創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki eXar-Xen――セカイの果てより来るモノ―― Act.6B

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「はぁ……はぁ……はぁ……」

 民間人収容用のシェルター前まで駆けてきた俺達。周囲は人々でごった返し、誘導を行う自警団の人々がせわしなく動き回っている。
 ジャンクヤードは古くから常にバリードやその他の脅威に晒されてきた事からこういう設備もわりと充実しており、この街の中だけでも50ほど設置されているらしい。
 ここの奴は今となってはほとんど使用される事もないが、その機能は失われておらず自警団や民間によってちゃんと管理されているのだとか。

「運動不足っ……かしらね?」
「かもなぁ……」

 普段そこまで走る事は無いので走った距離のわりに疲労は溜まりに溜まり、ベルと俺、ふたり揃って肩で息をしていた。
 そして力尽きたように俺の傍らでへたりと座り込むベル。俺も釣られて足を投げ出し腰を降ろした。

「やれやれ、皆運動不足かな?」

 お前にだけは言われたくねぇよ、と言いたい限りのへたり込む俺達の前でミッチーの頭(やっぱりサドルか。) に跨っているリョウ。勿論息も上がっておらず、なんだか楽しそうな様は見てるこっちにしてみれば無性に腹が立ってくる。

「……ミッチーって見た目通り乗れたのね。」
<60キロ制限ダケドナァ!ベルチャンモ乗ってミネェカ?>
「いや、遠慮しとくわ……」

 腕の生えた一輪車に大の大人が跨る光景は実にシュール。
 当然視線を集めないわけが無く……

「結構乗り心地いいんだけどね?」

 人前でなんの抵抗も無く乗れるのはこいつぐらいである。
 まぁそれはともかく

「……どうもこっちにはあの化け物どもは来てないみたいだな。」
「アリスちゃんに皆引き寄せられているのかな?ちょっと心配だけど……」
「彼女を信じるしかあるまい。アレ相手じゃウチの自警団もどうしようもなさそうだしね。」

 こちらの攻撃はまるで通用せず、逆に乗っ取られかねない、か。
 バリードが可愛らしく見えてくるぐらい厄介な代物だがアリスの、イグザゼンなら――

「とりあえず邪魔者である僕達は早々に退散しよう……で、僕らの番はまだなのかい?」
「人が多すぎてまったく進まねぇ。また大分掛かりそうだ。」
「そうか。それまでにこっちまでアレが来なければいいのだが――?」

 そう言って少し上向き加減で黙り込むリョウ。どうした?と聞く前に俺もその原因を見てしまった。

「……そううまくも行かなかったらしいな。」

 彼の視線の先――建物の壁に張り付いた、どす黒い粘液に覆われた「何か」の姿を。


「はぁ!」

 両腕を伸ばし襲い来る攻撃を、身体を捻って躱わし腕部を纏めて一閃。同時に懐に飛び込み、身体を両断する。

――オオオオオオオオォォォォォォ

耳障りな「音」を立てつつ黒霧と化し、消失する怪異。これで56匹目。だが

「……キリが無いな。」

 今まで潰した連中の優に100倍はいるであろう大通り一杯に広がった怪異の軍勢は、私をその物量にて磨り潰さんとするが如くじりじりと押し寄せる。

 確かに私は奴らにとってただの物質とは比べ物にならない、これ以上無い絶好の馳走だ。私を手に入れられるのならば多少の犠牲など痛くも痒くも無いのだろう。

「まったく、大した執着心だ。」

 そう吐き捨て、怪異に向けて改めて身構える。
 1匹1匹ならどうという事は無い。数が増えたところで寄り集まり固まるだけの烏合の衆ではそれもまた同じ。ただ今回の場合はこれだけで終わりそうには無い。
 ニューロソルジャー――先ほどの人形は「彼ら」のもの。つまり私を追っていたそれが絡んでいるのだ。あの紅い怪異も「彼ら」の構成員だとすれば何を起こすつもりなのか分かったものではない。

