創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

五話:【置いてけぼり】

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ParaBellum

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「連中はまだ捕まらないのか?」
《はい。抵抗が激しく……。故障者多数です》
「それほどの数で行ってもか? まぁいい。防犯カメラの映像を追えば居場所はまた特定出来るはずだ」
《二人はスラムに入りました。スラムでは街中に防犯カメラは設置されておりませんが……》
「スラムへ? ……まったくどこまでも面倒な奴らだ。わかった。奴をそっちにやる」
《奴? まさかアイツを? そんな……我々だけでも――》
「スクラップの山を作っておいてよく言えるな。いいか、お前等ポンコツもタダじゃ無いんだ。それなりに費用がかかる。これ以上ムダに金を使う訳にはいかないんだ。
 奴が着くまで待機していろ。合流したら一緒に探し出せ。いいか!」
《……分かりました》
「よろしい」

 電話での会話だった。
 受話器をたたき付けるように置き、報告をしてきた配下のアンドロイドの無能さに腹を立てる。資料には確かに相手が元エリート軍人だったと書かれている。だが、まさか戦闘能力の差を見せ付けられるだけになるとは予想外だった。
 素人では相手にならない事は十分理解出来た。ならば、こちらもそれなりの切り札を切るまでだ。彼は電話の前でそう考えている。同時に、先程の配下のアンドロイドの姿を思い出し、再び腹を立てる。
 そして、イラだった感情は電話機への八つ当たりとなって現れ、電話機は粉々になってしまった。




 五話:【置いてけぼり】




「ええぇぇ~!」
「我が儘を言うな。一番安全だ」

 何やら喚く少女と、それを宥める厳つい男。ドーナツが置かれたテーブルを挟んで今後の事を話し合っていたが、下された決定にアリサはいささか不満があるようだ。

「どこか別の場所にしてよ!」
「ここが一番なんだ。前居た牢屋よりはマシだろ」
「まだ牢屋のほうが色んな意味で安全よ!」

 この調子でかれこれ二十分以上は騒いでいる。横で見ているKKは笑っていたが、スレッジの方は少し引き攣った笑顔だ。

「ここなら世話焼いてくれる奴も居るし、いざって時は一番安全なんだ。我が儘言うな」
「何よ! 『言いたい事あれば言えばいい』ってほざいたのはどこの誰?! だから言ってるんじゃない!」
「それはそうだが……」

 とほど不服なのだろうか、今までに無い程に喚き散らす。
 一体何が不満なのかと言えば、安全の為にこれからしばらくの間は、アリサは隠れ家に置いたままヘンヨ一人で活動すると言う事。つまりはアリサを閉じ込めるという決定だった。
 それだけならば問題は無かった。だが、場所がどうにもアリサには受け入れられない。

「絶対イヤ! あのキモ……あのおじさんと一緒に居るなんて!」

 スレッジをチラっと見ながら言う。スレッジも前から嫌われていたのは知っていたが、ここまで嫌がられるとは思っていなかった。おかげで作り笑いすら今はうまく出来ない。

「確かにキモい奴だが、頼りにはなる。KKも居るんだ。変なマネはさせないから、安心してくれ」
「生理的にイヤなの! 解るでしょ!? だいたいね、なんでこんな所に居るくらいなら……」
「面倒くせぇガキだ……」

 ヘンヨは目でKKに合図する。向こうもその意図を理解したが、『ホントにいいの?』という表情を見せる。機械とはいえ驚きの表情は人間と代わらない。
 ヘンヨは小さく頷き、KKは申し訳なさそうにアリサの後ろに移動する。そして。


 バチッ!

