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GEARS 最終話前編終

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ParaBellum

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「な……」

だが、それは霧坂から吹き出る赤では無い。窮地に陥った霧坂を抱き止める守屋の右腕は溢れんばかりの血液を流すばかりで、親指を残して本来あるべき四本の指は全て、失われている。
守屋の指だった物が破片となり、銃弾と共に散らばっている様を見た霧坂は力なく床に座り込んだ。今まで異常なまでの悪運に恵まれてきたが今回はもう無理だ。
守屋一刀が殺されてしまう。霧坂だけでは無い。守屋という男をよく知る者達でも、もう無理なのだと諦めの表情を浮かべた。

では、守屋一刀はどうなのか? 敵の事を素人だと評しておきながら、自身もまた素人である事を失念し、無様な醜態を晒し、好いた女を絶望に追いやってしまった。
アームドギアがあれば絶対に負ける事は無い。そんな短慮で浅ましい考えで戦場に立ち、無警戒に敵陣に潜入し、この様な無様な醜態を晒し、好いた女を泣かせてしまった。

守屋の心の中に渦巻く感情。それは恐怖でも諦めでも無い。そこにあるのは霧坂を危機に晒した己へ対する憎悪。
霧坂に殺意を向けた男に対する憎悪。極めて人間的で善悪を超越し、心の奥底から無限に湧き出る真っ直ぐで純粋な憎悪。ただ一つ。
咽喉から、手首から、背中から、腹から、脚からおびただしい量の血液と共に生と力が流れ出て、失われていく。

――それが如何した?

「貴様……二人仲良く、何と言った?」

「た、弾は当たっている筈だぞ!? 何で……何でくたばらねぇんだ!?」

男は銃を取り落としそうになりながら、腰を抜かし守屋に銃口を向けたまま身を捩らせながら後方へと距離を離すが、男が離れると守屋は一歩踏み出す。

「霧坂に銃を向けたな?」

「ヒッ……ヒィ!?」

身体中を穿つ銃創から血液、肉片、骨片を吐き出しながら、幽鬼の様な足取りで近付く守屋に恐れをなし、恐慌状態に陥った男が腰を抜かした拍子に銃口から弾丸は撃ち出され、守屋の胸板に穴を穿った。
守屋の瞳孔が、カッと見開かれ前のめりに体勢を崩した。しかし、今度は倒れない。よろめきながら、痛々しい銃創からおびただしい量の血液が溢れ出る右足を持ち上げ、一歩前へと床を力強く踏み抜き、崩れ落ちそうになる身体を支える。

「ハァ――ハァ――その程度で……俺を殺すだと? 思い上がるなッ!! 貴様は霧坂を傷付けた……全弾撃ち込まれたとしても、死ぬ道理など無いッ!!」


「く、来るな! 来るな! こ、この化け物め!!」

そして、トリガーを引くが、拳銃からはカチッ――カチッ――と力の抜けたような虚しい金属音を立てるだけ。
それでも、弾の切れた拳銃と守屋の顔を交互に忙しなく見比べ、何度も何度も狂ったかのようにトリガーを引く。

「来るな……来るなぁぁぁぁあっ!!」

そして、守屋が更に一歩を踏み出す。最早、右腕は使い物にならない。左腕は肩甲骨を砕かれ、持ち上げる事すら儘ならない。右足が熱い。自分の身体が、どうなっているのか分からない。
それでも、歩みを止めず、男を壁際にまで追い詰め、ゆっくりとした動きで左足を持ち上げた。床を踏み砕く程の力など残されていない。一歩一歩近付くのも大変な重労働だ。
だが、守屋の靴裏は鉄板で補強されている。その足に力を込めずとも、全体重を乗せ、だらしなく開かれた股座を踏みつければ、どうなるか説明するまでも無い。

守屋は、股間から真っ赤な染みを広げ、白目を剥いて泡を吹く男の傍に座り、霧坂達の方に振り向き、必死で左腕を持ち上げ、もう大丈夫だと手を振ると霧坂が守屋に飛びつき、嗚咽を洩らした。

