創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

<the Pinocchio Girl> 前

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ロボット物総合SSスレ   2周年目記念作品



深い暗闇の中、大型モニターがぐるりと囲んで、彼女を照らしている。鮮明ながらも決して彼女の眼球機能を傷つけない、淡く優しいモニターの光。
彼女は耳元の専用ヘッドフォンに流れる情報を受け取りつつ、扇形キーボードを高速でタイピングし、激流の如く流れる情報のライフラインに、余す事無く目を通す。
少しでも異常があればすぐさまワクチンソフトを投与し、途切れている部分があれば直ぐに繋ぎ合せる。次々と用件は増えていく為、瞬時の判断が必要となる。

「5地区E-7不良箇所発見。至急ワクチンソフト、sI-8投与」
「27地区R‐13修理箇所の対処、完了」
「678地区B-20悪質なウイルス確認の為一定時間ブラックアウト。早急の対処を求む」

三メートル前後の卵を思わせる、緩やかで滑らかな形状の巨大なカプセル内に座り、彼女は途絶える事の無い情報を目と耳で追い続ける。

様々な技術が発展し、それに伴いコンピューターを司る重要な要素、ネットワークも格段に進歩した未来。
例えるなら今の世界は、医療関係から日常生活に至るまで、あらゆる事がネットワークという大木に頼る様になった。
その大木を成形する木の根っこ、通称ライフラインと呼ばれる通信網がある。もしこのライフラインに少しでも異常があると、厄介な事態を招きかねない。

あってはならないものの、ライフラインには日ごろ様々なトラブルが起きる。それはコンピューターウイルスだったリ、不測の事態による断線事故だったリと多岐に渡る。
しかしあまりにも発達し、肥大化し、複雑化したライフラインに起こる異常事態に対処するには、人間の処理能力では到底追いつかない。
一度でもコンピューターウイルスが入り込むと、見る見る間に感染してしまい一つ一つ対処していては、とてもじゃないが人間が幾らいても足りない。

だからこそ、このライフラインの監視、及び緊急事態への対処には、人間を超えた演算能力を持つアンドロイドが必要となる。
大量の情報量でもすぐさま解析して処理出来、尚且つどんな異常も絶対に見逃さない、そんな存在が。
モニター上に映しだされる、蜘蛛の巣の様なライフラインを注意深く監視しながら、耳元から流れてくる、監察官から件を処理する度の対処完了の報告を聞く。

この仕事――――通称、 フィルター・ウェア(以下FW)に就く為には、市販で販売されているアンドロイド以上にあらゆる面で、優秀なアンドロイドが必要となる。

彼女こと、ティマ・マキがこのFWに就いてから、早一年の月日が流れた。


「あのね、マキ。私……マキみたいに、働いてみたい」

ティマの口から突然出てきたその発言に、マキの珈琲を飲もうとした手がピタリと止まった。マキの顔にはハッキリと、驚きの色が浮かんでいる。
今まで何度か、成長を思わせるビックリ……と言っては難だが、予想外な発言をしてきたティマだが、まさか働いてみたいとは夢にも思わなかった。
一先ず、一先ず落ちつこう。昂ぶっている鼓動を押えながら、ティマに聞く。

「突然で驚いたよ、ティマ。……理由は?」

マキにそう聞かれ、ティマはモジモジと体を動かしながら、気恥ずかしそうに俯いて、答える。

「前から……マキが働いてる姿を見てて思ってたの。私もマキみたいに、人とか社会の役に立ってみたいなって。それと……」

「私がマキに普段お世話になってる分、マキに少しでも、その分をお返ししたいなって」

ふむ……なるほど、と取りあえずマキは思った。
確かに前からティマはどこかで、人の役に立ちたい、そして、自分の世界を広げてみたいと思っている節が多々あった。
それに私に対しての……いや、君がいっしょにいてくれるだけで十分そのお返しになっているのだが。と、マキは言いそうになった。
だが、この発言はティマが自分自身の手で社会の為に何かして見たい、という大きな進歩、もとい成長なのではなかろうか。

君は仕事をしなくても主婦をしていれば良い、というのは実に簡単だ。
しかしそれで本当に良いのだろうか。それではティマの成長を、私自身の手で阻む事にはならないだろうか。
ティマが返事を待っておりじっと待っている中、数分ほど思考を繰り広げたマキは顔を上げて、ティマに返答する。

「……良いだろう、ティマ。君が仕事に就く事を認めよう」

マキの返答に、ティマは目を輝かせて子供みたいに喜ぶ。ただし、とマキは付け加える。

「どんな仕事に就きたいのかを詳しく教えてくれ。それと、ちゃんと家事も忘れずにするんだぞ。私も協力するけどな」
「勿論家事はちゃんとやるよ。あ、それで私がやってみたい仕事はね……」

