あの日から……俺は死んでんだ。俺にはもう……何も、無い」

右足が歯軋りして、バンダナの前にしゃがんで肩に手を乗せた。どう言えば良いのかを悩んだ挙句、右足は顔を上げた。

「……諦めるな。奴らを、イルミナスを倒す事が、俺達……いや、俺達が大事にしてた家族への……」
「分かっている」
「なら……」

「分かっているが……無理、なんだよ。俺は……」

バンダナが目元を両手で覆う。両手からは少量の水が零れては、地面を濡らした。

「俺はもう……限界なんだ……頼む、もう……逝かせて、くれ……」

と、何かが起動する音がして右足は断片から頭を出し、新型兵器に目を移す。何故か新型兵器は四機とも、動きを止めていた。
だが、その中の一機の胴体が左右に開くと、バンダナが所有していたバズーカ砲以上に大きな砲口が右方向に回転しながら伸縮してきた。
両手を握ると共に、砲口が警告と言わんばかりに紅く激しく光り出す。光が集束している……? と思った途端、右足の背筋が一瞬で凍る。
ビーム兵器……! もし撃たれたら、恐らく今隠れている断片ごと消滅する。右足は寄り掛かっている二人に叫んだ。

「逃げるぞ!」

しかし右足の絶叫に左目も、バンダナも反応しない。死んだ魚の様な目で項垂れているだけだ。
そんな二人に右足は畜生と目を強く瞑りながら、左目の短機関銃を拾い上げて目を開いて前を向き、スコープを引き出す。
紅い光が右足、否、三人を照らしつける。右足の目から無念さからか一滴、二滴と涙が零れては、落ちる。

「ちくしょう……ちくしょぉぉぉぉぉぉぉ!」

どれだけ撃ちこんでも短機関銃から放たれる銃弾は吸い込まれるように消えていくだけだ。反して新型兵器の砲口は更に輝きを増す。
本当に……本当に、これで終わりなのか? 右足は撃ち尽くした短機関銃を放り投げた。
紅い光に包まれていく、断片と三人。何も出来なかった。全く……何も。


ごめん、桂子、誠。お父さん……お前達の……所へ……。


時が、止まる。新型兵器から巨大な剣の様に伸びていく赤紫の過粒子砲が、三人のいる断片へと飛んでいく。



その、瞬間。何かが、過粒子砲と断片の間へと閃光の様に入り込んだ。


左の掌を過粒子砲に向け、右の掌を断片に向けたそれは、凛とした水面の様に静かな声で、呟いた。

『アイルニトルを全面フィールドに特化しつつ、迎撃する』
<了解。スペクトラフィールド展開。及びバキュームアームズ同時展開>

途端、両手の掌から蒼く、半透明な薄い膜のシールドが覆った。そのシールドは外見に反して新型兵器の過粒子砲を完全に防ぎきる。
次第に過粒子砲はそのシールドで球体となる様に抑え込まれては吸収されていく。それは徐々に、左手の掌を閉じていく。
やがて球体が、それの掌に収まるほどに小さくなっていくと、瞬時にシールドを解除しつつ、それは球体を掴んだ。
そして砲丸投げの様に凄まじい勢いで回転しながら、新型兵器に向かって閉じている左手を、開いた。



時が、動き出す。それの掌が紅く光り出し――――――――――――。

『伏せろ』

それの声がはっきりと、三人に耳に響く。三人はそれの声に咄嗟に我に返ると、すぐにその場に伏せた。
それの掌から若干細いものの、新型兵器が放った過粒子砲と同じ物が、新型兵器の胴体目掛けてぶち込まれる。
新型兵器は何が起こったが認識できず、視界がブラックアウトした瞬間、爆発した。