「終わったぞ、霧坂……家に帰ろう」

守屋は小さな子供をあやす様な声色で呟き、霧坂の頭を撫ぜると拉致されていた仲間が次から次へと外へ転がり出る。

「下手に動かないで。応援を呼んで来るから二人は其処でじっとしていて!」

そして、内田と歳方が外へ応援を呼ぶために走り出した。

「コイツを守る為の名誉の負傷みたいなもんだし、死にはしませんよ」

そう言って、守屋は吹き飛んだ右腕を隠して笑うが、それに対し、笑いで返す者は一人もいない。

「そう言う出鱈目な精神論は止めろ。女を泣かすだけだ」

「……すんません」

三笠が少々、キツい口調で守屋をたしなめると、普段、三笠に怒られ慣れていない事もあり守屋はしょげ返る。

「今はそんな事を言ってる場合じゃないですって! 外に統合軍が来ているんだよな!?
守屋は其処に居ろ!絶対に動き回るなよ!? 良いなっ!? お前等も来い!」

阿部は西行達を呼び付け、三笠と共に外へと駆け出していき、監禁室に残されたのは守屋と霧坂の二人だけとなった。

「皆、心配性だな……」

「こんなになって心配しないわけが無いでしょ! 馬鹿なんじゃないの!?」

怒鳴りながら、霧坂は守屋の背中に腕を回し、自分の顔が汚れるのもお構いなしに守屋の腹に顔を押し付ける。尤も、返り血と涙と鼻水でグチャグチャになっており今更、気にする必要も無い。

「いた……いってぇぇぇぇ!! 痛い! マジで死ぬ!! つーか、モツが出るから!!」

守屋が半泣きで絶叫すると、霧坂は守屋から身体を離す代わりに守屋の襟を掴み強引に膝の上に寝かせる。
霧坂の真っ白な脚が赤に染まり、守屋は痛いと思うより申し訳無いと思った。因みに贓物が流れ出る程、腹は割かれていない。

「霧坂、乱暴過ぎだぞ……もう少し優しくしてくれ」

「あの時だって、物凄く痛かったの! だから、これでおあいこでしょ?」

聖誕祭の事故で霧坂が全身を打撲、骨折、広範囲に渡る擦り傷を負っていたのにも関わらず、守屋は絞め落とすのではという程の勢いで霧坂を抱き締めた。
あの時の霧坂の苦痛と、今の守屋の苦痛を比較するのであれば、叫んだり不平不満を洩らす事が出来るだけ守屋の方が幾分かマシとも言える。

「大体、何でこんな無茶したのよ……」

「俺は霧坂のヒーローだからな……困難を痛快に撃ち砕いて……ハッピーエンドで終わらせないと……だろ?」

そう言って、守屋は血を吐きながら屈託の無い笑みを霧坂に向けた。

「アンタ、ホントにバカなんじゃないの!? って言うか、正真正銘の大馬鹿野郎よ!
死にそうになってそんな事を言って……アンタが居ないとハッピーエンドになんてなるわけないじゃない……!」

「あー……悪い。眠くなってきた……後は父さんから聞いてくれ」

守屋は霧坂の怒鳴り声が聞こえていないのか、とても満ち足りた、安らかな表情で深く息を吐き出しながら、ゆっくり眼を閉じた。全身から骨が抜けたかの様に脱力し、霧坂の膝にかかる重みが増す。

「ちょっと……寝るな! 寝たら死ぬってば! 目を開けて! 勝手に死ぬな……一刀!!」

涙ながらに霧坂は守屋の身体を揺すると守屋が再び目を開けた。その表情は先ほどと打って変わって、憮然としており不機嫌さが全身から滲み出ている。

「うるっせぇ……2月14日から、まともに眠れて無いんだ……太腿気持ち良くて……良い感じに寝れそうなんだよ……」

「は……?」

「じゃあ、おやすみ……この厄介者が……」

そして、守屋は霧坂が呆気に取られているのも構わず、大きなあくびをして再び瞳を閉じ、規則正しく胸部を上下させ、静かに寝息を立て夢の世界へと旅立っていった。

「こんの馬鹿……命を簡単に投げ出すような真似すんなって体育祭の時にも言ったじゃんか……」


――それから一年程の時が流れた。

季節は巡り、とんでもない事件に巻き込まれてから一年、彼が私の前からいなくなって一年が過ぎた。
そして、見っとも無い想いを彼に告げてから一年とちょっと。返事をするより先にいなくなってしまったのだから返事なんて聞けていない。
彼の父から、今回の事件が原因で彼を取り巻く環境が大きく変わってしまい、暫くの間、普通の生活に戻る事は出来なくなってしまったらしい。
それから暫くしない内に八坂高校の学籍情報から彼の名前が消え、モバイルシステムにアクセスしても市民IDが変更されているせいで連絡を取り合う事も出来なくなった。
彼が何処か遠い存在になったみたいで凄く寂しい。