と、ティマがソファーの上に置いてある冊子を、マキに渡す。マキはその冊子の表紙に書かれた職業の名を見、二度驚く。

FW。莫大なネットワークを監視し、異常が無いかを逐一調べ上げ対処する、聞いた事はあるが非常に難しいイメージがある仕事だ。
本来はFW専用に作られるアンドロイドが就くのだが、人間で言う中途採用の様な物で、全く違う用途で作られたアンドロイドでも就く事が出来る。
しかしその場合は、一般的なアンドロイドよりも演算能力、状況把握能力、処理速度能力etc、全ての能力が段違いに優秀でなければならないという条件がある。

就職する為にはアンドロイドを司るAIが鍵となっており、このAI部分を開発者がどれだけ改良でき、尚且つデータを詰め込めるかが重要となる。
しかしそこに至るまでの試験は人間にはまず解けない、しかもアンドロイドでさえ悩む様な難問ばかり(最早想像できないが)らしく、超絶的に狭い門と言われている。

そんなFWに、ティマは就職したいと申しているのだ。とてもじゃないが、容易い目標では無い。

マキはティマに悪いと思いながらも、本気かい? と聞いた。ティマの答えは至極単純で真っ直ぐに、何の迷いも無く、本気だと答えた。
こうなった時のティマは決して、自分の意志を曲げない。マキは数秒位迷った挙句、笑顔で分かった、やるだけやってみたまえ、とティマに答えた。
ティマ自身が選んだ道だ。なら私はティマに出来る限りの力添えをする他無いだろう。それが私が彼女に出来る、唯一の善処だ。

マキの二つ返事にティマは絶対受かるからねと、マキの笑顔に返す様に、ピースサインをした。

驚くべき事に、ティマの合否結果は一発合格。試験を受けたアンドロイドの中でも好成績だった、とティマは語っている。
恐らく試験当日に至る三ヶ月間の間、家事をする以外の時間を(マキが家事を分担している為、普段よりもティマの仕事量は減ったのもある)全て勉学に充てた事。
それと、今まで図書館の本等で蓄積した情報量が合わさった結果、功を成したのであろう。

本当に驚くべき所は、本来開発者がAIにデータを詰め込む等で教育して学ぶ所を、ティマ自身が学んでいる事なのだが。

勤務時間は九時~五時の交代制で、土日は休日という中々の好条件の元、ティマは晴れてFWとして仕事に就いた。
この勤務時間時に着用義務である、婦警服とスーツが入り混じった様なデザインの制服がマニアには中々好評だとか。どうでも良い情報だが。


ティマが思っていたよりも、FWという仕事は難しくも、苦痛でも無かった。
ワクチンソフトの種類や緊急事態への対処など覚える事は沢山というか山の様にあったが、覚えてしまえば後はその都度、対処していけばいいだけだ。

仕事をしているとメールとして、様々な感謝や喜びの声が届く。そのメールが届く度、ティマは誰かの役に立ってると、とても嬉しく感じる。
その分、批判や苦情も倍くらい多い。対処が遅れただとか、ワクチンソフト間違えただろとか。
しかし、それらもひっくるめてティマは人間とは、社会とはどの様なものかを、着実に、自分自身の中で学んでいくようになっていった。
FWに就職して早一年が経ち、ティマは既に社会人としては一人前になっていた。
それこそ、新しく入社してきた新入社員に対して、指導が出来るほどに。

また、色々な仕事上での予期せぬ事態に対処してきたからか、二年前に比べてずっと思考が大人びてきた。否、人間らしくなったと言うべきか。
それに合わせて、ティマはマキに就職したご褒美として、ボディを新しくしてもらった。
歴代の中でも一番胸があり、尚且つ落ち着いた表情、茶色がかった金髪と、雰囲気をひっくるめて実に、いや、とても大人っぽい。
外見も内面も、かつての幼く子供らしさを覗かせるティマでは無く、一人の人間、一人の大人の女性としてのティマが、そこにいる。



              異様に前置きが長くなったが、この物語は彼と彼女が出会ったあの日から、三年後の話となる。







               ROST GORL


the Pinocchio Girl



                   ※この物語は最後を除き、ティマ視点で進行します   









処理に数日掛かる残件を保存し、まだ未処理の件が無いかをチェックしながら一つづつ機能を停止させていき、最後にモニターの電源を消す。
最近また新型のウイルスが見つかったらしい。早く解析して貰ってワクチンソフトを作ってもらいたい。いざって時に困る。
数秒程すると、カプセルの蓋が開いた。いつも思うのだが、もう少し蛍光灯の光を押えて欲しい。眩しくてちょっとイラッと来る。

と、カプセルに寄り掛かっているハナコが私に、お疲れさんといった感じで手を上げた。私は頷いて、カプセルから出る。
ハナコはいつもの、ニヤニヤともニコニコともとれる笑みを浮かべながら話しかけてきた。

「お疲れちゃん、ティマ。全く、しんどいわ~、こんな仕事してると肩凝ってしゃあない」
「私達が肩凝る訳ないでしょ。アンドロイドなんだから」
「あちゃー、真面目なツッコミは勘弁やで。ま、いつもの事やけど」

