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グラウンド・ゼロ 第10話

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匿名ユーザー

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 廊下を走っていたシンヤは目的の扉の前で急停止する。
 息も整えないまま、突き飛ばすようにその扉を開けて部屋の中に飛び込んだ。
「ノックぐらいしなさい。」
 机で作業をしていた部屋の主が、鋭い口調でそう言ってくる。
 無視してシンヤは叫んだ。
「リョウゴを拉致ったって、本当ですか!」
 アヤカは視線をこちらに向ける。いかにも面倒くさそうにため息をついた。
「本当よ。」
「何故!」
「何故って……元々、君じゃなくてナカムラくんを拉致する予定だったのだけれ
ど。」
 平然と作業を続けるアヤカ。
 シンヤは駆け寄った。
「今ならまだ間に合います、リョウゴを解放してください!」
「どうして?」
「俺がリョウゴの分も働きます!それでなんとかしてください!」
 机に手を突き、額をぶつけるように頭を下げる。
 しばらく反応を待ったが、何も無かった。
 奥歯が軋む。
「シンヤくん」
 ようやくアヤカは口を開いてくれた。
 顔を上げる。
「邪魔だから出ていってくれない?」
 彼女の言葉はそれだけだった。




「ちっ……くしょう!」
 怒りに任せて廊下の壁を蹴りつける。
 まだ足りない。今度は拳。
 そこまでやって、自分の痛々しさを自覚する。
 前髪をかきあげ、壁に寄りかかった。とりあえず息を整えよう。
 シンヤが哨戒任務から戻ってきて、たまたま廊下でばったり会ったタクヤから
まず聞いたのは、「今日また新しい人がやってくる」ということだった。
 そこまででは何とも思わなかった。だがタクヤ・タカハシは一体どこから仕入
れたのか、新しい仲間の名前までも教えてくれた。
 リョウゴ・ナカムラ。
 耳を疑った。何度も聞き返した。
 そして確信し、シンヤは走り出したのだった。
 早とちりであって欲しかった。
 だがアヤカの反応を見るに、そうじゃない。
 リョウゴは今どこに居るのだろう。アヤカさんに訊くか?いや、どうせ教えて
はくれないか……?
 その時いきなり目の前の扉が開いて、びくりと驚く。
 アヤカが立っていた。
「まだ居たの?」
 少しムカッ腹が立つ。
 だが彼女はそんなこと気にもとめない様子で言葉を続けた。
「ああでも丁度良かったわ。もし時間があったら、これからナカムラ君のところ
に一緒に行かない?」
「え……」
 予想外の申し出だった。
「君が居れば説明もスムーズにいきそうだし。どう?」
 そういうことか。
 と同時に自分はもう幽霊なんだな、とまた実感する。
 断る理由は無い。シンヤは頷いた。

 案内されて着いた部屋は、なんとシンヤの部屋の隣だった。
 いつの間に。という感覚だが、少し嬉しくもある。
 アヤカはシンヤに「呼ぶまでここに立ってて」と言って、それから部屋の中へ
消える。
 ちょっとして、中から話し声がしはじめた。
 緊張のせいで高鳴る胸を落ち着かせながら待っていると、やがて扉越しに名前
を呼ばれた。
 寄りかかっていた壁から離れて、扉を開ける。
 シンヤのそれと同じ間取りのその中に二人は居た。
 リョウゴは壁際のベッドに腰かけている。アヤカは彼と向き合うように椅子に
座って、膝の上にいつも持ち歩いているファイルを開いていた。
 気持ちを抑えるために、ゆっくりと歩を進める。
 リョウゴと目が合う。どきりとして立ち止まる。
 お互いに無言。
 アヤカすらも何も言わなかった。
「よっす。」
 沈黙を破ったのはシンヤ自身だった。軽く片手を上げ、なるべく5日前と同じ
ように、挨拶をする。
 それによってリョウゴは思い出したように視線を一回シンヤの全身に走らせ、
力無く立ち上がった。
 シンヤは笑いかける。
「お前、シンヤ……?」
 リョウゴの震える台詞を肯定する。
 するとリョウゴは崩れ落ちた。
 驚いて駆け寄り、彼の傍にしゃがみこむシンヤ。
「大丈夫、腰抜かしただけだ……」
 リョウゴはそう言った。
 背中をさすってやっていると、段々と彼は落ち着いてきたようで、突然吹き出
した。
 リョウゴの笑い声は最初は堪えきれずに漏れ出るようなものだったが、徐々に
大きくなっていき、とうとう哄笑にまで至った。
 目を丸くするシンヤの胸に拳をあわせる。
「なんだよお前、生きてんじゃねーか!」
 リョウゴの目には涙が溜まっていた。彼は目を潤ませながら、笑顔だった。
 シンヤも笑い返す。
「テメー、俺の涙返せよ!」
 リョウゴはわめく。
「なんだよ、泣いたのかよ!」
 シンヤはからかう。
「ああ泣いたよ!むっちゃ泣いたよ!なのに何でお前死んでねーの!?」
「うるっせぇ悪かったな!お前こそ何でここに居るんだよ!」
「知らねーよ!グラゼロやって帰ろうとしたらコレだよ!こっちが訊きてーよ!