それは細身の外見とは思えない怪力で三人を連れだしつつ、廃墟を飛び跳ねながら断片から幾分離れた場所へと移動すると、三人を下ろした。

『奴らの狙いを変えた。お前達は今すぐ救助要請を行いつつ、ここから離脱しろ。質問は、しないでくれ』

それの声が聞こえているものの、三人は呆然とそれの姿を見上げていた。
それの姿は白く細身のライダースーツに血管の様な蒼いラインが入っており、頭部には緑色に光る、聡明なツインアイ―――――――。
呆然と見上げていたが、その内ハッとして、右足がそれに聞いた。

「あ、あんた……ハクタカ……あの、ハクタカなのか!?」

それ――――――――否、ハクタカは何も答えずに、腰部のホルダーに立て掛けた黒い銃身が美しい光沢を放つ、専用の大型拳銃、ケルベロスを取り出した。
銃身の部分をまっすぐに起こし、銃口から蒼いビームによって成形される光の刃を発出する。引き金を引く事により、その刃はハクタカの足ほどの大きさまでに伸びていく。
するとハクタカはどこからか小さな何かを取り出し、バンダナの手に握らせた。

『忘れ物だ。お前の大事な物だろう』

バンダナはそれを受け取った。それは、イルミナスの手により失った妻と娘の写真が入った、あのロケットだった。

『生きぬけ。お前は妻と娘の分まで惨めでも、愚かでも良い。生き続けろ』

『それがお前自身がイルミナスに出来る唯一の戦いであり、妻と娘に対する、最高の恩返しだ』

バンダナにそう言い残し、ハクタカは吹き荒れる砂塵と共に、その場から姿を消した。
右腕と左目はハクタカの姿を探すものの、ハクタカの姿はどこにも見えず、また存在も感じ取れない。
バンダナはハクタカから受け取ったロケットを両手で目を瞑って抱きしめると、目を開けて、ロケットをポケットに忍び込ませた。

その目から涙は枯れており、代わりに生きる意志を感じさせる炎が、しっかりと燃えている。

「……行こう。石田、室井」

バンダナ――――――大田が、右足―――――石田と、左目――――室井にそう呼びかけた。
石田と室井は太田の言葉に顔を見合わせると、太田に顔を向け、力強く頷いた。

「……あぁ。行こう」
「行こうぜ、太田」


ハクタカを探し、新型兵器が廃墟内を疾走する。新型兵器の動きは重そうな外見と裏腹に非常に俊敏で、かつ軽快である。
また、頭部内の電子機器は人間の聴覚・視覚・嗅覚機能を参考にしながらも限界まで機能を高めており、標的が何処に逃げ込もうとその三点を使い、確実に追いつめる。
新型兵器―――――ブラックヒューマン(以下、BF)はハクタカを追跡する。その時だ。
聴覚を疑似的に再現したウェスパーイヤ―が、何かの音を掴んだ。この音は……瓦礫だ。瓦礫が地面に落ちていく音。

立ち止まり、その音がした方向へと視覚、ウェスパーアイを拡大させる。捉え――――――た。

BFは腕部の銃口を両方引き出して、ハクタカに向かって速射する。明らかに人間には回避できないスピードで撃たれる弾丸を、ハクタカは軽々と回避する。
BFのモニターには捉えた筈のハクタカの姿が全て残像となる。あり得ない。残像が出来るほどの速さで動く事など、普通なら――――――だが、ハクタカはそれが出来る。
ヘルメットに手を当て弾丸を前弾回避しながら、ハクタカは唱えた。

『ウィア―ドワイヤーを使う。それと重力を解除しろ』
<了解。ウィア―ドワイヤー召喚、並びに重力制御解除>

瞬間、ハクタカの手の甲に楔型のナイフが実体化する。ハクタカはケルベロスを左手に持ち替え、右腕をBFに向かって勢い良く振り下ろした。
ナイフと共に射出される、黒く太いワイヤー。
ナイフはBFの銃口を正確に貫く。ハクタカはそのままの勢いで、BFを引きずり出しながら、全身の力を一時的に増幅させる。

