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captar2 MAIN 承 前編

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ParaBellum

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だれでも歓迎! 編集





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 この物語は悪意に満ちている。
 だが、悪意とはそれに対となるものが存在して初めて悪意となるのだ。

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 男が初めに持ったのは憎悪であった。
 激流のような憎悪、業火のような憎悪。
 それは男が家族を失った際に抱いたものだ。
 理不尽。
 この世界には理不尽がある。
 あり得る筈の無い、説明のつかない理不尽がある。
 だから、男はその理不尽に対して復讐を誓った。
 己の全てを奪った悪意に悪意を持って、立ち向かった。
 そんな男が得た力は強奪の力。
 相手から命を奪う力。
 命を残滓を己の力へと変換する力。
 そんな力を行使する男が誰かを救える筈も無いのがまた道理である。 


 これは黒峰潤也の物語である。
 絶望の中でその激流に抗いながら歩を進め続けた男の物語である。
 それを語る為にも、今、その絶望を語ろう。
 ありとあらゆる全てを明かそう。
 彼女が現れる。
 その瞬間を、ここに記そう。




 悪夢は忘れられるものでない。
 何故なら悪夢は人を縛る力となるからだ。


 まーた、ため息ついてる、幸せが逃げてくよ~。





CR capter2  The Nightmare THE MAIN STORY  承 ― 人を救う者(メシア) ―





 第七機関統括区域第四地区セントラルシティに存在する居住区。
 夕陽が眩しく辺りを照らし、瓦礫となっていく建造物を照らしている。
 今そこでは一機の鋼獣『轟虎』が破壊の限りを尽くしている。
 その巨大な四足で建造物を次々と踏み散らし瓦礫へと変えていった。
 逃げ遅れた人々はその破壊の巻き添えを受け、命を次々と散らしていく。
 ある者はその体を自身の子供と一緒に踏みつぶされ、ある者は瓦礫に体を切断され、ある者は火災に巻き込まれその身を焼き焦がす。
 この『轟虎』がここにやってきて、たかだが1時間でこのセントラルシティは地獄絵図をそのまま現実に映したような世界へと変貌を遂げていた。
 そんな場所にうずくまるようにして少女を抱いている青年がいる。
 その容貌は透き通るような白髪と目の下に大きな隈が出きているのが特徴的だった。
 青年の名を黒峰潤也という。
 潤也は背中に大きなガラスの破片を突きさした少女を抱きしめている。
 少女の背中からは血が漏れだしており、少女の服に大きく赤黒い血を染み渡らせていた。
 それは少女があの轟虎の破壊行為の飛び火を受けて、負った傷だ。
 重傷なのは疑い無い。
 致死に至る程の傷だと言ってもいいだろう。
 潤也は今、その腕に抱き抱えている少女を助ける為、危険を承知でここまでやってきた。
 だが、間に合わなかったのである。
 潤也が少女を見つけた時には既に少女はそんな状態になっていたのだから…。
 少女を抱きかかえる腕を離して、潤也は空を見つめた。
 この少女と潤也が出会ったのはほんの5時間前の事だ。
 偶然、少女が自分に話かけ、彼女の言動につい自分の失ったモノを重ね合わせ感情移入してしまった。
 それだけの繋がり。
 何故、それだけの事に潤也はそれほどまでに執着を抱いてしまったのか?
 だが、それだけでの繋がりでも、全てに復讐を誓ったあの日から常に闘いに身を投じてきた潤也には貴重なものだったのかもしれない。
 リベジオンに搭乗して行われる闘いは辛く、厳しく、そして潤也の精神を壊す。
 怨念変換機関により自身の精神を怨念に晒すのだから、それは当然の話だ。
