「人間を造った!?」
「そうだ。キースが開発したのは、全くのゼロから、完全な個性を持つ『人間を造るメソッド』なのだ」
「そうだ。キースが開発したのは、全くのゼロから、完全な個性を持つ『人間を造るメソッド』なのだ」
九話:【万魔殿】
トライゼンは困惑するアンダースとさるぐつわをされ椅子に座らされたアリサをちらりと見た。すぐに目線をモニターに移し、ワークステーションからファイルを読み取った。
トライゼンが残した記録と、アンダースには隠されていた技術がそこにはあった。
アンダースはある種の怒りに似た感情を覚える。自分は必死に、それこそキース同様、命を懸けて研究開発にのめり込んで来た。
ところが、その研究は知らずの内に自身に隠された研究に応用されていたのだ。相棒であるキースはそれを隠していたのだ。仮にも相棒だと思っていたが、キースの真の相棒はアンダースではなく、小賢しいビジネスマンのトライゼンだった。
裏切られた。そう感じていた。
トライゼンが残した記録と、アンダースには隠されていた技術がそこにはあった。
アンダースはある種の怒りに似た感情を覚える。自分は必死に、それこそキース同様、命を懸けて研究開発にのめり込んで来た。
ところが、その研究は知らずの内に自身に隠された研究に応用されていたのだ。相棒であるキースはそれを隠していたのだ。仮にも相棒だと思っていたが、キースの真の相棒はアンダースではなく、小賢しいビジネスマンのトライゼンだった。
裏切られた。そう感じていた。
「無個性遺伝子に個性を発現させる研究はこの為だったのか……?」
「自惚れてもらっては困る。それは『人間を造る』研究の過程で生まれた物だ。成功すれば商品化出来るからね」
「自惚れてもらっては困る。それは『人間を造る』研究の過程で生まれた物だ。成功すれば商品化出来るからね」
トライゼンはモニターを反転させ、アンダースとアリサに見せた。
記録映像だった。それは、キースが行っていた神をも畏れぬ、恐るべき科学。
記録映像だった。それは、キースが行っていた神をも畏れぬ、恐るべき科学。
「君はCエレガントという物を知っているだろう?」
「……もちろんだ。ゲノムが完全に解析された線虫。設計図を完璧に理解された生物」
「その通りだ。最初に実験を行ったのはそのCエレガントの『製造』だ。ナノマシンを使って、ゼロから組み上げた。
もちろん成功した。造られたCエレガント達は実際に、リアルな生物として誕生した」
「……もちろんだ。ゲノムが完全に解析された線虫。設計図を完璧に理解された生物」
「その通りだ。最初に実験を行ったのはそのCエレガントの『製造』だ。ナノマシンを使って、ゼロから組み上げた。
もちろん成功した。造られたCエレガント達は実際に、リアルな生物として誕生した」
映像にはその様子が移し出された。シャーレしか写って居ないが、キースが作り上げた命が、そこにあるらしい。
「あくまでこれはテストだった。キースのナノマシンがどれだけ働くか、それを確かめる実験だ。
うまく行った私達は、さっそく無個性遺伝子から人間を組み立てた。まるで個性の無い。性別も人種も遺伝的疾患もない、ゼロの人間だ」
うまく行った私達は、さっそく無個性遺伝子から人間を組み立てた。まるで個性の無い。性別も人種も遺伝的疾患もない、ゼロの人間だ」
その人間は真っ白は肌と真っ白な体毛。そして、明らかに人間としてはおかしい特徴を持っていた。性別が無いのだ。目も虚ろで、まるで魂がないかのような印象だった。
「この映像で解る通り、『これ』には何も無い。出来上がって何の知識も無いからな。呼吸や、食事と言った概念すらなかった。本能が無かったのだ。