私の呆れた突っ込みに、ハナコはくっくっくと何か企んでいる様な、怪しい笑い方をする。まるで人間みたいに。
私が言っても説得力が無いけど、ハナコは私と同じアンドロイドである。ただ、話しているとこう、思考や言語能力は、殆ど人間と変わらないと思う。

猫みたいなツリ目をいつも細めて怪しげに笑う、鮮やかなショートカットの金髪が印象的なこの人の名はハナコ、アンノ・ハナコという。
私と同じ時期にフィルタ―・ウェアに合格した、言わば同期にして、私の……友人でもある。
ハナコ自身の口から聞いた話だが、ハナコが作られた経緯はとても変わっている。開発者さんはハナコを当初、漫才の相手として作りだしたそうだ。
けれどお笑い界とやらはハナコと開発者さんには甘くなく、一年も経たずに開発者さんはお笑い芸人という夢に挫折。
それでハナコを作った事に対する責任と、生活費を稼いで貰う為に三年も掛けて、フィルタ―・ウェアの試験に挑み何度も落ちながらも、4年目になった今年、念願叶って合格、と。

当初、私とハナコの出会いはあまり良くなかった。
一発で合格した私に、ハナコは信じられへん! 八百長や! と私に対して文句を付けてきたのだ。最初はスル―してたけど、仕事の合間に何度も何度も突っかかってきた。
流石に私も限界にきて、ハナコと大喧嘩した。今思い出しても恥ずかしい位、あの時の私は凄く子供染みてたと思う。
けどそんな事があって、私はハナコと気兼ね無く話し合う、そんな関係になっていた。ただ、良く分からないボケを突拍子もなく披露するのは止めて欲しい。

私服に着替え終えり、帰りの廊下を歩きながら私はハナコと、他愛の無い会話をする。

「ほんま、今思い出してもあんたの一発合格は信じられへんわ。ウイルスでも仕込んだんちゃうんか?」
「そんな手間掛けるくらいなら普通に勉強してるって。大体、ここのセキュリティの高さは」
「はいはい、全くあんたはホント固物っつーかクソ真面目ってつーか……ま、そこがあんたらしいけどな」

開発者さんの趣味で、ハナコはこうやって明らかに合っているか怪しい関西弁を使って喋る。勿論、仕事中は公用語というか、普通の標準語だけど。
しかしこうして話していると、ハナコはアンドロイドと教えられなきゃ人間と全く区別が付かないと思う。それほどハナコは自然なのだ。立ち振舞いとか、色んな部分が。
ハナコが良い意味でアンドロイドに見えないのは多分、開発者さんがハナコをアンドロイドじゃなくて人として、愛情を持って接しているからだと思う。

……マキも、ハナコの開発者さんみたいに、私はアンドロイドでは無く、一人の女の子として接してくれてたんだろうな、って最近思う。

三年もの月日が流れて、私もそれなりに成長してるんだなって自覚してる。だからこそ、マキがどれだけ……。
どれだけ私を、ここまで育てるのに苦労したのかが分かる。あのゴミ捨て場で拾われてから今の私になるまで、マキは凄く苦しんで、悩んできたんだろうなって。
だから私はその分、マキに恩返しがしたい。後どれくらい、フィルタ―・ウェアとして働けるかは分からないけど……私が出来得る限り、彼の力になりたい。

「そういやティマ、あんたパートナーと何年付き合っとんの?」

一階に降りるエレベーターに乗った瞬間、ハナコの口から突然出てきたその質問に、私は淡々と答える。

「結構長い間」
「一~二年って所? もっと?」
「丁度……三年目くらいかな」

確信は出来ないけど、多分三年くらい経ってると思う。そう正直に答えると、ハナコはクククっと悪戯っ気を感じさせる笑い声を出した。
そしてニヤつきながら、私にもう一つ質問してきた。

「あんた、三年目のジンクスって知ってる?」
「三年目の……ジンクス? ううん、そんな言葉、聞いた事無い」
「そっかー。聞いた事無いんか……そうかそうか……」

ハナコは私の答えにしめしめ、とまるで私が知らないと答えるのが計画通りみたいなイヤらしい笑い方をする。
調べればすぐにでも分かる事なんだろうが、私はハナコのその態度から、どうしてもハナコの口からその意味を聞いてみたくなった。
素直に教えてくれるとは思わないけど、聞いてはみる。

「笑ってないで教えてよ、ハナコ。その、三年目のジンクスって何の事?」
「あんた私の性格分かってるやろ。自分で調べてみ~や」

ガタン、とエレベーターが一階に到着してドアが開くと共に、ハナコはほなさいならと言い残して、早足で帰ってしまった。
全く薄情な……と私はハナコの後姿を睨みながら、職場である統合通信局を後にする。家であるアパートからは徒歩で二十分と、それほど時間は掛からない。