「慣らしは終わり。」

 この街で今何が起きているのか、それを一刻も早く知るためにもこんなモノ相手に時間を掛けてはいられない。
 そう判断した私の思考に呼応しソートアーマーの背部ユニットは青白い光を爛々と輝かせ、後方に推進力となるエネルギーを放射する。
私が飛び出したのはそれと同時。迎え撃つ励起獣。

「――多少派手にやらせてもらうぞ。」

それは単個による、無数の惨殺劇の始まりであった。


「何だよ、こりゃあ……」

 住民の通報を聞きつけ、現場へと駆けつけた自警団のギアズガード部隊。
 その内の1機、指揮官仕様のギアズガードの内にてジン・ハーマンは唖然としつつ呟いた。

 メインストリートをくまなく占拠するどす黒い何かの群れ。異様な臭気を放ちつつこちらには目もくれずゆっくりと移動していく。

「ど、どうします……」

 部下からの指示を煽る声が聞こえる、がどこか上擦いているのは気のせいでは無いだろう。

「とりあえず……居住区に向かってはいないらしいから現状維持で。攻撃の命令も下されてないし、そもそも奴らにこちらの武装が通用しないのは前回の件で分かっているからな。無駄弾を撃つ必要もねぇ。」
「了解……」

 下手に発砲し刺激して、興奮させても面倒な事になるだけだろう。
 それに今のところ人的被害も出ていない。キャリアーは数十台かオシャカにされたらしいが、人の命と比べれば軽い物。まぁ潰された持ち主達は気の毒だが……

(しかし、本当になんなんだよこいつらは……)

自らが愛する街をヘドロのような粘液で汚し蠢く怪異に対し、苛立ちを込めて内心呟くジン。

勿論潰せるのなら全力を持って潰してやりたい。
だが、こちらが持ち得る有効打が一切無いというのも苛立ちを加速させる一因だろう。

「…………?」

彼の苛立ちを他所に、前方を悠々と進んでいく怪異の群れ。
だがその隊列の内にて異変が起こった。

――オオオオオオオオオォォォォォォォォォ……

 一団に飛び込んだ「何か」により唸り声とも叫び声とも付かない異様な「音」を立てつつ次々と切り刻まれていく怪異達。
 勿論怪異の側も黙ってはおらず反撃はするものの、それらは掠りすらせず低い姿勢で駆ける「何か」を一切捉える事は無い。

「!?」

 その姿をあえて例えるならば“暴風”。
 己の前に立ち塞がるモノを等しく突き抉り、切り伏せ、蹂躙する白銀の烈風。
 その侵攻を止められるモノは無く、その脅威から逃れられるモノも無い。

「――――」

 やがて、嵐は収まる。
 あれだけ居た怪異の姿は1匹たりとも既に無く、血煙の如く沸き立つ黒霧のその只中に剣を携えた影がただ1人佇む。

「――!」

 その様をただ唖然として見ていたギアズガード部隊の方を黒霧の向こう側より一瞥する影。
 蒼く鋭き眼光は彼らの心情まで見透かしているかのよう。背筋にぞくりと悪寒を感じ、反射的に身構える彼らであったが、影は彼らから視線を逸らすと不意に消えて無くなり、残されたものは空虚な静寂のみ。

「……なんだったんだろうな。アレ。」
「さぁ……」


 影の跡を追い、ただぽかんと見つめていた彼らであったがいつまでもそうしているわけにもいかず、周囲の安全や被害状況の確認を急ぐ事となった。
 ……極々僅か、揺れ動く地面の振動に気付く事も無く。


 人間誰しも一生に1、2度は所謂「モテ期」というものが存在するらしい。
 それがいつかは人次第。ついで言うと期間もマチマチ。自覚できるかも個人差大有りだとか……なんだかなぁ。

 ちなみに俺の場合、今までそんな期間を体験した事は1度も無い。
 出来るものならしてみたいが、自分から進んで体験できるわけもなく、「彼女いない暦=年齢」な俺はそれをただ望んでいるのが現状だったり――なんて今の今までは考えていたが……

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 よりによって、何でこんな奴にモテるんだよ!!

――イイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィッ!!!

 もう走る走る。全力疾走ここに極まれり。ベルもリョウもミッチーも、周りの人も置いといてとにかく走る。
走らなきゃ奴の餌だ。それだけは勘弁して欲しい。
そして右斜め後ろの壁に張り付いた何かが、奇声を上げながら俺に物凄い勢いで迫って来ている……というか何で逃げ切れてるんだ、俺。明らかに人の走れる速度じゃないぞ?

――イイイイイイイイイイイイイィィィィィィィィッ!!!

「っ!?どぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 ああ、そんな事考えている場合じゃなった。
 とにかく逃げる。ガンガン逃げる。こうなったらどちらの体力が先に尽きるか勝負だ。
 ただ、負ける気はさらさらしない。さっきまでちょっと走っただけで肩で息をしていた奴が言う言葉かと言われそうだが、実際そうだからしょうがない。
 どうなってんだ俺?らんなーずはい?違う?そうですか。

 周囲の背景がびっくりするぐらい速く後ろへと過ぎ去っていく。
 速すぎて摩擦で燃え上がるんじゃないかと思うほど。
……ただ、この湧き上がる「力」。 出所の分からないこれだが身に覚えは無くもない。

――イグザゼン

 そう、あの銀の鎧を纏った時と今の状況はそっくりだ。
 何が違うかというとその鎧を纏っていないという事と、アリスが近くにいないと言う事ぐらいか。

「――――――」

時が経つにつれクリアになっていく思考。あまりにも鮮明すぎて逆に気持ち悪いぐらい。
全身の脈動がリアルタイムに脳裏に浮かび、身体がどのような動きをしているのか手に取るように分かる。血圧、脈拍、代謝――自身の身体に関する全ての情報がまるごと頭の中に流れ込んでくるようだ。

――イイイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィ……

 後ろを追い掛けてきていた奴の動きは鈍くなる。
 そして徐々に引き離され、遠退いていく。

(……逃げ切れた?)

 若干の安堵と、まだ気を抜いてはならないという感情の板挟み。
 ただ、どちらにしろ――

「!?」


 結果は変わらなかったらしい。


 まず見えたのは上空より現れ突如目前の進路を遮った、あまりにも巨大な銀色の何か。
 更に地面への衝突と共に引き起こされた猛烈な衝撃。それは俺の身体と意識を吹き飛ばすには十分過ぎるほどの代物だった。

 ……それからあまり時間は経っていないと思う。
 銀色のそれは路地のみならず両脇に並ぶ建物を両断し、巨大な己の姿を誇示しているかのよう。

「痛つつつ……」

俺が身体に乗った瓦礫を振り下ろしつつ半身を上げたのは、そのすぐ脇のところ。どうももう少しでこれに叩き潰されるところだったらしい。

「一体何が……っ!?」

 それを見上げて呟いていた時の事。背後より感じた何者かの気配。
 正体は言わずもがな

――イイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィ!!!

 奴だった。
 瓦礫を跳ね除け飛び掛る化け物。不意打ちの1発目は半ば無意識に飛び退き回避出来たもの……

「――!?」

 同時に、背中に冷たい感覚。
 見れば背があの銀の壁にぶつかっていたのだ。頬を滴る一筋の冷や汗。

「あ、あ……?」

……逃げ場が無い。
最悪の事態だった。化け物はゆらりと立ち上がり、こちらを頭にぽっかりと空いた「穴」にて見定める。そしてこちらに逃げ道が無い事を理解したのだろう。じっくりと、いたぶる様に一歩一歩歩み寄ってくる。

「…………」

 腰が笑う。震えで奥歯がガタガタと言い続ける。
 さっきまでの余裕はどうしたか、なんて自分を鼓舞してみるが、3方向が壁に覆われたここでは如何ともし難く、絶望のみが頭を過ぎる。

(死ぬのか?ここで……)

