創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

超機動ギルライバーA6

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ParaBellum

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だれでも歓迎! 編集
 う~遅刻遅刻~!
今学校に向かい韋駄天で駆け抜ける俺は、不動幸久16歳。
朝食のフランスパンを貪りながらショートカットの路地裏を華麗に行くぞ!

「あ、危ない!」

曲がり角に差し掛かる直前、その声に気付いたときにはもう手遅れだった。
全力で突っ走っていたため、角から現れた"何か"に激しくぶつかり尻餅をついてしまう。
……っ痛ぇー。その程度の感覚で済まされたということは、大事に至らなかったということだが、それにしても派手な当たりだった。
パンを食い終えるのが後数秒遅れていたら、喉を貫かれていたかもしれない。洒落にならん。
自分の事を棚に上げ、こんな見渡しの悪い道で勢いよく突っ込んできたのはどこのどいつだと、ガン飛ばすべく目を見開くが、そこにいた相手は――

自分だった。

いやいや、それはおかしいだろ、"自分に似てる人"だ。そうに違いない。
相手も同じ学校の制服に見えるが、そっくりさんなんて世界に三人位はいるというのだから、それぐらいの偶然もまぁあるさ。
案外生き別れた双子の兄弟が転校してきましたとか、そういうオチかもしれない。
丁度出てきた路地の側にいるけど、あまりの速度でぶつかったからそのまま相手を通り抜けただだろう。ハハ。

「おおすまん、大丈夫か少年!」
俺の"後ろ"から、アニメのキャラのような鼻に掛かった声とともに白衣の女性が現れる。
まさかとは思ったが案の定、その白衣の人物は"自分に似てる人"の元へ。
オイオイこの状況、ひょっとしちゃったりしないだろうな……

「オウケイ問題アリマセン、八之州博士」
"似てる人"が、びっくりする程のカタコト口調とともに立ち上がる。
カタコトというか一本調子。巷で噂のボーカロイドとやらを手に入れて「あんな事やこんな事を言わせてやるぜ!」と豪語し、僅か3日で撃沈した友人の音源がこんな喋り方だったような。

「そうかそうか、ならよかった。しかしこんな一般庶民にも名を知られているとは流石私」
「お前はどうだ、回路とか焼ききれてないだろうな」

え、何、カイロ? 何言ってるんですか。っていうかなんでこっち見てるんすか。
まさか……いや、そんな馬鹿な――
一度意識してしまったら最早振り払うことはできない。
目線があったその瞬間から、まるで吸い込まれていくように視界が収束していく。
あれ、つーかこれズームしてるんですけど。毛穴まで見えちゃうんですけど。

「おーい、聞いてるか?A-06号」
頭の片隅に"80倍"という数字が浮かんだ所で、ありえない予測が現実のものとなる。
拡大された視線の先、相手の瞳に反射して映し出されているもの。あれ……
⇒もしかして:

「ロボットになってるぅぅぅぅうううううううう!!!!!!!!」



―『超機動ギルライバーA6』―


「ぶわははははは!! 何それチョー受けるんですけど! ねぇねぇ今、どんな気持ち? ねぇ、どんな気持ち?」
「……なんて冗談はさておき。不動くんと言ったか、つまり君の精神と――私の造ったGR:A-06号の擬似人格とが入れ替わってしまったと、こういう事か」

「ソノヨウニ推測サレマス、八之州博士」
にわかじゃなくても信じられない。百歩譲ってぶつかった相手と精神が入れ替わるなんて話があったとして、そこはせめて美少女というのが筋でしょうに。
ロボってお前、人ですらねぇじゃねぇか。ってか生き物ですらねぇじゃねぇか。
最早こんな町中で巨大なロボットが歩いていたということなど、些細と言える程の怪奇現象である。

「いやー凄いこともあるもんだ。しかし困ったな、A-O6号にはこれから最終調整を兼ねた模擬戦をやってもらうはずだったんだが」
「申シ訳アリマセン、八之州博士。」
「困ったのはどう考えてもこっちでしょう!? 俺これからどうすりゃいいんですか!」
エフェクトが掛かった電子ボイスが俺の喉? から放たれる。改めてそれを認識すると切ないものがある。

「君に代わりに模擬戦してもらうか。機体としてはA-06号なワケだし。」
「やりませんよ! それよりこれ、どうにか元に戻してくださいよ!!」
「えー、だって原因とか仕組みがサッパリだし、そもそも電子頭脳関係とか私の専門じゃないしー」