あの日、あの時、あんな事が起きなければ、今も彼は私の隣に居てくれたのだろうか?
居てくれると嬉しい。きっと居てくれるんだろうなと妄想する事でしか自分を慰められず、酷く情けない。
彼の居ない世界が此処まで酷い世界だとは思わなかったけど、いつまでも腐っていられない。上等だ。いつまでも待ち続けてやる。

だから……さっさと戻って来い。バカ。


担任が教室に入り、HRが始まると霧坂はモバイルシステムの日記帳を終了させた。

「もうすぐ春休みですが、このクラスに転校生が来る事になりました」

そして、教室の扉が再び開き、一人の男子生徒が教室の中に入って来た。
多くの生徒は転入生の顔を見るなり、驚き、呆気に取られ、また喜びの声をあげた。

身長は170cm台半ば程、すらりとした体付きをしているが露出した首の筋肉、激闘の日々で使い込まれた手先が決して貧相では無い事を証明していた。
右腕を制服のポケットに突っ込んだ銀髪の少年は教室をぐるりと見回し、転入生特有の自己紹介をしようとするが……

「初めまして……じゃない奴ばかりだな。また八坂に通う事になったので宜しく頼む」

転入生の少年は教室の中に居る生徒が見知った生徒ばかりという事もあってか、まるで数年来の友人達に再会したかの様な態度で目を細め、左手を振った。

「何でアンタが当たり前のように、そこにいんのよ!? しかも、転校生って如何なってんのよ!?」

それに対し、机を叩き付け、勢い良く立ち上がり真っ先に異を唱えたのは霧坂だった。
怒鳴り声をあげたくなるのも無理は無い。何せ、死に際の淵に立たされていた霧坂の想い人が……守屋一刀が何食わぬ顔をして、教卓の前に立っているのだから。

「まあ、何だ……先生が困っているぞ? 話は後でゆっくりしてやる。一週間程だが宜しく頼む」

怒っているのか、喜んでいるのか、それとも照れているのか、あるいはその全てか。
何とも形容し難い表情で指を差す霧坂を意に介した風でも無く、講堂型教室の通路を歩み、守屋は何食わぬ顔で霧坂の席の隣に腰を下ろした。

「お生憎様。八坂のクラス替えは二年次進級のみ。卒業まで付き合ってもらうわよ?」

「ハッ……上等だ」

未だ、霧坂の顔は真っ赤に染まっており、怒っているのか喜んでいるのか分からないが、この二人の事をよく知る生徒達ならば今更、霧坂の内心を問い質すまでも無い。
ここまで感情的になる霧坂を見るのは実に一年ぶりなのだから。

授業もそこそこに誰にも邪魔をされずに話をするのならばと、守屋と霧坂は八坂高校のギアスタジムへと訪れていた。
スポーツギア格納庫の中ならば、余程の大声で無ければ声が外に漏れる事も無い。尤も、漏れたところでギア部の関係者以外、足を踏み入れる事も無いため漏れたところで特別、気にする事も無いが。

「しかし……来月から霧坂が部長とは一年で随分と変わるものだな」

加賀谷と三笠の二人は既に卒業しており、現在は小野寺が部長、内田が副部長を務めているが彼女達も来週には卒業を迎える予定になっており、段階的に霧坂が部長を務める事になっている。

「暫くの間、普通の生活に戻れないって聞いていたんだけど……もう大丈夫なの?」

「まあ、色々あってな……“強制労働期間”が早く終わってな、無事に高校生に戻れたってわけさ」

「それで傷は……?」

制服のポケットに突っ込まれている右手に霧坂の視線が注ぎ込まれる。
霧坂を庇って弾け飛んだ右手のことに気付いて、守屋はニッと笑ってポケットから右手を霧坂に見せびらかした。

「あの時、俺の指を集めてくれたんだってな? だから、繋いでもらったのさ。流石に肉は人工細胞で生やしてもらったけどな」

守屋が霧坂達を救出し気を失った後、何を思ったのか霧坂は守屋の骨と肉片を掻き集めて救援の到着を待っていたらしく、それを聞いた守屋は人工骨では無く、自分の骨を再利用する事に決めたのだった。