 何度も、何度も、何度も人が死ぬその間際の光景を頭に叩きつけられるのだ。
 死んでいないのに自分が死んだと錯覚するような感覚、死ぬ寸前に抱く、憎悪、悲しみ、絶望そんな感情の残滓が潤也の意識を圧迫する。
 潤也は何時、そんな他人の死による圧迫により何時、人格の崩壊を起こしてもおかしくは無かった。
 それに耐えている事が出来たのは黒峰潤也という人間の尋常ならぬ精神の強さと、復讐という一つの目的以外に何も目に入れずそればかりを考え続けたからこそだろう。
 しかし、だからといってその精神が無傷だった訳でもない。
 その精神のありとあらゆる場所を鋭利なナイフで刺され、彼の精神は限界を近く迎えていた。
 だからこそ、この少女とのほんの一時の邂逅は潤也にとっては癒しであったのかもしれない。
 復讐の為に人間らしさ等捨てようとしていた潤也は少なくともそのほんの一時の間、人間らしい思考をした。
 おそらくそれは潤也すらも気付いていないだろう事であるが、それ故に潤也はこの会ったばかりの少女を大事に思ったのだろう。
 そんな深層意識の叫びか、潤也は知らずと死地に向かった少女を助けようと奔走した。
 この二カ月の間に失っていた何かがそこにはあって、それを思い出せそうになったから、奔走した
 少女を死なせてはいけない、『咲』を失ってはいけない。
 そんな思いで潤也は走った。
 少女の向かった先は彼女の家だ。しかし、潤也はその家を知る由も無かった。
 だから、アテルラナと連絡を取り、少女の居場所を聞き出し少女の元へと向かった。
 潤也の協力者であるアテルラナは常に黒峰潤也の行動をモニターしている。
 アテルラナは潤也が何処にいるかだけではなく、何時何時何分に誰と話したか、そして話した人間の素姓はいかなるものか?そんなものまで調べているのである。
 もはやストーカー等という領域を凌駕したアテルラナの行動は潤也がアテルラナを忌避する原因の一つであったが、それが今回のケースは幸いした。
 そして得た情報を元に潤也は少女の元へ向かう。
 そして、今、この状況に置かれたのである。
 結果だけを言えば、黒峰潤也は間に合わなかった。
 既に少女の家に付いた時には轟虎は防衛にいた鋼機の部隊を軽々と破り居住区まで侵入しており、辺りの家屋を踏み散らしていた。
 そして、その家の前に少女は倒れていた。
 潤也は慌てて駆け寄ったが、少女を抱えたその掌に少女の鮮血がベタリと付く。
 少女は既に呼吸をしておらず、そこでただ息絶えていた。
 人の死は見慣れている。
 それは何度も死ぬ側の人間となって追体験した際にもう慣れてしまった。
 だから、少女が死んだ事に悲しみは無かった。
 そもそも少女と潤也は今日、会ったばかりの人間だ。
 それなりに感傷は抱くが、それが名前のある感情になるまで昇華されるかといえば否だろう。
なのに、何も感じていないのに…何故、目から涙が零れているのだろう?
 もやもやとした煙のような思いが自分の心から消えないのだ。
 わからない。
 なんでこんな気持ちになるのかがわからない。
 潤也は少女から視線を話、轟虎を見上げる。
 轟虎は後を追ってきた鋼機との交戦を行っていた。
 轟虎を見た途端、潤也は自分の中に浮いている何かを理解する。
 むなしいのだ。
 力を手に入れた筈なのに、結局、肝心の所でそれが使えず、守ろうとした者を殺されたという無力。
 そんな自分を呪っているのだ。
 これでは家族を失った時の自分と何も変わらないじゃないか…。
「――――憎い…。」
 そう潤也は己の感情のままに呟く。
「―――憎い。」
 無慈悲に人々の命を理不尽に奪うあの鋼の獣が憎い。
「―――憎い。」
 家族を奪ったあの鋼の獣が憎い。
「―――憎い!!!」
 そしてそれに対して何もできない、自分が憎い!!!
 その時、空からパラシュートを開き降下してくる一機の機体があった。
 その機体の色は漆黒。
 背には展開式の翼が収納されており、紅い瞳が特徴的である。
 その機体の名をリベジオン。
 黒峰潤也の力。
 人の怨念を力に変える忌むべき王。
 怨嗟の魔王。
 そして、全ては始まる。