もっともな意見なのは分かるが、ムカツク。マスクで隠れて分からないが、恐らくいい年こいて頬をプクーとしているに違いない。ムカツク。

「まぁ、そういうのが分かるまではやる事やってもらうしかないじゃない。という訳で宜しく」
「宜しくってアンタ何勝手に話進めてるんですか。だいたい巨大ロボットで模擬戦って、この平和なご時勢になんでそんな事を……」
「そりゃあ君、侵略者から世界を守るために決まってるじゃないか。アニメみたいにぶっつけでバビュンとは行かないのだよ」

侵略者!? それこそアニメじゃないかと言いたいが、実際にぶっ飛んだ次元のテクノロジーを、まさに"身を持って"体験しているあたり否定はできない。
「じゃあこのまま元に戻れなかったら、俺がその侵略者と戦わなきゃいけないって事ですか!?」
「このままっていうか明日ぐらいには来るけどね、侵略者。そんなわけでガンバ(はぁと)」
「早っ! ってか冗談じゃないですよ、戦って死んじゃったりしたらどうするんですか! 模擬戦も何も俺はやりませんからね!!」
「ほほう、良いのかな? そういうこと言って。君の今のボディーは48時間おきにエネルギーを補給しないと動かなくなるんだぞ?」
「ぐっ……でもそうなったらあなただって困るはずでしょう。動かなくなったらなったで、補給してくれるまで待つだけですよ」

嘘だ。実際にこんな身体のまま動かなくなるなんて、たまったもんじゃない。
ひょっとしたら、そこで電子頭脳とやらの中にある俺の意識まで消滅してしまうかもしれないし。
しかしこのまま言いなりになって、侵略者と戦うなんてのも御免だ。
強気に交渉して多少なりとも待遇を改善せねばなるまい。
安易に話を聞いてしまえば、彼女の変なペースに巻き込まれて、そのままズルズルと……ってこともありうる。

「ふーむ、確かに君の言う通りだ。それは困るな……」
効果があったのか譲歩の構えを見せる八之州博士。
世界の平和が掛かっていると言われても、二つ返事で協力できるほど俺はできた人間じゃない。といっても今は人間じゃないか。
ただでさえ状況が見えないのだ、とにかくここで良い条件を引き出せなければ、何をされるかわかったものではない。
……とか考えている内に、彼女が"元俺"を見ながらなにか思いついたらしく、
「それじゃあ、こうしよう。君は戦わないでいいし、こちらも機体の面倒も見る。その代わりA-06号――君の元肉体は、自由に使わせてもらう。私用にも」
「了解デス、八之州博士」

『こうしよう。』じゃねぇぇぇぇ!! このアマ脅しに脅しで返してきやがった畜生ぉぉぉぉ!!!
そしてAI野郎も俺の身体で元気よく返事するんじゃねぇぇぇぇ!!
あの女のわざとらしい程の笑顔、100%変態を裏に秘めた笑顔だ……いや、白衣の下が際どいボンデージファッションな時点で包み隠さず変態だけど!

「そんな訳で君の元の肉体と、その社会的地位なんて気にせずに存分に最新鋭のメタルボディを満喫したまえよ」
「あーもう!! わかりましたよ、やればいいんでしょやれば!」
「なんだ折角私色に染めようと思っていたのに」
脅しのための嘘、というわけでもなかったらしい。なんだその手の動きは。

「その代わり絶対に元に戻してもらいますからね!」
「まるで私が原因みたいに言われるのが癪だが、まぁ努力することは保障しよう。さて――」

「?」


「研究所についたぞ!」
発言と同じぐらいに脈絡もなく、目の前に巨大施設が現れた。
いやあ、さっきからどこに向かってるのかと思えば研究所だったんですね。
言い合ってる時間を無駄にすることなく移動する、実に効率的――
「ってなんで既に協力する体で動いてるんだテメー!」
「でも今は、そんな事はどうでもいいんだ。 重要なことじゃない」

棒読みで返しながらセキュリティロックを解除する博士。
模擬戦やるって研究所かよ、と思ったがそれも納得の大きさである。
今の俺は6メートルくらいだろうか、それでもかがまず入れる門というのは恐れ入る。
まったくいつの間にできてるんだこれ。同じ町内にあったのに今まで気付かなかった自分が不思議だ。