結果として、完全後すぐに死んだ。もっともこれでようやく研究が本格化出来る所まで来たのだ」
結果として、完全後すぐに死んだ。もっともこれでようやく研究が本格化出来る所まで来たのだ」
トライゼンは淡々と、感情なく説明して行く。
「この段階では言わば、ハードウェア開発に成功したと言える。細かい仕様等もある程度は融通が聞くようになった。
問題はソフトウェアの方だ。キースのナノマシンでは限界があったのだ。脳のシナプスに『記憶』や『本能』を最初から設定するには、膨大な仕事量をこなせるナノマシンが必要だった。そう。ナノマシン技師の専門知識がね」
「そこで俺か……」
「そうだ。ちょうど君が職に困っていた頃だ。いいタイミングだった。君は迷いなく我社へ来てくれた」
「……ふん」
「もちろん最初からすべてを隠そうとしていたわけじゃ無い。最終的には君の力は重要な物になる。我々はそこまで狡猾ではないさ」
「どうだかな……」
問題はソフトウェアの方だ。キースのナノマシンでは限界があったのだ。脳のシナプスに『記憶』や『本能』を最初から設定するには、膨大な仕事量をこなせるナノマシンが必要だった。そう。ナノマシン技師の専門知識がね」
「そこで俺か……」
「そうだ。ちょうど君が職に困っていた頃だ。いいタイミングだった。君は迷いなく我社へ来てくれた」
「……ふん」
「もちろん最初からすべてを隠そうとしていたわけじゃ無い。最終的には君の力は重要な物になる。我々はそこまで狡猾ではないさ」
「どうだかな……」
アンダースはアリサを見た。椅子に座るアリサはガチガチ震えていた。拉致され自由を奪われたのだ。無理からぬ事ではある。
アンダースはまずアリサを自由にしろと言った。トライゼンは少し考え、アリサの後ろに立っていた黄金色のチタンコートのアンドロイド、ベリアルにさるぐつわを外すよう指示を出した。
アリサは大きく息を吐き、そして吸い込んだ。半開きだった口からは唾液が流れていたが、両手はまだ自由にはされて居なかったのでそのままにされていた。
アンダースはまずアリサを自由にしろと言った。トライゼンは少し考え、アリサの後ろに立っていた黄金色のチタンコートのアンドロイド、ベリアルにさるぐつわを外すよう指示を出した。
アリサは大きく息を吐き、そして吸い込んだ。半開きだった口からは唾液が流れていたが、両手はまだ自由にはされて居なかったのでそのままにされていた。
「……アリサをどうするつもりだ?」
「どうもしない。サンプルが欲しいだけだ。最新のバージョンのね。それをさらに発展させるプログラムも開発済みだが、どういう訳かキースが持ち去ってしまった。
最後まで所在がどこか口を割らなかったが、こちらで場所は特定した」
「最後まで……?」
「どうもしない。サンプルが欲しいだけだ。最新のバージョンのね。それをさらに発展させるプログラムも開発済みだが、どういう訳かキースが持ち去ってしまった。
最後まで所在がどこか口を割らなかったが、こちらで場所は特定した」
「最後まで……?」
トライゼンは少し俯き、しばし言葉を止めた。アンダースも同様、言葉を止め、キースがどのような運命を辿ったか。それを悟り始める。
そしてアリサは、その言葉を聞いて震える口で喋り出した。彼女もどういう意味で語られたかは何と無く解る。
だが、受け入れるだけの精神的余裕は、今はなかった。
そしてアリサは、その言葉を聞いて震える口で喋り出した。彼女もどういう意味で語られたかは何と無く解る。
だが、受け入れるだけの精神的余裕は、今はなかった。