 そう何度も何度も都合よくヒーローは現れないらしく、非情にも奴はぺたり、ぺたり、と腐臭を漂わせ、確実に近づいてくる。
脇を抜ける、なんて事も考えたが、あんな図体をしておきながら奴に隙なんてあったもんじゃない。下手に逃げたところで取って食われるのが早まるだけだろう。

多分今俺は物凄く情けない顔をしている。ベルにこれが見られなかっただけ良かったかどうか……まぁ今となってはそんな事どうでもいいか。

視界が真っ白に染まり、真っ黒に消える。
気の利いた走馬灯も見れず――

「……?」

 暗い闇の淵。
目の前に、一冊の書があった。
 真っ白な表紙。拾ったそれは独りでに開き、そのページも真っ白――俺はそれに見覚えがあった。



イグザの書



 彼女から聞いたその本の名。
 アリスに出会う切っ掛けとなり、怪異とも遭う切っ掛けとなった白き書。
 ただこれはあの子に返した筈。なのに何故こんな所に……?

「!」

 捲られていたページの左の端。
 そこに独りでに紅い字にて文章が綴られていく。

――書は常に主と共に。主は常に書と共に。

 これがさっきの問いへの回答なのだろうか?
 更に文字は紡がれていく。俺はそれを食い入るように見つめていた。

――それは理不尽を打ち砕く理不尽の力。この世ならざる悪意を払う破邪の力。汝の求めし不屈の力。

「イグザゼン、ソートアーマー。」

 自分で言った覚えは無い。
 気付いた時には口が勝手に動いていた。

「――!」

 そしてホワイトアウト。眩いばかりの光が視界を焼く。
 ただ、それも一瞬。慣れた頃には目前にまで迫った怪異が視界一杯を覆っていた。

「っ!?」

 反射的に振るわれる拳。
 ただそれは俺の物ではなく……

 銀色の、拳。

 見覚えのあるそれ。極めて頑強にして屈強な鉄拳は怪物の顔面を強かに殴打し、10mほどは軽く殴り飛ばした。

「……これは、一体……」

 拳を見つめ、自身を見回し、ただ呟く。
 気絶して気が付いたら変身していました――なんてすぐに受け入れろと言われて出来るものでもない。

<……分からん。私も気付いてた時にはこの様だ。>

 不意に網膜に直接焼き付く、青い菱形の枠付きで表示された< Fenomeon operator system Alice No.28>の文字。そして脳裏で響くあの子の声。

「そっか……でも、ありがとな。来てくれなきゃ今頃俺、あいつに食われてるところだったぜ。」
<…………>

 ゆっくりと再び立ち上がるそれを眺め、そう言う。
 あの子からの返事は無いが、まずは先に目の前のアレを何とかするべきだ。

――イイイイイイイイイイ……

 頭はさっきの一撃で丸ごと吹き飛び、動きも緩慢なものの、奴はゆっくりとこちらへ向かってくる。

「……しぶてぇなぁ。」
<急所を突かなかったからだ。>

 頭が急所じゃないって時点で色々とアレだが、こいつらに常識が通用しないのは既に知った事。後一発ぶち込んで黙らせてやろうと拳を振り上げるが

<――ッ!いかん、飛べ!>
「?」

 言われてほんの少し経ってから自分の周りが薄っすらと影に包まれている事を知る。
 見上げてみれば空に聳える巨大な――――

<……間一髪だったな。>

 上空より見下ろすそれは馬鹿げたでかさのツイストドリル。
 ウチの工場で見かけるそれの優に何十倍もあるであろうその巨体はさっきまで俺達のいた所を怪物ごと斜めに抉っていた。
 アリスが咄嗟の判断で回避してくれたらしく、何とか難は逃れたがアレをまともに喰らっていたらと思うとぞっとする。
 ちなみにさっき俺の進路を遮ったアレはくそでかいチェーンソーだったらしい。刃の部分だけで何軒もの民家を真っ二つに叩き切り、根元のエンジン部でも勿論押し潰してしまっている。