「お帰りなさい博士。随分時間掛かりましたね」
「いやあ、ちょっとトラブルに巻き込まれて、ねぇ。それより模擬戦の準備終わってる?」
「はい……。ただそれなんですが、こちらも問題が発生しまして……」
これまた阿呆みたいに広い内部で、部下と思わしき男たちが集まってくる。
白衣からして研究員なんだろうが、この際やたら筋肉質なのはどうでもいい。
問題はそれが遠目でも伝わる格好である。全 員 素 肌 に 白 衣。
「変態ランドかここは!!」
「なんだ、私の決めた服装規定に文句でもあるのか!」
お前の仕業か! 即座にそういう返しが出るってことは文句言われる自覚あるんじゃないか……。
自覚のある変態とそれが許される環境。実に恐ろしい。

「それより博士、大変です! 小彗星の進行が予測を大幅に上回っておりまして……大気圏に差し掛かる所まで接近しています!!」
「何!? そんな馬鹿なことがあるか!! ええい、データをよこせいっ!! ……なん……だと……?」
博士の顔から血の気が引く。体温も2℃ほど低下。
流石は最新鋭機といった所だが、こんな事計測できても嬉しくもなんともない。
……ともかく、人々の様子を見るに、ただ事でないのは確かなようである。
「どういうことですか!?」「つまり……世界は……滅びる!! じゃなかった、彼奴らが攻めてくる!!」「な、なんだってー!!」
「――と一人芝居はこれ位にして、不動君、早速だが実戦をやってもらう事になった! 各員、発進準備ィ!!」
「ちょっ! そんな無茶苦茶な――ってうわあ!!」

拒否するどころか一息つく間もなく、研究員の美しいほどに完成された流れ作業により、俺の身体が運ばれていく。
遊園地のアトラクションのような奇妙な装置に固定されたかと思えば、ドーム状の天井が四方に開き――

「ギルライバーA6、発射ァ!!」
「発射。」
ノリノリで天を指し吼える博士――テンション上がりすぎて地声になってますよ――と、その横で保護板を叩き割りスイッチを押す元俺の肉体。

「……ってなんでお前が堂々とそのポジションにぬわあああああああ!!!」

勢いよく射出された。

 みるみるうちに研究所が、町が小さくなっていく。
あっという間に雲を突き抜けるが、これら貴重な体験に感動している余裕もない。
これが夢ならどれほど良かったことか……肌――今は装甲か――に伝わる衝撃が、それを否定してくれてます。
しかし一体どこまで上るのか。そう思った矢先、身体が急に失速する。

「エンジンを起動しろ! 落ちるぞ!!」
右脳の奥から眼前にスライドするように、八之州博士の声と姿が現れる。
「!? エンジンったってどこをどうすれば……」
「どうって君の身体だろうに」
「ついさっき方からのね」
「それもそうか。じゃあ気合でなんとか点けてくれ」

言ってるうちに機体は完全に上昇をやめ――
「んな無茶なーっ!!!」
勢いよく落下を始めた。

どこをどうする。あれか? これか!?
頭の中の情報を片っ端から引き出したり、身体のあちこちを動かしたりしてみるが、ライトが点いたりワイパーが動き出したり今日の天気と番組表が表示されたり。
なんでそんな機能まで付いてんだアホーっ!
戦闘機を操縦するほうが余程マシかもしれない。なにせ目の前には滅茶苦茶にでも叩けるような、レバーもボタンもありはしない。
完全に手探り、文字通り感覚だけで成せねばならないのだ。まったくもって解決の糸口が見つからない。
あれよという間に町が、地面が大きくなっていく。

「そうだA-06号、お前が教えろ」
土壇場で妙案。伊達に博士号は取ってないという事か。今までの言動を見るに怪しい限りだが。
「……デハ腹部変換炉ニエネルギーヲ収束サセ全体の出力ヲ上ゲテ下サイ。ソノママ背面ニアル脚部関節間ノロックヲ開キ点火シマス」

……うん。
当たり前に彼は彼で、元々機械なのだから、その感覚で言われてもそうですかとはいかないわけで。
「えーっと……だからどうすりゃいいんだ?」
「デスカラコノヨウニ……」