「最後まで……? 最後までって、どういう事?!」
そう叫ぶと、横に居たアンダースはいたたまれない気分になる。
解っているはずだ。だが、怪しげな探偵を雇ってまで、そして、おそらく溺愛されていたであろう唯一の肉親が、まさか。
解っているはずだ。だが、怪しげな探偵を雇ってまで、そして、おそらく溺愛されていたであろう唯一の肉親が、まさか。
「おじいちゃん……。おじいちゃんをどうしたの!?」
「……我々がキースを発見し、捕えたのは失踪してすぐだ。アリサが運び込まれた病院に居るという目撃情報を元に捜索したら、簡単に捕まえる事が出来た。
心身喪失といった所だったな。何をしても、最後まで一言も発しなかった」
「私が運び込まれた病院?」
「もちろん君の事じゃない。オリジナルの、君のモデルが運び込まれた所だ。
君は誰でもない。『ロボット』なのだから」
「……我々がキースを発見し、捕えたのは失踪してすぐだ。アリサが運び込まれた病院に居るという目撃情報を元に捜索したら、簡単に捕まえる事が出来た。
心身喪失といった所だったな。何をしても、最後まで一言も発しなかった」
「私が運び込まれた病院?」
「もちろん君の事じゃない。オリジナルの、君のモデルが運び込まれた所だ。
君は誰でもない。『ロボット』なのだから」
トライゼンはモニターの映像を切り替える。キースへの尋問を収めた物だった。尋問とは言ったが、内容は拷問そのものだ。
「どれだけ痛めつけても、キースは堪えるばかりでね。私も裏切られて黙っているほどお人よしでは無い。ましてや秘密裏に、それも非常に革新的な研究なのだ。
そこのベリアルが徹底していたぶったが、結局は無駄だった。キースめ……」
そこのベリアルが徹底していたぶったが、結局は無駄だった。キースめ……」
映像は椅子に縛られたキースと黄金色のボディを持つアンドロイド、ベリアルだけが映っていた。
「……嫌……! 嫌よ! こんなの嘘よ!」
「トライゼン!」
「トライゼン!」
アンダースは言う。アリサにはとても見せられる映像では無かった。
映像はすぐに切られ、次に映し出される映像を待つ。スクリーンセーバーが無機質に画面の中を飛び回って居る。
映像はすぐに切られ、次に映し出される映像を待つ。スクリーンセーバーが無機質に画面の中を飛び回って居る。
「貴様、解ってはいたがどうしようも無いクズだな」
「君に言える事かアンダース。恥ずべき経歴の君を雇い入れたのは誰だ?」
「ふん。結局は金の為だろう?」
「当然だ。これはビジネスなんだよ。君だって食いっぱぐれて落ちこぼれ同然だったではないか。
我々は君の能力を求め、君は職を求めた。キースは私の投資が必要で、私はキースの研究がもたらす利益を求めた。それを裏切れば、当然ながら罰を受ける」
「だからと言って……。こんな物を見せてどうするつもりだ? ましてやアリサにまで……」
「何を気にする? このアリサならメモリーさえ戻ればいくらでも作れる。物なんだよ『コレ』は」
「君に言える事かアンダース。恥ずべき経歴の君を雇い入れたのは誰だ?」
「ふん。結局は金の為だろう?」
「当然だ。これはビジネスなんだよ。君だって食いっぱぐれて落ちこぼれ同然だったではないか。
我々は君の能力を求め、君は職を求めた。キースは私の投資が必要で、私はキースの研究がもたらす利益を求めた。それを裏切れば、当然ながら罰を受ける」
「だからと言って……。こんな物を見せてどうするつもりだ? ましてやアリサにまで……」
「何を気にする? このアリサならメモリーさえ戻ればいくらでも作れる。物なんだよ『コレ』は」