「なんなんだ、こりゃあ……」

 足元に広がる何ともいえないシュールな光景に呆然としつつ呟く。
 さっきの化け物のものではない、だけど確実に俺達を狙ってきた。敵?なんだろうがこれは一体……

<とにかく離れるぞ。何が起こるか分かったものではない。>
「え、でも……ど、どうやって?」

情けないかな、今の俺の状態はぷかぷかと浮かんでいるだけのようなもの。飛んでいるとはとてもじゃないが言えない。

<……それもそうだな。今は私が制御を行おう。貴方はただじっとしていればいい。>
「わ、分かった。」
<では、飛ばすぞ。>

 轟。風が鳴り、渦を巻き、銀の甲冑は瞬時に加速。大気を切り裂き空を往く。
 自分で飛んでいるとは言えず、誰かに抱えられているような感覚だが、確かに俺はその時空を飛んでいた。
 何の手も借りず空を飛ぶなどまず出来ることじゃない。こんな事態だが気分は僅かに高揚するものの――

<ッ!>

 それに冷や水をぶっ掛けるように、飛行する俺達に地上より猛烈な速度で迫る複数の何か。
ただ動きは非常に直線的で、イグザゼンが当たるようなものではない。躱されたそれが目の前に現れる。その正体は

「く、釘ぃ!?」

 そう、それはネイルガンで飛ばされたらしい1本5mほどはある超巨大な“釘”だった。
 こんなもの一体何に使うのかと……
 更にこちらの行く手を遮るように突っ込んでくる巨大な“ニッパー”に“ハンマー”、“エンジンカッター”……

 だがイグザゼンは鋭角な機動を描き、まったく減速する事も無く難無くそれらの群れを掻い潜る。全ての攻撃が回避されるものの、ニッパーの間を通った時は生きた心地がしなかったが……

<一体何が起きている……?>

 なんとか追撃を躱し、メインストリートの端にある建物の上に着地。周囲の様子を伺う。

「大工道具に恨まれる覚えなんて無いんだがなぁ……」

 俺達を警戒するように浮遊する巨大な工具の群れ。それらは浮遊しつつゆっくりと丁度メインストリートの向こう側に寄り集まっていく。そして――

「ゆ、揺れ!?」
<中規模の事象震……どうやら打って出るらしいな。>

 地面を、建物を、空間を、これでもかと揺れ動かす猛烈な振動。
 街全体が共鳴するように震え立ち、工具達が集まっている場所の空間が非常に脆くなっているのが見て分かる。

(励起獣どもはこれの布石というわけか……奴等を呼び出し歪みを前もって作り出し、それを鍵に更に上位の物を呼び込む……どうもまんまとしてやられたらしい。)

 揺れは止まらない。
 膨れ上がり続ける何者かの気配。そして、それは早々に限界に達した。


――Build- Grande_ Materialize


 ノイズに混じり、何処からか聞こえた機械音。
 そしてヒルズコンビナートのすぐ前方に忽然と顕現した何者か。大小の無数の歯車が複雑怪奇に絡み合い、脈動駆動し浮遊する30m大の「機械球」。

<――イリーガルコードソート。データベースに該当解確認……「機構」のオーバードフェノメオン「ビルドグランデ」。まさかあんなモノを呼び込むとはな……>
「………………」

 それのあまりの迫力に慄き、黙っている俺を他所に淡々と呟くアリス。

「……「機構」のオーバードフェノメオン?」
<私の同類だ。ただ先程の攻撃からも分かる通り、友好的な接触は図れそうに無い。>

 機械球は全身より伸びたロボットアームにて先程まで浮遊していた工具群を振り回し、周囲の民家や商店を無差別に攻撃している。
 建物の内より飛び出し逃げ惑う人々、助けを求める怪我人の姿、駆けつけるも効かない自警団の攻撃……俺の内にて何かがふつふつと湧き上がる。

「………………」
<……済まない。貴方を、この街を、このセカイをこのような事に巻き込んでしまって。本当は私1人で片付けるつもりだった……だが、今目の前に浮かぶそれにその道理は適わない。>