そう言えばまだ冷蔵庫に食材ってあったっけ……。と思い、途中にある大型スーパーに寄る。
彩り豊かな野菜やお魚を見ながらどんな料理を作ろうかと思っている時、ふと、私は思い出す、思い出してしまう。
同時に、帰って来るまでのマキに対して抱いていた思いが急激に、冷めてくるのを感じる。前までは、何を食べさせてあげようかな、とか幸せな気分になってたのに。

マキが戻って来ると、あの子も家に来るんだな、って思うと、私は些か、処理出来ないもやもやとした何かに深く囚われる。
あの子が――――ユキハラ・テンマが来てから、私とマキの関係に初めてはっきりとした、陰りが出来てしまった。



今日から一週間前の事だ。始まりはマキが仕事から帰ってきて開口一番、私に話したい事がある、と。
昔色々あって疎遠になってしまったゲンブという(私が小さかった事、お世話になったらしい。私自身は覚えてないけど)という仕事仲間から久々に連絡が来たらしい。
ゲンブさんはマキが元気になった事を喜ぶと共に、マキをプロでベテランの修理士と見込んであるお願いをしてきた。そのお願いは――――。

ゲンブさんが学生時代、友人だった男の人の娘さんが、修理士を目指していてプロとして独立したいけど、その下積みとなる身寄りが無いらしい。
それでゲンブさん自身は家族がいるし、しばらく修理士としては働いてない事もあって技術を教えるのはちょっと難しい。
だからゲンブさんは仕事仲間を当たってみたけど、皆様々な事情があって引き受けられないらしく、最終的にマキの所に連絡が来たと。

「……ねぇ、マキ。それって直接的にはマキと関係無いよね」

私がそう言うと、マキはすまない、と両手を合わして私に謝りながら事の成り行きを説明しはじめる。

「ホントに急な事で済まない、ティマ。けどその子、両親が離婚してて経済的に苦しいらしいんだ。それでどうしても働きたいって言うから無下に断れなくてね。
 それにその子、修理士の専修学校で最優秀生徒として評価される程の実力もあってさ……」
「だから助手でその子を採用する、と?」
「助手というか、弟子という方が近いかな。その子がプロとして一人立ちするまで……っと」

マキが何か言いかけた時、インターホンのチャイムを誰かが鳴らした。マキはおっ、来た来たとどこか嬉しそうな足取りで玄関へと向かう。
私はその時、激しく不安というか、上手く言えないけど釈然としないモノを感じていた。説明できない。説明出来ないけどこう、悪い予感がするというか。
戻ってくるマキの後ろで、影のようにひっそりと、その人が部屋に入ってきた。

マキがその人を紹介する様に少しだけ斜めに立つと、その人の肩に手を乗せながら、言った。

「この子がさっき、私の弟子になると言ったユキハラ・テンマ君だ。テンマ君、挨拶してくれ」

マキの紹介にその人――――ユキハラさんはこくんと頷くと、一歩前に出てきた。

寝起きのせいか、それともそういう癖毛なのか、先っぽでくるりと丸まっている、肩まで伸びた黒い長髪。
くりくりとしてて丸い、子犬みたいな目、低い目鼻立ちに反して、口は切れ長で妙な色気がある。けど、全体的に、幼い。
雰囲気だけだと150cmいくかいかないかの背丈もあって、まるで中学生位の女の子。
この子がマキの弟子になる子……ユキハラさんって言うんだ。何となくマキの好みっぽいなと、マキを軽く睨みながら思う。

ユキハラさんはマキに自己紹介する様に言われたけど、緊張しているのかなかなか言いだせない。それに軽く肩が震えてるし。
しばらく待っていると、決心が付いたのかグッと強く拳を握って、お辞儀しながら私に言った。

「あ、あの! わた、わたし、ユキハラ、テンマと言います! よ、よろろ、宜しくお願いします!」
「おいおいテンマ君、何でそんなに緊張してるんだ」

そう言ってユキハラさんの肩を撫でて落ち着かせるマキ。その手つきは何だか妙に……いやらしく、感じる。
ユキハラさんはというと、顔を真っ赤にして俯きながら、私の事をチラチラと見ている。まだ緊張しているのだろうか。
それにしてもこんな子が顔を赤くしているのはちょっと可愛い。

ここは私から歩み寄った方が良いのかな。と思いながら私は立ち上がり、ユキハラさんへと近づいて、自己紹介をする。

「ユキハラ・テンマさんね。私の名前はティマ。ティマ・マキ。マキの……」

何と言えば良いんだろう。あのホテルの時の様にファミリーとでも? そう思ってマキの方を見ると、別に何でも良いのか軽く頷いた。

「マキの奥さん、とでも言っておこうかな。宜しくね、ユキハラさん」
「は、はい! マキさんの奥さんに会え、会えるなんて私取って嬉し、し」

「いてっ!」

途端、ユキハラさんが口元を押えて悶絶する。この様子だと緊張しすぎて舌を噛んでしまったようだ。
どこまで慌てん坊なんだろうか、この子と少し呆れながらも、こういう場合はどう……と、ユキハラさんは呂律の回らない声で謝る。

