創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

逆転未来

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ParaBellum

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                        ロボット物SS総合スレ 30号機記念作品



2102年、地球で言えば6月5日、月。今日も調査の為、観測地点へと出かける。そこには何もかもあって、何もかもが無い。
薄く白みがかった灰色の地面を歩くと、意外と固く地球の地面と同じ様にしっかりと地に足が付いている、そんな感覚。
月の石、というと神秘的だが、調査の為に毎日拾っていると神秘さも何も無い。只の石、それ以上でもそれ以下でもない。

地球から連絡が来るのをずっと待っているが、まだまだ連絡が来る様子は無い。私が月に派遣されてから、早十年の月日が経つ。
アンドロイドである私、正確には私達は、私を作りだした人間と違い地球内外での活動を何の困難もなく行う事が出来る。
それは海底に潜っての深海魚捕獲だったり、マグマの近辺へと向かい、溶岩の採取だったりと多岐に渡る。そこで。

今の私にも、その様な任務が下されている。任務内容は月の環境の変動を一日一日、欠かす事無く調査する事。
数十年間にも渡る任務と言う事で、私はバッテリーを交換しながら今日もまた、調査へと繰り出す。
地球との連絡手段が通信だけなせいで、今、地球で何が起こっているのか、そして私のこの任務は何時終期を迎えるのか、何一つ分かっていない。

しかしだからと言って、限界を感じる事は無い。
何故なら私はアンドロイドである故、バッテリーを変えれば幾ら月日が経とうと、変わらず動き続けられるから。

けれども、幾ら何も感じないと言えど単純作業には正直飽きが来る。
私は普通のロボットの様に、繰り返す事を繰り返すプログラムは組み込まれていない。
人間の様に感情を持つ事は無いが、代わりに思考を模したプログラムを組まれている故に、新しき知識を欲し、未知なる経験を必要とする。
実際、私と同期のアンドロイドは様々な現場を経験している為、優良機として評価されていて年々アップデートを受けている。

私は、と言えば特に重要な任務も課せられる事無く、だから製造されて二十数年経っていても、ボディもAIも全く変わって(アップデートされて)いない。
この任務に着く前の任務と言えば、交通整理だったリ役者での窓口案内だったリ人間で十分事足りる任務、いや、仕事しか無かった。
だからこそ、この任務が下された時には遂にチャンスが巡ってきたのかと思ったのだ。思ったのだが。

任務内容は地味極まる。石を採掘しては、ホームベース(私が調査の拠点とする場所の名だ)に保管する。
クレーターが出来た場合、周辺を調査し周囲を量る。
これだけ。これだけを私は十年、毎日毎日繰り返す。何も無ければホームベースでバッテリーを取り替え、地球時間で言う零時を回ると調査終了。
床というか、ボディを休める為にスリープボックスなる箱に入り、六時を周るとスリープボックスが開いて調査開始。

最初こそは、遠方より見える地球の青さに雄大さを感じていたが一週間ほど過ぎればなんて事も無い、ただの風景に変わる。
変わる事の無い灰色の地面、変わる事の無い地表、変わる事の無い、宇宙の暗闇。全てが、平坦だ。
私を派遣した人間は、私に宇宙人なる生物との遭遇も視野に置く事を提案した。しかしここには私以外、生物は愚か物体さえ見えない。

一体、何時になれば私は地球に帰れるのだろうか。というか、何時頃任務の終期が明かされるのか。
待っているが、何時まで経っても、そして時間が過ぎていこうと、地球からの連絡は無い。もしかしたら、忘れられているのか?
いや、そんなバカな事。と思っているが、こちらから連絡してもなかなか繋がらない事が多々ある。
繋がっても、調査を継続せよという一点張りだ。私が異議を唱えるまでも無く、切られてしまう。

地球に帰る手段は、私をここまで連れてきた往復シャトルしかなく、自力で帰る事等出来る訳が無い。

今日もまた、ホームベースから出て月を調査する任務が始まる。
入口を出ていくと、無感情な灰色の地表と先の見えない漆黒の暗闇に私は一瞬視界を閉じたくなる。もう、この光景は見たくない。
が、プログラムに組み込まれている行動をしないアンドロイドなどアンドロイドの風上にも置けない。

渋々歩きだすと、何故だか足元がふらつく。しまった、何処か故障だろうか。
視界が一寸、ブラックアウト。私はそのままその場で、歯車が切れたブリキ人形のように倒れ、て。



「手塚さん、起きて下さい。手塚さん」

中々起きずに困っている彼女の声で、僕は目を覚ました。ヘッドギアを外すと、蛍光灯の光が僕の目を強烈に照らした。
小説の構想を考えている間際、彼を操っていてついうっかり眠ってしまっていたらしい。どうにも心地が良くて参る。

未来では、人間の形を模したロボットをリモートコントロールする事で、個人でも気軽に人知の及ばない危険な秘境を体験する事が容易になった。
値段は安い筈もなく、例えると自家用車1台を買えるほどの金額だがその分の見返りは素晴らしい。何故ならこの目で、月やアマゾンの奥深く。
果ては深海や溶岩地帯、非合法でかつ僕は馬鹿馬鹿しいと思うが、裏世界でアウトロー相手に喧嘩することだって出来る。