「畏れを知らない奴だ。地獄に堕ちるな」
「あいにく仏教徒でね。さて、そろそろ本題に入ろうか。君にやってもらいたい仕事の説明に入ろう」
「俺がいい返事をすると思うのか?」
「当然だ。ここ以外、前科者である君を雇う所がどこにある? ましてや君は、社会的には殺人犯より下だ」
「……ふん」
「さて、まずは我々の研究がどのような物だったか、説明しようか。
言わずもがなだが、最終的な目標は完全な人間を造る技術だ。あいにくまだ完全とはほど遠いが、出口はすぐそこまで来ている。
コードネームは『アリサ』。四年前の事故で植物状態になったアリサの名前をキースが付けた」
「あいにく仏教徒でね。さて、そろそろ本題に入ろうか。君にやってもらいたい仕事の説明に入ろう」
「俺がいい返事をすると思うのか?」
「当然だ。ここ以外、前科者である君を雇う所がどこにある? ましてや君は、社会的には殺人犯より下だ」
「……ふん」
「さて、まずは我々の研究がどのような物だったか、説明しようか。
言わずもがなだが、最終的な目標は完全な人間を造る技術だ。あいにくまだ完全とはほど遠いが、出口はすぐそこまで来ている。
コードネームは『アリサ』。四年前の事故で植物状態になったアリサの名前をキースが付けた」
モニター映像が移る。十歳前後の少女の映像だ。ほぼ完全な姿だった。そしてそれは、アンダースの横にいるアリサに、どこと無く似ていた。
「このアリサ1は最初に造った物だ。残念ながら問題だらけだったがね。
まず、記憶が再現出来なかった事。オリジナルから採取した記憶の移し替えが出来なかったのだ。
次に、君も知っている通り細胞の寿命が著しく短い。テロメアが最初から異様に短く、その後も幾つか造ったが悩まされる事になった。最後はその反動か、全身が神経細胞の塊になってしまった。ガンだ」
まず、記憶が再現出来なかった事。オリジナルから採取した記憶の移し替えが出来なかったのだ。
次に、君も知っている通り細胞の寿命が著しく短い。テロメアが最初から異様に短く、その後も幾つか造ったが悩まされる事になった。最後はその反動か、全身が神経細胞の塊になってしまった。ガンだ」
映像が切り替わる。今度は少しだけ成長していた。つまりそれは、年齢すら最初から設定出来るという事。
「アリサ2は寿命こそ伸びたが、ガン化が激しくまともに生命を維持出来なかった。何しろ細胞分裂したそばから、すべてガンになる有様だ。
これでは何のテストも出来はしない」
これでは何のテストも出来はしない」
トライゼンは淡々と説明する。まるで、自社が開発した商品をエンジニアに説明するように。
アンダースとアリサは見入っていた。好ましい映像ではないが、その驚くべき内容から目が話せなかった。
アンダースとアリサは見入っていた。好ましい映像ではないが、その驚くべき内容から目が話せなかった。
「アリサ3と4になって、ようやくまともな人間に近くなった。寿命は相変わらず短いが、それでも三ヶ月から半年は生きながらえる。
観察した結果、寿命が来ると一気に老化するか、やはり全身がガンになる事が解った」
観察した結果、寿命が来ると一気に老化するか、やはり全身がガンになる事が解った」
その映像は生々しい。ホラー映画ならば派手な演出があるが、モニターに映るのは淡々とした無機質な記録映像だった。
アリサは少しずつ理解する。
なぜキースがメモリーを奪い去ったのかは分からないが、ヘンヨへの依頼内容、それは。
なぜキースがメモリーを奪い去ったのかは分からないが、ヘンヨへの依頼内容、それは。
『半年だけアリサを預かって欲しい』
まさか、自分も――?