 潤也はリベジオンの胸部にあるコックピットに素早く飛び乗り、操縦席に座り、オーブ型の操縦キーに手を触れる。
 起動。
 黒に染まっていたディスプレイが青く光り、その中で文字の羅列が走る。
 そうして認証コードの入力。

 コードを入力した後にその文字が羅列され、そしてディスプレイは外の風景を映し出す。
 潤也はオーブを強く握りしめる。
 この操縦キーは通常の鋼機とは違う特殊なもので、潤也の体内にあるナノマシンを経由して潤也の脳波を受信、そこからダイレクトに操作できるシステムとなっている。
 鋼機の知識などまるでない潤也がほんの一瞬で手足のように鋼機を扱えるようになったのは、このシステムの恩恵と言って間違いない。
 機体の状況をチェック。



 ―――――DSGCシステム―――稼働に問題なし、リミッターに若干の損傷あり…
 ―――――右腕部、小指、中指との電気神経の接続に問題、駆動不可、また肘部との情報伝達に遅延あり。
 ――――――――――――――――――――左腕部、全指破損。
 ―――――右脚部、膝部の電気神経の切断、操作が不可の為、固定。
 ―――また、右翼の損傷、飛行性能に若干の問題。
 以上、戦闘機動を行うには大きく問題があると見受けられる。
 ――――――ただちに撤退を推奨。



 酷いものだった。
 今このリベジオンは体裁を整えているだけでボロボロな状態だ。
 当たり前の話だろう、ほんの数日前に大破レベルの損傷を受けたばかりなのだ。
 それでもまだ動く、潤也にそれだけには十分だった。
 機体に組み込まれたシステムは自己診断の結果、撤退を潤也に勧める。
 だが、そんなことはどうでも良かった。
 潤也にとって大切なのはリベジオンが戦闘出来る事だった。
 問題など知った事では無い、闘う力がこの機体にほんの少しでもあるのならばそれは十分すぎる話だ。
(――――殺してやる。)
 その一念を持って潤也はリベジオン立ち上がらせた。
 リベジオンの黒い顔に光る二つの紅の眼はその殺害対象を視界に収める。
 その視界には深緑の装甲を纏った一匹の機虎が四足で立っていた。
 鋼機『轟虎』、既にUHからも失われし三獣神機に名を連ねる白虎のレプリカ。
 その仔細な情報を潤也はアテルラナから聞かされている。
 三獣神機とは鋼機の始祖にあたる機体であり、鋼獣とはそこから情報を取り出し研究を行い、作り上げられた模造品なのである。
 そこから得た技術を元に三獣神機とは全く違う性質を持つ機体を『オリジナル』と呼び、『オリジナル』の模倣品をまた新たに『レプリカ』と呼ぶ。
 だから、『レプリカ』であるという事は何の『レプリカ』であるかというのがその機体の位を決めるのに重要になるという事だ。
 狗のように屑と呼ばれる『オリジナル』も存在すれば、それら始祖に当たる三獣神機という驚異の存在の『レプリカ』も存在する。
 だから鋼獣におけるオリジナルとレプリカは必ずしもオリジナルの方が上位の性能を持つとは限らないのである。
 そして、轟虎はレプリカの中でも最高位である始祖、三獣神機、疾走する王虎『白虎』のレプリカである。
 限定的に始祖の特殊な性能を引き継ぎ、その性能は通常の位にある鋼獣の三倍に達するとされるUHの持つ鋼獣でも最上位に値する鋼獣。
 それは、今まで黒峰潤也が闘ってきたそのどれよりも強力な敵であった。
 例え、リベジオンがフルスペックでも勝てるかどうかは怪しい、否、そんな生温い言葉を使わずに言えば、勝率1分を確保できればまだ、良い方だと言える。
 そんな敵にこのような機体状況で挑む、もはや無謀等という域を越して自殺志願だと言われてもおかしくなかった。
(――――殺してやる。)
 しかし、潤也は歩みを止めない。
 自身の中にある衝動に従って、その歩を進める。
 勝てるかどうかはなんて関係ない、やりたいからやる、やらずにはいれないからやるのだ。