『ぬぅぅ……ふんっ!』

そして百キロ以上はあろうBHを空中へと放り投げる。宙を舞う、BH。予想だにしない事態にBHは攻撃する事が出来ない。
続けてワイヤーを握り、ハクタカはBHを高速で回転させる。凄まじい遠心力からBHを構成する装甲部分が剥がれていく。
やがてBHの姿は異常な遠心力によって内部ごと消滅し、蒼く眩い円となった。ハクタカはあえてその円を回し続ける。残りの二機を、おびき寄せるために。

ハクタカの狙い通り、残りの二機のBHがハクタカを見つける。ハクタカは臆する事無く、その二機へと言い放った。

『さぁ、撃って来い。俺は逃げんぞ』

ハクタカの挑発に乗った訳ではなく、標的を見つけた場合、BHはすぐさま排除する事をプログラムされている。
腹部が展開して狙いをハクタカへと絞る。あと数十秒で、ハクタカに前門と後門から過粒子砲が撃ち込まれてしまう。
と、ハクタカは左手で持っているケルベロスを振り被ると、刃のサイズを調整し、前門のBHの頭部目掛けて振り抜いた。発射準備に入ったBHは動けず、銃身ごと突き刺さる。

同時に左腕の手の甲に召喚されたウィア―ドワイヤーを、後門のBHの頭部へと伸縮させ突き刺す。
両足で地面を付いて、ハクタカはその場から飛び上がって宙返りした。発射準備が整い、二機のBHが同時に過粒子砲を発射させた。
ハクタカの真下で互いの砲口に向けて過粒子砲をぶち込んだBHが、ワイヤーを切断し、ハクタカが着地した瞬間、爆発する。

巻き上がる焔を背に、ハクタカはヘルメットに手を当て、彼女へと通信を入れる。

『確認されたブラックヒューマンは全て撃破した。反応は? スネイル』
『……ちょっちまずいわねぇ。流石黒いだけ合ってゴキブリみたい。ワラワラ湧いてきたわ』

気づけばハクタカの周辺を、大勢のBHがぐるりと囲んでいた。軽く見積もって二十機以上。
ハクタカは拾い上げたケルベロスを拳銃へと戻すと、再び彼女へと通信を入れる。

『面倒だな……』
『まぁでも、マリオネットは確認されてないからまだ楽じゃない?』
『……気軽に言ってくれる』

じりじりと詰め寄って来るBH達。ハクタカは彼女のその言葉に軽くため息を付くと、どこからか二枚のカードを取り出した。

『サーフを使う。活動限界時間は?』
『持って3分ね。まぁ、ブラックヒューマン相手に君がそんな時間掛かるとは思えないけど』
『了解した』
『頼んだわよ、一筋の流星』

彼女との通信を切り、ハクタカはケルベロスの上部の細い溝に、持っている二枚のカードを通した。
ヘルメット内の女性の声が、カード名を告げる。

<トランスインポート・天照>
<トランスインポート・エレクトラサーフ>

女性の声を聞くと共に、ハクタカはケルベロスを放り投げた。
ケルベロスが稲妻の様に蒼く鮮烈な閃光を放ち、BF達が危険を感じて後ずさりする。
空中でケルベロスは分離していくと、拳銃から全く違う形へと姿を変えていく。分離したパーツ同士を繋ぐ様に、シールドと同じ薄い膜が何層にも渡って張られていく。
やがて分離したケルベロスはハクタカの前へとゆっくりと降りてくる。その姿はさながら、大波に乗る為のサーフボードを彷彿とさせる。


『はっ!』

走り出してケルベロスを投げ、ハクタカはその上に飛び乗った。ケルベロスを回転させながら丁度良く吹き荒んできた風に乗る。
ハクタカの背中に黒くシックな黒調の鞘に入った日本刀が召喚され、ハクタカは鞘から銀色に聖なる光を灯らせる日本刀―――――天照を抜刀する。

『遅いっ!』

自在に風に乗りながら、ハクタカは次々とBHを切断していく。急降下しながら視界に入るモノ全てを、何の迷いもなく。
斬り裂きながらもハクタカはケルベロスで高速で周回しながらBH達をある一点に巻き込んでいく。