 アリスの暗い声。イグザゼンとなった俺にもその理由は分かる。
 奴の内包する圧倒的な存在力。理不尽そのものと言える絶大な力。“今の”俺達では到底敵わない相手だろう。剣は通らず、叩き落とされるのが関の山だ。ならば――

「……どうすりゃいい?」
<え……?>

 彼女らしからぬ腑抜けた声。
 俺は更に言葉を加える。

「奴を倒すにはどうすりゃいい!あんな奴にこの街がメチャクチャにされるのを黙ってろっていうのか!!」

 出来るのだ。イグザゼンなら出来るのだ。
 あの脅威を打ち滅ぼす事が出来るのだ。だがそれは“今の”状態ではない。
 それが俺には痛いほど分かる。だからこそこう言っている。

<………………>
「アリス!」

 胸の奥より轟々と湧き上がる理不尽な悪への怒り。自分でもどうしてこんなに怒っているのか分からないほど。だが、それが止まる事は決して無い。

<……分かった。今の私と、貴方と、イグザゼンなら、出来るだろう。>

 アリスの声に先程までの暗さは無い。ただ真っ直ぐに、ただ冷静に。

<――これがイグザゼンの、真なる解だ。>


 暗い闇の淵。目の前に置かれているのは白き書。

(またここか。)

 書を手に取る。
 独りでに開かれるページ。先程と同じく紅き光が文字を綴っていく。

――永劫の時の彼方にて、総てを越えし“式”は解かれ、セカイを超える“解”となった。その眼は総てを見透かし、その拳は総てを砕く。その存在は総てを越えて、その力は総てを変えよう。

(総てを、変える……?)

 白き書の内を、外を、縦横無尽に走り始める紅き光。
 書の表面のみならず、周囲の空間を埋めるようにそれは洪水のように溢れ出た。

――大いなる“解”の真なる力よ。今、目覚めの時は来た。

 周囲を走る見た事も無い紅い文字にて綴られた公式らしきもの。幾千幾億幾兆の「ある者の存在」を証明する超越の式――それが何を意味するか、今の俺には全て理解できる。
 劈く闇、奔る固体、歪む足音……脳裏を過ぎる何者かの影は、ただ確かにセカイを、世界を侵していく。

 やがて、それらはひとつの“解”を打ち立てた。
 何物にも縛られぬ超越の“解”を。

「――ああ、いける。」
<…………そうか。ならば、行こう。>

 目を開く。
 己の前にて蹂躙跋扈するセカイの脅威を見据える。後はあの言葉を紡ぐのみ。

「イグザゼン……」

 揺れる、揺れる、セカイが揺れる。

<イグザゼン……>

 事象励起、世界干渉。世界の理はイグザゼンの周囲より溢れ出す金色の光の前に脆くも崩れ、この世ならざる何者かがその内より出でる。


「マテリアラァァァァァァァァァァイズッッッッ!!!>


 そして、渾身の力を込めて吼えた。
 金の光はその言葉に呼応し、莫大な質量を内包した何者かへと姿を変える。
 そして生まれるは超常の存在をも上回る超越的存在。世界の、時空の、全ての因果の果てより来たるそれはこの世ならざる咆哮を、
 この世ならざる叫びを、この世ならざる産声を、三千世界に渡り轟かせたのだった。


 天穿つ光の柱。
 街の何処からでも見る事は出来ただろうある種神々しくすらある光景。
 その中央、銀の巨人はただ黙して聳える。
 黒き結晶の如き面を纏い、半透明なそれに紅い光が走る。電子回路を思わせる奔流が止んだ後には何処から現れたか、蒼き猛禽の瞳が前方の怪異に対し怒りを持って睨みを利かす。
 対する怪異も突如出現した己に対する最大級の脅威に向けて、全身の武装を展開しつつ身構えた。


 混迷極まる蒸気の街にて対峙する銀の巨人と鋼の怪異。
 闇夜は異様な熱気を孕み、戦いの火蓋は切って落とされた。