 ぶりっ。

「何だよ今の音は!!!」
「手順ヲ試行シテ確認スルツモリガ、ドウヤラメタンガスヲ排出シテシマッタヨウデス」
「いやー今の音は実も出てたね、うん。しかしこんな所で惜しげもなく出すとは凄いプレイだな」

俺の身体で何やってんだこのヤロー!
いや待てよ、ってことは逆に――

「ぬおおおおおおおおおおおお!!!」

正に激突する5秒前。内臓全てを出す勢いで、下っ腹に力を込め思い切り気張る。
と――

「おお、やった!」

内燃機関に灯された火が、身体の各部に取り付けられたバーナーを起こし、炎を噴き出させる。
放物線を描いて落下するところを、強引に失速させ軌道を修正。どうにかこうにか墜落死は免れた。
しかし本当の問題はここから。先から耳奥でずっと鳴り響いているアラート、その警告対象である。

「小彗星、大気圏にて焼失を確認。内部敵性体、そのままこちらに向かって来ます」
「予測到達地点x102,y056、誤差0コンマ2ポイント」
即座に座標データが脳内に送り込まれ、視界の中の該当箇所が赤く染まる。
便利だなーと感心してる暇はない。
筋肉に力を込める様にバーナーを蒸かし、重力に逆らい無理やりに空を移動する。
表示される出力その他を見る限り、とても自由に飛行できる能力はないらしい。
これだけでかい金属の塊なのだから、当然といえば当然なのだが。
さてなんとも都合の良いことに、使われていない採掘場、そのど真ん中目掛け一直線に、"奴"が落ちてきた。
俺がやったのと同じように、地面にぶつかる直前で失速したのはしたのだが、宇宙を高速で突き抜けてきただけあって、静止なんぞすることなく地面を盛大に吹き飛ばす。

「ところでまったく話を聞く暇もなかったんですが、侵略者って一体どういう奴なんですか?」
「パンゴリアン。自らの野生の赴くままに、暴れて回る巨大宇宙人さ!」
なんか嬉しそうですね。でもその気持ち悪いポーズ付けるのはやめてください。
もうもうと立ち込める土煙の中で、クレーターを作った巨大な球が音を立てゆっくりと開く。
データが研究所より送られてくるが、それより先に視界が晴れ、メインカメラがその異形を捉えた。


「ツメーーーッッ!!」
まるで大地に立ったことの喜びを噛み締めるかのように、パンゴリアンと呼ばれるそれが、雄叫びを上げる。
幾重にも重なった刃のような鱗。山のように盛り上がった背中に、それを支える二本の足。
長い両腕にも鱗がびっしりと生え揃い、ようやくそれが途切れたかと思えば、そこには鋭いかぎ爪が並んでいる。
そして自身の三分の二ほどはあろう、異様に長い尾もやはり鱗があり、こちらの見てくれはまさしく剣そのものである。

……しかしなんだろう、実際異形という程でもなかったというか、心なしか見覚えのある風貌。
なんだっけ、あれ……確か、"センザンコウ"?だっけか。
うん、あれだ。間違いない。あれがレッサーパンダよろしく立ってるだけ。
説明するなら、それ以上でも以下でもない。

なんて考えてる間にパンゴリアンがこちらに気付いたらしく、威嚇っぽいポーズをとったかと思えば、凄まじい瞬発力で接近してくる。
さっきのに訂正というか追加。滅茶苦茶デカいです。

「くそっ!」
慌てて拳を振り、迫る右腕を払いのける。
しかしあんまり勢いよく振ったもんだから、体勢を崩して前のめりに倒れ込んでしまった。
ところが相手は払われる前提で二撃目を用意していたらしく、そこにかち合ったことで偶然にも相殺に成功した。
予測外の行動に警戒したのか、相手は後ろ跳びで間合いをとる。
それにしてもマジに怪獣的なものと戦う羽目になるとは困った。これも元に戻るためと堪えるしかないのか。
……っと危な!!
一定の距離をとった足運びから予備動作をほとんど介せずに片足だけで飛び込んで来た。
直前でセンサーが感知してくれなかったらもろに食らっていただろう、なんだかんだでロボって凄いな。
さてここからお返しと、頭に横肘をお見舞いするが、この鈍い感触からしてまともには入らなかったっぽい。
だが体勢を崩せたお陰で、尻尾攻撃の軌道を確認できる余裕が出来た。
こいつを受け止めて………ってあれ。