「す、すいまふぇーん! わたふぃ、きんちょうしちゃうとつい」
「ティマ、悪いけど水持ってきてくれないか。テンマ君が落ち着く様に」
「あ、はい」

それにしても落ち着きが無さすぎるというか、ここまであがり症で修理士以前に普通に生活できるのだろうかと初対面で失礼ながらも、私はそう思ってしまった。
冷蔵庫から水が入ったボトルを取り出して直ぐにコップに入れ、リビングで待つ二人に持ってきてあげる。
マキがそれを受け取って、ユキハラさんに手渡した。……私がおかしいのだろうか、ユキハラさんにコップを渡した時のマキの顔が、ニヤついている様に見えた。

「落ち着いたかい?」

渡された水を一気に飲み干して、ユキハラさんはトントンと胸を叩き一息吐くと、気持ちが落ち着いたのか幾分冷静な口調になった。

「さっきはごめんなさい……私、昔から緊張すると慌てちゃうというか、おかしく……なっちゃうんです」

外見自体(まだ何歳なのかは聞いてないけど)は幼く見えるけど、よくよく見てみるとユキハラさんが纏う雰囲気は決して幼くはない。
むしろ色んな苦労を重ねて若干疲れているというか、外見に反して経験豊富みたいな感じがする。
ユキハラさんは私の方を向くと、深くお辞儀をし、次はしっかりとした口調で、自己紹介をする。

「先程は失礼致しました。改めて、ユキハラ・テンマと申します。
 ゲンブさんのご紹介で数日程前から、マキさんの元で弟子見習いとして働かせて貰っています。よろしく、お願いします」

言葉遣いからして、こう見えて実は意外としっかりしてる子なのかな? 人は見かけによらないと言うし。
……何故かユキハラさんは私の事を上目遣いで、照れているのかちょっぴり頬を染めながら私を見つめている。緊張とはまた違うみたい。
不思議に思ってると、ユキハラさんは恥かしげな口調で、言う。

「その……マキさんから聞いた以上に凄く……綺麗です、ティマさん

良く分からないけど、私はユキハラさんから褒められた様だ。有難うと感謝しようとした瞬間、マキがユキハラさんに言った。

「な、ホントに綺麗だろ?」
「はい、マキさんの言う通りです」

言葉を交わし合うマキとユキハラさん。数日前に会ったにしては、やけに仲が良さそうな事で。
いけない、なんか変な気分になってる。私は一瞬出てきた棘を押えこむ。ユキハラさんが言葉を続ける。

「マキさん、いつもティマさんの事を私に話してくれるんですよ。ティマさんの魅力とかを」

私の視線は自然に、マキの方を向く。マキは何も言わずに、私を見て微かに微笑んでいる。
元気良くユキハラさんがマキの方を振り返って、言う。

「ね、マキさん」
「あぁ、褒める所しか見つからないからな。正に良妻賢母そのモノだ」
「それに美人さんで……私、憧れます」

そう言って私の方を再度振り向いて、ユキハラさんは羨望って感じで私をキラキラ輝いた目で見上げる。
褒められてると言うか好意を抱かれてる。その事自体には嬉しいと素直に思う。嬉しいけど何か、変だ。
マキとユキハラさんが話しているのを見ると、私は頭の中で妙にイライラというか、怒るんじゃないけど、ピリピリしてくる。

「まぁ、君もいつか好きな男でも出来たらティマみたいになれるさ、テンマ君」
「そ、そんな事無いです! 私なんかまだまだちんちくりんの未熟者で、それにあがり症だし……」

そうやってマキは自虐するユキハラさんの頭に手を乗せると、頭をナデナデしながら語りかける。

「そんな暗い事を言ってちゃ駄目だよ、テンマ君。きっと君は立派な修理士になれるし、立派な奥さんにもなれる。信じていれば、どんな道だって開けるんだ」

と、語るマキはなんか学校の先生みたいに見えて、ちょっとだけおかしい。言ってる事もそれっぽいし。
マキの助言に対してユキハラさんは元気づけられたのか、大きく頷くとこれまた元気な声で、マキに答える。

「はい! 私、頑張ります。マキさんと、一緒に」
「良いぞ、その意気だ」

白い歯を覗かせて屈託の無い笑顔を浮かべるユキハラさんと、優しく包み込む様に微笑む、マキ。あぁ、本当に仲が宜しいようで。
どうしよう、頭の中のイライラがさっきに増して膨らんできている、気がする。どうして私、こんな事になってんだろう。
私はイライラを解消する為に、今日の夕食を作りにキッチンへと。その時。