周回するに狭くなっていく円。否、それは円ではなく、風。ハクタカは疑似的に竜巻を発生させ、その渦にBF達を巻き込ませていく。

<エレクトラサーフ 残り30秒>
『時間を掛け過ぎたか……まぁ良い』

ツインアイが緑色から赤く変わり、ハクタカはケルベロスから飛び上がった。
竜巻によって一つの渦に巻き込まれたBH達は既に機能を停止させている。天照を両手持ちし、ハクタカは太陽を背に、天高く、昇る。

『悪鬼……断罪!』

次の瞬間、収束していく竜巻ごと、ハクタカは天照で切断した。
一本の赤い線を描いて、上から花火の如く連鎖的にBH達が爆発していく。静かにハクタカは天照を、鞘に納める。

<エレクトラサーフ 解除 天照は如何なさいますか?>
『消してくれ』

天照が影の様に消えていく。天空から落ちてくるケルベロスをハクタカは掴んだ。


「すげぇ……」

救援部隊との合流地点を目指しながら、後ろの大爆発を見、室井がそう呟いた。
あれほど苦戦し、死を覚悟するほどの強さであった新型兵器が、ハクタカの手で何分も経たずに倒されたのだ。驚くのも無理は無い。

「アレがハクタカ……って奴なのか」

噂には聞いていたが、ここまで強いとは思わなかった。石田は心の底からそう思う
仲間の間ではどんな窮地であろうとあのハクタカと言う人物は一瞬で戦況を変えてしまうらしい。
あくまでそれは伝説だろと一笑に付していた自分を恥じたい。しかし……。

「だけどさ……ハクタカの正体って何者なんだろう」
「確かに……全然聞いた事が無いな。あれほどハクタカ自身の噂は広まってるのに」

室井と太田の言う事は分かる。自分も正直に言えば気になる。だが――――――――今は。

「今は……良いんじゃないか。別に知らなくても、それよりハクタカに助けられたんだ。その事の方が大事だろ」
「……あぁ、そうだな」

いやに澄んでいる青空を見上げ、太田は他の二人に聞こえない声で、言った。

「……ハクタカ、また、会えるよな」


『変身……解除』

そう唱えた瞬間、ハクタカの姿が風と共に消えていき、再びフードを被ったあの男の姿に戻る。
ケルベロスをホルスターにしまい、男は歩き出そうとした、途端。

「くっ……ちぃ……」

強烈な痛みを感じ、男は片膝を付いて咳き込んだ。咳を押えた右手を見る。

その掌は、赤黒くべったりと濡れていた。口元を触ると、生温かい感触を感じる。考えるまでもない。

「まだ……」

男は両手を握ると、立ち上がり、呟く

「まだ……倒れる訳にはいかない」

「そうだろ……メルフィー……」

と、男の上空を薄暗い影が覆う。上を見上げると、僅かに輪郭が見える、ステルスが施された彼女の戦艦。
男が首筋に指を当てると、彼女からの通信が入った。

その戦艦のブリッジ。モニターから彼女が男の姿を見ており、その横では赤い髪の毛と青い髪の毛の、メガネをかけた二人の青年がコンソールを打っている。

「隆昭さんを確認いたしました。脈拍・動悸共に正常。怪我その他、異常はありません」
「ケルベロスに損傷もありません。しかし調整はしておきます」

二人の報告に頷き、彼女は立ち上がると男へと話しかける。

「お疲れ様、隆昭君。だけどすぐに救助要請が入ってるわ。やれる?」

男は首筋を触ると、彼女へと通信を返す。


「行こう。一刻も早く」

「……隆昭君」

「何だ」

「……死なないでね」

彼女のその言葉に、男はうっすらと笑みを浮かべて、答えた。




「その時は、全人類を救う時だ」





                          ヴィルティック・シャッフルⅡへと続く


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