 どさっ……


「お疲れさん。まったくここまで嫌がるなんて……」
『あなたもたいがい酷いわね。いくらうるさいからって失神させて黙らせるなんて。女の子よ?』

 テーブルに突っ伏したアリサの後ろで、指先から小さく放電させるKK。
 指先に仕込んだスタンガンは一発で見事にアリサを失神させた。

「元から無理にでも置いて行くつもりだったし、別にいい」
『そういう事じゃなくてね。嫌われちゃうわよ?』
「だからなんだ。死なれるよりはマシだよ。俺だって守りきれない物もある」
『まぁ……。しつこい感じの連中だったしねぇ……』

 KKはアリサを抱えて移動する。テーブルの上で寝かせておく訳にも行かない。

 ぐったりとなったアリサはそのまま奥の客室へ連れていかれる。KKのスタンガンを食らえば簡単には目覚めない。

 ヘンヨは引き攣った笑顔のスレッジの方を向く。なんとも言えない表情は滑稽に見えたが、本人の心中は穏やかとは思えない。もっとも、ヘンヨには元々何の遠慮も無かったが。

「……お前等、よく本人の目の前でキモいだの生理的にムリだの言ってくれたな」
「ちょっとした冗談だ。気にするタマかお前は」
「目の前で言われりゃ話は別だ。遠巻きに二人して喧嘩売ってんのかと思ったぜ……」

 頭をボリボリかきながら悪態を付く。
 怒りと悲しみが入り交じった表情のまま、テーブルの上のドーナツを一つとってかじる。よほどイラついていたのか、それはすぐに胃袋へ消えていった。
「ったく。人をバカにしやがて……」
「そんな事より、聞いておきたい事があるんだが?」
「そんな事だと? フン。もうなんでもいいや。で、聞きたい事って?」
「例のメモリーだ。中身が暗号とか言ってたな?」
「ああ……。確かにそう言ったが」
「解けないのか」
「ちょっとムリだな。異常な量のアナグアムだ。延々と続く意味不明のマトリクス……って所だ。解くには解答ソフトが要る。」
「解答ソフト?」
「そう。あんな物、まともに解いてたら一万年かかっても終わらない。解答を収めたソフトがあるはずだよ。多分それ持ってるのは……」
「襲撃してきた連中だな」

 ヘンヨは立ち上がる。銃のチャンバーと予備のマガジンを確認し、出掛ける準備を始める。

「メモリーを俺に預けてくれ」
「……何する気だ?」
「好き勝手やられたからな。今度はこっちから仕掛ける。連中はそのメモリーを探している。そして、恐らくキースの失踪にも絡んでる」
「おびき出すつもりか」
「そうだ。適当な所でメモリーを使って、襲ってきた連中を取っ捕まえてやる。ついでにアリサの家にも行ってみる。キースの手掛かりが何かあるかも」

 ヘンヨがアリサをここへ置いて行くと言った理由はこの作戦を行う為でもある。解答ソフトの事も気になるが、ヘンヨにとって重要なのはそんな物では無い。

「メモリーの暗号はどうする?」
「後でいいさ。正直、キースさえ見つかればどうでもいいしな」
「じゃあ、俺は何してればいい?」
「後で電話する。ああ、アリサに近づくなよ」
「バカにしやがって……」




※ ※ ※




 暗闇。最初はそれだけだった。
 今、自分がその中に居ると自覚するまで少しばかりの時間を要した。意識はいまだ闇の中。いつそこで目が覚めたのかすら解らなかった。
 やがて、皮膚の感覚が戻ってくる。少し暖かい。
 何かが身体を包んでいる。重くは無い。むしろ、身体の周りに在り続けるのが不思議なくらい、ふんわりした感触だった。
 まだ闇の中。でも、そのふんわりした物のおかげで非常に居心地が良い。できれば、このままずっとこの感触を味わっていたい。そんな気持ちになった。
 今度は音がする。規則性をもったそれは、少しずつ暗闇を引き裂いて存在感を増していく。一定のリズムで聞こえる音は、ある程度まで大きくなるとそもままの音量でそこに居続ける。
 けっしてうるさい訳ではないが、このふんわりした感触をじっくり味わうのには多少耳障りな物だった。
 さらに今度は、首筋に痛みを覚える。それはじわじわ広がっていき、頭まで来る。鈍痛は頭の中に居座り、やがてふんわりした感触を味わう事すら忘れさせる程になる。
 頭を押さえようにも、自分の手の感覚が無い。いや、正確には自分の身体が今どうなっているのかすら解らない。
 頭痛はそのままに、暗闇の中に今までにない感覚が現れる。
 口の中の感覚だ。唾液が嫌に少ない。喉の乾きではなく口そのものが渇いている。
 不快感が増して行く。頭痛は脈打つ事に鋭くなり、口の乾きは全身の乾きへとなっていく。最初に聞いた音は一定のリズムを保ったままに、今はハッキリと耳に届く。
 先程までとは打って変わり、今度はここから逃げ出したいと考えはじめる。無限の静寂を思わせた暗闇は、今は不快感の坩堝に思える。
 そもそも、どうして今ここに居るのだろうか。
 ようやくその疑問にたどり着いた時には、不快感は絶頂に達していた。