ざくり。

うん、いくら機械のサポートがあるからって自惚れすぎたね。別に俺自身武術の達人どころか喧嘩もやらない文科系ボーイなわけだし。
それでも大丈夫だと思ったんだけどなあああぁぁぁ痛ぇぇぇええええ!!
機械の身体だから平気とかそういうのないのかよ!!ああそうか、センサーやたら性能いいもんな!小さな衝撃も見逃さないほどに!チクショウ!!
痛みに悶える暇もなくパンゴリアンが追撃に来る。
こうなりゃヤケクソじゃい!
残る全てのバーナー用エネルギーを使って突っ……こけました、はい。普通に空中専用です、ありがとうございました。
しかしここで二度目の偶然。
倒れた姿勢のまま突き進んだお陰で、頭を狙っていたらしい奴の攻撃をすり抜け、どてっ腹に見事な頭突きが決まった。
Oh……頭揺れてなんか吐きそう。
我ながら凄いビギナーズラックだがこの状況になってる時点で果てしなく不運なので、それぐらいあってくれても罰は当らないだろう。
「……い……おい! 戦闘中だからといっていきなり通信を切る奴があるか!」
ああ、なんか静かだと思ってたがそういう事か。
「勝手がわからないんだからしょうがないじゃないですか」
立ち上がって返事をするうちに、パンゴリアンもふらふらと起き上がろうとする。
今度はもろに入ったな。これは絶好の機会!!
「もらったああああ!」
「あっ馬鹿、なにしてんだ!」

めしゃ。

パンゴリアンの背中で渾身のストレートが炸裂した。
渾身のストレート"が"炸裂した。

「痛ええええええ!!!」
「あんな硬い相手をマニピュレーターで殴るやつがあるか! とにかく一旦距離を取れ、距離を」
一応ダメージ自体は与えたようで、パンゴリアンが怯んだ隙に背を向け走る。
タンスに小指ぶつけたとき走り回る勢いです。今回は右手の指が全壊ですが。

「あんな見るからにアニマルな相手に肉弾戦を挑んでどうする。獣姦をお望みか」
「機械デハ可動域ノ関係デ、人間ノヨウニ自由ナ格闘モーションハ再現デキマセンシネ」
成る程それもそうか。道理で止めれると思った時、腕が届かなかったはずだ。

「じゃあどうやって戦うんですか?」
「そりゃあお前、銃火器で戦うに決まってるじゃないか。黒くて硬くて長くて太い」
「背部右はっちニあさるとらいふる収納サレテイマス」
博士の余計な発言に突っ込むのはやめ、言われた通りに銃を取り出す。
おお、なんか身体動かすの慣れてきた。
「でも銃なんて使ったことないですよ」
「安心しろ、容量節約のために、各種オプション装備のコンバットデータはそっち側に叩き込んである。"S"emeも"M"amoriもな」
なんか最後のイントネーションが、怪しい……というか危ない感じだが、こいつもスルーしておこう。
さて銃のほうだが、トリガーがない代わりにコードらしきものが接続されており、こっちの意思を読み取って半自動的に動いてくれるらしい。
ならばと早速振り返りながら標的を捉え、連射。
右手は添えるだけで精一杯なんでこの仕組みは助かるが、これはこれで扱いが難しい。
さらに走りながら撃つというのは、サポートがあったとしても初心者には荷が重く、距離が近い割に、撃った弾の四割程しか当たっていない。
パンゴリアンの移動速度が遅いお陰でギリギリ距離は保てているものの、それは直線に限っての話であって、いつあの瞬発力で飛びつかれるか分かったものではない。
それでも確実にダメージは蓄積されているらしく、三回目のリロードをする頃になってようやく動きが鈍くなってきた。

「止まった……?」
安堵より先に不安が過ぎるが、結果的にはそれが正解。
「ツメメーッ!!」
再び奇怪な雄叫びを上げたかと思えば、パンゴリアンがボールのように丸くなる。
どうやらこの場所を狙っていたようで、緩やかに曲がる斜面を使い、勢いよく転がってこっちに飛んできた。
急いでライフルを浴びせるが、特に硬い背中の鱗で全身がガードされている状態に回転が加わって、まるで攻撃を受け付けない。
直径32ミリの鉛の雨が、ことごとく弾かれていく。