 笑い合い、肩をひっぱたいたり、相手の頭をぐしゃぐしゃとする二人。
 彼らの再会の喜びのぶつけ合いをしばらく静観していたアヤカ・コンドウは、
キリの良いところで発言した。
「そろそろいい?」
 二人で彼女の方を振り向く。笑顔は一瞬で消えてしまった。
「リョウゴくん、今君はここに居るシンヤくんと同じになりました。あと詳しい
ことは彼から聞きなさい。」
 そして彼女はファイルを閉じ、シンヤたちの側を通りすぎて部屋を出ていった

 残された二人は床に座り込み、深いため息をつく。
 やがてリョウゴが静かに胸の内に、水泡のように次々と沸き上がる疑問を口に
していく。シンヤはそれに答えていく。
 ひとしきり答えを得て、リョウゴは仰向けに大の字になった。
 その様子を横目で見たシンヤはふと気づく。
「その時計……」
 シンヤが指したのは、リョウゴの左手首に巻き付いた、ガラスの割れた腕時計
だった。
 リョウゴはそれを顔の前に持っていく。
「あーこれか」
 彼は時計を外し、シンヤに寄越す。
「お前の形見にって貰ったんだけどさ、恥ずかしいから返す。」
「なんだよ、形見までもらってんじゃねーか」
「お前が死んだって聞いてマジにショックだったんだからな!」
 そして二人は笑う。
 見上げた天井は無機質だった。
 二人の間に静寂が横たわる。
 壁にかかった時計の秒針だけが音を立てていた。
「……俺、これからどうなるんだろ」
 ぽつり、リョウゴは言った。
「……大丈夫、なんとかなるって。」
 静かにそう返してやった。
 腕時計を握る手には力が僅かに篭っていた。


 耳をつんざく警報が鳴る!
 指示通りにAACVドックに集合したシンヤをはじめとするパイロットたちは
前方に立つアヤカ・コンドウに注目した。
「総員注目!緊急事態よ」
 アヤカの語調は刃のよう。
「今から2分前、P物質回収用アッシュモービルからの救難信号を哨戒機がキャ
ッチしました。それによるとコロニー・東中国からの襲撃を受けているというこ
とです。確認されている敵戦力は戦闘用アッシュモービル1機とAACV1機。
只今より高機動型AACV3機を援軍として派遣します。志願者は!?」
 次々と上がる手。
 その中にはシンヤの姿もあった。
 アヤカと目が合う。彼女の目には一瞬、疑問の色が浮かんだ。
 しかし彼女は叫んだ。
「シンヤ・クロミネ!ヒロキ・シマダ!リュウノスケ・キタ!以上3名をパイロ
ットとして指名します!呼ばれた者は直ちに着替えて緊急発進!以上!」
 シンヤは走り出す。更衣室まで行き、酔い止めを口の中に放り込んで、自分の
ロッカーからパイロットスーツを引っ張り出し、とりあえず下半身だけその中に
ねじ込んでまたドックへ向かって走る。走りながら上半身をスーツに包んで、ヘ
ルメットを被った。
 ドックではすでに自分のAACVが火を入れられてシンヤを待っていた。
 コックピットにワイヤーで上がる途中、通信が入る。
「こちら整備班、今回は緊急を要するのでこれからAACVに追加ブースターを
取り付ける。必要無くなったら切り離せ。」
 コックピットに滑り込む。
「各種システムチェックは一部省略。各機は追加ブースター取り付け後に緊急用
地上ゲートへ向かえ。その間のみ、施設内でのスラスター使用を許可する。ぶつ
かるなよ」
「了解!」
「いい返事だ!」
 背後からの軽い衝撃でコックピットが揺れる。モニターには「追加ブースター
接続完了」の文字が出た。同時に拘束具が外れる。
「シンヤ・クロミネ出発します!」
 叫んで、脚のスラスターを吹かす。
 床に火花を散らしながら鋭角的な巨人、AACVは動いた。
 他の機体にぶつからないように真正面に既に開いている緊急用地上ゲートへと
速度を徐々に上げていく。
 緊急用地上ゲートはエレベーターではない、長く緩やかなスロープだ。だから
出撃時から高速飛行が出来る。
 ドックから出て、オレンジに照らされたスロープを上がっていく。まるで弾丸
になったような錯覚を覚える。
 そしてシンヤは灰の海から飛び出した。
 そのまま上昇を続ける機体の背後で、地上に出たことを感知したセンサーが、
追加ブースターの折り畳まれていた大きな前進翼を広げる。
 それに連動してAACVの四肢が後方へ伸ばされ、空気抵抗を受けにくくする