「私も手伝います! ティマさん!」

行こうとした瞬間、ユキハラさんが手伝いたいと言ってきた。……悪いけど、なんか妙な予感がするの。だから。

「そんな悪いわよ、ユキハラさん。マキと一緒に休んでて」
「いえいえ、マキさんにお世話になってる分、ティマさんのお力になりたいんです! ですからお願いします!」

そう……マキにお世話になってるから手伝うんだ。私の為にじゃなくて、マキの為に……。
……って何言ってるの、私。これじゃあまるで私がマキと仲良くしてるユキハラさんに妬いてるみたいじゃない。
私はその邪念を振り払いながら、私を輝いている目で見上げているユキハラさんの目力に根負けした故、彼女の申し出を受け入れる。


「わぁー! キッチン、凄い綺麗ですね!」
「そりゃあ……毎日掃除してるからね」

キッチンに入るなり、ユキハラさんは明るい声でそう言った。何にでも感動するんじゃないかと思う位、ユキハラさんの目は輝きを増している。
マキはこの子とどんな話をしてるんだろう。修理士同士で気が合うのかな。……私がした事の無い話も、してるのかな。そう考えるとちょっと、悔しい。
冷蔵庫の残り物を見ていると丁度、二人分のカレーのルーを見つけた為、今日はカレ―を作る事にした。
私はル―を溶かしたり、お肉を焼いたりするから、ユキハラさんにはその中に入れる人参とかじゃがいもを切って貰おう。予め皮は全て切ってあるし、多分大丈夫。

「包丁、使えるよね?」
「はい! 任して下さい!」

と、元気一杯胸を張るユキハラに、私は正直な話、不安を抱いている。けどまぁ……任せてみよう。
ル―が良い頃合いまで溶ける待つ傍ら、お肉を炒める。お肉を全部炒めて、良い感じにとろけたカレーの中に入れる。
さて、ユキハラさんの方は……と、ユキハラさんの方に体を向け……。

予感は的中。白いまな板の上には、お世辞でも綺麗と言えない、乱雑に乱暴に切られた人参とじゃがいもが錯乱していた。
大きさも切り方もまるでバラバラ。私自身はカレーを食べれないけど、明らかに食べにくい形状ばっかり。
ユキハラさんは夢中になって、それこそ一生懸命というか一心不乱に頑張ってるけどごめんねユキハラさん。それじゃあ駄目、全然駄目。

「ユキハラさん、悪いんだけど代わってくれる?」

私が声を掛けると、ユキハラさんは息を荒げながら包丁を持った手を止めた。ねぇ、そんな疲れる様な作業じゃないよね?
ユキハラさんは私の方を向いて申し訳なさそうに言う。

「けどティマさん、まだ全部切ってないんで……」
「うん、ありがとう。けどここから先は私がやるから」

そう言いながら私は出来るだけ優しく、ユキハラさんから包丁を取り返す。口調が自分で驚く位、冷たくなってる。
それにしても酷い。料理覚えたての小中学生だってもうちょっと上手く切れると思う。……何で今日の私ってこんなキツくなってんだろう。言葉には出さないけど。
もう日常的な作業なので、まだユキハラさんが切ってない分の食材を機械的に、瞬時に切り刻む。

「はぇー……凄いです……」

食材を切り刻む私を、ユキハラさんはポカンとした表情で見つめている。
見つめてるんじゃなくて、ちゃんと私がどう野菜を切ってるかをその目に焼き付けて頭に刻みつけてほしいんだけど。
あぁ、もう、さっきから何で私はこんなにピリピリイライラしてんだろう。こんな……ぶっちゃけ不愉快な気分になるの、初めてだよ。

ていうか、この子に料理を教える為に料理を作ってる訳じゃない事に気付き、私はやっぱり嫌な予感がしながらも、ユキハラさんに頼む。

「もうこっちは私がやるから、ユキハラさんは貴方とマキの分の飲み物とスプーン、リビングに持っていって」
「はい! 分かりました!」

ホント、返事だけは凄く良い。その返事と同じ位……良いや、もう。
水を入れたコップとスプーン二人分を小さいお盆に乗せて、リビングまでユキハラさんに運んで貰う。
お盆を持つまでは大丈夫。そう、ゆっくり慎重に、そうそう、そうやってゆっくり歩きながらリビングに行って。

もうすぐカレーが出来るから目を離せない。というか、ただ運ぶだけならあの子でも、いや、誰でも出来るだろう。
何にも起こらないだろうな、と思った矢先にリビングからキャー! とけたたましい悲鳴が飛んできた。案の定……か。

点いている火を止め、急いでリビングに向かう。そこで私を待っていた光景は……。

敷いてあるカーペットの上でひっくり返っている、コップとお盆とスプーン。
カーペットには水が染み込んでいてもう、遅い。その上で服をびちゃびちゃに濡らしているマキと、ぺたんと女の子座りして、半ベソかいてるユキハラさん。
息は出ないけど、私はこういった状況で人間が行う行動として、大げさに、かつ大きな溜め息を吐いた。