「なんなんだアレ、銃火器ならいけるんじゃないのかよ!」
丁度弾切れになったライフルを自動的に切り離しながら、慌てて回避運動を取る。
空中に放られる形でその場に残されたライフルが、回転攻撃の威力を粉微塵になって証明してくれた。
「おお怖い」
「冗談じゃねぇー!」
全速力で走る。
当然、後ろからゴロゴロと追いかけてくる。

「なんかないのか、なんか!」
「なんかと言われてもねぇ」
「こうSF的な武器とかないんですか! ビームとか!!」
パニクり過ぎて思考がオーバーロードしているらしく、また別の警告音が鳴り出した。
「電子ビームならあるよ、弁当とか温める用の奴が」
「いらねぇぇぇぇ!! なんでんなモン付けて……モギャー!!!」
背中に巨大な質量が衝突する。
進行方向が一致してたのと直撃しなかったのを差し引いてこのダメージ。死ぬって、マジ。
よろめきながらなんとか立ちあがる。
その間相手は追撃せず、壁を使って回りながら軌道を修正している。流石に制御しにくい攻撃らしい。
いや、あんなんで自在に動かれたらたまったもんじゃないが。

「あーそうだ、試作の二重成型炸薬弾積んだままだったろ、あれ使え!」
「あれって言われてもわかんねーっての!!」
「股間ぶろっく内ニ一発ダケ。射出用ノぐれねーどらんちゃーハ背部左はっちデス」
「股間ブロック?」
「とっておきだからな。しかるべき場所に搭載してある」
「意味がわからん」

再び走りながら装備。ただでさえ機械の身体で勝手が違うのに、左手オンリーで作業するのは難しい。自業自得ではあるんだが。
それでももたもたしてる間に相手が突っ込んでくるのだから、そこらへん自動化しとけよ――

「……ってああっ!!」
焦るあまりに弾を落としてしまった。オイオイ、敵がすぐそこまで迫ってるってのに。
転がる弾を目で追うのを一旦やめ、まず目の前の球を回避するしかない。
さっきの攻撃を記録・送信して返ってきた、予測データをアテにすればっ!

「ツーメーッ!!!」
横に跳んでやり過ごせたかと思ったが、壁面にあたる直前でパンゴリアンは球形態を解き、壁を蹴って方向転換。こちらに向かい爪を振り下ろしてきた。
データに頼る=負けフラグって奴ですか。
「クソっ!!」
転がりこむ形で回避を試みる。
距離に余裕があった分、なんとかかすめるだけですんだが、最悪の状況が訪れた。
丁度ロックを外していたため、背中から外れた発射機が、空中で身代わりに真っ二つにされてしまったのだ。
飛び込んだ場所の目の前に先の弾丸が丁度落ちているあたり、なんとも皮肉がきいている。
絶対絶命。パンゴリアンが再び身体を丸め、加速を付け始める。
「くそっ、せめてこいつを!」
「待て!」
弾丸を掴み、相手に直接ぶつけようとした所で、博士の制止が入る。
「成形炸薬弾ってのは一方向にエネルギーを集中させて破壊する仕組みなんだ。正しい向きで当てなければ威力を発揮できない!」
「じゃあどうしろってんですか! 他に打つ手は……手? ……いや、まてよ!」
「?」
「この腕ってはずせますよね?」
「そりゃあ一応、簡単にとはいかないが……お前まさか……」
「できますよね、"ロケットパンチ"」
「……理論上なら10メートルぐらいなら飛ばせる。相手があの速度で向かってくることを考えれば、3倍の距離でも十分な威力は出るはずだ」
察したらしく、冷静になって数字を弾き出す博士。
できるんなら問題ない、どの道やらねばやられてしまう。
しかし、まさか自分の腕をちぎって飛ばす日が来るとはな。
「うおおおお痛ええええええええ!!!!!」
覚悟を決め、肩のバーナーを最大出力にしつつ左腕を無理やりもぐ。
血の代わりかはわからないが、バチバチと音を立て火花が飛ぶ。
奴さんもちょうど向かってきやがった。
損傷大の表示を無視して、距離とタイミングの算出に全神経を注ぐ。
当らなければ一巻の終わり。機体を引きずってまで飛び出そうとする左腕を必死に押さえ、その一瞬を待つ。
「折角ロボットになったんだ、せめて必殺技ぐらい決めさせてくれよ……!!