様は自分が体験できない事を、そのロボットを経由して疑似的に体験する事が出来る、という訳だ。
世界には限られた人種、または人間という生物であるが為に、一生掛かっても体験できない事が星の数ほど存在している。
しかしこのロボット……プライスレスは、その悔しさを解消させ、人生を豊かにしてくれる、素晴らしい存在なのだ。

「何時も言っていますが、ヘッドギアしたまま寝ないでくださいね。目に跡が付きますから」

と、僕を心配する彼女はメルモと言って、僕の元で仕えている、俗っぽい言い方をすればメイドの女性だ。
常に小説だとかその他諸々な仕事に全力で挑み、部屋に籠る僕には、他の事……と言うか、家事が全く手に付かない為、彼女の存在が必要不可欠となる。
仕事の担当者と打ち合わせする時には外に出る事もあるが、それ以外の日に遊びに出かける様な暇など無い、と言うか時間が惜しい。
そんな僕に、プライスレスは最高の玩具だ。自宅に居ながらそこら辺の映画よりずっと、刺激的で面白い物を見せてくれる。

先程操っていたのは、僕が持っているプライスレスの5機の内の1機、月に置かせたムーンと呼んでいるプライスレスだ。
最近取り掛かったSF物の小説の構想を考えながら操っていたら、何時の間にか眠りに就いていた。よほど疲れているのかな、僕は。
メルモが眠気覚ましの冷や水を持ってきてくれた。僕はそれを飲み干す。

「それで浮かびましたか? 小説の構想は」
「いや……浮かばないな。考えが纏まらなくてさ」
「そうですか。締め切りが迫っているので、頑張ってくださいね」

と、メルモは冷淡な声でそう言って踵を返した。……流石はアンドロイドと言った所だな。
もう少し母性愛に溢れているアンドロイドを買えば良かったかなと思うが、彼女は彼彼5年近く一緒に居るし、今更取り変える事はしない。
目元を擦ると、ムーンを介して視える、冷たくも神秘的で心震える、広大な月の海がぼんやりと浮かんでくる。
あの光景を見る度に、僕は自分自身が如何にちっぽけで、矮小な存在かを思い知る。

……閉じていた両手を開いて、じっと見つめる。よく、考えてみろ。

あの月の光景を見ているのは、僕では無くムーンだ。石を拾い、地球を見、クレーターを歩いているのも、僕じゃない。
ムーンだ。実際に僕は月を歩く事も、そして月の石を、この手で掴む事も出来ないだろう。
100年経っても、人類はアニメとかに出てくるコロニ―を作る事も、月や火星に移住区を作る事もいまだ成していない。
プライスレスだとか、医療技術とか、通信技術だとかは際限なく進化したさ。けど。

すぐ目の前にある、月にさえ人類は手が届かないでいる。僕にはそれが、何よりも哀しい。

と、視界がうっすら暗くなってきた。眠気だ。僕は座っているソファーチェアの背を倒して、目を瞑る。

目を瞑る事に、僕の視界には常にうっすらと、プライスレスを介して見る光景が見えている。その度。

その度、僕は考えたくなる。このまま進化していっても、僕達人類は決して、宇宙で暮らす事は出来ないだろう。
それ以前に、技術の発展と引き換えに、ゆったりと地球は人類の住処を無くしていく。長年痛めつけてきたツケが、回ってきたのだろう。

百年程前から、人類は世界中で、巨大な半透明のドームみたいな所で生き続けている。
その間、あれほど多かった人口も半分以上減ってしまった。

馬鹿な話だが、気温の上昇のせいで、南極辺りからウイルスみたいなのが目覚め始めた。
都合が良い事にそのウイルスは人間にだけ、毒を引き起こす。
そのせいで多くの人間が苦しみ、やがて死んでいく様になった。

僕の曾祖父が語るには、特効薬が出来る頃には本気で人類滅亡かと言う位、危機的状況だったらしい。
それから人類は、このスフィアという名のドームでの生活を余儀なくされている。言わばウイルスからの隔離だ。

人工的に弱肉強食という自然の循環システムを再現したこのドームで、以前の様に自然と触れ合ったり、動物を捕獲出来なくなった人類がどうしたか。
そこで、プライスレスの存在……いや、ロボットの存在が必要となる。
彼彼女達のお陰で、外から動物を捕獲したり、植物等を持ち込んで、育てる事が出来る様になった
外ではその人類が作ったプライスレスを含むロボット達が、今でも人類の介入無く、元気に育っている自然相手に奮闘している。

人類は、無意識下とは言え、格下に思っていた彼彼女達、ロボットの存在が無ければ生きて行く事が出来なくなってしまった。
人類自身が招いた不可解な逆転現象は、これから一生、元に戻る事は、無いだろう。

僕は思う。

……ロボットになっている方が、展望の見えない人類より、マシなんじゃないかと。


明日もまた、人類にもプライスレスにも、変わらない朝が来る。





                         逆転未来



                     これからもこのスレと人類の未来に、幸あれ



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