「すみませんでした!」

正座して、今にも号泣しそうなくらい涙を溜めているユキハラさんが私とマキにそう、謝罪した。
マキから聞くに、リビングに運んできたけど足元に引かれているコードに気付かず足を引っ掛けて、派手に転んだと。
勿論ユキハラさんに悪意はないと思う。本当に一生懸命手伝おうとしてるのは分かる。分かるけど、最初の挨拶にしても、今の料理の仕方にしても……。

ハッキリ思う。私はユキハラさんに、良い印象は持てない。それどころか……マキには悪いけど、仲良くやっていける自信が無い。

「まぁ……テンマ君は少々落ち着きが無い所があるからな。気を付けないといけないね」
「本当に、本当にごめんなさい、マキさん、ティマさん!」

そう言ってユキハラさんは何度も何度も私達に謝る。泣かない様に堪えてるせいか、何かこっちが悪者みたいに感じる。
あんまりにも似合わない、黒色のジャージを着たマキがユキハラさんの頭を撫でて、慰めてあげる。

「そう落ち込む事は無い。テンマ君、一度した失敗は二度しない様に、気を付ければ良いんだ。同じ失敗はしない、って自覚を持ってね」
「……今度から気を付けます」

ユキハラさんがそう言って、マキに大きく頷いた。そんなユキハラさんを見て、先生、ううん、父親みたいな感じで、柔和な笑顔を見せる、マキ。
駄目……頭の中のイライラがピークに達しそう。私は勢い良くその場から立ち上がった。

「食べ終わったらお皿、キッチンに置いといて下さい。後で私、洗いますから」
「手伝います!」
「結構です。ここで休んでいてください、ユキハラさん」

なるたけ優しく言ったつもりだけど、凄く冷たくなっている。そんな口調で私はユキハラさんにそう、言っていた。
ユキハラさんが一瞬戸惑っている素振りを見せたけど、すぐに馬鹿みたいに明るい顔つきと口調で、言う。

「分かりました! あ、それとカレー、とっても美味しいです! ティマさん!」
「そう」

ユキハラさんに背を向けてそっけなく返事し、私は玄関を出て外へと軽く散歩に出る。
今まで何度かイラつくというか、気に入らない事は沢山あった。それに大事から小事まで色んな理由があって、マキと喧嘩した事もあった。
けど、どんな事があっても私は前向きに気持ちをシフトする事が出来た。前向きに、後腐れ無く。けど、今は違う。

今の私はそんな風に、気分をシフトする事が出来ない。シフトしようとしても、何かが邪魔をする。
ユキハラさんの事もそうなんだけど、ユキハラさんに優しく、親しく接しているマキの横顔を見る度に、上手く言い表せないモヤモヤ感が積っていく、
この感情はなんて言えば良いんだろう……学んだ筈なのに、何故だか出てこない。あまり良い言葉じゃ無かったような。


「ティマ!」

後ろから呼び掛けられて足を止める。振り向くと、走ってきたのか息を荒げながらマキが歩いてくる。それにしても……年を取ったね、マキ。

始めて――――私がまだ、何も知らなかった小さい頃に比べて、マキの容姿は年相応に年を取ったと言うか、随分老けたように思える。
若干目尻とかに皺が出来てきて、髪の毛からちょっとずつ、白髪が見える。渋みが出てきた、って感じ?

それに今までとの一番の違いは、前までは眼鏡を掛けていなかったのに、本を読む時とかにメガネを掛ける様になった事だ。何やら、あんまり小さい字は見えなくなってきたとかで。

そうだった、マキがユキハラさんの件を引き受けたのにはまだ理由があった。
マキ曰く、視力が落ちてきたせいで、細かい部分が見にくくなって修理士としての腕が大分落ちてきてしまった事。
その事で悩んでいると、ゲンブさんから自分が学んできた事を後輩に教えていくのも、修理士としての生き方なんじゃないか? と言われてそれもそうだ、と納得した為らしい。

「キッチンに置いといてくれた? お皿」
「いや、洗っておいた。君も疲れているだろうかね」
「ふーん……そう」

いつもなら。いつもなら、洗ってくれた事に私は感謝するんだけど、今はしたくない、それ以前にマキとも喋りたくない。
けどマキは私の事が心配なんだろう、話しかけてくる。その優しさが今は、鬱陶しい。

「テンマ君の事で怒っているのなら、私が彼女に代わって謝るよ。すまない」
「うん」

やっぱその事か。怒ってません。ちょっとばっかし、イラついてるだけです。

「何と説明すれば良いかな……彼女、とんでもないドジっ子でね。あんな失敗は日常茶飯事なんだ。
 それに両親が離婚したって言っただろ? それで母親と一緒に暮らしていて、家事は殆ど母親に任してるからあんまり家事も出来なくて」
「はいはい」
「ただ、修理士というか機械弄りに関しては天才的なんだ。私の様なその道のプロから、お墨付きを貰う位にね。
 それで私は彼女が修理士として、どれだけ成長するかを見てみたくなった。彼女が将来、どんな人材になるかを見」

はぐらかしてる。
マキ、本当に私に言いたい事はそんな事じゃないよね。ねぇ、はっきり言ってよ、言いたい事、あるなら。

「……それで?」
「彼女を許してやってくれ、ティマ。彼女は君を何度かイラつかせたかもしれない。けど、彼女自身は君の役に立ちたい、そう考えているんだ。
 少しばかり……空回りしてしまっているけど」

少しばかりじゃない。で、本当に言いたい事はまだ?