「トカゲみたい……」

霧坂は完治した守屋の右手を引っ張ったり、抓ったり弄り回して、しみじみと呟いた。

「どういう例え方だ……まあ、他の部分も取り合えずは完治だ。後は八坂でやり残した事を片付けるだけだな」

守屋は霧坂の身も蓋も無い言い草に憮然としながら、かつての愛機アイリス・ジョーカーを見上げた。一年前とは異なり、内部機構を最新の物に取り替えられ、左腕が黒に染まっている。

「ジョーカーの専属選手って居るのか?」

「ううん。整備は万全だけど飾りとか広告塔って感じかな。ヒーローの愛機を無碍には扱えないって理事長がね」

守屋が知る由も無いが、今では八坂高校の学校案内やCM、文化祭などの催し物でも度々、その姿を衆人観衆の前に披露している。
その甲斐あってか、全国からスポーツギア選手を志す少年少女が詰めかけ、多額の寄付があったとか無かったとか、まあ彼等には関係の無い事だ。

「なら、俺が使っても何の問題も無いわけだ……コイツでもう一度、天下取りに挑戦するか」

何はともあれかつての愛機が選手不在でオブジェクトと化しているのであれば、それは好都合だと守屋は安堵した。

「一年間もギアに乗って無かったんだし弱くなっているんじゃないの? 大丈夫かな……」

「心配には及ばんさ。俺が誰よりも強いってのは霧坂が一番、知っているだろ?」

守屋はおどけた様子で自身を親指で差して笑った。

「どうだかねぇ……取り合えず、久しぶりにご飯作ってあげるから帰ろ?」

霧坂は呆れたように顔を背けるが、その横顔はニヤニヤと緩んでおり、素っ気無いフリなど出来そうにも無いと霧坂は満開の笑顔を守屋に向けた。

「それは楽しみだが……もう一つ、やり残した事がある」

守屋は久々に霧坂の手料理にありつけるのが嬉しいのか右手を腹に添えるが、名残惜しげに制した。


「やり残した事?」

「お前……如何でも良い事には鋭いが……基本、間抜けだよな」

怪訝そうな表情をする霧坂に守屋は呆れたような顔をした。

「なんですってぇッ!?」

「これじゃあ、まるで俺の一人相撲じゃないか……今日は何月何日だ?」

食って掛かる霧坂の態度に守屋は心底呆れたように返すと、霧坂は表情を一変させ動きを止め、鈍い動きでモバイルシステムを取り出し日付を見るなり目を大きく見開いた。

「……三月……十……四日……って、マジか!?」

「一ヶ月どころか十三ヵ月後になってしまったが同じ三月十四日に違いは無いし問題は無いよな?」

「あ、あれは状況が状況だったし仕方が無いって言うか……って言うか、よく覚えていたわね?」

漸く、守屋の意図に気付いた霧坂は激しく狼狽し身体を揺する。

「忘れようが無いだろう? それに去年から頭はその事ばかりだったんだからな」

「え? ええ!?」

「そんなに驚く事を言ったか?」

「だ、だって! そんな素振、全然無かったじゃない!!」

「流石に人目は気にするぞ?」

「だ、だけど!」

「迷惑か?」

「そんなわけがあるか! この超鈍感野郎! 今でも、これからも、ずっと好き……って言わせるな!!」

霧坂は顔を真っ赤に染め上げ、照れと怒りを同時にぶつけた。

「なら問題無いな? あの時の返事をしても」

「う、うん……」

「霧坂と離れている間、考えていた……高校を卒業したら士官学校に二年。統合軍に入隊したら二年の訓練、二年間の実地配備。軍に入ったら霧坂とは中々、会えなくなるかも知れない」
だがな、この世界は戦争が無いってだけで小さな小競り合いや犯罪は毎日、当たり前のように発生している。
そんな小さな小競り合いのせいで俺は霧坂を失いかけた……俺にはそれが恐ろしくて……本当に堪らなかった……だから、そういった連中を叩き潰して少しでも平和に近付けたい。
そうする事が霧坂を守る事に繋がると思うからな。それに中々、会えなくなるって言ってもな実地配備の任期が終了したら、ある程度は自由の利く生活に戻れるんだ」