―君の目的は復讐だ。君から全てを奪ったものから、全てを奪い取る事だ。ならば、だ。君はそれだけを考えていればいい、生きて、生きて、生きて、生きて、奴らを殺戮し尽くす、それだけに君の思考のベクトルを向ければ良いんだ―

 アテルラナはほんの1時間程前にこう潤也に言った。
 だから、今は逃げろと、逃げるのが最善だと…。
 だが、奴らを目の前にして、今もこう殺されるべきではない人間を殺してのうのうと跋扈する敵を見て、そんな事が出来るだろうか…?
 否、出来るわけがない。
 出来るのならばもっと利口な生き方を選んでいる。
 そんな賢い判断が出来るのならば復讐など志さず、他の悲しみながらも他の生き方を模索している。
 憎いのだ、心の底から…奴らがコンマ1秒ですらこの世の空気を吸っているのが許せないのだ。
 お前らはあの子のように無慈悲に父を殺したのだろう?母を殺したのだろう?咲を殺したのだろう?
 あいつらがお前らに何をした?何をしたというんだ!?
 ―――――憎い。
 心の奥底から憎い。
 自分から全てを奪ったあの敵が、憎い!
 だから、闘う。
 だから、殺す。
 その思いを持って、潤也はリベジオンのDSGCシステム、つまるところ怨念変換機関を起動させた。
 リベジオンの各部が円状に展開し、半径1000mに特殊な力場を発生、紅の光となった怨念を浮かび上がらせそれを自身に集束させる。
 それはかつてない程の領域での集束であった。
 だが、潤也は構わずにそれを実行した。
 意識がブラックアウトする。
 かつてここで無念の死を遂げた人間から、今ここで死んだ人間の記憶が潤也の脳に矢のように情報を伝達する。
 黒峰潤也という人間の中にある小宇宙が血に染まる。
 ―思念。
 頭を破壊された建造物の瓦礫によって潰される光景の実体験。
 痛みは無い、痛みを伝達する必要も無い、それが即死。
 ただ、理解できないという空虚で無情な心がそこにある。
 それが逆に辛かった、何も感じる事が出来なかった、何も知る事が出来なかった。
 そこにあるのは理不尽という三字だけだった。
 ――思念。
 瓦礫に体の半身を捕えらた己(おれ)、あるのは足にある鈍い痛覚のみで自分の目の前には泣いている少女がいる。
 馴染み深い少女だ、当然だ、それは己がお腹を痛めて生んだ最愛の娘なのだから…。
 少女は己を見て泣いているようだ。そう思い、痛みに耐えながら自分の後ろを見つめ状況を把握する。
 ああ、自分はもう助からないのだと把握する。回りで逃げ惑う人の声が聞こえる。そうだ襲撃があったのだと己は思いだす。
 だから、なんとしてもこの娘だけは助けないといけない。そう使命感にも似た感情を持って思う。
 泣きながら自分から離れ逃げるように娘を叱咤し、説得し、愛を示し送った。
 そして、見送り、安堵の息を吐いた瞬間、娘が何かに踏みつぶされた。何かの足元から紅い血が流れる。
 その何かが、一歩進めた後に娘がいた。娘だったモノがいた。もはやそれは人の形をしていなかった。