 さらに肩と腰のスラスターも回転して後ろを向き、脚のスラスターと共に推力
を全て前進へと費やす。
 地上に出て数秒後、灰色の世界を飛んでいたのは奇妙な形の戦闘機だった。
 少し前方に先に出ていたらしいキタとシマダの機体の影が見える。こっちだっ
て急いだのに。
 飛行が安定し、速度が亜音速にまで達した頃、ノイズの後に通信が入る。
 低い威厳のある声がする。
「本部から新人へ忠告。目的地までは自動操縦だが、攻撃を受けた場合は自分で
軌道を調整、回避しろ。」
「はい」
「以上、タクヤ・タカハシでしたー」
 急にいつもの声色に変わって、吹き出しそうになる。すんでの所で耐えられた
のは加速と方向転換のGのために軽く歯を食いしばっていたからなのだが。
「それと、コンドウさんからの愛のメッセージが届いてるぜ。『後で志願理由を
聞きたいから必ず生還しなさい』だとさ」
「……はい」
「ツンデレだな」
「何の話ですか」
「つーわけで通信限界距離まであと数秒、遺言をどぞ!」
「え、ちょ」
 返答しようとして、通信は突然の雑音の嵐に呑み込まれる。
 シンヤは一人笑った。サンキュ、タクヤ。
 続けて通信のチャンネルが変わって、共に飛ぶキタとシマダと挨拶を交わした

 どうやらシマダの方は経験は浅いが、キタはもうそれなりの場数を踏んでいる
らしい。
 「頼りにしてます」と言うと、「他人に頼ってたらヤられるぞ」と返ってきた

 その通りだ。気を引き締める。
 シンヤは画面を見ていた。
 地上に戦闘機が出てこない理由がわかった気がする。
 こんなに降り続く灰で視界が覆われたら、余程腕が良くないとまともに戦えな
いだろう。
 それはAACVでも同じだが、こちらはガラス越しではなくカメラ越しなので
暗視と色調補正でかなりマシになっている。忘れてしまいそうだが、外はかなり
暗いのだ。
 それに普段は戦闘機の様に高空を飛行し続けるわけでもないので、操作を誤っ
て地面に激突した時のリスクも比較的少ない。
 シンヤは到着までの間、そんなことに考えを巡らせていた。
 そして数分後。
 前方の味方からの通信。
「もう敵のレーダー範囲に入ったはずだ。目視距離までそんな無い、見逃して行
きすぎんなよ!」
「前からミサイル数3散らばれ!」
 キタとシマダの指示の投げ合い。
 圧倒されかけたが、それよりもミサイルへの恐怖が勝った。
 頭の芯が一瞬で冷えて、全身の神経に瞬間的な痺れを走らせる。
 血液が逆流するような危険な興奮をシンヤは感じた。
 ミサイルを目視出来ないまま機体を45度ほど傾かせて上昇、コースから外れ
る。視界の端に、傍を白く細長い大きな影が高速ですり抜けていったのがチラリ
と見えた。
 体毛が逆立つほどのスリル!心臓に悪い。
 その後AACVの軌道を水平に戻した時に、シンヤは発見した。
 遥か向こうで火線が交差している。目標はアレか?
 レーダーはミサイルがぐるりと回って追いかけてくると警告している。
 火線はみるみる近くなる。
 確信した。あれだ。
 腕をレバーから離して体の横に回し、そこにある別のレバーをぐいと引く。す
ると追加ブースターがパージされた。AACVの姿勢も再び通常形態へと変形す
る。
しかし全身のスラスターは吹かし続けて、一旦時速300キロメートル台まで緩
やかに減速しつつ地面スレスレまで降下。その時後方で爆発音。追加ブースター
が囮になってミサイルを引き受けたのだ。
 AACVのライフルを構える。
 内臓の緊張が一瞬解けて、血液の巡りが良くなる。
 それを感じたら再び加速を開始する。
 灰を吹き飛ばして、AACVは戦う2機のアッシュモービルへ向かっていく。
 初めての、本格的な戦いだ。
 絶対生き残る。絶対強くなる。
 リョウゴのために。アイツへの償いのために、肩を並べられるだけの力が要る
んだ。
 雄叫びをあげた。

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