そう思っていたら、トライゼンはさらに淡々と言う。
そう思っていたら、トライゼンはさらに淡々と言う。
「そして、アリサ5。そこのアリサの一つ前のバージョンだ。寿命以外はほぼ完璧になった。
幾つか試作し、そのうち何体かはキースが家に持って帰り孫として使った。数ヶ月に一回は『交換』せねばならなかったが、それでもほぼ完璧だった。
肉体的にも日常生活には差し支えなく利用できる」
幾つか試作し、そのうち何体かはキースが家に持って帰り孫として使った。数ヶ月に一回は『交換』せねばならなかったが、それでもほぼ完璧だった。
肉体的にも日常生活には差し支えなく利用できる」
トライゼンの言葉を聞いて、アリサはさらに恐ろしい事実を悟る。
ここ数年の記憶。祖父との生活。学校、日常。それらは全て、自信の体験では無いというのか。
もし自分も、トライゼンの言う通り「交換」されて今に至るのか。
そして、そうだという内容をトライゼンは話し始める。
ここ数年の記憶。祖父との生活。学校、日常。それらは全て、自信の体験では無いというのか。
もし自分も、トライゼンの言う通り「交換」されて今に至るのか。
そして、そうだという内容をトライゼンは話し始める。
「そして、アリサ6。そこに居るバージョンだ。
記憶の移し替えの繰り返しは完璧な移植こそ不可能だったが、それが逆に幸いしたと言える。人間の記憶など曖昧だ。適度に欠落した記憶のおかげで、さらに人間らしい出来栄えとなった。
相変わらず寿命は短いが、そのバージョンは『性格』や『好み』まで。自在に設定出来る。キースが持って行ったアリサはほぼオリジナルを引き継いで居るが、研究用に造ったアリサ6では非常にバリエーション豊かなアリサ達が誕生した。
……もっとも、キースが失踪前に全て破壊してしまったがね」
記憶の移し替えの繰り返しは完璧な移植こそ不可能だったが、それが逆に幸いしたと言える。人間の記憶など曖昧だ。適度に欠落した記憶のおかげで、さらに人間らしい出来栄えとなった。
相変わらず寿命は短いが、そのバージョンは『性格』や『好み』まで。自在に設定出来る。キースが持って行ったアリサはほぼオリジナルを引き継いで居るが、研究用に造ったアリサ6では非常にバリエーション豊かなアリサ達が誕生した。
……もっとも、キースが失踪前に全て破壊してしまったがね」
映像は終わった。アリサが最後に見たのは、バラバラにされた自分の映像だ。
アリサは恐ろしかった。それが祖父の手によって行われたのが、信じられなかった。
アリサは恐ろしかった。それが祖父の手によって行われたのが、信じられなかった。
「嘘だ……。こんなの嘘だ!」
叫んだ。だが、それはトライゼンの耳にまでは届かなかった。
その声はトライゼンにとって、ただの機械音と同じだった。そして、アンダースは言った。
その声はトライゼンにとって、ただの機械音と同じだった。そして、アンダースは言った。
「俺に何をさせたい。クソ野郎」
「簡単だ。メモリーが戻ったら、アリサ7の製造を手伝って貰いたい。あれにはその情報が入っている。それこそ、膨大な量のヒトゲノム情報だ」
「簡単だ。メモリーが戻ったら、アリサ7の製造を手伝って貰いたい。あれにはその情報が入っている。それこそ、膨大な量のヒトゲノム情報だ」
「俺には無理だ。簡単な遺伝子すら扱えないんだからな」
「心配は要らない。キースの代わりなどいくらでも居る。その前に君も正式にこのプロジェクトに参加して欲しい。その為に、今までの経緯を説明したのだ」
「心底、胸糞悪い野郎だ。お前は」
「だが君は拒否しない。行くあてなど無いのだから」
「心配は要らない。キースの代わりなどいくらでも居る。その前に君も正式にこのプロジェクトに参加して欲しい。その為に、今までの経緯を説明したのだ」
「心底、胸糞悪い野郎だ。お前は」
「だが君は拒否しない。行くあてなど無いのだから」
アンダースは口ごもる。トライゼンの言う通りだったからだ。
ナノマシン技師などごまんと居る。その中で、わざわざ前科者の自分を雇い入れる所などほとんど無いのだ。
ナノマシン技師などごまんと居る。その中で、わざわざ前科者の自分を雇い入れる所などほとんど無いのだ。
「……このアリサはどうなる」
「今は考えて居ない。どうせすぐに死んでしまうからね。まぁ、いつも通り経過観察をしてデータを集める」
「その……アリサ7とはどういう物なんだ?」