――ロケットパンチッ!!」

最後の切り札を握りしめた拳と、回転と速度を今まで以上に高めたパンゴリアンが、見事に重なりあう。
そしてそれを認識する間もなく、文字通り"無人"の採掘場で光と音が広がっていった。

「やったか?」
「あんまり縁起悪そうなこと言わないでください……ってマジかよ!!」
カメラモードが自動で切り替わり、込める蒸気の中に立つものを確認する。そりゃあ間違いなく奴でしょう。
丸まっている状態の一番外側にあたる尻尾の部分は消滅し、鱗の一部も剥がれているものの、しっかりと二つの足で地面を踏みしめている。
「他に武器ってないんですか」
「模擬戦の準備で装備外しておいたからなー……ない」
「ですよねー」

まるで抵抗手段を失ったことを知っているかのように、パンゴリアンが大胆に、じりじりと歩み寄ってくる。
あはは、終わった。
その時である。
「博士、ただいま自衛隊が到着したようです!」

豪快な音を立てながら突如として戦車が現れた。
で、いきなり

ドカン。

パンゴリアンに主砲が炸裂。
なんとその一撃で、侵略者は跡形もなく吹き飛んでしまった。
「えええぇぇぇぇ!!!」

「いやあ、助かったな」
「助かったなって、おかしいでしょ! いくら手負いだったとはいえ一撃ですよ、一撃。しかも最新鋭の兵器とかならともかく、どう見てもふつーの戦車ですし」
「ふつーの戦車というが不動君、戦車は滅茶苦茶強いんだぞ」
戦闘から数時間後。研究所に運ばれた俺は、そこで"治療"を受けていた。
これがロボットならではの苦行の一つか。ボロボロになっても"治療"してくれるのは白衣の天使ではなく、やっぱり半裸なマッスル整備員共である。
装甲にひっついてたらしい宇宙人の鱗に、頬ずりしてるような白衣の変態なら目の前にいるが。
「強いってアンタ……じゃあなんですか、この機体――ギルライバーでしたっけ――が逆に弱いってことですか」
「そりゃあ戦車に比べりゃ、弱い」
おいおいマジかよ。はっきりと断言しやがったコイツ。
「それなら最初から自衛隊に戦わせればよかったじゃないですか!」
骨を折って戦った結果があんなことになったのもあるが、最初からそんな微妙なものが作られなければ、そもそもこいつの身体になってしまうなんて事も無かったのである。
ちょっと、この整備員なんでTバックなんですか。
「そうは言うがな、自衛隊って勝手に動けないだろ」
いやまあ、そりゃごもっともだけどさ、侵略者から世界を守るって大層な建前で作ったんじゃなかったのか。
そういう状況だと思って最後のほう、心のどっかで興奮してた自分がだんだん阿呆らしくなってきた。
「ま、天才的な技術を持っていてもね、現実なんてそんなものさ。それでも国に怒られるギリギリでやってんだけど」
研究所に並んだ火器やらの機械類が、身体を固定されていてもよく見えます。
「いや、アウトにしか見えないですよ、どー見ても」
「それぐらいのほうが適度な背徳感があって気持ち良いだろ。どれ、味も見ておこう」

ああ鱗舐めてるよ……。
やっぱこの人おかし過ぎる。はあ、俺こんな所にいて無事元に戻れるんだろうか……。
開きっぱなしの天井から差し込む光と、漢どもの汗が嫌にまぶしい。

<完?>

――――

「さーて『超機動ギルライバーA6』、どうだったかな? 研究所ではみんなの応援メッセージやイラストを待っているぞ!」
「誰がどこから受け付けてんだよ……。そもそも何に対して話しかけてるんですか」
「何って君が冒頭で自己紹介した相手だよ」
「皮肉かよ。……何でそれを知ってるんですか」
「細かいこと気にするな、ギャグなんだから」
「そういうメタな発言は控えて下さい。ただでさえ後書き座談会とかアレな事やってるんですから」
「フフフ……これが後書きなんて誰が言った?」
「何!? まさか未だに本編が続いている――わきゃねーだろ! あんたが今しがた終了発言したんだろうが!!」
「君ノリツッコミのセンスないなあ。もっとこう、突っ込むときは相手にしっかり乗ってから……」
「……」
「………」
「ふぅ……」


「八之州博士ハ先程カラ一人デ、何ヲ喚イテルンデショーカ」
「ほっとけ」

<ほんとに完>


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