 刺殺されたり、銃で殺されたってああは酷くならない。あれはもはやそれが元は人間であったということすらわからない程、ぐしゃぐしゃに潰されていた。
 最初は理解が追いつかなかった、けれど目の前にいるそれを見続けらせれば理解するしかなかった。
 こんな理不尽がなんで許されるのだろうか、己は己の意識が暗黒に満ちるまで娘を殺したそれを憎悪した。
 ―――思念。
 まるで違う風景に己がいる。
 最果てから来る者は人間に4つの宝を与えた。
 1つは剣、1つは槍、1つは玉、1つは窯。
 そのどれもが世界の絶対を崩壊させる力を持つ代物であり、人の領分を越えた力を持つ宝だった。
 それぞれを得た者は『神』となり、その『神』としての力を完全なモノとする為に自分達が持たない宝を求めた。
 この世界には4人の『神』がいた。
 そして宝を奪い合う戦争が始まる、己もその戦争に参加する人間の一人だ。
 己が属する玉の宝を持つ軍は先見性にたけていた。
 敵の策略を全て見抜き、必ず先手を取る、そんな力。
 故に己の軍はあらゆる戦争行動に対して絶対に有利を用いて、相手の目論見を全て看破し潰す。
 己の軍は確実に勝利に向かっていた。
 だから、わからなかった何故こんな事になっているのだろうと?
 明らかに己の軍が勝っていた。だがあと一歩という所で出現した謎の黒渦。
 それに仲間が吸い込まれて消えていくのだ、そして自分も
 これはあまりにも理不尽ではないか?
 己はこの運命を憎悪し、呪った。
 ―――――思念。
 それは絶望の体験。
 ――――――――思念。
 それは終わりの体験。
 ―――――――――――思念。
 それは虚無の体験。
 ―――――――――――――――――思念。
 思念、思念、思念、思念、思念、思念、思念、思念、思念、思念、思念、思念、思念、思念、思念、思念、思念、思念、思念、思念、思念。
 億を超える怨恨を己の力へと変換する過程で、その一部の念が漏れ出し黒峰潤也にその無念を伝える。
 それは他者から伝えられる言葉ではなく、その死の実体験。
 コンマ1秒にも満たぬ刹那に置いてそれは行われる。
 それは黒峰潤也という個人に他人の死の間際の感覚まで付属した記憶が脳に送り込まれる。
 それは、他者の思念と己の思念が混ざり合う事によって自分が誰であるかを見失う危険性を持つシステムだ。
 だから、アテルラナは半径100m以上の範囲で収束を行うなと潤也に忠告したのだ。
 それが人の域で行える限界だと、だが、黒峰潤也はそれを見誤った。
 怒りに、憎悪に、その心を燃やし、敵の殲滅するという目的の元に限界を超える力を要求した。
 黒峰潤也という人間がいかに強固な人間の精神を持っていたとしても、万の意思に向かうには余りに一という個体は弱い。
 そんな怨念の激流の中で自我が保てる訳もなく、黒峰潤也という小宇宙は飲まれた。
 リベジオンの周囲に紅の光が纏わりつくように発現する。
 やがて光は衣となって、リベジオンの漆黒の機体を覆い尽くす。
 そしてその地に立ったのは紅の光の魔獣。