「寿命がほぼ人間と同じになる。つまり、テロメアの長さが再現出来た。ガン化も押さえられる。
さっきまで君が見ていたアリサ5とは比べ物にならないだろう」
「今は考えて居ない。どうせすぐに死んでしまうからね。まぁ、いつも通り経過観察をしてデータを集める」
「その……アリサ7とはどういう物なんだ?」
「寿命がほぼ人間と同じになる。つまり、テロメアの長さが再現出来た。ガン化も押さえられる。
さっきまで君が見ていたアリサ5とは比べ物にならないだろう」
アンダースは逡巡した様子を見せ、そしてアリサをちらりと見た。
震えていた。語られた事実は、あまりにも厳しく、そして凄惨だったから。自分の運命は既に決まっていたと知らされたのだ。そして、キースがどうなったのかも知ってしまった。
震えていた。語られた事実は、あまりにも厳しく、そして凄惨だったから。自分の運命は既に決まっていたと知らされたのだ。そして、キースがどうなったのかも知ってしまった。
「……クソッ」
「なんなら、君専用のアリサを造っても構わない。年齢すら自由自在だ。言っただろう? 『君にも興味がある事』だと」
「……弱みに付け込もうとしているのが見え見えだな」
「当然だ。ビジネスとはそういう駆け引きが必要なのだよ」
「悪魔め……」
「なんなら、君専用のアリサを造っても構わない。年齢すら自由自在だ。言っただろう? 『君にも興味がある事』だと」
「……弱みに付け込もうとしているのが見え見えだな」
「当然だ。ビジネスとはそういう駆け引きが必要なのだよ」
「悪魔め……」
※ ※ ※
『異常は?』
『何も無い』
『何も無い』
こじんまりしたゲートと、横にある守衛室。この時間、この場所を通る物など誰も居ない。
人間ならば飽き果てて居るだろうが、その任を受けたアンドロイドは文句一つ垂れず、そこに居座っていた。
人間ならば飽き果てて居るだろうが、その任を受けたアンドロイドは文句一つ垂れず、そこに居座っていた。
『時刻……。午後八時。異常無し。打刻完了』
『来客等はあったのか?』
『いや。ここを通ったのは二時間前に帰宅した社員が一人だ。今居るのは俺達と警備と、アンダース研究員。あと社長だけのはずだ』
『了解』
『来客等はあったのか?』
『いや。ここを通ったのは二時間前に帰宅した社員が一人だ。今居るのは俺達と警備と、アンダース研究員。あと社長だけのはずだ』
『了解』
場所は正面ゲートだった。社員が帰宅してしまった以上、あとはやる事は定期報告のみだ。
いつも異常などない。せいぜい迷い猫が紛れ込む程度だ。仮に暴漢等が現れても、彼らは警備を目的としたアンドロイドだ。むしろ本領を発揮する場面と言える。
ただし、それが普通の暴漢程度であれば、の話だが。
いつも異常などない。せいぜい迷い猫が紛れ込む程度だ。仮に暴漢等が現れても、彼らは警備を目的としたアンドロイドだ。むしろ本領を発揮する場面と言える。
ただし、それが普通の暴漢程度であれば、の話だが。
一台の車がゲードの向こうに止まった。距離にして約五十メートルと言った所だった。ライトをハイビームにし、ゲートを照らしていた。
当然、彼らは何事かと思う。
当然、彼らは何事かと思う。
『……誰だ?』
『客か? こんな時間に?』
『客か? こんな時間に?』
車から一人の男が降りた。フロントに設置されたトランクから何かを取り出した。大きな箱のような物だった。
『何をしているんだあいつは?』
『さぁ? マイク寄越せ』
『さぁ? マイク寄越せ』
何をしている!? その声は聞こえていたはずだが、その男は意にも介さず何や大きな箱を弄っている。そしてトランクを閉じた。
『あいつが持っているのって、まさか……』
『なんだ? ズームして見てみろ』
『なんだ? ズームして見てみろ』
その男――ヘンヨは、遂にゲートの方を向いた。肩には、大きな箱が担がれていた。
『あいつが持っているのって……』
アンドロイドは気付いた。そして、ヘンヨが何をするつもりなのか、察知したのだ。モノアイのズームで捕えたヘンヨの口は確かに「挨拶がわりだ」と言っていた。
『まずい!』
『どうしたんだ?』
『ロケットランチャーだ!』
『どうしたんだ?』
『ロケットランチャーだ!』
そしてヘンヨは、四連装ロケットランチャーのトリガーを引いた。
続く――
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