「うん分かってる。それで? マキ」

「ユキハラさんがどれだけ凄いかは分かりましたから、用件を言って下さい。その為に私を追ってきたんでしょ?」
「う、うむ……。そのー、何だ……私は彼女の師としてこれから、彼女と行動を共にする事になる。それでだ。私が家に帰ってきた時に彼女が一緒に居る時は……」

「彼女の分の食事も……一緒に作って欲しいんだ」

「は?」

私は私自身が考えるよりも早く、人間で言えば無意識に、私はマキにそう、言った。
私が今どんな状態なのを考えて、そういう事言うんだ。マキ、わざとやってる? 何でそんな、傷口に塩塗る様な事出来るの?
怒りを通り越してもう、哀れになってきた。何が哀れなのかは分からないけど、私は哀れ過ぎて心にも無い笑みを浮かべながら、マキに返答する。

「わかりました」

ロボットみたいな、というのもおかしいけど、今の私の口調はアンドロイドでも人間でも無く、ロボット。
命令された事を復唱して、決して逆らわずに下された命令を実行する。そう、私はロボットなんだ。マキに、作られた。

「それでしょくじをつくるのはゆうしょくだけでいいんですか?」
「あぁ、そうだな。後、休日に出かける時もあるから昼ご飯も作ってくれると助かるな」
「はい、わかりました」

私はそう返事して、マキの顔を見ずに家へと歩き出す。今日はもう、これ以上話しかけないで。
立ち止まらない私に、マキが後ろから声を掛けてくる

「ティマ! ……怒って、ないか?」

振り返らずに、私は答える。抑揚も、感情も無い声で。

「おこってませんよ。ぜんぜん、おこってません」

マキが何か言ってもあーあー聞こえない。
そんな感じでマキが何を言っても耳を塞ぐ。ユキハラさんには悪意も敵意も無い。私に対して善意であーいう事をしてるんだよね。
ごめんね、マキ。私、まだ自分が思うほど大人じゃ無かった。気に入らない事には突っぱねる。まだまだ子供のままなんだよ。

でもね、マキ。私ね、もう少しだけでも、私の事を理解しててほしかったなって思う。凄く、がっかり。

もし喧嘩したら、私は今度こそ、マキと一生仲直り出来ない、そんな気がして、私はマキと話す気にはなれなかった。

「そうだ、ティマ。後、もう一つだけ」

「なんですか?」

「ここ一週間と三日ほど、ちょっと仕事が忙しくなる。それで連絡が付かなくなっても心配しないでくれ。必ず帰って来るから」

「そうですか、おしごとがんばってくださいね」

それから一週間、私が仕事から帰ってくる度、私はマキと……ユキハラさんの分のご飯を作る様になっていた。
文句は言わない。もしマキと喧嘩になったらと思うと嫌だし、それにユキハラさんは、マキにとって大切な人ですもの。私よりもずっと。
けれどやっぱりというか、腹に据える事は多々どころか沢山あった。火曜日の時だ。

「ティマさんが料理してる間、私、掃除してますね!」

と、ユキハラさんは部屋の掃除をすると私に言ってきた。
その日は仕事量がいつもより多かったせいか、気が抜けていて、部屋が多少散らかっていた。しまった、と思った。
私は後で片づけるから良いですよと言ったけど、まぁ、任してみようじゃないか、とマキが、マ  キ  が言ったから任してみる事に。

やっぱりというか予想通り、彼女はやらかしてくれた。

私達が世界を回っている時、記念として買った、クリスタルの彫像を落として、割った。
パカッと綺麗に、二つに割れているそれを見て、私は怒るとかよりもただ、笑っていた。もっと弾けると思ったのに、左右綺麗に分かれてんだもん。笑うしかない。
当然、ユキハラさんは謝る。ひたすら謝る。私は別に怒ってもいないけど、マキがユキハラさんを許してくれ、わざとじゃなかったんだ、という。
はい、勿論許しますよ。貴方の大切な人ですものね。私も子供じゃありませんから、大人として許してあげます。

木曜日にはこんな事があった。

火曜日の時に彫像を割ってしまった事で謝罪したいと、ユキハラさんは何かを抱えてきた。

私自身は別に謝罪なんてして貰わなくても、マキが許したんならどうでも良い。けど、ユキハラさんはどうしてもって言うんで、仕方なく受け取る事にした。
大きな包み紙に入っているそれを開けてみる。すると出てきたのは、クリスタルで出来た……ダルマさん、だった。



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