 ―DSGCシステムの稼働が危険領域に超過、対応措置として全システムの緊急停止を実行します
 ―エラー、エラー、システムの応答無し、操縦者の意識回復を優先

 アテルラナが仕掛けた安全装置が起動する。
 DSGCシステムは強制的に切られ、潤也の体内にあるナノマシンから電流を流す事により現実への帰還を促す。
 神経に直接、電流を流しこむというものだ、それは想像を絶する激痛を生む、それによって強引に自我を取り戻させようという機構。
 それがアテルラナがつくりあげリベジオンと潤也に取り付けられた安全装置だった。
 既に痛覚など忘れる程の死を体験しつつある潤也を痛覚でこの現世に戻す事等出来ない。
 リベジオンはDSGCシステムによって収集した膨大な思念とエネルギーをそこに持って立っていた。
 轟虎はそれに襲いかかる。
 それに対してリベジオンはもはや拳ですら無い左拳を振り上げた。
 拳として用はなさくともその左拳に纏われるエネルギーの量はかつての呪魂手甲のそれとは桁違いである。
 その膨大な熱量によってリベジオンの周囲の空間は歪み、リベジオンという機体が蜃気楼のように視覚的に不安定なものにする程であった。
 それで殴り付ける。
 既に搭乗者が自我を失っている潤也がそれを意識的にやっているのではない。
 自身に向けられた敵意に反応して、自動的に反撃しているだけのそれ。
 しかし、それはかつてリベジオンが放ったどの一撃よりも強力であった。
 当たれば破砕される等というものではない、当たれば蒸発させられる。
 それほどの熱量を帯びた拳。
 だが、轟虎はかの三獣神機のレプリカである、自身への攻撃を察知し、攻撃を中段、すぐさま強引に回避する。
 この判断があと刹那でも遅れていたら、轟虎はその身をこの世から消していただろう。
 それだけでも驚異的な柔軟性と即応力、それは化物じみた性能と言ってよかった。
「あ、ぁぁぁ、あぁぁ、ああああああああああああ!!!!!!!」
 リベジオンの暴走は止まらない。
 黒峰潤也は多大な負荷を受け完全に自己を喪失してしまっている。
 今、闘いながらも黒峰潤也は、数々の死の実体験をその脳に叩きつけられているのである。
 轟虎はそれを見て、一つの機能を稼働させた。
 轟虎の深緑の装甲が少しづつ回りの風景に溶け込んでいく。
 光学迷彩、視覚によっての認知を封じる機構。
 それは轟虎のありとあらゆるレーダー機器を無力化する能力と相まって、強力無比の力を誇る。
 このシステムを起動している間は誰も轟虎を認知できない。
 それが轟虎の切り札であった。
 リベジオンの左腕が切断される。
 原因は轟虎の牙の攻撃によるもの。
 暴走したリベジオンは攻撃を受けた方向に右拳を振るう。
 拳は空を切った。
 次は背部に衝撃。
 後方に反撃を行うが先と同じように攻撃は空振るだけ。
 姿の見えない敵。
 この敵の厄介なのは深く攻撃を入れてこないという点だ。
 いくら姿が見えないとは言え、深く致命傷を与える様な攻撃を与えるには少なからず反撃の機会を与えてしまう可能性がある。
 故に回りから少しづつ消耗させていく、そのような慎重な手を取られては思考を行えない潤也では相手のしようがない。
 もし、今、潤也が精神が正常で理性的な判断が出来るのならば、打開策を考案する事が出来たかもしれないが、この自我を失い、思念に思考を乗っ取られ、己への敵意に向けて反撃を行っているだけの状態の潤也には対応する術が無いのである。
 暴走したリベジオンと轟虎、その相性の悪さは最悪と言って良かった。
 そこでリベジオンは一つの最悪の反撃手を取る。
 今、リベジオンはエネルギーへと変換された怨念を強引に自身の周囲に拘束している。
 それを何の指向性も持たせせずに解放するのである。
 それによって起こされる周囲数十kmに及ぶエネルギーの暴走による無差別破壊。
 確かに、それは轟虎を倒しうる切り札なのかもしれない。
 だが、しかしこの居住区一帯を敵と一緒に破壊し尽くす一手であった。
 まだ、居住区には逃げ遅れた人が残っている。
 黒峰潤也が正常を保っていたのならばこのような手は取らなかっただろう。
 しかし、もはや黒峰潤也に黒峰潤也としての意識が無い。
 もはや、それはリベジオンと同調し憎悪を持って敵を滅ぼし尽くす獣。
 手段など選ぶ筈も無い。
 そして、もはや、黒峰潤也にそれを止める術も無かった。


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