そして、守屋は霧坂の肩を抱き寄せ、至極真面目な顔で……

「実地配備の任期が終われば俺は二十四歳になる……二十四歳になったら、俺と結婚してくれ」

……告白の返事として、プロポーズをしなさった。

「うん……って、け、結婚!? え、え、ええっ!?」

あまりにも唐突。しかも、脈絡の無い守屋のプロポーズに霧坂は激しく狼狽する。

「嫌か?」

「ち、違う!! 嫌じゃない! 寧ろ、嬉しいよ……だ、だけど結婚とかって考えられる歳じゃ……」


「だから、俺達が二十四になってからな。俺だって今すぐ所帯を持てるような立場じゃない」

守屋は自分の言動がかなりピント外れな事になり微妙に会話が噛み合っていない事に気付いておらず、霧坂の態度に落ち着きの無い奴だと苦笑した。

「だーかーらーっ!! 段階を踏んでからプロポーズしてよぉ……もう何か色々すっ飛ばし過ぎ! 一年見ない内にアホになったんじゃないの!?」

「アホって……本来一ヶ月で済む筈が十三ヶ月もお預けを食らってしまったからな……また、何が起きるとも限らん。言える内に言っておかないとだからな」

「馬鹿……そんな、不吉な事言うの絶対禁止。でないと結婚しない」

「わ、分かった」

「ホントに分かってんのかな……って言うか、兎も角だよ? まずは恋人から! 恋人から始めよ?」

霧坂も場の雰囲気に流され、付き合う付き合わないでは無く、結婚の話に乗っていた事に気付き、慌てて会話の内容を修正する。

「それにしても旦那が軍人かぁ……」

だが、結婚に対し憧れや願望があったのだろうか、未来を思い描く霧坂の表情は少々緩い……守屋の将来の職業を考えると完全に緩みきる事は出来ないようだが。

「ね、本当に戦死とか勘弁してよ?」

霧坂は守屋の腰に両腕を回し、上目遣いで訴えた。なまじ、守屋が死に掛けている姿を目の前で見ていただけに表情はとても不安げだった。

「戦死って……確かに小競り合いはあるけど、戦争なんて起きようが無い。戦死なんて在り得るわけが無いだろう?」

「その小競り合いで! 私の目の前で死に掛けた奴が言えた台詞じゃないでしょーが!」

不安げな霧坂をせせら笑うかのように大袈裟だと言う守屋に対し、霧坂は不機嫌そうな表情を滲ませた。

「ご尤も……あ、重要な事を言い忘れてた」

「今度は何よ?」

守屋と再会してほんの数時間しか経過していないというのにも関わらず、畳み掛けるような展開の数々に霧坂は辟易し始めていた。
だが、どうにか守屋と正式に付き合う事になり、プロポーズまでされたのだから、これ以上、驚くような事も無いだろうと心には余裕が出始めていた。

「霧坂、俺も愛してるぞ」

「ッ!?!?!?!?!!??」

「はっきり口に出しておかなければ締りが悪いからな」

尤も、その余裕は守屋のたった一言で叩き壊されてしまった。だが、守屋の言う事も尤もである。
霧坂は守屋に対して言いたい事は全て言い尽くし、恋慕の気持ちも言葉にして守屋に伝えてある。
だが、守屋は霧坂に対して結婚をしようとプロポーズはしたものの。好きだの愛しているだのといった単純な愛の言葉は一言も吐いていないのだから。

「だったら、苗字じゃなくて……名前で呼べ、アホ一刀ッ!!」

「それもそうだったな……訂正しよう」

「あ、ウソ。もう良いって……て言うか、人が……」

「俺は聞かれても一向に構わん。寧ろ、聞かせてやる……茜華あああああああああッ!!好きだああああああああああ!! 俺も愛してるぞおおおおおおおおおッ!!」

「うっ……うっさい! うっさい!! うっさ~~~~い! この大馬鹿野郎ッ!!」

守屋の腹の底から吐き出される愛の言葉はギアスタジム中に響き渡り、霧坂は守屋に抱きついたまま照れ隠しの罵倒を酸欠を起こすまで延々と繰り返した。
一応、守屋一刀の名誉のために一言だけ明言しておくが、一しきり罵倒し平静を取り戻した霧坂はこの一年間の空白を取り戻すかのように守屋に甘え続けたとか何とか。


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