 もう嫌だ、十分だ。そう思った。そして、唐突に暗闇は引き裂かれた。

「……?」

 天井が見えた。同時に、口の中が渇いている感覚がして、口が半開きになっている事に気付く。渇いた舌は動かすのも億劫だった。
 自分が横になっている事に気付いて起き上がろうとするが、腕の感覚がない。身体がだるい感じがして面倒だとも思い、とりあえず起き上がるのは止めた。
 そして、自分がなぜ寝ているのかを思い出そうとする。昨日どんな日だったか。寝る前に何をして、何時に寝たのか。
 だが、思い出せなかった。何時にベッドに潜ったのか覚えて居ない。それどころか、ベッドまでたどり着いた記憶すらない。
 最後の記憶は確か……。
 そうだ。誰かに文句を言っていたんだ。ずっと言い続けて、さらに畳み掛けようとして、その後……。


「ヘンヨ……?」
『あら、目が覚めちゃった?』
「……!?」

 横に居たKKがアリサの目覚めに反応して声をかける。まだ状況を把握仕切れていないアリサは周りを見渡して情報を集めようとする。
 マットレスは少しばかり堅い物だったが、かけられている毛布はふんわりと柔らかく、重量をあまり感じないほどに空気が混じっている。お陰で見た目以上に軽い。壁に掛けられた時計はコチコチと一秒おきに規則正しく針を動かし、静かな部屋にはその音が響いている。

 アリサは起き上がろうとする。が、手が痺れて感覚が無い事に気付く。気付かぬ内に肩より高い位置に腕が置かれていた。
 それでも何とか起き上がり、今度は水平になった視点でさらに周囲を見る。
 首に痛みが走った。まるで針が刺さったようなチクリとした痛みは、アリサの寝ぼけ眼を一気に開かせる。首の鋭い痛みとは反対に、頭には鈍い痛みがあった。

「……ここ、どこだっけ?」
『ごめんなさいね。ちょっと強すぎたかしら……』
「……え?」

 KKが心配そうな顔をしている。何の事かはよく分からなかった。

「えーっと……。確か、アイス屋から逃げて、そのあとスレッジのトコ行って、それで……」
『そうそう。ヘンヨもう行っちゃったわ。大人しく待ってろって伝言残してね』

「ヘンヨ? ……ああ、そうだ! たしか此処は……!」
『首大丈夫? 痛み残ってなきゃいいけど……』
「私に何したの……?」
『ええまぁ……。ちょっとね。あんまり騒ぐから、ね』
「結局、私置いてけぼりか」
『まぁあれだけハデに襲われればねぇ。あれでヘンヨは小心者だし、連れてけないのも解るけど』

 アリサは一眠りして落ち着いたのか、うっすら解っていたヘンヨの意図をようやく受け入れる。場所はまだ気に入らないが。

「スレッジは……?」
『さぁ? あなた達二人に相当ヘコまされたし、どこかで泣いてるんじゃない?』

 首が痛む。激しく痙攣した後のような感覚だった。

(諦める……しかないか)

 そう思うしかなかった。スレッジと一緒に居るのはガマンならないが、一人で抜け出そうと考えるほど浅はかでもない。

『これからスレッジにエサあげなくちゃ。あなたも何か食べる?』

 KKの言葉にアリサは小さく頷いた。それを見たKKは部屋を出て行く。また、部屋は時計の音が聞こえる程度の静寂が訪れる。時刻は夜の十一時を回った頃だった。
 まだ寝起きの為か身体が怠い。首の痛みは目を開かせるには十分だったが、身体を目覚めさせる効果は無かったらしい。
 アリサは再び横になる。ばさっと音を立てた枕はアリサの頭をやさしくキャッチしてくれた。

 首の痛みとは違う、寝起き特有の頭痛は、まだ消えないままだった。



―続く。


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